※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント進行中。


駄目だ、エンジンが焼き付いて直らない……連載開始からもうすぐ2年なのにorz
もうあと少しだけ……都市祭まで後少し。


秘する想いは姉心

 俺が前世で遊んでいたこの世界の元ネタとなったと思わしきゲーム『深く深い闇の先で』を販売した会社には一つ、掲げているテーマと言うか方向性ががある。

 それは『大艦巨砲主義』であり、ゲームのやり込み要素やシナリオ等が凄まじいボリュームを持つ事の由来になっている。この辺はヒロインを筆頭に登場人物の造形にも多大な影響を与えており、基本的に巨乳や巨尻になる傾向が強い。

 とは言え、この傾向が出たのは実のところ会社が結構成熟して来たあとだったりする。初期の頃、それこそ神殺しが主役を務めてる物やジジエンティア(カラン様)が主役を務めている物は目を見張る程の巨乳や巨尻と言えるキャラは居ない。

 ジジエンティア(カラン様)の国取りの話で一番大きいのは孤児院に金を入れる為に身体を売りつつ傭兵をやってるキャラで、この人は続編にもキッチリ出ていたな。続編では未来視持ちの巫女がおそらく一番大きかったと思う。

 メインヒロインのフローラ様とババエンティア(セラス様)は何方かと言えばバランス型で、この二人は全体で見ても豊満では有るけど大きいと明確に言える物では無かった。

 

 何故こんな長々と前世のゲームについて考えているのか、そりゃ原作メインヒロインのババエンティア(セラス様)が目の前で全裸を晒しているからだ。

 5人の子供が居るとは本人の弁だが、全く体型は崩れていないどころか戦士らしく引き締まっている。エテルとババエンティア(セラス様)では同じ夢魔だと言うのに身体付きの方向性が全く違う、変な例えになるがエテルは大陸産ソシャゲヒロインのグラマーさでババエンティア(セラス様)は国産JRPGヒロインのグラマーさと言えばいいだろうか?

 こんな比較を始めるくらいに思考が宇宙の彼方へ飛び出している最中、フリーズした俺を心配したババエンティア(セラス様)が俺の顔の前で手を振ってくる。

 

「タタラちゃん、どうしたの?」

「はっ!?」

 

 思考が復旧すると同時にインベントリから適当な布を引っ張り出してババエンティア(セラス様)の身体に巻く、この事実を知られたらエテルには絞られるだろうしジジエンティア(カラン様)には殺される。想定外の死を迎える事態に焦りが湧く。

 

「なんで脱ぐんですか!?」

「え、そうしないと採寸出来ないでしょ?」

「せめて下着は着て下さい!?」

「どうしたの、見苦しい身体はしてない自負は有るんだけど……」

「見苦しいどころか美事ですけどそうじゃない!!」

 

 世話役でも無いのに前皇后陛下の裸体を見ましたとか、普通に処刑か極刑でもおかしくないと思うんだが。装備作って献上したからって赦される気がし無い。

 

「もう、こんなお婆ちゃんの裸で興奮する歳じゃないでしょ?」

「見た目が20代前後で止まってる自覚を持って下さいね!?」

 

 駄目だ、完全に俺を孫判定してるからなのか羞恥心が欠片ほども働いてない。下手したら皇族として世話係に見られるのに慣れてしまっていて他者に見られても何も感じないのかも知れない。

 それでも、赤の他人でしかない俺に裸体を晒すのはどうかと思うが。

 

「もう、クラフターとして女性の裸体を見て慌てるのは駄目よ?」

「お義母さ……当主代行の婦人にも言われましたけど、それを前提としても結婚してる異性の裸体を見るのは駄目でしょう」

「むう、おかあさん呼びしてる……」

 

 そこはツッコむところでも羨むところでもないんじゃなかろうか?

 取り敢えず、採寸用の薄衣をインベントリから取り出して着てもらう。半端に隠すと全裸よりもエロく見えるが、採寸時に直接触れる可能性を少しでも減らさないと俺の精神が焼き付きかねない。

 つか、不用意な接触の結果ジジエンティア(カラン様)を怒らせでもしたら確定で殺されるだろう。昨日の語りでアレだけ深い愛を見せられたのだから、ほぼ確定でブチギレるのが分かる。

 一度落ち着いてから採寸を開始、心の中では般若心経を延々と唱えながら数値を記憶していく。

 感覚としては腰の細さは四葩で、全体的な肉付きはタチアと言った所だろうか。出産を経験している故か胸と尻の肉は一段階程上だが、腰の細さが経産婦のそれとは思えない。コレが夢魔故か、それとも個人の資質かは分からないが、何人も妾が居るジジエンティア(カラン様)がハッスルするのもちょっと納得した。

 一通り採寸も終わり、身体を離してから魔導式ワードプロセッサを取り出して早速デザインを作り上げる。感覚としては彼女の旅装を参考にしつつ、前世でよく見た女性軽戦士的な要素を取り入れる。いっそ本人のスタイルに合わせて全く防御力が感じられないレベルの装備にしようと考えた結果がコレである、過去作で着てたビキニアーマーよりはマシに見えるだろう。多分。

 

「……コレ、本当に防具?」

「素材は全てミスリルベースなので、一見普通の服に見えますけど相応に防御力は高いですよ」

 

 胸元はミスリル銀糸で織ったチューブトップの服に、イヴィルミスリル製のジャケット。ジャケットの肩には同じく鍛造ミスリル製のプレートを仕込み、服の上に心臓を守るプレート。

 腕部はイヴィルミスリルでアームウォーマーを織り、その上にミスリル製の籠手。

 下半身はミスリル銀糸で織ったホットパンツにイヴィルミスリルで編んだストッキング、膝にはニーパッドで更には脚甲を鍛造ミスリルで用意。

 後は希望を聞いて各部位に王玉で属性吸収機能を持たせれば完成だろう。序に顔の半分を隠す物を用意すれば完璧だな。

 

「一先ず、防具はこんな感じにしようかと。デザインで変えてほしい所や装備に疑問が有れば質問して下さい」

「見た目は今の流行りを知らないから文句は無いけど、防御力はどの程度になりそう?」

「実際に作らないと何とも言えませんけど……一箇所物理防御25の魔法防御30ってところですかね?」

「すっごい硬い……」

 

 魔法防御はミスリルの特性として高くなるが、一番の問題は四大属性を吸収するから殆ど死にステータスになることか。まぁ、純粋魔力攻撃や闇と光の属性には正常に働くから無駄にはならないよな?

 

「後は王玉を使う箇所を選んで欲しいですね」

「何か変わるの?」

「物理攻撃に補正が付いたり、防御に補正付いたりもしますけどそれ以上に色が変わるので」

「性能の方がついで扱い……」

 

 女性は性能より見た目に重きを置くと思ったのだが違うのだろうか?

 今分かっている分の属性の影響を説明して、使用する王玉を選んで貰ったら予想外の選択をされる。

 

「身体に土、腕に風と火、足に水……初めての配分ですね」

「実験も兼ねて、って事でコレでお願いね!」

「いや、いいんですか皇族がいちクラフターの実験に参加するって」

 

 ジジエンティア(カラン様)に魔導鎧の稼働実験を依頼している身として言う事では無いかも知れないが、それでも心配になる。

 そんな俺の心情を知ってか知らずかババエンティア(セラス様)は笑って答える。

 

「カランの鎧も試作でしょ、それなら私もやるわ!」

「……夫婦お揃いで実験って、仲がいいのは分かるんですが本当にいいんですかね」

 

 苦笑いをしつつ、早速作製に入る。真っ先に作るのはチューブトップとストッキング、そしてホットパンツだ。

 ミスリル銀糸を取り出して早速編もうとしたが、ピッタリに作ってもミスリル銀糸自体には伸縮性が無いことを思い出す。仕方が無いのでイヴィルミスリルを用意して織る、コレなら魔力を流す事で身体にフィットするだろう。更にイヴィルミスリルを用意してストッキングを編む、その後にホットパンツを用意。

 このインナーも兼ねた防具を早速渡し、さっさと着てもらう。状況が危ういので一分一秒でも早く抜け出したい。

 ミスリル銀糸と言う金属繊維同士が擦れ合っているのに布同士の衣擦れにしか聞こえない音を背後に聞きつつ、着用が終わるのを待つ。

 

「タタラちゃん、着終わったわよ」

 

 その声に振り返れば、ファンタジー世界とは思えない服装のババエンティア(セラス様)が居た。自分で用意してなんだが、世界観に真っ向から喧嘩売ってる気がするな。

 ホットパンツにデニールの濃いタイツで脚線美がよく映える上、チューブトップにした為に腰のラインが眩しい。改めて思うが、自国の元とはいえ皇妃に着せる服じゃねぇなコレ。10人中8人は最低でも似合ってると評価するだろうと予想するくらいに似合ってはいるのだが、皇族に着せる服じゃねぇな。

 大事な事なので内心で2回唱えつつ、『鑑定』で見て状態を確認する。サイズとしては問題無いと思うが、後は着用者の快不快の世界だ。

 

「サイズとしてはピッタリだと思いますけど、着心地はどうですか?」

「うーん……ちょっとお尻がキツいかしら?」

 

 何となくレベルの事らしく、少し曖昧な感覚を伝えて来るババエンティア(セラス様)の言葉を確認し『クラフト』スキルで調整する姿勢に入る。

 

「キツいのはタイツですか、それともズボンですか?」

「……何方かと言うとズボン、かしら。タイツは引き締めてるけど不快感は無いわ」

 

 言葉からホットパンツを調整、一度採寸した数値から増やした分に更に3cm程一度大きくしてから少しずつ小さくして調整。丁度良くなる大きさをババエンティア(セラス様)に伝えて貰いつつ、更に関節の可動域に合わせて細かく調整していく。

 

「凄い、今まで使って来たどの服より動きやすい。これ以上はカランとのえっち中に襲われて裸で剣を振るった時くらいかしら?」

「そんな経験有るんですね……」

 

 ゲームになってないイベントだろうか、俺は本気でこの逸話を知らない。ツッコミを入れるのも野暮だと思い、深くは聞かず次に作るのは脚甲だ。

 今迄の経験から一度脚甲を造り、その後に王玉で属性の付与を行う。鍛冶場に移りミスリルを一通り鍛造し、それを分割していく。

 脚甲に使うのは両脚とニーパッドを合わせても500g程だ、一般的に見れば重くは有るが防具としては凄まじく軽い。鉄ならこの時点で3kgから4kgを使う上に防御力では劣っている。質量攻撃としては鉄の方が上になるのは流石にアレだが。

 

「キツかったり痛かったりしたら直ぐに言って下さいね、この後ダンジョンに挑んで不具合出ても俺が側に居ないのでその場での調整は出来ませんので」

「タタラちゃんが居るとその場で直せるのね……」

「何なら実験段階の魔導鎧の最適化も出来ますよ」

「……多分、それを『タタラってる』って言うのね」

 

 クラフターが居るから、ではなく俺だからって判定はどうなんだろあな?

 いや、一緒にダンジョンへ潜るクラフター自体が今じゃ希少種だろうから比較対象が居ないだけだろう。原作中じゃ主人公のスミスも設備が無いから出来ては無かったけど、ベテランクラフターの中にはそんな事が出来ると噂が有ったモブキャラも居たしな。

 脚甲の調整が終わる、製作から調整の終わりまで10分と掛かっていない。『バイト長』の靴を作製した経験故か、足回りの調整が早くなってる気がする。

 脚甲には水の属性付与とのリクエストなので、水の王玉を使用して属性を付与。深藍の装甲に仕上がる結果になった。

 

「私、普段青系統の装備を使わないのだけど……これ良い色ね」

「満足して貰えたのなら嬉しいですね、属性関係なので色を調整出来ないので」

「タタラちゃんでも?」

「俺はそこまで理不尽なナマモノじゃないんですけど」

 

 大概の人に言われるようになってしまったが、皆俺の事を何だと思っているんだろうか?

 まだかろうじて人族だぞ俺は。

 

「タタラちゃん、ちょっと肌寒いからジャケットを先に作って欲しいんだけどいいかしら?」

「大丈夫ですよ」

 

 この『ワールウィンド』は通年の最高気温が25℃程で、更に言えば時期によっては最低気温がマイナスを割る。都市祭の有る今の時期は前世で言うところの秋に相当して、今日の最高気温も20℃に届くか否かと言った具合だ。皇都は行ったことが無いので分からないが、ババエンティア(セラス様)の言葉から考えてもっと平均気温が高いのかも知れない。

 早速ジャケットを編む……前に、心臓を守る為の胸甲を作製する。バカの鎧を作る際、最初に作ろうとしていたタイプで左胸だけ装甲で覆うものだ。

 正直、ババエンティア(セラス様)の身体と言うか胸に触らなければならない為にストレスが凄まじい。しかし、仕事と割り切らなければならない。ジジエンティア(カラン様)に後で叱られたらどうしようか、下手すれば殺されたとしても文句が言えないのではとすら思う。

 胃に穴が空いてしまいそうなストレスの中でプレートの整形とベルトの調整を行う。心臓を守ると言う狭い範囲では有るのだが、普通に大きいモノを支える必要がある為に相対的に大きくなる。

 チューブトップだけでブラジャーの役割をある程度できるようにしつつ、プレートを固定するベルトで更に締め付ける。ただ、強く締め付け過ぎて痛みが発生すれば、変なタイミングで痛みを感じて集中が乱れる可能性もある。いっそ反重力術式で胸そのものを軽くしてしまった方がいいかも知れない。

 

「ねぇ、タタラちゃん」

「はい?」

「今、変な思考を受信した気がするんだけど何を考えたの?」

「胸甲に重力を打ち消す術式を刻んで胸を軽くしようかなって」

「タタラちゃん、変な発想するのやめましょう?」

 

 割りかし本気の目でそう言われた、解せぬ。胸甲に反重力術式を刻むのをやめにして、表面にはカランコエの花のレリーフをあしらう。そこに土属性の王玉を使用すれば、四葩の『紫陽花』と同じ様にレリーフだけに色付く。黄色と言うか金色のカランコエの花のレリーフになり、かなり良い出来に見える。

 続いてはイヴィルミスリルを作製して、布を織る。織り方を変えた三枚の布を重ねて厚い布地を作製し、分割して半袖のジャケットを繕う。

 関節部を自由にする為にメッシュを折り畳む様に繋ぎにしたり、肩部には肩章を付けて軍服っぽさを出したりする。パット代わりに鍛造ミスリル製のプレートを入れ、更に袖や裾に形を保持出来るように鍛造ミスリルに土の王玉で属性を付与して仕込む。

 出来上がるのは黒い生地に金色に見える装飾の施されたジャケットで、何処か雛菊さんのお洒落着にも似た雰囲気を感じる。

 

「胸甲を着けた後にこのジャケットを着てください」

「分かったわ!」

 

 俺の指示に対して素直に従うババエンティア(セラス様)に若干の安堵を得る、着させてくれとか言われなくて良かった。

 着用後に軽く身体を動かして貰いつつ、不満を解消していく。可動域には特に気を付け、技を鈍らせる要素は可能な限り排除したつもりだ。

 最後に腕甲を作製する。最初に下地になるアームウォーマーをイヴィルミスリルで編む、腕甲は指先を開放したタイプで作製する。

 長いオープンフィンガーグローブにしても良かったかも知れないが、よりフィット感を優先してアームウォーマーだ。

 ストッキングと同じ編み方をして、腕甲に肌や肉を挟まれず更には防御力の確保を両立する。その上に鍛造ミスリル製の籠手を着用して右手に風、左手に火の王玉を其々使って属性を付与。

 

「それでは、先にアームウォーマーを着けて下さい」

「タタラちゃん、これアームウォーマーじゃなくてアームストッキングよ?」

「……へ?」

 

 どうやらファッション関係で勘違いしていたらしい、鳩が豆鉄砲を食らったかの様な表情をしているだろう俺を見てババエンティア(セラス様)は優しく微笑んでいる。

 

「……アームウォーマーだと思ってた」

「似てるものね、仕方ないわ」

 

 勘違いで顔が熱くなり俯く俺の頭をババエンティア(セラス様)が優しい手付きで撫でてくる。夫婦だからだろうか、ジジエンティア(カラン様)と手付きが似ている気がする。

 気を取り直してアームストッキングを着用して貰い、籠手を装着してもらう。籠手は指先まで覆うタイプでは無いので指を狙われる可能性は有るが、ミスリルは肌が見えていても魔法金属特有の魔力の膜が展開されるので見た目以上に防御範囲が広い。指先までキッチリ覆えば金属部に魔力の膜がプラスされて防御機能が上がるのだが、基本的にミスリルの全身甲冑なんて用意出来る量なんて早々集まる物では無いのでこうした部分鎧に落ち着く。

 尤も、鍛造ミスリルやらミスリル銀糸やら強化ミスリルで布を織るなんて出来る方が普通ではないのでこの装備は完全に見た目詐欺だが。

 最後に鍛造ミスリルと魔石を加工した色硝子っぽい素材を組み合わせたバイザーを作り、ババエンティア(セラス様)に渡す。顔を半分隠すバイザーだが、デザインは某宇宙戦艦航海譚(機動戦艦ナデシコ)の劇場版に出て来る復讐の黒百合(ブラックサレナ)の乗り手が使用した視覚補正バイザーをイメージしている。

 全てを装着したババエンティア(セラス様)は、バイザー越しの光景に驚いた様子だ。

 

「これ、視界内の物の説明が見える!?」

「バイザーに『鑑定』スキルを付与して、アイテムや敵のステータスを見れるようにしました」

 

 流石に『罠解除』や『解錠』は手先の影響なので、そちらは付与出来ていない。バイザーとグローブをセットにした装備なら多分、ランクⅠ相当では失敗しない様になる物を作れはするだろうが悪用が怖くて作る気は無い。

 ただ、ババエンティア(セラス様)は自分が持たない『鑑定』の効果を気に入ったらしく楽しそうな様子だ。

 

「ありがとうタタラちゃん、顔を隠すだけじゃなくて楽しい機能まで付けてくれて!」

「気に入って貰えて光栄です」

 

 燥いで礼を言ってくるババエンティア(セラス様)の姿に俺も嬉しくなる。自分が作った物に対してこうして喜ばれるのはやっぱりいいな。

 続いては武器の作成である。カラムスさんに作った『ルーエ』を参考にして、殲滅形態の無い大剣型の連接剣を作成する。カラムスさんが創世属性なのに対してババエンティア(セラス様)は終焉属性という違いは有るが、使う神核片が違うだけでやる事は一緒である。『ルーエ』作成時の記録を引っ張り出してから、一部の術式を無くして作るだけなので手間もそこまで掛からない。

 大剣では有るが強化ミスリル製なので重量は無く、長さと幅こそはババエンティア(セラス様)の注文通りに作れるが重さは想定より遥かに軽い為に少々扱い難そうにしている。

 

「うん、ちょっと使い難いかしら?」

「魔法触媒としての性能に寄ってしまったかも知れないですね、魔鉄で大剣を作れば連接剣の機能は無いですけどもっと理想の重さに出来るかも知れません」

「流石にそこまではしちゃうと剣技でバレちゃうかもだから、この剣でいいわ。そもそも、私の剣技に合わないだけで最上級の業物なんだからこれ」

 

 話を聞く限りジジエンティア(カラン様)と一緒に神殺しと関わった頃に拾った準最強武器がババエンティア(セラス様)の武器らしいので、性能だけで見れば並ぶか上回る程度には性能を持たせられたと思うがやはり使い慣れている武器には感覚的に劣るのだろう。

 

 

 そうして装備一式が完成したババエンティア(セラス様)をエテル達の前に連れて行く、装備に合わせてその目立つ赤髪を纏める事で印象が大分変わった為に驚かれた。

 エテル達普段のメンバーに追加人員を足したメンバーはダンジョンへと向かって行き、当主代行とダリアは俺が装備を作っている間にアリーナへと向かったらしい。 

 俺は俺でゴーレムの量産に入るが、流石に此処2日でミスリルを大量に消費した為に思ったよりも数が揃えられそうにない。作れて200が精々だろう、コレなら俺も一緒に潜って採掘すればよかったかも知れないな。

 そうして増えた2体のサブリーダーと198のゴーレム達をリーダーに同期させて、一先ず作業を終了する。

 作業に集中し過ぎて凝ってきた身体を解しながらリビングに着く、探索を控えた一華と三葉さんが揃って昼食の準備をしている。手伝おうと思ったが、横入りして邪魔になってしまった場合を考えて自重する。

 庭先に移動して、久し振りに『バイト長』の演舞を確認する。たった数日とは言えずっとお義母さん任せだったのだ、劇的とは言えないかも知れないが動きは最初の頃よりずっと良くなっている。時折転びもするが、受け身がキチンと取れている。泣き出しそうな表情にはなるが、歯を食いしばって立ち上がっている。

 

《……あの子、いい動きをするようになってますね》

 

 様子を眺めていた俺に声を掛けて来たのは『料理長』ではなく、いつの間にか降りて来ていたらしい『清掃長』だった。様子見だろうか?

 

「まだ仕事の方は手付かずですけど、転ぶ回数は間違いなく減っているのでそっちの改善もきっと直ぐですよ」

《仕事を教える前に身体の使い方を教えるのは正直な事を言うなら期待していませんでしたが、翻って最適解のようで驚きですよ》

 

 俺達が気付けない距離から見守って無ければこんな発言出来そうに無いな、何だかんだ心配で見守ってたかな。

 

《配膳で皿を割る数が少なくなった時点で依頼達成と見ても良かったのですが、まだまだ先を見たいので未達成という事で今後も期待します》

「発想が愉快犯のそれなんだが」

 

 本当に何処から監視してるんだろうか、少なくなった事は知ってるのは意外と言うべきか?

 

「つか、多分まだ『バイト長』自身が満足しなくて依頼未達成判定するだろうよ。何だかんだで負けず嫌いで向上心持ってるしな」

《それはタラシ様が引き出したからですよ》

「タタラ、な。引き出せたかも知れないが、初めから持って無ければ引き出せねぇよ」

 

 サラッと言い間違いをしてくるので訂正しつつ、『バイト長』を褒めようとしない『清掃長』に苦言を呈する。俺を褒めようとする『清掃長』は何なんだろうか、素直に妹を褒めればいいのに。

 視線の先には何度も転び、その度に起き上がっては身体の感覚を修整していく『バイト長』。地味に思うが、転んでも足を捻ったりなんかの関節を痛めるような怪我をしてないんだよな。地味に運動神経が良い……基本的に転ぶけど。

 

「俺が居ないと変われなかったかも知れないが、元々『バイト長』は変わりたかったんじゃないか?」

《何を根拠に?》

「今の姿を見れば一目瞭然だと思うけどな」

 

 転んで立ち上がって、それを涙を流そうが歯を食いしばって繰り返し続ける。原動力になる何かが無ければあんな事は繰り返せない、もしもそれが有るのだとしたら積み重ねて来た何かだろう。

 

「多分、『バイト長』はずっと悔しかったんだと思う」

《悔しかった》

「だって、姉達には出来る事が有るのに自分は尽くを苦手にしてたから」

 

 戦闘面ではギャンブル要素こそ強いが、持っている技やスキルが強力である為に瞬間火力なら『天使長』すら越える事も有った。

 それでも本来の仕事であるメイドの仕事が苦手である為、姉妹内でも軽んじられている節が見えていた。そこに感じた劣等感を覆せる可能性を見て、『バイト長』は奮起しているのだと思う。

 最近は懐いてくる姿から妹みたいに見えて来たし、俺が生きている間に『バイト長』の得意分野を一緒に見付けてやりたくなった。

 お義母さんにも気に入られてるし、辛い事が有っても笑顔を浮かべられる精神性は代え難いものだ。

 あと、頭の撫で心地というか手触りがよくて中々に中毒性が高いんだよな。『料理長』の髪も手触りいいし、『看板娘』の特性だったりするんだろうか?

 

《何故か今、タラシ様があの二人を誑す思考をしているように感じたのですが》

「気の所為です、それとタタラな」

 

 地味に思考を読まれてるな、そんなに分かり易いか俺?

 つか古のネット小説で流行った撫でて惚れられたり、笑いかけて惚れられたりの属性は俺には無いので誑す事には繋がらんと思うんだが。

 なんかこの『清掃長』の真意が読み難いんだよな、誂ってきている割には感情の揺らぎが薄く感じる。言葉を発さなかったゲーム時代より遥かに意思疎通は簡単なのに、俺に『バイト長』を預けるに至った意味がいまだに掴めない。

 

「なぁ、『清掃長』」

《はい、なんですか?》

「俺に『バイト長』を預けた目的……いや、理由は何なんだ?」

 

 ずっと疑問だった。『バイト長』を矯正出来る可能性が有るからと俺に預けると言っていたが、その後様子を見に来るのは最初だけだった。もしかしたら『料理長』に様子を聞いていたのかも知れないが、何となく『清掃長』は自分の目で見ないと信用しない印象が俺のなかには有る。

 疑問をぶつけた俺に対して『清掃長』は静かに微笑んで答える。

 

《禁則事項です》

「……そうですか」

 

 はぐらかされたとも思えるが、実のところ『看板娘』の誰もが語る事を許されてないのだろう。多分、誰に聞いても答えてもらえない。まぁ、『バイト長』だけは理由を知らないから答えられないんだろうけど。

 世界法則(システム)が禁則に指定するような事態、それが俺の側に『バイト長』を置く理由なのだと知れただけマシと思うとしよう。

 

《タタラさん》

「はい」

《妹の仕事はまだまだだと思います》

「……まだ仕事らしい仕事を教えられて無いですからね」

 

 最初は転ぶ事を少なくする目的でお義母さんに演舞を教えて貰う事にしたのだから、この辺は叱られても受け入れるつもりだ。この場で『清掃長』に突かれても粛々と受け入れる。

 

《ですが、明確にお皿を割る頻度を減らせていますからそこは評価しましょう》

「……大分『バイト長』の評価に対するハードル低くないですか?」

《失礼な、私は姉妹で一番厳しいのですよ?》

「当社比で厳しいだけで、ダダ甘な気がするんたけど」

 

 何となく、姉妹で一番厳しく嫌われる役割を担おうとして気質から甘さが全く抜けてない気がする。ある意味で唯一の妹だからと『料理長』の方が『バイト長』に厳しいと俺は感じる。

 

《この先、普通に給仕の仕事をしてもお皿を割る頻度が1日に5枚以下。それを目指して下さい》

「中々に遠いですね」

 

 今でこそ家のミスリル製食器を割る事こそ無いが、これが陶器製ならば間違いなく大惨事だっただろう。おそらく今でも1日に割る枚数は8枚は下らないと俺は見ている。

 まぁ、明確に5枚以下と目標が立てられたのならそこを目指せばいいだけだから気が楽になる。尤も、それだけだと何だしもう少し厳しくいこう。

 

「遠くてもそんなに不可能に思える数じゃ無いですから、一週間で5枚以下を目指しますよ」

《タタラさん、それは》

「夢も目標も大きくしなければ辿り着くのは不可能、これくらいを目指せば自然と1日に5枚以下のなります」

 

 暗に『清掃長』の目標は必ず果たすと伝えれば、その顔が微かな笑みの形を取る。

 

《全く、タラシさんは本当に誑しですね》

「タタラだ。それに誑してるつもりは無い」

《天然誑し》

「このっ」

 

 楽しそうな『清掃長』を軽く睨めば、楽しそうに俺から軽く距離を取る。

 

《楽しみにしていますね、タタラさん。あの子と一緒に掃除が出来る日が来るのを》

「給仕の仕事が果たされたからって、掃除が出来るのは別問題だろ」

《いいえ、給仕の仕事を出来るようになれば自然とあの子は何でも出来ますよ。そういう子ですから》

 

 それだけの才能を持っていると確信しているのだろうか、それではまるで『バイト長』こそが世界法則(システム)による『天使長』の模倣の完成形みたいに聞こえるぞ?

 

《あの子と私が並んで貴方と迷宮の最深部へ向かえる日が来るのを楽しみにしていますね》

 

 どこか悪戯っぽく笑ってそう言った後、『清掃長』は手を差し伸べてくる。唐突な行動に戸惑い、思わず握手してみれば俺のインベントリに大量の素材が送られてきた。

 突然の事で目を白黒させる中、そんな俺の姿に笑みを深めてから『清掃長』は帰って行った。

 もしも『バイト長』を育てる事が俺に課せられた『看板娘』のイベントなのだとしたら、このイベントの結末はどんな物になるというんだろう?

 

 

 工房に入り『清掃長』から渡された素材を確認していく。今回渡された素材は主にモンスターから得られる物で、この『ワールウィンド』に有るダンジョンでは出現しない敵が主だった。

 正直、卒業後でもこの都市から出る事も殆ど出来ないであろう俺にはとても助かる。キメラの毛皮や翼膜にスライム種の核なんて物から始まり、ラミア種の蛇眼等の希少製の高い素材なんかも含まれていた。本当に多種多様な素材の中で、俺は1つの素材に注目した。

 雪の多い地方で出現する白い狼『ホワイトファング』というモンスターの毛皮、雪に溶け込むような純白のソレ。モンスターらしく強靭で、下手な鉄の刃を通さない程に頑丈だ。雪原地方にて生息する故に保温性も高く、その地方では服を為に危険を冒してでも確保したい素材だと言う。まぁ、雪原地方にて生まれるモンスター故に炎に弱いという弱点を突けばかなりの面で楽になるのだが。

 そんな毛皮が少なくとも俺のパーティ全員分の服を作っても余るくらいに有る、何れは冬に入った『ワールウィンド』で着る防寒着を作るのもいいだろう。しかし、今回は違う。

 毛皮を丁寧に鞣し、ミスリル銀糸で繋ぐ。裏地は水の王玉で昇華したミスリル銀糸で織った布を張り、肌触りが良くなるようにする。

 以前お義母さんに頼まれた『バイト長』の道着、そして一緒に鍛練するお義母さん用の道着を仕立てる。俺の物理攻撃で引いても解れる事が無いのを確認して出来に満足する。

 これなら二人の鍛練で活用出来るだろう、お義母さん曰く『バイト長』は形から入った方が成長が早いらしいし。

 早速二人の下に移動して渡そうと思ったが、鍛練の真っ最中である為に邪魔出来なかった。『バイト長』の動きは一つ一つ止めて、動きを自分の目で確かめているようで、そこで気付かない所をお義母さんに指摘されて修正するのを繰り返している。正直、俺では動きの何が悪いのか分からないレベルなのだがお義母さんにはまだまだ直すべき箇所が有るらしい。どんだけ厳しいのか。

 結局、三葉さんが昼飯が出来たと呼びに来るまで二人はぶっ通しで鍛練を続けていた。コレでお義母さんが軽く汗をかいているだけなのは本当に化物じみていると思う。『バイト長』なんて汗だくだぞ。

 

「タタラさん、鍛練の途中からずっと私達を見ていましたがどうしたんです?」

《え、ボク達に用事です?》

 

 渡したタオルで汗を拭いているお義母さんからの質問に、集中していた『バイト長』は驚いた様子である。本当、お義母さんが言うとおりに集中力が凄まじいんだな『バイト長』。

 

「プレゼント、って訳では無いですけど『バイト長』のお姉さんから渡された素材で頼まれてた物を用意しました」

「頼まれ物?」

 

 俺の言葉に小首を傾げて疑問を持つお義母さん、道着の件すっかり忘れてるな。インベントリから二人の道着を取り出してそれぞれに渡すと、驚いた表情になる。

 

「そう言えば道着を頼んでましたね」

 

 帯だけは作らなかったのだが、お義母さんは特に問題視してない様子だ。対して『バイト長』は非常に驚きに満ちた目をしている。

 

《姉さんから渡された素材って……え、どの姉さんです?》

「……『バイト長』としては誰だと思ってるんだ?」

 

 混乱した様子の『バイト長』に質問を返してみると、少し悩んだ様子をみせた後に答えた。

 

《大姉さま……だと思うです》

「そうか、『バイト長』そう思うならそれでいい」

 

 素材の送り主については何となく本人が隠したがっている気がするので黙っておく。俺の言葉に訝しむ『バイト長』だが、ソレよりも手元の道着の方が気になるらしい。

 

《これ、背中にボクの翼を出す為の切れ目がちゃんと有るです!》

「そりゃ『バイト長』専用だからな、コレからも演舞をしっかり練習しろよ?」

《はいです!》

 

 満面の笑みで俺に答える『バイト長』を見て俺も嬉しくなる、そんな俺達を見ていたお義母さんが一つ頷いて口を開いた。

 

「午後からの練習は行儀作法ではなく演舞を続けましょうか」

《え?》

「いいんですか、お義母さん?」

「ええ、だってこんなに嬉しそうなのですから今の気持ちのまま鍛練をした方が身が入るでしょうし」

 

 訓練の予定を変えると言うお義母さんは、『バイト長』のモチベーションを大事にした結果らしい。戸惑う『バイト長』の肩を叩いて、俺は言葉を紡ぐ。

 

「良かったな『バイト長』、飯の後で早速道着を着れるぞ?」

《え、でも……いいんです?》

「お義母さんがそうするって決めたんだからいいんだよ。沢山練習して沢山汚せ、そしたらソレの洗濯を自分の手でしてってのを繰り返すんだ。そうすれば洗濯の練習にもなるからな」

 

 俺の言葉をゆっくりと咀嚼して理解した『バイト長』は何度も頷いた。その様子にお義母さんも微笑んでいる……なんだか『バイト長』も娘みたいに見てないかな?

 

 

「なぁ、タタラ」

「おう、どうした?」

 

 昼飯を一緒に食う中で、バカが俺に問い掛けてきた。

 

「都市祭の事で一つ許可が欲しいんだが、聞いていいか?」

「雛菊さんとのデートなら俺じゃなくてお義母さんに聞いてくれ」

「ちげぇよ、そっちは前に満面の笑みで許可貰えたわ!!」

 

 奥手と思ってたらキッチリしてんじゃねぇか、思わず隣に座ってるお義母さんとハイタッチしちまったぞ。

 

「それで、なんの許可だ?」

「ったく……うちの農場で形の悪い果物の類をドライフルーツとして売るんだが、その時にタタラから借りてるあの魔導具を使ってる事を宣伝させて欲しいんだよ」

「……成る程」

 

 それは確かに俺の許可を欲しがるだろう、天候を問わずに一晩でドライフルーツを作れるなんて他の農家からしても無駄なく商品を売れるのだから秘密を知りたくもなるだろうしな。

 少し考えた後で、俺は一つ頷いて許可を出す事を決めた。

 

「いいぜ、販売価格もいるか?」

「いや、そっちはタタラに直接聞くように伝えるつもりだ」

「それなら一応、都市長にも回していいぞ。多分、アレの値段を正確に付けられるの都市長だけだし」

 

 仕事を増やして申し訳ない気持ちも有ったが、俺の基準で値段付けるのは都市長が発狂しかねないから一度話を回した方がいいだろう。何方にしろ、販売や交渉は都市祭の後になるからな。

 

「なになに、また変な道具作ってるの?」

「失礼な、一晩有れば干物を作れるだけの魔導具だぞ」

「うわ、ご当主様が垂涎する代物じゃん」

 

 興味深そうに聞いてきたクソ野郎に答えればそう返される。確かに釣った魚を干物に出来るからって大量に釣って帰るようになりそうだな、フードドライヤーを手に入れた当主代行。




オマケ:『悪巫山戯』

 タタラ:『唐突に気持ち悪い言葉を言ってみて』

「え、何これ?」
世界法則(システム)からの無茶振りです、なにか一言お願いします!》
「妙にノッてないか『天使長』?」

 手持ちの看板に書かれた言葉を見て戸惑うタタラに向かい、『天使長』が笑顔で説明する。気持ち悪く聞こえる言葉等と言われても直ぐに浮かばなかったタタラは、前世で触れた漫画の名台詞を改悪する事を思い付く。

「……あまり可愛い事を言うなよ、好きになるぞ?」

 気持ち悪い、と言うよりも引かれる言葉ならそれこそ自身で作り上げた発明の解説でもすればいいのだろうが別の変態(ダリア)を惹き寄せると判断してこの台詞を選んだ。
 正面から言葉を浴びた『天使長』は笑顔のままで固まり、やがて顔を赤くして離れる。

《……タラシ》
「まて、俺は俺が思う気持ち悪い台詞を言っただけだぞ!?」

 姉の様子を見ていた『料理長』が冷たい言葉をタタラに贈り、言われたタタラは焦って言い訳をする。全く持って自身の言葉の影響を理解してないタタラに、『料理長』は冷めた目線を送るのだった。


 エテル:『叱って』

「次はエテルか……」
「叱るって……めって言えばいいのかな?」
「……効きそうにないのう」

 お題を見た面々の反応は戸惑い気味で、試したエテルの声も迫力が欠如している。四葩の感想を聞いて思い悩む中で、タチアがふと思い付いて口に出す。

「そうだ、タタラ殿を叱ってみては?」
「タタラを?」

 その言葉を聞いて少し悩んだエテルは、自らの乳房を下から持ち上げて言う。

「タタラ、次にやったら本気で”コレ“だからね!?」
「ご褒美かな?」
「おっぱい聖人のタタラには通じんのう」

 巨乳好きのタタラに言わせるなら『我々の業界ではご褒美です』だろうか?
 全く通じて無さそうな様子に傷付けばいいのか、自分の身体を好んでいる姿に喜べばいいのか迷うエテルだった。

「もう、全く懲りてないなら産み直すよ!!」
「ヒィッ!?」

 次いで出た言葉はタタラにとってのトラウマの一つである、思考が理解出来ずに精神の根本的な所で恐怖が刻まれてしまっている。

「……エテル、お題は『叱る』じゃぞ?」
「怖い話がお題ではないのですが……」
「え、反省してないならこれで叱るつもりだよ?」

 四葩とタチアからの言葉に対してエテルの返答はあっけらかんとした物だった。その顔を見た二人は背筋が寒くなり、これ以上の深掘りを辞める。
 かつてタタラへ向けた軽口が実際にあることなのだと四葩は思い出すが、同時にあの時すでにこの脅しを受けた事があるのではと嫌な事実に思い至る。タタラへ黙祷を捧げた後、そっとこの思考を封印することに決めた。


 四葩:『嘘を吐いて』

「ふむ、嘘かのう」
「四葩は嘘が苦手な印象が有るな」
「実のところ苦手じゃのう、剣術においては虚実混ぜるのは得意なんじゃが」

 悩む四葩にタタラが声を掛ければ、苦笑いと共に肯定される。

「ならば……タタラよ」
「なんだ?」
「妾、実は男だとしたらどうじゃ?」
「お前の裸を直接見たから嘘だって丸わかりだぞそれ……いや、コンセプトとしては正解なのか?」

 四葩の言葉に呆れたように返すタタラ、しかしお題を考えて合ってるのではと思い悩むがそんなタタラに四葩は薄笑いを浮かべて続ける。

「お主に惚れたゆえに身体が女へと変化したのじゃ、陽出國の鬼は初めての恋を経験した際にその対象の対になる性別へと変わるのじゃよ」
「嘘吐け、初めて出会った頃から普通に胸あったろお前」
「む、薄いうえにさらしで抑えておったじゃろ?」
「それで誤魔化される程にお前の女は薄くねぇよ」
「むぅ……口説くでない」

 嘘を吐くと言うお題からそれては無いのだが、タタラはお題を無視して四葩の女性的な魅力に言及するために照れさせるばかりだ。どうもコンセプトガン無視して相手を照れさせるのが性分らしい。もげろ。

「嘘を吐いてるのにお題が完了しないね?」
「一度本当だと信じさせる事が必要なのでは?」

 エテルに返すタチアの言葉を聞いて、四葩が少しだけ深く考える。そうして一つ頷くと、四葩は顔を上げてから言い放つ。

「タタラ、実はお主が寝ている時に母上から教わった髪コキとやらを試した事がある」
「なんて?」

 髪コキとは長髪の女性が男性の陰茎に自らの髪を巻いてしごくという行為である。

「流石に刺激が足らずに射精はさせられなかったがのう」
「嘘だろ……いや、でもお義母さんだしな」

 四葩がそんな行為をするはずが無いとタタラは考えるが、同時に自身が愉快な物を見る為に積極的に仕掛ける悪戯好きな義母の名前を出されると信憑性が増して否定しきれない。

「うむ。それと、陽出國の貴族女子には婚前交渉を想定して不浄穴を拡張する風習が有ってだな」
「嫌な風習だなおい」

 要は結婚前に妊娠を回避する為にアナルセックスの推奨をしている、そう言われてタタラは否定しようにも『ここはエロゲー世界だしあり得そうだな』と半分納得してしまっている。

「勿論、嘘じゃがな!」
「……そうだよな、他所の国とは言え子を残すのが仕事でもある貴族が妊娠しないプレイとか流行るわけないよな」

 ネタバラシをされて納得していた事を恥じるタタラ、しかしそんな彼に対して四葩は爆弾を投げ掛ける。

「何方かと言うと庶民に流行っとるのう」
「嘘だろ」
「いや、本当じゃ。以前父上が出生率の低下傾向が見える事と、これが原因で幼気な男児が性被害に遭っておると溢しておったのを覚えておるからな」
「いやな風潮だな……」

 直接関わりが無いとはいえ、性被害の話は聞いていて気分の良いものでは無い。優しい事ばかりでは無い世界に対してタタラは苦虫を噛み潰したような気分になった。


 タチア:『いやらしい事を言って』

「なんだこれは、たまげたなぁ」
「お題を見て最初に出て来る言葉がそれか」

 真っ先に口から零れ出たタチアの言葉に、タタラが何とも言えない気分でツッコミを入れる。前世で流行っていたとあるネタ故に淫語と言うか淫夢な扱いなので、一応いやらしい判定が出るかも知れないが指摘するのはなんかアレだと感じて深くツッコミを入れるつもりは無いらしい。

「む、騎士学校ではよく分からないがコレを淫靡だと扱っていたのですが」
「え、なんでだろう?」

 タチアの言葉にエテルが疑問を持つ、タタラは指摘するのはなんか嫌なので軽くスルー。タタラの中では騎士見習いの印象が最低値割って更に下降気味である。

「全く分からぬのう、魂消るを玉蹴るとでも言い間違えたか?」
「男として怖い話になるからジャンル違いじゃねぇかなソレ」

 四葩の物理攻撃力で蹴り上げられたら冗談抜きでタマが消えるだろうと考えたタタラは、ほんの少しだけ四葩から距離をとった。

「そう言えば、何でたまげるが驚きの言葉になるんだろう?」
「魂が消えるって書くから、心臓が止まるみたいな言い回しで……驚き過ぎて死ぬって意味合いで考えると分かりやすいかもな」

 エテルが疑問の声を上げればタタラは陽出國流の文字の書き方を説明しつつ、類似の表現で理解を促す。

「成る程……でも、何でコレがいやらしいと思われたんだろう?」
「さぁ?」

 恐らくは開発スタッフがミームとして突っ込んだホモビデオネタだとはとても言えず、タタラはしらばっくれる。

「むぅ、流石にこの手の知識が薄くなってしまってますね……」
「流石に最近まで人間の言葉に対して鳴き声扱いだったからな、仕方ない面も有るだろうさ」

 唸るタチアを慰めつつ、タタラもタタラで思い悩む。いやらしい言葉と考えてみるが、何がそう判断されるのかがよく分からない。
 隣に居る存在がいやらしい夢魔を参考にしよう物なら、どんなアレな言葉が飛び出すか予測不能である。

「……なんだろう、凄く心外な事を思われたような?」
「いや、恐らくは妥当なものじゃろうなソレは」

 まるで前皇帝とその妃を思わせるやり取りをするエテルと四葩を横目に、タタラはタチアへと視線を向ける。

「何か浮かびそうか、タチア?」
「むう、難しいですね……」
「それならいっそ、タタラをえっちに誘う感じでどう?」

 タタラの質問に悩むばかりだったタチアへ、エテルが思い付きを口にする。それに対して天啓を得たかのような表情をしたタチアは、タタラにしなだれかかり言う。

「タタラ殿……私の雌が貴方を求めてやまないのです、どうかこの愚かな女にお情けをください」

 突然の事で固まるタタラだが、言葉の意味を理解してから下半身が反応をする。それを見てタチアは満足気に頷く。

「ふふ、コレならタタラ殿も反応させられますね!」
「いや、普段真面目なタチアが言うと破壊力が凄いな……」

 タチアの変わり身の早さに恐れ慄きつつも呟くタタラだったが、そんなタタラを目だけが笑っていない笑顔で見詰めているエテルの姿には気付かないのだった。


 一華:『思いの丈を伝えて』

「え、何でござるか此処。何時もの小芝居の舞台では無いみたいでござるけど?」
「まぁ、よく分からん空間だ。諦めて課題を終わらせよう」

 突然見知らぬ空間に召喚され戸惑う一華に、タタラは溜息混じりに説明する。普段は巫山戯て隠している聡明さで持ってタタラの言葉を理解した一華は、顎に手を当て目を閉じ考える。
 そして一つ頷いてから、タタラに相対する。

「……タタラ様」
「なんだ?」

 数度、深呼吸を繰り返した後にタタラと目を合わせる一華にタタラも自然と背筋が伸びる。そうして、一華は思いの丈をぶつける。

「生きて、下さい」

 一華本人としては、全力で声を出したつもりであった。しかし、その声は消え入りそうな程に力の無い声だった。
 タタラの持つ思いを踏み躙る事、そう捉えてしまった自身の思いを相手にぶつける事をエゴだと思ってしまう一華の優しさ。それでもと自身の本心をタタラへとぶつける機会を得て誤魔化さず飾らない想いを叩き付けた。

「お願いです、生きて……私を置いていかないで」

 声は掠れたままだ。タタラを喪う未来を思えば自然と涙が流れて声に嗚咽が混ざっていく。遂には言葉を紡げなくなり、タタラの胸元へと縋り付く一華をタタラは思わず抱きしめる。

「生きて……生きて……お願いだから」
「……すまない」

 一華の本音を踏み躙る言葉しか返せない己を嫌悪するタタラ、そんな愛する人の言葉にただ泣き続ける事しか出来なくなる一華。

「……ねぇ、これ。本当は私のお題じゃない?」
「何方が正妻か分からぬな」
「タタラ殿は同い年より年上の方が好みなのだろうか」

 まるっきり二人の世界になってしまったのを見たエテルの呟きに、四葩が禁句を口にする。そんな二人を無視してタチアは分析を続けるが、タタラの好みは巨乳くらいで年の好みは無かったりする。



《特にオチも無く、一華さんのメインヒロインっぽさが増すだけの企画でしたね》

 そんな光景を見ていた世界法則(システム)はそんな事を溢した後、この場にいる面々の記憶を消して元の世界へと返していく。

《本当はカルミアさんも参加させたかったのですけど、まだタタラさんとの繋がりが薄いですね》

 本来なら、そんな考え方をしつつも現時点でのタタラとの縁の強さからこの空間に引き込める者達を選出した故の弊害が出た事にそんな事を零す。

《次はどんな悪巫山戯をしましょうか……》

 そんな言葉を口に出しながら、タタラに関わろうとする世界法則(システム)の姿は何処か恋する少女にも見えた。

 ─To Be Continued─

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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