※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。
『看板娘』イベント進行中。



アーレムのCM撮影、こんなに延ばすつもり無かったのに他で描写しないからと膨らませたら物凄い文量になってて一番驚いたのは俺なんだよね……。


都市祭準備期間最終日:個別宣伝動画作成

 アーレムの宣伝映像を撮り終えて、次の撮影の為にバトルフィールドを片付ける。地上戦艦は商会長に、『トリテレイア』の発進デッキは法務長へと其々渡す、二人とも物凄く喜んでくれて嬉しい限りだ。ジャンケンに負け続けた当主代行は甲板のセットを進呈する、かなりデカいセットなので置き場所に困るだろうに滅茶苦茶喜んでいた……後でお義母さんに折檻されなければいいけど。

 因みに出資してない成金さんにはダリアとの戦闘シーンで破損したアーレム本体を参加したお礼として渡す事になったのだが、壊れたアーレムはこの後の撮影でも使う予定なので引き渡しは全部終わった後になる。壊れた物でも喜んでくれて嬉しい限りだが、申し訳無くも感じる。

 

「それじゃ、其々の宣伝用の映像撮りましょうか。最初は誰からにします?」

 

 正直、言ってからやらかしたと思った。俺が同じ立場なら絶対に自分からってなるからな。

 

「……先に確認だが、タタラ殿は其々の映像の下地は考えているのかね?」

「え、はい。気に入って貰えるかは分からないですけど」

 

 当主代行の質問に答えると全員がその場で整列して正座した。何故か『料理長』は人数分のコップと軽食を配ってから並んで正座している、地味にポップコーンの用意を忘れた事に後悔している思念が飛んできて反応に困る。

 そうして四人分のアーレムに対して俺が考えたイメージ映像を流していく、時間は30秒から40秒の間に収めるようにしているが反応は様々だ。

 

「タタラはん、さっきん比べて短くしてんはなんなんね?」

「最初に撮ったやつは世界観を共有する目的だからっていうのが主だからですね、それに各種アーレムの宣伝まで長くすると見ている側もダレてしまうのも理由になります」

 

 短く、それでも強烈に印象を残す物を作る必要が有る。出来るなら其々のアーレムで全く別の雰囲気にしたいところだが、俺一人で作ればどうしても方向性が偏ってしまう。もっと時間が有れば良かったが、それでも受けたのは俺なのだから全力で前世の知識を引っ張り出してきた。

 

「マスター、私の『ヴァルキュリア』やこの低身長巨乳天使のアーレムが無いのは何故でしょう?」

「現時点で俺以外に作れない代物を宣伝すんのも違うだろ、他のは外観のイメージで行けるがお前達のは技術と素材からして別次元だ」

 

 因みに『ゴーレムクラフト』スキル持ちの猫娘さんにダリアの『ヴァルキュリア』を見せた結果ドン引きした視線を向けられたので再現性がほぼ無いのは確定している。

 いやまぁ、あれは『ペガサス』単体でアーレムとして動かせるし飛べるし魔力の充填も出来るって考えたら確かにスペックとしてぶっ飛んでは見える。それでも構造を理解して素材さえ用意すれば誰でも作れると信じてる。

 

「それに、今回お披露目されるのは四人のアーレムでお前の『ヴァルキュリア』は出演しないからな。謎のアーレムを宣伝するのも変だろう?」

 

 そう、今回は都市側の三人と陽出國側の当主代行一人による対立と融和による国交樹立宣言を目的とした演劇が前提に有るのだ。そこに参加してない筈の『ヴァルキュリア』を宣伝したとして、疑問を持たれて終わるだろう……まぁ撮った宣伝も大分疑問に持たれる内容な気もするが。

 そう説明するとダリアは渋々ながら納得して頷いてくれた、『料理長』に至っては目立つのが嫌なのだろう特に文句を言ってこなかった。

 

「それでは、何故『トリテレイア』は映像を撮ったのですか?」

「お前の『トリテレイア』は姿を知る人が多いだろ」

「……今回の映像で認知はされると思いますが、今は無名だと思います」

「いや、『トリテレイア』は以前この都市を救った実績が有る。名前は知らなくても姿を見た人は多い筈だ」

 

 あのトリモドキとの戦いで空を駆けて奴と空戦を披露しているのだから、その姿をCMで見せただけでもアーレムに興味を持たせる事も出来るだろう。後は格好良く戦う姿を出して子供の心を掴めれば上々だと思う。

 

「もし、この宣伝映像を最大まで延ばすとどれくらいの時間になりますか?」

「最大でも90秒で収めるつもりです」

「成る程ね、確かにそれなら短時間の集中に収まるでしょう」

 

 成金さんの質問に答えると、猫娘さんが納得して頷いてくれた。

 

「見た限り派手な爆発とかは無いのね、私が協力できるのは光源かしらね」

「はい、出来れば太陽光の再現が望ましいんですけど」

「多少の色変えは余裕よ、任せなさい」

 

 ヤバい、今回猫娘さんの技術に助けられっぱなしだ。何というか頼りになる姉って印象が強くなってきた。

 

「撮影する順番は考えて無いですけど、出来れば法務長と息子さんは連続して撮りたいですね」

「……もしや、私達のアーレムの構図は対になってるんですか?」

「はい、その通りです」

 

 俺の希望を聞いた成金さんが思い至ったように呟いた。それを肯定すると成金さんに見えない角度で法務長が感謝を伝えてくる。少しお遊びとしてこの親子間のアーレムに繋がりを持たせただけで感謝されてもこそばゆいのだが。

 

「ふむ、この中で設備の準備が特に必要無く直ぐに撮影を始められるのは儂であるな?」

「ええ、さっきのでいいんならですけど」

 

 当主代行の確認にそう答えると、ニヤリと笑って返される。

 

「よい、ああ言った静の雰囲気と言うのも陽出國の美学に通じる物がある。30秒前後と短く纏めると言うのも合致しているしな」

「自分で言うのもなんですけど、他に比べたら大分地味ですよ?」

「なに、派手な物が揃っているからこそ儂のような物が映えるのだろう?」

「……侘び寂びなんて子供には伝わりませんよ」

「その分、分かる者には分かる良さが有る」

 

 最終確認として何度か確認するが当主代行は完全に乗り気である、そんなに気に入って貰えたのなら此方も気合いを入れよう。

 そうとなれば早速小道具を作ろうか。

 

「すみません、猫娘さん──」

「……あんた、私の事そんな風に思ってたのね」

 

 魔法の専門家に声掛けしようとしたら心の声が漏れた、猫娘さんからは苛立った雰囲気を感じるが横で聞いてた成金さんは口元を押さえて震えている。

 

「そう言えば、名乗っていませんでしたね?」

「だからって猫娘は無いでしょ?」

「いや、ピッタリだと思うよ、それに、名前からそこまで離れてないでしょセタリア?」

 

 セタリア……まさか名前の元はセタリア・ウィリディス(ねこじゃらし)か?

 

「はぁ……改めて名乗るわ。セタリア・キティ=グレイズよ、なんで猫娘なのよ」

「いや、その……」

「……まぁ、猫っぽいとは昔から言われてたけれどね」

 

 まさか名前にキティとは、見た目の印象が猫っぽいと思ったら名前まで。言い淀む俺に対して何処か自嘲気味に言う姿に少し申し訳なく思う。

 

「と言うか、私が猫娘ならコイツは何よ?」

「お前、そんな……」

「成金さんですね、最初に来た時の第一声が『店主、傷薬が欲しい! 有るだけ出してくれ!!』でしたから」

「なんでそんな成金みたいな頼み方してんのよ!?」

 

 猫娘(セタリア)さんの疑問に答えれば思いっきりツッコミが入った。いや、本当あの時は服装も含めて成金にしか見えなかったわ。

 

「で、でもそれくらいしないと舐められるかなって……」

「世話になるクラフターの店で舐められるも何も無いでしょうが!!」

「まぁ、その時は1748個が在庫だったので買えてませんでしたが」

「あんたもあんたで何でそんなに用意してんのよ!?」

 

 何だろう、猫娘(セタリア)さんが全力でツッコミを入れている姿に妙な安心感が有る。あっちこっちにツッコミを入れて肩で息を吐く猫娘さんは何度か頭を振った後に改めて俺に向き直る。因みに横で聞いてた法務長は俺の店に初めて一緒に来た時の遣り取りを思い出したのか苦笑いしている。

 

「それで、何を私に頼みたいの?」

「はい、蝋燭の火を再現する魔法術式を用意して欲しくて」

「またけったいな物を欲しがるわね。まぁ、さっきの映像を観る限り理由は分かるから協力するけどね」

 

 そうして猫娘さんはその場で術式を構築していく、言われて即座に作れるのは大分ヤバいのではと思うが……コレもしかして他人から見た俺なのでは?

 ものの5分程で術式を構築し、軽く試運転して問題ない事を確認する。俺も魔法を学んでいれば出来そうではあるが、猫娘さん程になるには10年単位での研鑽が必要だろうか。やっぱり道を突き詰める人は辿り着く場所が一緒なのではとそんな事を思う。

 術式を理解してから小道具であるアーレムサイズの燭台を作ってから先端部に刻む、複数個用意し終わったらバトルフィールドの上に並べていく。

 

「一度カメラの様子を見るので此処の明かりを落とします、皆さん足元に気を付けて下さいね!」

 

 そう呼び掛けてから『念話』でゴーレムに指示を送る、すると会場内の照明が消えてバトルフィールド上の燭台の明かりだけになる。それをカメラで撮影し、写り具合を確認すれば光量不足で殆ど見えない。

 早速カメラのレンズを取り外し、魔石で高純度かつ高精度のレンズを作成する。前世に有った古い映画で、燭台だけの撮影場を映す為に当時最新技術の塊で有った宇宙開発で使う静止画用のレンズを使ったなんてエピソードが有った。当時のレンズの生成技術もそうだが同じだけフィルムの性能が影響してかなりの撮影難易度だったと言う。時代が進んで俺が生きていた次代では様々な撮影機材の技術が発展し、市販のカメラですら同じ状況下でより鮮明に撮影が出来るようになっていた。

 レンズガラスの高純度化や細密化による他積層構造におけるレンズ一枚がより薄くなたりと様々な要因が有るが、レンズ表面のコーティング技術の発展もそれに関係している。俺が死ぬ前の時期ではレンズ表面にナノ単位の微細な凹凸を作り乱反射を防いでいたなんてレベルだったので、俺はそれを『クラフト』スキルで再現する。

 30枚程の歪曲度の違う魔石製のガラスを用意し、ミスリル製の筒の内に台座と共に並べていく。カメラに接続し『クラフト』スキルで調整、映し出される映像がよりクリアになる様に微調整を続け望み通りの画になった際にそれを術式として記録させる。何なら『念話』を応用して脳内のイメージに添うピントになる様に作ってもいいのだが、その場合はもうカメラをゴーレム化した方が早いような気がする。今回もゴーレム達の眼を借りてるし、確実に楽ではあるのだが同時に俺にしか使えなくなるってデメリットも存在する。

 俺が不在時にまた撮影がしたいとなった時にそれでは不便だからこのカメラはしっかりと作らなければならない、俺の死後でも使えれば新しいアーレム作品が増えていくだろうしな。

 

 そうして満足いくカメラが複数出来て、早速撮影を始める。

 バトルフィールド上には複数の燭台とそれに囲まれた当主代行の『大紅蓮』がコントローラーでは無い台座に鎮座している。ゆっくりと立ち上がらせて貰い、そのご燭台の中央へと歩いて貰う。そこからは当主代行に剣舞を舞わせて貰う。

 一応、撮れ高が欲しくて少し長く舞って貰ったので撮影時間は三分程だがコレを編集しなきゃならないんだよな。

 と言うわけで早速編集を始める、

 最初は蝋燭の火をアップで写し、ピントをずらして奥の『大紅蓮』の顔に視点を合わせる。その後、台座からゆっくり立ち上がる『大紅蓮』を右側面のカメラで写したカメラの画像に繋ぎ、ゆっくりと燭台の中央へ歩み出させる。今度は上空のカメラで写されている燭台に囲まれる中央に立った『大紅蓮』は、大太刀をゆっくりと引き抜く。そこからは当主代行が『大紅蓮』に剣舞を取らせる。静かに美しく、太刀を振る舞うその姿は感嘆の息すら吐かせない。

 大アップになった蝋燭の火を刃が通り過ぎ一瞬斬れる様を撮らせて貰えたのは当主代行の技量が有ってこそだろう、そうして最後に正面のカメラへ向けて歌舞伎の大見得を切って静止。

 

「当主代行、ちょっと手伝って下さい!」

「むぉ、なんだね!?」

 

 俺の声掛けに編集された映像に集中していた当主代行が驚きの声を上げる、手早く魔導式のペンタプを作り更には筆ペンタイプの液晶ペンを用意する。

 

「ここ、この『大紅蓮』の右側に縦書きで大紅蓮って書いて下さい!」

「任せろ!」

 

 やって欲しい事を伝えると腕捲くりして滅茶苦茶気合いの入った三文字を書いてくれる、やはり貴族の当主だけに教養が有るために力強くも美しい筆跡で大紅蓮と書かれた。いやぁ、やっぱり武者鎧に筆字は正義だわ。まぁ、漢字というか此方では陽出國字なんて殆ど伝わらないので小さくその横に此方の共用字で読み仮名を振っておくのだが。

 90秒で収めようと思ったのだが、出来たのは120秒の動画だ。本来の想定よりも30も長い、何処を削るか。

 

「あの、少しいいですか?」

 

 編集作業で悩む俺に、ハカンサスの団長さんが話し掛けてくる。

 

「はい、なんですか?」

 

 何事かと問えば、少し言い淀んだ後に続ける。

 

「その映像の編集、私にやらせて貰えませんか?」

「えっと……動画編集を、ですか?」

「はい」

 

 いきなりの事でかなり驚いた、少し悩むが取り敢えず先に他の人の物を撮っていったほうが効率がいいだろう。そう考えて一度編集した物を別の所へ保存して、コピーした物を用意する。

 

「それでは、コレを使って下さい」

「あの、使い方が……」

「……ダリア、代わりに操作頼む」

「Yes my Master」

 

 教えるのでは無くてダリアに操作の肩代わりをさせる、CMの撮影にはダリアの力に頼るような激しいアクションは無い為にこうした事が出来る。

 

「あの、いいんですか?」

「ええ、アレからは必要な楽器の状態を確認出来たので。楽譜を書いて編曲の時まで仕事が有りませんから」

 

 スオーノさんに確認するとにべもなく言われた、完全にスオーノさん側で必要な仕事が無いんだろうなコレ。

 

 取り敢えず、次の準備に入る。因みに次は商会長だ、コレはもう一機アーレムを使うので操作を当主代行に頼む。今回の撮影セットとして商会長から用意してもらった粘土を成形して商会の建物と周辺を再現する、やはり商会長と言えばこの場所だろう。

 状況は夕暮れ、紅く暮れなずむ街中。初手は最初のCMで使った破損したアーレムを建物の壁に叩き付ける、再び立ち上がろうとするアーレムにグレイブを突き立てる。突き立てたグレイブを『玄武』が引き抜き、振り返らせる。その周囲には破損したアーレムが多数、そしてグレイブを一度振るってから構える『玄武』。次に両肩のプレートのハッチが開き、内部からマイクロミサイルを射出する。まぁ、このミサイルって本来アーレムでは使える物では無いんだけど。

 そうして撮影を終えた、撮影時間は20秒程で今度は逆に時間が短くなってしまった。

 

「あの、商会長……」

「短いん時間で済んじゃってんね、ボクはコレにめちゃ満足してんね」

 

 しまったな、法務長と成金さんに頼んで複数のアーレムと戦ってる画を撮った方が良かったか?

 そう思い悩んでいると、法務長と成金さんが近付いて来た。

 

「お悩みですかな、工匠長?」

 

 口を開く法務長に思い悩む、流石に少し素材が無さ過ぎる。もう少し商会長と言うか『玄武』に暴れて欲しいと感じてしまうのは元の設計者が俺自身だからだろうか?

 

「……少し撮り直したいなと」

「むぅ、ボクん満足なんね?」

「……俺が、この『玄武』はこんなもんじゃないって納得出来てないんです」

 

 俺の言葉を聞いた商会長は一瞬驚いた表情をした後、嬉しそうに頷いた。

 

「そうなんね、なら撮り直そか」

「すみません……」

「いいんね、タタラはんが見せてん珍しわがままよ」

 

 我儘……うん、完全に俺の我儘だな。時間に余裕が無いのによく我儘に付き合ってくれるな本当。

 

「あの、お二人にも協力をしてほしいんですけど」

「ふふ、当然手伝わせて貰いますとも」

「父上だけ格好付けないで下さい……店主さん、私も当然力を尽くさせて貰いますよ」

 

 法務長と成金さんも乗り気になってくれて助かる。そうして撮り直しを開始しする前にセットを直しつつ更にカメラを増やしつつも建物内部の部屋を作る、もう少し演出を凝りたくなった。

 再度アーレムを準備して貰い撮影開始、先ずは当主代行の操るアーレムを建物に叩き付けて貰う。衝撃からの硬直から抜け出して動こうとする当主代行のアーレムにグレイブを突き立てる『玄武』、振り向くと同時に襲い掛かった法務長のアーレムを振り下ろされた剣ごと弾く。そうして隙を作った法務長のアーレムのカバーに入った成金さんのアーレムだが、グレイブの石突きで足を払われて倒れる。体勢を整え再び挑みかかる法務長のアーレムだが、その胸に『玄武』のグレイブが突き刺さり上段に構えていた腕がダラリと下がる。

 倒れていた成金さんのアーレムが立ち上がり剣を薙ぐ、しかし『玄武』はその一閃を身を屈めて回避した後肩のプレートに相手を乗せる形で持ち上げて地面に叩き付ける。すかさずその顔面にグレイブを突き立てる『玄武』は、そこからゆっくりと振り返るとその先には敵アーレムが隊列を組んで近付いてきていた。

 その姿を認めた『玄武』は肩のプレートのハッチを開き、マイクロミサイルを発射。そこで映像を撮り終える。

 

「……ありがとうございます、おかげで満足できる画が撮れました!」

 

 俺の言葉に笑う大人四人、俺も大分子供心を全面に出してしまったが後悔は無い。

 早速編集……と行きたかったがダリアとハカンサスの団長はまだ編集作業の真っ最中である。ただ、様子を見るにダリアがやる気を出している……もしやかなり出来がいいのか?

 

「……少し待ってください、動画編集用にもう一つワードプロセッサ作るので」

「アレ、貴重な物なのでは?」

「量産は出来るんですよ、しても殆どの人が使えないだけで」

 

 俺の言葉に疑問を持った成金さんに答える、量産した結果中枢の事務関係を一次的に止めるくらいに脳の処理演算能力に負担を掛ける代物だと知ったくらいだからな。ダリアは機構乙女だから問題ないとして、俺はなんかずっと使えてるけど。

 手早く中型の魔石を板状に形成して術式を刻む、複数重ねて擬似的な演算能力を持たせ更にそれを別のモニターとして用意した魔石に投射する用に『念話』と『感応』を繋げる。久し振りに作るが俺の『クラフト』ランクが上がった為か一分掛からず作れてしまったな、まぁ特に問題は無いが。

 早速中に先程撮影した動画を取り込み編集を開始する、始まりは建物のセット内に仕込んだカメラからだ。普通の部屋を模したセット内、次の瞬間には壁をぶち破りアーレムが侵入する。画面を切り替えてそのアーレムが建物に埋まっている姿を映し、立ち上がろうとした所に『玄武』がグレイブを突き立てる。痙攣し動かなくなったアーレムから『玄武』が得物を引き抜き、ゆっくりと振り返る。猫娘さんの魔法エフェクトを使用して『玄武』の両目に光を放たせる、やはりロボにはこの演出が必要だ。

 そんな『玄武』に飛び掛かるアーレム、先ずはそのアーレムの背後からのカメラで映し続いて『玄武』の背後からのカメラに切り替えて映す。グレイブと剣がぶつかり合う所に小さな火花エフェクトを追加、両機の膂力を演出しつつアーレムが吹き飛び背中を叩き付けるシーンに小さな石礫と煙で地面を削る様を演出。そんな味方を助ける為に駆け付けるアーレムは足元のアップ、そして此方も石礫と煙でその脚力が強い事を魅せる。

 続いて『玄武』目線で画面に向けて駆け寄るアーレムの姿を映し、そこからカメラを引くようにして『玄武』の左斜め後ろからの画角に切り替えアーレムを足払いする姿を見せる。転倒して土煙を上げるアーレムを無視し、先に転ばせたアーレムが入れ替わりで上段から切り下ろそうとする姿を『玄武』の影から見せる。今度はアーレムの顔をアップで映し、衝撃を受けて立ち止まらせた後にアーレムの目から光を消す。カメラが引いてその身を『玄武』のグレイブが貫いた姿を映し、その後両腕から力が抜ける様を見せた。

 と、そこで欲しい画を撮ってない事に気が付いた。

 

「商会長すみません、一つだけ追加のシーン撮らせて下さい!」

 

 俺の呼び掛けに驚きつつも頷いてくれた商会長を見て、早速一つのセットを作る。そんな大袈裟な物では無く、カメラのレンズの上に更に魔石製のガラス状のカバーを付けただけの物だ。それを下から見上げる状態で設置して、商会長の操作でアーレムがゆっくりと歩いて画角に入るように動かして貰う。

 カメラに上半身が映ったタイミングで商会長にアーレムを止めて貰い、そこからグレイブを振り上げてから画面目掛けて突き立てて貰う。そうしてレンズ上のカバーガラスを砕き、画面に蜘蛛の巣状の罅が入る画を撮る。

 早速この映像を取り入れて、更に『玄武』の顔がアップで映し猫娘さんに無理を言って砕けたガラスが飛び散り映り込むエフェクトを作って貰う。

 

「……アンタ、こんな無茶苦茶な物を魔法で作らせるとか正気?」

「でも、作れてますよね?」

「……普段アンタが似たような無茶振りされてるのが何となく分かったわ」

 

 まぁ、無茶振りと言うか俺が普通に出来る時間が周囲から理解不能ってだけなのだが。やっぱり猫娘さんが天才なだけだよなこのエフェクト作成速度。

 そんな文句を聞きつつ、別角度でアーレムの頭にグレイブを突き立てた『玄武』の画に切り替える。そのグレイブを引き抜き振り返った『玄武』の視線をカメラで追わせれば、隊列を組んで此方に近付いて来るアーレム軍団……はアーレムそのものが足りなかったので此れも猫娘さんの魔法技術で偽装して作る。いや、本当に猫娘さん様々だわ。

 そんなアーレム軍団へ向けて『玄武』がマイクロミサイルを発射する所で動画は終了、編集作業は一時間程で終わったが動画時間が120秒を越えてしまった。

 

「タタラはん」

「あ、商会長すみません。こんな長い動画にしちゃって」

「ありがとう、めっちゃ格好良いんね!!」

「……後で皆さんに無編集動画含めて記録結晶お渡ししますね」

『っしゃオラァ!!』

 

 短くても良いなんて言ってたけど、自分のアーレムが活躍するのなんてそりゃ誰だって嬉しいよな。アーレム所有者が全員興奮した雄叫びを上げたからか猫娘さんが呆れの溜息吐いてるよ。

 

「あ、最後にちょっと一枚だけ静止画撮らせてくれませんか?」

「いいんよ」

 

 商会長に頼んで積み上げたアーレムの上にグレイブを肩に担いで座る『玄武』を撮らせて貰う、何に使うかと疑問に持つ面々の前でその写真を加工してポスターを作る。

 

「タタラはん、コレって……」

「当主代行のは後で俺の家で撮りますが、アーレムの販促用ポスターです。あ、この写真も後で渡しますね」

 

 元になった写真と、ポスターとして『玄武』の名前を入れた二種類のデータを渡すと商会長は何も言わずに俯いて震えた。多分、喜んでくれたのだと信じたい。

 

「さて、法務長と息子さんのアーレムを撮影しますが……少し悩みが」

「ふむ、聞かせていただきましょうか」

 

 俺の言葉に真っ先に反応したのは法務長、こういう時に率先して聞いてくれるのは助かる。

 

「対になる構図なので同時に撮って二騎分を一括で撮ってしまうべきかと」

「成る程、時間短縮になりますな」

 

 編集作業も含めれて考えると時間短縮出来ることがあまりにも大きいメリットになる、その他にするべきなのだが……正直一騎一騎魅せたいのでやりたくないのが本音である。

 

「……店主さん、本音としてはどうなのです?」

「そりゃ時間掛けて全部のアーレムの格好良い姿を撮りたいですよ、でも時間が足りないんです」

「むぅ、もちと早く思い付けんよかったんね」

 

 成金さんからの問に本音を零すと商会長が溜息交じりに後悔を口にする。思い悩んで欲しかった訳では無いのだが、どうやっても責めるような言葉になってしまう。俺も乗り気かつ撮りたい姿を次々に思い付いてしまうので商会長を責める権利なんて無いんだよな。

 

「工匠長、悩むくらいならいっそ撮ってしまいましょう。案ずるより産むが易し、と昔から言われているでしょう?」

「……そうですね、悩む時間をさっさとセット作成に充ててしまう方が健全ですね」

 

 法務長から言われて気分を切り替える、となれば早速バトルフィールドに次のセットを用意しなければな。

 

「それでは此方のセットは全部分解しますね」

『待てぇい!!』

 

 俺の言葉に四人のアーレム持ち(オトコノコ)が待ったを掛けてくる、そうか……此れも欲しいやつか。

 

「商会回りの再現セットですから商会に寄贈で」

「スピード解決過ぎません!?」

「商会長、幾らだ!?」

「非売品なんね!」

「うぐ、流石に無理強い出来る代物と理由ではないな……」

 

 俺の一言で成金さんが悲鳴を上げ、法務長の商談を商会長が一言で切って捨てた。当主代行は『ワールウィンド』の商会と言う外部に持ち出すのが危険な物である事に理解が有るのか、速攻で諦めた。アーレムが埋まったままでは駄目な上、もう他のアーレムを使った撮影は無いので『玄武』の動画で使ったアーレムはコアを抜いて全て成金さんに譲る。

 次のセットは商店区と中枢の再現になる、家の窓の中にカメラを仕込みつつ微妙にアレンジを加えて作成。更に小型の人型ゴーレムを大量に作成していく。細かい動作を求めた為に手持ちのミスリルインゴットで作ったアーレムの1/5サイズの人型ゴーレムへ『料理長』と交換して貰った着色料で彩色していく。そうして完成したセットに法務長と成金さんのアーレムをセットして貰い撮影を開始する。

 法務長の『ロウフル』は中枢イメージの建物前で膝を付いて佇んで貰い、成金さんの『フォートレス』は商店区側からゆっくりと歩いて貰う。歩くアーレムを見送るモノ、並走して走るモノなど人型ゴーレムに様々な動きを取らせつつ二騎の距離をどんどん近付けて貰う。そして『フォートレス』が商店区と中枢の間に有る広間に近付いた所で『ロウフル』をゆっくりと立ち上がらせて貰う。広間を挟んで相対する二騎、ゆっくりと『フォートレス』が得物の大剣を下段気味に半身で構え『ロウフル』が盾から長剣を抜き放ち構える。一瞬の静寂の後、二騎は駆け出し広間の中央で互いの得物をぶつけ合ったところで撮影を止める。

 

「はい、お疲れ様でした。すみません成金さん」

 

 やべ、思わず内心での呼び方やっちまった。

 

「ウィリディスです」

「え?」

 

 流れで成金さんを呼んでしまった直後、成金さんから何かを言われた。ウィリディス?

 

「私の名前はウィリディスです、ずっと名乗ってなくてすみません」

「……ならウィリディスさん」

「はい」

「ポスターの撮影をするので広間の中央でさっきの下段の構えをお願いします」

「はい!」

 

 成金(ウィリディス)さんにお願いすると元気よく返事をされる、早速『フォートレス』を右半身を前にした半身で鋒を相手に向ける下段構え……所謂大張一刀流(勇者バース)を取って貰う。その姿を下から見上げる角度で撮って加工を開始する。

 

「すみませんセタリアさん、背景を青空にして鋒に陽光が照り返してるエフェクトの作成をお願いします」

「アンタ、私を便利なエフェクト職人だと思ってない?」

「……出来ませんか?」

「出来るわよ、元高等教育課程の魔法学首席舐めないでよね」

 

 うわ、魔法ガチ勢の極みじゃん。身近だとバカが戦技での首席だ、学年で負けなしだからなアイツ。

 そんな事を考えつつ成金さんのポスターを作成し終わる、迫力満点の勇者バースは男の子の心をガッチリ掴んでくれるに違いない。

 

「すみません商会長、そちらのアーレムは少し撮りたいシチュエーションの為にセット組むんで少し待って下さい」

「ふふ、楽しみにしてしまいますよ?」

「お待たせした分はセットをお譲りする事で相殺って事で」

 

 俺の言葉に商会長は小さくガッツポーズをしている、セットをほぼ無条件で譲られる事を知った他の面々が凄い顔をしているが一旦無視。

 

「ジュロン、空とかのエフェクトを弄るつもりなら背後に魔石製のガラスを応用したスクリーンみたいなの作りなさい。私が幻覚魔法の応用でそこに色々と演出するから」

「そのアイディアもっと早く出して欲しかったです」

「今さっきの苦労から思い付いた物よ、アンタの無茶振りの結果」

 

 互いに文句を重ねつつ湖のセットを作る。実際に水を張った小型のプールでその周囲を実際の木材を加工した木々を立て、奥には猫娘さんから注文を受けた魔石製の映像用ガラススクリーン。

 

「すみません、このプールにアーレムを設置して下さい」

 

 法務長は疑問を抱きつつ剣を引き抜いた状態のアーレムをプールの中心に設置する、太腿の半ばまで浸かったアーレムが静かに佇んでいる。

 

「セタリアさん、この画面左上に月が浮かぶ夜空と蛍が舞うエフェクトをお願いします」

「それはいいけど、背景は森とかにしなくていいの?」

「出来るだけ湖面が広くなる様に、夜空の比率が多くなるようにして投影して下さい」

「了解」

 

 そうして月明かりに照らされた湖に佇む騎士の姿が演出される。その姿を撮影して『ロウフル』のポスターの画が完成する。

 

「法務長、此れでどうですか?」

「ふむ……幾らかね?」

「『ロウフル』本体の値段は素材プラス1000くらいで販売を考えてますけど」

「いや、この画の方ですな」

「商会長のポスターと同じく後で撮影協力って事で只でデータをお渡ししますよ、欲しいなら其々のポスターも」

「ヒャッホイ!!」

 

 キャラ崩壊が著しい、流石に燥ぎ過ぎではなかろうか?

 

「……タタラ殿、流石に儂のアーレムも撮影して貰わぬと淋しいのだが」

「さっき商会長に言いましたけど当主代行のは俺の家で撮りますので我慢して下さい」

 

 素気無く断った為か当主代行がガチ凹みしてしまった、まぁ此処から編集作業に集中するので特に問題は無いのだが。

 

「マスター、すみませんが此方を」

「おう?」

 

 商会長親子のCMを作ろうと構えたタイミングでダリアから声が掛けられる、何事かと思って見てみればその手には記録結晶が有った。

 

「先程の『大紅蓮』の編集が終わりましたので確認をお願いします」

「分かった」

 

 さて、編集を進み出たハカンサス団長の腕前はどんな物だろうか?

 最初は暗転、少しずつ場面が明るくなり揺れる蝋燭の火が画面に映る。そこからピントが奥に移り大紅蓮が映ると、今度は顔面がアップしてその眼に光が灯る。立ち上がり、今度は足元をアップして一歩目を踏み出す。そこからカメラは上からの俯瞰に移り、ゆっくりと進んでいく。太刀を抜き剣舞を開始する『大紅蓮』、だがここで少しずつ差異が出て来る。スローモーションと静止画を織り交ぜて場面の緩急をハッキリさせる事で場面の印象を強めている。俺が撮りたかった蝋燭の火を斬る場面も斬る一瞬だけスローモーションにした後振り抜きは通常速度にするなんて演出を入れて来た。

 時間も息も忘れて見入っていたが、時間はジャスト90秒。俺があれもこれもと入れていた場面を取捨選択して違和感無く繋いだのは素直にセンスの差を感じる。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

 不安気に聞いてくるハカンサス団長の声で意識を取り戻す。

 

「マスター、他に30秒のモノも有りますのでそちらも確認を」

 

 ダリアに言われるまま確認すれば、此方は切った30秒からも上手く場面を持って来ていて無駄が無かった。

 

「……完璧ですね、俺が用意した物から此処まで上手く作るとは」

「本当ですか!?」

 

 俺の心からこぼれた賞賛に嬉しそうな声を上げるハカンサス団長を見て、一つ思い至る。その確認の為にスオーノさんを探せば、楽譜を前に考え込んでいる様子だ……声掛けたら駄目かな?

 

「……あの、スオーノさん」

「あ、はい?」

 

 勇気を出して声を掛けると少し気が抜けた返事が返ってきた、大丈夫そうなので一つ確認する。

 

「あの団長さんって、もしかして編曲が上手かったりします?」

「え、ええ。昔から音楽を劇に合わせてアレンジするのが上手かったですよ」

 

 やっぱり、ハカンサス団長は編集の才能に寄ってるのか。自分で作るのは苦手で、元から有る物を改変したりするのが得意なタイプ……いやそれなら台本の長台詞を編集してくれ。

 

「団長さん、次の動画を渡すので編集をお願いします。一つの作品で10万を報酬として出しますので」

「は、はいっ!!」

 

 俺の依頼にやる気を出すハカンサス団長、因みに俺の依頼を聞いた商会長が物凄く何か言いたそうな顔をしている。この場合、商会を通す必要が有ったかな?

 ハカンサス団長に『玄武』のCM撮影データを渡した後、法務長と成金さんのアーレムの動画編集に入る。俺が作る必要は無いかも知れないが、大元を作っておかないとハカンサス団長の悪癖が出そうだと警戒した結果だ……仕事頼んでるのに信用してないの最低じゃないか俺。

 浮かぶ疑念を頭を振って追い出し、作業開始。動画の始まりはアーレムでは無く人型ゴーレム達が後ろを振り返りながら走り抜ける光景で、一拍遅れてアーレムの足が降りてきてそのまま逆の足が前に出されて歩いていく。

 次に跪く『ロウフル』を見上げて声を掛けているような人型ゴーレムを映し、一点を見る動きの後にその場から離す。視点は部屋から外を映す窓、その前をゆっくりと進んでいく『フォートレス』を映す。

 今度は見上げるカメラの前をゴーレム達が駆け抜けていき、その裏からゆっくりと『フォートレス』が近付いて来て踏み込んだ足裏で画面を暗転させる。そうして望遠で撮った『フォートレス』が近付く中で、ピントを手前に合わせてゆっくりと立ち上がる『ロウフル』の足元を見せる。広場を横からのカメラで映し、近付く『フォートレス』を迎え撃つかのように立ち上がる『ロウフル』が相対する場面を映す。

 先に『フォートレス』を映し、背中の剣の柄に手を伸ばすタイミングで上半身を拡大し肩から腕そして手とカメラを追わせ柄を握った後は腕を伸ばし鋒まで追わせそこから振り下ろしに合わせてカメラを引かせて大張一刀流(勇者バース)を取らせる。

 そんな『フォートレス』の背後にカメラを回し、望遠で『ロウフル』を映す中で盾の上部に有る柄を握らせる。引き抜く中で鉄どうしが擦れる場所に火花のエフェクトを追加し少しカメラを引いて構える全身像を映す。互いの足元と相手を映し、踏み込む素振りを見せた後に二騎のアーレムが駆け出して剣をぶつけ合う姿を横から映して終了。

 

「……終わったぁ」

 

 合計四本のCMの撮影と編集を終え、座っていた椅子の背もたれに体重を預けてそんな言葉が漏れた。

 

「お疲れ様、沢山仕事してたね」

 

 そんな俺に労いの言葉を掛けながら肩を揉んでくるエテル、夢魔の特性全開の按摩はかなり効く。多分、効果としては『天使長』の方が上だが愛情込みでエテルの方が癒される気がする。

 

「このセットもこれから解体──」

「なら私が貰いましょうそうしましょう」

「……法務長、早いです」

 

 エテルにこの後の仕事を告げようとしたら分身しそうな勢いで声を掛けてくる法務長、まぁ自分のアーレムのCMに使われたセットは特に欲しいか。

 解体作業に入ったら脇で法務長と商会長が言い合っている、何方が引き取るかでの遣り取りだろうけどなんか金額の言い合いになってるんだが……何これオークションか?

 何故かオークションを始めたら参加者が増えそうな気がする、ジジエンティア(カラン様)とか『不死の王』が参加してる光景が目に浮かぶのは何故か?

 

《タラシさん、ご飯も食べずに作業し過ぎです。用意するからご飯食べて下さい》

「タタラな……言われて腹減ったのに気付いた、本気で集中してたな」

「あ、タタラお腹減ってたんだ」

 

 何やら内心浮足立ってそうな『料理長』の言葉に答えるとエテルが反応してくる、どうしたのかと視線を向けるとエテルの背後に中身が無くなっている『料理長』の弁当が見えた。

 

「……完全に無くなってんな弁当」

「美味しかったしね、特に劇団の人達がいっぱい食べてたよ」

「話を聞く限りずっと食えてないみたいだしな……つか何人前の量用意してたんだアレ?」

 

 パッと見て20人前は量が有りそうな大きさの重箱だが、完全に全滅してる。残ってるのはバランとかの食えない物だけじゃないか?

 

《ふふん、タタラさんの分は別に用意してます。私は出来るメイドなので!》

「いや、助かるが何故……」

 

 手渡された黒い布巾に包まれた弁当箱を渡されて戸惑う、二段の弁当箱の中身はおかずと複数種類のサンドイッチが並んでいた。

 

「やった、レタスサンド入ってる」

《それでそんなに喜ぶんですか》

「こう言うシンプルなのが良いんだよ。お、胡瓜とハムマヨネーズのサンドイッチも有る」

 

 家ではエテル達も一緒に食べるので中々作らないが、前世でよく食べていたメニューだ。早速レタスサンドを一口食べれば柔らかなパンとハムの食感の後、レタスのシャキッとした食感が口に広がる。次にレタスの甘味の強い水分の後ハムと隠れていたチーズの塩気が続き、マヨネーズが持つ卵の風味がそれらを纏め上げる。

 

「美味い」

 

 咀嚼して嚥下の後に思わず言葉が溢れる、『料理長』が作れる料理は全て得意と豪語していたのも納得だ。つか、使ってる野菜とか何処で手に入れてるんだろうか?

 

「『料理長』、食材とかどうしてるんだ?」

《屋敷の菜園で育ててるんですよ、ハムやチーズなんかも手作りです》

「凄いな」

 

 何となく頭の中で如雨露で水撒きしたり牛の世話をしている『天使長』の姿が浮かんでくる、『料理長』は牛の世話をしようとして顔を舐められたりで悲鳴上げてそうだな。

 続いて胡瓜とハムマヨネーズのサンドイッチを口にする、レタスと違って胡瓜の青臭さの有る水分がハムの塩気とマヨネーズの持つ甘味が中和する。胡瓜の持つ硬めな食感を噛み締めるのが前世から好きだ、当主代行に頼んで浅漬けとか譲ってもらえないかな?

 おかずに目を向ければミニハンバーグに唐揚げや玉子焼きと弁当の定番が入ってる、こう言うのが良いんだよこう言うのが。改めて見るとサンドイッチは野菜サンドが主でおかずと合わせてバランスがよくなるように考えられているんだな。

 冷めても美味いように味付けがやや濃いめに作られているおかずを一口、先ずは唐揚げから口にしたが丁寧に油切りをされて湿気た気配のない食感の衣とその奥に閉じ込められた肉汁が口に広がる。鶏肉そのものにもスパイスが馴染まされているのか食欲を刺激する辛味に促されレタスサンドを一口、レタスの水分で口をリセットして唐揚げ一つを直ぐに平らげてしまった。

 ハンバーグは中にチーズが入っていて、掛けられているトマトソースの酸味とよく合っている。野菜サンドは此方ともよく合っていて、あっという間にサンドイッチとメインのおかずが全て無くなっていた。デザートとして玉子焼きを口にすると砂糖を使っているらしく甘い、そうそうコレが子供の頃大好きだったんだよなと口に笑みが浮かぶ。

 全て食べ終えた後に差し出された湯気を立てるコンソメスープを口にして、その芳醇な旨味に思わず溜息が出る。

 

「めっちゃ満足した」

「……タタラ、私の料理より美味しそうに食べてた」

「味は『料理長』の方が上なのはどうしようもないと思うぞ、愛情はエテルの方が遥かに上だから幸福度は圧倒的だけどな」

「むぅ……」

 

 エテルから正直な味評価で軽く怒ってくる、流石にデリカシーが無さすぎたと少し後悔する。ただ、本当に万人受けするのは『料理長』だが俺専用に特化してるのはエテルの方なのだ。

 

「タタラはん、今日中に映像作れん?」

「一通り作れはしたので……団長さんの編集を無しにすれば映像は完成してるので公開は出来ますよね」

 

 まあ、スオーノさんの作る曲待ちも有るので完成って訳では無いんだが。当主代行のはお義母さんに音楽の相談をしたら結構早く済みそうではあるが。

 

「……そう言えば、法務長との相談はどうなったんですか?」

「ふ……ボクん負けよ」

「負けたんスか」

 

 やりきった男の顔で言われてどうしていいのか分からないよ商会長。




《……愛情、負けてないもん》

どうして予定の3倍以上の文量になってるんだ、誰か説明してくれよ!

生存するか否か

  • 生き残る(元は生き残る予定)
  • 生き残らない
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