既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
この話って元々は
タタラがエテルを拾う。
タタラとエテルが風呂に入る。
タタラとエテルがご飯を食べる。
タタラとエテルが一緒に寝る。
タタラがエテルにロニセラを贈る。
って流れに肉付けしただけの筈だったのに何か長引いてるなって。
顔を上げたタタラの前に居た全裸の男性は、タタラの手元で仰向けになっている筈のバーラルを名乗った。
顔の判別が出来ない遺体では当然見比べる事も出来ず、さりとてタタラの鑑定は目の前に立つ男性には作用しない。
唯一手元のバーラル氏の遺体は鑑定で本人確認と体力の全損を確認出来たくらいで、バーラルを名乗る男の真偽は確認出来ない。
そしてふと閃いたタタラは徐ろにバーラル氏の遺体の股間を確認し、自称バーラルのそれと見比べる。
「バカな……本人、だと!?」
《ナニ見て判別しやがった小童!?》
流石にこんな特大サイズが世に何人も居て欲しくないので、タタラは目前の男をバーラル本人として認識する。
タタラの腰はやや引け気味だ、目線の高さにバーラルのバーラルが有るのだから。
《何か目線合わないのだが……》
「あ、すみません」
余りの巨大さに自然と向いてしまう視線をタタラは無理矢理引き剥がす。
紅い双眸と向き合う。伝わる圧が強くなるのをタタラは感じた。
《では改めて問おう。私の身体を暴き何をしようとしている?》
「……霊核を抜き出し、貴方の娘に届けようとしています」
《……娘を知っているのか?》
バーラルからの問いに答えるタタラ、その目には一切の虚偽を語るまいと意思が宿る。
バーラルはそんな真っ直ぐなタタラの眼を見て、言葉に嘘がない事を理解し愛娘の事を問い掛けた。
「昨夜、雨の中で行き場を無くしている姿を見て拾いました」
《……嘘が無いのは理解した。だが、人の娘を犬猫拾ったみたいに言わないで欲しい》
「拾った時の反応の薄さは犬猫より人形って感じでしたよ、あのままなら壊れていたと俺は思ってます」
《……母の陵辱と父の死を直に見ていればそうもなるか》
沈痛な表情を浮かべるバーラルの姿を見て、タタラの胸の奥も痛みを覚える。エテルとタタラは同じ親を亡くした者どうし、しかし直に場面を見ていないタタラに比べてエテルの方が心に掛かった負担は大きいだろう。
タタラには想像する事しか出来ない。共感は出来るだろう、しかし、きっとその悲しみを理解してやる事は不可能だろうとそう思っている。
エテルの感情はエテルの物だ。したり顔で理解者を気取り擦り寄るのは詐欺師も同然だとタタラは思っている。
《それで小童、我が霊核を届け如何にしようとしている》
「今はただ形見として届ける事しか考えていません、彼女も今は何をするかを考えられないと思っています」
《それ程、か?》
「精神に掛かる負荷から恐らく軽度の幼児退行を起こしています」
《そう思う根拠は有るのだろうな?》
「男と風呂に入る事を何とも思わなかったり、目の前で下着を付けようとすれば誰でも分かりますよ」
《すまん、後半は兎も角前半は私のせいかも知れん。二年前まで一緒に風呂へ入っていた》
「テメェが戦犯かコラ」
《恩人とはいえ娘に安易に手を出したなら呪うぞ?》
「暫定怨霊が言うと洒落にならねぇ……まぁ娘さんは清い身体ですよ、多分」
《あ゛?》
「流石に出会う前に何かされてたら分かりませんよ」
タタラの言葉で圧力が増したのだが、タタラ自身何故か慣れてしまい『面倒臭いオッサンの相手』としか思っていない。
《……っふーっ、それで? 娘をどうしたのだ君は》
「ご飯を食べさせようとしましたが、出したオニオンスープで奥方を思い出してしまったので泣き出してしまい……」
《あぁ、妻の得意料理だった》
「両親の喪失を自覚し、半ば発狂した様にお二人を呼び続けていて」
《そう、か……》
「安心させる為に抱きました」
《分かった貴様は殺す》
タタラの言葉に撃発したバーラルは淀んだオーラを発し、真紅の眼を輝かせてそう告げる。
その様はもはや
「涙を流しながら俺の胸元で何度も貴方達を呼び続けてましたよ」
《それ以上囀るな》
バーラルの頭の中に有るのは愛娘が泣き叫びながら目前の男に汚される様である。
実際は抱き締めて寝かし付けていただけなのだが。
《それで、何か言い残す事は有るか下郎》
「今此処で俺を殺すと、エテルは一人になりますよ」
そのタタラの言葉で、バーラルの目が細まる。
《下郎、お前の両親はどうした》
「……何年か前の下層で発生した特異個体討伐を知っていますか?」
《ああ、参加していた》
「そこで散りました」
タタラは答えながら胸を抑える。
エテルの涙を止めたかった理由など、あの時の自分を見ている様で耐えられなかったと言うエゴでしか無い。
それでも、それが彼女を立ち直らせる切っ掛けになるのなら。
《……それで?》
「俺はあの時、何も出来ませんでした。両親の友達に葬儀をしてもらって、喪主としての感謝もまともに伝えられなかった」
《……それで》
「そうして独りになっても最初は大丈夫だった、切っ掛けが無いと喪失に気付けなかったから」
《……それで》
促されるままにタタラは答える。
喉の奥が渇く、いまだに無くならないこの痕をエテルに背負わせたく無いとそんな事を思う。
「あの子は今俺の家で疑似家族に縋ってる、こんな俺にでも縋らないとあの子は立つ事すらままならない」
《我が娘はそこ迄弱くは》
「ならアンタは知ってるのかよ!? お父さんお母さんって泣きながら、その日出会った男に縋るあの子の痛みを! どうしようもない孤独に苛まれた子供の事がよ!!」
《……っ》
「俺だって今でも乗り越えられていない、時が癒すしか無いのに心の傷痕は治らない!」
《それは……》
「独りで乗り越えられる奴は強いんだろう、けれど誰かに寄り添って貰うことは本当に弱さか? 違うだろ、苦しい時に頼れる絆だって強さだろ! 今、あの子が得た縁を奪うな!!」
《……ならば、君は娘と共に在って何を得る?》
「何も得られ無くたっていいさ、エテルって言う一人の人間が笑えるんなら!」
《……そうか》
バーラルは静かに息を吐く。一度眼を閉じ、再び開いて真っ直ぐにタタラの眼を見る。
《ならば最後に問おう、人一人の人生を背負う覚悟は有るのか?》
「雨に濡れる中で拾う決心をした時から決めてる。彼奴の人生の責任は取る」
《想像以上に本気だった!?》
タタラがした宣言に思わず声が漏れるバーラルだったが、少し考え込む様に眼を瞑った後、再びタタラと眼を合わせて言葉を発した。
《娘を、宜しくお願いします》
「任されました、彼奴が幸せになれる様に全力を尽くします」
《覚悟完了してる系は強いな本当……》
一瞬の間も無く返答したタタラに、思わず苦笑いするバーラル。
《それでは持って行け》
「あ、その前に聞きたい事が」
《なんだ?》
「バーラル家のレシピ本とか無いですか? 彼奴、お母さんのオニオンスープが食べたいって言ってたので」
《……残っているなら、屋敷の妻の部屋か台所に有るだろう》
「分かりました」
《それと、屋敷に行ったなら地下倉庫の奥に有る棚の裏を調べるといい。きっと君の役に立つだろう》
「屋敷の地下倉庫ですね、分かりました」
《ああ、そうだ。忘れていたな》
会話が途切れるその時に、バーラルは姿勢を正しタタラに向き合う。
《我が名はサルビア・バーラル。貴殿の名前を聞きたい》
「俺はタタラ・ジュロン。まだ学生の青二才です」
《ジュロン……君が、か》
バーラルはタタラの両親と共に戦った事がある。
その時に聞いた息子自慢を思い出したのだ。
《コレも何かの縁か、娘を宜しく頼む》
「もう頼まれてますよ」
《たった一人の愛娘なのだ、幾ら頼んでも頼み足りないさ》
バーラルはタタラの言葉に笑って返す。生きていれば、彼と飲み交わす事も有っただろうかとそんな事を考えていた。
《私の霊核を抜いたら妻も弔ってやって欲しい》
「元からそのつもりです、御二方とも灰も残しません」
《それ程迄に強力な魔法が使えるのか》
「いいえ、俺の能力は一般的に見て平凡なのでそこ迄強力な魔法は使えません」
《何? ではどうやって》
「俺はクラフターですから、以前作ったキチンと燃やせる物を持ってきました」
そう言ってインベントリから取り出したのは厳重に封が成された硝子製の筒だった。
《それは?》
「液状化した魔石です。以前ちょっとした研究で燃料代わりに作ったのですが燃焼力と発熱量が凄まじいのでお蔵入りしていました」
《ほう、どれ程になるのかね?》
「ミスリルゴーレムがただのミスリル塊に出来る程度ですね」
《なにそれこわい》
「流石にオリハルコンゴーレムは無理でした、溶かし切る前に燃料の方が燃え尽きて内部構造曝させるくらいで止まりましたね」
《そんなので燃やされるの私達夫婦》
バーラルはタタラの説明で戦々恐々とした、彼の両親から聞いていた息子像が本人より大分大人しいのだ。
実はジュロン夫婦がバーラルに語っていた内容は主に生活用品に関してだけであったりする、回復薬塗布のドライヤーやシャワーの改造程度の話だけなのでバーラルの印象は天才だが大人しい少年だった。
本物は都市長とその護衛騎士の胃を何度か破壊したヤベェ奴だった、それだけの話である。
「それでは失礼します」
《あ、ああ……燃やす前に一思いに頼む》
バーラルの言葉を聞き届けたタタラは、バーラルの遺体の鳩尾辺りをナイフで開く。そこから手を入れ、魔力の影響でいまだに温かい内臓を進み心臓付近に有った硬い感触を握り締めて引き抜いた。
取り出したのはタタラの掌より僅かに大きな結晶だった。
バーラルの髪色を思い出させる白の奥で、薄い紫の炎が揺れている。そんな幻想的な見た目だった。
顔を上げた時、バーラルの霊体は姿を消していた。
霊核をインベントリにしまい、バーラルの遺体へ両手を合わせたタタラはその身体に流体魔石を染み込ませた布を掛ける。
そこから流体魔石入の瓶の封を切り、バーラル夫妻の遺体の上へ更に掛け離れた位置から発動出来る魔導式の発火装置を置いて広場から離れる。
ある程度離れた位置から発火装置を機動した瞬間、広場で爆発音と共に青い焔が発生した。
揮発した流体魔石が空気と混合した爆発は、広場を漏れ無く吹き飛ばし発生した熱波は破片を残らず蒸発させた。
「やっべ、使い過ぎた」
確り燃える様にと流体魔石を掛けたのだが、想定より多く掛けてしまったらしい。
隠れて広場跡を眺めて居ると、衛兵や冒険者が集まって消火活動を開始している。
バレないうちに逃げようとした時、駆け付けたローガスがタタラと眼を合わせた気がした。
何となく『やっぱりやりやがったなお前』と言われた気がした。
場所は変わりバーラル邸。
タタラはバーラルから言われたレシピと役立つと言われた物を探しに訪れていた。
「一日……いや、日付変わって二日か。それでもこれだけ中は荒らされるのか」
調度品が殆ど無くなっている、残っているのは主にソファやクローゼット等の大型の家具だ。
「本の関係に価値を見出さない奴ばっかりで助かった、か?」
部屋の位置が分からず、屋敷内を探索していると書斎に入ったタタラ。本棚は荒らされているが、本を取られた様子は無い。
インベントリのバーラルの霊核に謝りながら、書斎の本を全て回収する。
次に入った部屋は寝室、夫妻の為の部屋もまた荒らされていて棚から床に投げ捨てられた物が散乱していた。
「コレは……バーラルさんの日記か。回収っと」
何となくノリで床下を見たら、スケベ本が有ったのでついでに回収。何で持ってんだあのオッサン。
そのまま探索を続ける、夫人の部屋の中は特に荒らされ更にすえた匂いが嗅ぎ取れた。
恐らく、夢魔のフェロモンに当てられた奴等がこぞってこの部屋で発散したのだろう。クローゼットやチェストの中の服は残っていない、一番荒らされてるのが下着類が入ってたらしい棚な辺りが何とも言い難い。
夫人の部屋の机にはノートが複数散らばっていて、確認すると日記やレシピだった。目的の一つを回収出来たと安堵して、探索を再開する。
次に入った部屋は何処か子供っぽさを残す部屋、荒らされぬいぐるみや人形が散乱しているが誰の部屋かは分かった。
あいも変わらず服、特に下着類が全滅している辺りに頭が痛くなるタタラだったが確認するのはノートの類いだった。
どうやらエテルは置き勉はしないタイプだったらしく、教科書やノートが勉強机に有ったので回収する。
そしてふと目に入った一番汚れてボロボロのぬいぐるみを手に取って、何となくインベントリに入れる。
更に探索を続け台所、調理器具の類いは全滅していた。ノートを何冊か見付け、確認したら新しいレシピを作っている途中の物だった。熱心だったんだなとそんな感想を抱きつつ、インベントリに回収。
そして地下倉庫についた。
バーラルに言われた奥の棚を目指す、途中に有るものは根こそぎ奪われている。最奥に付くと備え付けの棚が一つ、コレも中身が荒らされていて空だった。
「確か、裏とか言ってたな?」
棚に手をかけ揺すると、少し動いた。備え付けである筈なのにと違和感を覚え、そのままぐっと横から押す。
すると、棚の奥から隠し扉が見付かった。鍵は掛かっておらず、そのまま先に進んだ。
そこは魔法陣が敷かれ、その中央には一つの鉱物。
「嘘だろ、ミスリルが何kg分だコレ……」
話を聞くに70階層までは問題無く潜れる探索者だったらしいバーラルが集めていた素材だろう、魔法陣からはバーラルと覚えの無い魔力の波動を感じる。
恐らく、バーラル夫妻がミスリルへ自身達の魔力を流して馴染ませていたのだろう。目的は恐らく、一人娘のエテルに贈る装備用。
「はは、なら代わりに俺が贈りますね」
意図を察したタタラはミスリルを持ち上げ、インベントリに回収する。
コレで目的は全て果たしたので、さっさと退散するだけである。
「後は退散するだけ、なんだがな……」
いざ出ようと一階へ登った直後に耳へ届いた何者かの声と複数の足音。
バーラル邸で物色の為に入った物取りか、それとも何かの調査目的か。
離れた位置から観察すると、装備は何処かの私兵を思わせる物だった。
漏れ聞こえる声には、娘の日記やら何やらと届いて来た。
「つまり、エテルの居場所を知りたいから日記を探している?」
タタラから見て、エテルと言う少女はとても美しい。身を清める為に軽くしか見て居なかったが、母親譲りの美しさなのだとしたら?
「バーラルさんに異端審問を仕掛けた野郎、次はエテルを目的にしやがったか」
両親を殺した相手に捕まればどうなるか分からない。
タタラとしては、夫人をバーラルの前で犯している可能性を考慮したくらいだ。そうなればエテルは貴族に犯されるだろうと予想している。
そして、それらの予想は当たっている。貴族がエテルを発見した場合何をするか、タタラの予測は正鵠を射ている。
「俺が居た証拠が残ったら追跡されるか……すみませんが、バーラルさんの呪い作戦って感じにさせて貰います」
残っていた流体魔石を詰めた瓶の口をその場で加工して、ほんの僅かずつ垂れる様にして廊下を転がす。
その少し時間を置いた後で着火する時限式の発火装置を置き、急いで物置のミスリルが置かれていた部屋に入り入口を塞ぐ。
少しして、凄まじい振動がバーラル邸を襲った。
地下倉庫の中に居るタタラすらその音と振動に襲われ、一瞬気絶した程の爆発。
そっと壁を壊して外を見れば、屋敷の八割程が消し飛んでいた。
探索に入っていた私兵は跡形も見えない事を確認して、タタラは路地裏を走り逃げ出した。
何とか帰宅したタタラだったが、問題が待っていた。
玄関の所で泣きながら眠っているエテルと対面するハメになったのだ。
エテルは夜中に尿意で目が覚め、トイレを済ませた後部屋を見てタタラが居ない事を認識。
錯乱して家中を探したが見付からず、玄関で泣いている最中に寝てしまったのだ。
そんな事を知らないタタラは何故玄関にエテルが居るのか分からず混乱するが、インベントリから謎に威圧を感じてエテルに声を掛ける事にした。
肩を揺すると、ふるふると豊かな乳房が重々しく揺れるのがシャツ越しに分かる。が、注目を続けたらインベントリの中から呪われそうなので意識を逸らす。
やがてエテルの目が開き、タタラの方を見た後に一拍。その胸元に飛び付いた。
何度もタタラの名を呼んで泣き縋る姿を見て、思わず抱き締め返すタタラ。この行為が依存を招くのだと自覚が無い。
バーラルの霊核については明日にしようと決め、エテルを抱き上げて部屋へ向う。
起き抜けに自分が居ないと錯乱する事を考え、自室で共に寝る事を決定した。
ベッドで二人並んで横になり、エテルの頭を胸元の心音が聞こえる位置に持ってきてタタラは目を閉じる。
睡魔はすぐに訪れ、眠りに落ちた。
その日の夢は、ブチギレ怒張したバーラルに追いかけ回される悪夢だった。
次辺りで断章/ロニセラは終わる予定です。
長々とお付き合いありがとうございます。
この小説は……
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