既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
さて、魔導式ワードプロセッサが俺の思考を拾って前皇帝による建国宣言などと言う歴史上でも映像記録の残ってない物を公開してしまったのだが……都市長に対しての説明には俺の前世について説明しなければならない。
都市長とカラムスさんだけに対して事情説明するだけならいいのだが、生憎と商会長を筆頭とした人達には転生について話すつもりが無い。と言うか話せない、この世界の事について大分深い事情についての記録も含まれるなんてどう言えばいいのかも分からない。
「……それはこの場で説明しろって事でいいんですか?」
「拒否する理由が有るの?」
俺の確認に対して詳細を語れない事情の有無を確認される、事情を知ってる当主代行とお義母さんは俺達のやり取り如何では間に入りそうな雰囲気だ。
「俺自身について、あんまり広めたくない事が有るので。ついでに言うと下手したら都市長の胃が危うそうなんで」
胃についての言及で顔を顰められた。まぁ、都市祭の後に話そうと思ってた事ではあるから早いか遅いかしかないのだが……このクソ忙しい時に後見してる相手から転生者とか言われたらぶっ倒れそうだしな。
「……誰までなら話せるかしら?」
「都市長と騎士カラムスの2名なら」
俺の指名する相手に都市長は苦い顔だ、後ろに居る見慣れない男性兵士を一瞥して思考を巡らせている。
「……申し訳ないが、我が国の皇帝に関する情報が含まれている。皇国軍所属である私も確認させて頂きたい」
男性兵士は一歩進み出てそう言ってくる。まぁ、コレは断ったらヤバい内容だし、本国に俺の事情を知られるのは仕方ないか?
「……申し訳有りませんが、これはこのタタラ・ジュロン本人のプライベートな問題でもあります。先に都市代表である私が確認し、検閲させて頂きますわ」
俺の思考とは裏腹に、都市長は男性兵士に対して断りを入れる。本国の正規兵に対してコレを言うのかと思うが、プライバシーの侵害って突っぱねる事もできるのだろうか。
正直、今回の映像には歴史的な価値も有れば、皇族に関する情報が含まれている為に国の方で共有しておく様な内容でもある。
流石に何かしらの法を持ち出されて逮捕は無いにしても招集や確保をされてしまえば承諾せざるを得ない。
「それは、国に対する叛意と見て宜しいか?」
「そんなつもりは有りませんが、犯罪者でも無いのに国に対し個人の情報を全て開示する義務も有りません」
男性兵士の言葉に対し、都市長は一歩も引くつもりは無いらしい。守ってくれている事に嬉しさが湧くが、同時に都市長の立場が危うくなるのではと不安になる。
そんな中で男性兵士は奇妙な反応をする、視線を巡らせて何かに驚いたような……『料理長』と『バイト長』を見たか今?
「……確かに、少々気が急いた発言かも知れませんでした」
視線を俺に合わせてくる男性兵士、伝わる感情は懐疑……じゃなくて同情か?
「都市代表殿と筆頭騎士殿になら話せるのですね?」
「ええ、公平と公正を司る軍神様の名にかけて嘘偽り無く話すと誓います」
男性兵士の問い掛けに答えると、何やら両肩が重くなったような気がする。何となくカラムスさんを見れば俺と言うか、俺の肩から上を見て驚いている様な気がする。
男性兵士は一つ頷いて、都市長へと向かって言葉を向ける。
「それでは、申し訳ないが三人で事情説明をしてきて頂きたい。私も情報を本日中に軍部へと報告する必要が有りますので」
男性兵士の言葉を受けて、俺達三人はその場を離れる。少し心配そうな表情をしているダリアの頭を軽く撫でてから、選手控室に向かう。このアリーナで個室となると即座に思い付くのは彼処くらいだ。
選手控室に着いた俺達三人、俺に向かい合う形の都市長とカラムスさんが最初にしたことは盛大に溜息を吐く事だった。
「……それで、あんたの事情って何なの。私とカラムスって事は相当に親しい相手にだけ開示したい情報なんでしょ?」
都市長からの言葉は色々な物を越えて結論を聞いてくる物だった、俺を良く知るが故の会話の速さは本当に助かる。
「結論から言うと、俺は転生者です。別の人間が送った人生の記憶を保持しています」
俺の言葉を受けてカラムスさんは驚いた表情で、都市長は……納得と別の感情が半々ってところだろうか?
「成る程、転生者であるから記録が無い筈の我が国の建国宣言なんて希少な映像記録を持っていた訳ね」
「魔導式ワードプロセッサの誤作動でまさかあんな物が再生されるなんて思ってもみませんでしたよ」
論より証拠と言ったところか、都市長は本来残ってない筈の記録を元に俺の発言を信じる事にしたらしい。都市長の反応から状況に納得したのか、カラムスさんも俺の言葉を受け入れる方向らしい。
「お前が何処かチグハグな印象を与えてきていた理由はそれか、若い割には大人びている雰囲気だった事が理解出来た」
「まぁ、大分肉体に精神も引っ張られてますけどね」
感情の制御はかなり甘くなっているだろう、それが原因でエテル達を傷付けた訳だしな。
「それなら『錬金術師の卵』を筆頭とした魔導具は前世の記憶に残ってる物をベースに作ったって事なのね?」
「参考にしているというか、構造を理解する取っ掛かりにはしてますけどそれだけですよ?」
「……あんたの前世って具体的にどんななのよ」
都市長の確認に対して少し返答が難しく、思案する。この世界を外側から見ていた存在と言うのが正しいのだが、先程の記録からあの時代に生きていた人間として認識されている可能性が高い。
それにしても、前世の世界を改めて説明しようとしても難しいな。
「……この世界とは法則そのものが違う世界、でしょうか。魔法が存在せず、神々は実在の証明が出来ていません。電気による機械の稼働が主で、この世界とは違って人間種しか人種は存在しないとか」
俺の言葉を聞いた都市長はカラムスさんを見る、カラムスさんは流石に首を縦に振るだけだ。
「魔法は存在しないと言うけど、それなら何故『錬金術師の卵』を作れたの?」
「概念だけは存在していましたからね。魔法が有るなら何かしら作れるかと思って、直前に作れた『浮遊石』から足し引きして出来たのがアレです」
軽く人工ダイヤモンドの作り方の応用だと伝えれば呆れられた。多積層魔法陣で高温高圧合成法を再現してたりするんだよなアレ。
「む、となるとジュロンはダイヤモンドを作れるのか?」
「炭素の塊さえ有れば作れますけど、作っても旨味は無いですからね」
何なら人工ダイヤモンドよりも高い代物を作れるのだし、作る必要は無いだろう。
「なら、あんたの特許の中で前世の技術を使っている物はどれだけ有るの?」
「特許技術ってなると……ホイホイくらいですかね」
「アレだけ有ってよりにもよってそれ……」
実際、非常に有効な物なので肖ったのはホイホイくらいのものである。魔法が関わる物は殆どこの世界で技術を構築してるし。
「……む、特許技術以外では有るのか?」
俺の答えに疑問を持ったカラムスさんが質問してくる。
「ええ、家の水回りの構造とかキッチン用品それにワードプロセッサなんかは前世に有った物を此方の技術で組み上げた物になります。後は家の結界を使った不法侵入者の迎撃機構は前世の軍事技術の再現ですね」
『物騒な物を持ち込むな!』
俺の証言に都市長とカラムスさんが思いっ切り叱ってくる、確かに軍事技術は拙いか……まぁそこから民間に広まった技術も沢山有るのだが。生理用ナプキンが元々軍事品とか知った時には驚いたものだ。
「一応聞くわね、魔導鎧関係の技術は前世由来なの?」
「いえ、類似技術は幾つか有りますけど前世で研究中で未完成だった技術が主です。人工筋肉なんかも含めて此方だから実現出来た物なので……まぁ、前世からアイディアは貰ってますけど」
形状記憶合金製の人工筋肉
科学と違って魔法のロジックが影響して此方は筋肉が修復される分、元ネタよりも卑怯に思えるな。
「成る程ね、結局開発能力はタタラがタタラだっただけと」
「その結論もどうなんですかね……」
コレも変則タタラってる扱いなのだろうか、と言うか他からも言われているがこの言い回しには遺憾の意である。まるで前世からぶっ飛んでるみたいな。
「転生者だからって都合よく知識や閃きを形にする能力なんて持つ訳が無いでしょう、閃き一つを形にする為にどれだけの試行錯誤と技術的な蓄積が必要になるのかはアンタも分かるでしょ?」
どうしよう、その辺を気軽にスキップしてる身としては何も言えないんだけど。難しい加工や細かい理論は『クラフト』スキルで突破出来る世界なんだよなここ。
何も答えない俺を見て、都市長は恐る恐ると言った体で聞いてくる。
「……まさかアンタ」
「技術的ブレイクスルーはアレですけど、金属なら魔法金属だろうとアプローチを少し変えるだけで問題なく変化させられたので。つか俺がミスリルをスキルレベル1から干渉して変化させられたのは都市長も知ってるでしょ?」
「それが新規技術の開発に適応されてるとか誰が思うのよ!?」
頭を掻き毟る都市長、なんか本当に申し訳。
「ジュロン、おそらく軍神様でもお前の所業を『タタラってる』と言うぞ?」
都市長は頭を押さえて椅子に座る、流石に前世の事とか話したら頭痛も覚えるよな。それに、このままだと歩くのも辛そうだな。うん、何れはと思ってたけど今作っちまうか。
ミスリルとオリハルコン、そして大量の魔石とジャイアントバットの翼膜を用意する。最初に魔石を『浮身石』にする。次にミスリルで外殻の内部構造を作り、肘掛けや背もたれの内部をオリハルコンで作る。ジャイアントバットの翼膜を鞣して椅子に張る、そのままでは硬くなるので中にはビーズを詰めて身体へのフィット感を良くする。
設計図も特に引いてはいないし理論も立てていないが、最近特に上がった処理能力でシミュレートしたが問題は無い。
「……何かしら、コレ」
「魔導式浮遊椅子ってところですかね、本体の殆どをミスリルで作ったので非常に軽く更には『浮遊石』で走破性を上げて喩え道なき道だろうと揺れる事も無い安定性。更にはオリハルコンを使った為に使用者の思考による制御も出来ます」
脳波コントロール出来るのは両手両足を怪我しても自由に移動出来る事に繋がるので、かなり良い機能だと自負が有る。
俺の説明を聞いた都市長は暗い笑みを浮かべて呟く。
「ふふふ……なんでこんな性能の補助器具が10分も掛からず作れるのかしら。さては以前から設計してたわね?」
「いえ、今考えて咄嗟に作りました」
「ふふふ……怖い」
順序が逆転してるけどエゴを強化された鉄の仮面みたいな台詞の流れだな。
カラムスさんが弱った都市長を魔導式浮遊椅子に乗せれば、都市長の意思を受けたのか目線が普段の都市長と同じ程度の高さになる。そのまま都市長は軽く浮遊椅子を動かして、自身のイメージとのズレを確認している。3分程動きを試した果に、物凄い溜息を吐く。
「タタラ、設計図と説明書書いて都市祭後に提出」
「はい」
どうやら都市長の胃壁保護法案はまだ続いているらしい。
助けたいって気持ちでも流石に新技術の魔導具作るのは駄目だったか、地獄への道は善意で舗装されているを体現したかなこれ。
何処か宇宙を股にかける
「うむぅ……『やぁやぁ、之に見えるは陽の下の國より来たる鬼なれば。我が國に伝わる剣技を見て尚』……すまん、何だったか」
「貴方、そこは『我が國に伝わる剣技を見て尚恐れぬならば剣を取れ、勇と威を示してこの国を友誼結ぶに足ると思わせよ』ですわ」
「……やはり長くないか?」
台本抜きに台詞と動きを通して練習しているらしいのだが、当主代行が早速詰まっていた。うん、やっぱり長いな。
都市長達をチラリと見れば、観劇で馴れているのかこの長台詞を特に長いとも思ってなさそうな顔である。いや、カラムスさんは何となく俺と同意見っぽい。
都市長もカラムスさんもそれぞれ演説する事のある立場だけど反応が別なのはちょっと面白いな。
「そ、そんなに覚え難いものだろうか?」
「流石に演劇の素人にこの手の長台詞を覚えさせ、尚且つ動きもさせるのは酷でしょう」
台本を書いたハカンサスの劇団長さんがスオーノさんに駄目出しされてる。少なくとも当主代行を動きに集中させて、台詞を全てお義母さんに言わせる形にでもしないと今の台本だと上手く出来ないのではないだろうか?
そんな事を思っている最中、正規兵の人が近付いてくる。俺の前に都市長とカラムスさんが進み出る形で動き、直接的な接触はさせないつもりらしい。
「それでは、気になる事を聞きたいのですが」
「ええ、タタラ・ジュロンではなく私達が話させて頂きますわ。それで、建国宣言については──」
「いや、そちらではなくあのアーレムとやらの販売日を」
「真面目に働けよアンタ」
俺達の会話前に見せていた警戒心を垣間見せた姿は何処へやら、興味と興奮を隠すことなく聞いてきた内容がアーレムについてである。気持ちは分かるけど仕事は真面目にしようよ。
「……国交樹立宣言の後、で良かったのよね?」
「ええ、このアリーナの売店で宣言後に先行販売を行う予定です。その後は此処と商会でコアの販売をして、本体はクラフターに割り振る形ですね」
都市長からの質問に答える形の俺の言葉を聞いた正規兵は小声で『小遣い用意しないとな』とか溢している、結婚してて財布握られてるタイプかなこの人。
「気になるお値段は?」
「本体小価格は素材とクラフターの技術料による時価としか、コアの方は1000から1500の内に収まるようにと商会長と相談済みです」
「ふむ、良心的……もう少し高いかと思ったが」
「子供の手にも届いて欲しいんでこの値段です。まぁ、子供の玩具としては高いので大きいお友達用に近いと思いますけど」
「嫌な言い方だな、大きいお友達……言いたいことは分かるが」
正規兵の人は口調が崩れているのに気付いて無い様子だが、なんか若干気安いのだが……何か妙に圧と言うか威厳を感じるな?
なんと言うか、その様子には俺との接触を防ごうとしていた都市長とカラムスさんの方が焦っているような気がする。
「あの本体のデザインは?」
「商会長は俺自身のですが、其々が持つ鎧を参考にしています」
「……それ、アンタが依頼で作った物でしょ」
「法務長親子のはそうですけど、当主代行のは家から持ってきて貰った物を参考にしてます」
「となると、あれはやはり陽出の『大紅蓮』か。珍しい意匠だがやはり格のような物を感じる、敵役として据えるならいい選択だろうな」
この正規兵の人普通に凄いな、商会長でも『大紅蓮』の事を知らなかったのに。陽出との国交が無いこの国で『大紅蓮』を知ってるなんて、正規兵の中でも色んな国に派兵されてる人なのかも知れない。
つか、何か距離感が近いような……何よりもその事に不快感と違和感が無いのは何なのか?
「あの……」
「うん、どうした?」
「今回の国交樹立を盛り上げる為の演劇についての意見を貰えます?」
「ふむ……」
四苦八苦している当主代行の為に台詞を何とか出来ないか、何故かこの人に聞くべきだと俺の
「……あの、陽出の鬼の台詞は短くした方が逆に強さを演出出来るとは思うな」
「あー……べらべら喋るな、弱く見えるぞ的な」
「何かの台詞かそれ、的確過ぎるな。機会が有ったら使おう」
正規兵さんは真面目に答えてくれる、他の面々は兎も角として長台詞が覚えられないのなら逆に減らす事でその威を前面に出せるのは俺も納得出来る。
「逆にタタラ・ジュロンならどうする、あのような劇や演出を知るなら合いそうな物も知っているだろう?」
「それこそ刀を担がせて開いた片手を前に出して挑発ですね、観客は遠くからじゃ見え難くて何をしてるのか分からないでしょうから一言『来い』って言わせれば」
「確かに、強者の貫禄が出るとするならそれだな」
「兵を率いていたなら戦闘で地面に剣を突き立てて仁王立ちさせます」
「そこから剣を抜いて振り上げた後に前へ静かに向けて突撃指示か」
「分かってますね」
「こちとら男の子歴300年越えの大ベテランぞ、わからいでか」
何だろう、この人とは仲良くなれる気がする。
「あの登場迄の流れはタタラが考えたそうだな?」
「演出は他所で見た物の応用ですよ、俺が作ったのはセット迄です」
「成る程な」
「やっぱり装備を別の魔導具が補助して取り付けるのはロマンだと」
「分かる。ああ言ったゴチャゴチャというかガチャガチャした動きとか火花が散る様はこう……胸が熱くなるよな!」
「流石は大先輩、理解してくれますか!」
当主代行並に意気投合出来てるんだけど、この人とは今日が初対面である。やはりロボは男の子どうしを繋ぐ最強のツールである。
「いやさ、俺は事情から妾が多いんだけどよ……この手のロマンは理解してくれんのは少なくてな」
「好きの方向性が基本的に違うんですよね、俺の周りだとあの黒髪のメイド服の娘と銀髪の天使族っぽいのくらいしか理解してくれないですよ」
「2人も居るだけ感謝だろ、俺なんざ魔導具狂いと術式狂いがギリギリだぞこのアーレムって」
気付けば都市長とカラムスさんを挟む事なく趣味の話で盛り上がっている。当主代行がチラチラと見てくるような気がするが、今は稽古に集中して貰おう。
「タタラにアーレム頼んだら作ってくれるか?」
「作りますよ、素材の用意が無ければ追加料金頂きますしコアは商会から正規品買って貰いますけど」
「……魔法金属でもイケるか?」
「大丈夫ですよ」
「マジかぁ……相談して持ち出し許可貰わねぇと」
2人並んで俺が作った簡易的な椅子に座って談義している、この人大分人誑しなんじゃねぇかな。
そんな俺達に何時の間にか近寄って来ていた『料理長』がポットに紅茶を淹れて提供してくれる。咄嗟にミスリルインゴットで小さなテーブルを作って置けば、『料理長』は嬉しそうに笑いかけて来た。本当、バーゲンセールみたいに笑顔の安売りしてくるな『料理長』。まぁ、笑顔が好きだから文句は無いが。
「……前に報告を読んだんだが、タタラは天使族に殺されかけた経験が有るよな?」
「え、そんな情報まで読めるんですか?」
「この都市に来る前に一通りの情報は開示されてるんだよ、特にタタラのはここ最近だと外交にも関わる大きな事件だったしな。それで、今の娘も天使族みたいだが……抵抗は無いのか?」
「ないですよ」
正規兵さんの問い掛けに、俺は即答する。
「天使族全体にはまだ懐疑的ですし、戦った相手である天使族のスィーブに思う所は有ります。でも、関わった相手が信じられるなら種族は関係ないですよ」
俺の言葉を受けた正規兵さんの目が兜の奥で細くなる、警戒じゃなく真意を見定めようとする雰囲気だ。
「……種族による差別はないんだな」
「そりゃ個に対する区別は有りますよ、種族全体は……天使族は一人のせいで悪感情は有りますけど大丈夫な相手も居るって思ってますし」
「へぇ、例えばあのメイド姉妹みたいな……か?」
「ええ、あとは軍神様の所にいるスィーツ好きとか」
「あー……確かにアレは天使族の中では信用出来るな」
正規兵さんは本人に会った事が有るのか、過去作キャラで前皇帝と神殺しがダブル主人公を張る話で二人が接触してたけどその時に案内した人とかかな?
「種族に対して偏見が無いなら、例えば竜族と仲良くなれたりするのか?」
「相手が人間をある程度尊重してくれるなら友好的になれるとは思いますよ、それが『管理してやる』とか『愛してやる』みたいな上から目線ならお断りですけど」
「……そこから始まる友情とか愛情も有るとは思うぞ?」
「そりゃまぁ前皇帝陛下に龍族のお姫様が居るのは知ってますし、馴れ初め的にそうした始まりが有ることは否定出来ませんけど……あの時の選択って龍族との全面戦争回避の為にとかだと思ったんですけど」
「まぁ……否定、は出来ないんだよなぁそれ」
後頭部を勢いよく掻く正規兵さんに少し違和感を覚える。何故かこの人自身が経験したと言うか決断したみたいな雰囲気だ……まさか前皇帝陛下その人だったりするのか?
いや、その割にはフットワークが軽い上に一般市民相手に気安過ぎるな。
「正直、同じ立場で同じ選択肢を出されたら俺も同じ選択をしたと思いますよ。けど、俺は前皇帝陛下みたいには出来ないと思います」
「……何故だ?」
「俺はあの方みたいな器が有りません。己の力と意思で龍族の……それも高貴でプライドの高い相手を引き付ける事は無理だと思います」
兜の日差しの下から鋭い瞳が俺を射抜く。前皇帝陛下に向ける言葉の裏、と言うか真意を見極めようとしているんだろう。
まぁ、真意も何もそのままでしかないのだが。
「前皇帝陛下は最愛である正妃様を喪い、それでも国の為と本来は自刃したくなる程の哀しみを背負いながら国の為に奔走してくれました。その献身が、覚悟が今を生きる俺達に繋がれています。その覚悟を持っていたが故に、生涯に唯一人だけ背に乗せる騎士を定めると言う龍族の、それも姫の心を射止めたのだと思います」
「……随分と詳しいな?」
「読書と勉強がちょっとした趣味ですからね、少なくも此処の都立図書館の蔵書は殆ど読みましたし建国記とか関係者の自伝も読破済みですから」
俺の言葉を聞いた正規兵さんは両手で顔を覆って俯いてしまった、もしやあれらの本に少なからず記述のある人なのかも知れない。
「あの、大丈夫ですか?」
「……ちょっとした羞恥心からの反応だから少しそっとしておいてくれ」
「あー……あの本の中に登場してた人なんですね」
「……そういう事だ」
やはり、予想は当たりか。この辺突かれるのは気持ちも良くないだろうし、此れ以上触れないでおこう。
それから10分程して正規兵さんは復活したが、その間に俺は当主代行達の稽古を見て改善点を考えていた。ただ、どう考えても台詞を書き直すしか無いだろうなと内心結論が出てしまっている。
「ふむ、タタラ的に台詞を覚えさせる方法は無いのか?」
「えっと、俺ですか?」
「ああ、こう……魔導具とか」
「一度考えたんですけど」
「ほう!」
「失敗すると廃人になりかねないので」
「ほ、ほう……」
ヤバい、正規兵さんにドン引きされた。
「いや、あの……脳に直接的に台詞を叩き込むタイプの魔導具になりましてそれで情報量が多いと相手の脳がパンクしてしまうんですよ。流石に台詞を覚えるのにも台本丸々一冊覚えさせる事になりますし、下手をしたら脳の回路が焼き切れて廃人に」
「うん、分かったから落ち着け。つか、説明されたら尚怖いんだがその魔導具」
しまった、よりドン引きされてしまった。チラリと見えたが、今の説明で『料理長』が軽く気になっているらしい。おかしいな、『料理長』はロボ好きであって魔導具好きでは無い筈。此処は後で某勇者王の
「まぁ、使えても拷問器具とか処刑器具にしかならないかなと」
「……それを使われて処刑とか酷そうだな」
「顔中の穴という穴から血を流す最後かも知れないですね」
「うん、流石に色々言われるだろうからウチの国でも禁止だな」
正規兵さんからも禁止扱いか、なら設計図も破棄して封印かな。
「……タタラ、何か物凄く恐ろしい話が聞こえてきたのだけれど?」
「昨日の夜に当主代行の相談に乗る内に設計図が出来ちゃったんですよ。まぁ、今の会話で設計図を破棄した上での封印かなって」
「……設計図は都市祭の後に私に送りなさい。本国にも送った上で皇家から直々に封印して貰うわ」
「あの、それって俺が出頭とかさせられるんじゃ?」
「そこは安心しろ、下手に皇都に呼んだ挙句王立研究所の変態共に拉致されてアレやコレや作らされる未来は絶対に防ぐ」
都市長と俺のやり取りを聞いて正規兵さんが真顔で約束してくれた。断言できるって凄いな、もしやこの人軍の中でもかなり高位だったりするのかな。それが一般兵の格好で確認に来てたり……流石に妄想が過ぎるか、暴れん坊将軍でもあるまいに。
「でも、どうやって当主代行の台詞を覚えて貰うかな……」
「さっきみたいに気に入りそうな場面を劇に取り入れるのはどうだ?」
悩む中で正規兵さんから提案されるが、この人何処から俺達の事を見てたんだろう?
少なくとも、都市長は建国宣言の時に声掛けて来たからそれまでは居ないんだと思ってたんだけど。
「その、あの劇をパクるのは俺の心情的に受け入れ難いと言うか……」
「……タタラの事情は知らないが、アレらはタタラが作ったものでは無いんだな?」
「ええ、はい」
「成る程、尊敬していると言うか好きだから使うのが解釈違いになる感じか……俺の妾の中にも同じタイプが居るから意思を捻じ曲げさせるのは無理なのが分かる」
……地味に思ったけど、この正規兵さんは妾を複数囲めるくらいの爵位持ちなのか。俺、よくこの言葉使いで無礼討ちされてないな。
「気に入りそうな台詞に変えられたら、とは思うんですけどね」
「本職の台本だから口出しも難しいか、同じ創作者の性だなそれは」
何でこんなに俺を理解してくれるんだろうなこの人、やっぱり生きてる年数が圧倒的に長いからかな?
「それならいっそ、タタラが知る劇をひたすら見せて本人に意識改革を促すか?」
「……殆ど洗脳みたいなのでいいんですかね?」
正規兵さんからの提案が非常に魅力的に見えて仕方ないが、流石に可哀想かもと思いとどまる。しかし、俺の言葉を聞いた正規兵さんは首を横に振ってから言葉を放つ。
「正直に言うと、アレは観劇の少なさからくる台詞回しだ。他の、もっと言えば名作の台詞回しを知らんからやらかしてるもんだな。長台詞を回す上ではやはり覚えられる役者を選ぶ事、更には覚え易い言葉選びにするもんだ。読み物としてならあの手の長台詞は誰が言っても良いんだが、演劇として舞台上でやるなら観客の頭にもスッと入る長さにせにゃ飽きられる。正直、横から聞いてて俺も飽きるぞあの長さ」
ハカンサスの劇団長に、どストレートな低評価を付けてて驚いてるのは俺なんだよね。つか、そこまで言うか。
「例えばタタラが見せてた出撃の前の鼓舞、アレは頭にスッと入るよな?」
「ええ、まぁ……」
「アレの根幹は難しい言葉選びをしていない事も影響している」
成る程、正規兵さんはそう分析するのか。
「あの声と落ち着いた語調、更には適度に言葉を切り相手に言葉を理解させる間を置いてるのが言葉を印象付けしているんだ。途中途中で専門用語は入っていたが、アレは本来劇を観ていれば分かる範囲の物なんだろう。一部の名シーンを切り取っただけでは分からない部分は仕方ないが、その名シーンで心を掴んで俺達に興味を持たせたって点では選択肢として間違っては無かった。なら、アレに肖り長々と台詞を続けさせるよりも分かりやすく言葉を切る方が正解だ」
正規兵さんはそう言うと、稽古を続ける当主代行達に目を向ける。
「互いの国を褒め称える事も時には必要だが、この劇の目的はそこじゃない筈だ。動きがあり、アーレムと言う形で武威を示せるのだからその国が持つ強大さは言葉にせずとも伝わる。永き歴史を持つ帝国である事は重要だが、相手国も皇国の事を知っている訳では無い。まだ正式な国交樹立はなされておらず、この場には皇国の臣民しか居ない。ならば、歴史よりも強さを示すだけで国交が結ばれる事を喜ぶだけで十分だ」
「それだったら、この皇国との差はどう示せば?」
「そんなもの、アーレム一つで十分だろう?」
正規兵さんがこの劇に対しての取捨選択をしていく中で疑問を挟めば、俺の作ったアーレムだけでいいと言われてしまった。
「そもそも、他人に移譲出来る上に命令をよりダイレクトに……使用者の思考に反応させて思い通りに動かせる小型のゴーレムってだけでも他の国には類を見ない技術だ。それを子供の小遣い……にしては少し高値だが、軍備に比べれば圧倒的な低価格で手に入るような我が国を技術力で上回るなんて豪語出来る国など大陸を見回しても存在しない。ましてや多少離れている島国で、しかも有数の大貴族ですら欲しがるような技術だぞアレ」
正規兵さんは俺に視線を向け、アーレムの評価を伝えてくる。その目は為政者のそれにも見えて、俺の中に緊張が生まれてくる。
「その時点であのアーレムに類する技術がその国には存在しない事の証左だ、この時点で自国を相手国よりも下と思う臣民は居ねぇな。更に言えば、そんな大貴族の娘の一人は逸般家庭の下に嫁ぐと明言されてんだ」
何だろう、今一般家庭の字面が違ったような気がする。
「え、もしかして四葩が俺の所に来るって」
「皇国の上層部は把握済みだ、多少は揉めたが……お前の経歴の前には全員納得せざるを得ず自然と黙るかたちになったな」
「俺の経歴?」
「皇国内で個人なのに最多の特許持ち、更に言えば賢者の石を別の名でとは言え作り上げた挙句に他国との国交樹立の立役者とくれば文句は許されん。一度に二国間との国交樹立ともなれば尚更な」
何だろう、今凄く嫌な言葉を聞いた気がする。二国間って、まさか……?
「あの、二国間って」
「お前の所に行ってると思ったが違ったか?」
「あんまり聞きたくないんですけど、誰がです?」
「吸血鬼の国たる『常夜の国』を治める王、名も忘れられた『不死の王』の事だが」
前に当人から言われてはいたけど、改めて国に所属している兵士から聞くと衝撃が凄いな。いや、本当……彼奴は俺を切っ掛けにして皇国と国交結んだとか頭痛がスゲェよ。
「国交樹立の条件は『タタラ・ジュロンに俺を殺させろ』だったからな」
思わず頭を抱えた俺は悪くないと思う、それで本当の国交樹立がされてる事実が何よりも頭が痛い。
「安心しろ、上層部はその条件を認めてないから」
「……大丈夫なんですか、それ?」
「おっ……前皇帝陛下と虎熊家の当主代行殿が殴って止めさせたから」
「ウチの最高戦力の一柱まで出張ったとか地獄かな」
「いや、まぁ……あんま気負うな。臣民守るのも国の務めだから」
建国宣言の言葉をそのまま実行してくれている皇族達には感謝しかない。俺は何で彼奴に好かれてるかな、各方面に迷惑しか掛けてねぇよ。
「つか、上層部からはお前を皇都に呼んで役職を与えるべきかの話とか上がったんだぞ?」
「俺には権力闘争とか無理です、静かにエテル達と今の店を切盛りしながら探索してるのが性に合ってます」
「静かにってのは疑問だが、皇都に呼んで権力闘争に巻き込むのは上層部総出で却下したのは確かだ。まぁ、一代限りの爵位を与えて合法的に妾を取ることを許可しようって話は有るけどな」
それは何とも……国から今のハーレム状況が認められたらある意味では助かるんだけど、爵位を与えられて貴族になるってのは正直怖いんだよな。自分の性根が腐るかも知れないし、爵位に寄ってくる奴等は必ず出て来るだろう。一市民に与えるにしても、騎士爵を越える爵位はあまりにも影響が大きい。
それでも、他国の姫を迎えるのだから国としても一定の家格を与える必要が有るのだろう。下手をしなくても、本来は虎熊家なんて国を代表する貴族の娘を迎えるのだから皇族ないし傍流の家に嫁がせるのが筋なのだから。
「貴族の務めとかどうすればいいんだろう……」
「まぁ、その時には上層部から世話役が送られるから」
頭を抱えたままの俺の背中を正規兵さんが擦ってくる、なんと言うか……父さんを思い出す手付きだ。そのおかげか、少し気持ちが落ち着いた。
「ふぅ……取り敢えずその恐ろしい未来は少し置いときます」
「ああ、そうしておけ。そもそもタタラは権力を下手に与えると役割を全うしようとして潰れるのが目に見えてるからな、せいぜいが陽出國との橋渡しみたいな役割で上も抑えるさ」
正規兵さんにあっけらかんと言われて、気は楽になる。落ち着いてから改めて稽古中の、特に当主代行を見て劇の失敗が目に見えて来た。
「……タタラ、やっぱりあの劇団長に幾つか劇を見せて台詞関連を直させた方がいいと思うんだが」
「俺もそう思うんですけど……何を見せればいいんだろう、アレ」
脳内の台詞を彼是ピックアップしてみるが、いまいちしっくりくる場面が浮かばない。もういっその事、何かのアニメでマラソンでもしようか?
「呼ばれたので来ました、タタラくんの事はキチンと証明したよ!」
因みに、前皇帝はタタラがプレイしたゲーム中では声を充てられた事が有りません()
オマケ『if時代』
「……おい」
暗がりの中、巨大な金属の造形物に向けて作業を続ける影に一人の男が声を掛ける。影が触れた金属が融合し、形作っていく中で声を掛けられたが故に作業者は嫌そうに唸りながら振り返る。
「……なんだカラン、今忙しいんだが?」
「はっ、王に直接呼ばれる事よりも優先する要件が存在しているものかよ」
老境の作業者が不機嫌に答えるのをカランは嫌味とも皮肉ともつかない声で更に返す。
しかし、技術者は皮肉げに笑ってから言葉を紡ぐ。
「俺の役目は何年も前に終わって、次代に引き継いだだろう。今更に俺を頼る必要が有るか?」
「その弟子達がいつまで経ってもお前に追い付けねぇんだよ、まだまだ教わり足りないって」
「はん、一人に対して何人が雁首揃えて雛鳥気取ってやがる。いい加減巣立てよ」
「大陸最高のクラフターが何を言ってやがる」
老境の技術者の言葉に対して軽快なやり取りをするカランは、言葉の応酬をしながらも手を止めないその姿に眩しい物を見るように目を細める。
技術者がまだ若い頃から隣り合って建国まで駆け抜け、更に今までの発展に寄与してきたその功績から工廠長等と役職を与えた。
この国から発祥した様々な技術が有り、その全ての生みの親と言って過言では無い目の前の技術者──『神匠』タタラ・ジュロンという名の友を前にカランは別れの時の近さを感じとる。
「で、弟子達をほっぽって何を作ってるんだお前は?」
「何って……守護龍だよ」
カランの問い掛けにタタラはそう返す。カランはその答えを聞いてから改めてタタラが手掛けている巨大な建造物を見る。
銀色の金属──恐らくはミスリル──で作られた巨大なソレは、言われてみれば確かにドラゴンの骨格に見えた。タタラが今作っている部位は頭部だろう、眼に値する巨大な魔石で何とかそう判断した。
「守護龍ってお前な……」
「この国を建国する時、長く元の国を守っていた龍が居ただろ」
それは数十年前の事、カランはタタラに言われて直ぐに思い出す。巨大な体躯と強大な力を誇った白銀のエンシェントドラゴンの一体を。
同時に思い出したのが目の前に居るクラフターが、その龍を半ば誑したせいで勧誘されていた事だ。此方は殆ど死にかける羽目になったと言うのに、結局ドラゴンがタタラを殺したくない一心でタタラに殺される道を選んだと言う傍から見たら茶番なそれの結末。
雄雌とか異種族とか関係無く目の前の男は誑しに誑すのだ、恋愛感情は無くても妻や妾達もこの男を気に入っている為にカランがやきもきさせられたことが幾度も有った。尤も、それがタタラに対してか妻達に対してなのか何方に抱いた感情かはカラン自身も理解してないのだが。
「あの時に殺した龍だが、龍玉をずっと俺が持っていた」
「……そう言えば、大切にしてたな。何かのクラフトにも使ってなかったし」
タタラの語りに対してカランもその龍玉を接収せずに持たせていた事を思い出した、直ぐに装備を作るかと思えば数十年間も死蔵していたとは思いもしなかった。結局、カランですら今の今まで忘れる事になったのだから相当である。
「この数十年で国も大きくなって、力も付けてきた。今なら、あのヴィエルジュも認めてくれるかと思ってな」
「……そんな名前だったのか、あのドラゴン」
「普通に教えてくれたぞ?」
「お前以外に誰が聞けるんだよ」
龍族の持つ名前とはとても意味が大きい、生涯に伝える相手は家族とだけとされている。つまり、このタタラ人間なのにエンシェントドラゴンから家族と認められていたのである。
カランの妾に龍族の姫が一人居るが、タタラの逸話を話したら鼻で笑われた過去が有る。尤も、当人に会った後に龍族の姫が零した言葉が『何だあの魔性の男は』であったりする。
王国軍の中でも王であるカランに惹かれた者だけでなく、友として協力したタタラに惹かれて力を貸した物も多数居る。派閥争いが起きて国が二分しなかったのは奇跡だとカランは思っていたりする。
「取り敢えず、今の国なら彼奴にも誇れるって思ってな。認めてくれたら、この先も国を護ってくれるだろうって」
「……認める、ねぇ?」
カランがタタラの言葉を聞いて思った事は『無理』の一言だった。
あのエンシェントドラゴンはタタラを認めてはいても、タタラが居なくなった国を認めるとも思えなかった。と言うか、居ないと知ったら簡単に焼こうとするのではなかろうかとすら考えていた。
「だから俺が身体を作ってやってる……今生最後の作品だな」
「……そんな淋しい事を言うなよ」
明るく言い切ったタタラに対して、震えを抑えきれなかった声でカランが返す。カラン自身も分かっている、分かっているのだが……親しい誰かを見送るのは何時だって辛い。
「はん、男一人居なくなることで泣くなよ。男同士、恋人でもあるまいに」
「おいバカやめろ」
震えと涙がタタラの一言で引っ込む。カランの妾の中、やや腐った趣味を持つ者が二人のナマモノ同人誌を執筆していた場面に遭遇した事をカランが思い出したのだ。
因みに、ずっと昔に旅立ってしまった正妃は『タタラ様が女性なら正妃は初めから決まってました』と言ったほど周囲から仲の良さを認められている。この言葉にカランが頭を抱えた事は言うまでもないだろう、男色家疑惑で自分を騙していた元腹心からは生暖かい目を向けられていた事も半ばトラウマだ。
そんなカランの様子に気付きもせず、タタラは己の作品を一撫でする。カランはその手付きを見て、我が子達がタタラに撫でられるのが好きだったなと思い出し……男女問わず子供達の初恋奪ってたのもコイツだったなと苦虫を噛み潰す。
「……どうした、いきなり殺気を出して」
「なんでもねぇよ、タラシ」
「タタラだ。つか、なんで殆どの奴がその言い間違いをしやがるんだよ」
お前が天然誑しだからだ、とはカランのうちでのみ叫ばれる言葉である。因みに女誑しでも人誑しでもなく、皆誑すからみたらしと呼ばれていた。そんなタタラが好むお菓子にみたらし団子と名付けられていたのははたしてなんの因果なのか。
「まぁ、いいさ。コイツが空を飛び続ける限り、俺もお前達を見守ってるって覚えておいてくれ」
「はっ、心配して見守ってるくらいならさっさと生まれ直せよ」
タタラの言葉を一笑に付して、カランはそう告げる。その言葉にタタラも苦笑いだ。
「一度転生したからって、次も出来るとは限らないぞ?」
「お前なら出来るよ、お前ならな」
タタラは転生者として様々な知識を持っている。国の発展に活かせる物も多く、それに様々な面でカラン達は助けられてきた。
なにより、その魂のおかげで偏見なく関係を築く事ができた。カランを一番助けてきた要素である。
「はいはい、記憶を持ってもう一度生まれ直したらまた力を貸すよ」
「ふん、要らねぇよ。お前はお前らしく生きろ、また何処ぞで頓痴気なクラフトして周囲を巻き込むんだろうけどな」
「頓痴気って……」
国を揺るがせた事は一度や二度では無い目の前の親友に、カランは安心しろと言外に告げる。尤も、頓痴気と言われて傷付いているタタラは上手く心情を察せてはいないのだが。
「それで、このドラゴンが出来上がったら何て呼ぶんだ?」
「そう、だな……うん」
話題を無理矢理変えるカランに乗っかる形で精神を立て直したタタラは、改めてミスリルで作られたドラゴンを見る。一つ頷いてから、カランに向き直り告げる。
「ワールウィンド。遥かな世界を自由に巡る風が、気まぐれで一つところに留まるからこの名前だ」
「ふん、ワールウィンドか……」
タタラの言葉を聞いて、カランは改めてその龍を見る。
親友の遺作になるであろう目の前の守護龍候補に、大層な名前だと溢しながら少しだけ祈る。
願わくば、この無二の友の魂を自由な世界へと導いてくれと。
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない