既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
名前と外見を出す為に三人称で語っていきます。
タイトルはとある花言葉から。
愛の絆
空に立ち昇った煙が雨を呼んだのか、強い雨が降る。
ダンジョンからの帰り道、傘もささずに歩く男が一人。
身長は180cm後半から190cm手前、黒い全身鎧、長い黒髪と金目をした偉丈夫だ。
顔を伝う雨粒に舌打ちをしつつ、一度濡れたならもう同じ事だと諦めて歩みを止めない。
そんな男だが、ふと目に付く物が有って足を止めた。
建物と建物の隙間、人一人が何とか入れるかというそこに膝を抱えて座り込む影が一つ。
訝しがりながら近付いて、声を掛けた。
「おい、そんなところで何をやってるんだ?」
男の呼び掛けに、影は身体をビクつかせる。膝の間に隠していた顔を上げ、ゆっくりと顔を向ける。
思わず息を呑む。癖のない、菫色の長い髪。伝う雨水に負けない瑞々しさを持つ肌。スッと通った鼻梁と、形の良い唇。細い顎と、それを支える首筋は折れてしまいそうな程細く。男を見る紅玉を思わせる瞳には光が無く、目尻からは涙が通った痕が見て取れた。
美と言う物を人の形に押し固めれば出来上がる、そう言われても納得する程に美しい少女だった。
「……風邪引くぞ、家に帰れ」
男は驚きつつも冷静に言葉を紡ぐ。胸は自然と早鐘を打ち、緊張をしてしまう。
そんな男の動揺を無視して、少女は首を横に降る。
「家出、か?」
女性のそんな反応に、男は疑問をぶつける。おそらくは未成年者が帰宅を拒否する理由の最たる物。
しかし、少女から返って来たのは否定。
「帰る場所、無くなったのか?」
その言葉に対する反応は劇的だった。身体を大きく震わせ、男に視線を向け……唇を噛み涙を流した。
彼女は喪ったのか。と、男は自分の言葉の無配慮さを内心でなじる。
「行き場が無いなら俺の家に来い。少しは面倒見てやる」
少女へ手を伸ばし、そう言葉を紡ぐ。
自身の言葉で傷付けたのだから、少しは責任を取ろう。
男の心にはそんな贖罪と、美しい女性に対するほんのちょっとの下心。
真っ直ぐに目を向ける男の顔を見、伸ばされた手を見て……やがて少女はおずおずとその手を取った。
立ち上がろうとして、足を縺れさせる少女。思わず抱き寄せた身体は冷えて、震えていた。
その震えの理由は一旦思考の外へ置き、少女の格好を見る。
雨に濡れ、下着が透けている薄い部屋着。裸足で、その足裏は泥で汚れている。
このまま歩かせる訳にはいかないと、少女の肩に手を回し、膝裏を持ち上げて胸元へ身を預けさせる。横抱きの姿勢に落ち着いた少女は抵抗もせず、されるがままに男を見る。
「歩くと危なそうだから、コレで行くぞ。揺れると思うからしっかりと捕まってろ」
男の言葉に一つ頷いて、少女は鎧の隙間から出ている服の布を摘むように握る。
その様子を見ながら早足で帰路を進み始める男。
「そうだ」
前を見ながら歩く男は少女に声をかける。
「自己紹介が遅れた。俺はタタラ、タタラ・ジュロン。貴女は?」
男……タタラは前を向いたまま、そんな姿を見ながら少女は震える口を動かす。
「……エテル・ネル=バーラル」
少女……エテルは答える。
その音を聞いたタタラは頬を緩ませる。口の中で数度音を転がし、素直な思いを口に出す。
「良い名前だな、可愛らしい」
「そうかな……そうなら、嬉しいな」
タタラの言葉にエテルはぎこちなく笑う。表情が動き難いだけで、無感情では無いのだと理解できた。
怖い相手では無いのだと、エテルは初めよりも深く相手に身を預ける。
夜の中を駆ける二人の影は寄り添う。まるで、この先もそうであるかのように。
暫しの時を経て、少女が座り込んで居た場所に物々しい1団が集まってくる。
都市部で必要になるかも分からない、ミスリル製の軽鎧とタワーシールド。槍の代わりに非殺傷用の捕具である刺叉を持った、衛兵にも見える集団である。
狭い隙間の先をカンテラで照らし、何もない事を確認したりと何かを探しているようだった。
そんな1団の元に近付いてくる1台の馬車、表には金箔で
一人の兵士が馬車へ駆け寄り、中にいる人物へ声を掛ける。
「恐れ入ります! この付近には居ない様です!!」
雨音に負けぬよう、大声で呼び掛ける。中の人物は僅かに窓を開け、兵士に声を返した。
「あの蝙蝠の屋敷から近い場所は全部探せ。小娘一人の足だ、そう遠くへ逃げられん」
「はっ!」
「あの女の娘で夢魔の血が濃いらしい……私が飽きた後で味わわせてやる、探し出せ!」
「ははっ!!」
馬車は走り出し、それを見送った兵士は捜索を再開する。
此処に
場所は変わり、少女を拾った場所から1km程離れた男の家。
「ただいま」
「お、お邪魔します……」
誰からも返事がない事を分かっているが、習慣から帰宅の挨拶をしてしまうタタラ。他人の家に上がる時の定型の挨拶を入れたエテルで、その表情は少し違った。
この国の習慣は、タタラの前世と同じで屋内では靴を脱ぐ。
裸足で足裏が汚れているエテルを抱えたまま、片側の脚甲の側面を踵で叩いて瞬間的に外せる機構を起動する。パシャリと脚甲の中を満たしていた水が流れ、その中から靴下まで濡れた足が反対側にも同じ動作をし踏み出した。
床を濡らしながら脱衣場へ歩き、エテルを浴室へ入れてドアを閉める。
曇りガラスの扉1枚を挟んで、タタラは言葉を送る。
「悪いが、服は中で脱いでから脱衣場の籠へ入れてくれ。シャワーやカランは鏡の下に有るレバーで切替え出来る。お湯は別のレバーを下ろして出るが、温度調整は左右に捻ってくれ」
この世界にはシャワーが有るのだが、タタラは前世で使ったシャワーを思い出して手を加えていた。台所のシンクも同じ形式であり、捻るだけで出るし丁度いいお湯の加減も保てると母親から高評価だった。
因みに、この家に良く来る都市で一番偉い人は猫が宇宙を背負ったかの様な姿を見せたとか。
「タタラは? 入らないと風邪引いちゃうよ?」
エテルは浴室の中で濡れた服を脱ぎつつ、タタラへ問いかける。
因みに、曇りガラス越しにも分かるエテルのスタイルの良さが分かってタタラは鼻血を出しそうだったりする。
「俺はちょっと着替え探してくる。女性用の下着はすまんが替えが無い、俺の厚手のシャツなら裾も長いからそれで我慢してくれ。あと俺は後で入るから気にするな」
何とか鼻血を我慢して真面目に答えるタタラ、しかしエテルは気遣いという形で彼を追い詰める。
「でも待ってたら身体が冷えて風邪引いちゃうよ、お着替え持ってきたら一緒に入ろ?」
此処で少し説明するが、エテルは一種の箱入りであり異性への警戒心が薄い傾向にある。何年か前まで父親とも一緒に入浴していたし、彼女の容姿から同年代の男子は畏れて近付けない。
そんな訳で、初めて真っ当に接した異性がタタラであるが故に彼へ父親と同じ対応をしようとする。
コレを受けるタタラにとってはたまったものでは無い。
彼は研究塗れで初等教育時代を生きて来たが、真っ当に育って来た思春期の肉体を持つ男子だ。性欲の対象は異性だし、肉体的に年齢の近い相手に惹かれると言う至極真っ当な感性を持っている。
そんなタタラに、今生でもとびきりの美少女がそんな言葉を掛けたのなら思考がどうなるか。そして悲しい事に、彼は
「わ、分かった。ちょっと急いで取ってくる」
動揺しながら、駆け足で着替えを取りに行く。彼は悲しい程に
「か、かゆいところはないか?」
タタラはそうエテルに聞きながら、髪を洗う。
作業室に愛用の鎧を放り投げ、自室から厚手のシャツを手に取り、脱衣場で最高速で服を脱ぎ浴室へ入った彼は正に
例え、貸し出すシャツを薄手の物にしてエテルの美しい身体を見ようと悩んだとしても、それを実行しなかった彼は
「うん、大丈夫だよ。タタラの手、気持ちいいね」
何処か擽ったそうに答えるエテルは、タタラの手を心から気に入っていた。ゴツゴツとした胼胝が掌を覆っているがその手つきは繊細で、エテルの髪を壊れ物の様に丁寧に扱った。
そもそもが他人の髪を洗う経験など無い
その手つきが優しく、擽ったくエテルは思わず笑ってしまったのだ。
対してタタラの心臓は、今にも爆発しそうであった。
最後の理性で腰にタオルを巻き浴室へ入れば、バスチェアにチョコンと座る全裸の美少女。
シャワーも使ってないのかと問えば、何時も両親にやって貰っていたらしくて自分では出来ないのだと言う。
そうしてタタラはやった事も無い他者へのシャンプーを実施するに至ったのである。
不用意に下を向けば、心底安心した様子のエテルの頭頂。その先に細身の身体に似つかわしく無い豊かな山の先端が見える。
このまま押し倒してしまえれば、と何度も思うが彼は
そして、彼は出来る限り意識を逸らす。
髪に隠れる様に一対の小さな黒い角が有ることに気づいたり。
立っていたら大丈夫だったが座ると髪が床に広がっていることだったり。
背中の小ささだったり。
腰から伸びる小さな蝙蝠の翼だったり。
肌の白さだったりと。
そして1時間近い時間を使って、彼の苦難は終了した。
大人しく椅子に座る湯上がりのエテルの髪を、タタラは自家製の魔導式ドライヤーで乾かしている。髪が熱を持ってしまわないように冷風を吹付け、その風に乗って傷薬が髪に塗布されて行く。
タタラが前世で見たイオンドライヤーを間違った解釈で作成し、髪のダメージを文字通り治すこのドライヤーは、母親の誕生日に作って贈ったらとても喜ばれた品だ。
なお、物を見た都市で一番偉い人は特許の申請を叫びながらサンプルを持ち帰って行った。
無心に髪を乾かすタタラ。なお、貸し出したシャツはサイズが合っていないため、首回りからその先に有る膨らみの先端が見え隠れしている。
長い時間を掛けてエテルの髪を乾かし終えたタタラの顔は、まるでドラゴンでも討伐したかの様なやり遂げた
髪を乾かし終えたエテルをテーブルに着かせ、タタラはインスタントのオニオンスープにお湯を注ぐ。暖と栄養を取る上での選択だが、他に食べられる物が無い。と言うのも、今日はダンジョンの帰り道に外食で済ませようとしたが故に食材が無かったのだ。
とりあえずスープとパンを、と彼はこの選択をしたのだ。
スープを一口啜り、エテルがカップをテーブルに置いた。
「……美味しくない」
此処に来て初めてエテルが拒絶を示した。
「あぁ、悪いなインスタントで」
「美味しくない、要らない」
タタラはそのエテルの声に含まれている感情に、既視感が有った。我儘、では無い。
タタラには分かる。コレは、もっと切実な感情だと。
「いやだ、お母さんのスープがいい!」
コレは、喪失の痛みだ。
思わず駆け寄り、エテルを抱き締める。
胸元に頭を抱き寄せ、鼓動を聞かせる。
「タタラ! お父さんとお母さん何処!? いや、独りはや!」
自分の名前を呼ぶエテルの頭の中では、両親の喪失を咀嚼する為に急速に回転をしている。
しかし、心がそれに追い付いていないのだ。
タタラはコレを知っている。
「お父さん! お母さん! おと……ぁあぁぁぁぁああぁぁっ!!」
悲鳴の様な泣き声。いや、事実悲鳴なのだ。
胸元に縋り付くエテルを強く抱き締めて、温もりを伝えてやる事しか出来ない。
この痛みは自身で乗り越えるしかない、手助けが出来ないのだ。
1年ほど前。タタラが家で両親の帰りを待っていると、沈痛な表情を浮かべた両親の探索者仲間の男性が家に来た。
普段は余裕の有る雰囲気で飄々としたその人が、とても苦しそうだったとタタラは覚えている。
口から漏れたのは短い言葉だった。
「君の御両親が亡くなった」
タタラは何を言われたか、言葉は分かった。しかし、意味が理解出来なかった。
しかし、時は無情にも流れる。ダンジョンから帰って来た両親の遺体は、タタラには大きな損傷が無い様に見えた。
タタラには分からなかったが、それにはダンジョンで彼等に助けられた者達が懸命に修復した努力が有った。
独りになり、普段通りの日々を過ごしていた。
普段通りの家事。普段通りの学園。普段通りのクラフト。
そう、普段通りに新作を作って両親に見せようとした。
誰もいないリビングを見て、ようやくタタラは理解した。
両親はもう居ないのだと。
その瞬間の絶望は、苦しみはタタラの心を蝕む。
膝を付き、持っていた作品も取り落として顔を覆い大声で泣いた。
居ない相手を求めて何度も呼び、返って来ない返事に更に絶望する。
気付けば『天使長』が現れ、タタラを抱きしめていた。
タタラが只管に求めたのは贖罪。自分が身勝手にクラフトをして両親に迷惑を掛けたから罰が下ったのだ、死ぬなら自分で在るべきだと『天使長』に泣きながら訴え続ける。
そうして何時しか泣き疲れ、眠りについた翌日にタタラは自身の感情が薄まっている事に気付いた。
両親を思い出す事が少なくなり、日々を過ごす事に問題が無くなる。タタラはコレを乗り越えたのだと思った。
そんな訳が無い、ただ心を麻痺させただけだ。
タタラは無意識に両親の話題を出さなくなった。
タタラは無意識に両親の部屋に近付かなくなった。
タタラは無意識に両親の知人を避けるようになった。
両親の死を、遠ざけたのだ。
時が経ち、少しずつ回復を始めた心。
しかし、未だに傷は癒えていない。
同じ境遇の
同じ傷を負った者同士が抱き合い、その夜は更けていった。
1話で終わらそうと思ったらまとまらなかったorz
アンケート第二弾結果。
(408) 見せてみろよお前の癖。両方に要る。
(51) 理想の男と女を妄想してるから要らネ。
(140) どんな女がタイプだい?
と言う訳で、三人称視点で二人の容姿を語る事に。
もうちょい描写細かくするべきかな?
この小説は……
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