既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
書くべきことがある筈なのに脇道に逸れまくる悪癖ガガガ
朝を迎えたジュロン家に、小さな動きが有った。
唯一のジュロンであるタタラの私室、そのベッドの上で動き出した小さな影。
タタラに拾われ、両親の喪失により涙を流したエテルである。
何時も寝ていたベッドよりもずっと硬い感触と、慣れない温もりに覚えた違和感により彼女は目を覚ましたのである。
目を開いて最初に見えたのは一面の布。触り慣れている絹とは違うややゴワついた手触りにエテルは疑問を持つが、そこから香る匂いは心地よかった。
匂いを堪能しようと布に顔を埋めれば、布の奥から更に濃い匂いが鼻腔を擽る。布の感触も心地よく感じ、額や鼻先を擦り付けて楽しむ。
そんな風に戯れていたエテルの頭上から、吐息が聞こえた。
気になり顔を上げると、エテルにとって見慣れぬ男性の顔が見えた。しかし、見覚えは有る。
「……た、たら?」
昨夜雨の中出会った男性の名前をエテルは思い出した。
声を掛け、手を伸ばしてくれた男性。
低く、静かで、しかしよく通る声が自分の名前を呼ぶ度にドキドキした。
大好きなお父さんとは違って少し無骨だけど、個人的には好みな顔をしている人。
目を閉じているタタラの頬に、エテルは手を添える。
日に焼けた肌はエテル自身の白い肌とのコントラストが強く、それが互いの在り方を尊重している様に感じてエテルは何と無く嬉しくなった。
閉じられていても分かる切れ長の目は、笑ったり気が緩むと途端に優しい形になる。
薄い色の唇は、自分の名前を呼ぶ時に笑む形になる。
出会って1日で、タタラの事はこれだけしか知らない。
エテルはより知りたいのだと顔を近付ける。
「……んぁ? 起きたか、エテル」
そんな動きに刺激されたのか、タタラも目を覚ました。
閉じられていた金色の瞳がエテルを捉え、やや掠れた声で名前を呼ぶタタラ。
まだ眠気が抜けないのであろう、昨夜エテルに向けていた様な理性が薄そうである。が、エテルにとっては子供っぽくて可愛いと言う感情が勝る。
もぞもぞと身を起こし、腕を天井へ向けて伸びをするタタラ。
そんな彼の鎖骨がシャツから覗き、エテルの胸が一瞬強く拍動する。
「もう、大丈夫か?」
血液が一気に頭へ回ったのか、思考が正常になったらしいタタラ。エテルはもう少し子供っぽくても良かったのに、等と思いながら彼の言葉を反芻する。
大丈夫とは何のことかと考え、昨夜自身が見せた取り乱し様を思い出す。エテルにとっては不思議な事に、今は両親の事を考えても心が落ち着いている。
「うん、今は大丈夫」
そんなエテルの言葉を聞いて、それが今だけなのだとタタラは理解していた。ふとした瞬間に再発するだろうが、今は指摘しない。可能ならそのタイミングには側に居てやりたいとは思うが、支えられる自信はタタラには無い。
取り敢えず朝食を用意するから洗面台で顔を洗って来てくれ。
そうエテルを促して退室させた後、タタラは崩折れた。
健康的な肉体を持つ男子、起き抜けの生理現象中に目の前に有る極上の女体。タタラの理性は限界寸前だった。
厚めのシャツとは言え、光に透ける布越しにエテルの身体の影は見えていたし、布を押し上げる膨らみの先端も認識出来ていた。所謂女の子座り状態だった為に裾は捲り上がって太腿は付け根まで見えていたし、もう少しで秘処も見えそうだった。
やや落ち着いたタイミングで、シーツから漂う香りに気付く。
何処か甘さを感じる慣れぬ匂い、タタラはそれをエテルの物と判断し即座に剥がして洗濯室まで持っていく。タタラにとってエテルの匂いは劇物に過ぎた。
エテルが洗顔を終えてリビングに入れば、タタラが朝食を用意し終えるところだった。
タタラとしては定番の選択であるトーストとスクランブルエッグにベーコン、レタスとプチトマトのサラダ。そしてコーンポタージュ、昨夜の事からオニオンスープは傷口を抉る可能性を考慮して止めている。
「お、顔は洗い終わったか? なら席についてくれ、飯にしよう」
エプロンを身に着け、エテルの姿を認めたタタラはふわりと笑って声を掛ける。
優しく目を細め、口元を僅かに綻ばせるその笑顔がエテルの胸を高鳴らせる。
学園でエテルに話し掛けてくる男子は声が大きく無駄に距離を詰めて来る、やたらと身体に触れようとする気安さが不気味で自然と身構え距離を取ってしまう。
対してタタラはエテルに取って適切な距離を取り、静かに語り掛けてくるので自然とエテルの側から距離を測り易い。
学園の男子達が無駄に強い夏の日差しなら、タタラのそれは静かな夜に月を映す湖面の様。エテルはそうタタラを評価していた。
尚、単純に女性に不慣れで距離を掴めないだけのタタラである。
エテルにとって、現状はマシな部類である。
性根が善良で
少しでも悪意を持つ相手だと、エテルはその身体の提供を求められていただろう。
エテルは労働力としての価値がかなり低い。
箱入りに近い育て方をされ、先天的な身体能力も低い。
家事を手伝った事が殆ど無く、学園で習う中等教育過程分の学力しか無い。
生まれながら持っていた魔力は放出する為の逕路が狭く、十全に活用出来ない。
此程までに欠点を持ち合わせ、優れた美貌を持っている。
一つボタンを掛け違えたのなら、何者かの愛玩奴隷となっていたかも知れない。それだけエテルは危うかった。
そしてタタラは思考に浸っていた。
エテルに住居と食事の提供をしたのなら、後は衣服である。
感覚がズレているらしいエテルはタタラから借りたシャツだけを身に纏った状態だ、コレでは何れタタラの理性が限界を迎える可能性が有る。
そうなれば最後、二人で生まれてくる子供の為に店を切り盛りする事になるだろう。
そうならない為にも、タタラは早急にエテルの服を揃える必要が有る。
タタラはクラフターとして、自覚は薄いが優秀で有る。
探索者用の装備と同じくらいには日常用品の作成を行える。
しかし、服飾関連に対しては前世から今生までセンスが壊滅的だと当人が認識している。
探索者の装備なら機能性を重視する傾向でも問題は無い、しかしエテルの私服を用意するとなると女子のオシャレと言う魔境へ挑まねばならない。
そのままタタラ自身のセンスに任せるならピンクのキャミソールに紺のパーカー、下はホットパンツにスニーカーと言った具合になるだろう。
女子にセンスを突かれたら死にたくなる、タタラはそんな恐怖で作ると言う選択を取れなかった。
「俺、この後ちょっと用事が有って出掛けるんだ。悪いんだが留守番頼めるか?」
「タタラ、何処か行っちゃうの?」
エテルはタタラの言葉に不安を滲ませた声で確認をして来た。
タタラとしての用事は二つ。エテルの下着類と、都市長への相談で有る。
エテルは『ワールウィンド』内で家族を喪っていると確認出来た、ならば後見人や親族が居るかも知れない。
タタラはまだ学生である。この先面倒を見るべきかどうか、自身が知る中で一番偉い人に聞く事にした。
尚、タタラから相談したい旨の連絡が届いた一番偉い人はまた開発関連でやらかしたのかと戦々恐々していたりする。
「大丈夫だ。エテルがこの家に居ていいかの確認だから」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
タタラの目的はエテルが回復出来る環境の提供である。その為に親族を探しているし、受け入れる余裕が無いならタタラが面倒を見るつもりだ。
家族を喪った後の孤独と苦しみは理解出来るし、寄り添えるとタタラは自負している。
「なら、待ってるね。いってらっしゃい」
「うん、行ってきます」
エテルの言葉に両親を思い出すタタラ。痛む胸の奥に気付かないふりをして、家を出た。
タタラの家から都市長の居る行政区までそれなりに距離が有る。コレはタタラの両親が行政区の近くに住むと、反政府活動をする思想家達の巻き添えを喰らう可能性が有ったからだ。
また、行政区からは離れているが学園からは比較的近く、『常闇の洞』から2km以内の距離に有った空地と言う好条件だったのも両親が購入する事を前向きにした。
そうしてタタラが相続した家は、一部地方で何故か速度の比較で使われる
その道程に広場が有るのだが、何故か賑わっていた。
目的地に向うにはこの広場を通らねばならず、タタラは人混みを掻き分け広場を通り抜けようとした。
そして見てしまった。
広場の中央にまるで展示される様に曝されたそれ。
一見の印象は不慣れな子供が作った虫の標本、手足の固定が上手くいかず何本もの針で縫い止められた様な不格好。
しかしよく見れば、それは人の形をしていた。
両手の指を全て切り落とされ、顔の皮を剥がれたうえで両目もくり抜かれた顔。
全身を貫く破邪を謳う無数の銀槍は、その身体を地に着ける事を許さぬとばかりに浮かせ血を伝わせている。
その凄惨さにタタラは口元を抑える。
ダンジョンで多少は慣れているが、この様に白日の下でこんな光景が広がっているとは思ってもみなかった。
気分が悪くなったタタラが視線を動かせば、そちらにも別の人集りが出来ていた。
見たら後悔する、そんな確信が浮かぶ。
見なければならない、そんな使命感が身体を動かした。
その先に有ったのは十字架に磔にされた全裸の女性の亡骸。
濃い紫の髪に、豊満な身体。
両手を縛り付けられて、足は台から浮いていた。
その背から一対の蝙蝠の翼が見え、女性が夢魔で有る事が分かる。
そんな女性の身体に、下卑た笑いを浮かべる男が群がっていた。
動かない女性の亡骸に性器を突き入れ、穢らわしい感想を口に出している。
次々と代わりながら男達は女性の身体を辱めて行く。
その女性が、タタラの目にはエテルの姿と重なって見えた。
その瞬間、強烈な吐き気に見舞われタタラは蹲る。この場で全て吐き出してしまいそうな状態に陥り、不意に腕を掴まれて其の場から連れ出された。広場から抜け、建物の影に連れられた瞬間にタタラは胃の中の物を全て吐き出した。
何度も何度も迫り上がる胃は、内容物を全て吐き出させてもなお止まらず。胃液を吐き出し続けてもなお止まらなかった。
「げほ、ぐぅ……糞!」
臓腑が落ち着き始めた瞬間、タタラは怒りの余り建物の壁を殴り付ける。
「糞っ! 糞っ! 糞ぉ! 糞糞糞糞糞糞っ!!」
何度も何度も言葉と共に壁を殴り続け、やがて眼から涙まで流れ始める。
余にも醜い人の悪意を目撃し、タタラの心に大きな負荷が掛かった。
更に拳を叩き付けようとして、横から手首を掴まれ止まる。
タタラが視線を向けると、知っている人物だった。
前髪に一房水色が混ざる金髪を肩口で切り添え、前髪の下から覗くは意志の強い翠の瞳が此方を見据えている妙齢の外見をした女性。
都市長の護衛騎士で筆頭を務める者だった。
「そろそろ来るのではないかと迎えに出たら、広場の集まりに巻き込まれたか。あの光景を見て嫌悪を抱くのは良いが、其の場で蹲るのは感心せんなジュロン」
「……お世話になりました、カラムスさん」
言葉を聞いたタタラは騎士カラムスへ礼を述べる。
騎士カラムスは気にするなと答え、タタラに歩くよう促す。
タタラとカラムスの付き合いはそこそこ長い。出会いはタタラの翻訳した古代錬金術師のレシピを都市長が接収しようとして、タタラが縋り付いて止めた時だ。都市長の行いを諌め、タタラのノートを順次預かる形にさせたのが彼女である。
タタラにとっては頼りになる姉的存在として慕う対象であり、騎士カラムスにとってタタラは主が豹変する切っ掛けとして警戒しつつも可愛い弟分である。
騎士カラムスは腰に提げていた水袋をタタラへ渡し、口を濯ぐように促す。口内の不快感に遅れて気付いたタタラは感謝を伝えつつ水を口に含んでうがいをする。
何度か口を濯いでようやく不快感が消えたタタラは、あの広場で行われていた凶行の理由を騎士カラムスに尋ねる。
「ふむ、その前に尋ねるが。この都市にバーラル家という悪魔族が住んでいたのは知っているか?」
「えぇ、何でも闇の女神から軍神へ改宗した珍しい悪魔族の方とか?」
「そうだ。そのバーラル家に異端審問と称しとある貴族が詰問を行った」
「……え、貴族がですか? 教会の騎士や神官では無く?」
「そうだ」
「はぁ!? 軍神の教会はどうしたんですか!? バーラル家は信徒でしょう!?」
「どうしてそこを気にする?」
「当たり前でしょう! カラムスさんが信奉する軍神の教会が、同じ宗派間だろうとそんな越権許す筈が無いでしょう! 公平な戦いと公正な正義を謳っている軍神が、たかだか一貴族や王族相手の勝手を許したら名折れでしょう!!」
「……そうか」
「何を笑ってるんですか!?」
「お前が、軍神様を信奉してないくせに私を信じているからだ」
激したタタラは騎士カラムスの言葉で呆気に取られる、
「お前は神族に向ける信仰が無い、そのくせ敬う事は忘れない」
「いや、そんなの当たり前でしょう? 人の世を見守って直接介入しないだけでも敬えますよ」
「ふふ、そうか」
タタラの前世から引き継ぐ宗教観は、この世界でも極少数の地域でしか芽生えない特殊な物となっている。存外この無宗教者の敬意は神々に受けが良かった。その事を
悉く無駄に終わったが、騎士カラムスの奮闘と結果を軍神は楽しんで受け入れた。軍神はその気性から苛烈な逸話が多いと言うのに。
「軍神の教会も近いうちに動くだろう、バーラル家を異端審問に掛けるにしても根拠が無い」
「証拠、集まりますかね? 相手は貴族なんでしょう?」
「はん! 例え貴族だろうと構わん、目に余れば
タタラの心配の声に、力強く騎士カラムスは答える。
タタラは騎士カラムスを面白いオバサンの介護をする苦労人であるとの印象を持っていて、彼女が『ワールウィンド』にて如何様な立場かを把握して居ない。タタラの前世知識には彼女に関して原作で護衛騎士だったとしか無いのだ。
「私としては、今日お前が我が主に何の用が有るのか分からん方が問題だ。また我が主が発狂する発明を持ってきたのか?」
「まぁ、魔導銃の機構に対して意見が欲しいとは思いますけど……今日は完全に別件です」
「……その銃の機構でまた我が主が発狂するのでは?」
「そんなこと言うならカラムスさんの武器考案して発狂させましょうか?」
「やめろ」
そんな簡単に発狂はしないだろうと思っているタタラだが、護衛騎士筆頭のカラムスは知っている。己の主がタタラを自身の後継に指名しようとしている事を。
この『ワールウィンド』には代表となる役職が複数有る。都市長は文字通りの最高権力者だが、現都市長が兼任している役職が有る。
『工匠長』と呼ばれる『都市内最高のクラフター』が担う役職だ。
基本的に名誉職扱いなのだが、都市全体での大規模なクラフトが必要な事柄が発生した場合、この立場の物が最高責任者となり問題に当たる。そんな責任の重い役職だ。
それをカラムスの主はタタラへ押し付けようと言うのだ。しかも、カラムスの眼から見ても『都市内最高のクラフター』と言う条件は満たせるだろうと確信すら持っている。
伊達に
当人に自覚は無い様子だが、出来た物をカラムスの主が見る度に特許申請の書類を書いているのを知っている。
タタラ・ジュロンは『ワールウィンド』内でも特殊な立場にあり、都市長を筆頭に役職持ちが重要視しているのだ。
そして、タタラは通された部屋にて都市長と向かい合っていた。
「突然の訪問、申し訳ありません。少々緊急でしたので」
「いいえ、気にする事は無いわ。それで、今度は何を
タタラと向き合う年嵩の女性。やや白の混じる濃紺の髪に、左目尻に泣き黒子が目を引く美貌。ゆったりとした仕立ての良い服に身を包んだ者こそが『ワールウィンド』の最高権力者である。
「本日は別に設計図や仕様書は持っていませんが……」
「あら、そうなの?」
何処か安堵の空気を纏い息を吐く都市長。タタラの失敗作や行き詰まりは毎度とんでもない代物を出されるので都市長側としては心臓に悪い。
一桁代の年齢だったタタラが持ち込んだ研究成果だけで都市内の技術水準が狂ったのだ、地味な改修ならまだしも新規の金属やそれを主体とした新機軸の魔導鎧など他のクラフターが再現出来てない事象が多過ぎるのだ。
当人は材料さえ有れば再現して『ね、簡単でしょ?』と同意を求める為に、何人ものベテランクラフターの心を折りに行ってたりする。無自覚なその様に一部では『天災クラフター』等と同業者に言われる始末である。
「本日は人の都市内での親類関係を確認したいんです」
「人探し、なら役所になるのでは?」
「少し訳アリなんですよね、役所に行ったらちょっと問題起きそうで」
「そう。それで、その人は何と言う名前の方かしら?」
言い難そうに言葉を紡ぐタタラを促す都市長、彼女はクラフターとしては問題を無自覚で起こすが人間関係は至極真っ当なタタラの問題をある意味で軽く見ていた。
「名前はエテル・ネル=バーラル、最近両親と帰る家を無くしたそうです」
瞬間、都市長とその騎士カラムスの反応は劇的だった。
都市長は袖に隠していた魔道具である鐘を一振りしその効果を発動させ、騎士カラムスは唯一の出入り口である扉の前に立つ。
「……効果は正常に発動したわね。それで、タタラ・ジュロン。何故その名の関係者を知りたがるのかしら?」
直前までの空気から一転、都市最高責任者としての圧が漏れ出す。タタラは広場の騒動と、途中で騎士カラムスと交わした会話からこの問題は根深い物になるのだと判断する。
「難しい事を抜きにして言いますと、昨夜見付けて拾いました」
「そんな犬猫を拾ったみたいにあっさり言わないで頂戴……」
思わず額に手を当てて溜息を吐く都市長。
「もし親族が『ワールウィンド』内に居て、頼りに出来るならエテルをその人達の下へ連れて行きます」
「もし親族が居なかったのなら?」
「拾った人間として、彼女の人生に責任を取ります」
「いきなり凄い決心したわね!?」
タタラの言葉を聞いて思わず叫ぶ都市長。
側で聞いていた騎士カラムスも、思わずタタラに視線を向けた。
「当然です、最後まで面倒を見る覚悟で無ければ拾いません」
「……凄い立派な心意気なのだが、何故犬猫の面倒を見る事と同じにしか思ってなさそうに見えるのだろうな?」
傲然と言葉を返したタタラの姿を見て、騎士カラムスは小さく呟いた。尚、この見立てはそこまで間違って無い。
「……因みに、昨夜はエテルさんとどうだったのかしら?」
「我が主? 今必要ですか? 我が主?」
「一緒に風呂へ入って髪と身体洗ってあげたり」
「そしてお前も答えるのか? 初っ端から混浴とか進みすぎじゃないのかジュロン!?」
「それで、そこから進展は?」
「我が主、反応が既に出歯亀してる近所のおばちゃんのソレです我が主」
「いえ、風呂上りに食事を取ろうとしたのですが……」
「耐えれたのか、良くやった思春期男子」
「何をやっているの、据え膳なんだからガッツリ行きなさい!」
「我が主、発想が下衆の極みです我が主」
「いえ、家族を喪った弱味に漬け込んで関係を持つのは間違ってますし」
「お前等持ってて然るべき倫理観逆だろさては」
「何を言っているの、古今東西男女問わずに心の傷を癒す手っ取り早い方法は性行為よ。若い身体に任せてしまえば後はどうとでもなるわ」
「ならねぇんですよ我が主、発想がゴミ過ぎます我が主」
「それでも、彼女の後悔に繋がる選択肢は取れません。俺は彼女の幸せを願っているんです」
「なんで思春期男子の方が相手を思いやってるんだ、普通逆だろ」
「何とも優等生然とした面白みのない回答ね、反吐が出るわ」
「そろそろ一発ぶん殴るぞ我が主」
「それでも、俺は……俺は! 腕の中で喪った両親を思って泣く少女に、そんな事はしたくない!!」
「我が主、目の前の若者を見習ってくれ我が主。それとそろそろ無視もやめてくれ泣きそう」
意思をぶつけ合うタタラと都市長の言葉は、何処まで行っても平行線だった。
少女の為と取った選択肢が、都市長の言葉で否定される。
タタラのソレは単なる逃避であると、厳しい言葉をぶつける。
そこにはタタラの未来を案じた感情も有る筈なのだ。
ぶつけ合う両者の感情を汲み、沈黙を続ける騎士カラムスは理屈の上ではタタラの選択を理解していた。
しかし、それが所詮現実的では無い絵空事であるという心情も抱いている。
騎士カラムスもまた、タタラへ厳しい目を向けるに至る。
「地の文で勝手に感情書かれたら困る、普通にジュロン寄りの考えなんだが」
だが、タタラとしても引けない。
腕の中で両親を呼び続けたエテルの声を聞き、支えると誓ったのだ。
目の前の大人を、きっと同じ経験をしたであろう人を納得させなければならない。
そうでなければ、きっとエテルを救えないのだとタタラは考えていた。
対し、都市長の心情は複雑である。
タタラの中でエテルを大切に思う気持ちに偽りは無いのだろう。しかし、タタラはクラフトの面では優れているがあくまでも庶民だ。政治的な後ろ盾が無い故に貴族等による搦手には滅法弱い。そうなれば彼が保護したエテル・ネル=バーラルと言う少女を手にしようと動いた貴族に対して基本無力だ。
さらに無宗教者と言うのも痛い。
神が実在するこの世界に於いて、所属する教会の大きさはそのまま後ろ盾になる。それこそクラフターの多くが信奉する機械を司る機械神を信仰していれば、少なくとも『ワールウィンド』内で彼の立場を保証出来た。
どの神も敬いはすれど奉じない。そのスタンスが此処に来てタタラ・ジュロンを苦しめる。
「我が主、今の悩みの一つは宗教的な後ろ盾で宜しいのか?」
思い悩む都市長へ声を掛ける騎士カラムス。都市長としては彼女の
「何かしら?」
「宗教的な庇護ならば私に案が有ります」
「あの、改宗ならお断りをしますが?」
「いや、そうではない」
騎士カラムスの案と言う言葉に対して、タタラは予測をして声を掛けるが騎士カラムスから否定をされる。都市長としても同じ予想だった為に、コレは意外で有った。
「一つ聞きたいのだが、ジュロンの武器製作の早さはどれ程だ?」
「流石に新機軸の物を作れと言われましたら求める性能を聞いてから詰めるので一ヶ月から半年は欲しいですね」
「すまん、既存の武器ならばどれ程で作れる?」
「既存の、と言うと数打ちですか。なら──」
少し中に視線を彷徨わせたタタラは騎士カラムスへと答える。
「一時間で」
「良く分からないが、異常な数字な気がする」
「異常と言うか意味不明よ」
タタラとしては既に設計図が出来ているのなら、素材さえ有れば自身の工房で直ぐに作る事が出来る。鉄製の剣や鋼製の剣ならそれこそ相手の意向に沿ったデザインの物だろうと、一時間以内で作成可能だ。
この辺りはゲーム時代でワンタッチ作成が出来た影響なのか、魔法陣に半ば自動化させている点がこの異常な速度を可能とさせた。
もっとも、タタラが本気で作った場合は更に早いのだが。
「では、私に一本武器を作ってくれ」
「武器を……あぁ、成る程」
騎士カラムスの言葉で都市長は納得がいった。
軍神の教会に於いて武器と言うのは宗教的にも重要視される。
その教会の、更に言えば騎士に武器を頼まれる事は他宗教の者で有ろうと騎士を通じて軍神の庇護が受けられる。
騎士と軍神の名に於いてその者の生命財産を保証する、コレはタタラと同じ家に住むエテルを守る上での札になり得る。
例え同じ宗派で有ろうと、
まともな頭を持つ相手で有るならば。
「自分としては作れるんですけど、ミスリル製とかオリハルコン製の物と言われたら素材持ち込みになりますよ?」
「誰がそんなとんでもない物を頼むか。普通に……いや、お前が考えた素材の武器を作ってくれれば良い」
「と言うと、形状記憶合金製のヤツですか」
「待て、何故そちらなのだ? あの魔鉄とか呼ばれてる強化された物でもいいだろう?」
「いや、だってカラムスさん本来の武器は鞭か連接剣でしょう?」
「は?」
一応、此処で説明すると騎士カラムスはタタラに剣以外を使っている姿を見せた事がない。タタラに騎士カラムスが戦い方を教えた事は何度か有るが、それらは全て模擬戦用の長剣のみである。
「何故そう思った?」
「いや、鍛えて貰った時に剣の振り方で偶に妙な癖が出てましたし。間合いが出来る度に剣を手首のスナップ効かせた振り方しようとする姿を見れば分かりますよ」
「……お前、何気に凄いな」
タタラの見立ては当たっている。
騎士カラムスの本来の武器は軍神の教会の総本山に預けて有る武器で、『ワールウィンド』にて都市長の護衛に就く時に預けて来たのだ。
この都市に来て以来数十年使っていない武器種の筈だが、まさか癖が残っているとは騎士カラムスですら分かって居なかった。こう言った場面でタタラ・ジュロンと言う少年に驚く事になる。
「ならタタラ、貴方ならどんな武器にするのかしら?」
「刀身を形状記憶合金で作ります、最近研究してたら延性にも作用出来る事が分かったので刀身が4倍くらいに延ばせれば意に沿うかなって」
「待て」
「それだけかしら?」
「魔力に反応して形状を変える性質を利用して、刀身の形状その物を複数パターンにすると言うのは?」
「おいバカやめろ」
「それならもう魔力そのものだけで動かせる様にするのはどうかしら?」
「我が主?」
「それではカラムスさんの技術を活かせないのでは?」
「私の筆頭騎士よ? その程度訳無いわ」
「信頼が重い」
そうして使用者本人を置き去りにして二人は話を詰める。
出来ていく本来は自身の剣になる筈の武器は、全く別基軸の技術を使っている筈なのに1日も有れば形に出来て細かい調整は使ってる本人との共同作業になるのでもう1日有ればほぼ完璧に仕上がるらしい。
騎士カラムスは常識を置き去りにしがちな弟分に泣きそうになった。
「それと、コレは一応先に言って置きますが」
「何かしら?」
「今夜、バーラル氏の霊核を取りに行きます」
その言葉に、都市長と騎士カラムスの表情が変わる。
「貴様、まさか死者をこれ以上冒涜するつもりか?」
「いいえ、逆です」
「言ってみなさい」
一旦呼吸を落ち着かせ、タタラは広場の状況から事態を語る。
「広場に繋ぎ止められているバーラル氏の御遺体ですが、生物としては死んでいますが悪魔族としてはまだ生きています」
「……まさか」
「あれだけ高位の悪魔族なら霊核を砕かない限り死にません、バーラル氏にあれだけやらかした奴等はバーラル氏の霊核の存在を知らないのか霊核には傷一つ付けられていません」
「……それなら私が浄化を」
「嫌です……エテルに、せめて親の形見の一つでも持って行ってやりたい」
強い意思を滲ませた目を騎士カラムスと都市長へ向ける。
ほんの僅かな沈黙の後、都市長は溜息を溢して告げる。
「……分かったわ。夜に三十分だけ警備に穴を空けてあげる、その間にやりなさい」
真っ直ぐにタタラの目を見て、その意志を汲む。
本来、都市長の立場では有ってはならない肩入れだった。
「ありがとうございます」
それに対してタタラは深々と頭を下げたのだった。
その後、タタラが女性物の下着を買って帰る必要が有る話をして揶揄われたり。女性二人が相談に乗ろうとして発育の暴力差で無力だと戦力外通告して殺されかけたり。オススメの店にて店員に揶揄われつつも何とか買って帰ったり。帰宅後エテルに下着を渡したら目の前で着けようとして逃げ出したりと色々有った。
そして深夜、エテルを寝かし付け家を出たタタラはインベントリに一つのアイテムを入れて広場へ向かった。
予定されている時間まではまだ時間が有ったが、状況を知っておきたかった。
そうして広場へ着けば警備らしい警備の姿は無く、バーラル夫妻の遺体付近に人影が1人分有るだけだった。
長い癖の有る赤髪に無精髭が目立つ精悍な顔立、傷の目立つ黒い全身鎧、背中には身の丈に迫る巨剣。
その姿はタタラにとっても見覚えが有った。
「……おい、坊。こんな夜中に何をしている」
「……おっちゃん」
タタラの両親の探索者仲間、おっちゃんと慕う偉丈夫ローガスがそこに居た。
「……いや、そうか。都市長の指示はそう言う意味なんだな?」
「はい、俺がバーラル夫妻を弔う事になります」
「やれるのか?」
「はい、灰も残しません」
「……広場は残せよ?」
タタラはローガスの言葉を冗談に受け取ったが、彼自身としては本気だった。タタラの両親から聞いていた彼の性質は冗談半分だと思ったのだが、実際に見た彼の能力は両親が把握出来ていたのが半分にも満たなかったのだ。
その彼が灰も残さず焼くと言っているのだ、この広場ごと消し炭になっても不思議では無い。
「……坊、俺はこれから街の巡回をせねばならん。悪いが此処を任せた」
「はい」
「……それと、バーラルは俺と彼奴等の戦友でもあったんだ。迷わず彼奴等と同じ所へ逝けるよう、しっかりとやってくれ」
「……はいっ!」
ローガスはタタラの返事を聞いて、満足そうに立ち去っていった。予定の時間より更に早い、コレなら余裕を持って事に当たれる。
そう思い、タタラはバーラル夫妻の下へ向う。
初めは妻の方へ。幾多の男達に付けられた穢れが目立つ。
インベントリから清潔な布を取り出し、簡単にだが身を清める。その後、ある液体を染み込ませた布を頭から被せて手を合わせる。
その後はバーラル氏の方へ。身を貫く槍を一本一本丁寧に抜き、先ずは地に寝かせる。その後、仰向けにして鑑定を掛ける。
胸の中心部にやはり霊核が確認出来て、ナイフを一本取り出す。
そして、バーラルの胸元を開こうとしたその時だ。
《何をしている?》
唐突にそう声を掛けられた。驚いて顔を上げると、身なりの良い男性が立っていた。
白雪を思わせる白髪に紅い瞳を備えた怜悧な目元。透き通る様な白い肌に、細身だが筋肉の詰まった肉体。その頭には捻れた一対の角、そして背には巨大な髪と同色の蝙蝠の翼が生えていた。
《別の問いをしよう。童よ、我が肉体に何をしようとしている?》
死んだはずのバーラルが、目の前に立っていた。
全裸で。
エテルのタタラ評価は贔屓目・色眼鏡込み込みです。
ぶっちゃけると一目惚れしてるので評価がクソ高くなってます。
この小説は……
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永遠と愛の絆
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寛容と一途な愛
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信念と翼
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鎚を包む花束
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誠実と誇り
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都市長いっとけ都市長
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年増園
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太陽の笑顔
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星の微笑み
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太陽と星
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娘さん、親父殿を俺にください