既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
筆が進まない。
激戦を乗り越えて朝を迎える。倦怠感は有るのに身体の奥底から湧く力が有るのは、エテルの性魔術による譲渡だろう。
今日コレからの予定が無ければ、寝てるエテルへ昨日のお返しをしてやろうかというのだが……負ける未来しか見えないな。
タチアが何時頃この家に来るかは分からないが、エテルに傷薬等を持たせておく必要が有る。まぁ、タチアの防御力から考えるとアイツを壁にすれば安全安心に探索出来るのだが。
都市長の所へ向うのは昼前、日中に片付ける仕事が終わるくらいの時間を見計らう。以前都市機能を停めかけたせいか、俺が行くと結構な割合で事務の人達に怖がられる。
たしかに停めかけたが、その後俺も参加して持ち直したんだから勘弁してほしいんだが。
昼前に中枢へ着き、都市長の執務室に入ると意外な人物が居た。
「お前様! 久しいのぅ、元気じゃったかの?」
「虎熊じゃないか、そっちこそ元気だったか?」
色々有って顔合わせ出来てなかった虎熊が都市長とお茶を呑んで居た。
というか、出歩いて良いのか?
「一応言っておくけど、気付いたら此処に居たのよ」
「妾も厠に向かおうとしたら此処に居たのじゃ」
「また次元でも渡ったのか迷家の令嬢」
一人で出歩くとまた迷子になるだろ、必ず誰か一人は側にいろよ。虎熊は虎熊で小動物みたいにクッキー食うなよ、エテルが可愛がりそうなあざとい所作しやがって。
「で、見たわよタタラ」
本題をいきなり始める都市長、虎熊は何の事か分からず疑問符を浮かべている。
「魔導鎧……って言っていいのかしら、コレ」
「定義からは外れて無いと思いますよ、魔力で稼働して着用者を補助する鎧ですから」
「だからって、何よこの形状記憶合金製の人工筋肉と風圧飛翔機構って。いきなりデタラメな物を出さないでちょうだい」
直接苦言を呈して来るのは珍しい、と言うか初めてだろうか?
しかし、何方も黒鐵に強化した時に付けた機能だ。今更だと思うが。
「何方も以前鎧を強化した時に出来ましたし、報告はしてる筈ですよ?」
「待ちなさい、鎧を強化したって前から愛用してる簡易式魔導鎧のこと?」
「え、ええ。俺、防具はそれ以外使ってませんし」
と、答えた時に都市長の顔が凄いことになっている。
エテルとの事を祝福された時、俺の報告も届いてると思ったのだが。
「見せなさい」
「はい」
静かに命令を下してくる都市長が怖くて即答してしまった。
虎熊は話に着いてこれないのでクッキーのおかわりをしている、お前ちょっとは助けろよ。
インベントリから黒鐵を出して都市長に見せると、都市長は真剣な顔で調べている。関節部を覆う人工筋肉や背面の飛翔機構の噴射口等を一通りしらべ、盛大なため息を吐いた。
「コレ、未提出の技術よ」
「え、そんなバカな……何日も前に出来たヤツですけど」
「出てないわよ、貴方の特許管理は私がやってるんだから間違い無いわ」
「嘘だろ……」
「因みにコレ、何時強化したのよ」
「エテルと結婚を約束した日ですね、新型魔導銃の試射をした前日です」
と、俺が都市長に答えた直後虎熊が乗り出して来た。
「お前様! ついに結婚を決めたのか!?」
めちゃくちゃ眼をキラキラさせながら聞いてきた。
「あ、ああ。少なくとも籍は入れようって話だが」
「おお! 祝言を挙げる時には呼べと言ったろう、忘れておらぬよな!?」
「覚えてるって、まだ学生のうちは挙げる予定も無いって!」
そういえば、ダンジョン内で俺とエテルの在り方が好きだって言ってたな。所謂箱推しと言うやつだろうか、エテルなら友人代表としてスピーチを頼みそうだな。
「くふ、くふふふふ……そうかそうか」
「気味の悪い笑い方するなお嬢様だろお前」
「他国の姫と仲がよろしいのは結構だけれどね、この新技術と言うか超技術と言うのか分からない物の詳細を早く出しなさい」
虎熊とやり取りしていたら都市長が若干キレ気味に言ってきた。
「インベントリには入って無いですから今から書くのでいいですか?」
「何でも良いわよ、さっさと出さないとこの新型の許可出さないわよ」
「巻きで上げます」
とんでもない脅しを掛けられたので、インベントリから小型の思考入力式魔導ワープロを取り出して早速取り掛かる。工房の物よりスペックが低いので若干ラグが発生するので嫌なのだが、背に腹は代えられない。
「のう、あやつのアレ滅茶苦茶早いのじゃが普通なのかの?」
「そんな訳無いでしょ、そもそもアレを使える人間の方が少ないわよ」
「やっぱりあやつおかしいのじゃ」
「無自覚な化物よ、昔から」
すぐ横でヒドイ言われ方してる気がするのだが、仕様書と作成書を同時に仕立てるのに必死で会話内容に言及出来ない。
20分程で書類を完成させて渡せば、都市長は速読で確認していく。日々大量の書類を捌くために磨かれた技術だろう、こうはなりたくない。
「それで、今度は何をやらかすのじゃ?」
「やらかすって……ただ、見習い騎士に鎧を頼まれたんだよ」
「それだけでああなる筈も無かろう、その鎧に何を仕込んだ?」
「何故仕込んだ前提」
「お主を知っておればそうもなろうて」
「はぁ……アレはな」
興味津々と言った具合で聞いてくる虎熊、その疑いはどうなんだと思いつつタチア自身の事は抜いて説明していく。眼を見開いたり細めたり、声を上げたりと虎熊の反応は大きくて見た目の美女感を貫通して幼女味が強い。
「それは流石に新機軸に過ぎんかの? 鋼の如き筋肉等と呼ぶ事は有るが、鋼で筋肉を編むとか何の言葉遊びじゃ」
「空を飛ぶ為の軽量化のせいで装甲を薄くしたのが原因だがな。解決の為に別の人の特許に触れそうだから許可貰いに来たら自分の特許申請にぶち当たるとか」
「お主、もう少し自分の技術が他者の理解から遠い物だと自覚した方がよいぞ?」
「何度も言われるが、俺の技術そんなにおかしいのか? 俺が出来るなら誰だって出来る筈だろ」
「相変わらずの自己評価の低さはなんなのじゃ……」
虎熊が溜息を吐く。自己評価が低い、そう何度も言われて来た。しかし、今生でクラフトの師も居ないゲーム知識を前提に現代知識をミキシングしただけの俺が、連綿と受け継がれて来た技術に易々と勝てる筈が無いだろう。
この道を進むと覚悟を決めて腕を磨き知識を得てきたが、それでも20年足らずの研鑽だ。数百年の積み重ねに簡単に勝てる筈が無い。
「同年代に比較対象が居なかったし、高等教育に進学したら周りは名門だの何だのの自慢話の連続だ。それらが無いなら自信も無くすだろ」
もっとも、技術で負けてる気はしなかったがな。
ミスリルやオリハルコンの作品を作る奴等の中で、鋼の剣を並べて馬鹿にされた経験が有る。都市長が許可してくれなかったから魔鉄が使えなかったあの屈辱と苛立ちは絶対には忘れん。
……そう言えばあの剣、あの後行方知れずだったな。今度先生に聞いてみよう。
「……貴方、クラフトの基礎ってどうやって覚えたの? 誰かに教わったって話は聞いたこと無いけど」
「そりゃ誰にも教わってないですからね、やり方はスキルが教えてくれたからその通りにやってただけです。そこから自分なりの最適解を見付けたらスキルからの指示は見えなくなりましたけど」
資料を読み終わったらしい都市長からの質問にそう答える。
あえて俺のクラフトの師を挙げるなら『クラフト』スキルその物だ。最初こそスキルのアシストに頼っていたが、違和感を覚えてアシストから離れた。今では自分なりのやり方をしているし、その方が良い物が出来上がる。
「……はい?」
「お前様、本気で言うておるのか?」
……おや、何かすれ違いが発生してる?
「え、何でそんな反応を……」
「スキルが教えてくれるって何よ」
「文字通りの意味ですって。最初こそスキルが作り方を教えてくれましたけど、途中から違和感が出て来て自分なりに変えたんですよ」
今では脳内で図面を起こすとか、物質にイメージ通りの変化を与えるもの程度に収まってる。
「……お前様、いやタタラ。一応聞くが、他にそういった事象は有るのかの?」
「え……『槌適性』スキルで振り方が何となく分かったとかそれくらい?」
コレは『銃適性』スキルを取ったエテルも同じ感想を持っていたので共通だと思うが。
「タタラのクラフトの異常さの根幹を見た気がするのじゃ」
「そうね、世界に根差すスキルから直接教えられていたなら……この異常さも納得だわ」
待って欲しい、俺のコレが異常なのだとしたら皆のスキルはどんな役割を担っているんだ?
「タタラ、貴方前に言っていたと思うんだけど」
「え、何をですか?」
「ミスリルもオリハルコンも金属物質なら構成している物が少し違うだけで、金属共通のやり方で対応出来るって」
「えぇ、言いましたね」
「あの時は言わなかったけれど、そんな事が言える人間は貴方以外に居ないわ」
「……は?」
待ってくれ、ならアンタ達はどうやってミスリルやオリハルコンを加工してるんだよ。スキルが素材にどう作用するのか追求してこなかったのか?
「なら、アンタらはスキルをどうやって使って来たんですか?」
「物質に作用させて加工する……『クラフト』のスキルの使い方はそれよ。レベルが低ければ弾かれて終わり」
「……いや、ふざけてます?」
ただ使えるだけだから機能の追求をしなかったと、スキルを研究しなかったのか。何故スキルが弾かれたのかを研究、追求しなかったのか。
俺はしたぞ、ゲーム知識とこの世界の違いを見付ける為に。
そしたら叶ったぞ、ランクⅠで不可能と言われた魔法金属の加工が。
より精密に作品を仕上げて性能を引き上げる事が。
スキルレベルとランクで出来る事が広がる事よりも、自分が出来る事が増えてスキルレベルが上がる事の方が多い。
前世のゲーム知識と今生の経験の摺合せとはそう言う物だ。
「スキルの上に胡座をかいて追求しなかったんですか。そんなのアンタ等の怠慢じゃないですか。俺を異常扱いする前に、やる事が有るだろうがよ」
『鑑定』でもそうだが、スキルは深く追求すればその機能を拡張しようとする傾向が有る。『性魔術』だって必死に暴走したエテルから生き残ろうとした結果、精力の増強効果を発揮して俺の命を繋いでいる。向こうの成長が上回って毎回ギリギリだったが。
世に居る『固有スキル』と呼ばれる物を持つ者達は、恐らく必死になって力を求めた結果それらに覚醒している。
種族特性と呼ばれる体質も、生存競争を生き抜く上で芽生えた物だろう。
それらに比べればスキルの追求など可愛いものだ、ほんの少し出来る事に疑問を持って追求すればいいだけなのだから。
「……そうね、貴方は貴方の価値観で物を見るからそうなるのよね。出された仕様書や設計図は懇切丁寧で分かり易く書かれているし、それを理解出来ない事が理解出来ない……そうなるのよね」
「つか、あんただって俺の設計図や説明読んで再現してるだろ。なら、俺の理論を理解してるって事だろ」
「再現なんて出来てないわ」
「はぁ? 魔鉄や形状記憶合金に疑似オリハルコンは作ってただろ」
「えぇ、でも再現は出来てないのよ」
「はぁ?」
「貴方の作った物に届かなければ、再現って言えないのよ」
都市長が何処か悔しそうにそうこぼす。
都市最高のクラフターと呼ばれる彼女の弱音、なのだろうか。
「私が貴方に初めて敗北感を覚えたのはね、この簡易式魔導鎧の動力術式を見た時よ」
そう言って都市長は俺の設計図を指差で撫でる。悔しさと、懐かしさを混ぜた表情に見える。
「貴方は『クラフト』のレベルが低くても作れる魔導鎧を目指して、より安価で簡易な作成を目指していた。出来上がった失敗作ですら私達には再現出来なくて、漸く満足出来た疑似オリハルコンも性能不足と言い捨てる。正直、縊り殺してやろうと思ったわ」
何処か笑いを含んだ言い方だったが、言葉が大分物騒だった。
「でもね、私の直感が言ったのよ。この『ワールウィンド』で100年先まで残る技術をこの子は生み出せるって」
都市長は深く息を吸って、俺と眼を合わせてくる。
「タタラ。貴方、学園の卒業後に教鞭を執るつもりはない?」
「はぁ!?」
とんでもない事を聞かれた。
「『ワールウィンド』でクラフトに対する意識改革をさせるにはそれが必要な処置だと、私を筆頭に都市運営に携わる幹部達は判断してる」
「待ってくれ、おっちゃんが俺を次期工匠長とか言ってたのって」
「あら、ローガスがその話をしてるって事は彼の方でも何か有ったのね。その話は実際に上がっていて、反対意見が有るのは商工長と内政長ね。商工長は都市内の利益上での反対で、内政長は貴方の家格と言う一点。もっとも、工匠長の選定を『都市内最高のクラフター』として定めている関係上家格は問題足り得ないのだけど」
「卒業で半人前は取れるとしても、若輩者を認められるのかよ」
「認めるわ、間違い無くね」
「その自信、どっから湧いてるんだよ」
俺の言葉にニヤリと笑った都市長は、インベントリから複数枚の紙を取り出して俺に渡してくる。
複数の名前と血判、内容は承認証。
「何か、見覚えのある名前が多いな……」
「そりゃそうでしょ、この都市の主要な流派の長や名門の当主の名前ばっかりだもの」
「……え゛」
「つまりコレは、タタラを認めた者達の名前と言う事かの」
先程まで黙ってた虎熊が横から覗き込んで口にしたもの、つまりはこの都市内で俺を認めている大御所の承認で俺が認められてしまっている。
「……え、何で」
「自分が作れない物を生み出した挙げ句、一目見ただけで一門の奥義やら秘伝やらをただの技術と思って習得する相手を一番と認めなかったら流石に正気を疑われるからよ」
「え、なにそれ知らない……」
確かに魔鉄を作った後で作成現場をお披露目とかやらされたし、一部のベテランから工房見学に誘われて目の前で使用された技術を模倣とかした事は有るが。
「一応聞いておくけど、タタラが魔鉄の公開製作をした時に来た人達の顔は覚えてる?」
「いや、曖昧だけど……もしかしてあの時の人達がコレ?」
ニヤリ、と悪役みたいな笑顔を浮かべる都市長。
どんな長期計画で俺を嵌めようとしてやがるこの妖怪。
「貴方、同業者から直接クレームって貰った事何回有ったかしら」
「思い出せるのは最新の魔導銃のヤツに再現性無いってヤツくらい……今まで直接言われた事が無かったな、そういえば」
「それ送ったの私」
「お前か都市長!?」
悪びれもせずそう宣う目前の女怪に思わずツッコむ。
「分からないかしら?」
「分からないかって……俺に直接クレーム入れるクラフターが今まで居なかったって事か」
「正しく言うなら、直接クレームが入れられるクラフターが居なかったって事」
正直、何が違うのかが分からない。
「孫や曾孫、種族によっては玄孫にあたる子供へ八つ当たりする程彼等のプライドは安く無いのよ」
「……つまり、今迄は都市長がギリギリ再現出来てたから『お前は再現出来てるのに俺達は無理だ、ちゃんと教えろ』ってキレていたと」
「コレでも工匠長を兼任してるからね……もう返上するしかないけど」
「なんというか、タタラのせいで苦労しておるのじゃな」
「この子の両親から子煩悩全開な話を聞かされてた時には想像もつかなかったわね」
なんか、初耳の情報出されたんですが。
「俺の両親、ただの探索者だったんだよな……?」
「ええ、貴方の両親は普通だったわよ」
「タタラ、お主何か変なモンに憑かれとらんか?」
いや、確かに前世付きではあるけども。
「もしかして子供の頃、家に来たのって……」
「貴方の両親から自慢されたのよ、試しに確認しに行ったら古代語解読したノートの山が有るとか思わないでしょ」
「……そのノートをいい歳した大人が無理矢理持ち出そうとして筆頭騎士に制止されてたけどな」
「クラフトと錬金術の知識を持つ翻訳家が書いた古代研究書の解読本なんて財産見たら当然でしょ」
「それはもう盗賊の理論じゃぞ?」
「失礼な、私は貴族よ?」
「なら貴賊だな」
「タタラ、偶に発音同じで違う意味に変えるのやめんか?」
何となく緩い雰囲気になってきた気がする。
「しかし、凄い偶然じゃの。タタラに『クラフト』と『錬金術』のスキルが備わった上で、更に『考古学』のスキルが揃っておるとは」
「『考古学』を取得したのは中等部でレベルが10越えた時だな、スロットが増えたから研究に役立ちそうで取った」
「うむ……ん?」
「どうした?」
「タタラは初めから『考古学』を持っていたのでは無いのか?」
「持ってないぞ」
「なら、古代の研究書とやらを読み解いたのはどうやったのじゃ?」
「勉強」
「ここ20年以内で一番驚いた事象だったわよ、スキル無しの自力で古代言語の翻訳を成した初等部の子供が居たことは」
「……タタラは子供の頃からタタラってたのじゃな」
「いや、動詞にするなよ」
もう非常識=俺みたいな図式じゃねぇか。
つか、いい加減この扱いも腹立って来た。
「都市長」
「何かしら?」
「アンタが教鞭を取らせたいのは俺のやってる事を子供達の常識にしたい、って事でいいんだよな?」
一つの確認、俺を非常識扱いするならそれをひっくり返す為の土台を作る。
「ええ、貴方の理論に適応して貴方の発明を量産出来る人員を増やしたいの」
「俺を非常識と言うのなら、都市内に非常識が溢れる事になるぞ?」
「そうしたら、古い価値観が入れ替わって新時代の当来ね」
清々しい程に言い切った都市長に対して思い切り笑ってしまった。いいだろう、コレから俺をズレてるとか言ってくる相手には遅れてると返せる世界を作る。ちょっとやってもいい、俺を変わらず扱うのはきっとエテルやバカなんかの同じ世代の奴等ばっかりになるだろうがそれくらいなら許すさ。
「地味に気になっておったのじゃがの」
「なにかしら?」
「タタラに授業とか出来るのかの?」
「ここに来てその疑問を持つのかよ……」
「書類は理解し易いから大丈夫だと思う……けど、ちょっと心配ね」
「ひどくないか? コレでも学園の専門学科で二人だけだが見学に来た後輩に教えてるぞ」
「「え?」」
何だその鳩が豆鉄砲食らった顔。
「ミニタタラが既に存在しておる……じゃと……?」
「タタラ、その二人の名前を言いなさい」
「え、シャムスとエストだが」
「何を教えたのかしら」
「現状は武器の製作についての注意点と、魔鉄を作るコツ。ついでに『鑑定』の使い方」
「……最後のは何?」
都市長が聞きたいのか聞きたくないのか、感情がごちゃ混ぜになった表情を向けてくる。
「俺が昔からやってる『鑑定』スキルの使用法。そういえばあの二人から使い方がおかしいって言われたなコレ」
「同じクラフターから言われ……いや、明らかに知識不足の後輩から言われたならまだ疑うかの」
「私としては、タタラがスキルを変な使い方してるって情報で胃が痛みそうよ」
苦々しく言う都市長は、既に腹へ手を添えてる。痛みそうじゃなくて痛んでるなコレ。
「後輩にも言ったんだがさ、『鑑定』って何を参照してるんだって話。俺はスキルを使って情報を見れた時に楽しくて色んな物を見たが、それって普通知らない物は見えない筈じゃないかって疑問が出て来た訳よ」
「……タタラ、その好奇心を持って事に当たるのは美徳だと思うのじゃ。しかしな、流石にスキルを疑うのはちょっと方向性が違うのじゃ」
「失礼な、この常識を疑うって行動で人は発展して来たんだぞ?」
「確かにそうなのだけど……何か釈然としないわ」
虎熊と都市長が溜息を吐く。重要そうな話だと思って口にしたがやめようかな。
「……この話やめるか」
「いえ、続けなさい。貴方のズレが必要な場面が来る可能性が高いわ」
「はぁ……『鑑定』ってスキルは、何から情報を参照しているのかって疑問が先ず生まれた。頭の中に有る記憶から引っ張り出してるなら、生まれて初めて見るミスリルやオリハルコンは『鑑定』が出来ない筈だし、新しく打った武器の名前を見る事も出来ない筈だ」
「それは……確かにそうかの?」
「続けなさい」
「其処で思ったのが『鑑定』はスキルを通じて世界が持つ記憶に触れて情報を得ているのでないかって事。実際、魔鉄を初めて作った時に『鑑定』が通らなかった……世界に魔鉄って存在がそれまで無かったって事なんだと思う」
「……ちょっと、待ちなさい。『鑑定』が通らない?」
「俺が作った新技術って言われる諸々、初手は大体『鑑定』の枠外になる。エテルの『ロニセラ』とかカラムスさんの『フィエルテ』は使用される迄は『鑑定』での性能が確認出来なかった」
「……直近だと、あの新型魔導銃もね?」
「ああ、威力や射程に消費魔力の諸々試射が終わるまで読み取れ無かった」
都市長は俺の言葉に何か考え込んでいる様子だ。覚えが有るのだろうか?
「他に、貴方が新規に作った物以外で通らなかった事例は有る?」
「覚えてる限りは無い」
『天使長』の剣は人間が耐えられない領域の情報量だから俺に読み取れないのだろう、脳が沸騰する手前の負荷が掛かるのは恐らくそういう事だ。
「それで、此処からが本題なんだが」
「今のでも結構お腹いっぱいなのじゃが……」
「コレで軽いジャブ……いえ、使い方には至ってないのよね」
「そう、使い方の問題。コレは教えてた後輩二人に完全否定されたが、俺は皆やってる事だと思ってるんだが……『鑑定』って深い使い方しないのか?」
俺の言葉に都市長の目が鋭くなる。いや、元から鋭かったけど人を殺しそうな形相になるのは違くないか?
「具体的には?」
「より集中して『鑑定』を掛ける事で目前の物質を概念的なレベルで精査する、というのが俺の深い使い方だな。俺はコレで魔鉄を作る際のヒントを得た」
「……何よその馬鹿げた使い方」
都市長の眉間に皺が寄ってる。あの二人の言う通り、この使い方は一般的では無いらしい。
「都市長殿、類似の使い方や似た効果は無いのかの?」
「少なくとも、この都市で過去現在に至るまで記録は無いわ。タタラが初よ」
「嫌な一番乗りだなコレ」
スキルを使う上での概念的な説明は後輩二人にしかしていないが、都市長に言っても理解されるかどうか。
「魔鉄を作るヒントって言うのは?」
「対象の鉄で概念的に欠けている、歪んでいる箇所を魔力で埋めたんだよ。錬金術での卑金属を治すってヤツを試したんだが、出来たのが魔鉄ってオチ」
「……鉄を金に変える技術で別物が生まれたなら、確かに“失敗作”扱いもするわね」
そう、俺が魔鉄を失敗作と呼ぶのは人工ミスリルの失敗作って意味と錬金術の失敗作って意味が有る。
ただ、強度としては新素材として非常に優秀だったのが失敗作呼びに疑問を持たせていただけだ。
今の所、継承出来る技術って点でも失敗作に突き進んでるが。
「後輩二人に指摘されたって言ったわね」
「ああ、学園の専門学科の授業見学で何時も見に来る二人が居てな。魔鉄の作り方を教えた際に流れで」
「犠牲者が二人も居ったんか」
「犠牲者とか言うな」
そういえば、エストが俺の工房を見に行く事に教師が変な反応してるとか言ってたか。
「それで、その使い方を後輩の二人は出来たのかしら?」
「教えたばっかりだから分からない、次の授業の時に聞いてみるさ」
「そう、出来るようになってたら報告を上げなさい。貴重なタタラ理論の継承者候補よ、サンプルとして欲しいわ」
「実験体扱いみたいなのはやめてくれよ、可愛い後輩なんだから」
「最早タタラ理論にはツッコまんのだな」
「もう此処まで来たら開き直る」
このまま行くと後輩2人に都市長の後楯が出来そうだな……ゲームのサブイベントの原因に2人の立場の弱さとか有ったから、回避も叶うか?
「2人のクラフターとしての腕前はどうなのかしら?」
「まだ中等部だし、学園の工房でやらせるのは規則違反だから見たことは無いぞ」
「……そういえばそんな規則有ったわね」
「おい学園運営の代表」
忙しいのは分かるがその反応はどうよ、下手したら進学に制限掛かる物だぞそれ。俺の工房は弄り過ぎてて誰にも使えそうに無いってのは都市長が判定下してたし。
「のう、タタラ。気になったのじゃが」
「うん、どうした?」
「そもそも、この特殊な鎧に関する特許関連がここに来た話の肝だった筈じゃ」
「……そうだったな」
虎熊に言われるまで失念してた。
「この様な特殊な絡繰の集まりである鎧、どの様な者が必要としたのじゃ?」
「一応、依頼人に対しての守秘義務に引っ掛かるから言えんのだが」
「あら、特許の使用に関して必要性を確認しなきゃいけないわ。相手の名前くらいは言いなさい」
「……おっちゃん案件なんだって言えば回避出来ない?」
「……はぁ!?」
俺の言葉に盛大な反応を見せる都市長、つまり都市長はタチアの事を知っているのだろう。下手したらおっちゃんから何処の貴族の血を引いてるかも聞いてる可能性が有る。
「え、つまり……この機構は……そういう事ね」
「使う人間で意味が分かるとか、厄ネタ扱いかよ」
「今、
「……コレ、聞いちゃダメなやつじゃったか」
虎熊が完全に死んだ目になっている、後悔してももう遅いぞ。
己の血に宿る迷子の因子を恨むがいい。
「やたらと軽装なのが気になったけれど、もしかして当人の防御関係が相当に高いのかしら」
「人型のゴーレムを疑ったくらいにはぶっ飛んだ数値だったぞ、流石に具体的に言う気は無いが」
「ステータスなんていうプライベートな物は普通に聞かないわよ、貴方達夫婦が共有してるのなんてかなりのレアケースだって分かるわよね?」
「エテルの場合、そこら辺の常識がバーラル氏に制限されてたのも結構デカいけどな……」
「……あの人、そんなに過保護だったのね」
都市長もバーラルさんと会話した事が有るのか。確かに俺の両親と顔を合わせた事が有ったみたいだし、可能性は高いか。
「で、必要になる特許技術って義肢の生体電磁気を感知するやつだったわよね?」
「ああ。人間の筋肉と同じように脊髄反射に反応して人工筋肉を締めて、瞬間的に防御力を上げる機能を付けようと思ってな」
「……聞いてるだけで頭の痛くなる技術じゃの」
「そうか? 応用すれば新たな義肢にも転用出来るから結構使えると思うが」
「発展技術の展望が見えてるのはいいけれどね、コレの許可出なかったら詰みじゃないの?」
「いや、いざとなれば思念と魔力の反射に反応する機構の術式を組むから大きな問題は無い。最悪、術式の共通項が被らないように特許技術の閲覧はするかもだが対応は出来る」
「なら、初めからそうしなさい」
都市長がコレを言うとなると、特許の方は使わせて貰えないか。
ある程度楽はしたかったのだが、既存技術を許されないなら仕方ない。恐らく、都市長にも何かしら思惑があるだろう。
「それで、既存技術を使わせない理由は何だよ都市長」
「あら、何かしら有るって気付くのね?」
「腹芸は苦手だからやりたく無いんだよ、単刀直入に頼む」
「工匠長になったら苦労するわよ、覚えておきなさい」
「無茶言うな、こちとら生まれは一般市民だぞ」
「やってる事がぶっ飛んでて忘れがちだけどそうだったわね」
「妾がこの都市に居られる様に父上と交渉してたのにの」
「虎熊のアレは褒賞ってのが前提だからな?」
また話が脱線し始める。しかし、都市長の思惑ね。
「もしかして、この鎧と依頼人の功績で俺を工匠長としての立場に説得力を持たせるつもりか?」
「あら、ちゃんと気付けたじゃない。偉い偉い♪」
「うわキッツ」
「ぶち殺すわよ」
年齢不相応の言葉に思わず漏れた声に殺意を向けられた。いや、年齢的に本当キツイって。
「ふむ。確かに新機軸の素材に絡繰満載な鎧をタタラが用意し、それを騎士の一人が活用したならば話題にもなろうな」
「その為には既存技術一切無しで創った方が印象が更に強くなるわ。出来ないなら考えたけど、出来るならやりなさい」
「なんか上司に無理難題を突き付けられた部下の気分」
「言い得て妙じゃの」
「タタラには無理でも難題でも無いでしょ」
「既存技術に引っ掛からないって術式が難しいんだよ……」
その為に資料も漁らなきゃならないしな。
「例の騎士見習いが素材を持ち込み終わるまでは様子見ね、ローガスの協力は取り付けたの?」
「いや、子供の為に一も二もなく協力する姿勢が無いから断った」
「……アンタね、立場って物を考えてやりなさいよ」
「俺、おっちゃんから身の上話聞いたことねぇし。向こうが話さないなら考慮に値しないだろ」
「はぁ……ローガスの子供、しっかり守ってやりなさい」
お手上げ、と言った感じでタチアの事を投げてくる都市長。
エテルとは違うが、一度請け負ったのだから最後まで面倒は見る。戦闘面ではタチアに守られるかも知れんが、その他のしがらみからは守ってやれる所は手を貸す。
「んじゃ、そろそろ俺は行くよ。帰って術式を組まにゃならんし、資料室も見なきゃならないしな」
「そう、持ち出しは厳禁だから気を付けなさい」
「今更過ぎるだろ」
資料関連の管理は都市内でも最高のセキュリティを誇っている、物理と魔法による二重のセキュリティは不埒者を文字通り消し炭にしようとする殺意すら感じた。
その資料の中に子供の頃の自分が書いたノートが有ると言う事実に死にたくなるが。
「またの、タタラ。次はエテルも一緒がいいのじゃ!」
「またな、虎熊。エテルは連れてこれたらな」
手を振ってくる虎熊に、軽く振り返してから執務室から出る。
さて、新しい物を作る為に勉強といきますか。
その日の夜。俺は頭に叩き込んだ特許関連の術式を参考に、全く別アプローチでの制御術式を構築する。
黒鐵の鎧を弄る形で調整していれば、感覚が上手く噛み合って行ったのでタチアにも問題無く適応させられるだろう。
そうして一人満足しているとエテルとタチアが帰って来た。
玄関まで出迎えに行くと、ボロボロの2人が居た。
「タタラ、タチアと2人は無理かも知れない」
疲れ切った表情のエテルの台詞と、やたらと満足そうなタチアの表情が対照的だった。
マジで何が有ったんだろう、聞くのが怖い。
鎧が完成してもしなくても、胃が痛い都市長
感想で最近ワンパターンって言われて悩み中。
取り敢えず、タチアのイベント迄は終わらそう。その後の展望が見えなくなったけど。
この小説は……
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永遠と愛の絆
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