※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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行動選択パート

 リビングで少女と二人卓を囲み、朝食を摂る。トーストとハムエッグ、レタスと玉ねぎにプチトマトのお手軽サラダ、インスタントのコーンポタージュにミルクである。

 近くのパン屋で店主が小麦粉から拘った食パンは、表面に焼目を付けた事で芳しい香りを立たせ、その熱で溶かされ面を覆ったバターは甘い香りを寄り添わせてより食欲を誘う物と化した。ハムエッグの黄身は半熟、焼き方に拘り白身と黄身は完全に分けハムの上に先に白身を乗せ、ある程度固まった後に黄身を乗せ蓋をした焼き方だ。

 コレにより白身と混ざらず濃厚な味を保ったままの黄身を味わう事ができ、蓋をした事で起こる熱の対流で黄身にも軽く火が通りとろっとした食感を作り出す。熱を通す時間は十数秒、あくまでも半熟の状態を残すのが味の秘訣だ。

 味付けの為に卓上にはソース、ケチャップ、塩、塩コショウと調味料を並べる。因みに俺は塩派だ。トーストの上にハムエッグを乗せる、少女の口の大きさに合わせて薄めの8枚切りにした食パンがサクリと軽い食感を返しつつも簡単に噛み切れる。

 ハムの熟成された肉の旨味と馴染んだ塩気、そして白身のぷるりとした食感とやや淡泊な味わいに振り掛けた塩がハムの塩気と混じりいい塩梅を生む。

 更に大口で次々とエッグトーストを含み、遂に黄身に歯が届く。表面を覆う薄皮を破り、中から黄身が溢れ出した。少々行儀の悪い食べ方になってしまうが、溢れた黄身を皿で受けつつ唇を窄め黄身を啜る。

 熱を通した事で生の黄身よりも甘味を増した中にハムの塩味が効き、より深い味わいを醸し出す。余ったトーストで皿の黄身を掬い、残さず玉子を味わい尽くした。

 少女の方は千切ったトーストの後に切り分けたハムエッグをフォークで掬い交互に味わっていた。俺の行儀が悪い食し方に特に思う所は無い様で、潰した黄身にトーストを浸して同じ様に食していた。実はコレ、皿の汚れもある程度取れるので洗い物を楽にする目的も有ったりする。

 インスタントのコーンポタージュは変わらずとうもろこしの甘味を強く感じる。インスタントとは言っても料理に拘りのあるクラフターが個人で販売している物なので、少々割高だが味が良い。

 サラダは近くの栽培に力を入れているクラフターから。朝摘みで新鮮な物を定期購入で届けて貰った物だ。キャベツもそうだが、玉ねぎも辛味が少なく食べやすい、ドレッシング無しで止まらずに最後まで食べられる。デザート感覚で残していたプチトマトは酸味と甘味が絶妙で、口の中をスッキリとしてくれる。

 男である俺としてはやや少なめの量では有るが、多く取り過ぎるとこの後動くのに支障が出るのでこんな物で済ませる。少女の方は丁度良い量だった様で、両手で包むように持ったコップでミルクをチビチビと飲んでいた。

 

「で、今日はダンジョンに潜るのか?」

 

 半分程ミルクを飲んでから口を離したタイミングで少女に声を掛ける。昨夜の惨状を思い出したのか顔を顰める少女だが、レベルアップをしなければ階層を先に進めないことも事実、否が応でもレベルは上げなければならない。

 

「……レベルアップの衝動を抑える手段を探したい」

 

 俯き気味にポツリと溢されたのはそんな言葉、彼女はコレでロマンチストでもあり初体験に少し夢を持っていたのだ。自分の出自でぶち壊されたが。

 さて、衝動を抑えると言葉にするなら簡単だが、テキストデータ上でもそういった特性を持つスキルや装備は無かったりする。

 誘惑・魅了などの状態耐性での代用が出来るか否かと問われたら、俺は否と答える。外部からの干渉を断つ耐性や無効化と、内部から湧き立つ衝動を抑える効果では方向性が別物だ。

 

「そうは言っても、新しくスキルを取得するにも枠が無いだろ? 次に増えるのは5レベル先だぞ」

 

 スキルを取得するにも少女の初期スキルが圧迫している事と、枠が増えるまでの先の長さが問題である。

 少女の初期スキルは半ばバグと言える構成をしていて、基本ステータスの低さと戦闘可能なスキルが無い為にレベルアップが出来なかったのだ。少女の初期スキルは以下の通り。

 『魔力上昇Ⅰ』

 『魔力上昇Ⅱ』

 『魔力上昇Ⅲ』

 『魔力上昇Ⅳ』

 『魔力上昇Ⅴ』

 本来はレベルが最大になった時に解放される筈のランクが並んでいたのだ。初見はそのあまりの規格外さに驚いたが、問題はその多量な魔力を少女が戦闘にて使う手段が無かった事だ。

 拾った際の少女のステータスは以下の通り。

 レベル 1/50

耐久力  45

 魔力   100+51

 技力   25

 物理攻撃 5

 物理防御 5

 魔法攻撃 8

 魔法防御 12

 速力   20

 運    40

 移動力  4

 物理攻撃を伸ばそうとも元の筋力が低くナイフしか扱えず、速力は高いが回避でやり過ごそうにも防御力が心許ない。

 攻撃魔法を覚えようにも初歩の魔法を覚えるための魔法攻撃力にも届かない。

 未成熟ながら美しい見目をしていたから、あの場で拾わなかったら何処かの誰かに愛玩用として飼われた未来すら見える貧弱っぷりで思わず絶句したのを覚えている。

 そこで筋力を必要とせず、魔法攻撃力も必要の無い魔力弾頭型の魔導銃を渡す事に決めて作成したのが『ロニセラ』だ。

 起動の核として組み込んだ『高位悪魔族の霊核』と本体作成に使ったミスリルは少女の両親からの形見であり、少女のみが特殊能力である『魔法攻撃力が消費魔力✕2』という破格の性能を発揮出来るのだ。

 

「そうなんだけど、何とかしないとレベルアップの度にああなるのは問題じゃん」

「否定は出来ないが……」

 

 纏まったレベルアップの影響で昨夜はミイラにされかけた身として、対策を立てる必要性は分かる。しかし、彼女の母親である夢魔でも無い限りそういった衝動の制御に関して教授出来る存在が居ないのだ。

 もしかしたら、彼女の母親もレベルアップの度にバーラル氏から搾り取っていたのかも知れないが。

 

「原因が分からないのがな」

「いっそ次のスキルに『性魔術』取ろうかな……」

「勘弁して下さい」

 

 少女が悩みながら溢した言葉に思わず頭を下げて懇願する。それ、もしも対策に成らなかった場合俺が死ぬやつだと思うんですよ。暴走する夢魔の特性と性魔術とが相乗した場合、冗談抜きで干物の出来上がりだろう。

 ただ、可能性としては存在してはいるのだ。夢魔として正しい力を発揮出来ていないが故の暴走なのでは、と。

 それを証明する為には枠が空いた際に性魔術を取れば良いのだが、見当違いだった場合冗談抜きに死人が出る。主に俺が死ぬ。

 最悪、俺が死んだ後に暴走したまま周囲の男性を襲い始めでもしたら間違いなく討伐される。彼女の両親と出自の事は過去にこの街で問題になった事が有る、それが原因で同居する事になったくらいだ。

 

「取り敢えず、レベルアップもそうだけどスキルも上げたいし今日も潜るよ」

「分かった、俺は店で売り子やってるわ」

 

 少女の言葉にやや不安にはなるものの、またモンスターハウスにでも入らなければそうそうレベルが複数上がる事も無い。

 無いはず……無いよね?

 

「んじゃ、行ってきます」

「おう、行ってらっしゃいます」

 

 朝食の片付けを終え、少女を見送りその後ろ姿を見詰める。後ろ腰の辺りから伸びる小さな一対の蝙蝠の羽。悪魔族、夢魔族が共に持つ外見的特徴。

 夢魔族は羽が肩甲骨の付近から伸び、その大きさは飛翔を可能とする物だ。対して少女は肉体的に悪魔族の強靭さは無く、夢魔族に近い特性が発露している。だが、両種族が持って然るべきの飛行能力を少女は有していない。それはまだ20にも届かない年齢故に長命種としては幼年体であるからか、それとも他に何かしらの原因、例えば封印が施されているか。

 少女の衝動の解明の為、一度夢魔の身体を徹底的に調べる必要が有るかも知れない。彼女の人生を背負う事は『ロニセラ』を作成する時、あの霊核の持ち主との約束でも有るのだから徹底しなければならない。

 ふと、脳裏に過る数年前の記憶。徹底的に破壊された肌を剥がれ赤黒い肉を曝された悪魔族の亡骸と、凌辱され尽くし磔にされた美しい夢魔の遺体。高位悪魔族であるバーラルとその妻を辱める為に曝された、悪意に満ちた光景。

 バレない様に監視員が居なくなるタイミングを見計らい、バーラルの亡骸から霊核を取り出そうとした時の事だ。霊核に残っていたバーラルの遺志が遺された一人娘を心配して思念を伝えて来た。

 俺は少女を保護した後で『ロニセラ』作成の為に必要な最後の素材として高位悪魔族の霊核……正しくは『バーラルの霊核』が欲しかったのだ。その為に死体漁り等という冒涜的な行動を取らざるを得ず、その折にバーラルの残留思念と接触し遺言を聞き届けた。

 

 彼女が排斥されずに生きていける様に手を貸す、そんな小さな約束。

 

 過去に意識を向けた事で一人の知り合いを連鎖的に想起する、この世界の理を知り得る幼い頃からの知己。原作キャラの一人……と言うのも少し違う特殊な立ち位置で、直接的に物語へは関わらないがゲーム会社の作品群で皆勤賞という所謂マスコットキャラの一人。

 

「ゲームで完全ランダムな来店だったが、会えるかな……」

 

 口から愚痴にも似た言葉が漏れる。様々な場所に現れる故か、会いたい時に会えない超常存在的な側面を持っている相手なので会えない事の方が多い。ゲームをプレイしている時に関連イベントが発生せずに出会わず終わる事もしばしば有った程。

 今生初めて出会った原作キャラで、知り合ってから十年以上経つ間にもそこそこ顔を合わせている。が、向こうの都合が優先なので此方から呼び出せた事は無い。というか、連絡手段が無い。

 最後に武器の整備をしたのが半年前だった筈なので、運が良ければ1週間以内に会えるだろう。最悪は年単位で先だろうが。

 僅かな可能性に賭けて開店準備を始める。何方にせよ店を開かねば相手が来る可能性が無いのだし、大量に作り置きしていた傷薬や武具もインベントリを圧迫するので安くても金に替えておきたい。

 何気にゲーム中でも固定資産税が発生するし、店の規模で払う額が増えるので探索での収入だけだと意外に懐を圧迫される。両親から引き継いだ家でローンも払い終わっているが、中堅の探索者だった両親が土地と家を買って更に俺まで育てて居たのはかなり凄い事だったと店を開いてから分かった。

 

「今日はどれくらい冷やかしが来るかなっと」

 

 ショーケースの中に見た目だけは良い鋼の剣を飾る。刃に彫金を施し、式典での儀礼用として耐えうる格が有る。

 実戦での使用も一応耐えられるが、彫金の影響で刀身の強度が落ちている故に普通の鋼製の武器を求めて貰った方が良い。その横には別の武器を並べていく。ナイフ、メイス、手斧、魔導銃など比較的小さな物はケースの中へ、槍等の長物は壁に架ける。

 カウンターの壁には特殊効果付きの物を架けておく。これはモンスター素材等から作れる物で前世のゲーム知識全開で作らせて貰った、他店で売っている事は滅多に無いので当店の目玉商品として吹っ掛けられる。自分と少女には使えないので遠慮なく売っ払う、ウォーハンマーはそもそも人気が無いし自分用に作るだけで終るし少女は『ロニセラ』だけで今は十分だ。

 薬品類やアクセサリーはカウンターのケースの中、以前万引きされた事が有ったので警戒出来るように売る場所を変えて此処になった。

 最後に店内の床を魔導式の掃除機で綺麗にして、店内を見渡す。ケースに曇りは無く、商品の展示も穴は無い。コレなら小馬鹿にされる事はそうそう無いだろう。

 最後に扉の鍵を開け、扉に架かっている看板を裏返し【閉店】から裏返し【開店】にする。

 こうして今日も1日が始まる。




【バーラル邸の事件】
ゲーム『深く深い闇の先で』の中では発生していないイベント。
ただし、後年発売された『DAWN─深く深い闇の先でREMAKE─』にてテキストが追加された。この事件そのものに関わる事は無く、この事件が影響して生まれた追加ボスに関わる事柄。
一連のイベントはプレイヤーから『屈指の胸糞イベント』と呼ばれ、発売した会社にはお気持ちメールが大量に届いたそうな。

主人公とヒロインに名前って要りますか?

  • 両方に要る。
  • 両方とも要らない。
  • 主人公のは要らない。
  • ヒロインのは要らない。
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