既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
庭先で宙へ舞ったタチアの翼の動きを余さず見届ける為に集中を続ける。
次々に入ってくる情報を脳裏に刻み、同時に術式を構築する。
脳に多大な負荷が掛かり、血涙と鼻血が流れ出すが現状は無視する。エンゲージリングで繋がったエテルが夢魔特性で回復を続けるが半ば追い付いてない。
しかし、止める事はせずに『鑑定』を続ける。
翼の連動について。翼がもつ力場形成の魔法効果の解析。
力場の効果である宙空の自由魔力に干渉する効果の理解。
次々と発生する情報を処理し続ける。約5分ほど解析を続け、脳処理に限界が訪れて膝を付いた。
「タタラ!」
いち早く反応したエテルが悲鳴じみた声を上げる。安心してくれと伝えようにも、頭の痛みがまったく大丈夫じゃない。
エテルの声を聞いて、宙空にいたタチアも降り立った。
「タタラ、大丈夫!? 血が凄い出てる……トラッちゃん、精気ちょうだい!」
「うむ、持っていけ!」
エテルが俺の頭を抱き締め、更に虎熊から精気を吸収する。共有した精気による肉体回復と、以前話していた夢魔の癒しを併用しているのだろう。頭痛と鼻血が治まっていく。
「ありがとう、もう大丈夫だ二人共」
「大丈夫、じゃないよ! あんなに無茶するなんて!!」
エンゲージリンクの影響で俺のダメージが伝わっていたのかもしれない、エテルの必死な顔は共有したが故のものだろうか。
「意味分からないって顔してるけど、タタラの目から血が流れた時凄く怖かったんだよ!? すご、こわ……うぇぇ」
感情が限界に達したエテルが泣き出してしまった、思わず抱き寄せて謝り続ける。
研究や開発の為に無茶をする癖、みたいになっているのだろう。前はダンジョンでも俺が死ぬ可能性が発生して取り乱した事も有ったな。
「ごめん、エテル。本当にごめん」
「タタラのばかぁ」
語彙力が完全にお亡くなりになっているエテルを抱き締めたまま、髪を撫でる。
失敗した。エテルを泣かせたくないのに、俺は俺自身を大切に出来ない事で直ぐに泣かせてしまう。転生者である故か、俺は自分の命を軽く見ているのだろう。コレくらいでは死なないと俺自身は確信を得ていたとしても、他人からそれを理解して貰える訳でもない。
大切だと言ってくれる人の為に、自分自身を大切にしなければ……でないと間接的にその人を蔑ろにしているも同然だ。
「もうやらない?」
「……ごめん、確約は出来ない。もしこうしないとエテル達を助けられない場合は躊躇しないと思う」
「なら、クラフトの時だけでも控えて。どうしてもって言うなら時間短くして」
「分かった、最長で3分までにする」
この3分は無機物以外で発生する血涙が流れるまでのタイムリミットだ。コレを超えると指数関数的に負担が大きくなり、今みたいな状況に陥る。
「それじゃ、ゆびきり」
「ああ、ゆびきり」
エテルが伸ばした小指に、自分の小指を絡ませる。そして、子供のよくやる約束の
「「指切りげんまん」」
呪詛の名前。
「「嘘吐いたら」」
誓約の発動理由。
「針千本」
「おっぱい千日」
罰則の設定……ん?
「「飲ます」」
アレ、今エテル変な事言わなかった?
「「指切った」」
二人の小指が離れて、何かが結ばれる感覚がした。
あの、凄いシリアスな場面でとんでもない事言わなかった?
「……エテル、今なんて言った?」
「え、おっぱい千日飲ますって」
血の気が引いた、このタイミングで性癖を満たしに来るとは思ってもみなかった。
「ぐ、具体的にどうするおつもりで?」
「えっとね、三食私のおっぱい飲ませて赤ちゃんみたいにする」
どうしよう、さっきから震えが止まらない。何でだ、今は赤い月も出てないし本能が表に出る要素無いぞ?
ほら、背後に立ってる虎熊ですらドン引きした表情だし。あの猪突猛進なタチアが近付こうともしてないぞ?
「三食って……どんな」
「朝は家でしょ、お昼は学校とか? 夜は外食でもだね」
「なにそれ新手の処刑法かなにか?」
家だけなら兎も角公共の場でやらかしたら捕まるぞ。しかも千日って約3年もやらされたら尊厳なんて残らない……もう絶対無理はしない。流石の妖怪ハコオシ鬼ですら距離取ってるとか……此処が地獄か。
脳の中で構築した術式がショックで吹き飛びそうになったぞ。
何なんだよこれ、どうすれば良いんだよ。
「た、タタラ殿……その、大丈夫だろうか?」
エテルに対してやや腰が引けてるタチアが話し掛けて来た、この空気で勇気出せるお前はスゲェよ。
「あ、ああ。血はもう止まってるし頭痛も無い、タチアの飛行状態から術式も組めそうだから作業に移れるぞ」
というか、今すぐエテルから逃げて作業に没頭したい。
初めて愛してる相手から離れたいと思った、バーラルさんに殺されるかなコレ。
タチアから飛行状態を見せて貰ったが故に、天使族の飛行プロセスが理解できた。
天使族の翼は位階が上がるとその形が個々で大きく変わるも、総じて飛べるのは翼が一つの魔法術式であるからだ。視覚として捉えられる程に高密度な魔法術式、それが天使族の翼なのだ。
浮遊石とは違った法則による空中浮遊であるため、解析したらまた特許申請が必要になるかも知れない。タチアの為にも後で都市長に報告と概要書を出さなきゃならないな。鎧の設計変更も必要だろう、タチア用の飛翔魔導鎧も可能ならば俺が関わりつつ天使族から奇跡を預かったという体にしたい。
天使族かも怪しい『天使長』から知識を授かった、なんて流れにしてもカバーストーリーとしては有りだがそれはそれで問題が起きそうな気がしてならない。そもそも、天使族と何も関わりのない俺がいきなり天使族の鎧を作ったとして信用されるかと言う問題も有る。
いっそ死にかけの高位天使族から認められたタチアにその霊核を使った鎧を贈ったら天使族に変異した、なんて方向に切るべきか。あの翼を認めさせるにはどうしても天使族の関与が必要となるが、この『ワールウィンド』に天使族とか降りて来ないしな。
そんな事を考えていたが、取り敢えず物を完成させなければどうしようもないので制作に入る。
翼は形状記憶合金で作成する、見た目上だけでも羽撃かせないと不自然になるだろうから動きを設定する必要が有る。
羽で覆い隠すが、今回作成した飛行魔法の術式は翼に刻む。ただ、魔力を過剰に流すと宙空に術式を展開してしまう。リミッターを掛けると出力が不安定になるので、タチア自身に気をつけて貰おう。試作品に魔力を流せば、術式は正常に起動して翼が宙に浮く。
コレが浮遊石代わりになれば良かったが、浮遊石が重力を打ち消して浮くような術式に対してコイツは空間に漂う魔力に触れて飛ぶ形式なのでタチアの翼以外に使えそうに無い。仮に俺が使うなら、強襲型魔導鎧の翼辺りに仕込むとかだろうか。まぁ、揚力を得る翼として活用するのがせいぜいだろう。
分割思考でそんな事を考えつつ、タチアの鎧に付ける偽物の翼が大まかに出来上がる。いざという時に盾にも出来るよう、羽の一枚一枚を形状記憶合金で作成している。タチアが防御しようと思えば羽毛になっている鋼が固まって鈑金状になるうえに、魔力も通っているのでそこそこの硬さになる。
翼が出来上がったので、今度はそれを付ける為の
「まるで裸で剣を振るっているかのような自由さだ」
とは一通り完成した
次に作るのは
軽量化を施す上で外すのは
タチアの身体に合わせて細かく調整していく。タチアも目の前で自分の鎧が出来上がっていく様子を真剣に見詰めてくるが、その目の奥には喜びの色が見える。タチアは何だかんだ男の子みたいな好みをしているのかも知れない、合体ロボとか好きそうだ。
最後に取り掛かるのが脚部一式だ。先ずは足先の
制作開始からだいたい5時間程、外は既に暗くなったがタチアの協力で鎧は組み上がった。コレから細かい調整を続けていく必要は有るが、形になったのだ。
鎧は魔鉄特有の黒色に青い光を反射する地金に、ミスリルによる彫金を施している。ミスリル銀糸で編まれた腰布と、サーコートのように身体を包む鈍色の翼により佇まいが騎士らしさを醸し出す。
調整の為に着たままのタチアはそれは立派な女騎士として完成していた、作業を終始見ていた虎熊も驚きで息を呑んだのが聞こえてきた。
「一先ずの完成だ。空を飛ぶ際の翼に連動する術式の確認は別の日にやろう、流石にもう暗いからな」
そう言ってタチアを見れば、玩具を取られた子供のような表情だ。気持ちは分かるが、明るいうちにやらないと目視でも問題点見付けられないんだ勘弁してくれ。
「取り敢えず、今の姿を見てみろよ」
そう言って俺は全身が写せる姿見をインベントリから出す、こういう時の為に作っておいた高さ2m幅80cm程の大型の鏡だ。
タチアは自身の姿を見て、大きく目を見開く。
「コレが、私……か」
「魔鉄製で基本黒なのは済まないと思ったが、染めるつもりは無いぞ」
「む、何故だろうか」
俺の言葉に疑問を持ったタチア、確かに騎士の鎧は基本的に鋼色と言うか鈍色が主だ。しかし、ことタチアの鎧は魔鉄でなくても黒にするつもりだった。
「おっちゃん……ローガスさんの鎧と同じ色だからだよ」
「そう、か……親父殿の……」
俺の言葉に、様々な想いがこもった言葉をこぼすタチア。おっちゃんの代名詞である巨剣と鎧は、素材を調べた事は無いが深い黒である。バカに聞いたがおっちゃんの二つ名には『漆黒』とか『黒き剣王』なんて物が有るそうなので、タチアの鎧は早い段階から黒にする事は決めていた。俺の作った技術との指定を受けた故に魔鉄をメインにする事になり、彫金以外は魔鉄そのものの色を残す事にしたのだ。
「改めて、感謝を。次期工匠長と名高きタタラ・ジュロン殿、これ程の逸品を仕立てて頂き誠に感謝する」
「騎士見習いタチア、その感謝を受け取る。しかし、その鎧はまだ調整が要る、コレからも力を貸して欲しい」
「承った。全身全霊で事に当たると誓おう」
「その鎧が完成したならば、貴女の武勇で遍く力無い人々を守る事を願う」
「騎士として、無辜の民を守る事を誓おう」
姿勢を改めたタチアの言葉に、俺も礼を持って答える。流石に騎士学校に通うだけある威風堂々とした姿だ、初対面の時は此処までになるなんて思いもしなかった。
あの時、コイツの依頼を受けて良かった。
「3人とも、ごはん出来たよ……うわ!? チーちゃん、凄く格好良い!」
1人離れて夕飯を作っていたらしいエテルが呼びに戻ってきたが、タチアを見て驚きの声を上げる。そんなエテルの言葉に嬉しそうに笑うタチアを見て俺も思わず笑みが浮かぶ。
虎熊に視線を向けると、腕を組んで何やら頷いていた。後方腕組み師匠面だろうか。
「よし、飯にするか。タチア、鎧はそのまま預けるからインベントリにしまってくれ。インナーも含めて一つの鎧だから、片方を無くすとかやめてくれよ?」
「む、了解だ。大切にしまっておこう」
言いながら部屋を出る俺の背中に向けてタチアが言葉を返してくる。エテルと虎熊が慌てた気配を感じるので多分、纏めてインベントリにしまってパンツ一丁になったのだろう。予測出来てたよそんなのはな!
都市長宛に手紙を認めて鳥型ゴーレムに渡す。明日もタチアの鎧を調整するが、都市長と出来ればおっちゃんに知恵を貸して貰いたい。タチアの事情を知る面々に相談する場を作って貰おうと思う。おっちゃんなら天使族の知り合いくらいは居るだろうし、引き合わせて貰えれば何かを作って協力を取り付けるかも知れない。
作業続きで汗臭くなったので食事前に軽くシャワーを浴びて汗を流しておく、服も変えれば流石に臭わないと思いたい。女子の嗅覚神経は男性の五割増で、汗に含まれるフェロモンも嗅ぎ取れるなんてのが前世の生物学に有った。下手に体臭が届いて臭いとか言われたくない、女子3人に袋叩きとか多分泣くぞ。
リビングに入ると、エテルがテーブルに料理を運んでいる最中だった。虎熊とタチアの前には既に皿が置かれているし、エテルが今運んでいる物が最後のようだ。
「悪い、手伝えなかった」
「ううん、シャワー浴びてくるのは分かってたし大丈夫」
エテルに謝ると、特に気にしていない風に返された。
謝りつつ席に着くと、目の前に皿が置かれた。今日のメニューはビーフシチュー、実は昨日から時間を掛けてエテルが仕込んでいた逸品だ。特製のデミグラスソースは特別な日の為にと仕込んだ物をインベントリ内で保存していて、月を見る前に全部の工程を終えてシチューを寝かせ始めたタイミングで俺が声を掛けたのだ。
昼、保存庫を見るまで存在に気付かなかったけどな。
夕飯は俺が作るつもりだったが、悪戯が成功したと言わんばかりの表情をしたエテルに見事嵌められた。
「それじゃ、この家にトラっちゃんが住むこととチーちゃんの鎧が完成した事をお祝いして……いただきます!」
「「「いただきます!」」」
エテルの音頭の下、声を揃えて挨拶をする。
ビーフシチューのルウをスプーンで一掬いして、冷ましながら口に含む。デミグラスソースの酸味や複雑なコク、その後に溶け出した野菜や肉の甘味が口の中に熱とともに溢れた。
熱い熱いと悲鳴を上げるが、水を飲んだらまた次の一口が欲しくなった。美味いのだ。エテルの持つお母さんのレシピでも最も工程が多く複雑で、おそらくバーラルさんの好物だったのだろう一番試行錯誤された物だった。
野菜を濾してルウに完全に溶け合わせる事で、余すこと無く旨味が染み渡っている。形が残された野菜は、後入れで煮込まれたじゃがいもとブロッコリーくらいのものだ。
そんなじゃがいもを一つ掬って食べる、舌で押すだけでホロホロと崩れる程に煮込まれている。身が崩れて伝わるじゃがいもの味は、表面を包んだルウの味にも負けない程の味だった。次に掬ったブロッコリーは、確かな感触を残している。やや淡白な味わいだが、シチュー自体が濃厚な味わいなので舌休めにも丁度いい。
そして、メインとも言うべき牛肉を頬張る。表面に擦り込まれた塩と胡椒、馴染んだ後で焼く事で香ばしくその味を内に閉じ込めた為にルウの奥からでも強く衝撃を与えてくる。適度に抜けた脂の代わりに内に溜められた野菜の旨味が、肉の旨味を更に引き立ててくれる。煮込み時間でともすれば固くなるであろう筋が、僅かな歯ごたえだけでプチリと噛み切れるほど柔らかい。
若い身体にはやはり肉、動物性タンパク質は大正義なのだ。
皿のルウを千切ったパンで余す事なく掬い、綺麗に完食する。大満足だと腹を撫でて一息つけば、嬉しそうに笑うエテルが此方を見ていた。
そんなエテルと俺をキラキラとデザートが如く眺めてくる妖怪ハコオシ鬼が一匹、此奴は取り敢えず無視だ。
タチアも満足といった風に腹を擦っている。
「ごちそうさまでした」
先に挨拶を済ませて、食器を台所へ持っていく。他の食器も回収して、さっさと洗ってしまう。エテルが此方に来ようとしたが、察した虎熊が話を振り足止めをしてくれた。その間にさっさと洗い終える、作ってくれたのだから洗い物は俺の役割だ。
手早く終えてテーブルに戻ると、和気藹々と女三人で盛り上がっている。話に混ざるのもなんなので、台所に一度戻り作り置きの水出し紅茶を人数分淹れて持っていく。
楽しそうに会話を続ける3人だが、俺としてはタチアの門限がそろそろではと気になる。具体的な時間は聞いてないが、何時も急いで帰る時間が迫っているのだが……盛り上がってる女性陣の中に入るのは嫌だな。
「あーっと、タチア。そろそろ門限じゃないか?」
声を掛けた俺に若干不満そうな視線を向けてくるエテルだが、タチアの方は壁掛け時計に目を向けた後に慌てて立ち上がる。
「す、済まない! 私はここで……ご馳走様でした!!」
「あ、お粗末様」
「明日も鎧の調整するからな、適当な時間に来てくれ」
「分かった、ではまた明日!」
「また明日な」
「じゃね、また明日」
「うむ、また明日なのじゃ」
玄関から出ていくタチアを見送る俺達三人組、今日から住む事になる虎熊は少し興奮気味に見える。枕が変わって眠れない体質では無さそうで安心だ。
「ねね、トラっちゃん! お風呂一緒にはいろ!!」
「う、うむ。分かったから押すでない!」
楽しみだと言わんばかりのエテルに押されて、虎熊は了承した。その様子が微笑ましくて笑った。
今日はエテルと虎熊はパジャマパーティーだろう、俺は一人寝だろう。が、それはゆっくりと眠れるという事だ。
「二人が風呂から上がるまでは浮遊石の解析やっとくか」
そう独り言をこぼして工房へ向かう。そういえばタチアから解析させて貰った天使族の飛翔術式の諸々も書かなきゃなと思い出し、少し楽しくなった。
5分後、風呂場から虎熊の凄まじい悲鳴が聞こえてきた。エテルの裸を見ての反応だろう、男子の俺よりも衝撃デカそうだもんな。
「タタラ、風呂が空いたのじゃ」
飛翔術式に付いてを纏め終え、浮遊石の解析を行っている最中に声を掛けられる。湯上がりで頭にタオルを巻いたパジャマ姿の虎熊が居た。作れるなら浴衣とか湯帷子とか作ってやりたいが、生憎と構造が分からないので縫ってやれない。
「おう、ありがとうな。エテルと一緒は大変だったろ?」
「なんじゃあの発育の暴力は、何食ったらあんなになるんじゃ」
「……男、ですかねぇ」
具体的に言うと俺を喰ってるからな、ってやかましいわ。
「惚気なのか自虐なのか分からんのはやめて欲しいのじゃ」
「惚気か、これ?」
「独り身の御局に言ってみよ、次の瞬間には血だるまじゃぞ?」
「お、おう……」
独身相手には気を付けよう……学園の教師にも危ないのが居そうだな。
「この後も部屋でエテルとガールズトークだろうけど、頑張れよ」
「妾としては夫婦の時間を邪魔したくないんじゃがな……」
「諦めろ妖怪ハコオシ鬼」
「……そういえば、何故タタラは妾達の文化圏にそこそこ詳しいのじゃ? 妖怪なぞ、此方に居ると中々聞かん単語じゃが」
「実は前世の記憶が有って、虎熊の国の文化にそこそこ詳しいんだ」
「なんじゃその冗句は……」
下手に誤魔化しは無しで真実を言えば、荒唐無稽さに呆れられて冗談に取られる。一度エテルにも言った事が有るのだが、本当だと受け取って貰えなかった。唯一理解をしてくれたのは『天使長』だけで、俺がこの世界の事にそこそこ詳しい理由も納得してくれた。
「んじゃ、俺は風呂に入ってくるわ」
「うむ、いい湯じゃったからゆっくり疲れを抜いて来るといいのじゃ」
「おう、虎熊はエテルと一緒に湯冷めに気を付けろよ」
そんな会話をして、俺は浴室に向かった。此処最近はエテルと一緒に入って身体を洗うのか汚すのかよく分からない日々が続いていたために、ゆっくりと風呂を堪能するのは気持ちがよかった。
入浴を終えて自室に戻り、ベッドの上で目を閉じる。一人で寝るのは久し振りで、エテルが隣に居ない違和感とセックスが無い故の体力を持て余して眠りが遅くなる。
なんてことは無く、目を閉じて5分後からの記憶が無い。目覚ましより先に、窓から入る日差しで目が覚め気分がいい。
8時間は余裕で寝ただろう、頭はスッキリしていて身体は絶好調だ。活力はエテルから分けられている時の方が上ではあるが、体調の自然さは今の方が圧倒的だ。
シャワーで寝汗を流した後、エテル達二人は夜更かしで目覚めが遅いだろうと予測し朝食を作る。虎熊の為に和食の一つも用意してやりたいが、生憎と醤油も味噌も無いしジャポニカ米に類する米も無い。そんな状況ならなんちゃって和食よりも此方の薄味な朝食を作るほうが幾らかマシだろう。
出汁巻き玉子は作れないが、塩玉子焼きは作れるのでコレだけは用意する。虎熊が甘い玉子焼きが好きなら次に出すから今回は我慢してもらう。……昆布出汁とか鰹出汁なんかは虎熊の国と交易して手に入らないかな?
トーストにサラダ、玉子焼きにインスタントのコンソメスープで手抜きの朝食の出来上がりだ。カトラリーはフォークとスプーンにナイフを用意したが、大量のオーク材から何膳か長さや太さの違う箸を作り出して虎熊の席に並べておく。好みの大きさが分かれば今度はそれで専用の物を作ろう。
準備が整ったので虎熊の部屋まで二人を起こしに行こうと思ったら、リビングの窓から庭に一人立つ人影が見えた。
平服に着替えた虎熊が、愛刀で一つ一つの型をゆっくりと確認しつつ取っていく。身体の動き、関節の様子を見つつ技に曇りが無いかを只管試している。普段の動きに比べれば圧倒的に遅いのだが、内包された力強さが尋常ではなく虎熊を中心に周囲の空間が歪んで見える。
「……型を取っているだけの姿を見て、そんなに楽しいかの?」
一通り型を取り終えたらしい虎熊が刀を納め、此方に振り向いた。
「楽しいさ、ダンジョンじゃ集中して見れなかった虎熊の技量。確認出来るんだぜ? 俺ならどんな武具を渡してその動きを十全に発揮させるか、色んなアイデアが出てたまらない」
忌憚無くそう答えれば、虎熊はため息を一つ吐いて笑う。
「おはよう虎熊、朝食の準備は出来てるから手を洗って席についててくれ」
「おはよう、タタラ。では早速手を洗ってくるとするかの」
いそいそと靴を履き替えて洗面所へ向かう虎熊を見届ける。エテルを起こしに行くか迷うが、居るのは多分虎熊の部屋なので許可無しに入れない。それに、俺が起こしに行ったらなにかヤバい予感がする。
「虎熊、悪いけど手を洗い終わったらエテル起こしに行ってくれ!」
「むぉ!? 家主なのだから勝手に入って起こせばよかろう!!」
「嫌な予感すんだよ、最悪お前の部屋がヤリ部屋になるぞ!」
「おぉう……」
俺の言葉に虎熊が思い悩む様子を見せる。流石に入居1日目で自分の部屋が推しカプに生臭くされるのは嫌だろう、出来れば躊躇って欲しくも無いのだが。
手を洗い終えた虎熊が足取り重く自室へ向かって行った。気分は下手したら地雷処理班のそれではなかろうか?
そんな時に来客用のチャイムが鳴らされる。
「タチアも随分と早く来たな、朝食も用意してやるか」
そんな独り言を零し、玄関に向かう。
扉を開ければ案の定タチアが立っていた。のだが、その背後に見覚えが有る人が3人居た。
「……おはよう、タタラ殿」
「ああ、おはようタチア……で。後ろの3人について聞いても?」
俺がタチアの背後に居る3人について聞くと、タチアも答え難そうだった。
「今日は午後から鎧の調整に伺おうと思っていて、早朝に剣の鍛錬をしていた所で寮監に呼び出されてな」
疲れ切った表情でタチアは言葉を紡いでいく。
「何事かと思えば受付にこの御三方が居たのだ」
タチアの言葉で目線の温度が下がる。しかし、視線を向けられる3人には響かない。
「鎧について、そしてタタラ殿の後輩について詳しく聞きたいから来いと言われてな……」
「……大変だったな」
「ああ、お陰で朝餉をとれていないんだ」
「少ないけど、タチアの分は用意出来るから」
「感謝する」
俯いて腹部に手を当てているタチアから腹の虫の鳴き声が聞こえる、可哀想なのでリビングで先にスープを飲むように伝えて家に上げる。
「……んで、タチアに無理言ってこんな朝早くからなんで来るんですかね」
皮肉を込めてタチアの背後にいた3人組の代表、都市長にそう言った。
「あら、昨日とんでもない事を口頭で報告した挙げ句夜中にとんでもない報告書送ってきた貴方がそれを言うのかしら?」
口元を引くつかせながらそう言い返してくる都市長。
ため息を吐いている護衛役の騎士カラムス。
そして、タチアの保護者であるおっちゃん。
都市内でも有名どころのトップ3人が、完全装備で立っていた。
おまけ
強襲用魔導鎧『サーシアム』
体力 0
魔力 −100
技力 0
物理攻撃 +15
物理防御 +40
魔法攻撃 0
魔法防御 +25
速力 +40
移動力 35
特殊 『飛行』
タタラ・ジュロンが設計・製作する強襲用魔導鎧。
解析した浮遊石の反重力機構、天使族の飛行術式の併用により飛行を可能とする特殊な魔導鎧である。
液状化魔石燃料を使用した推進器と、風魔法の応用による空力操作によって短時間だけなら音速を越える事も可能。設計上、移動力は鎧が持つ物だけに限る。
タタラ・ジュロン式魔導鎧の常として『非霊核式稼動術式』『魔鉄』『形状記憶合金』『人造オリハルコン』等の希少な素材を使用しない設計である。
従来の魔導鎧と同じ希少素材を使用した上位モデルも存在するが、素材を集められるのは一流の者達に限られる。
この小説は……
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永遠と愛の絆
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寛容と一途な愛
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信念と翼
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鎚を包む花束
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誠実と誇り
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都市長いっとけ都市長
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年増園
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太陽の笑顔
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星の微笑み
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太陽と星
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娘さん、親父殿を俺にください