既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
久し振りに戦闘を描き始めたら何か凄く筆が進んでいた……なにこれ、怖
一日に二話投稿とか久し振りにやってるのでご注意下さい。
背面の飛翔ユニットから空間圧縮と解放のプロセスを持って加速する機巧を稼働させた『料理長』の『ジェネシック』が、とんでもない速度で加速する。その勢いを余さず活かすためか、姿勢は飛び膝蹴り。しかも膝に搭載されているドリルは回転している。初手から火力の高い攻撃だ。
対してダリアの『ヴァルキュリア』は姿勢を低くして接近する。此方には内蔵火器なんて用意して無い。
急激に狭まる2騎の距離、接触する瞬間の攻防は何とか目で追えた。交差する瞬間に『ヴァルキュリア』がドリルの付け根に向けてアウトサイドパリィ、更に接触点を軸にしての回転からのフライングニールキック。側頭部に決まるかと思われたその瞬間、『ジェネシック』は上半身を捻り飛翔ユニットで蹴りを受ける。
そのまま2騎は距離を取り向かい合う。
「さぁ始まりましたタタラアーレムアリーナよりお送り致します世紀の一戦、実況は私タタラ・ジュロンでお送り致します。解説にはこの方、遠く陽出國よりいらっしゃいました虎熊家当主夫人の虎熊 華澄様です。よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願い致します」
仕事として実況を担う事にしてお義母さんを巻き込めば、文句を言われるのも覚悟していたが楽しそうに乗ってくれた。いや、本当にありがたいですね。
「さて、開幕から『料理長』選手の飛翔ユニットを使用し加速した飛び膝蹴りと、それをアウトサイドパリィで姿勢を崩させつつフライングニールキックでカウンターを放った形になったダリア選手の『ヴァルキュリア』。一瞬の攻防でしたがどう思いますか、解説の華澄様?」
「はい、非常に上質な駆け引きだったと思います。相手の技量を見る為の攻防として選択した技、そしてそれに対する返し一つ取っても無駄が有りません」
「それ程なのですね」
「はい。先手を打とうとした『料理長』選手ですが、初手から最大加速で相手に攻撃を仕掛ける思い切り、更に膝に付く回転衝角による高威力な膝蹴りを仕掛けました。これは攻撃としては非常にシンプルですが、対処が出来なければ一撃で決着が付くほどの高い攻撃力を誇ります。対してダリア選手は特殊な加速機構を持たずに相手へ低姿勢による空気抵抗の低減、それも機体の流線型を活用しつつも無駄の無い足運びによる機動だけでも相当な速度での接近を行なっています。そして接触時には衝角ではなくその根元、膝を横から打ち先端から逃げつつも相手の攻撃範囲を逸らして攻撃に転じています」
「あのカウンター気味に放ったフライングニールキックですね、アレは見事だと思いました」
「はい、とても見事な技でした。しかし、『料理長』選手はそれを身を捻るだけで対処して見せました。アレだけの高速戦闘を行う中でこれらの対策を即座に行う……双方の高い思考速度と反射神経を証明する攻防です。これは見応えのある試合になると思います」
「はい、解説をありがとうございます!」
凄いな、分析して解説する役をお義母さんに頼んで正確だったわ。俺が見た物を俺以上に分析して言って説明してくれる、この辺は俺の戦闘センスの低さでは解析が出来ないから本気で助かる。
と、そんな俺達の遣り取りを他所に『ジェネシック』が右腕を振り被る。次の攻撃はアレだろうな。
「これは、『料理長』選手の『ジェネシック』が腕を構えた!」
「実況のタタラ様、アレが何か分かりますか?」
「はい、アレは内蔵火器の一つです。右腕を砲身にして魔力弾を撃ち出す機構、その名もブロウクンマグナム!!」
《ブロウクン……マグナぁムっ!!》
俺の言葉に合わせたのか、他には聞こえない『料理長』の叫びの後に『ジェネシック』が遠距離からその拳大の魔力弾を射出する。本来の物では拳をそのまま撃ち出すが、回収が出来ないので魔力弾を撃ち出す形に落ち着けている。だが、小さいとは言え威力は十二分だ。魔鉄製の『ヴァルキュリア』では直撃を許せば行動不能になる程度には強力な武装だ。
対してダリアの『ヴァルキュリア』はブロウクンマグナムに向けて高速で接近する事を選んだ。
「おっと、ダリア選手はブロウクンマグナムへ真っ直ぐ突っ込んで行く……諦めたのか!?」
「やぶれかぶれ、では無いですね。アレは正面から回避して距離を詰めるつもりです!」
「それ程に危険な事が出来るのですか!?」
「出来る自信が有るのでしょう、見て下さい!!」
明らかに何処かの天才パイロットがやらかした事をしでかそうとするダリアに対して、敢えて無謀と取っての実況をすればお義母さんが良い感じに拾って解説してくれる。
ダリアの『ヴァルキュリア』は僅かに装甲へ掠らせつつブロウクンマグナムを正面突破で処理し、装甲の薄い腹部へ向けて加速を乗せた拳を叩き込む。しかし、その間には『ジェネシック』の左手が差し込まれ拳を掴んだ。
「これは当たった、僅か二合目にして直撃を許した!!」
「いえ、上手く掌で受けて逆に相手を捕まえてます」
「なんと、何故奇襲気味の攻撃を処理出来たのでしょうか?」
「恐らくはあの魔力弾は誘いだったのでしょう、魔法金属製である『ジェネシック』はその出力も防御力も桁が違います……こうなったら機体差で危ういでしょう」
そう、普通は詰みの状態に近い。相手はコアからの魔力を高い効率で運用し意思とほぼズレなく稼働する追従性、更には高い防御力とそれをぶつける事で相手に高いダメージを与える理不尽な機体性能を持っている。そんな怪物級の機体に捕まれば普通は終わりだろう。
しかし、ダリアは普通ではない。
「ダリア選手、掴まれた右手をそのままにここで四つ手の組合いに持ち込んだ!」
「何と無謀な!?」
ダリアの行動に無謀と言うお義母さんだが、一つ見落としている事がある。
「何とダリア選手の『ヴァルキュリア』、『ジェネシック』との力比べに対して優勢です!」
「まさかコレは……機巧乙女の魔導具強化特性!?」
「なんと、ダリア選手はその種族特性で自身のアーレムを強化している模様!!」
そう、アーレムも『ゴーレムクラフト』を使用して作製しているとは言え魔導具なのだ。ならばダリア達機巧乙女の特性が働くのも道理、更に言えばダリアは機巧聖女として普通の機巧乙女よりも魔導具の強化幅が高い。ならば、『料理長』の『ジェネシック』に対しても明確に劣る面はそこまで無い。寧ろ、出力という点では上回る。
まぁ、こんな光景見せられたらもう公式戦で機巧乙女達は出禁扱いになるだろうけどな。
「組み合う2騎は互いに譲ろうとしない、『ジェネシック』が振り払おうとする中でも『ヴァルキュリア』はそれを許さない!」
「コレはダリア選手の操作の賜物ですね、力を上手く受け流して力比べを続けています」
「そんな事が可能なのですか?」
「私も生身なら出来ます、実際に力で勝る夫をそうして押し倒した事が何度も有りますので。しかし、それをアーレムで行うとなると……如何程の技量が有れば出来るのか。想像も付きません」
さり気なく惚気を混ぜないで欲しい、向こうで当主代行が何とも言えない表情しちゃってるんだけど。
そんな中、『ジェネシック』の飛翔ユニットの翼が開き内部の魔法陣が晒される。
「『料理長』選手、ままならない現状に業を煮やしたか背面の飛翔ユニットを開いた!」
「まさか、あの状況で……力技で相手を押し退けるつもりでしょうか」
「この行動をどう見ますか?」
「特殊な加速機構を持たないダリア選手のアーレムでは止められないでしょう、コレは手を離すしか……」
そう解説する最中、『ジェネシック』の術式が解放されて加速する。抑え込もうとする『ヴァルキュリア』を無視して圧縮・解放された空間の反作用で『ジェネシック』は前進を始めた。
「ダリア選手の『ヴァルキュリア』、そのまま押されている!」
「やはり、根本的な性能差は如何ともし難いですか……」
「このまま手を掴まれたままではフィールドの外へ出され場外負け必須、万事休すか!?」
盛り上げる為に言ってるが、ダリアなら対処法を考えてる事が何となく分かる。彼奴が『料理長』を分からせると言っているなら、まぁ本気でアーレムを使ってボコボコにする道を頭に描いているのだと確信している。
こと魔導具を使う事には誠実なダリアなのだから。
「『ヴァルキュリア』がバランスを崩した!」
「コレは舞台上を引き摺られて傷を負いそうですね……」
「ダリア選手、絶体絶命か!?」
押されて背中から倒れ込む『ヴァルキュリア』、そのまま加速しようとする『ジェネシック』だが……その腹にそっと『ヴァルキュリア』の足が添えられる。そのまま『ヴァルキュリア』は丸めた背中から倒れ込み……勢いを活かして『ジェネシック』の腹を蹴り上げた。
「そんな、あの姿勢は……!?」
「なんということだ『料理長』選手の『ジェネシック』が吹き飛ばされフィールドに叩き付けられた!」
「……巴投げ、ですね。我が陽出國にある武術の技の一つです」
背中から叩き付けられた『ジェネシック』に目を向けつつ、お義母さんが技を言ってくれる。よく庭先で稽古をしている姿を見ているのだから、ダリアがラーニングしててもおかしくない……朝稽古で柔術をやってたかは詳しく見てないから分からないけど。
「衝撃が強過ぎたのか、『ジェネシック』は即座に行動出来ない、そこへ『ヴァルキュリア』が勢い良く飛び上がり縦回転を加えた踵落としだ!」
「まるで回転鋸ですね」
「さながらフライングサーキュラーと言ったところか!!」
落下の重力加速度と回転による遠心力を重ねた破壊力抜群の一撃、しかし『ジェネシック』は瞬間的に加速術式を発動させて身を起こしてそれを回避する。直前まで頭の有った場所に『ヴァルキュリア』の踵が突き刺さりフィールドを割る、直撃していたらただでは済まなかっただろうな。
突き刺さった踵を抜く間も与えずに加速を開始する『ジェネシック』、今度は左手を突き出してその術式を発動させる。
「『ジェネシック』、今度は左腕の術式プロテクトシェードを展開して接近する!」
「実況のタタラ様、アレは?」
「アレは魔力による壁を広域に展開する防御用の術式ですね、高密度の魔力により物理的な防御力も伴います」
「つまり、それを広域に張ることで相手の逃げ道を防ぐ突撃になる訳ですね」
ようはバリアを活用したシールドチャージだ、しかも展開した範囲からして回避不可の攻撃になるえげつなさである……なんだか作った張本人のせいか偶に俺が解説役やってるな?
流石のダリアでもフィールド全域を覆う程のバリアから逃れる術は無く、シールドチャージの直撃を受ける事になる。軽く音速を越える突撃はダメージが大きいらしく、『ヴァルキュリア』は装甲を砕かれながら転がる。
「コレは凄まじいダメージだ!」
「正面装甲を砕かれて全身に罅も入りましたね、コレは継戦も難しいでしょうか?」
普通はそう思うだろうけど、ダリアは諦めないだろう。チラリと顔を見れば怒りが見て取れた、多分頭の中ではアーレムを壊された事と『料理長』の巨乳に対しての怒りが満ちている事だろう。僅かに動く口元を読唇してみれば『巨乳死すべし慈悲はない』と紡いでいた……
ダメージによりぎこちなく立ち上がる『ヴァルキュリア』を前に、『ジェネシック』は再度シールドチャージを敢行する。逃げ場の無いその攻撃に対して『ヴァルキュリア』は右腕を前にする構えを取る。
「再度のシールドチャージに対して『ヴァルキュリア』は迎撃の構え、コレは何か対策があるのか!?」
「ダリア選手のアーレムには内蔵火器は無いとの事、それではあの盾を貫く武装はとても無いはず……」
疑問を呈するお義母さんを前にまたもプロテクトシェードが『ヴァルキュリア』に触れる、しかし次の瞬間にはそのバリアが砕け散った。え、何をしたんだアレ?
「どうした事だ、『ジェネシック』の防御術式が砕けた!?」
「……そう、そう言う事ですか」
「解説の華澄様、今のはいったい何をしたのでしょう!?」
バリアを無効化された『ジェネシック』は勢いをそのままに『ヴァルキュリア』と交差し、カウンター気味に己の速度を威力に変えられた拳を顔面に受ける。ブレードアンテナは折れこそしなかったが、フェイスガード共々変形してしまった。
尤も、その衝撃には『ヴァルキュリア』の腕も耐えられず右腕は完全に破壊されてしまっている。
「今のはダリア選手が防御術式を解析し、逆位相の魔力波を送り込む事で魔力障壁を解除したのです」
いや、ダリアの奴何を意味不明で頓痴気な事してんだよ。
「防御術式を解析して逆位相の魔力波をぶつけるのは言うが易いですが行うのは至難の技なのでは、あの『ヴァルキュリア』にはそう言った機能は搭載されていませんし」
「故に、ダリア選手の神業とも言えるでしょう。武装や機能ではなく自機の四肢を媒体にして相手の術式を解析し干渉する……本当にとんでもないですね」
それで済む内容とは全く思えないんだけど、本当に何をしてんだ彼奴。
機体は『ジェネシック』は小破だろうが、『ヴァルキュリア』は中破と言ったところだろう。流石に魔鉄を用意ないと腕の修復は難しそうだ。
睨み合うのも少しの間、またも示し合わせた様に互いが接近し超近接戦が始まる。
「互いに間合いを詰めて超接近戦、一撃の重さに頼る『ジェネシック』に対し圧倒的な手数で攻め立てる『ヴァルキュリア』の対比だ!!」
「片腕を失ったダリア選手の機体は相手の攻撃を捌きつつ、一の攻撃に対して三の攻撃で返していますね」
「相手のタフネスに対してダメージの蓄積狙いですね?」
「その解釈で合っているでしょう」
機体性能差を埋める種族特性と、圧倒的な迄の操縦センスを持って的確に打撃を入れて『ジェネシック』のエネルギーを削っていくダリア。確かに『料理長』の思い通りに動く『ジェネシック』は強力ではあるが、『料理長』自身の戦闘センスは『看板娘』の中ではそこまで高くない。彼女は何方かと言うと静かに誰かを支えるような立場が似合う、生まれながらの戦闘種族であるダリア達機巧乙女を相手にそこまで優勢では無い。
だが、それは初見の極短時間の戦闘に限る。
カウンターが段々と入らなくなっていく、中にはカウンターを掴まれかける事もある。つまり、『料理長』が学習を完了し始めたのだ。コレこそが『看板娘』の強みだろう……この性質を最も強く持つ『天使長』が何れは負ける相手って何なんだ?
「ダリア選手の『ヴァルキュリア』、『料理長』選手の『ジェネシック』に攻撃が入らなくなっている!」
「……この短時間で学習されたというのですか、なんと言う対応力ですか『料理長』選手は」
お義母さんも流石に予想外なのだろう、驚愕している声音だ。そして遂に蹴りを右手に掴まれる。そのままブロウクンマグナムの魔力を脚に流し込まれ『ヴァルキュリア』左脚が吹き飛ぶ。
「おおっとダリア選手の『ヴァルキュリア』、コレは致命的な損傷だ!!」
「右腕と左脚の破壊、コレはもう勝負が決まったでしょうか」
「普通にらコレで終わりの所ですが、まだダリア選手の目は死んでいません!」
此処まで壊れてなお戦う気概は凄まじい、本来ならアーレムが此処まで破損するような事にはならないと思うがなんせダリアと『料理長』の試合である。多分アーレム関係でゲームが有ればラスボスのダリアと裏ボスの『料理長』の激突である、そうなればまだ大人しい気すらするのが不思議だ。
そうして分析する間に『ジェネシック』が『ヴァルキュリア』の頭部を掴んで持ち上げる、そのまま頭部を握り潰そうと手に力がこもり『ヴァルキュリア』の頭部に走っていた罅が広がっていく。
「これは、『ジェネシック』が『ヴァルキュリア』の頭部を破壊しようとしている!」
「これはアーレム国際条約第一条、『頭部を破壊されれば敗北』を狙っているのでしょう」
「え、何それ知らない」
なんか知らない間に国際条約が作られてる、しかもなんか聞き覚えが有るようなルールなんだが?
何となく周囲を見回すとアーレム劇に参加している面々は納得している様子だ、知らない間にルールが設定されててかなり恐怖を感じた。
このままでは頭部を完全破壊されると思われる中で、ダリアの『ヴァルキュリア』は残った左腕を『ジェネシック』の胸部に添える。そして次の瞬間──
「コレは何だ、ダリア選手の『ヴァルキュリア』の左腕が爆発した!?」
「無茶をしますね、コアに残った魔力を過剰に左腕に通して相手へ魔力の爆発を叩き込みました」
「つまり左腕は度重なるダメージの中で無茶をした自傷という事ですね、本当に無茶をしますね」
直接的に魔力を流し込まれ、更にそれが爆発した事で『ジェネシック』の胸部装甲が破損する。更にその衝撃でフェイスガードも砕けて『料理長』に似せた顔がさらされる。
そうして倒れ込む『ジェネシック』の前、残った右脚一本で無理矢理立ち上がろうとする『ヴァルキュリア』。対して動く素振りの見えない『ジェネシック』から決着がついた事を察する。
「『料理長』選手の『ジェネシック』、エネルギーロストによりダウン。立ち上がれない……コレにて決着!!」
「ほんの僅かな差でしたね。最後の魔力爆発で決着がつかなければ『料理長』選手の攻撃を防ぐ手立ては有りませんでしたし、魔力の量を見誤ればダリア選手のアーレムが魔力切れを起こしていました」
「正に紙一重の勝利という事ですね!」
負けた側に対して勝った側のダメージが大き過ぎるが、史上初のアーレムバトルは最強の種族である『料理長』では無くダリアの勝利で幕を閉じた。
さて、此処からは俺の仕事だな。
「ダリアに『料理長』、アーレムを直すから渡してくれ」
「了解ですマスター、よろしくお願いします」
《あ、よろしくお願いしますタタラさん!》
俺の言葉を聞いた二人は急いで俺の元へ自分のアーレムを渡してくる、ダリアの魔鉄は何とかなるが『料理長』の魔法金属は……そう言えば前に報酬として大量に置いていかれた分が有ったな。
ダリアの『ヴァルキュリア』はボロボロだが、ロボがこうしてボロボロになるような戦闘は男の子の大好物である。そして『料理長』の『ジェネシック』は本体を『料理長』自身に似せているせいで妙な感覚になる。前世のエロ同人の表紙に近い……変に考えたらドツボに嵌りそうだなコレ。
預かったその場で二人のアーレムを修理を始める。フィールドは俺のゴーレム達が集まって修理していて、その間はアーレム抜きで台詞の読み合わせだ。空輸をする事が無くなったダリアは『料理長』と並んでお茶を飲んでいる、一戦交えて仲良くなったらしい。
「タタラ、直るのか?」
「直しますよ、コレでも次期工匠長に選ばれてますからね」
質問を投げてくる正規兵さんに答える。作り上げた張本人として、間違っても出来ない何て言わないし思わない。俺はそれだけ腕を信じられているのだから、その期待に応えずして何が男かと自分を奮起させる。
「工匠長とかは関係無いと思うけどな……」
「俺になら、そう信じられたなら応えたいんですよ」
「まったく、あんまり背負い込むなよ」
正規兵さんは苦笑いをしながら俺の頭を撫でてくる、何でこの人は人の頭を撫でるのが上手いのだろうか。子供が多くて馴れてるのかな?
ゴーレム達が『ジェネシック』の壊れた部品を持ち寄ってくれた関係で簡単に此方は直せた、『クラフト』スキルはやはり優秀である。対して『ヴァルキュリア』は破損が大き過ぎて本体を作り直す必要が有った。鍛造した魔鉄では無いが、しっかりと本体を作り直す。ダリアの操作の癖を直接見れた為に細かい所を最適化して、『ヴァルキュリア』を作り直せた。
所要時間は2騎合わせて30分程でそこそこ速く出来たと思う。
「よし、修復完了」
「修復ってか一からの作り直しじゃねぇか、何で2体合わせて30分くらいしか掛かってないんだよ……」
一息吐いた俺を見た正規兵さんがそんな事を零していた、最初から最後まで作業を見ていたと思うが何故こんな感想なのだろう?
「そう言えば気になるんだが」
「何ですか?」
「あの……『ヴァルキュリア』だったか、アレが最後に使ってたあの魔力の爆発はそう言う機能を専用で付けていたのか?」
どうやら疑問はあの魔力爆発を起こしたのが専用の機能という事なのか。
「いえ、アレは基本的な機能の応用ですね」
「そうなのか?」
アーレムは元々魔力を動力にしている。コアから流される魔力が循環させて四肢を稼働させる関係上、アーレムは全身に魔力を流す回路が走っているのだ。そして、この回路を繋ぐ事で武器である魔導具が起動する構造になっている。
剣や槍等の原始的な武器なら兎も角、銃や砲等の魔力を消耗する武器はそのまま稼働時間の消耗に繋がる。強力な魔導具により早期決着を果たすか、本体の稼働にだけ魔力を回して長期戦に持ち込むかは使い手の好みによって分かれるだろう。
ダリアは直接打撃に偏らせていた訳だが、そこに機巧聖女の特性として相手の魔術式に干渉して魔法を無効化するなんて絶技をしてみせた。更にその応用で腕の回路を通じて相手に繋ぎ、コアから流れる魔力を瞬間的に相手に流し対象のコアの魔力に干渉させ暴走の果てに爆発させる……最後の攻撃はこう言った流れだ。
やろうと思えば誰でも出来るかも知れないが、俺は積極的にこの機能を使う様に術式を組むつもりは無い。必殺技は必殺技らしく、使える者だけが使えればいいって考えが有るからだ。強力な攻撃なのだから補助されないと使えないのは違うだろう、腕を磨け腕を。
これらの説明したところ、正規兵さんは苦笑いなのかドン引きなよかよく分からない表情をしていた。
「しかし、魔鉄で純粋な魔法金属を何とか出来る物なんだな」
「いえ、アレは実況中に話したように機巧乙女だから出来た事ですね。根本的な性能はどうしても勝てないので奇襲奇策で勝ちを拾った形ですから次は無理でしょうね」
「……そうか」
アーレムの性能を特性で2倍か3倍にしてあの状況なのだ、根本的な性能に差が有りすぎるだろう……どう考えてもダリアも『料理長』も公式大会で出禁扱いだろコレ。
「しかし、あの『料理長』のアーレムは大分特殊だな」
「美少女アーレムなんてあと10年は先の概念だと思うんですけどね、依頼通りにしたらこうなりました」
「いや、10年もせずに出て来たと思うぞ?」
フェイスガードを直す前までその素顔が見えていた『ジェネシック』に関しての意見に俺の想定を伝えるが、正規兵さんはもっと速く出て来たと予想を言ってくる。疑問に思って見詰めると、一つ頷いてから説明してくれる。
「この世界にはあらゆる神々が実在しているよな?」
「ええ、俺は信奉してはいませんけど」
「……その割には愛されてる気がするが、今はいい。そう、実在しているからこそ一部の信心深い人間はその似姿をアーレムにするだろう。特に軍神の宗派なんかはな」
そう言われて納得する。このアリーナはカラムスさんが認めてくれた影響で特に軍神様からの注目が高くなるだろう、軍神様自らが認め力を分け与えた存在かれ請われたのだから他よりも気を向けるだろうし子供達が集まるなら子供好きな神性なのも有って肩入れも激しい可能性がある。
そんな競技に妙な思考を持って軍神様の似姿のアーレムを作る人間は確かに時間を置かずに出てくるだろう、コレは完全に俺の考え足らずだ。
「……正直、アーレムとは言え軍神様がアリーナで戦う姿はあんまり見たくないですね」
「なんか有るのか?」
「信奉はして無いですけど、俺の恋人ってか婚約者を助けて貰ったりしてるので傷付く姿を見たくないって言うか」
そんな事を溢した瞬間、真正面から誰かにというか何かに抱き着かれた感覚がする。なんか今日は微妙に多いなこの手のやつ、なんかカラムスさんも凄い顔してるし。
「タタラの恋人か」
「ええ、夢魔と悪魔族のハーフなんですけど両親が軍神様の宗派だったらしいですね」
「……たしか何年か前に阿呆の被害に遭った貴族だな」
「知ってるんですね。その事件が切っ掛けで俺が保護したんですよ」
この人本当に凄いな、この『ワールウィンド』でそこそこ大きな事件だけど中央では地方都市の事件でしか無い。それを覚えているのは相当だぞ。
「命を助けた事から好意を向けさせたって後ろめたさは有ったんですけど、最近なんとか吹っ切って正式に婚約しました」
「……そうか、大切にしろよ?」
「ええ……とは言え、この間喧嘩して危うかったんですけどね」
「若いうちは仕方ない、コレからは喧嘩前よりも愛を伝えていけ」
なんか凄く親身になってくれるな、心が軽くなる。
「かく言う俺も妻が夢魔と悪魔族のハーフでな」
「そうなんですか!?」
「ああ、夜も凄いんだが……悪魔族の血の影響で戦闘力が高くて夫婦喧嘩も命懸けなんだよ」
「あー……うちは悪魔族の血がそこまで強くないんですけど、夜が物凄くて死にかけた事が何度か」
下世話な話になってしまうが、この手の話は男同士の結束を強くしてくれる。互いの苦労話を交わすことで仲が深まっていくのを感じる。良いのかなコレ。
「──それで探索中に手に入れたのがこの『
「殆ど呪いの装備じゃねぇか。つか、そんなのを分けた相手と破局手前までいくとかどうなってんだお前等」
流石に俺自身の事情を話すのは憚れるので苦笑いで誤魔化す、正規兵さんも深くは踏み込んでこないでくれて助かった。
因みに、会話には参加してないが俺や正規兵さんの話が気になるのかスオーノさんが直ぐ側に来て聞き耳を立てている。その為に夜の事情は赤裸々には語っておらず若干濁した。
それでも複数の妾を持つ事を認められた貴族としての苦労話は為になった。しかし、最愛の奥さんを亡くした挙句に後妻を取らざるを得なかったのはシンプルに胸が痛くなるな。何よりも奥さんとの間には子供が出来なかったというのが寂しさをより強くしている。
しかし、こう……なんで正規兵さんの話は前皇帝陛下に似ているのだろうか。俺自身にとってとても参考にはなるのだが、自分が大分不敬を働いている気がしてならない。
「そう言えば、さっき思い付いたんだがいいか?」
「え、思い付きって何をですか?」
「虎熊家の当主代行が台詞を覚えなくてもよくなる方法」
「本当か!?」
正規兵さんが思い付いたと言う内容に、結構な距離が開いていたと言うのに超反応をした当主代行。地獄耳だろうか?
「まぁ、思い付きつかな。各員に台詞を任せるんじゃなくてさっきのタタラみたいに実況という形で全ての台詞を肩代わりさせる」
また何とも大胆な変更を思い付くものだ。だが、確かにこの方法なら当主代行は台詞を言わなくて済む。
「んで、その実況役は……お前だタタラ」
「へぁ?」
内容には納得したのだが、そこで俺自身が指名されるとは考えておらず思わず変な声が出た。いや、実況が俺?
「タタラ自身は疑問に思うか、多分全員から納得されると思うがな」
「いや、なんで俺なんです?」
「先ず第一に、製作者として最もアーレムの知識を持っている為に解説も行える事」
それは確かに俺が一番知識を持っているだろう、だが咄嗟に状況を整理して伝えるならそれこそお義母さんでも出来るはず……陽出國の出身者ってところが引っ掛かりかねないが。
「第二に、お前は台本無しで先程の実況を行ったようにアドリブ力を持つ事」
あんな適当な物にそんな高評価を貰っていいものか。つか、それなら相方が居ないと難しいんだが。
「第三に、お前自身が陽出國との国交樹立の立役者である事」
コレは正直そこまで何かをやったつもりは無いのだが、上層部がそう認定してしまっている時点でどうしようもない。とは言え、コレを根拠にされるのは少し違う気がするのだが。
「……そうだな、国交樹立の立役者が何故やるべきかって所に納得いってないか」
「すみません」
「お前、無表情に見えて存外分かりやすいよな」
そんなに言われる程分かりやすいだろうか?
「お前は根が素直だからか妙にわかり易い……まぁ、コレは置いておく。国交樹立の立役者であるタタラである必要性は陽出國への知識の深さが根拠になる」
「……なるほど」
実況や解説の上で必要なのはその物事に対する知識量だ。行動に対して正しくその事を伝えなければ、状況を理解出来ない人達をそのまま放置する事になる。つまり、正規兵さんは俺が四葩達と接する事で得た陽出國に対する知識を使って会場の人達に知ってもらおうというのだろう。
いや、ハードル高いってか難しいな?
「いや、流石に難しいというか……一点だけはどうしようもないと言うか」
「そうか?」
「国交樹立に関する所は陽出國からの手紙って形で欲しいですね、俺一人で他国の心なんて語れませんし」
それこそ当主代行やお義母さんを通じて帝からの手紙が欲しいところだが、そうでなくても何か無いと相手の気持ちを捏造する事になる。今から頼んでも流石に難しいよな。
「……タタラさん、何やら面白そうな会話をしていますね?」
悩む俺の所にぬるりと現れるお義母さん、当主代行といい何で囲えてるんだろうか?
「えっと……」
「大丈夫ですよ、当日までに帝からの祝電が欲しいのですよね?」
「何で分かるんですか?」
この人、鬼じゃなくてさとりとかぬらりひょんなんじゃないかと偶に思う……控えめだけど角は生えてるから鬼なのは確かなんだけど。
「それに、あの人に演劇の台詞を覚えさせるよりも良さそうですしね」
「……愉しそう、の間違いでは?」
「あらあらうふふ」
笑って誤魔化してるけど、絶対に俺が苦労する姿を愉しみにしてるだろこれ。
「ふむ、コレは決まりで良いんじゃないか。つか、お前が生み出したアーレムなのだからキチンと関われ」
「……はい」
何故か王命を下されたかの様な気分になるな。
これで当主代行はあの長台詞から解放される事になり清々しい表情になるのだが、ハカンサスの団長さんは台詞が全カットされる事になり落ち込んでいる。少し可哀想な気がするな。
「団長、はっきり言って貴方の台詞にはセンスが有りません。コレは正当な評価の結果です」
「なんでそんな酷いことを言うかな!?」
なお、スオーノさんに死体蹴りされて半泣きにまで追い込まれている模様。
「団長はもっと他の演劇なんかにも目を向けるべき」
「そんな事を言ってもお金が……」
「最悪の堂々巡り、劇団も畳んだら?」
「いい加減にボクだって泣くよ!?」
気安い関係と見るべきか、無遠慮な間柄と言うべきか……この二人にはなんだか俺とバカの関係に近い物を感じる。幼馴染だろうか?
そんな二人を眺めていると、唐突に肩に手を置かれた。振り返ると物凄く良い笑顔をした法務長と当主代行が居る。はて、何の用だろうか?
「次期工匠長、少し聞きたいのですが」
まるで逃さないと言わんばかりに肩に置かれた手の力が強まる、何だろう生命の危機にすら感じる。
「ダリア殿と言いましたかな、彼女の外骨格型のハンガーに付いてお話が」
俺は今日、死ぬのかも知れない。
とてもどうでもいい情報ですが、『看板娘』が仮にセックスを覚えた場合快楽を学習して淫乱になる可能性が非常に高く奉仕を覚えるには相手が教え込む必要が有ったりします。どうでもいいですが。
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
-
生き残らない