既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中。
カラン・ナーハズヒト。俺達が済む迷宮都市『ワールウィンド』が所属する母国である『ナーハズヒト皇国』の前皇帝であり、俺が初めて遊んだこの会社のゲームの主人公である。
後に出たシミュレーション作品の根本のシステムはこのゲームを基礎としていて、発展・改良して連綿と受け継がれている。
一作目では復讐と国盗りの物語で、二作目は離別と決意の物語だった。最愛の相手を喪う人生を歩み続け、けれどもその最後は愛した人達に囲まれて天寿を終えたと言うのが正史だ。
その過酷な運命の影響か苛烈な人物であり、敵対者には容赦が無い。しかし、懐に入れた相手にはとことん甘い側面もある。
特徴的なのはその身が魔神と人の間に生まれた夜闇の種族の間の子である事で、神格を得て魔神になる可能性すらも持っている。実際、過去作のバッドエンドの中には彼が魔神に覚醒し神殺しと敵対する物もあり更には打ち倒してしまう物すらも有った。
潜在的には非常に高いポテンシャルを持ちながらも、その最大の力はカリスマ性。敵対していた他国の将すらも惹き寄せ、大陸で一大国家へと自身の国を導いたのだからその影響力は推して知るべしである。
そんな存在が唐突に目の前に現れたらどうなるか、答えは簡単で俺みたいな小市民は気絶するしか無いのである。
僅か数秒とはいえ完全に気絶したが、下手にそんな姿を見せれば不敬と取られて無礼討ちされても文句は言えない。死にたくは無いし、今死ぬのはエテルとの子供も死なせる事に繋がるので気合で意識を覚醒させる。
その場で片膝をついて跪く、頭を垂れる最敬礼を持って礼を示す。
「た、大変な無礼をお赦し下さい!!」
一瞬とは言え気絶したのだから謝罪するしか無い、最初に名乗るべきなのかも知れないが相手から求められてもいないのに名乗るのも無礼に値すると何かで読んだ気がして身動きがまともに取れない。
対して俺の礼を受けたカラン前皇帝陛下は無言、ただ威圧感は有るのだが俺を進んで威圧している感じでは無いようだ。何と言うか、逆に戸惑ってる?
「あーっと……一応、皇族では有るがもう退位した身だ。そんな焦って礼を取る必要は無いぞ?」
「……もしかして、カランの経歴とか通称とかで怖がってる感じじゃない?」
「えぇ、そんな怖いか俺……?」
目の前で主人公夫婦が何か言ってるが、怖がってるとするならその戦闘力である。相対して分かるのだが、この二人は俺よりも遥かに強い。何かをする前に殺されるのが確定だ。
とは言え、恐れたままなのはそれはそれで不敬に当たる。それに、カラン前皇帝陛下は何故か聞き覚えの有る声な気がする。
「まぁ、いきなり皇族を前にしたら気絶の一つもするよな。さっきの無礼は赦すから、顔を上げて名前を教えてくれ。資料で読んではいるが、正式な顔合わせは初めてだしな」
「は、はい!」
本当は寛大な処置に感謝するべきなのだろうが、こう言う場面での礼儀作法が全く分からない。言われた通りに顔を上げてカラン前皇帝と顔を合わせる。
……何だろう、俺はこの人の眼を何処かで知ってる。画面の向こう側じゃなくて、実際に顔合わせをした事が有るようなそんな気がする。
「俺……いえ、私はタタラ・ジュロンと申します」
「カラン・ナーハズヒトだ。そんな畏まらなくていいぞ、肩肘張ってると変なボロが出るだろうしな」
寛大な言葉に安堵を得つつ、まだ緊張が抜けない。なんだこの状況?
「私はセラス・ナーハズヒト。一応前皇后の立場になるのかしら、よろしくね?」
そう言って笑い掛けてくるセラス・ナーハズヒト前皇后に、俺は上手く笑って返すことが出来ただろうか?
セラス・ナーハズヒト、この人は初代の国盗りゲーの時はメインヒロインでは無かった。主人公であるカランと幼馴染であり、ルートによってはカランの童貞を貰うことになる人ではある。まぁ、正史だとその前に捕まえたとあるシスターで捨てる事になるのだが。
国盗りの最中、惹かれ合うカランとメインヒロインを見続けその幸せを願いラストで身を引いて旅に出てしまう。しかし、続編にて再度登場してからその立場が大きく変わる。
メインヒロインだった正妃が亡くなってしまい、後を託された彼女が正妃に収まる形でカランを支え続けるのだ。
本来は一つ所に留まる性分では無く、猫のように気まぐれに旅を続けるタイプなのだがカランへの愛で正妃の役割を全うした強い女性である。
なお、夢魔の血を引いている関係でカランとの子供を5人程産んだとは後に出されたビジュアルファンブックで語られていた。それに現皇帝陛下は彼女とカランの子供でもある。
多分、カラン関係では彼女が一番エロシーンが多い。次点では闇の女神様の聖女様辺りかな、公式でも性女様とか言われてるネタが有ったし。
「そ、それで……本日はどの様なご要件なのでございますでしょうか?」
「緊張で言葉使いが変になってるぞ……まぁいいが」
ガッチガチに緊張してて言葉使いもまともに直せてない、苦笑いで許されてるけど余計に緊張してしまう。
「幾つか作って欲しい代物が有るのと、お前にも伝えておくべき事が有ってな」
「作製依頼と伝達事項、ですか?」
俺の確認に一つ頷いたカラン前皇帝陛下は、都市長とカラムスさんにも眼を向けた後に口を開く。
「先に伝達事項だが、視察団が訪れる時間を繰り上げて都市祭とやらの初日から来る形になる」
『……はいっ!?』
カラン前皇帝陛下の言葉に俺達三人の声が重なる。
「ほ、本来は最終日に来るはずのスケジュールを繰り上げて初日にですか!?」
「そうだ、更に言えば開催する5日間はそのまま滞在させる事になる」
裏返り掛けた都市長の声に、冷静に返すカラン前皇帝陛下。
無茶だ、この『ワールウィンド』には大規模な軍事施設が無い。つまり皇国の正規兵達を駐屯させるだけの設備が無いのだ。
都市祭は他国や他都市からの観光客や旅芸人達も大量にやってくる、当然宿泊施設はそんな人達で満杯になる。一般的な宿泊施設の利用が出来ない上では、視察団を泊まらせる事など物理的に不可能だ。
「まぁ、この都市内に大規模な軍事施設も無ければ時期的に宿泊施設が余ってない事など百も承知だ。そこで、だ。護衛の一部と皇族を泊まらせる場所が欲しい」
つまりは何か、やんごとなき身分の人とその護衛を家に泊まらせろと……絶対嫌だぞ俺は。
都市長に眼を向けると、白目を剥いてた。そうだね、この場でそれが出来る身分と家の広さを持つのなんて都市長だけですよね。カラムスさんが護衛にも就けるし。
「……タタラ?」
「俺の家は無理ですよ、当主代行達に部屋を貸してるので空きが無いです。そりゃ周囲の土地を買い取って家を拡充して対応とか方法は有りますけど、今日明日で土地の売買とか無理ですからね」
「……あれ、家を建てられないとは言ってない?」
都市長の縋るような呼び掛けに無理だと答えるが、セラス前皇后は俺が建築出来ないとは言ってない事に疑問を持ったらしい。鋭いなこの人。
「そう言えばセラスは知らなかったな、このタタラは1時間も有れば家を建てられるぞ?」
「面白い冗談ね」
カラン前皇帝陛下の言葉にセラス前皇后陛下は冗談だと笑っているが、この場で笑っているのは彼女一人である。その様子を見回した彼女は笑うのを止めて、やや引き攣った表情を向けてくる。
「……え、本当なの?」
「はい、多少の大型施設でも1日有れば建てられます」
「……嘘ぉ」
1000人規模で収容できるアリーナでも1日有れば建てられる、それが俺とゴーレム達である。普通に考えたらこんな俺を指して『タタラってる』と言うのも仕方ないだろう。仕方なくねぇよ。
「あのアリーナもそう言えばタタラが建てたんだったか?」
「内装は商会の職員任せですが、半日程で建てました」
……アレ、カラン前皇帝陛下はアーレムアリーナを知ってる?
資料で見たって感じじゃなくて直接中に入って確認したみたいなニュアンスだけど、どう言う事だ?
「アリーナって?」
「昨日、夜に話した建物の事だ。新しいアーレムって技術に関する競技場」
「あの凄く楽しそうに話してた物の事ね、そんな凄いの?」
「施設の広さもさる事ながら、設備の質が良い。皇都に有るどれよりも上だぞ」
何だろう、嫌な予感がしてきた。もしかして、昨日の正規兵さんって──
「あの、カラン前皇帝陛下」
「ああ、長いから敬称はやめろ。せいぜいが様で抑えてくれ」
「で、ではカラン様……もしかしてアーレムアリーナに」
「なんだ、本当に気付いて無かったのか……ホレ」
何処か軽い調子でインベントリから何かを取り出したカラン前皇帝陛下は、それを頭に被る。それはナーハズヒト帝国軍にて正式に採用されている兜で、それを被る姿はつまり──
「た、大変な無礼を働き申し訳ございませんでしたっ!!」
勢い良く床に額を打ち付ける土下座をかます、つまり昨日俺が親しく話していた相手は前皇帝陛下という事で、あの距離感で話していたのは不敬罪に値するレベルだ。どうしよう、斬首刑かな?
「い、いやいやいや!?」
対して俺の反応を見たカラン前皇帝は物凄く焦った様子である。
「お前に対して身分を隠してた俺が悪いんだし、そんな死を覚悟した謝罪とかすんなよ!?」
「そ、そうは言ってもあんな身分も考えない距離感で馴れ馴れしい言葉遣いは流石に……」
「いや、それは別に気にしてないってかむしろ違和感無くて俺が甘えてたというか」
「……なんで二人して謝罪合戦してるの?」
謝る俺に対して自分が悪いと言ってくるカラン前皇帝陛下、それに対して俺が悪いと謝るが認めて貰えず。遂にはセラス前皇后陛下からツッコミまで入れられた。
「と、取り敢えず昨日のことは不問だ。何だったら昨日と同じ距離感でもいいからな!?」
「皇族相手であの態度は俺の胃が死にますよ……」
何で昨日の時点で気付けなかった俺、まさか
「ま、まぁ取り敢えず俺の依頼の話をいいか?」
「は、はい……」
何とか場を取り繕おうとしたのかカラン前皇帝陛下は上ずった声でそう言ってきた。俺もビビりつつも何とか依頼に気を向ける。
「俺の依頼は幾つか有るが、お前が作った魔導具を元にした戦術についての物を最初に頼もうと思う」
「俺が元になった戦術……簡易転移門ですか?」
俺の言葉を聞いた前皇帝はニヤリと笑う、最初に出した戦術といったらコレだからと考えたが正解だったか。
「そうだ、簡易転移門とマーカーを利用した奇襲。コレを成功させる為に魔導具を作って欲しい」
「極小サイズのマーカーか簡易転移門を用意しろって事ですか……」
「いや、術式発動の成功率を上げるだけでいいんだが」
はて、術式発動の成功率とは?
「魔力さえ確保出来れば確定で成功する筈ですけど、それに元々小型かつ大容量の魔力コンデンサーも入れてますが……」
「え、そうなのか?」
「本人の魔力だけで動かすにしても本来の転移門の発動に必要な魔力よりかは大分少ないと思いますけど、カラン様ではもしや魔力が足りなかったのですか?」
俺の作った物は魔導具である。つまり、魔力を用意すれば必ず同じ結果に至る道具だ。成功率なんて概念はなく、ようは魔力が足りるか否かでしかない。
仮に足りないという話なら、それこそ魔法金属で作った魔力消費量が殆ど無いレベルの物を作りはするんだが。
「……いや、俺は止められてて使った事は無い。一般兵が試した結果、使える時と使えない時が出たくらいだ」
「因みに、使えたのは主に夜闇の眷属の面々ね。私も発動出来たわ」
「お前、俺は使わせてもらえなかったってのに……!」
痴話喧嘩はやめて欲しい、犬も食わない喧嘩を見せられても辛いだけなんだが。
「えっと、俺の組んだ術式上だと魔力が100も有れば発動出来る筈です。本来の転移門が400とかなので大分少ないかと」
『少な過ぎない?』
俺の説明を受けたカラン様とセラス前皇后陛下がツッコミを入れてくる、極々限定的な使用に留めているので魔力消費量が低いのだがその手の技術的な話は必要無いだろうな。
「その、一応さらに魔力消費量を抑えることは出来ます」
「ほう、条件は?」
「素材を全てミスリルで作り、魔力の循環効率を引き上げることですね」
「成る程、素材の質で無理矢理って事か」
俺の説明に納得してくれるカラン様、セラス前皇后陛下は疑問を消しきれていないらしい。
「そんなに変わるのかしら?」
「ミスリルの魔力の循環効率は90%以上で、更に鍛造した場合は95%を越えます。10の魔力に対して9割以上の効率を誇るなら、多少魔力が低い人でも確保出来る筈です」
俺の説明に感心した様子のセラス前皇后陛下、カラン様は一つ頷いてから口を開く。
「なら、皇族専用……ってなると範囲が広過ぎるか。今は俺用だけでいいが、それを作れないか?」
「分かりました」
真剣な様子のカラン様に言われ、早速ミスリルを取り出す。
「出来れば一ヶ月以内……って何をしてるんだ?」
「え、今から作るだけですけど……」
『なんて?』
カラン様の言葉に答えつつ、早速作製する。出来れば目立たないような小さな大きさで、更には身に着けていても違和感の無い代物。腕輪等よりもさらに小さいサイズ──指輪。
「カラン様、失礼を承知でお教え下さい」
「あ、ああ。何だ?」
「魔力は50以上有りますでしょうか?」
「転移門を開くには足りないが、簡易転移門の発動には問題無いくらいには有るぞ」
その言葉を聞いて安心して作る、ミスリルインゴットは100gで十分だろう。目測で測ったカラン様の指の太さに合わせて指輪を作製する。
指輪の形を利用して、内側に『転移』の術式を刻み台座には『跳躍』の術式を刻む。
改修型に使った物よりも更に極小サイズに圧縮した魔石を用意し、それを台座に嵌め込んで完成だ。流石に差し歯サイズを渡すのは確認を取ってからにするべきと判断し、指輪サイズを先に作らせて貰った。
そして対になる魔導マーカーを作成、此方は首輪サイズにしてある。持たされる人が魔力不足になった時のため、緊急用のコンデンサーを五つ付ている。
「コレで簡易転移門の指輪と、対になるマーカーの首輪が出来ました」
「嘘でしょ、5分と掛かってないわよ……?」
シャムスとエストにも教えた術式を物理的に刻む技術のお陰で俺の『クラフト』スキルが作業を効率化させてくれた、手で刻む時の速さと正確性が上がって楽になるんだよなコレ。本来なら俺の手だけでやりたかったが、皇族からの依頼で手早く終わらせた。
呆然とするセラス前皇后陛下の隣で、真剣な表情のカラン様が指輪を右手の人差し指に取って嵌める。
「キツくないですか?」
「ああ、ピッタリだ」
目視でどの指に嵌めるのかを判断出来るの凄いな、説明しなかったぞ俺。そのままカラン様は手を何度か握っては開いてと繰り返し、満足そうに頷く。
「素晴らしいな、剣を握ったとしても違和感が無いだろうなコレは」
「術式はどうですか?」
「軽く魔力を通したが問題無い」
その答えに思わず安堵の溜息を漏らす、以前作った物と同じでは有るがやはり起動するまでは不安になる。
「コレで依頼は完了ですね」
「ああ、一つ目はな」
……そうだった、幾つか有るって最初に言ってた。緊張で頭がちゃんと動いてないな本当。
「二つ目は遠隔用のモニターについてだ。都市長より聞いたが、何か有るんだろう?」
「そうですね、今日は納品予定でしたし実物を見て頂けたら」
カラン様に答えつつ、序に今日都市長へ納品予定だった魔導式モニターを取り出す。16台のモニターを見て、都市長の頬が引き攣ったのが見えた。
「へぇ、コレが『念話』受信式のモニターか」
「はい、『念話』に『感応』して受信する事で顔を見せた状態で遣り取りが出来ます」
そのままこのモニターが本来の用途とは少し違う事を説明していく。本来なら固定式で、建物等から魔力を引っ張ってくる必要があるのがモニターだ。しかし、コレは屋外での使用や簡易的にオンライン会議を可能とする目的で作られた移動式のモニターである。
更にパブリックビューイングを目的としている為、屋外でも広域に音を伝える為の大型スピーカーをオプションで付けている。
それと、都市祭に合わせた特殊な機能も付けている。
「成る程、1日使用した場合は小型の魔石を5個程使うのか」
「常に『念話』と『感応』を使用し続ける弊害ですね」
「……少し疑問なのだが、野外に設置し政府からの一方的な発表なら『感応』だけで『念話』は要らないのではないか?」
俺とカラン様の会話に対して疑問を呈したのはカラムスさんだ。この言葉を聞いて気付いたカラン様だが、今回は必要だったから用意した。
「ええ、公表用のモニターならそれで良かったんです。しかし、今回は都市祭用のモデルでも有るので」
「……何か区別する必要が有ったの?」
「ええ、少し見ていて下さい」
都市長の確認に対して、俺はモニターに触れる事で機能を作動させる。『念話』による現在地の発信機能、そして一つの親機に登録した『ワールウィンド』の地図を呼び出して案内看板の役割を果たす機能だ。
「……地図と展開と現在地の照合、この為の『念話』か」
「はい、『念話』の術式で現在地を発信させる事。そしてそれを地図と連動させることで現在地の把握を可能として都市祭でどう動けば目的の場所へ行けるかを見れる機能です」
前世で大型商業施設なんかで有ったデジタルサイネージとタッチパネル式の地図を組合せたのがこのモニターである。大分時代を先取りしている感は否めないが、コレくらいは良いだろう。
まぁ、本当なら敵国家に地図を把握されたりしたら不味いのだが。
「それと都市長、コレを中枢に置かせてくれませんか?」
「……コレは?」
「このモニターを統括する親機です」
そう言って差し出したのは高さ120cm、幅が25cm程の正四角柱状の物体だ。コレが『ワールウィンド』の地図等を記録している為、子機のモニターは地図の照会が出来るのである。
「……コレ、魔力消費量相当よね?」
「はい、統括する子機の数で増えていきます。一応、動力源として『錬金術師の卵』を使ってますから問題は無いですけど」
「問題しか無いわよ!?」
一応、独立出来る用に『卵』を動力にしたのだが怒られてしまった。
「確かにそうかも知れないですけど、コレからも活かせる技術ですし。公式の発表も各員の持つ機材をコレに繋げれば子機に間接的に繋げられる機能も有ります!」
「有用なのは分かってるけど、そうした新技術で私の胃を攻撃しないでちょうだい!?」
何処か切実な声音だった、便利なんだけど駄目か。
「……今回の都市祭では使うけど、もう少しテスト運用してからよ。憎らしいくらいに有用なのは分かるけど、使い方を誤れば本気で危ういのよ」
都市長のその言葉で、少しの安堵と圧倒的な申し訳無さが湧いてくる。流石に新技術を出し過ぎたかも知れない。
「……苦労しているようだな?」
「……この子が子供の頃からこうでしたから、慣れてますわ」
カラン様からの言葉を受けた都市長はサラリと返している、口調がコレで許されてるのは事前に言われていたのかな都市長。
「それと都市長、お願いが有るんですけど」
「何かしら?」
「この前、法務長達と簡単に決めた各施設へのモニターの設置。今日中に出来ませんか?」
俺の言葉に眉を寄せる都市長、しかし何が言いたいのかを察して貰えた。
「視察団による緊急の対応で必要になった、そういう訳ね」
「はい、情報伝達の速さが肝になりますから」
学生運動の事を考えると、都市内重要施設へのモニター設置は急ぐ必要が有る。都市長を筆頭に各長からの命令や人相の伝達が間に合わなければ自警団の出動や入管の封鎖、その他は研究施設や病院の状況確認が遅れて被害が大きくなる。
俺はそれを防ぎたい。視察団が予定より長く滞在するのなら学生運動の動きが早まる可能性も有るのだから、先手は打てなくても即応性は上げたい。
「分かったわ、この後で各施設を私と一緒に回りなさい」
「え、いいんですか?」
「施設責任者を説得するならあんたがやるより私がした方が早いでしょ。それと、必要なら施設に家庭用魔力炉の設置も許可します」
俺一人で各施設を回ろうと思ってたら思わぬ援護だ、都市長の決定は強制力を持つ故に書面よりも本人が直接声を掛けたほうが早い。
「その代わり、各施設へ先に触れを出す必要が有るわ。あんたの鳥形ゴーレムの方が速いんだから手伝わせなさい」
「分かりました、呼びます……けど何処に?」
「執務室ならあの子も慣れてるでしょ、そっちに呼んでおいて」
「分かりました」
都市長からの言葉に従って、サイファーを『念話』で都市長の執務室へ来るように命令しておく。
そんな風にやり取りをする俺と都市長を、カラン様は興味深そうに見てくる。
「中々に面白そうな事をしているな?」
「あ、その……」
「謝罪はすんな、この都市に関わる緊急の公務だ。やろうとしている事も正しい」
少しの間とは言え皇族を無視して仕事をしてしまったと言うのに、寛大な対応をされて恐縮しきりだ。
「それじゃ、その施設への魔導具設置は俺も付いて行かせて貰おうかな」
『はい!?』
カラン様の言葉に俺と都市長とカラムスさんの声が重なる。
「ま、まままま待って下さい!?」
「こ、ここここ皇族が今の時点で居るのは流石に知られると不味いと言うか!?」
俺と都市長は動揺のあまり吶る、カラムスさんは俺達の言葉を無言で何度も頷いて肯定する。
そんな俺達三人を見たカラン様は苦笑いをするだけで、発言の撤回をする様子は無い。
「当然身分は隠す、昨日と同じく皇国軍正規兵の装備で同行するさ」
「それなら私もついて行くわ、コレでも剣の腕は中々のものよ?」
むしろお二人してこの都市内じゃ過剰戦力です、多分カラン様でもカラムスさんより強いですよね?
そんな考えをしたがとても口に出すのは無理だった、不敬罪スレスレになりそう。ヤバい、緊張で胃が痛くなってきた。
説得虚しく、カラン様とセラス前皇后陛下を連れて施設を回る事となった。お二人には着替えて貰っている中、やって来たサイファーも使って必要と思われる全施設に向けて一斉に手紙を飛ばす。
都市長は全施設に専用の鳥形ゴーレムを持っていると思っていたがそんな訳でも無く、それこそ各長と宗教施設そして俺用の鳥形ゴーレムしか用意して無かった。
因みに俺はサイファーだけで大丈夫だったりする、此奴の最高速なら一体だけで『ワールウィンド』内の重要施設を全て回っても時間が余る。最初に比べても『ゴーレムクラフト』スキルの『ゴーレム強化』アビリティで基本ステータスが50増えてるし、移動力も5増えてるしな。
「……あんた、随分と前皇帝陛下に好かれてるわね?」
皇族二人を待つ中、都市長からそんな事を言われる。確かに昨日多少話したくらいで随分と気に入られてしまったように思える、何故だろうか?
「正直に言うと、俺も疑問なんですよね。特に気に入られる事を言った覚えは無いんですけど」
そりゃ俺から見たカラン様の姿とかは言ったけどさ、あんなので好かれる筈も無いしな。
「敢えて可能性を上げるなら、皇国民の生活をよくしようとているからとかそんなですけど」
「……あの鮮血帝とまで言われてるお方が?」
「その鮮血に染まった理由だってこの国を良くしようとしてたからですよ」
好戦的な印象を持つ呼び名を持つが、カラン様の内面は正妃の言葉を受けて基本的に戦闘行為へは否定的だ。最終手段としては許容しているが、最優先に侵略を仕掛けるなんて一番最初の国盗り以外では無いのだ。
失った命を省みて、戦争の影響で貧する国民達を憂う。
カラン・ナーハズヒトは王として見れば建国について以外だと驚く程に戦争についてのエピソードが少ない。
簒奪し、血塗られた玉座に座す者と言われているというのに。
流血ならそれこそ閨で何人もの処女を相手にしてるのでそちらの方が多いんじゃないかと俺は疑っている。
「……なにやら不名誉な思念を受けたような気がするんだが?」
「え、私は妥当な意思を感じた気がするわよ?」
ノックもなくそんな事を言いながら皇族の二人が入ってきた。セレス前皇后陛下、よくあの身体をそんな窮屈な鎧の中に収められたな?
台詞から不敬な考えを読み取られたかと疑うが、カラン様は首を傾げるだけである。身の危険が有るからもうさっきの思考はしない様にしよう。
「それじゃ、向かいましょうか。初めは何処にするの?」
「此処から近いので病院からにしようかと、設置場所は医院長室を予定してます」
「それが最適でしょうね」
設置場所の予定を話しながら執務室から出て、先ずは都立病院へ向かう。クラフター同士の会話だからかカラン様もセラス前皇后陛下も話しに割り込もうとして来ない。
そうして病院に家庭用魔力炉とモニターを設置する、驚いた事にダリアの施術をしてくれたあのお医者様が医院長先生だった。改めて御礼を告げると、予後の心配をされたので今は元気一杯だと教えたら笑ってくれた。
ダリアを助けてくれた礼と、コレからも沢山の人々を助けて欲しいと願ってあのトリモドキとの戦いで作ったホバーストレッチャーを何台か用意して寄付した。都市長に命じられたカラムスさんからスリッパで殴られたが後悔は無い。
続いては外周を回る形で入管を巡る。一華と雛菊さんがお世話になった入管には謝罪を行うが、その後に届けられた陽出國のお土産が好評だからまた問題を起こしてくれと冗談を言われた。今度お菓子の差し入れはさせて貰おうと心の中のメモ帳に記録する。
そして次に着いたのは自警団の本部だ。
「あのすみません」
「はい……ってタタラさんとうぇぃ!?」
以前も受付をしてくれた人が俺を見て笑顔になった直後、後ろに立つ都市長を見て変な悲鳴を上げた。まぁ、いきなり都市最高責任者が来れば驚くよな。もっと偉い人も変装して一緒に居るけど。
「ちょっとお話が有るので団長さんに取り次ぎ願えますか?」
「は、ははははいぃ!!」
何時ぞやと同じ様に『だんちょぉぉぉぉぉ!?』と叫びながら走っていく受付さんに申し訳無く思いつつ、ここはどう設置するから悩む。
「……あんた、自警団に好かれてない?」
「トリモチランチャーのお陰なのか、好意的に見て貰えてます」
「それだけでは無いだろう、ジュロンを子供として見つつも同士の様に扱っているぞアレは」
都市長の言葉に答えたらカラムスさんから見解を伝えられる。子供として見られてるのはまぁ、班長さんとの遣り取りが有ったからだと思う。
けど、なんで同士として見られてるんだろう?
「なぁ、タタラ。トリモチランチャーってなんだ?」
「……そう言えばアレって、此処でしか使ってないんでしたっけ?」
「捕具としては優秀でも、皇都の凶悪犯は捕まえるよりもその場で処理が普通なのよ。そうでも無ければ実力で取り押さえる方が早いみたいだし伝えて無いわね」
カラン様からの言葉に疑問を持てば都市長が解説してくれる。そこそこの探索者相手でも捕縛出来るから有用だと思うんだが、やはり皇都ともなればこの『ワールウィンド』よりも実力が上なのだろうか。怖いから近寄りたくないな。
「お、お待たせ致しました!」
そんな会話をしていたら受付さんとは違う団員さんが話し掛けて来た、都市長とカラムスさん相手に緊張が隠せてない。出来れば正規兵の格好をした二人の正体には気付いて欲しくないな。
案内されたのは団長室と書かれた質素な扉の前、団員さんがノックをした後に入った部屋は質実剛健を体現した最低限の調度品しか無い場所で、その窓を背にした格好の机を挟む形で団長さんが座っていた。
「ようこそおいで下さいました都市長様、そして次期工匠長」
「急ぎとは言え、突然の訪問失礼しますわ自警団団長」
巌のような厳つい顔に笑みを浮かべて挨拶をしてくる団長さんに此方も笑顔を返す、都市長が代表して挨拶をしてくれた後に早速用件を話し始める。
「本日の訪問は都市祭にて想定される問題についてと、今後についてですわ」
その一言で団長さんの表情が変わる、やはり都市長から学生運動について話を聞いていたのか。
「以前、お話を伺いましたが……次期工匠長については?」
「むしろ情報提供元が彼ですわ」
「成る程……」
都市長の言葉を受けて団長さんが俺に鋭い視線を向ける。都市長に視線で確認してみれば頷かれたので、一連の流れを伝える。
「俺のパーティに騎士学校の生徒が一人居ます」
「……成る程、その子から齎された情報と言う訳ですね?」
凄いな、前提の所で理解されちゃったよ。俺も一つ頷いて、タチアの事情を軽く伝える事にする。
「はい。血筋としてはチュテレール家の庶子と言うべきですかね、学生運動で担ぎ上げられる手前までいきました」
「それは……いや、次期工匠長がその話をするという事は保護が出来た訳ですか」
「はい、ギリギリでした」
因みに、チュテレール家の名前が出た時に背後からの圧が強くなった。カラン様はよく怒りを抑えられるな。
「その騎士見習いの方はどのように動くのでしょうか?」
「他の騎士見習い達を制圧するつもりですね」
「出来るのでしょうか?」
「ステータスだけなら探索者でも上積み中の上積みになってますので問題は無いかと」
団長さんから放たれる質問に次々と答えていく、団長さんは少しずつ眉を顰めている……やはり子供の参加は嫌がるか。
「次期工匠長、同じパーティと言っていますが……贔屓目では?」
「多少は有ると思います。が、事実としてステータスは高いですよ」
「それなら、どれ程ですかな」
「レベルは50、ステータスは全て100を越えてます」
俺の返答に団長さんの目が大きく開かれる。そりゃ、レベル50なら全ステータスが50を越えた状態でも扱いは『天才』だろうにその倍の100だ。しかもステータス100と言うのは一般的な人間種の限界値でもある、此処までくると『超人』か『化物』の域だろう。
まぁ、本物の『
「……確かに、それならば贔屓目だとしても問題は無いと思いますね」
「ええ、それに学生運動の主犯達は彼奴を神輿にしたがっている事から確保を考える筈です」
「それならば、動いた瞬間に逮捕に動けそうですな」
俺からの情報で集団逮捕の為の作戦を構築しているのだろう、ただこれからの情報も伝えなければならない。
「その他に気を付けるべき点として、奴等は隣のディカステス国から5000人規模の軍人を招き入れてこの『ワールウィンド』を制圧させるつもりらしいです」
『……は?』
この情報で呆気に取られた声を上げたのは団長さんと背後に居る皇族二人の計三人だ。
「……外患誘致罪で極刑だと言うのに、本当なのですかそれは?」
「ええ、俺の仲間にベラベラと喋ってくれたみたいです」
決定的な証拠がある訳では無いから騎士学校の生徒達を捕まえられない状況では有るが、それでも警戒すべき事態ではある。
騎士学校へ強制査察が出来ないのが本当に苦しい、証言だけでは動けないのが法治国家として正しいが正しさだけでは後手に回ってしまう。
「そう、ですか……その次期工匠長の仲間と言うのは?」
「騎士見習いに強姦されかけて逃げて来たのを保護してます、今は都市長から許可を貰って休学中ですね」
説明してる最中、背後からの圧がどんどん強くなってくる。そりゃ親友の血を引く相手がそんな目に遭えばこれだけ怒りもするよな。
「成る程、助けられたのですね」
「火炎放射器と焼夷弾で騎士学校の宿舎ごと焼き滅ぼそうとしたら止められましたけどね」
「やってたら大量殺人犯だからな!?」
本心を語ったら団長さんが恐らく素を出して注意してきた。尚、背後からはカラン様の声で『俺も手伝うか』とか聞こえて来た。皇族からの御墨付なら、これから焼きに行っても許されるかな?
「この国は法が治める国家であって情が治める国家ではないのよ、流石に大罪になるから相手がやらかしてから殴りなさい」
「……まぁ、大義名分が芽生えたなら我々も止められませんからな」
都市長と団長さんからは大義名分が出来てから焼けと言われてる辺り、心情は理解して貰えてるらしい。団長さん、この世界の人らしく結構過激な人なのかも知れない。
「それでは、本日の要件とはこれでしょうか?」
「あ、コレは序です。要件はこの自警団本部にちょっと置かせて欲しい物がある事ですね」
「……そうですか」
中々に重めの情報に対してあくまでもオマケだと伝えると、団長さんの表情筋が引き攣った。
「俺がこの自警団本部に設置したいのは家庭用の魔力炉と極短距離用の魔導式感応モニター、それと防御結界ですね」
「待ちなさいタタラ、最後のは聞いてないわよ?」
俺の提供する安全策欲張りセットに対して待ったを掛ける都市長。そりゃ事前に伝えては無かったが、今回の学生運動では多分必要になると思うから用意したいのだ。
「確かに事前には伝えていませんでしたが、必要になると俺は予想します」
「ふむ、それは何故ですか次期工匠長?」
都市長へと返す俺に団長さんが興味を持ってくれた。さて、此処からはこの人の説得だ。
「これは、あくまでも俺の予想です。先ず、都市内で行われるテロ行為にて発生する被害の対策として、住民の安全地帯の確保が必要になります」
「……成る程、その為の結界ね」
俺の前置きで都市長が納得した。団長さんが都市長を見ると、頷いて続きを話してくれる。
「ようは緊急避難先としてこの自警団本部を指定、更には要塞化する事で避難者の安全を確保したいって事よね?」
「成る程、それなら防御結界も納得ですな。それでは次期工匠長、その防御結界とはどれ程の強度になるのでしょう?」
団長さんの質問に対して思考を巡らせる。俺の家とは違い、魔力炉から発生する魔力だけでこの規模の施設を守る結界の出力。維持する範囲もそうだが、施設全体で消費する魔力も考えればどうしたって多少の弱体化は否めない。
「……恐らく帝国の機動戦力、いわゆる主力魔導戦車の主砲に耐えられるくらいですかね?」
「いや、過剰でしょう!?」
俺の計算で弾き出された防御力がコレである、都市長が思わずと言った具合にツッコミを入れてくるがそれでもそこそこ出力が落ちている事は否めない。なんせ、魔導戦車の主砲の攻撃力など80から100と言った所で俺達の中で一番物理攻撃力の低いエテルでも出せる数値だ。
対して我が家の防御結界はお義母さんによる改善が行われている上、地脈から汲み上げた魔力を活用しているので『エリンジウム』による攻撃迄は耐えられる。
同じ出力にしようとすれば、それこそ結界の起点となる支柱をミスリルで作らなければならなくなる。在庫は大量に有るので俺としては問題無いが、隣にいる都市長が発狂してカラムスさんによるスリッパ乱舞が待っているので自重する。
「過剰、と言いますけどコレでもこの街にダイナミック不法入国した奴の攻撃には耐えられないんですよ?」
それに、今此処で身分を隠してるお二人なら普通に剣の一撃で破れるだろう。ステータスは見てないが、多分『エリンジウム』よりもずっと物理攻撃高いぞ。
ただ、都市長と団長さんは比較対象とは違う所に気を取られたらしい。
「ダイナミック不法入国ってあんた……」
「間違っては無いでしょう?」
俺の言動に引っ掛かったらしい都市長の呟きに答える、因みに正面の団長さんは口元が震えている。多分、笑いそうになってるのを堪えたなコレ。
俺がこの自警団本部の結界を強化したいのは、あのトリモドキを抜かせば敵国にこの『ワールウィンド』に無理矢理侵入できる存在が居ないからだ。
原作ヒロインの一人、カトレア・ルドベキアのルートにおけるラスボスが敵国ディカステスの将軍だったりする。原作知識由来であるから何かしらの変化は有るかも知れないが、それでもあのトリモドキに匹敵するような存在を抱え込んでいる可能性は限りなく低い。今の時点で最高責任者になってる可能性の低い原作ラスボスだが、ステータスはラスボス時点でもそこまで高くは無いからこの出力の結界を突破出来ない。
トリモドキの確保は完了していて、次点の敵最高戦力では突破出来ないのなら此処は限りなく安全な場所になる。尤も、内側から崩されたらその限りでは無いが。
正直に言えば、隣り合っている敵国の国力はかなり低い。カラン様と現皇帝陛下が目溢ししているから敵対出来ているだけで、とっくの昔に滅ぼせるレベルの存在でしか無い。
チュテレール家の……タチアの父親が襲われた際にカラン様が滅ぼさなかったのは多分、現皇帝が他国からの評価を気にしてたのが主。それこそカラン様がブチギレ単騎突撃をかましても、一人で全滅させて帰ってこれるくらいに戦力差が明確に有る。
「最悪の場合、都市長が中枢から拠点を移す必要が出た場合の場所として此処を使えるようにしたいんですよ」
「……我々が都市長様を守れれば、騎士カラムス様が動けるからですね?」
「はい、都市最高戦力のカラムスさんが動けるなら大概の問題は解決出来ますから」
俺の目的を察してくれた団長さんはしばし考える、俺の用意する設備がどれだけ必要なのかを予想し終えたのか頷いてくれた。
「委細象知しました、設備の設置をお願いします」
「はい!」
団長さんの了承を受けて、俺は返事をする。その力が入り過ぎた声に団長さんは苦笑いをして返してくる。
作業を実施する上でゴーレム達をインベントリから呼び出しつつ、団長さんに本部全体の見取り図を見せてもらう。
最も防備が堅くなる箇所を割り出して、其処へ家庭用魔力炉を設置。其処を起点に強化銅による銅線を張り巡らせて光源等も対応するように改造してから接続する。
以前案内して貰った会議室にモニターを設置していいと許可を貰い、壁の一面を丸々モニターとして使わせて貰った。複数のモニターを同期させて大型のモニターにも出来れば、一枚一枚独立させて同時に別の場所と通信が出来るようにもした。
内部が終わったら外の改築だ。長い時間風雨に耐えてきた塀を分解して、結界の起点となる支柱を打ち込む。その後に魔石を混ぜた魔導コンクリートで堀を作り直して完成。
早速魔力炉から支柱へと魔力が送られて結界が展開される。可視化されず、しかし魔力の圧から存在を察せられる……これなら大丈夫そうだな。
「……これは、とんでもないですね」
「でしょう、私じゃもうあの子に勝てないわ」
団長さんの呟きに都市長が返してるのが聞こえた。クラフターとしての技術は勝てていても、精神面で俺は一生貴女に勝てる気はしないですよ都市長。
「ねぇカラン、あの子本当にこの都市に置いてて大丈夫?」
「技術面では皇都に欲しいが、研究所の変態どもに目を付けられて追いかけ回されたら可哀想だろ」
「そうね、そうだわ……エリーゼが居たら連れ去りそうなくらいに惹きつけるでしょうね」
また別の所からは皇族夫婦からそんな声が聞こえてくる。
エリーゼ……エリーゼ・エテュディエはカラン様が国盗りの時に仲間になった魔法使いだ。見た目は幼く見えるがカラン様よりも歳上で、魔法の探求に全てを捧げる魔法狂いだ。
建国後に国立魔法研究所の初代所長を務めた上、魔法学校の校長になり教鞭を執った事もある。なんなら公式でカラン様との子供を一人産んでいるなんて設定も公開された。
この人、今は魔法の探求の為に国から離れて放浪しているから今は国に居ない筈。でも偶に帰って来てはカラン様を搾っていくなんて設定も有るんだよな……見た目はロリなのにそっちは剛の者でカラン様が何度も負けてるシーンがあったな。
しかし、エリーゼ様が居たとして俺が興味を引くだろうか?
多分『卵』に興味を持っても作り方教えたら飽きられると思うんだが。
「それで次期工匠長、施工や設備の費用は?」
その言葉に固まる、俺の試算を出すと絶対都市長が怒るのが分かる。都市長に視線を向けると、意図を察して盛大に溜息を吐かれてしまった。本当に申し訳無いです。
「普通にタタラ一人で資機材を用意して全ての作業を終わらせて居るから、人件費は最低限でいいわよ。ただ、強化銅と結界の支柱更に家庭用魔力炉の代金諸々を計算すると……」
都市長は一瞬言葉を留めて、諦めたように吐き出す。
「80億って所かしら」
「はちじゅっ!?」
俺の試算だと70億だったから結構近いなと思いつつ、金額を聞いて団長さんが固まる。その顔は赤くなったり青くなったりと忙しく、そりゃとんでもないよなと思いつつ俺は解決策を即座に出す。
「この設備投資はコレからもこの都市を守ってもらう為の先行投資です、故に寄付という形にします」
此処に来るまで同じ言葉を何度も言って来たので、都市長や皇族夫婦は仕方ないと言った表情を浮かべている。
対して初めて俺の言葉を聞く団長さんは驚きの表情を浮かべる。
「それは……!?」
「この設備の材料、全部俺が探索で集めた物です。だから元手に金は掛かって無いので懐は痛みません」
恐らく止めようとした団長さんの声を遮りつつ、事情を伝える。
実際、強化銅とかじゃなくてミスリルで魔力導線を作ってもよかったのだがそれは流石に都市長からもぶん殴られそうなので控えた。それでも俺がやった事が普通なら貴族が借金まみれになるくらいには高額な設備を用意している事も分かる。
しかし、これは譲れないのだ。この場所に、正義の味方の基地に設置する物は良い物であって欲しい。
俺やエテル達が普段呑気に生きてられるのはこの人達のおかげだ、彼等の献身に報いるならコレくらいは当然だと俺は思う。
「団長さん、俺は前に言いましたよ。『正義の味方の頼れる相棒を作らせてくれ』って、それはトリモチランチャーみたいな捕具だけじゃない……こう言ったサポート用品も同様ですよ」
団長さんは俺の声を聞いて真剣な眼差しになっていく、子供の代償行為に振り回されて申し訳ないがそれでも俺はコレだけは譲りたくない。
「……我々は自警団です」
「ええ、知ってます」
「正義の味方ではなく、法に則り平等かつ公平に動く法の番人です」
「当然ですね」
「ですが!」
団長さんの言葉に納得の言葉を返していると、団長さんは力強く一声を放つ。
「ですが、我々が人々の安寧を守れていると言うのなら……それはタタラさん、貴方のおかげも有るのです」
静かな、それでも強い熱が込められた言葉を受けて心臓が跳ねる。
「貴方が我々を正義の味方にしてくれた、貴方が作った道具で我々は悪と戦える力を得た……貴方こそ我々にとっての正義の味方だ」
「そんな……おれは」
「ご両親のお話も覚えています、それでも尚その心が我々を救ってくれたのです」
代償行為からこの人達を助けたいなんて子供の我儘に、団長さんは真摯に向き合ってくれている。
「都市祭における問題は、我々も全力で事に当たりましょう」
「それは……」
「そちらの皇国軍の方々が居ると言うなら、都市祭時にも皇国軍から人が送られてくるのでしょう。それくらい脳筋の私にも分かります」
確かに団長さんは前世で沢山観ていたアクション俳優張りに筋肉が凄いのだが、自分で脳筋とまで言うか……いやまぁ一人で一番重い連射式のトリモチランチャーを2丁持ちして撃ってたから納得だけども。
「ですが我々にもこの都市を守ってきた自負が有ります、皇国軍の兵と連携してテロの被害を抑えてみせましょう」
「お願いします」
団長さんの言葉に真剣に返す、俺達だけでは足りなくてもこの人達が居てくれるなら大丈夫だとそう信じられる。
最後に互いに敬礼を返して、本部を後にする。少しは、前よりマシな敬礼を出来てたらいいな。
そして、最後に訪れたのは都市立魔法研究所だ。何日か前に設備を改修したばかりだと言うのに、こんなに早く手を加える事になるとは思わなかったな。
早速所長室へと向かい、中に案内されて室内へ。以前に見た時と同じ柔和な表情をしたパパエンティアと、どんな物が見れるのか楽しそうなママエンティア。そして、母親のやらかしに警戒していたが俺を見て嬉しげに口元を緩めたミーアの三人が居た。
パパエンティアはそんなミーアを見て微妙に表情を変えて、俺の後ろに居るであろう皇族夫婦を見てから表情が凍り付いた。
「突然の来訪、申し訳ありません」
「あ、ああいえ……何でも緊急で設置したい魔導具が有るとかで」
チラチラと皇族夫婦に視線を向けながら、パパエンティアは答える。何だろう、もしかして皇族だって気付いてる?
「それで、今日はどんな魔導具を見せてくれるのかしら?」
そんなパパエンティアを知ってか知らずか、ママエンティアは俺に魔導具の事を聞いてくる。一旦はパパエンティアを無視して、モニターを取り出す。
「本日は此方、念話式魔導モニターを設置させて頂きたくて」
「コレは?」
「中枢等と直接的に遣り取りが出来る魔導具で──」
俺の説明を興味深く聞くママエンティアとミーア、一番真面目そうなパパエンティアは皇族二人しか見てない。どうしたんだろう?
「あの、パパエンティア所長?」
「……その、タタラくん聞いていいかな?」
思わず気になって声を掛ければ、油の切れたブリキ人形みたいなぎこちなさでパパエンティアは俺に顔を向けてくる。
なお、ママエンティアとミーアは俺の言葉に引っ掛かったのか俺をじっと見てくる。
「そちらの二人って?」
「えっと……」
「今回の事件についての協力者だ」
一瞬だけ答えあぐねた俺の代わりに、カラン様がそう声を上げる。その声にパパエンティアの表情は完全に引き攣るが、都市長の反応の方が圧倒的に早かった。
「それは!?」
「なんだ、伝えて無かったか……それでもまぁ此奴が居れば多少は楽になるだろ」
都市長の言葉に呆れた反応をするカラン様に、なんでこんなと思いつつ俺は一つの考えが頭を過ぎりパパエンティアの顔を見る。
輪郭は似ているが、顔を構成するパーツは似ていない。しかし、この顔の造形に見覚えが有る。
かつてカラン様の建国を手伝った仲間の一人、エリーゼ・エテュディエの顔とよく似ている。つまり──
「
そう、俺は過去作主人公二人の子供……更に言えばその孫とも関係が出来てしまっていたのだ。
うん、もっと早く知りたかったなそれ。
「カラン、あの子本当に大丈夫?」
「大丈夫って……まぁ、大丈夫だろ」
「貴族位とか与えたら暴走しそうよ?」
「責任感からやらかす可能性は有るが……それでも、な」
「そう……無茶させたら腹上死するまで絞るから」
「勘弁して下さい」
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない