既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中
先月、全く更新ができずに申し訳ないです。
先月末から体調が続き、思考を上手くまとめられ無かったので大分読みにくいと思いますのでご注意を。
さて、『料理長』の弁当で人心地ついた為に少し思考に余裕が出来た。一通りの作業が終わったから後はこの映像をサーバールーム的な物に残してアリーナ内のモニターで流せるようにすれば俺の仕事は全て終わるのだが、この映像をハカンサスの団長に渡したとしてワードプロセッサを使えない事が問題だ。
ダリアを一日派遣するべきか、楽しそうに編集作業を手伝う姿にそんな事を考えるが問題は今使ってもらっているワードプロセッサが俺の仕事にも使われてる物である事だ。アレの中に有る情報は俺の研究成果が殆どだし、カラムスさんの『フィエルテ』や『ルーエ』にシスター・カレハの『カラガナ』に自警団のトリモチランチャーなんかの設計図も入ってる。先程動画編集の為に作った物と交換して欲しいのだ。
「タタラはん、ジッとあん二人見てどなんしたん?」
「ああ、あのワードプロセッサを返して欲しくて。俺の仕事に関する資料入ってるんで」
「おぉう……貸出しとか無理んね」
俺の視線に疑問を持った商会長に答えたら納得された。まぁ、商会長なんて責任のある立場だしこの手の情報の取り扱いなんて理解して当然か。
「此方のワードプロセッサと交換して欲しいんですけどね」
「そっち渡しても結局あの子が居ないと操作出来ないでしょ」
「それなら動画編集用の専用機能特化型にするだけですし」
「……アンタ、やっぱりタタラってて意味不明だわ」
商会長に話してたら
「そうだ、セタリアさんの作ったエフェクトを手軽に付けられるようにしたいんでちょっと術式構築手伝って貰えませんか?」
「……いいけど、高いわよ?」
「商会長、特許として認めてくれませんか?」
「それ、都市長も呼んでん決める案件よ」
いや、コレは都市長関係無くない?
「タタラはんがセタリア嬢ん損させん為ん考えたん分かんね、けどタタラはんがそん術式ん誰でん使えんよう簡略化すんならタタラはん特許ん引っ掛かんね」
「え、俺は特許これ以上は要らないんで猫娘さんに丸投げしたいんですけど」
「いや、私だってアンタと共同にしないと広まらない術式の特許とか貰っても心苦しいんだけど?」
商会長の説明で俺との共同研究みたいな扱いになるのは理解したが、俺にはもう他者に再現不可と言われている特許がこの『ワールウィンド』で最多で有るのだ。それなら猫娘さんの個人的な特許にして貰ったほうが良い、嫌がられてるけど。
「動画編集で食っていける人が増えたらその方面も発展しそうなものですし、そしたらこの術式も売れると思いますけど」
「第一、コレを売ったとして何処が買うのよ?」
「アーレムの売れ行き如何によりますけど、宣伝効果が高ければ個人で店を持ってるなら宣伝用として動画を撮って此処のモニターみたいな物に流して貰うって文化が出来ると思います。そうしたらただ動画を撮るだけじゃなくて、魔法エフェクトで派手な演出にしたり暗い場面を明るくしたりと様々な使い方が出来ます。何なら『ワールウィンド』の中枢でも取り入れる事が出来そうですし、皇都じゃ皇室の威光を広める為に専用の広報室みたいなのも作られて活躍させられると思います……軽く考えましたけどコレ結構売れるのでは?」
「……ジュロン、アンタ私の胃を破壊したいわけ?」
前世でのCM効果を考えて口に出していたが、手軽に動画編集が出来るならこの術式は非常に有効である。何ならハカンサスの団長みたいなタイプはこの術式をフル活用して演出強化した演劇を記録結晶に入れて売れば人気になれそうな物だし……そう考えたら最高のアンバサダーではなかろうかあの人。
「……また何か商売思い付いたんね?」
「いえ、ハカンサスの団長さんにこの術式で演出強化した演劇を入れた記録結晶を販売させればいい収入になるんじゃないかって」
「ジュロンさん、その話聞かせて貰っても?」
商会長に思い付きを聞かれたので答えたらスオーノさんが反応して来た、劇団としても何かしらの商材が欲しそうだし話してみるか。
「えっと、ハカンサスの団長さんが編集の才能に優れているのはいいですか?」
「よく分からないですが、ジュロンさんや商会長様達が絶賛するほどなのは少し聞こえてました」
「ええ、なので劇団ハカンサスの舞台……は難しいか。例えばスオーノさんの歌唱を動画として撮って、それにハカンサスの団長さんが歌の雰囲気に合わせた魔法エフェクトを追加して売ればそこそこの収入になるのではと」
「……成る程、私にもそこそこのファンが居ますので家で歌が聴けると考えるなら多少は売上を見込めますね」
うん、結構乗り気だなスオーノさん。まぁ問題として記録結晶は俺みたいに作れる人間でないとそこそこ高額な物なので、量産しようにも中々に難しい事だったりするのだが……俺なら完全受注生産にする。
「売れ残ったら懐に痛いでしょそれ?」
「なら完全受注生産にすればいいんですよ、金持ちの道楽なら幾らでも金出すのはこのアーレム見てても分かると思いますが」
『……うん』
猫娘さんからの指摘にアーレムを例えに出して答えるとスオーノさん共々納得された、商会長は顔を反らしているし今回の撮影用のセットも商会からの予算だけじゃなくて私財も出してるらしいから否定出来ないんだろう。
「試しにスオーノさんの得意な曲を歌ってる所を撮って、商会辺りで受注してみます?」
「そんならボクから一曲リクエストあんね」
「ええっと……どの曲でしょうか?」
商会を挟もうとしたら商会長から曲のリクエストが出された、スオーノさんは戸惑い気味だが商会長は結構真剣な雰囲気を出している。
「今作って貰ってん、アーレムの曲を最初んして」
「あの、それは……」
「タタラはん、此れもアーレムん広める為……卑怯ん言わんね?」
「いや、卑怯でしょ」
前世の楽曲持って来て売るとか著作権に喧嘩売ってるだろ明らかに、世界が違うから適用されないかも知れないけど心情的には最悪な部類である。
「そりゃ宣伝動画で使われてる楽曲が欲しくなるのは分かりますよ、なんなら宣伝動画のは編集して短くなってるからフルバージョンが欲しくなるのも理解します。それでも流石に……」
俺の内情を語れば語る程説得力が無くなっていく気がしてならないが、それでも否定するべき事である。
「スオーノさんも他人の作った歌で売れても嫌でしょう?」
「ご飯も食べれないひもじさを味わうくらいならプライドなんて犬に食わせて他人の下着を着て踊りもしますよ私は」
「おぉう……」
同意を貰おうと思ったら全力で否定された、しかも食い扶持なんて言う説得力で殴り付けて来たし。
「此れも飲み込んでんねタタラはん、スオーノはんの歌唱関係はボクん伝ん使って楽団集めんね」
「……都市祭中に撮るつもりですか?」
「明日ん一発目で全部終わらせんね、アーレムん発表は三日目なん十分間に合んよ」
過密スケジュール過ぎるだろうに、本気でやるつもりだこの人。スオーノさんを見ればやる気満々である……仕方ない、諦めよう。
「……分かりました、俺の負けです」
俺の敗北宣言を聞いて商会長とスオーノさんがハイタッチを交わしている、溜息すら出て来ない。もうムカついたので商会長とスオーノさんには例の如く元ネタのPVを見せる、急拵えとは言え俺の思念を受け取れるワードプロセッサなので少しだけ反応が鈍かったが正常に見せる事が出来た。
「この動画は譲れないので参考だけにしてくださいね」
「……成る程、コレそのものは無しにしても参考には良いでしょう。ジュロンさん的にはこの曲のイメージとして何が浮かびますか?」
何とも難しい事を聞いてくる、曲のイメージか……曲というか使われたゲームのイメージになるな。
「……灰と炎、ですね」
「成る程、灰と炎ですか。参考にしますね」
参考にした結果何が出来上がるのか怖くて聞けねぇ。
「取り敢えず、私の術式を活用して演出するのは良いのよ。それはそれとしてこの魔導具って前に中枢の機能を止めかけたのよね?」
「ええ、使う上での思考制御が他の人には脳の負担が大き過ぎたみたいで事務員が全滅しました。現状確認出来てる無事な人材は都市長とあのダリアくらいですね」
猫娘さんからの質問に答えれば思い切り溜息を吐かれた。
「思考制御関係のリミッターの基準をアンタにすんの止めなさい、少なくともアンタの処理能力の半分……じゃ駄目だろうから1/10まで落としなさい」
「……そんなにですか?」
現時点の性能の1/10は流石に低過ぎではなかろうか、仮に今の性能がバイクだとしたら子供の使う三輪車レベルの速度になると思うのだが。
「その目を見る限りアンタの中じゃ最低限の性能なんでしょうけどね、魔法使いたての奴が初級魔法越えていきなり最上級魔法制御しろって言われて出来る奴なんて居ないのよ」
「確か前皇帝陛下の妾である国立魔法研究所の初代所長は出来てたって逸話が……」
「アンタと同じような逸脱枠の話は今してないのよ」
「あ、はい」
俺の上げた例外中の例外に対してスパッとぶった切る猫娘さん、改めて思うと過去作の中でも五本の指に入ると公式から言われてる魔法使いを例に出すのは間違ってるな。というか方向性が違うだけでそんな人と同じ扱いされてんのか俺、いやでも今日一日で猫娘さんも大分とんでもない事をしてるような?
「取り敢えず、常人が使う分には負担が大き過ぎるのよ。だからダウングレード版のソレの販売に留めなさい、フルスペックの物が欲しいなら普通の物よりも遥かに高額にして提供しなさい」
「そうね、そんなら中枢ん置いてん問題無んね」
「それはそれで問題なんじゃないですかね……」
猫娘さんと商会長からワードプロセッサの販売についての話を受けるが、元の値段のまま性能だけ落として販売は流石に詐欺ではなかろうか?
「あ、一応注意すんね。タタラはんのあの魔導具ん性能落としてんまだ使える言えんよ?」
「……そうなんですか?」
「噂じゃコレ使った都内でも選りすぐりの事務員の脳を溶かしかけたんでしょ、その人達に向けたとしても性能をせいぜい1/3にしても過剰よ」
「そこまでいいますか?」
全員ダウンしたって話は聞いたが脳が溶けかけたなんて初めて聞いたぞ、脳って使い過ぎで溶けたっけか?
「取り敢えず、能力を落としたヤツをハカンサスの団長さんに渡しますけど……何の能力を落とせばいいんだコレ?」
正直、コイツには演算能力なんて高度な物は無い。脳に繋いでイメージをそのまま描写するツールみたいな物で、俺の使い方は自分の思考を他人に見せる事でしか使えてない。その上でどれだけ高精度に自分の思考を描画出来るかっていうのは当人の持つイメージ力が影響している、俺はこの辺を『クラフト』スキルで補っているから思った通りの物を表示できるのだ。
しまった、油断して今の思考がワードプロセッサで思い切り表示されてしまった。
「……ジュロン、このイメージ力っていうのの補助機能を付けなさい」
「補助機能って……『クラフト』スキルの付与でもすればいいんですか?」
スキルの付与なら出来なくもなさそうではある、鎧のハンガーや
こう言う時、この世界がステータスと発生する事象に判定で満ちている事に感謝する。例えこのワードプロセッサの耐久が10しかないのだとしても、地面に落とした程度では壊れない防御力にすれば壊れないのだから。
「一先ずダウングレードした物は完成しました」
「うん、なにかトンデモナイ技術で作ってなかった?」
「魔石を加工して板状にしたうえでスキルを軽く再現した程度でとんでもとか頓痴気とかタタラってるって言われる俺の身にもなってくれませんか?」
「タタラはん、それ全部都市長様ん通して中枢の常識化しとんよ」
まぁ、タタラってるは世界に認知されてる事だから今更では有るけど。それにしても中枢ですらタタラってるが認知されてるのはどうかと思う……皇室にも認知されてる時点でアレかも知れないが。
出来上がった低性能ワードプロセッサを暫く見ていた猫娘さんが頷いて、俺に視線を向けてくる。
「ジュロン、コレ元の値段って幾らだったかしら?」
「都市長との協議では五万から八万くらいでしたね」
「なら1台買うわ」
「……魔法陣の試し書き用ですか?」
「流石、分かってるわね」
注文を受けたから理由を予想してみれば、勝ち気な笑みを浮かべて頷いてくる。魔法関係の研究者だろうし、ワードプロセッサも欲しくなるか。
商会長は以前に俺が目の前で表計算をする時の使い方を思い出している様子だが、買うかどうかを悩む中で無意識で取り出したらしいミスリル製の算盤をじゃらじゃらと鳴らして考え込んでいる。多分買わないんだろうな、商会長の場合算盤で計算したのをノートに書き込む方が速いだろうし。
「ボディやその他はこの仕様でいいですかね、有るならミスリルで作ったりも出来ますけど」
「……実家に有るのを活用するなら此処よね、どれくらいの量が必要になるの?」
「インゴット三つですね」
「いや、軽いわね!?」
因みに魔鉄製の物は2kg強の重さである、前世のノートパソコンとどっこいくらいの重さなのでカバーと基盤を合わせて500g程のミスリル製のワードプロセッサは破格の軽さである。
「でも意外ですね、猫娘さんならフルスペックの方を買いそうなのに」
「他の職員が使えなけりゃ意味無いでしょ、足並み揃えるのは必須よ……私が教える側に回りそうだしね。それとさっきから猫娘呼びが抜けてないわよ」
「やべ」
俺の質問に答え、更に無意識下のあだ名呼びも指摘してくる猫娘さん。指摘された事に思わず声が漏れたが、そんな俺を見て猫娘さんは溜息を吐くばかりだ。
「もう直りそうに無いから猫娘でいいわ。その代わり、アイツの事は成金って呼び続けなさい」
自分のパートナーまであだ名呼びさせるとか容赦無いな、怒りで身体から漏れ出してる魔力が威圧になってて断れないけど。
猫娘さんの条件を飲みつつ、ハカンサスの団長へ出来上がったダウングレード版のワードプロセッサを渡す。因みに譲渡は拙いと言うことで値段が八万となり、商会長が代わりに支払ってくれた。まぁ、必須の備品かつ必要経費ではあるしな。
「団長さん、此方のワードプロセッサをどうぞ」
「ほぇぁ!?」
出来上がったワードプロセッサを譲ろうとしたら奇声を上げられてしまった、つかどんな発音なのそれ?
「あっと、えっと……コレは?」
「今ダリアが使っている物の簡易モデルですね、編集作業用の彼是を詰め込んでいるので動画編集が一人でも出来ますよ」
そう言ってワードプロセッサを渡すと、団長さんは想定外の重さだったのか取り落としそうになる。速力からくる反応速度で落ちそうな所を捕らえて、再度渡すと今度はしっかりと受け取った。
「お、重いですね?」
「物としては2kgちょっとです、まぁ意識してないと重いかも知れませんが」
「マスター、2kgで重いは単純に筋力不足です」
やめろダリア、それは流石に理不尽過ぎる。軽いと思ったものが重かったり、或いはその逆だったりは力の込め具合を狂わせて失敗を誘発させるからな?
そこから軽く使い方を教えていって、30分程で軽く操作出来るようになるハカンサスの団長。中々に適応力高いな。
「コレで編集作業が一人で出来るようになりましたね?」
「ええ、コレなら大丈夫です……でも何故?」
「時間的にそろそろ帰らなきゃならないので、流石にダリア自身を貸し出すのは駄目ですし」
ダリアの事だからCMの宣伝動画の編集は楽しく出来るだろうが、流石に異性の部屋まで行かせるのは駄目だという判断だ。仮に何かの間違いでハカンサスの団長がダリアに手を出そうとした場合、ダリアが反撃して家とその一帯を消し飛ばす可能性も有るしな。
「スオーノさんの楽曲の取込みから編曲、それとそちらの宣伝動画の作成は俺の家に防音設備が無いので無理ですし」
「そんなの我が家にも無いですが」
「その環境でやるとか正気かアンタ」
夜中に楽曲作成とか殺意持たれんぞ、俺の家でも個室の防音性能には気を使ってるのに……ダリアには筒抜けだったが。
「大丈夫ですよ、ジュロンさん。私達が住むボロアパートには劇団の人間しか住んでませんので」
「それはそれでどうなんですか?」
「それに、そこの大家は劇団員の一人ですから文句も言われません」
「いや、その理屈はおかしい」
賃貸物件持ちはこの世界では大分珍しかったりする、基本的に買うか流浪が主だから他人と契約して貸し出すと言うのは殆ど無い。目の前の二人みたいに収入が無くて家賃が払えないなんて事例も有るしな。まぁ、スラムには勝手に住み着いて固定資産税を始めとした税金を払ってないのも居るが。因みにそんな奴等が犯罪を犯した場合人権剥奪の上で殺処分が許される、探索者も戦闘行為を行い死んだ場合自己責任になるので結構厳しいよなこの世界。
「商会長、嵩んでる家賃を俺が一旦預かって支払った方がいい気がしてきました。賃貸物件って結構税金掛かりましたよね?」
「そん辺詳しんは財務長なんけど……ボクが持ってる物件一つでも年で800万くらいん税金よ」
高いのか安いのか分からないな、俺の家とか固定資産税は年間で100万くらいだし。いや、でも今査定したら1000万越えそうな気がするな……設備が今年だけでも意味不明なくらいにアップデートしたし。
「因みんこん馬鹿が住んでん賃貸は月3万の家賃なん、築30年程な上でトイレとシャワーは此処の部屋にあんね」
「滅茶苦茶安くないですかね?」
「安いんね、でもこん馬鹿はそん家賃5年は滞納してたんね」
「ええ……」
そりゃ溜まりに溜まった家賃を払えば金もなくなるか、俺だと法務長達に売った鎧の値段だけで支払える上にお釣りがでるけど。つか、そんな中でスオーノさんと子作りしてたんか……どうなのそれ?
「劇団員四人、ジュロンさんからの契約金が1000万で一人頭250万ですよ。これなら直ぐに家賃滞納分を返済して生活も立て直せますからね!」
展望を語るハカンサスの団長さんだが、取らぬ狸の皮算用にならないといいけどな。つか、財務長に相談して税金を算出してもらった時にどれだけ課税されるか分からないんだよな。
「商会長、支払いをお任せしてますけど……」
「安心してん、財務長ん頼んでしっかりと税金取るんね」
「お願いします」
諸々の税金取っとかないとこの人、お金がどれだけ有っても使い切りそうなんだよな……大の大人相手に商会長に管理して貰わないと駄目そうに感じ続けているのは流石に失礼過ぎるだろうか?
細かい操作方法を俺と猫娘さんで徹底的に教え込み、ワードプロセッサをハカンサスの団長に預けたところで俺達はお役御免を言い渡された。と言うか商会長と法務長が俺のオーバーワークを危惧したので追い返された……こう言った方が正しいかも知れない。
高々CMの撮影セットの制作と撮影、動画の編集とハカンサスの団長に魔導具操作の指導程度でオーバーワークとは大げさだ、前世の仕事なら此処に上司のフォローと同期の尻拭いが加わるから日付変わってからの帰宅が主だったしな。楽しい事で仕事するなら負担もないし、ストレスも溜まらないから問題は無い。
まぁ、こんな事を言ったらエテル達に『性魔術』で意識を奪われた上で家に連れ帰られた挙句に総出で搾り取られるんだろうけど。
街を囲む壁の向こうに沈む陽に目を向けつつ、並んで歩くエテルに目を向ける。メイド服を着ている為か背筋を伸ばして歩いている故にその巨大な胸が普段よりも自己主張をしている。貞淑な筈のメイド服なのにその奥の軟肉がぶるんぶるんと揺れていて下半身に悪い。そんな躍動を楽しめないであろうダリアは当主代行が迷子にならない為に残業中だ。
《……さっきからエテルさんの胸を凝視し過ぎですよ、変態タラシさん》
そして、背後から俺達に付いてきている『料理長』。俺にしか声が聞こえてないので下手に答えればエテルに胸を凝視していたのがバレる、まぁ俺達の関係的にバレても問題は無いのだが……いや、バレたら夜に胸で絞り尽くされるから駄目だな。
「……そう言えば『料理長』、遅くなってるけど俺達の家に来て大丈夫なのか?」
《私がお邪魔する事に何か問題が有るんですか?》
「あると言えば有るな、夕飯の用意とか。そうじゃなくて、『料理長』にも屋敷の仕事とか有るんだろ?」
先の言葉を無視しつつ心配事を確認すると、やや攻撃的な意思が飛んできたので内心を正直に伝える。『料理長』は少し考えた後、再び意思を伝えてくる。
《有るか無いかで言えば大有りです》
「有るのかよ、つか大問題なのかよ」
《それでもタタラさんの側に居たと伝えれば姉様からはお咎め無しになりますから》
「大分甘いな『天使長』」
「タタラ、端から見ると一人でリアクションしてる痛い人に見えるよ?」
「やめてくれよ」
俺の言葉しか聞こえてないエテルから冷たいツッコミを入れられる中、俺は『料理長』の言葉の意味を考えようと思考を回す。何故『天使長』は俺に関わるならお咎め無しなのか、理由が分からない。要因として考えられるのは以前から言われている俺が特異点であると言うこと、俺の存在が因果を乱して本来辿るはずだった運命から逸らせている事。『料理長』の何かを変革させたいのか、逆に変革した何かを『料理長』に対処させたいのかの何方だろうか?
いや、今回は因果が逆だから違うか。本当、何で『天使長』は俺の家ならお咎め無しにするのだろうか……自分も遊びに来るからとかだったらどうしよう。
そんな事を考えていると周囲に蝙蝠が飛んでくる、この『ワールウィンド』に蝙蝠なんてダンジョン内くらいしか野生では居ない。しかもピンポイントで俺達というか俺に群がってくるなんて心当たりは一人だけだ。
「……何だか久し振りだな、『不死の王』?」
「くくっ、そうだなタタラ・ジュロン?」
俺の言葉に笑いを含みつつ答えた『不死の王』は蝙蝠が寄り集まって人の姿を取った。夜中に家に来た時のパジャマとナイトガウンでは無くて黒い正装と赤いコートだ、まだ陽は沈みきって無いがコイツ相手には今更だろう。
立ち止まって相対するとエテルがインベントリから『ロニセラ』と『グロリオサ』を取り出し、『料理長』が初見の相手に人見知りを発揮して俺の後ろに隠れた。うん、多分この中で一番強いのお前だからな『料理長』?
「二人とも、別にコイツは戦いに来たわけでも無いだろうから警戒しなくていいぞ?」
「でもタタラのお尻狙ってるんだよ!?」
「その誤解はやめてくれ本気で」
エテルと『料理長』に声を掛ければエテルからトンデモナイ誤解を告げられた。
因みに話を聞いていた『料理長』は背中にギュッと抱き着いてきた、心配してるのかも知れないけど下手にくっつかれると以前魅了されかかった時を思い出して気不味くなるのでやめてほしい。
「ふむ、お前は何方もいけるのかタタラ・ジュロン?」
「俺は異性愛者だこの野郎」
「うむ、安心したぞ」
悪ノリ……では無いな、普通に確認してきた『不死の王』に答えると安堵された。なんで?
「一つ聞きたい、前に顔見せしたガブリエルを覚えているか?」
「え、ああ……あの女傑な宰相さんだな」
「そんな覚え方をしているのかタタラ・ジュロン」
名前を出されて思い出すのに少し時間が掛かったが何とか印象を口に出してみると『不死の王』が呆れたような表情をしている。
「彼奴はアレで未婚でな、相手を探しているのだが──」
「すまん、俺では力になれそうにない」
何を言われるかは分からないが、何となく嫌な予感がして声を上げる。何となく『不死の王』が視線を反らして舌打ちしたような気がする。
「彼奴は我が国でも歴史の深い貴族の家でな、跡継ぎが必要だが性格の苛烈さで相手が出来ずに今年で60になる」
「いや、続けんのかよ」
「アイツの父親が二人以上作っていたなら問題は無かったが、生憎一人娘でな。仕方ない故に相手を見繕う必要がな」
「その話を俺にされても困るぞ。つか話を聞け」
「どうだタタラ・ジュロン。結婚しろ等と無理は言わん、ガブリエルの奴を一つ孕ませて──」
「さっきも言ったが俺じゃ力になれそうにない、つか年齢的に守備範囲外だ」
都市長よりも年上の相手とか流石にキツイ、エルフや悪魔族みたいな見た目の若い長命種なら出来なくは無いと思うけど年相応の見た目は俺の感性ではキツイ。それと『料理長』、年齢云々言った所で俺の背中抓るのやめてくれない?
俺の言葉を聞いた『不死の王』は少し考えた後に一つ頷いて口を開いた。
「見た目の歳が問題なら一次的な若返りの薬も有るぞ」
「若返りの関係はうちの国じゃ禁止だよ馬鹿野郎」
国交を開いただけで他国なので常夜の国では大丈夫かも知れないが、うちの国では研究含めて全面禁止だ。過去に不老不死を求めて様々な事件や問題が起きたが故に出来た禁止法案だが、同盟国にまでは強制してはいない。が、持ち込みや販売は全面禁止しているのだ……因みにエテルの性魔術でやらかしてるのもバレたら罰則が発生したりする。そう言えば
「む、少々気が強い見た目では有るが美人だぞ?」
「美人だからと誰彼構わず抱いたり孕ませたりする節操なしじゃねぇぞ俺は」
あの、俺の言葉に対してエテルと『料理長』は何で意外そうな表情してるんですかね特にエテル?
俺、お前が勧めなければ四葩やタチアと関係を今みたいにする事は無かったんだが?
「むぅ……お前との子ならば良き貴族になると思うがな?」
「いや、どんな判断だよ」
俺の血を引いてても貴族としては落第点だろうよ、何方かと言えば無能だけど卑怯では無い卿と同じような人種になると思うぞ?
俺からの呆れた視線を受けていた『不死の王』だが、突然背後から頭をぶっ叩かれ快音を響かせる。
「何をしているか貴様は!?」
話題の人物であるガブリエル・ハーカー卿が年甲斐も無く顔を真っ赤にしてスリッパを振り抜いていた。都市長と言い貴族の中でスリッパで叩くのが流行ってんのかな?
「お前の婿探しだ、タタラ・ジュロンなら相応しいだろう?」
「余計なお世話だ、何故寄りにも寄って孫程に歳の離れた庶民を選んだ貴様ぁ!?」
とんでもない事を宣う『不死の王』にご尤もな言葉を返すハーカー卿、何と言うか……此処で若返りで彼是が有ると都市長と変なフラグ建ちそうなのでハーカー卿には頑張って阻止して欲しい。
「……まぁ、他国の俺が言うのは変だが確かに宰相を務めるような家の血が途絶えるのは流石に拙いよな」
「貴族の事は私じゃ分からないけど、多分国政に携わる優秀な家なら後継者は必要なんだよね」
こんな事を言ってるエテルも元は貴族の家の娘である、自覚は只管に薄いが。そんなエテルを見て何かに気付いたような表情をする『不死の王』、そう言えば心が弱ってた時に最愛の相手を遠ざけてた事は話してたか?
「そうだ。そんな重鎮を務め続けてきたハーカー家の跡取りが欲しくてな、だからタタラ・ジュロンの胤を仕込んで欲しいのだが」
「欠片ほども認められないかな、他所を当たって下さい」
堂々と滅茶苦茶を宣う『不死の王』の額に『グロリオサ』を突き付けたエテルが笑顔で答えた。尚、目は全く笑っていない。
「ふむ……良かったなタタラ・ジュロン、お前の伴侶はお前を独占したい様子だぞ?」
「単純に自分が認めてない
そもそも独占したいのなら四葩を筆頭にハーレム形成を勧めて来ないっての、嫌がったの俺の方だぞこの件については。俺の答えに笑う『不死の王』に半ば諦めながらハーカー卿に視線を向けると、何とも言えない表情を浮かべて俺を見返してくる。
「……私も流石に孫程の歳の相手に無理強いするつもりは無いから安心して欲しい」
「目星付けた同年代の相手を若返らせて胤を貰ったりとかもやめて欲しいですけど、お家事情に首突っ込むつもりも権利も無いんで」
「暗に『やりそう』と言われてる気がするのだが気のせいか?」
ハーカー卿の言葉に答えると複雑そうな表情で言われるが、当人が望まずとも世継ぎを求められた結果一服盛られるくらいはありそうだと思う。つか『不死の王』が愉快犯的にやりそうと言うか。
正直なところナーハズヒト帝国の貴族でその辺の薬を使う人が居ないとも限らないが、少なくとも罰則が有るから表向きは使わないだろう。
「つか、こんな話をする為に来たんかお前?」
「仮にも他国の王相手に大分雑だな、正直心地良いが……まぁ本題は別件だタタラ・ジュロン」
それまでの雰囲気から切り替えた『不死の王』に自然と俺の意識も引き締まる、先程までの巫山戯た雰囲気は何処へやら目の前に立つ存在が否が応でも王であるのだと理解させられる。
「最近、我らが泊まる宿の周りをウロチョロと嗅ぎ回る鼠が目立つ。頭から外套を被り怪しさを前面に出している故にお遊びかと思ったが……どうやら真剣な様子でな」
「……他国の王や宰相を人質にして皇都と交渉するつもりか、よりにもよって国交樹立が成ったばかりの国の王を使うのは中々に考えたな」
まぁ、それが出来るような容易い相手じゃないが。
「あれ、そうすると王様と宰相さんが居るのに護衛さんが居ないのは問題なんじゃ?」
「ふむ、お前はそう思うかタタラ・ジュロンの伴侶よ」
当然と言えば当然の疑問を持つエテルに対して『不死の王』が少し面白そうな表情を浮かべる、そんな相手に少しムッとした表情を作ったエテルは言い返す。
「私にはエテル・ネル=バーラルって名前が有るんですけど」
「そうか、私にとってはタタラ・ジュロンの伴侶としての価値しか無いが名前は認識しておいてやろう」
「あんまり俺の伴侶を虐めんなよ、その心臓に槍をぶち込むぞテメェ」
エテルの名乗りに興味無い態度を取る『不死の王』の姿にエテルを馬鹿にされた気がして怒りが湧く、そんな俺に犬歯を剥き出しにした笑顔を向けて来る『不死の王』とその姿に呆れた雰囲気を見せるハーカー卿。
「それは心躍る誘い文句だなタタラ・ジュロン、この場ではその後ろの存在が邪魔しそうだと言うのが無ければ乗っていたところだ」
そう言って俺の背後に居る『料理長』へチラと視線を向けて俺に向き直る『不死の王』、その様子から振り返れば明確な敵意を持って『不死の王』を睨む『料理長』が居た。
「お前に打倒されるのなら納得するが、その存在に打ち倒されるのは本意では無い」
「そうかい、それを聞いたらこの娘の姉妹全員に土下座してでもお前に敵対して貰おうかと悩むところだな」
「意地の悪い事だ」
何処までも楽しそうな『不死の王』だが、エテルの疑問に答えてないんだよなコイツ。まぁ、理由はかなり簡単なんだが。
「ま、明らかに護衛さんより強いお前が居るのに護衛を付けるのなんてそれこそ巻き込む可能性を考慮してって感じだろ」
「流石は私の理解者だな、タタラ・ジュロン」
「知らない間に嫌な称号と認識付いてるんだけど」
愉しそうに嗤う『不死の王』の言葉に見逃せないものが有ったので思わずツッコミを入れる、この認識が影響して常夜の国に連れ帰られたりとか恐ろしい未来が有りそうなので否定したい。
「何を言うタタラ・ジュロン、お前はこの世で最も私を理解しているだろう?」
「なんでそうなる!?」
俺が『不死の王』の理解者扱いとは一体何なのか、お前の中で俺の存在って一体何なんだ?
「……諦めろタタラ・ジュロン、この愚王はお前を気に入っているからな」
「気に入ってるからって理解者扱いする!?」
「個人的な見解を言わせてもらえば、おそらくお前が最もこの愚王を理解しているのは間違いないと思うが」
「なんで!?」
まさか長年連れ添っているハーカー卿がこの言とは一体、俺は本当に何だと思われているのだろう?
「クク……まぁ、戯れも此処までとしよう。お前には伝えておこうタタラ・ジュロン、この喜劇の中で私に挑む者に私は容赦はしないとな」
喜色の中に明確な殺意が混ざる『不死の王』の姿を見て、僅かに背筋が泡立つ。俺がコイツと戦った時にも似た雰囲気を出していたが、あの時と別の感情……不快感が伝わってくる。
「まぁ、正当防衛の域で収まるだろうな。仮に殺したとしても王族かつ相手がテロリストって事を鑑みて推定無罪だろ」
詳しくは法務長に伺う必要が有るだろうけど、流石にコレを罪として裁くのは無理だろう。つか、コレを有罪としてうちの国が裁いたら常夜の国との戦争に繋がるだろうな。
「まったく、お前のような人間でも居れば楽しめそうだがどうだろうな?」
「少なくとも騎士見習い達に獣人や夜闇の眷属が居るって情報は無いぞ」
「……そういう意味では無いのだが、な」
はて、何処か呆れた雰囲気を出す『不死の王』はどう言う意図で言ったのだろうか?
「タタラ・ジュロン、もしも此度の戯れを行う者達を一人でも多く生き残らせたいのなら私の下へ訪れるのを可能な限り防げ。有象無象の区別なく、我が前に立つものは等しく殺すぞ」
「ご忠告どうも、俺は俺の平穏を崩そうとする奴に容赦も同情もしねぇよ」
俺の言葉に少し疑問を持ったらしい『不死の王』が言葉を向けてくる。
「それならば私もそうではないのか?」
「ダンジョンで出会った時はそうだけど、別にお前は俺の平穏自体を崩そうとはしないだろ。寧ろ俺の平穏な日々を尊重してくれてるくらいだ」
コイツ自身、俺という人間をかなり深く理解してる節がある。いきなり家に来たりしてはしているが、俺の生活を破壊したり復讐者に堕としたりと言った過激な行動を取ったりはして来ない。多分、依頼しに来たりあの夜に語った事から俺に守るものが多い方が強く在れる事を理解しているからだろう……何故俺は他国のそれも吸血鬼の王にこんなに深く理解されているんだろうか?
俺の言葉を受けた『不死の王』は小さく笑みを作るだけだ、どんな感情なんだろうなコレは。
「クク……忠告はした、目的は果たした故に今日はもう帰ろう」
「……ハーカー卿のお家事情は必要だったのか?」
「当然、必要だったとも。お前の身の回りで高齢故に恋に悩む者が居たら我が国を勧めるがいい、お前の紹介なら薬を融通してやろう」
「ナーハズヒト帝国だと犯罪だからなその薬?」
俺の言葉に肩をすくめた後、疲れた表情のハーカー卿を連れて『不死の王』は帰って行った。引っ掻き回すだけ引っ掻き回して帰って行ったが彼奴が来るとトラブルに事欠かないな本当。
エテルと『料理長』を伴って家に着き、夕飯の前にお義母さんに話し掛ける。目的は当主代行の『大紅蓮』のCMに使う楽曲についてだ。
「お義母さん、少し急ぎ目で陽出國の音楽を何か一つ演奏して欲しいんですけど」
「唐突ですね」
俺の言葉に戸惑いは見せずとも訝しげな顔を向けて来るお義母さんに、ワードプロセッサを取り出して今日撮影した『大紅蓮』のCMを見せる。スッと目を細めて静かに映像を鑑賞するお義母さんだが、映像をそのまま何度も繰り返しながら指で拍を取っている。
「……つまり、この映像に合う楽曲が欲しいのですね?」
「理解が早くて助かります」
10回近く見直したお義母さんから振り向きざまに確認され、俺は肯定する。繰り返し見たのは多分、頭の中で曲を作っていたからではないだろうか?
もしかしたら、作曲や楽曲の作成用のワードプロセッサを作って渡したらお義母さんも活用するんじゃないか?
「もう少し早ければ虎熊領を経由して陽出の楽団の一つを呼び出せたのですけど……」
「流石にそれは豪華過ぎると言うか、過剰なのでは?」
何処ぞのアニメ監督が映像以上に楽曲に拘って国立のフィルハーモニーに依頼した結果、一番金が掛かったとか言うエピソードを思い出した。たしか人気が出てたヒロインのスピンオフを作って売らないと最終巻までOVA出せなかったんじゃなかったかアレ?
「タタラさんはご存じ無いのが当然ですが、あの人の剣舞を映像に残すのならコレくらいは当然なのですよ?」
天之鈿女と呼ばれる陽出國きっての舞手らしいお義母さんではなく、その伴侶である当主代行の剣舞がそれだけの楽団が必要になる程なのか正直分からない。困惑する俺を見ていたお義母さんは説明を続けてくれる。
「今は四葩に譲りましたが、かつては海内無双と詠われ剣聖と称えらるあの人の剣舞なのです。例えアーレム越しとは言え、衰えぬ技の冴えを映像として残しそれに楽曲を充てるとなれば我先にと名乗り出る演奏家は多いのですよ」
「……マジか」
四葩の両親、陽出國で大貴族ってだけじゃなくても影響力デカすぎないか?
今更ながら彼奴と結婚するのが怖くなってきた……逃げるつもりは無いんだけども。
「それに、コレだけ見せ場を凝縮した変態的とも言える映像美……そこに腑抜けた音楽を伴うなど例え帝が許しても私が赦しません」
うん、もしかして当主代行ガチ勢なのでは……結婚してるくらいだし今更か。
「その……この映像を三日後迄に完成させなきゃならないんですけど」
「練習に一時間で一発撮り、十分ですよ」
「それを出来る貴女になんで俺はタタラってるって言われてるんですかね?」
ゴーレム達の力を借りて一時間で家を建てるのが大した事ないじゃないか、楽曲練習一時間とか意味不明だろ。
「しかし、今回は楽団の手配が間に合いませんからね。妥協して娘達と帰ってきたらあの人も使って撮りましょうか」
「……豪華だな」
いばらさんと三葉さんが楽器を弾ける事をツッコむ事は無い、だってあの二人も虎熊家の令嬢だしその辺りの教養が有っても普通に思える。
「……どんな楽曲にするのかの構想は有りますか?」
「一応は、これから楽譜を起こそうかと」
「それなら少し待ってください」
お義母さんに言葉を残して工房へ入る、作業台の機能を最大限活かして楽曲編集に特化したワードプロセッサを作成する。更にガワは鍛冶場で鍛造ミスリルを用意してから作成、ハカンサスの団長に送った物よりも更に頑丈な物に仕上げる。まぁ、鬼だしコレくらいしないと中身が危うそうだしな。
「楽曲編集用に仕上げてみました、ちょっと試して貰えますか?」
「タタラさん、ものの10分程でコレを作る人をタタラってると言わずに何と言えばいいのですか?」
お義母さんから作成時間についてタタラってる認定を受けるが、それでも一時間で複数人による演奏を完成させられるのは異常だと思うんだが。
取り敢えず楽曲編集用ワードプロセッサをお義母さんに使ってもらい、脳に掛かる負荷やレスポンスの異常等を確認していく。そのまま記憶にある楽器の音階の再現や、それを組み合わせて合奏さらには編曲と一通り熟していくのを見ている。お義母さんの順応性が高過ぎやしないか?
頭の中のイメージを固める作業というだけなのか、10分もすれば一曲出来上がっていた。コレ、このまま使えばいいんじゃないかと思うんだがそこのところどうなんだろうか?
「一先ず、見本は出来上がりましたね」
「あの、これそのまま使うのは駄目なんですか?」
「駄目です。魔導具の上で出来た物には血が通っていません、そんな物をあの人の剣舞に合わせるなど言語道断です」
「あ、はい」
帰ってきた当主代行と三姉妹を引き連れて即座に転移門を潜って行ったお義母さんを見送り、残された俺達は夕食を済ませる。連れ去られる当主代行の目が晴れた昼下がりに荷馬車へ乗せられ運ばれる子牛のように見えたが、止めたらなんか俺が危なさそうだったのでスルーした。一時間で収録を終えるそうなのでそれまではのんびり待つだけだ。
《……タラシさん、現実逃避中ですか?》
「タタラだ。飯より前までは普通に呼んでただろ『料理長』」
《コミュニケーションの一環ですよ。それで、『大紅蓮』のCMの編集ですか?》
ワードプロセッサ内で出立前に預かった楽曲を映像に合わせてイメージを補強していたのを見られていた、まぁ完成した楽曲が届いた時に映像と楽曲の速さを合わせなきゃいけないのでコレはあくまでも仮の完成品である。
「お義母さんが戻って来たらキチンと完成させないといけないんだよな……三葉さんにこの都市を案内しなきゃならないから寝不足にはなりたくないんだが」
《堂々と他の女性とのデートに付いてを私に語るなんてデリカシーが無いですよ、タラシさん》
「お前な……」
あからさまに不機嫌ですと言わんばかりのムスッとした表情を作る『料理長』に醒めた目を向けるが何処吹く風と言った反応だ、俺に対して打ち解けすぎじゃないかな君?
《ところで、私の『ジェネシック』のCMも作って欲しいんですけど》
「お前やダリアのアーレムなんて公開出来るかよ」
販売も出来ないのにCM作るとか、欲しがる人達に対して拷問だろそんなの。
「PVを自分で作るとかすればいいだろ」
《私達になあんな大規模かつ精巧なセットを作る力なんて無いんです、タタラさんが手伝ってくれるなら出来ますけど》
「素材持ち込みなら対応するよ、直ぐには無理だけどな」
少なくともこの都市祭期間中は無理だ、卒業前の授業免除の期間中なら問題は無いが……あの後輩二人に手伝いを頼む形でクラフト技量を上げさせるのも良いかもな。うん、我ながら悪くない考えに思えてきた。
《タタラさん、何か恐ろしい事を考えてませんか?》
「いや別に、普通の事しか考えてないぞ。それより、PVで大まかな演出の希望とか無いのか?」
《そうですね……奇跡、神秘、夢って感じのがいいです!》
実は『看板娘』達って俺の前世の世界の事を知ってたりしないかな、元ネタ知ってないと普通それらの単語の羅列って出ないぞ?
以前は『清掃長』が『料理長』の我駕牙に対して元ネタを思い起こさせるような事を言ってたし……こうなったら元ネタのオープニング映像でも再現してやろうかな。
《何だかタタラさんがとても心躍りつつも各方面から叱られそうな事を考えてる気が》
「気の所為だ」
普通に察せられて思わず誤魔化す、コレは俺が読みやすいのか『看板娘』達の察しがいいのか何方なんだろうな?
そんな俺の内心を知ってか知らずか、『料理長』は手を軽く打って思い出したように思念を伝えてくる。
《そうでした。タタラさん、私達姉妹……妹を除いた上の三姉妹はこのお祭りの中で起こる事件には関われません》
「……なんだって?」
なんか物凄く重要と言うか、聞き捨てならない事を言われたな?
《このお祭りで起こる事件はタタラさんが特異点として関わる影響で、本来の歴史から大きく変わっている物になります》
「いや、それは今までもそうなんじゃ?」
《その時、私達姉妹の誰かが貴方の側に居ましたか?》
そう言われてしまうと自信が無い、俺の知る限り関われた原作イベントは『
もし、本当にイベントが消失していた場合その影響が原作主人公であるスミスにどう働くのかが分からない。ゲーム時代ではあくまでもサブイベントでしかなく、スミスの
しかし、発生しない事でスミスの人間関係に少なくない影響は出る。ゲームシステムでは街の組織ごとに好感度が設定されていて、このイベントを熟すと最低値であった自警団の評価が普通迄は持ち直せるくらいに良くなる。
自警団からの好感度は街に存在する組織の大多数の評価にも繋がっていて、自警団が信用するならとサブイベントの多くが解放される。腐敗が始まっていても『ワールウィンド』を守り続けてきた実績はかなり強い、それが原作の自警団なのだ。
そんな自警団の評価が痴漢やら覗きやらで最低値のスミスが、この二人とのイベントをこなせない場合どうなるのか……下手したらサブイベントの殆どを俺がやる事になりかねないんじゃなかろうか?
まぁ、こう言ってはなんだがゲーム本編でスミスがやる事は世界観的に見るとかなり小さな事象に収まる。あくまでも『ワールウィンド』内の問題解決に留まるだけなので、別に解決するのがスミスである必要は無かったりするんだが。
「……仮に、俺の存在で歴史にどんな影響が出るんだ?」
《簡単に言ってしまえば死者の数ですね》
「それは後の歴史に少なく無い影響が出るな」
本来死んでいる筈の人間が生きている事、逆に生きている筈の人間が死んでいる事で起こる影響なんて考えるだけでも頭が痛い。バタフライ・エフェクトがどれだけ起きるかなんて分かったものじゃない、それこそ原作が完全に崩壊する可能性も有る。
「あれ」
《どうしました?》
原作崩壊と考えて頭に過る一つの会話、
「……もしかして、此処で俺がやらかすから三割の確率で未来がとんでもない事になる?」
以前
シスター・ランカのルートのラスボスは邪神と言うか魔神を崇拝している神官で、敵対する理由は献身を旨とする癒しの乙女様に使えるシスター・ランカを魔神の新たな肉体を産む為の母体としようとした事からの敵対。
カトレア・ルドベキアのルートのラスボスは敵国ことディカステス国の将軍であり、国のトップが倒れた故にかつて結ばれた協定を一方的に破棄して『ワールウィンド』を占領しにやってくる。
今生で出会うか微妙な三人目のぺったんこスナイパールートのラスボスは古代の超大型機動兵器で、スナイパーが強力な武器を求めていた理由を探していた先で目覚めさせてしまった結果だ。
正直、カトレアとぺったんこスナイパーのラスボスは逆の方が合ってたんじゃ無いかと個人的には思わなくもない。それはそれとして、此等の事象は一人を除いて主人公達が取ってきた行動とは因果関係が薄く何時かは発生していたであろうことは察しが付く。
シスター・ランカのラスボスだってルート限定で彼女が聖人認定されていれば説得力が有ったのだろうが、才能が戦闘に偏っている彼女では乙女様の宗派で聖人認定は無理だ。回復魔法や薬学の才能も殆ど無いしな。
カトレアは実家
ぺったんこスナイパーは彼女の事情と言うか目的を追っていた結果古代兵器が目覚めたので因果関係はしっかりしている、一匹狼器質な彼女の事なのでスミス達と一緒に行動していたから他のラスボスのタイミングで出て来なかったとは考えられる。
逆に古代兵器を目覚めさせるタイミングで最低でもディカステス国が攻め入って来なかった事の理由が分からない。あのトリモドキがダイナミック不法入国してくるのは共通イベントだし、アレを切っ掛けとしてディカステス国が自国の重要人物の奪還を掲げて『ワールウィンド』に攻めてくるのだが……なんか今の状況がカトレアシナリオの先取りに思えてきたな。騎士見習いが呼んだ敵軍の中にあの将軍が兵卒で紛れ込んでたりしてな。そしたらカトレアルートのラスボスが退場になってくれて楽になるんだけど。
「俺の影響で死者数の増減が起きるのは分かったが、なんで『バイト長』だけは例外なんだ?」
《簡単に言うと、あの子がタタラさんと関わり過ぎたせいで存在の変容が激し過ぎるからですね》
「俺の影響っていったい……」
頼まれたのが理由だが、『バイト長』はそのドジっぷりが少しずつではあるが改善してきているのは確かだ。それはそれとして元々『看板娘』が原作に参加出来ないのは言われるまで気付かなかった……いや待て、『看板娘』は原作イベントに参加出来ない?
「……なぁ、俺はタチアなんて人間の名前を前世で知らないんだが」
《ええ、そうでしょうね》
「それなのにこの学生運動は原作に有る事象なのか?」
前世で遊んでいた『深く深い闇の先で』では少なくともスミスが関わる事件の中でこんな大規模な内乱は無い、DLC含めて全てのイベントを制覇したからこそ最後のスチルを見れた訳だし。
《ええ、存在しています。貴方が触れた物には詳細が無かったと思いますが》
俺の内心の疑問を他所に『料理長』から告げられるのは前世と今生の差についての言葉、何処か『料理長』の雰囲気から離れた物の気がする言い方に違和感を覚える。指摘するべきだと思うが、この情報を逃すなと魂が警告を出してくる。そして、何となく指摘してしまうと二度と聞けなくなるような気がしてならない。
《それでも確かに本来の歴史に有った事件であり、事象。故に私達
「なら、何で俺が進むべき運命ってのには制限が掛かってない?」
俺が教えられた世界の狭間の先にある『終焉の欠片』の破壊、コレは俺に定められた
俺の質問に対して『料理長』は首を横に振ってから口を開く。
《制限は確かに掛かっていますよ。ただ、貴方の
「なんて?」
なんか幾つか聞き捨てならない事を言われた気がする。
《まぁ、貴方の
「おい、ちょっと待て」
《煩いですね。しつこくすると長女を発情状態に固定して貴方の伴侶とタッグ組ませて襲わせますよ?》
「中身が漏れ出てんぞ
何時ぞやと同じ様に『料理長』の身体を乗っ取って居たらしい
《せいぜい今回の騒動で生き残って下さいね、貴方の
「おい、余計に気になる事を言い残すな!?」
カーテシーを決めた『料理長』姿の
「……何で今年はこんなに厄ネタが振りかかるかな」
そう独り言を零して後頭部を掻いた。明日から始まる都市祭で何が俺を待っているのか、不安が積もるばかりだ。
因みに、『不死の王』関係は本来都市長のヒロインルートの為に存在してました。でも、そうはならなかった。ならなかったんだよファック。だから……この裏話はここでお終いなんだ。
オマケ
その講堂とも呼べる広い部屋で、狂乱の宴は行われていた。
数百人の人間が集まり、熱気と狂気が入り交じる空気を生み出して原初の欲求に染まった行動を取る若者達。
本来は騎士を目指し学ぶその舎にて、人道に悖る宴に興じる者達。女性の従者や同じ騎士見習いを相手に男達は群がり、その性を満たして悦に浸る。
泣き叫ぶ者が居る。
抗おうとした者も居る。
諦めて心を殺した者も居る。
そんな女達の姿に支配欲と満足感を満たし、男達は代わる代わる女達を犯し続ける。
そんな中でも特に男が群がる女が一人居る。可愛らしさを意識した服は引き裂かれ周囲に散らばり、全身を使って男を喜ばせるだけのまるで備品扱いだ。
「くはっ、流石は『性魔術』持ちだぜ!」
「具合がチゲぇな本当!!」
「早くしろよ、後がつかえてんだよ!」
「うるせぇ、マスでもかいてろ!!」
口々に汚らしい感想を零す男子生徒に弄ばれる女、かつてタタラの怒りを買ったトリカは男達を奉仕し続ける。最初に男を受け入れた時は抵抗していたが、膣内射精を受けた時点で心が壊れた。
今では『性魔術』で男を悦ばせ、精を受ける為に反射で動く肉人形も同然だ。
「しかし、勿体ねぇな。もう少し乳がデカかったら挟んだのによ」
「お前の粗末なナニなら挟めんだろ」
「ぶっ殺すぞテメェ」
騎士の見習いとは思えない会話を交わす男達はその怒りすら性欲に変換し女達へぶつけていく。
決起集会、そう嘯かれたこの乱交から少し外れた所で二人の男が会話していた。
「おい、俺も愉しみてぇのに何の用だ?」
「ふふふ、そう慌てずとも」
「他のゴミ共の汚ねぇザーメンでオレの気高い肉棒を汚したくねぇんだよ」
以前タタラの怒りを買い威喝され逃げ出したチンピラの男は、自身を勧誘しこの狂宴を開いた扇動者にそんな言葉を放つ。扇動者は内心チンピラを卑下しつつ、一つ高級そうな黒いケースを取り出して二人が挟むテーブルの上に置いた。
「此方を。今回の騒動にて切札になる物です」
「切札だぁ?」
言われてチンピラがケースを開くと、中には一振りの禍々しい意匠の剣が有った。
「これは……」
「ふふふ、中々に珍しい代物でしょう?」
その剣を手に取るチンピラに扇動者は自慢気に語る。尚、チンピラにはこの剣が何なのかは分かっていない。
「この剣ならば相手が人間である限り必ず殺せますからね、協力して下さる貴方に進呈しようかと」
己の伝や財力を誇るその姿に苛立ちを覚えつつも、かつて自身を馬鹿にしてきたクラフターや取巻達に復讐が出来ると考え溜飲を下げるチンピラ。
そんなチンピラを内心で見下しつつ、扇動者は湧き上がる怒りを抑え込む。
扇動者はこの『ワールウィンド』への恩讐を果たさんと全てを賭けていく、立ちはだかる壁がどれ程までに高くなっているかも知りもせず。
生存するか否か
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生き残る(元は生き残る予定)
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生き残らない