既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
※前回タチアイベント中にも関わらず、本人未登場で申し訳ありませんでした。
「さて、エストには悪いがシャムスを優先させて貰おうか」
「はいっ!」
「見学はさせて貰いますからね」
元気が良い返事をするシャムスと、内側の熱を隠して目をギラつかせるエストを見て内心ニヤリと笑う。
純粋に新しい事を学べて喜ぶシャムスと、そこから学びを得ようと貪欲なエスト。コレだけ向上心が有るのなら直ぐに追い付いてくれるかも知れない。この二人が大成したら『俺が育てた』とドヤ顔決めたい物だ。
「先ずは魔鉄の製造工程をもう一度見せるから、シャムスは『鑑定』を維持したまま変化を理解……いや感得してくれ」
「理解じゃなくて、感得ですか?」
俺の言葉にシャムスは疑問を持ったようだ。そう、疑問をもってぶつけてくれ。
「シャムスは正直、理論を説明していてもそれを理解出来ないだろう?」
「うぐっ」
「言語化した形ではシャムスの理解から遠くなる。だから、実演を見せる事で感覚に覚えさせる」
「……」
俺の説明に、エストはやや驚いている様子だ。俺だってそこそこ付き合いが有るんだ、シャムスの性質くらいは理解するさ。
「魔鉄の作成に必要なのは鉄1kgに対して小振りの魔石1つ、これ以上の魔力は過剰であり飽和して霧散するし最悪失敗に繋がるから余計な消耗でしかない」
そう言って、魔石を一つ手にとって鉄のインゴットへ近付ける。インゴットから1cm程離した位置で止めて、説明を続ける。
「慣れないうちは常に『鑑定』を続ける事、そして鉄の歪みを余さず見ること。慣れれば歪みの部分だけが他の部分と違う事に気付く様になるけど、最初は丁寧に全体を見ていった方が良い」
実演として俺も『鑑定』を使い続けて、鉄のインゴットを見続ける。今回は外れのインゴットを引いたらしく、大小無数の歪みが存在している。
「鉄のインゴットには『クラフト』スキルによる干渉が主で、魔石の魔力を流し込むイメージで俺はやってる。魔石へは『錬金術』による『形質変化』や『抽出』を使って魔力を引き出しながら『濾過』を掛けて取り出したモンスターの持つ独特な癖を無くして『純粋魔力』に変化させる。その上で注射器で小さな穴へ適量を流し続けるイメージで……そうやって丁寧に存在を整えてやれば」
そこで言葉を切って、インゴットを見せる。見事に魔鉄へと変化を果たしたインゴットに変わっている。
その一連の流れをメモを取りながら見ていたエストは驚いた表情だ。目の前で実演したのは2回目とは言え、まだ理解が及ばないのだろう。
対して、シャムスは口は半開きで涎が口の端から垂れている。しかし、その目は血走る程に力を込めて見開かれ全てを観る事に集中していたのが分かる。
「どうだシャムス、出来そうか?」
必要な知識を下地にして模索した俺とは違い、感覚として正解への道を導き出せるのがシャムスだ。俺の作業工程を見たのなら、何か別の気付きを得られたかも知れない。
俺の問いかけに、シャムスは目から力を抜いて眉間を揉みつつ少し考えて答えた。
「直ぐ、には無理ですね。直感的に躓く所が分かっちゃって、どう乗り越えればいいのか見えなくて……」
躓く所が分かるなら、ヒントは出せる。シャムスが言語化出来るのなら何とか出来るがどうだろうか。
「具体的に、どの辺りで躓くか言える?」
「えぇっと……」
実際に俺の動きをトレースして、躓く箇所を説明しようとする。俺はその動きと作業工程を照らし合わせ、何がどう変わっているかをシミュレートしていく。
「ここ、です」
動きを止めたのは、最大の歪みを埋める為に先に周囲の細かい歪みから埋めている時の工程だった。
何となく、だが。先に大きい歪みから埋めて細かい物をって考え方をしたシャムスが、俺の迂遠に見える埋め方をした理由が理解出来ないと言ったところだろうか?
正直、均一にさせられるなら何方のやり方でもいいのだと思う。俺以外では都市長くらいしか出来る人間が居ないので統計が取れないのだが、結果さえ伴うなら大丈夫だと思う。
「シャムスはデカい歪みから埋めて、細かい物をって順番にしたいって感じかな?」
俺の確認に、シャムスは一つ頷く。取り敢えず、魔鉄の完成品を見ながら説明かな。
「シャムスのやり方でも多分出来るとは思う、魔鉄の肝心な所は鉄の欠けた部分を魔力で埋めるってその一点しか無い」
俺の言葉に、シャムスは嬉しそうな表情になる。
が、一応細かい方からってのにも俺なりに理由が有ったりもするのだ。
「俺のやり方は遠回りにも見えるだろう、そこはまぁ仕方ない。俺がこうするのは、魔力が通る路を変に高い魔力で通そうとすると壊れたり詰まったりするからなんだ」
シャムスが眉を潜める。不慣れだから路を上手く認識出来ていない可能性も有るか……コレは『クラフト』にも応用効くからエストも意識して貰おう。
「慣れてくると分かるんだが、基本的に物質には血管みたいな細い路が走ってるんだ。この路に魔力を流す事で形質を変化させてやれば形状の変化なんかは簡単に出来る」
周囲に理解して貰えてないが『金属なら少しアプローチを変えるだけで対応出来る』と俺が言っているのはコレが関係している。
以前見たドワーフ一門の鍛冶現場から見るに、他の『クラフト』の使い方は外部から魔力による干渉を通して金属を変形させようとしていたように見えた。
俺のは内部に走る路に魔力を通して物質へ干渉し、結合を一時的に弱めて変形させる形を取っている。
何方が上、と言う物では無いが魔法金属に対するアプローチとしては俺の方がより効率的なのだと思う。『クラフト』のランクⅠの時点でミスリルとオリハルコンの変形を可能としていた事実からの推察だ、他のクラフターの言を信じるならそれぞれⅡとⅢが最低限必要になるとのことだった。
魔鉄と形状記憶合金の作成は歪みを正す過程でこの路を魔力で満たす事で完成する。
「この路を保つ為に魔力を流し続けていた結果大きな歪みも埋められる、それが俺のアプローチ方法だ。まぁ、大きい方を埋めつつ溢れた魔力で他の歪みも満たせるならそれでやって良い。自分に合った方法を見付けてくれればいいが、根底の理論だけは忘れないでくれ」
シャムスは何とか理解して覚えようとしているらしい、必死に俺の言葉を咀嚼しているのが分かる。対してエストはノートを取り、自分なりの理論を書き込んでいるようだ。俺の理論を後世に伝えていく役割はエストの方が適任かもしれないな。
「それと、一度魔鉄化に失敗したインゴットは溶かして作り直せばまた魔鉄化に挑めるから家に工房が有るなら練習すると良い。魔石さえ有れば出来るぞ」
「「普通は家に工房なんてありません」」
リセット方法を教えたら秒で否定された。いや、この場合は確かに俺の家が居住と工房と商店を兼ねた特殊なタイプか。
「二人が進級してきたら工房でいくらでも練習出来るからそれまでの辛抱かな……それとも、俺の家で練習するか?」
「え、それ」
「いえ、シャムス共々お断りさせていただきます」
エストが咄嗟に何か言いかけたシャムスの口を押さえて答えて来る。いくら親友でもちょっと酷くないか?
「まだ未熟な身で先輩謹製のぶっ飛んだ設備を見たら基準が狂ってしまいそうなので、お断りさせていただきます」
偉く丁寧に理由を告げて再度断って来た。なんだか下町工場の人間がオートメーション化を果たした大手の最新工場に対して持つ偏見みたいに思えるが、無理強いするのも違うか。
都市長は普通に流し見して終わる程度だったんだが……あの人はあの人で都市最高のクラフターやってるんだったな。
「分かった。まぁ店もやってるし気軽に遊びに来てくれ、武器の参考くらいにはなると思う」
そう言葉を締めて、シャムスに鉄のインゴットと魔石を一つ渡す。
「此処なら俺も監督出来るし、取り敢えず魔鉄精製に挑んで見ようか」
「え、良いんですか!?」
「いいよ、此処らへんは俺の責任で授業出来るし」
校則では工房を割り振られた生徒以外のクラフトを禁止しているのだが、魔鉄精製は厳密に言うとクラフトに相当しない……と言うか再現性が無くて分類出来て無いのが正しいか。魔鉄で道具を作らせる訳では無いので『クラフト』ではないと言い訳できる。
喜色満面なシャムスはインゴットと魔石を受け取って早速挑むつもりらしい、作業台へ向かう姿を見送って俺はエストと向き合う。
「……悔しいだろ?」
「……」
「それで良い、負けたくない相手が居るなら成長出来る」
「……俺はあいつみたいに天才じゃ無いですよ?」
「それが? 天才だけで物事が成り立つなら今の社会もクラフトの系統も出来て無い、オリハルコンやミスリルの加工が『クラフト』スキル込みで一部の天才だけに許された御業だったのは過去の話だ。それに、負けっぱなしで自分を許せんのか?」
「……本当、先輩のそう言う所が嫌いですよ」
「俺はライバルが先に進んで負けられないって燃えてるエストは好きだぞ?」
「俺だって、キチンと俺の事を見てくれる先輩の事は好きですよ」
目をギラつかせて負けん気を見せるエストに笑みが毀れる。
「エストはさ、どんな心持ちで『鑑定』を使ってる?」
「え、いや……改めて考えると分かんないですね」
エストの『鑑定』を深化させる為に、俺は少し意識にテコ入れする事を決める。エストの性格からの逆算に近い物だが、多分出来る。
「雑念が多かったりしないか? 見ようとしたらシャムスの事とか俺の事とか考えて集中欠いたり」
「それは……否定、出来ないかも知れません」
「エストは頭が良くて回転早いだろうからな」
「……頭でっかちって言いたいんですか?」
少し不機嫌にさせてしまったようだ。しかし、この克己心は使える。
「悪いことじゃないぞ、頭でっかち。知識を下地にして理論を組み立てるのは既存技術の発展って意味では必要な事だ」
「新規技術の開発には向かないと」
「俺の技術は既存技術の応用や失伝した技術の復元に近いぞ、魔鉄や形状記憶合金なんて大昔の錬金術からの着想だからな。失敗作だが」
「失敗作から新規技術が生まれるなんて……」
「よくある話だろ」
俺の言葉にエストはやや呆れ気味である。話が脱線し始めてるから軌道修正しなければ。
「エストは知識欲が強いって自覚は有るか?」
「え、えぇ。本を読んだり経験談聞いたりは好きですが」
「それを『鑑定』の使用時に持ってくるといい」
「は?」
「忘れてるかもしれないが『鑑定』は知ること……識ることを目的としたスキルだ、目の前の物を深く識る為に使う。なら、エストの知識欲は合致するんじゃないか?」
「……」
エストは目と口を開いて驚愕といった表情だ。
知識欲を満たす、そんな純粋な使い方で十分なんだ。
「……先輩は、何でそれで出来ると思ったんですか?」
「そんなの、
「何ですかそれ」
「前に言っただろ、目前の物を識りたくなったから『鑑定』を使ってたって。エストの知識欲と同じさ」
もしかしたら、俺の直弟子としてはエストの方がらしいのかもしれない。根本的には似た者同士みたいだしな。
「今直ぐ、は無理かも知れませんね」
「そこまで急いじゃいないが、俺の卒業までには出来て無いとシャムスとの溝は開くばっかりだぞ?」
「言ってて下さい、彼奴には負け続ける気は無いんで」
不敵な笑みだ。そういった空気を出せるなら、『鑑定』の深化もそんなに遠くないだろうな。インベントリから鉄と魔鉄のインゴットを一つずつ取り出してエストに渡す。
「教材として使うといい、家に帰っても出来るだろ?」
「ええ、ありがたく借受けます」
「いや、あげるよ」
「いえ、必ず返します。このインゴットは魔鉄にして、必ず」
「……そうか、楽しみにしてる」
思わず口角が上がる、エストも笑んだままだ。
「先輩ぃ! すみません、失敗しました!!」
魔鉄化に挑んでいたシャムスからの救援要請だ。早速シャムスに教える為にそちらへ向かう。
「……あぁ、先輩の下で教えて貰えて本当に良かった」
背後から聞こえたそんなエストの言葉に気付かないフリをした。男なら気付かれたく無いだろう、泣きそうになってる自分の事なんて。
シャムスの失敗は何方かと言えば大雑把な性格に起因するものと言えた、大きな歪みを埋める際に全体へそのまま魔力を流そうと出力を誤ったのだ。焦りは禁物だと言い含め、新たにインゴットと魔石を渡す。ゆっくりと気を落ち着かせながら一定の魔力を流す感覚を養わせる。
授業が終わる迄にシャムスがダメにしたインゴットは18、魔鉄化に成功したのは1つだった。最後の最後で出来た事に思わず歓声を上げた俺達、成功させたシャムス自身よりも喜んでいたエストの姿が印象的だった。
今日から家に住むことになる虎熊を迎えに行くため、エテルと二人で中枢へと向かう。タチアとの合流もそちらで行う予定だ、今日から魔導鎧作成に本格的に入るためパーティーメンバーで揃う事にしたのだ。それに、虎熊の迷子癖に対応出来る人員は多いに越した事は無い。
「トラッちゃん、大丈夫かな……」
「独りで俺の家に向かってなければ大丈夫……だと思いたい」
思わず零したエテルに、俺も不安を滲ませて言葉を紡ぐ。
庭先に蝶々を追い掛けて飛び出したら他国のダンジョンに居た異次元の迷子だ、心配するのも仕方ないだろう。
そんな俺達が中枢に近付くと、入口付近に見知った姿を見付ける。
赤と金が混じった頭髪に、女性にしては高めの身長の騎士服を纏った姿。パーティーメンバーのタチアだ。
「おーい! チーちゃん、こんにちは!!」
隣のエテルが大声を上げて両手を思い切り振る。声が届いたのかタチアが此方へ振り返り、笑顔を浮かべて手を振り返してきた。
流石に町中で飛ぶわけにはいかないエテルが駆け出してタチアの側に向かう、タチアは下手に動かず待ち構えている。エテルがそのままハグをし、タチアも軽く抱き返す。最初からは考えられないくらいに親密になってるな。
「こんにちは、エテル殿。元気なようで何よりだ」
「チーちゃんも昨日の疲れが残ってなさそうで良かったよ」
身長が高いタチアがエテルを見下ろしながら言った言葉に、エテルも楽しそうに返している。そんな二人に俺は歩いて近付いて行く。
「こんにちは、タチア。今日は宜しくな」
「こんにちは、タタラ殿。今日からは本格的な鎧の作成に入ると昨日言われて楽しみだったのだ、協力は惜しまないつもりだ」
俺もタチアと挨拶を交わす。今回はまだ浮遊石の理論やらを盛り込む事は無いが、それでも俺の技術を注ぎ込んだ特殊な魔導鎧になる。タチアの協力は必須なので、この言葉は心強い。
合流した俺達に向かって近付いてくる気配が3つ、どれも覚えのある気配だ。
「タタラ! エテル! タチア! 待たせたの!!」
元気いっぱいを体現したその声は待ち人たる虎熊だ、後に続いて都市長とカラムスさんも居る。
「トラッちゃん、昨日ぶり!」
早速虎熊にハグをするエテル、その姿にタチアも苦笑気味だ。親しい同性、同年に限るかもだがエテルはハグする癖が有るらしい。他に親しい相手を見たことが無いので知らなかった。
エテルと抱き合った虎熊が、何やら不思議そうな顔をしている。エテルから身を離して、視線を下に向けた。
「……のう、エテル。不躾で悪いのじゃが、昨日よりデカくなっておらんか?」
「んに!?」
虎熊の発言に飛び退って胸元を隠すエテル、流石は厄介ファン……抱き合っただけで当てやがった。それと虎熊の後ろの大人二人、胸元で手を上下させるな。スカッスカッと音が聞こえて来そうだから。
「うぅ、トラッちゃんは分かっちゃうんだ……」
「昨日も抱き合ったからの、相手の身体変化に気付かねば的確に剣を当てられぬ故に散々仕込まれたのじゃ。生憎、見ただけじゃとその外套で確信は持てんかったがの」
わりかし真っ当な理由だった、疑ってすまん厄介ファン。
「それで、さ。昨日まで使えてた下着が軒並みダメになっちゃったから皆で買いに行こうかなって、タタラがお金出してくれるし」
「俺は財布役か……まぁ、余裕は有るからいいが。エテルの場合は俺が財布握ってるから何方にしろ払うし」
「むぅ、妾はさらしなのじゃが……」
「押さえつけてるより普段は多分楽になるんじゃないか? エテルも探索の時しか着けないし、此方の文化に触れるって事で」
「ふむ、異文化交流というヤツじゃな。なれば一興やも知れぬ」
虎熊の説得が終わった。文化交流とは中々に面白い着地点だと思う、コレは俺も此方の防具一式贈る口実が出来たな。
「わ、私も行くのだろうか?」
話の流れに戸惑うタチアが声を上げる。お前も仲間なんだ、巻き込むに決まってるだろ?
「メンバー全員揃ってるから巻き込まれてくれ、エテルは同年代に友達が居なくてこういったショッピングに憧れててな」
「むむ、私も経験など無いのだが……」
「それなら丁度いいだろ。護るべき人達の生活に触れて、自分が何を守るのか改めて自覚するってのもさ」
「……ふふ、確かに。騎士としてそういうものに触れる、というのは新鮮な刺激だな」
騎士学校が蠱毒疑惑出てるので、矯正の為にもこういった市井の営みに触れて人を認識して貰わなければならないと思う。
人の話を聞いてくれるようになったのだ、誰もが憧れる騎士になって欲しいのは仲間として芽生えた感情だ。
ふと、視線を感じて目を向けたら遠くからおっちゃんが此方を見ていた。タチアの表情を見て驚いた顔をしたが、直ぐに嬉しそうに笑った。良かった、おっちゃんにとってもタチアが良い方向に進んでくれているようだ。
おっちゃんは俺に『コレからも頼む』と目線で伝えて、その場を去って行った。安易に任せてくれ、とは言えないが精一杯やるよおっちゃん。
「そうだ都市長、ちょっと報告が」
「……何かしら、圧倒的年下に負けた年増に追撃かしら?」
胸で負けたからって僻むなよ、相手は夢魔の血を引いてるんだぞ平たい胸族。
「一つはまた新しい研究を始めたからその報告、まだ触りだけだけですけどね」
「また新素材かしら?」
「そう言える……のかな? 浮遊石が手に入ったから再現出来ないか解析してます」
「……」
都市長が諦めにも似た表情をした、現状の空中戦艦なんかに使われてる技術とは別方面って言われてるもんなアレ。出力はどうしても下がるだろうけど、人が使う武器の軽量化くらいは叶うだろう。そうすれば、重装甲で生命を繋ぐ人達をもっと助けられる筈だ。
「ジュロン、お前は『ワールウィンド』を飛ぶ人間で溢れさせるつもりか?」
「再現が簡単ならそうなるとは思いますけど、単価は暫く高いままじゃないですかね? 広がるなら十年単位はかかるかと」
「軍事的な側面から見ればかなりの影響が出るぞ?」
「俺が作れても今のところ『再現性が無い』ってクレーム出る可能性が高いと思いますが、そもそも素材がどうなるかって点も有りますしね」
何となくだが、アレ一つ再現するのに大型の魔石か低位の霊核が必要な気がする。それでも尚劣化した物で終わるだろう。
「はぁ、今回はまだ大人しい報告ね」
「それならよかった、もう一つは教えてる後輩の一人が俺の理論での『鑑定』が出来るようになったってのと魔鉄の精製に成功したって話ですし」
「そう、それは良かったわね」
「取り敢えず今日はそれだけですね」
「分かったわ、ほら皆が待ってるみたいだから行ってあげなさい」
シャムスの事を伝えたが大分軽い様子だ、まぁどうせスキルの使い方が違う人間が一人増えたってだけの話だし浮遊石に比べれば問題が軽いのだろう。
エテル達の所へ戻りランジェリーショップへ向かう。さて、男にとって地獄みたいな時間が迫ってきて今から胃が痛い。
「……我が主、今の報告の件。よろしかったので?」
「うん、何がかしら?」
「ジュロンの『鑑定』と言っていましたが」
「えぇ、タタラの『鑑定』が使える人間が増えたって報告よね?」
「ええ、例の『概念鑑定』が使える人間が増えたという報告です」
「……」
「それと序とばかりに言われましたが魔鉄の精製に成功したとも……我が主?」
「ちょっとタタラ待ちなさい!?」
「もう居ないですよ、我が主」
背後からそんなやり取りが聞こえた気がしたが、胃痛の方が気になってよく分からなかった。
暫く歩いて着いたのは、かつて俺が独りでエテルの下着を買いに来たランジェリーショップだ。最後に来店したのは何ヶ月か前で、エテルと一緒に買いに来たのが最後だった筈。
四人で入ると品の良い印象を抱かせる身形の良い女性が来店の挨拶をして来た。
「じゃあ、俺は此処で避難してるから3人は欲しいのを選ぶといい」
巻き込まれる事を避ける為に先手を打った。
「なら、持って来るからどのデザインがいいか選んでね」
初手から思惑を潰しに掛かるエテル、見ろよ店員さんがあらあらと微笑ましそうに見てきてるぞ。
「むむ、此方の下着は初めてなのじゃ。売子殿、少々宜しいだろうか」
異文化に触れる虎熊は早速事情を店員に話しに行った。相談を受けたベテラン店員然とした淑女が、何処か気合の入った表情で案内に入った。アレはかなり頼りになるな。
「め、目がチカチカする……」
余りにも色取り取りな下着が並んだ光景に目が痛くなったのか、タチアが目を押さえている。分かるぞ、俺も最初はそうだった。でもな、そんなお前を肉食獣みたいな表情で見ている店員のお姉様が居るからな? 骨は拾ってやるぞ。
三者三様に店内に散って行くメンバーを見送り、俺は壁のシミに成るべく脇に退く。中枢から程々の距離なこの店は貴族区に近い影響か、そう頻繁に客の入りが有るわけでも無いので変に視線が向けられる事も無い。
「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」
そんな俺に話し掛けて来たのは年嵩の女性店員だ。俺がこの店に初めて入った時に声を掛けてくれた人で、慣れない俺が必死に説明したら助けてくれた事で縁が出来た。
「はい、お久しぶりです。なんか騒がしくしてしまって申し訳ないです」
「いえいえ、若いお客様は良いものですよ。新しいデザインの刺激にもなりますし」
そんな気遣い満載な言葉を返されて、恐縮しっぱなしだ。
「失礼ですが、本命の娘さんはあの菫色の髪の方で?」
「本命って……ああ、パーティーメンバー総出だから勘違いさせましたか。ええ、あの娘が本命と言うか婚約者です」
「あら、それはそれは」
俺の言葉に何処か嬉しそうな反応を見せる店員さん、そういえばエテルと二人で来る時はこの人に会ってなかったなと思い出す。
「貴方の好みを知ろうとなさるなんて、余程仲が良いのですね」
「そうなら良いんですけどね、人の心の内までは分からないですよ」
「あら、自信がお有りで無い?」
「自惚れるなら愛して貰えてると思いたいです、俺はアイツの居ない未来とか考えたく無いくらいには愛してますし」
「ふふふ、それだけ深い想いならきっと伝わってますわ。あの娘さんも、一途で不器用そうですし」
「そうなら嬉しいですね」
言葉に出しているつもりではあるが、どれだけ口に出しても想いが全て伝わってるなんて自信は何時まで経っても持てない。
だからこそ愛を言葉にし続けてるし、エテルからも言葉を貰えた時には安心している。臆病過ぎるかも知れないが、察してもらえるなんて傲ってすれ違いたくはない。
「ねぇ、タタラ! どっちの方が良い?」
店員さんと話していた俺に向かって、エテルが両手にそれぞれ違うデザインのセット下着を持って問いかけてきた。店員さんに一言断ってそちらへ向かう。
「貴方の自信の無さは欠点にもなり得ますが、それだけ愛を伝える事を是とする事は美点です。末永くお幸せに」
小さな店員さんの声が聞こえた気がしたが、何となく聞こえてないフリをするべきだと判断した。
エテルが持っているのはその髪色に近いやや透けている物と、大人の色香を漂わせんばかりの深い紅と黒いレースの物だった。
正直、何方を着けても目の前に出たら理性が切れるレベルの艶っぽさを発揮するのが予測出来た。
「どっちが好み?」
「正直、どっちを着けても理性が切れる自信有るぞ。なんでこんなエロいの選べるんだよ……」
「むぅ、好みを言って欲しいんだけど」
「下着よりもそれを着てる中身にしか興味ない人間にそれを言われても」
「こんなタイミングで口説かないの」
矯めつ眇めつ下着を眺め、頭の中でエテルに着させてモデリングしてみた。『クラフト』スキルの無駄遣いだが、こういった応用が出来るのは便利だ。
朝確認した増量版エテルの身体を隠す髪色に近い薄紫の下着、素材からやや肌が透けて見える薄さだろう。鼻の奥がツンとした、今更ながら下着姿で鼻血が出そうになるとは……。
次に紅と黒いレースを着させてみる。歳不相応だが、身体は見合うだけの発育の暴力だ。普段通りに恥ずかしがっても、逆に自信に満ちた表情でも似合うだろう。正直下半身が反応している。
「……多分、より興奮するのが紅と黒のヤツ」
「そうみたいだね」
少し長めの思考から出した答だったが、どうやらエテルは俺の情欲に反応して答が分かったらしい。
紅と黒いレースの下着を選ぼうとしたエテルだが、俺はそれに待ったを掛ける。
「待った、どっちも買おう」
欲望ダダ漏れだと笑いたければ笑え。
「……タタラのえっち」
「お前以外にこんなにならねぇよ、卒業前に子供出来るくらいに発情してやろうか?」
「開き直るな!」
顔を赤くしたエテルが思い切りツッコミを入れてきたが、しっかり何方の下着も買おうとしている辺り乗り気である。
そういえば今日から虎熊も故郷との転移門が繋がるまでは一時的に一緒に住むんだよな……俺の理性、耐えられるだろうか?
「あ、あとさ……こういうのはどう?」
そう言っておずおずと出して来たのは肝心な所が隠れていない穴開きの下着である。コイツ、俺を殺すつもりなのだろうか?
「エテルはお母さんになりたいと」
思わず昨夜の暴走状態で言っていた台詞を口に出していた。
そういうことしてると本当に我慢しないよ俺は。
「それは、その……タタラとの子供は欲しいけど。でも! 少し新婚生活は楽しみたい!!」
「それは分かったから少し声を落としてくれ」
エテルの声に周囲から店員さんや数少ないお客さんからの視線が飛んでくる。ややご年配の淑女の方々からはそれはもう微笑ましい物を見たと言わんばかりの反応をされている。一部の方々からは血涙を流さんばかりに睨み付けられている、良縁が出来ることを願いますので勘弁してください。
「新婚生活って言うけど、今と何か変わるのか?」
「それは、その……一緒の部屋で寝たり?」
「今もたまになるよな、互いに求め過ぎて」
「うぅ、でもなんか心持ちが違うと思うし……」
「……まぁ、多少は変わるかもな」
精神的な面だと思うが、エテルがそうしたいなら叶えるか。
結局、俺がエテルに惚れているのだからその望みを叶えたいのだ。惚れたら負け、確かにそうなんだろうな。
その新婚生活は虎熊が居ると覗かれたりするんだろうか、あの厄介ファンは壁になって眺める為に『潜伏』スキルとか取りそうだしな……翌朝ツヤツヤした虎熊とか見たら察してしまいそうだ。
「と、取り敢えずこの3つ買ってくるから……」
「えっと、足りるか? 探索の時に着けていくもんだし、他の実用的なのも買わなくていいのか?」
「うぅ、でも二桁万くらいになっちゃいそうだし」
「突発的でも三桁万の出費は余裕で耐えるからキチンと買ってこい、そんなにケチじゃ無いつもりだ」
「……うん、いっぱい頼るね」
「おうよ」
悩んでいたエテルはやや諦めたように複数取りに向かった、店員さんは俺の言動に驚いているようだが都市長から翻訳本の代金がまだたんまりと残ってるので大丈夫だ。
「た、タタラ! 助けて欲しいのじゃ!!」
そんなタイミングで声を掛けて来たのは虎熊だった、何事かと視線を向けたが思わず逸らす。
「お、お前! なんで半裸で飛び出て来るんだよ!?」
「着付けを頼んだら身体中弄られて耐えられんのじゃよ!」
「理由は理解したからちょっと近付くな! お前見た目が美人って自覚持てよ!!」
互いに阿呆みたいなやり取りをしつつ、エテルにこの光景を見られたら折檻かなと冷静な頭の一部が思考した。まさかあのエロ下着付きでそんな事をされたら多分、色々保たないと思う。
「そうは言ってもな、妾も他者に触れられればこそばゆくもなるのじゃ! かっぷに収める為とはいえ、他の肉を集めると身体を触られればこうもなる!!」
「だからって途中で出て来るな!?」
身体に縋ってくる虎熊から可能な限り顔を逸らす。半裸なんて言ったが上は何も着けていない、エテルに比べれば圧倒的に小さいがそれでも確かな主張をする程度には有るのだ。ぶっちゃけ、都市長とカラムスさんが子供に見える程度のサイズだ……あの二人は子供にも負けるか。
「冷たい事を言わないで欲しいのじゃ、妾達の仲じゃろ!?」
「俺とお前がエテルに物理的に冷たくさせられるぞ、頭吹き飛ばされて!」
目線を向ければ、虎熊を追い掛けて来たらしい少し年若い店員が指をワキワキといった具合に動かしながら近付いて来ていた。
普通に怖いわアレ。
「そ、そうじゃ! タタラなら……タタラなら出来るじゃろ!?」
「お前は俺を死なせたいのか?」
確かにエテルとプレイの一環でそういった事をした事は有る。
しかし、エテル以外にそんな事をしたら俺が殺される。
しかも、今のエテルだと泣きながら搾り殺しに来そうだから死んでも死にきれない結末だろうしな……むしろ昨日の永久機関ぶりから死なせて貰えない可能性も有る。
そんな恐ろしい未来を回避すべく、あの頼りになる店員さんを探す。少し離れた位置で俺達を見ているのが分かったので助けを求める。店員さんは少し溜息に似た息を一つ吐いたあと、此方に来てくれた。
暴走した年若い店員さんを止めつつ、虎熊を連れて行ってくれた。なお、暫くして虎熊が薄桃色のリボンが付いた白い上下セットを持って来たので引っ越し祝として買ってやった。序とばかりに似たようなデザインのも複数買ってやる。
何時もの店員さんはやや冷ややかな目をした気がする、本命以外に何をしているのかって感じだろう。けどな、虎熊はまだ『ワールウィンド』で使える共通貨幣持ってねぇんだわ。
この流れからタチアも、と思ったがなんとタチアの隣にはおっちゃんが居た。義理とはいえ、娘のそういうセンシティブな買い物を他者に譲るつもりはないと凄まじい威圧感を放っている。
というか、何処から湧いて出てきたんだおっちゃん。何か任せて立ち去ってただろアンタ。
支払いを終えて出ていく際に俺へ物凄い眼光を向けて来ていたのだが、俺はむしろタチアを担当せずに済んで安堵の息を漏らしていた。その姿におっちゃんも毒気を抜かれたのか、最後には苦笑いして退店していった……この後も見守ってたりするんだろうか?
買い物を終えてから約1時間半、4人揃って我が家に到着する。盛大に精神力と体力を削られたが、本日の仕事はまだまだ此処からである。とはいえ、時間が時間なので遅めの昼食を一旦挟む。
エテルと二人で台所に立ち、軽く胃を満たせる物としてトーストサンドとコーンポタージュを作る。作り置きしておいたたまごフィリング、トマトとレタスにハムを挟んだ物を1人2つずつ用意した。
タチアが食べ過ぎると鎧作成時に体型に影響が出てダメなので、全員少なめに用意した。流石にタチアが少ない量の中俺達が普通の量喰ってたら気分が良くないし、夜は多く作る予定だ。
洗い物をしてる最中、エテルが鼻歌を歌いながら俺の脚に尻尾を巻き付けて来た。完全に無意識らしく、幸せそうな雰囲気で指摘出来ない。背後で妖怪ハコオシ鬼が物凄く興奮した気配を発して居た事には気付かないフリをする。
「さて、タチアの鎧作成に入る訳だが」
「ああ、宜しく頼む」
工房内でパーティーメンバー全員集まって作業説明に入る。
エテルには虎熊が今日から泊まる部屋の方を案内して欲しかったのだが、二人共作業が気になると工房に来ていた。仕方ないから遠慮なく使わせて貰おう。
宙空に設計図を転写して、タチアに一つの図を見せる。
物としては鎧のインナーであり、形状記憶合金で作った人工筋肉で出来た物だ。身体にピッチリと張り付き背中が大きく開いたデザインで、形状記憶合金の展延性を利用して多少のサイズ変更には対応出来る。首と手首には人造オリハルコンによる魔力感知機構を備えていて、コイツが読み取ったタチアの魔力の反応によって身体の動きに合わせて人工筋肉を伸縮する事で動きを補助して身体能力を底上げする。
「それで、このインナー作成の為にタチアの身体の情報が必要なんだが」
「ふむ、採寸……だけでは無いのだな?」
「一番手っ取り早い方法を言わせて貰えば『鑑定』を使わせて欲しい。この場合はタチアのもっと深い情報を読み取ってしまう」
「普通に採寸するとどうなるのだ?」
「関節の可動域を知るために柔軟して貰ったり、俺が必要だと思う情報の為に動いて貰ったりする。その為に身体に触れる事も有る」
「ふむ……」
タチアは少し考えて、俺に言ってくる。
「先ずは採寸で頼む、タタラ殿の『鑑定』の方がより詳しく情報を得れるかも知れぬが先ずは普通に作成して貰いたい」
「分かった。なら早速で悪いんだがコレに着替えてくれ」
そう言って取り出すのは薄手の布で作られた、エプロンに似た物だ。首と腰に有る紐で身体に引っ付ける服とも言えない物だが、直接身体を見る事は無いから心情的には楽になるだろう。
「ふむ、分かった」
タチアは俺から受取り、早速着替えようと服を脱ぎ始める。
当然、前回の経験から予測していた俺はエテルと虎熊にタチアの着替えを押し付けて工房から退散している。
着替え終わるのを待っていると、エテルに呼ばれたので工房に入る。下着の上に布を纏ったタチアが立っていたので、安心して作業に入れる。
「それじゃ、採寸していくからな」
「ああ、頼む」
そんなやり取りの後に採寸を始めた。用いるのは2m程の長さの糸で、慣れるとメジャー並みの正確さで採寸が出来たりする。
早速首から順々に下部へ向けての採寸を始める。最初は普通の立ち姿で始め、一通り採寸した後は関節を動かして貰う。肩や腕に肘、腰や太腿に膝など主要な関節の可動域を含めて頭に入れる。
そうして得た情報から、形状記憶合金に入力する展延の設定を組み立てる。前回の探索で回収した鋼のインゴットを取り出して、魔石により形状記憶合金に変化させる。その後に魔力で形状を変化させて最も細い糸化をさせた後に編み込んで人工筋肉を構築していく。その上から筋力増強の術式を刻み、機動条件を人工筋肉内に魔力が通った事に設定。
全身に張り巡らせる上で部位による細かい人工筋肉の収縮を限界ギリギリの0.001mm単位で設定する。軽く魔力を通して動きを『鑑定』しながら確認し、問題が無い事が分かったら服としての形を整える。普段は着やすいようにやや大きめに人工筋肉を伸ばし、首輪と両手の腕輪を嵌めて魔力を流すと収縮して身体にフィットするように設定する。イメージとしては新世紀の福音をもたらすトラウマ物の複雑怪奇なロボットアニメのパイロットスーツである。アレより大分ボディラインの分かるピッチリ具合だが、まぁこの上に騎士服に似せた服と装甲を着せるので問題は無いだろう。今回は指の細かい動作に対応させられる程に人工筋肉の扱いに習熟していないので、手首から指先までは普通の手甲で覆うに留めるつもりだ。それでも、物理攻撃は相当上がる見込みではある。
取り敢えず、名称はインナーマッスルスーツとでもしておくか。このスーツ自体の名称と言うか、この形式の魔導鎧の総称として。
「タチア、試作したばかりで悪いが取り敢えずコレを着用してくれ」
「ああ、分かった……下衣は着れるのだろうか?」
現実世界で言うヌーブラやニップレス辺りなら大丈夫だと思うが、通常のブラジャーは遠慮して貰う必要が有る。
「下は兎も角、上はちょっと無理だと思うぞ。翼を出す時に引っ掛かりかねん」
「む、確かにな……中々に覚悟が要る装備だ」
そんな冗談を飛ばしながら、タチアが採寸用の服を脱ごうとする。急いで其の場から立ち去るが、エテルの冷たい視線が飛んできた。作業中だから勘弁して欲しい。
「タタラ殿、取り敢えず手脚を通したがこのブカブカな物はどうすれば?」
一先ずの着用を終えたタチアだが、本当に袖を通した迄の状態である。
「両手首のこの腕輪と首輪を音が出るまでしっかり嵌めてくれ」
「む、こう……か?」
タチアが少し力を入れると一つから音が鳴り、続けて同じ要領で残りの2箇所を終える。
「そうしたらそれぞれの輪に魔力を流してくれ」
「ふむ……うおっ!?」
俺に言われるままにタチアが腕輪と首輪に魔力を流した瞬間、ダボついていたスーツが一気に締まり身体にフィットする。
流石にタチアの筋肉の張りそのものを再現出来た訳ではないが、エロさよりも彫刻を思わせる丁寧に鍛えられた肉体が浮き彫りになる。尚、エテルにやろう物なら魔を払う忍者待ったなしである。
「どうだ、キツかったり動かし難かったりするなら調整するから言ってくれ」
「むむ……」
眉根を寄せるタチアにインベントリから取り出したエストックを渡し、一通り型を演じて貰う。
一つ一つの動作に現れる違和感を無くしていき、タチアと鎧を一体化させるようにする。コレはタチア専用の鎧なのだ、徹底的に合わせる。
「違和感は無くなったが……この身体能力の強化は凄まじいな」
調整を終えた上で、刺突を試したら残像が残りそうな速さで突き終わっていた。エテルに視線を送ると、ギリギリだと視線が物語ってくる。タンクからサブアタッカーに転向出来る強化幅か、我ながらとんでもない物を作ったかもな。
「次に外装を施して行くんだが……その前に、一つデータが欲しい」
「うむ?」
俺の言葉に疑問を抱いたタチアに、一つ呼吸をしてから頼み込む。
「タチアの飛んでいるデータが欲しい、庭先で飛んでくれないか?」
「……」
俺の依頼に、タチアは真剣な表情で俺を見つめ返す。飛翔のデータが無いとある術式を組めない、その為に頼むのだ。
「それは、鎧の完成に必要なのか」
「ああ、浮遊石を使用しない場合は必須だと判断した」
「……理由は聞いても大丈夫か?」
「ああ、タチアの飛翔に際しての翼の動きを見たい。タチアの身体の負担を減らせる可能性が高いし、その翼を認めさせる為の仕込みになる」
「……この翼を認めさせる、その手段を聞いても?」
「ああ」
タチアの質問に答える為に、設計図を展開する。タチアの翼を誤魔化す為に用意した偽物の翼の設計図。
「……コレは?」
「その前に一つ確認だ、タチアは天使族の翼の数って何が影響すると思う?」
「む……力の強さ、か?」
「大まかに言うとそうだが、根本的な話は霊格や位階の高さだ。まぁ、翼の数がそのままイコールに繋がる訳でもないが……2枚羽と4枚羽の力の差はどうしようもないレベルになる」
ゲーム時代で出た最高位は4位程だったが、この時点で『ワールウィンド』のヒト族総出ですら負けると明言されていた。別作品内には3位が登場し、4位を含むそれ以下の天使族の総戦力ですら傷一つ付けられないと明言されていた。顔出しはしていないが、第1位は天地創造クラスの力を持っているともされていて格の違いが示されている。その第1位は逆に翼が無いらしいが、一つ下の第2位は6枚羽とされていた。
なら、天使族の血を引くタチアの翼を見かけ上でも4枚か6枚にしてやれば?
こんな概要を、ゲームの部分を省いて説明した。その間にタチアは少しずつ目を見開いていく。
「そうか、私を高位の天使族……またはその祝福を受けた者として扱うのか」
「流石に混血だと言われる可能性は有るが、逆に天使族の鎧を授かった影響だと思い込ませれば」
「翼を持ったとしても誤魔化せる、か」
タチアも我が意を得たりと答にたどり着く。
この世界、天使族という種族はある種傲慢である。
ヒト種よりも遥かに生物として強いため、ヒト種を導かねばならないといった思考に陥る。
一部は己が認めた人間を英雄とし、添い遂げて子供を成す……そんな過去作のヒロインも居たがかなりのレアケースだ。
そして、そんな天使族だからこそ……力を認めたヒト種ともなれば周囲から尊崇される。
「……上手くいくだろうか?」
「いかせるのさ、タチアの未来の為に」
「……ふふ」
唐突に笑うタチアに、少し戸惑う。やはり、計画に穴が大き過ぎたかとそう思う。
「確かに、こんな計画は初めの頃の私にも……ましてや親父殿にも話せないな」
「知識の無い国の中枢を騙せ、なんて話だからな」
「ああ、バレたら大罪人扱いだろうな」
「うぐっ」
痛い所を突かれた。そもそもタチアが拒否をしたらこの計画はそこまでだったりするし、無理か。
「タタラ殿」
「ああ」
「庭先でいいか?」
「……あ、ああ!」
多くを語らない、タチアなりの承諾。しっかりと考えた上での結論なのだろう、思わず笑顔が漏れる。
庭先に進み、開いたスペースでタチアがその翼を拡げる。俺は『鑑定』を集中して使用し、その翼の動きを筋肉や魔力の流動に至るまで余さず見届ける。目が痛み、脳が危険信号を送ってくるが今は無視する。すると、エテルが虎熊に頼んで精気を吸収して体調を回復してくれる。やはり、最高のパートナーだ。
そして、青く晴れた空に俺達の騎士が舞った。
身長
カラムス→タチア→虎熊→都市長→エテル
何がとは言わないが
エテル(今)→エテル(1章)→エテル(断章)≧タチア→虎熊→カラムス≧都市長
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