※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中
『看板娘』イベント進行中


こ、今回で準備期間終わらせようとしたのに終わらなかった……


準備期間最終日:宣伝動画撮影

「なんじゃコリャあ!?」

「し、死んでるの!?」

 

 干乾びかけの死体みたいな物を見た瞬間口から叫びが出る、エテルも思わずと言った風に声を上げた。突然の事で固まる俺達の横を当主代行が駆け抜け様子を見に向う。その姿を見て俺もようやく身体が動き現場へと向かった。この干乾びかけの死体がまだ新しいなら『料理長のお弁当』で蘇生が叶うかも知れない。

 インベントリからお弁当を取り出していると、俺よりも先に当主代行の隣に『料理長』が降り立った。いや、なんで『料理長』が此処に?

 疑問が少しだけ冷静さを取り戻させて改めて干乾びかけの死体みたいな2人を確認すると、見覚えのある服を着ていた。というかこれ劇団ハカンサスの団長とスオーノさんじゃねぇか。

 

「なんでこんな事になってるんですか!?」

「タタラ殿、この二人は食費すら確保できておらん様子だった」

「だからって前に『料理長』の料理食べてから2日か3日でこんな干乾びますか!?」

 

 少なくとも水くらいは飲めるだろうに、何をどうしたらこうなるんだ?

 取り敢えず、スオーノさんを抱き上げれば弱々しいが心臓は動いている。生きてるから良かったものの、何をどうしたら此処まで飢えるのか?

 

《……タタラさん、お弁当とスープ作って来たのでそのお二人に食べさせてあげてください》

 

 そう『料理長』から思念が飛んできて、視線を向けると介護用の水飲みへ水筒からスープを注いでいる。具材はどうなのかと思ったが、透明度の高いコンソメスープには殆ど具が溶け込んでしまっているらしく詰まる要素は無かった。

 パイプにも似た水飲みの飲み口をスオーノさんの口に当てれば、弱々しくも吸い始めた。全状態異常を解除する『料理長のお弁当』の効果なのか、早速スオーノさんの顔色が健康的な物になり始めた。ギリギリ蘇生効果だったりしないよな、これ?

 

「うう……必須栄養素ぉ……」

「なんだこのうめき声」

 

 前に『料理長』を連れてきた時に『久し振りの動物性蛋白質』とか言ってたけど、あの一食以降も殆ど食えてなかったのだろうか?

 いや、それにしてもこんなに干乾びた死体みたいになるならそれなりに時間が必要な気がするんだが。同じ水飲みに再度スープを『料理長』に淹れて貰ってからそれを当主代行に渡そうとすれば、スオーノさんが止めてくる。

 

「……あの、流石にソレとの間接キスとか嫌なんですけど」

「そこそこ余裕ないか?」

 

 どう対応するか一瞬迷う中、『料理長』はインベントリから哺乳瓶を取り出してスープを淹れた後に当主代行に渡す。

 

「なぁ、なんで哺乳瓶持ってるんだ?」

 

 仕方ないので改めてスープの淹れられた水飲みをスオーノさんの口元に運んで飲ませる中で『料理長』に確認すれば、不思議そうな表情をされた。

 

《タタラさんが子供になったりした時用ですよ?》

「なんだそりゃ」

 

 確かに直ぐ側に俺を子供に出来る存在(エテル)は居るが、だからって哺乳瓶とか……エテルなら持ってそうだな。

 目前には当主代行の手で痩せ細った団長が哺乳瓶でスープを飲まされているというあまりにも強烈な光景が広がっている。この場にメイド服を着ている女性が三人も居て誰も介護しようとしてないの結構酷い状況な気がする。『天使長』が居たら団長の介護を率先してやりそうだけど、『料理長』は人見知りだからやれないしダリアには細やかな事は無理だろうしエテルが他人の介護をやるのは俺が嫌だ。

 うん、当主代行か俺しかやる人間いないな?

 

「……なんね、このひっどい状況?」

 

 そんな時に届く声に振り向けば商会長が明らかにドン引きした表情で立っていた。まだ法務長と成金さんが居ないだけマシかな。

 取り敢えず、スープを3回おかわりした劇団ハカンサスの2人が料理の効果か健康的な見た目になったので状況を確認する。

 

「お手数をお掛けしました」

「ご馳走様でした」

《お粗末様でした》

「……それで、どうして此処でミイラ手前になってたんですか?」

 

 団長の謝罪とスオーノさんの挨拶を聞いて少し呆れつつ、何故こんな所で干乾びかけていたのかを聞けば団長は非常に恥ずかしそうな表情になる。尚、スオーノさんは何処吹く風と言った様子である。

 

「その、食費が無くて……」

「それはいいんですけど、収入とか無いんですか?」

 

 俯いて答える団長さんの言葉に思わず確認すれば、スイッと視線を逸らされた。おいおい、過去作の主人公が頑張って盛り立てた劇団がヒドイ落ちぶれ具合だな。そんな様子に商会長が頭を振ってから口を開く。

 

「商会からお給金ちっと出しとん、何ん使ったんね?」

「えと、その……滞納中の家賃で」

「何しとん本当?」

 

 団長の答えに盛大な溜息を吐いて肩を落とす商会長を見て、昨日考えた事を相談しようかと悩む。財務長にも相談しないと面倒事が大きくなるかも知れないが、それでも助けておかないと嫌な予感がする。

 

「あの、商会長。一つ相談なんですけど」

「うん、なんね。今、ボクん友達が情けなくて泣きたんね?」

 

 アーレム関係での仕事前から精神的に疲れ切った様子の商会長から普段見れないうんざりと言った態度でそう言われる、コレから更に情けなくなりそうだけど大丈夫かな?

 

「あの、このアリーナの管理というかスタッフとして劇団ハカンサスを雇おうと思うんですよ」

「……なんて?」

「ほう?」

 

 俺の思い付きを商会長に伝えると法務長からも興味を持たれる……アレ、さっきまで法務長居なかったよな?

 視線を巡らせると法務長が何時の間にか到着していたらしい、劇団の二人の恥部を晒すことになるから控えるべきか悩むけどこの後練習とは別に宣伝の手伝いを其々に頼みたいから取り敢えずはおいとこう。

 

「劇団ハカンサスを俺の自費で雇って、このアリーナで働いて貰おうかなと。年間契約は1000万程で、後はアリーナ内での売上をそのまま報酬として支払うような」

「待ってタタラはん、流石にそれは大金に過ぎんね」

 

 俺の上げる構想に対して眉をひそめる商会長、劇団ハカンサスの二人は大金が手に入る可能性に興味を向けてきた。尚、法務長は俺の構想からどんな法令に引っ掛かるかを考えているらしい。

 

「劇団一つを雇うと考えると少ないと思いますけど……」

「精々が四人だけん零細劇団に払い過ぎんね、一人250万を払うんよ?」

「下手したら一日で稼げますね」

「そだった、タタラはんは稼ぎに興味無んだけで稼げん人だった」

 

 何なら年間契約で虎熊家から10億が支払われるのが確定するし家庭用魔力炉一つ作るたびに数十億が支払われるのだ、そう考えると1000万なんて端金になってしまうだろう……大分金銭感覚狂いそうだなコレ?

 

「え、その……いいんですか?」

「ええ、施設の維持は基本俺のゴーレムを派遣して行いますので、バトルステージでの演出やなんならショーを開いたりしてお客様を楽しませてくれたら十分です。受付の人には少し条件付けしたいのでそちらは商会から派遣してほしいですが」

「任せんね、あと売店とレストランも商会から人ん派遣すんよ」

「あ、助かります」

 

 商会長の申し出に思わず頼る。零細劇団であるハカンサスの人達に金銭管理は確かに難しいかも知れない、調理が出来る人を送って貰うのも非常に助かるだろう。

 

「工匠長、契約には商会と我々法務を頼って頂くとして財務長にも声掛けが必要でしょう」

「確かに給与って形になるなら税金も払う必要が有りますからね、俺では詳しいところが分からないから頼らないと」

 

 考えていた事とは言え法務長から改めて指摘されて重要さを認識する。いや、税金の関係が分からないとは言えそこで都市の財源における最高責任者に話持ち込むのおかしいな?

 とは言うものの税理士事務所とかこの都市で見たこと無いんだよな、店を持ってる関係で税金の支払いは基本商会で行う形を取っているし。

 

「一先ずは商会から毎年支払われてる特許料をそのまま劇団へ支払ってもらう形にして貰えますか?」

「毎年一括で払ってん、ソレをそのままこん阿呆に渡すんは大丈夫なんね。けど、タタラはん本当にいいん?」

「全然いいですよ、素材は基本ダンジョンで集めてますし。なんならアーレムコアの売り上げも商会の手数料分引いてもらったらそのまま給与に回してもらっても」

「ソレは絶対にダメよ、タタラはん」

 

 俺の言葉に商会長は真剣な表情をする、俺はその顔を見て思わず気圧されてしまった。

 

「こん阿呆にそんな大金渡してみん、調子のってやらかすんね。今ん落ちぶれもソレが原因なんよ」

「流石に酷くない!?」

 

 商会長の言葉に団長は抗議の声を上げるが、その横のスオーノさんは深々と頷いている。いや、何をやらかしたんだよ。怖くて聞きたくないけど。

 

「タタラはんは分かってないん思うけど、こんアーレムんすっごい売れん商品ね。例えコアだけん言ってんその売り上げ渡したん相当な金額よ」

「そうは言っても1つ1500ですよ?」

「それでん商会の手数料ん30%引いても1050がタタラはん返すんね、1000個でも売れたん105万よ?」

 

 そう言われると確かに払い過ぎになるのか……今は零細で数が少ないけど、人数増えたら足りなくなりそうだがどうするかな。

 

「それに、こんアリーナん場所代も掛かんね。年間での土地使用料は大凡で5000万程よ?」

「あれ、そこそこ安い?」

「貴族区の場所ん見れば安んね、けど一年間で必ずコレ払った上で維持費と掛かんから長期的に見んと相応に高なんね。ま、魔石代は掛からんし土地代も都営にすんの都市長から考え聞いてんね。もっと安んなる可能性高いけど」

 

 アリーナの本格稼働は時間空けるべきだな、都市長を含めて複数の長からアイディア貰わないとダメそうだな。

 

「ま、難しい話んは此処までね。そんで、その別嬪さんは誰なんね?」

 

 手を打って話を切り上げた商会長は初めて見るだろうエテルに視線を向けてそう聞いてきた。エテルは視線を向けられて一瞬身体を震わせてから俺の後ろに隠れる。

 まぁ、取り敢えず人見知りなエテルの代わりに俺が答えればいいがこの先工匠長の妻として生きなきゃいけない上ではこの人見知りも何れは治して貰わないとな。

 

「この子はエテル・ネル=バーラル、俺の妻になる人です」

「へぇ、タタラはんの奥さんなんね!」

「ええ、二人ともまだ学生なので籍は入れられないので婚約止まりですけど」

 

 俺の言葉に嬉しそうな声を上げる商会長、なんとなく前世の叔父さんが俺の成長を見る度に嬉しそうな表情をしていたのを思い出した。俺が成人する前に事故で亡くなってしまった為に酒を飲み交わす約束を果たせなかったな、未婚だったけど俺の死後は父さん達が代わりに墓を掃除してたりしてくれてるんだろうか?

 少し脇に思考が逸れているとエテルが俺の身体を翼で包んで来て、更には脚に尻尾を絡ませて来た。周囲から向けられる視線が生暖かいが、まぁ若者のカップルなんて大人から見ればそんな扱いになるだろうな。

 

「普段は探索で生活を助けてくれているんですけど、明日から都市祭なので今日は探索を休みにしたんです。俺の仕事を知りたいって事で付いて来た形になりますね」

「成る程んね。エテルはん、この都市で商会の代表をやってる商会長を務めるモンです。宜しくんね?」

 

 俺がエテルが今日来た理由を説明すると、商会長は納得して自己紹介をする。が、エテルは萎縮してしまい俺の背中に隠れたままだ。

 

「あらあら……ボク、怖かったんね」

 

 そんなエテルの反応に苦笑いを浮かべる商会長を見て流石に拙いと思った俺はエテルに声を掛ける。

 

「エテル、この人は大丈夫。優しいし頼りになるし仕事も出来る人だよ」

「タタラはん、今仕事が出来る事は関係無いんね」

 

 俺の言葉にツッコミを入れてくる商会長だが、表情は何処か嬉しそうだった。そんな俺と商会長の遣り取りを見ていたエテルは商会長の人格を理解したのか、そっと翼による俺の拘束を外してから俺の横に立った後に頭を下げる。

 

「その、失礼な態度を取ってしまって申し訳有りませんでした。タタラの妻になるエテル・ネル=バーラルです」

「はい、宜しくんね?」

 

 勇気を出して挨拶をしたエテルへ嬉しそうに返す商会長の反応を見て内心ホッとする、コレからも仕事上で付き合いが続くとエテルとの関わりも増える可能性が高いからある程度は会話が出来るようになってもらう必要がある。

 

「それでは此方も……この都市で法務長を務める爺です、以後宜しく願います」

「ふぇ、あ……はい。宜しくお願いします」

 

 法務長も年の功と言わんばかりのタイミングでエテルに声を掛けると、戸惑いながら挨拶を返せた。商会長の時にアレだけ手間取ったのが嘘みたいにアッサリだな。

 

「それなら私も。劇団ハカンサスにて歌手を務めているスオーノと申します」

「あ、はい。宜しくお願いします」

 

 見事な礼を見せるスオーノさんに戸惑いつつ挨拶を返すエテル、元貴族令嬢のエテルよりスオーノさんの方が作法がしっかりして見える。まぁ、そんなスオーノさんはさっきまで栄養不足でぶっ倒れてたんだが。

 そして、そんなスオーノさんの隣でエテルを見て呆然としている劇団長。エテルから視線を向けられた瞬間に挙動不審になり、身体中から汗をかいて視線を彷徨わせている。もしかして、エテルの美貌にビビってるのだろうか?

 

「げ、げげげけ劇団ハカンしゃすの劇団ちゅおを務めてるははははるはるるるハルマート・ハカンサスでござりましゅ!」

「落ち着け童貞」

 

 なんか可哀想なくらい緊張で吃っているらしい劇団長に対してスオーノさんが滅茶苦茶低い声で酷い一撃を叩き込んでいる。

 

「ど、どどどどど童貞じゃない!」

「見栄を張るな童貞」

「いや、我輩の初体験はスオーノぐぶっ!?」

 

 見事に腰の入った一撃が劇団長の腹に突き刺さった。よく見るとスオーノさんの耳が紅くなっている、どうも初体験相手というのは本当らしいな。

 

「……タタラ、あの歌手さんのお腹に赤ちゃんが居るよ。魔力の感じからしてあの劇団長さんの子かな?」

 

 そっと俺にそう耳打ちしてくるエテル、こう言った事を暴く夢魔の眼は滅茶苦茶怖いと思う。ただ、産婦人科医として勤めたら滅茶苦茶優秀なんじゃないだろうか?

 悶えている劇団長から此方に向き直ったスオーノさんは赤みのある顔で空咳を1つした後で改めて口を開く。

 

「コレは私の所属する劇団ハカンサスの劇団長を務めてる童貞です、忘れても問題有りません」

「は、はぁ……」

 

 スオーノさんの言葉に気の抜けた返事を返すエテル、まぁどう反応していいのか分からんよな。俺も分からんし。

 

 

 一通り挨拶を済ませたので、改めて今日俺が呼ばれた内容に付いて商会長と話す。コレに付いては其々のアーレムのモデルを宣伝する為の映像を撮るから当主代行と法務長にも聞いて貰う事にした。

 

「……そう言えば息子さんは?」

「はい、今日は少し遅れて来ます。どうもパーティで少し有ったようでして」

「都市祭準備期間だけの事かも知れませんけどアーレムに掛かりきりでしたからね、悪い事したな」

 

 成金さんについて聞けば法務長から軽く答えられる。流石に此方に集中させ過ぎたな。

 

「今日は法務長の息子さんが来るまではアーレムの宣伝用の動画を撮ろうと思ってます」

「コレに付いてはボクの依頼なんね」

「一応、其々のアーレムに合わせた個々のモデルを宣伝する物とアーレムそのものを宣伝する物とで複数撮る予定です」

 

 俺の説明に興味を持った当主代行と法務長の視線が鋭くなる、其々どんなコンセプトで撮るのかを説明しなきゃな。早速魔導式ワードプロセッサを取り出してイメージを投影する。

 

「アーレム自体の宣伝はうちのダリアが操作を担当します。ただ、撮影用の魔導具の操作が難しいので撮影位置を決めた上での場面を編集する形に落ち着くと思います」

 

 今日だけでアーレム、『ロウフル』、『フォートレス』、『玄武』、『大紅蓮』のCMを編集する必要が有るので結構大変になるだろうな。明日から都市祭だし、発表は三日目とは言え今日中に仕上げないと再編集が出来ない……正直一週間か一ヶ月は最低でも欲しかったな。まぁ、アーレムの発表を決めた時期から考えてその頃から撮影する必要が有るから無理なんだけど。

 

「撮影用の魔導具は用意してん?」

「いえ、昨日は撮影用のアーレムを作る方を優先してたのでコレからですね」

 

 素材と作成、その他にも設置場所を細かく決める必要が有るので準備で時間掛かるな。

 

「たー!」

「え、どうした?」

 

 急にゴーレム・リーダーが俺のインベントリから出て来る。何事かと視線を向ければ、自分の眼を指しながらその手に有る言語化用の魔導具に言葉が浮かんで来た。

 

 ──ぼくたちのめをつかってください

「ゴーレムの眼を……あっ」

 

 リーダーの意図を考え、もしやと思いタブレットを取り出す。その視界を借りる機能を起動させればリーダーは頷いた。

 

「けど、いいのか?」

「たー!」

 ──だいじょうぶです、ごしゅじんさま

 

 自分で作ったゴーレムに確認するのもなんだか変な気もするが、それでも意思確認をしてみれば力強く肯定される。なら、力を借りるか。

 

「コイツらの機能を転用して撮影しますので、後はセットの用意だけですね」

「少し待って貰いたい工匠長、このゴーレム達の視界を共有出来るのですかな?」

「ええ、普段は使わないんですけどそう言った能力を持ってます」

 

 質問に答えれば明らかに引いた表情をする法務長と商会長、まぁ研究所の所長してたパパママエンティアも意味不明みたいな反応してたし仕方ないか。

 

「後はセットの素材は商会長に依頼したんですけど……」

「大丈夫なんね、ボクのポケットマネー含めて結構な材料費注ぎ込んだんよ!」

「何してんですか」

 

 自費まで注ぎ込むのは予想外に過ぎる。

 

「そん代わり、セットの一部ん持って帰んね!」

「あ、狡いですぞ商会長!!」

「それなら儂も出資する!!」

 

 商会長の言葉を聞いた法務長と当主代行が子供みたいな反応をしている、そんなに欲しいならジオラマでも作ろうかな?

 

「ところで、タタラ殿がダリア殿と撮るという宣伝用の動画というのはどんなのかね?」

 

 出資について言い合ってた筈の当主代行がいきなり此方を向いて聞いてくる、地味に圧が強い……他の二人も見てきてちょっと怖いな。

 

「……具体的なのは完成後の楽しみでは駄目ですか?」

 

 俺の言葉に一瞬だけ考え込む三人、顔を合わせて1つ頷いた後に俺を見てくる。

 

『駄目』

「……そうですか」

 

 思わず溜息が出るが、どうせなら見せた後にアーレム操作で手伝って貰おう。そう決めた瞬間、最前列で正座待機をしてくるダリアと『料理長』。あまりの速さに俺でなくても見逃してしまった。

 

「……ダリア、コレから流すのは昨日の動画だぞ?」

「勿論分かっています。しかし、素晴らしい動画は何度も見返したくなるものです」

「気持ちは痛いほど分かる」

 

 俺もあのオープニングムービーは毎回流してたしな、前世では飛ばせないオープニングとしても有名だった。

 そうして流せばその場のオトコノコ達も動画に夢中になる。意外だったのは離れた所に居たスオーノさんが動画に使っているラストバトルの劇中歌が気になるらしく、ダリアと『料理長』の隣で正座して聴きに集中していた。仕方ない、この曲は格好良くて耳に残るからな。

 僅か2分の動画では有るがその内容の濃さは折り紙付きだ、荒涼とした世界観と主役である最強の人型兵器の力強さが全て詰まっている。

 

「コレをアーレムで再現するんで、ちょっと大掛かりなセットを作りたいんですよね。で、見たからには手伝って頂こうかと」

『乗ったぁ!!』

 

 力強い参加表明に苦笑いするが、協力を得られるなら本来の物に合わせて戦闘シーンを増やすのもいいかも知れない。

 

《タラシさん、私も撮影に協力したいです!》

「いや、流石に『料理長』も撮影に協力っていいのか?」

《時間はいっぱい有りますから!》

 

 元気いっぱいに主張する『料理長』に戸惑うが、内心は結構助かる。ダリアに多少劣るが最高レベルの操作技術を保証されている『看板娘』の協力を得られるのは心強くて仕方ない。

 

「あの、タタラ」

 

 そんな俺の背中に声を掛けてくるエテルに振り返れば何処か不安そうな表情で俺を見てくる。

 

「どうした?」

「私にも何か手伝える事はない?」

 

 そんな言葉を受けて思案する。正直、撮影技術は兎も角としてエテルの飛行能力や隠密能力はかなり活躍出来るだろう。うん、やる気を買おうか。

 

「それなら、手伝って貰おうかな。撮影用の魔導具を渡すから『忍び足』や『隠密』を使って静かにアーレムを撮影して欲しい」

「うん、がんばるね!」

 

 俺の言葉に満面の笑みで答えるエテルを見て心が温かくなる、そう言えばあんまりエテルに俺の仕事を手伝って貰った事は無いな。

 何となくやる気が増して来たので早速商会長から素材を受け取るって『クラフト』スキルで様々な物を作っていく。長い廊下をジオラマで飾り、更には高速ですっ飛んでいく『トリテレイア・アーレム』を追跡する為に廊下に薄い魔石でコーティングしたレールを敷いていく。そのレールを滑る為のトロッコを用意する、レールを滑る上で発生する擦過音を消す為に『浮遊石』を使用した。

 設備としてコレを俺以外が用意しようと考えたら何億って金が使われそうだ。というか、そもそもとして俺以外には作れないよなこの設備。太陽と星(シャムスとエスト)の二人が未来で依頼されたら俺の時の製作費聞いて顔を青くするんじゃないか?

 レールを用意し終わり、続いてフィールドの周囲に突入する要塞のジオラマを作っていく。入り口だけでなく客席まで活用してかなり大掛かりなセットを作る、移動要塞の甲板だけでなく落下先の民家なども作るとなるとかなりの資材が必要になる。

 

「タタラはん、資材足りん?」

「ちょっと……いや、大分足りないですね」

「分かったんね、ちょうタタラはんの鳥ゴーレムん貸してん?」

 

 製作作業中に声を掛けられて答えると、商会長からサイファーを借りたいと言われる。何事かと考えるよりも頼った方がいいと何となく感じ、早速呼び出す。数分でやって来たサイファーを商会長に預けると、手早く手紙をしたためて持たせた。

 

「悪んね、ちょう商会までこの手紙届けて欲しんね」

 

 そんな商会長の言葉に一つ頷いてから早速飛び立っていくサイファー、何となく最近物凄く速くなってる気がする。とは言え、エテルの最高速よりかは遅いか……いやまぁうちのパーティメンバーはドーピングで全員サイファーよりも速いが。

 

「タタラはん、依頼一個いい?」

「え、何でしょう?」

「この要塞のセット、譲って?」

『異議ありぃ!!』

 

 揉み手で近寄ってきた商会長から言われた言葉に当主代行と法務長が大声でインターセプトしてきた、戸惑う俺を他所に三人は喧々諤々と言い争いを始める。内容はここのセットの資金提供を誰が一番出すか、その出資した資金の多さでどのセットを持って帰るかを言い合っている。いっそ、全部終わった後でオークションでもやって競り合わせればいい気がする。素材さえ有ればレプリカも作れるけど、こう言うのはオリジナルが欲しくなるのがヲタク心だよな。

 言い争いを他所に鉄で骨組みを作り、更にウェザリング塗装を施して雰囲気を作る。セットの上でアーレムで殺陣をする為に数mものサイズで作成する。因みに要塞のデザインはこの世界に実在する最大サイズの地上戦艦の甲板を元にしている、アーレム運用を想定したアレンジを施している。一応、皇国では使用してない物なのでそこまで問題にはならないと思う……大丈夫だよな?

 

「ダリア、着艦位置を確認してくれるか?」

「Yes my Master」

 

 俺の言葉を聞いて近寄って来たダリアが物凄い集中力でセットを確認している。頭の中に有る元の映像と比較して何処にどう着陸するかを考えている様子だが、イメージとズレるらしく悩んでいる。

 

「ダリア、正直に言ってくれ。何が必要だ?」

 

 俺の質問に暫く悩んだダリアは、思い切った表情で俺に言ってくる。

 

「アーレムの視界を見ることが出来る魔導具、そんな物が欲しいです」

「なんだ、そんな物か」

 

 もっと難しい物を依頼されるかと身構えたが、実際はそこまで難しい物では無かった。まぁ、簡単なのはダリアの『トリテレイア・アーレム』が全て魔法金属で作られているからだが。

 早速ダリアからアーレムを預かって顔の部分を少し弄る。小粒の魔石を加工して『念話』の術式を応用した視覚共有機能を持たせ、それを『感応』の術式を刻んだ魔石製の画面に表示する魔導具を作る。

 

「ダリア、ちょっと此方に」

 

 インベントリからミスリルを取り出してダリアを呼べば、静かだがウキウキした足取りで近付いてきた。そんなダリアの頭のサイズに合わせて『クラフト』スキルでミスリルを成形してしていき、更に接触する箇所へ『ジャイアントバット』の翼膜を鞣した物で覆い不快感を減らす。ミスリルの銀糸で織った布は今手元に無いし、妹の為に用意された『清掃長』の素材を使うのも違うような気がして使えない。

 そうしてプロトタイプのヘッドマウントディスプレイを完成させ、早速ダリアに試して貰う。

 

「ダリア、アーレムを起動させて試運転を頼む」

「Yes my Master!」

 

 これ以上無い程に興奮したダリアがアーレムを起動させる中、言い争っていた筈の大人三人(三馬鹿)が走ってくる。なんだろう、三人とも顔が迫真過ぎて怖いんだけど。

 

「どうだダリア、視界は上手く見れてるか?」

 

 明らかに『自分達にも同じのを物を』って言ってる三人の視線を無視しつつ、状態を確認する。ダリアは暫し黙った後、口を開いた。

 

「ああ、なんと素晴らしい……世界は美しいのだと知りませんでした。これ程までに世界は広く見る事が出来るとは、別の視点からだと見慣れた筈の景色を新鮮な気持ちで見れるというのは素晴らしい。我が至高なる愛機であるアーレムと一体化したかのような充足感と万能感、この素晴らしさは快楽であり悦楽と言えるでしょう」

「一応、首の動きにアーレムが合わせるようにしてるんだがどうだ?」

「うっはぁマスター最っ高だっぜぇ!!」

「キャラぶっ壊れてるぞ」

 

 前に聞いたのはどれだけ前かパッと思い出せないダリアの魔導具ソムリエを聞き流しつつ機能を教えれば大興奮、キャラ崩壊甚だしい姿を見せてくる。

 呆れで吐息が溢れる俺の肩に勢いよく四つの手が置かれる、恐る恐る振り向けば商会長に法務長、そして当主代行と成金さんが爛々と輝く目で俺を見てくる。怖い。

 

「タタラはん」

「アレ、我々のアーレムでも」

「当然使えるように」

「出来ますよね?」

 

 態々四人で言葉切って繋げる必要有った?

 

「その……アレはちょっとダリアと『料理長』のアーレムじゃないと無理と言うか」

 

 正確には後一機出来る機体は有るが、そこは暈す。俺の言葉で目に殺意が籠る四人にビビりながら現時点で出来ない理由を口に出す。

 

「あの頭部装着式アーレム視点共有装置を使用すると頭部に据えたカメラで見た光景を共有しますが、その起動にはアーレムコアから魔力を引っ張っています。その為にダリア達のような魔法金属その中でもミスリルを多用したものでないと消費魔力が多過ぎて稼働時間が減ることになります」

 

 コアから流れる魔力を最高効率で循環させるミスリルだからこそ稼働に余裕の有る構造だ、魔鉄製の四人のアーレムでは効率が悪過ぎて稼働時間が三割は削れてしまうだろう。必要な時以外はカメラを切っていればいいだろうが、浪漫に染まったこの四人がそんな割り切りを出来るとは思えない。絶対に常時稼働させて遊ぶだろ。

 それにこの試作品のヘッドマウントディスプレイはミスリルを使用した超高級品だ、都市長に見られればまたハリセンで叩かれながら説教されるし値段その他も都市祭の後に回されるだろう。代替の素材を見付けないと値段も4000万くらいするんじゃないか?

 

「それに、アーレムがしっかりと流行ったなら後出してアリーナ限定の要素を入れようと思いますしね」

「タタラはん、それは?」

「今はまだ構想と設計図の用意だけで実機の用意も何も出来てないですけど……用意出来たら試験運転をお願いしたいんですけど」

『喜んで!』

 

 大の大人四人が大興奮で受け取ってくれた。つか、成金さんは何時の間にアリーナに着いたんだ?

 

「久し振りね、ジュロン。元気そうで何よりよ」

「あ、お久し振りです」

 

 燥ぐ大人四人を眺めていたら成金さんに付いて来たらしい猫娘さんが声を掛けてきた、本当に久し振りである。今日は探索者としての服装では無いらしくノースリーブシャツとタイトなパンツスタイルで、髪も肩口辺りで一つに纏められている。身体のラインが見えて改めて思うがスタイル良いなこの人。

 

「それで、今日はどんな出鱈目で頓痴気な仕事するのよ?」

「俺の評価って……」

 

 都市長なら一纏めにタタラってるで済ませそうな評価を分けて言われると地味にダメージが増える、都市長なら此処に理不尽とか理解不能なんて意味を含めそうであるが。

 

「今日はアーレムの宣伝用の映像を撮る予定ですよ、今アリーナ全体を使って用意してるのはアーレム全体の世界観を共有するためのものです」

 

 百分は一見に如かずと言うことで、早速イメージ映像を用意する。相変わらず最前列で正座待機をかますダリアと『料理長』は無視しつつ、成金さんと猫娘さんに向けて見せれば案の定成金さんは大興奮だ。対して猫娘さんは少し考えるように口元を押さえている。

 

「店主さん、私も撮影に協力しても!?」

「ええ、是非とも」

「っしゃオラァ!!」

 

 興奮しすぎじゃないかな。苦笑いが浮かぶ中沈黙を続けていた猫娘さんに視線を送ると、ゆっくりと向こうも顔を俺に向けてきた。

 

「ねぇ、ジュロン。この映像を再現する上での特殊効果ってどうするつもりなのかしら?」

 

 そんな質問に少し驚く。

 

「えっと、火薬なんかを多用して実際に壊したりしようかと」

「アンタ馬鹿なの?」

 

 撮影方法を伝えたら真顔で言われた、いや映像を編集する時間を考えたら火薬に頼らざるを得ないと言うか。

 

「そんな一発撮りしか出来ないのは止めなさい、壊れたら直せ……いやアンタなら直せるか」

 

 撮影に関する問題点を挙げようとしたらしいが、それが俺だからで解決して頭を抱える猫娘さん。一度しか顔合わせしてない筈なのに何でこんな俺に対する理解度が高いのか。

 少しの間頭を抱えていた猫娘さんは自分の考えと折り合いが付いたのか顔を上げて俺を見てきた。

 

「火薬じゃなくて魔法を使いなさい、正直アンタのクラフト技術でどれだけ出来るかは分からないけど条件付きで発動する術式くらいなら簡単に出来るから」

「あの……俺、攻撃系魔法の術式を覚えて無いんです」

「嘘でしょ?」

 

 猫娘さんが宇宙を背負ったような表情をした。攻撃魔法を習得する為のステータスには届いているから問題は無いのだが、攻撃魔法を覚えるより属性武器を作ったほうが強力なんだよな俺の場合。

 俺の内心を知ってか知らずか固まってた猫娘さんが盛大な溜息を吐いた後に俺に改めて向き合ってきた。

 

「今回の事、私にも手伝わせなさい。魔法がどれだけ便利な物かを教えてあげるわ」

 

 そんな猫娘さんの言葉に成金さんが驚いてる、もしや猫娘さんって魔法関係で高いプライド持ってたりするんだろうか?

 次々に増えていく協力者を頼りに撮影計画を立てる。編集作業に時間をあまり割けない関係上アーレムの撮影はカメラを並行で運用しての撮影、ダメージ効果や爆発は猫娘さんの魔法効果に一任する。上下のカメラはゴーレム達を活用し、正面からの画はエテルが担当。地上戦艦の操作は『料理長』で、甲板での戦闘員は当主代行と商会長に法務長そして成金さんの四人が担当してくれる事となった。最後に俺の担当は様々な小物の操作である。

 

「それじゃ、撮影を始めるか……最初は地上戦艦のシーンにするか」

《早速私の出番ですね!》

 

 やる気が天元突破してそうな『料理長』に苦笑いをしつつも、何箇所ものアングルから同時に地上戦艦の動きを撮影する。元ネタのは先行するヘリに追随する地上戦艦だったが、比率が合うヘリの用意は無理なので極小の鳥型ゴーレムを作り代用する。コアが無いので自律行動こそ出来ないが、少しでも魔力を込めれば『念話』の応用で動かす事が出来る。太陽が照り付けるような空を舞う鳥を下からの画で撮りつつ上に回り込むようなカメラワーク、そこからカメラを引いて行くと映り込む巨大な地上戦艦がゆっくりと進んでいく。戦艦の上には魔導銃を装備したアーレムをズラリと並べられている、何機も載せられるように双胴船型の地上戦艦を選んだのだが、比率を考えて作った結果全長だけでも7mは有る巨大な物が出来てしまった。実在するモデルである為に元ネタのような多脚では無いが、土埃を上げて廃村の建物を破壊しながら進む姿を撮れば雰囲気が出る。

 冒頭の僅か数十秒程のシーンでは有るが、世界観を伝えるには十分ではと思う。この地上戦艦は壮絶なジャンケンの結果商会長が持って帰る事になった……後で側面に俺のサインが欲しいって言われたけど本当にいいのか?

 撮れた画を全員で視聴、ヲタク心持ちは大喝采を上げる。猫娘さんは少し俺に土埃や陽光の反射にアドバイスをしてくれて、実践して見せてくれた。ゴーレム達がそれをカメラで撮っていてくれたので、重ねて調整する事で演出を強化する。猫娘さんは咄嗟にやったコレに驚いているが、出来を見て満足そうに頷いてくれる。

 続いてはダリアの『トリテレイア・アーレム』のシーン全般だ、コレはアーレム用の『ファイヤーワークス』を装着するシーンから発進さらには突入迄を一括で撮る形になる。

 

「エテル、発進後のシーン撮影は練習しなくていいのか?」

「そうだね、何回か練習させて欲しいかな」

 

 流石にダリアの『トリテレイア』をフル装備させて撮るのは難しいので、サイファーを使って練習してもらう。コレにはゴーレム達も撮影の予行演習として付き合わせ、速度を合わせて撮影させる。

 最初は散々な物だ、エテルも馴れてない故にブレが酷い。ある程度は抑えられない事は織り込み済みだが、流石に映像で酔いそうになるのは駄目だろう。エテルは少し考えながら飛び方に工夫をしていった、何度か速さを調整をしカメラの持ち方を変えていってかなりブレが抑えられるようになった。寧ろ、微かなブレが迫力を出すようになって嬉しい誤算である。

 そんな練習風景を見ながら俺は急造の発進デッキを作成していた、練習だの何だのはコレを作る上での時間稼ぎにしか過ぎない。ダリアの『トリテレイア』に『ファイヤーワークス』を装着する為に本体を宙吊りにする構造と、ハンガーのアーム機能を応用した取り付け機構。更に細かいところを写せるように小型のカメラを大量に取り付けた会心の出来だ。因みにコレは撮影後法務長が持ち帰る事が決まっている、当主代行にジャンケンで勝った時の雄叫びは年甲斐も無い姿だったが男の子の体現だったと言える。

 

「……ジュロン、この複雑な機構を自動化してるの?」

「出来はしますけど今回は俺の操作でやりますよ。アーレムのパーツじゃ軽過ぎてアームの動作が速くなって迫力落ちちゃいますから」

「出来るのね……」

 

 猫娘さんの質問に軽く答えれば何処か諦めにも似た溜息を吐かれた、何故か本日の不憫枠って印象がするな猫娘さん。

 組み上がったデッキにダリアが『トリテレイア』を吊り下げる、脚が丸々増加エンジン化してる故の構造だ。俺の操作で『トリテレイア』をアームが掴んでいく様子を見て満足そうに頷いている、因みに油圧表現で掴んだアームから蒸気を噴出しているのだがそれを殊更気に入っているらしい。

 

「……ジュロンさん、宜しいですか?」

 

 汚し塗装も終えて中々にいい感じになったデッキを点検しているとスオーノさんに話し掛けられた、何だろうか?

 

「先程の映像に使われていた音楽ですが、私が代わりに歌って使うのはどうでしょう?」

「……え?」

 

 振り返って顔を合わせるとそんな事を言われた。いや、前世の著作権上の問題であの歌(Day After Day)を直接使う訳にはいかないのだが、かと言って歌って貰って使うのも駄目だと思う。

 

「いや、流石に……」

「別の方の歌を我が物のように歌うのは私も気が引けます。ですが、コレをしないと映像の格好良さを損なう……違いますか?」

 

 違わない、正直自分の中に有る気持ち悪さやらなんやらに無理矢理折り合いつけてやるべきではとも思う。

 

「歌を直接使う訳ではなく、楽器や歌詞をアレンジしてしまえば……」

「いや、でも……」

「決断を。流石の私でも半日は時間が欲しいんです」

「半日有れば作れんのはバケモノですよね?」

 

 何処からか『歌方面のタタラじゃん』とか聞こえた気がする、それはそれとしてどうするべきか。

 

「タタラはん、此処は折れてんね」

「商会長……」

 

 そんな俺に背中から声を掛けてくる商会長、渋い顔をする俺に対して更に言葉を続ける。

 

「アーレムん興味持って貰おって目的ん、楽曲もまた必要な武器なんね。成功させたいん皆同じん、だから此処は泥を被ってん」

 

 商会長はアーレムをこの街で流行らせると言っていた、その為には楽曲も必須だと言う。俺の我儘でアーレムの事に巻き込んだのだから、これ以上我儘を続けるのは不誠実だろう。俺の持つ気持ち悪さで他人を邪魔し続けるのも違うか。

 

「……分かりました。スオーノさん、宜しくお願いします」

「はいっ!」

 

 胃の奥からせり上がって来るような気持ち悪さを飲み込んで、スオーノさんに依頼する。物凄く嬉しそうな返事をされて複雑な気分だ。

 スオーノさんは凹み続けている団長さんに蹴りを一発入れて、早速楽譜を書くことに取り掛かるらしい。劇団で保有している楽器と照らし合わせて何を使うのかを決めるみたいだ……その楽器の維持費で金が無いのでは?

 胸のうちに湧く訝しく思う気持ちを他所に、撮影の準備を始める。音楽に付いては俺は一切関われないので画を撮ることに集中しよう、精神衛生的にもそっちの方がいい。

 

「……ダリア、そろそろ始めよう」

「Yes my Master!」

 

 気合いの入ったダリアが準備を始める中、エキストラを買って出てくれた四人に向き直る。

 

「皆さんも準備をお願いします、元ネタとの差別化で一番頑張って貰いますよ?」

 

 俺の言葉にアーレム操作担当の四人は親指を立てて応えて来た、何でこんなに気合い入ってるんだろうな……まぁ俺が同じ立場でも気合い入るけど。

 元ネタとは違い、ヘリによる装備の輸送は無い。その代わりに馬車での装備運搬と、小型のゴーレム達が鎖を引く事で腕に付ける武装等を持ち上げるシーンに差し替えた。

 背中に追加ブースターを装着するシーンには某機動戦士の一角獣にてプロペラント・タンクを装着するシーンのオマージュを交ぜた、ガイドビーコンはやはり正義だ。それらが映えるようにデッキの上には布を被せている、継ぎ接ぎにして中に光が少しだけ差し込むようにしたのはちょっとした拘りだ。

 装着し、それを見ていた整備兵の姿をした小型ゴーレムが合図を送った瞬間に風を吹かせて布を飛ばす。陽光の下に晒された『トリテレイア』が金属質な冷たい光沢を反射する、アレンジしようと考えた際に入れたかった演出だ。背中のブースターに続き脚のバーニアを装着していき、最後に手元まで持ち上げられた武器を掴む。

 発進準備が整った『トリテレイア』の前のケージが開いて行き、ブースターに火が灯り始める。全身を拘束していたアームが離れた瞬間、『トリテレイア』は猫娘さんに頼んで発生する術式を組んでもらったべイパーを残して一気にすっ飛んでいく。そんな『トリテレイア』をエテルとトロッコが囲み、地上戦艦が有るバトルフィールドへ繋がる廊下を駆け抜けていく。途中で増槽を外し、更には俺のゴーレム扮する警戒用の地上ドローンに向けて多弾頭ミサイルを撃ち込んでいく。着弾地点で発生する爆発と爆煙は猫娘さん渾身の魔法術式だ、ミサイル側にその二つの効果を発生させる魔法術式を刻んだ結果物凄く臨場感が出ている。

 そうして廊下を抜けてバトルフィールドに飛び出す、エテルは咄嗟に上に飛んで『トリテレイア』の進行方向を空けつつもその後ろに身を捻りながら着く。『トリテレイア』と地上戦艦が同時に映るアングルを上手く取っていて思わずガッツポーズだ。

 突入直前に背面から伸びる『エリンジウム』を発射、突入に邪魔なアーレムを一機排除しつつ『ファイヤーワークス』をパージする。本体に当たらないように細かく分解されていく『ファイヤーワークス』を残し、『トリテレイア』は甲板に着地する。火花を散らしながら甲板を滑り慣性を殺し、侵入者に即応出来ないアーレム達に銃弾や刃を浴びせていく。このアーレム達にはコアを入れておらず、盛大に破壊できる物だ。弾丸で穴が空き、刃の一振りで両断されて爆発する。火薬でやろうとしていた事を全て魔法で補う猫娘さんに頼り切りだが、条件付きの発動ではなくタイミングを合わせて術式を稼働させて此等を上手く外連味の有る画にしてくれているのには本気で頭が下がる。つか、何でこんな浪漫を理解して……ああ成金さんの影響か。納得。

 そうして蹂躙していた『トリテレイア』に三機のアーレムが踊りかかる、量産機らしく見た目と装備を統一しているこの三機の操作は当主代行と商会長そして法務長の三人だ。ダリアは盾も兼ねている魔導銃で受けながら、肘にマウントされている魔導剣で反撃を試みるもそれを防がれて徐々に追い詰められていく。

 この量産型アーレムは盛大に壊していいと伝えているので、ダリアの強さを演出する為に何処かで破壊されるのだが……先ずは商会長が先陣を切って散っていった。零距離射撃で胴体に穴を開けられる商会長機だが、最後の意地でその魔導銃を押さえ込みその停滞を狙った法務長が魔導銃ごと腕を狙う。

 咄嗟に魔導剣銃を手放したダリア機に向けて次は当主代行機が襲い掛かる。残った魔導銃で迎撃しようとしたダリア機だが近接戦闘の技術は当主代行の方が上だ、魔導銃を弾かれて無防備になったその本体へ返す刀で一閃した。ギリギリてで回避したダリア機にさらなる追撃を仕掛ける当主代行機に、肘にマウントしていた魔導剣を手に持ち替えたダリア機の突きでコクピットを貫かれて腕がダラリと垂れ下がった。

 そうして仲間が生命を賭けて作った隙を突いて法務長機がタックルを仕掛けて脚を止める、ダリア機は手に持った魔導剣をその背に突き立ててトドメを刺すがそれこそが法務長機の狙いだ。完全に動きの止まったダリア機の胸に爆発が起きる、衝撃で仰け反るダリア機が視線を向けた先には大型の魔導銃というか魔導砲を構えた成金さんの機体が居た。そのままニ発三発と砲撃は続き、衝撃で吹き飛ばされたダリア機はもう動かない法務長機を伴って地上戦艦から吹き飛ばされる。

 途中機体のバーニアと地上戦艦の砲塔を掴む事で勢いを殺しつつ地上に着地、再度の突入には推力が足りない巨大な地上戦艦の威容を睨み付けるダリア機。最後に全身のパーツが開いていき、ダリア機の目が輝き周囲の廃墟を吹き飛ばす衝撃波を放った。

 

「……はい、撮影完了です。お疲れ様でした!」

 

 俺の声に参加していたメンバーは歓声を上げて近くの面々を称え合う、特にアーレム操作のメンバーは滅茶苦茶楽しそうだ。

 

「ジュロン、お疲れ様」

「はい、お疲れ様です」

 

 声を掛けて来た猫娘さんに応える、連続して魔法を行使した為かその額に汗が浮かんでいるのが見えた。

 

「早速編集作業を始めましょう、魔法効果の追加をするなら早い方がいいしコレを公開するまで時間も無いでしょ?」

「そうですね……出来れば一ヶ月は時間欲しかったです」

「私なら半年は欲しがるわよ」

「確かに」

 

 軽口を叩き合いながらカメラから送られていた映像を抽出する、正直どれもいい画で迷うな……保存してメイキング映像として残すか。

 編集を開始した俺達二人に吊られて他の面々も集まってくる。全員が見られるように、そして同時に画を見る為にプロジェクターに投影して全ての画を表示する。可視化される其々の仕事に改めて興奮するメンバー、喧々諤々とこの場面を使いたいや映像の繋ぎ合わせ方を意見し合う。確かに元ネタは有るが、この世界らしくアレンジしてこそだろう。俺もアイディアを出しつつ全員で格好良い映像を作り出していく。

 そうして三時間程して、宣伝用の動画の雛形が完成した。元の動画が200秒程の動画なのに対して、此方はガッツリ戦闘を入れた為に300秒を越える動画になってしまった。宣伝用の動画としては長いが、俺の編集能力が低くて場面の取捨選択が上手く出来なかった。引き算の美学と言うのは本当難しい。

 

「商会長、一先ずコレでどうですか?」

「もう最高なんね!」

 

 依頼主の商会長に確認すれば、滅茶苦茶嬉しそうに答えてくれる。1つの動画撮影で5時間くらい掛かってるが、この後も4機分残ってるんだよな……今日中に終わらなくない?




前皇帝「アーレムのアリーナなら俺がポケットマネーで運営費補填すんぞ」
当主代行「虎熊家からも出資しよう、幾らかね?」
法務長「貴方達だけにいい格好はさせられませんな。それで、どれだけ必要なのですかな?」

都市長「もう胃を全摘した方が楽かしら」

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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