既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
「朝早くに事前予告も無く来たんですから、お茶だけで我慢して下さいよ」
そう言って都市長達の前に紅茶を淹れたカップを置く。
それぞれが早めのペースで飲んでいる辺り、この3人も朝食を抜いて此処に来た可能性が高い。茶菓子の備蓄とか無いぞこの家。
「それで、わざわざ完全装備で此処に来るって何が有ったんですか?」
紅茶を飲むペースが落ち着いたのを見計らって問い掛けると、都市長が真剣な顔をして俺に視線を向けてくる。コレは、茶化しも冗談も一切なく緊急事態か。
「先ず、確認するわね。貴方が教えてる学園の後輩が、貴方の『鑑定』を覚えたのは本当なのね?」
最初の話題はそれか、都市内では確かに大き目のニュースか。
「ええ、本当です。精度はまだ低いみたいですが、確かに使えていました」
俺の言葉に都市長は喜色を滲ませた表情だ。俺の理論を持った人間を増やし、将来的に俺の特許技術を再現性の無い特殊技術から一般的なモノにまでする計画の第一歩と言えるのだから。
「問題は、性格的な面で魔鉄の精製に余り向かないことくらいですかね」
「……無学ですまんが、魔鉄を作るのに性格が関係有るのか?」
俺の報告に対して、おっちゃんが挙手をして質問して来た。
「多少は影響するかな。魔鉄を作る際には繊細な魔力操作が必須で、作業中は常に集中して一定の魔力を流し続ける必要が有るんだよ。ある程度忍耐が無いと途中で集中を切らして失敗、実際この後輩が魔鉄の精製に成功するまでに犠牲になったのは鉄のインゴットと魔石がそれぞれ18個ずつ。コレを多いと見るか少ないと見るかは別れるけど、マイナスが発生してる点は確実だよ」
「……タタラ貴方、失敗した事無いわよね?」
「意図しないところでは失敗してましたけどね、魔鉄を精製しようって思った時の失敗は無いですね」
まだ物質の中に存在する路の理解が低かった時、疑似魔法金属の精製実験中には何度も失敗した。路の概念を理解したのはこの失敗が有ったからで、インゴットを精製し直せば再度魔鉄への加工に利用出来る事もこの時に分かった。
「そういえば都市長は魔鉄精製出来ますけど、『鑑定』ってどうやってるんですか?」
「使用して無いわよ、貴方と同じ『概念鑑定』なんて使えないんだもの。探知系のスキルで魔力の通りを確認して、そこに最適な魔力を流して作ってるわ」
「その方法広めれば魔鉄の量産が出来たのでは?」
「貴方が作ったオリジナルの劣化品を増産して魔鉄だと言い張れって? 私のプライドが許さないわよそんなの」
作れれば、なんて簡単な話では無いか。俺はちゃんと調べて無いが、都市長産の魔鉄は俺の劣化品との事だった。曰く、俺の魔鉄に比べて1割は弱いとの事。その程度誤差だろう、等と思っていると設計上での耐久計算で穴が出るので結構ヤバい。
少なくとも、俺の作品でもタチアの鎧には採用出来ない。
「タタラ、貴方が教えてるのは二人よね? もう一人は出来ないのかしら?」
「今はまだ出来てないですよ、直ぐに出来るようになると思いますけどね」
「あら、勘かしら?」
「いえ、同族としての確信です」
エストは俺とよく似ている、あの負けん気なら次に会う時は俺の『鑑定』が使えるだろう。
「勘って言えるのは将来一般的に普及させるのは今使えてない方だと思ってる事ですかね、俺の理論を更に噛み砕いて伝えられるのはソイツだと思ってます」
「……それが本当なら、将来は安泰ね」
都市長が俺の言葉で溜息を吐いてそう言った。
「それじゃ2つ目、天使族の飛行術式……アレは何?」
「名前の通りの物ですよ。なんで解析出来たかは……あれ、この場で俺が鎧を作る相手の情報ってどれだけ共有されてるんです?」
「カラムスも知ってるわ……なるほど、解析元はそこなのね?」
「ええ、鎧の作成でどうしても天使族の翼の情報が欲しくて昨日庭で飛んで貰いました」
「それでこの世の未知を一つ解き明かすのはやめてちょうだい……」
天使族や夜闇の眷属の飛行に対して、実はよく分かってなかったのが現状だ。俺は少なくとも天使族の翼が持つ術式を解明した、尤もコレを天使族に知られると『主の御業を貶めた神敵』なんて認定される可能性も有る。割と綱渡りをしようとしてるが、タチアの為には必要が有る。
「この術式が有れば誰でも飛べるのか?」
報告書を指さしてカラムスさんが質問してきた。
「いえ、コレはあくまで翼が無いと効果を発揮出来ません。そういった構造の装備を作れればなんとかなるかも知れませんが、翼を動かす等の術式の制御にまだ問題点が多いです」
「なるほど、浮遊石との差別化はそこなのだな?」
「ええ、浮遊石は使用者にかかる重力を消し空中に浮かぶ物です。空中では引力に干渉して使用者の望む方向に動けますが、性質上高い速度域には対応出来ません。その点では飛行術式の方が優秀かも知れませんね」
一長一短である。解析して応用すれば装備重量を軽減出来る可能性が有る浮遊石、飛行可能な種族の補助翼として役割を果たせる飛行術式……何方にもそれぞれ需要が有るだろう。
「それで、その鎧よ。仕様変更書とか言って完全に別物送ってくるんじゃ無いわよ」
「基本設計や概念はそのままですよ、飛行術式が新規に追加した機構ってくらいですし」
実を言うと、初期からタチアの翼を解析させてもらって飛行のプロセスを再現するつもりだった。それを都市長には出来るかも分からないので報告しなかったのだ。完全に不意打ちになって申し訳無いとは思う。
タチアの鎧の設計図と説明を読んでいるおっちゃんは無表情だが、真剣に文字の一つ一つを読み込んでいるのが分かる。育て親として、娘の未来に関する事だから真剣に向き合っているのだろう。
「……坊、鎧について幾つか聞きたい」
「いいよ、言って」
「装甲の薄さが目立つが、防御力はどうだ?」
「だいぶ前に作った構造でね、物理攻撃30前後の魔導銃と弓矢じゃ傷も付けられなかったよ。それ以上はちょっと手持ちの装備だと調べられない」
「近接戦闘は?」
「打撃系相手だと50前後は普通に耐えれた、斬撃は流石に傷付くけど曲面加工の影響で耐えられる」
「……タチア自身と比べるとやはり軟だな」
「それはタチアが硬すぎるだけじゃね?」
「確かにな」
俺の言葉におっちゃんが笑う、少ししてから質問を再開してきた。
「このインナーマッスルスーツってのは何故こんなに身体の線が出るんだ?」
「身体に張り付く構造っていうのと、動きを可能な限り阻害しないって目的で」
「身体の線が分からないようなサイズの大きい服はダメなのか?」
「わかってると思うけど、戦ってる最中に掴まれたり引っかかったりする可能性も考慮すると此方の方が良いんだよ」
「……タチアの身体を見るためでは無いな?」
「俺はエテル以外に興味ないよ」
「ふっ、熱愛だな」
何処か優しさと懐かしさの混ざった声だ。おっちゃんは俺の両親を知っているから、俺と父さんが重なったのかも知れない。子供ながらに見ていて仲の良い夫婦だったし。
「坊、前にタチアの翼を認めさせる物を作ると言ってたな」
「ああ、俺なりにコレなら出来ると思った」
「俺もこの鎧の技術は認める。しかし、だ。まだ弱い」
「この鎧からタチアに翼が生えてるに至った理由について、かな」
「ああ、人の手で作られた魔導鎧から着用者に翼が授けられるなんて事案は前代未聞。多くの人間は着用者が元々翼を持っていたと判断するだろう、そこはどうだ?」
おっちゃんの言葉に、俺は一つ息を吐く。やはりその問題にぶち当たるか。
「正直に言うと、そこを解決出来てない」
「……やはり、か」
「俺の知り合いに天使族が居るなら、タチアを認められた英雄として天使族から祝福を受けた影響ってゴリ押せたんだけど」
「坊には都市外のコネが無い、か。虎熊嬢もまだ故郷に帰ってないから、異国の術というのも通じない」
「うん、そこで都市長達に相談したかったんだよね」
俺とおっちゃんの会話から意図を察した都市長とカラムスさんも考え始める、最初に手を挙げたのは都市長だ。
「タタラが天使族から祝福受けたって設定は?」
「そもそも天使族に知り合いが居ないし、祝福受けた人間だからって他人に天使族の翼を生えさせるのは無理じゃかいか?」
一応、天使っぽい知り合いは一人居るにはいるけどね。あの人はそういった地上での特別扱いってのをするのもされるのも嫌う、専属クラフターみたいな立ち位置に居るが俺の人生については関与しないだろうと思われる。
次に手を挙げたのはカラムスさん。
「我が軍神様の教会から天使族を派遣して貰い、洗礼を受けさせるというのは?」
「悪いが、タチアを宗教関連へ所属させるのは無理だ。アイツの血が邪魔をする」
タチアに流れる血が何処の王家かは分からないが、国教を持たない国なのかも知れない。その場合、確かに庶子とはいえ血に連なる者が入信してしまったら特大の問題に繋がるだろう。
「おっちゃんの知り合いに天使族とかいないの?」
「居るにはいるが……祝福出来るような位階じゃないぞ?」
「え、8位くらい?」
「10位だ、空を飛べるだけって言える力の弱さだ」
「うわぁ……」
思わず頭を抱える。頼みの綱だったおっちゃんの知己に頼れないのは痛い。
「いっそ、タチアの親に……って無理か」
「坊、何故無理だと?」
「男女は分からないけど、もしタチアの事を分かってたのなら側に居るだろうと思ってね。『ワールウィンド』に一度も降りて無さそうだし、そもそも位階がどうなのか分からない」
俺の言葉におっちゃんは真剣な表情で考え込んでいる。いや、まさか?
「おっちゃん、タチアの親が何処にいるか知ってるの?」
「ああ、ただちょっとな……」
都市長が言ってた厄ネタ、もしかして本気でヤバいヤツじゃ。
「答えられないなら良いけど……その天使族って今も地上に降りてて、かつ『ワールウィンド』が所属してる本国と敵対してたりする?」
「「「……」」」
俺の質問に3人が沈黙で返してくる。どうしようもない厄ネタで胃がキリキリと痛みだした。
「なんでそんな相手に祝福頼めるか悩んだのおっちゃん」
「国家間は敵対しているが、天使族の尺度で言うなら関係が無いからだ。娘を祝福する為に他国の都市に降りるくらい何とも思わないと思うぞ、あの女」
タチアは母親が天使族だと。父親が公爵家の貴族ってことは、火遊びとかおいた案件か……厄ネタ過ぎんだろ。初期のタチアが歪んでた理由が見えた気がした。
「取り敢えず坊、天使族の件は俺が受け持とう」
「……いいの? 俺は前に一度拒絶してるけど」
「あの時に形振り構わずタチアの味方に成れない親なんぞ信用出来るかって話だ、鎧の出来を見てからの判断なんざ恥でしかないが……俺も彼奴の親父殿なんでな」
「……分かった、任せるよ。それと、タチアは立派な騎士として成長出来てるよ」
「それは坊達とのダンジョンアタックが切っ掛けだ」
「切っ掛けはそうでも、そう育つ土壌はおっちゃんが築いたんだ。誇っていいと思うよ」
「……そうか」
俺の言葉に万感といった具合に息を吐くおっちゃん、子育ての大変さを垣間見たような気がする。
「んで、コレが一番の問題になるんだけどさ……」
「ジュロン、皆まで言わずとも分かる」
「本国には虚偽の報告をしなきゃならないのよね、バレたら縛り首かしら?」
「都市長の場合は反逆罪に取られてもおかしくないからな、一番優しくてソレだろうな」
流石に問題が大き過ぎるか、都市長は俺の後楯にもなってくれているし計画を変えるべきか。
「とはいえ、それは何の成果も無い場合よ」
「え?」
都市長は俺と説明書を交互に見て、言葉を続けた。
「都市外でも解析が進んでない術式の解明が多数、現時点で再現性を疑われるクラフトの数々……それらを作り上げる人間の鎧が関係した新規技術。与える相手が厄ネタのハーフである事を隠してでも国益になる人間を囲い込みたがるでしょうね、最年少で工匠長に就任するなんて話まで届いたのなら本国から嫁候補を送られる可能性すら出るわよ」
「俺、エテル以外と添い遂げる気無いぞ?」
「はいはいご馳走様。でもね、国のお偉方は貴方個人の事情なんて殆ど汲んでくれないわよ」
「その場合、虎熊の実家に逃げ込もうかな……」
「逃がすわけ無いでしょ、私がカラムス引き連れて取り押さえるわ」
「本気で逃げ道が無い……」
都市長との会話で思わず頭を抱える俺。そんな俺の背中にそっと手を添えて来る人が一人、おっちゃんだ。
「坊……」
「おっちゃん、助けて」
「覚悟を決めろ。それは、お前の人生だ」
「行き止まりじゃねぇか」
都市最強格二人が実質敵って地獄じゃねぇか。エテルと静かに暮らしたいのに世界が許してくれそうにない……いや、工匠長を打診された時点で今更か?
「それで、ここからが私達の本題よタタラ・ジュロン工匠長」
その言葉で、空気がピンと張り詰めた。まだ就任していない俺を“都市最高のクラフター”として扱う意味、背筋が粟立つ感覚がした。
「……『ワールウィンド』で何が起こるんですか、都市長」
緊張で口の中が渇く、紅茶を一口飲めば冷めきっていた。
「先ず、以前ローガスが伝えた本国の視察団が来る話を覚えているわよね?」
「えぇ、当然。タチアの鎧もその式典に参加する為に依頼を受けた物ですし」
「正式な日時は?」
「それに関してはまったく」
「そう……視察団が来るのは再来月の頭に決まったわ」
「約一ヶ月後ですか……それで、何が予想されるんですか?」
この3人が完全装備という事は、此処に来るまで……または帰り掛けに何かしらのトラブルが想定されたという事。おっちゃんは常に鎧を身に着けているが、カラムスさんが鎧姿というのはかなり珍しい。この人、基本的に攻撃見切って1cmで避けるとか突き詰めてミリ単位とかやるからな……被弾する姿が浮かばない。
そんな人が鎧を身に着けるというと、被弾覚悟……都市長を守って身を曝す可能性が存在するという事だ。
「……タチアの通う騎士学校、その生徒の暴走が予測される」
重々しく口を開いたのはおっちゃんだった。愛娘の通う学校の暴走、いやこの場合はもっと適切な言葉がある。
「学生によるテロリズムが予想される、と?」
「視察団には王族が居るとの噂だ、おそらく目的は王族の確保とソレを札にした交渉だろうな」
「何を交渉するのかはわかりますか?」
「そこまでは掴めていない。が、タチアをあんな風に洗脳して選民思想に陥れるような奴等だ……下らない不平不満だろう」
忌々しく吐き捨てるおっちゃんの姿に、内心ガチギレしてるのが分かった。マジで騎士学校が危険思想の蠱毒だったパターンかよ……アレ、半分冗談で言ったのに。
「事前に潰せないの?」
「決定的証拠が無い、疑惑だけで捕まえたらこの先冤罪が溢れかねん。現行犯でしか無理なのだ」
俺の言葉にカラムスさんが答えてくれる。確かに一度やれば虚偽の申告で無実の人達が陥れられるかも知れないし、騎士になるのは庶民よりも貴族の子息が多い。下手をすれば政治的に面倒事が起こるだろう。
「俺から坊に依頼が有る」
「……もしかして、ダルマさんの斧?」
「そうだ。以前此処で魔鉄の斧を見たが、ダルマにとっては小さいって話でな。コレまで使っていた物に近いバランスは製作依頼品って聞いたから頼みたい」
「素材については聞いた?」
「ああ。鉄のインゴットと小型の魔石を9個ずつ、確かに用意している」
そう言っておっちゃんは自分のインベントリからインゴットと魔石を9個ずつ取り出す。
「それと、コイツも使ってくれ」
更に一つずつインゴットを取り出す。
「……ミスリルとオリハルコンまで使うって、相当じゃん」
「悪いが、坊も分かるだろうが俺達探索者は基本対人戦闘に慣れていない。少しでも武具の性能を上げて置かなければ生命に関わる」
「……使い方は?」
「ダルマ曰く“坊に任せる”との事だ」
豪快に笑うダルマさんの顔が思い浮かぶ、信頼が重い。けど、だからこそ誇りを持って鎚を振るおう。
「分かった、受けるよ。残念だけど前の斧そのままは無理だよ?」
「そこまでは求めて無いが……出来たりするのか?」
「物を一度でも『鑑定』すれば頭に構造は入るし、使ったのを持ってきてくれれば消耗から癖を読み取れる。より最適な武器にしたいんだったら、愛用の装備を一度でも整備に持ち寄って欲しいかな」
「……改めて坊が工匠長になる理由を見た気がする」
おっちゃんが額に手を当てて溜息を吐いた。もう俺が普通とは言わないが、これくらい出来てこそこの過酷な世界で足掻けると思ってる。この都市内でどれだけの工房が存在していて、生き残る為にそれぞれがどれほど日々得意分野を磨いているかおっちゃんも分かっている筈だ。
その代表を張れといわれた俺が、その人達の研鑽の結果を越えて無ければ名折れだろう。
「今日依頼して、出来上がるのはどれくらいだ?」
「今から始めて1時間で渡せるよ」
「……すまん、1週間か?」
「いや、1時間」
「……」
「ローガス、ジュロンが武器を打つのなら本当にそれくらいで終わる。私の剣ですら3時間で形にして持って来たからな」
「意味不明過ぎる制作時間だな……」
「それでいて仕事は完璧だ、これが次の工匠長だぞローガス」
「……発想の天災なのかと思えば純粋にクラフトの天災とはな」
時間を聞いて頭を抱えるおっちゃん。で、何時までに仕上げればいいんだろう?
「……急ぎでは有るが、今日はタチアの鎧も調整するのだろう? 少し早めに余裕のある時に頼む」
「分かった、明日の朝に取りに来て」
「余裕とは」
タチアの鎧自体は出来ているんだから、後は術式の調整で済む。何なら午前中には終わる可能性すら有るからな。
「何ならタチアの様子を見てる? 心配なんでしょ?」
「……俺はあの時、協力を悩んだ。だから、今はダメだ」
「……そっか」
「式典を楽しみにしてる。タチアの晴れ姿だ、立派な騎士に仕立ててくれよ?」
「分かってるよ。俺達のパーティにとってもタチアは最高の仲間なんだ、恥ずかしい格好はさせないよ」
「そうか……ああ、安心した」
胸を張って答えた俺に、おっちゃんは笑みをこぼした。
「にゃぁぁぁぁぁあぁ!? 離せエテもごっ!?」
そんなタイミングで虎熊の物凄い悲鳴が聞こえてきた。結構長く話していたつもりだが、随分と遅く起こしに行ったな彼奴。
「ヨヒラ殿! 如何し……何だあのサイズ!?」
続いて聞こえてきたタチアの声。なんだろう、今行くのはダメな気がする。
「何が有った!?」
「おっちゃん、ステイ」
「外交問題か!?」
「カラムスさん、ショッキングな場面に出くわすから座ってて」
「……いやに冷静ね?」
「だいたい予想付きますしね、状況」
多分、エテルが寝惚けて虎熊を抱き寄せた結果胸に埋まってるんだろう。タチアもエテルの大きさをちゃんと見るのは初めてなんだろう、昨日の虎熊と似た反応してるし。
つまり、おっちゃん相手にエテルのそんな姿は見せられないし都市長とカラムスさんはショックで壊れる可能性が有るので向かわせられないのだ。
「取り敢えず、他に話は有りますか?」
「……いえ、これ以上は無いわね。この概要書その他持って行くけど」
「まぁ、その為に書きましたし。特許申請をお願いします」
「分かってるわ……本当、貴方卒業までに幾つ特許増やすのかしらね?」
「そう言われましてもね、卒論として新しい理論も立てなきゃいけないし大変ですよ」
「……貴方、普通に今からでも卒業出来るのだけれど?」
「はは、変な冗談はやめて下さい」
入学の時点で言われていた冗談をこのタイミングで言うのは何なんだろう。学園にスキップ制度は無かったし、前例も無いから都市長でもゴリ押し出来ないだろそんなの。
「それじゃコレで失礼するわね。くれぐれも準備を怠らないでね? それと、各工房に傷薬の提供依頼が出ると思うわ。納品出来るように備えて」
「現時点で5000個は納品出来ますけど」
「数字がおかしいだろ……」
おっちゃんが俺の言葉に思わずこぼした。実は毎度買いに来る成金さんの驚いた顔が見たくて隙が有れば増やしていたりする、毎度開店で一番に来てくれるし良客である。
「……取り敢えず、今のうちに預かっておくわね」
「はい、ではそのまま送りますね」
差し出された都市長の手に触れて、俺のインベントリから傷薬5000個を都市長のインベントリに送る。インベントリからインベントリに直接物を送る際にはこうした接触と相手の許可がいる……こんなのは基本使わない事だけどな。
「……本当に5000個有るわね」
「商品について嘘は吐かないですよ」
「坊、店で売る分はいいのか?」
「まだ1500個は残してるから大丈夫」
「6500個も売るつもりなのかお前は……」
「いや、災害時に必要ってなった時の為」
「なんでそんな意識高いんだお前は」
そりゃ、前世は災害大国の出身ですから。携帯用トイレとか缶詰に水や塩とか備えてるし、エテルには生理用品をインベントリに多く入れておくようにも言った。真っ赤になって怒られたが、被災時の備えについて話したら真剣な顔で色々インベントリに入れるのを見た。緊急時用のテントなんかも持っているし、実は店で販売なんかもしてる……売れてないが。
「タタラの意識を他にも持ってほしいけれど、高望みね」
「一度この『ワールウィンド』に地震でも起きればみんな備えますよ」
「地震なぞ起きたら終末だろう……」
そういえば、この大陸だと前に大きい地震が起きたのは300年ぐらい前って資料にあったな。『ワールウィンド』では地震というよりもダンジョンの異変が主だったみたいだけど、小規模なのが発生している。それでも直近で揺れたのは10年前とかそんなだ。
「それに、今回みたいな場合にも備えてましたからね」
「戦争の可能性が有ると思ってたの?」
「今は落ち着いて見えますけど、本国はまだ緊張状態を続けてるって前に外交役員の人から噂程度に聞きました。なら、都市内の1/10くらいはうちで賄えるようにって備えるつもりではあります。今回ガッツリ減りましたけど」
『ワールウィンド』の人口は大凡10万人前後と設定されている。ダンジョンで亡くなる人もそこそこ居るし、都市へ入る人間と出る人間も合わせてその辺りの数字を行ったり来たりしているそうな。ゲームでは原作開始前に少し大きな事件が有り、そのせいで人口が20%前後減ったと台詞が有った。
その理由の一つに含まれていたのが医薬品の不足。必要な分が賄えなかったと説明が有りこの時の後遺症で都市長の筆頭騎士……つまりカラムスさんが戦闘力を大幅に低下させた事が語られている。更に、都市運営の『長』の一人である『防衛長』も辞める事態に陥っていたらしく『ワールウィンド』の治安が悪くなったと語られていた。
更に言えば、この事件が原因で敵対国家から一人の天使族がやってきて戦争の一歩手前までいくイベントが原作に有った。なんとか原作主人公がその天使族を力で下した後に性的な意味でも説得にかかりなんとかなったが、その時の被害も洒落にならなかった。
生憎、ゲームテキストでは原因となる事件の詳細を知る事が出来ず対策らしい対策は立てられなかった。が、傷薬は数を揃える事が出来る。今回で5000個を持って行かれたが、半月も有れば補充は出来る。また地道に増やして行けばいい。
「医療ギルドと調薬ギルドがクレーム入れかねないな」
「医療ギルドは文句言わせないわよ、タタラの傷薬で助かる生命があるんだもの」
「調薬ギルドには俺が傷薬以外作れない事を伝えて下さい、それで溜飲は下げると思いますよ」
「……何かとんでもない回復薬とか作ってない?」
「魔石で薬効強化は試しましたが失敗しました、流石に魔力も万能じゃなかったです」
「試しはしたのね……」
そんな会話を最後に、3人は離れて行った。
実は薬効が強い傷薬自体は作れたりするのだが、コストが30倍で効果が10倍ついでに薬物依存リスクが50倍という危険極まりない代物で流石に都市長にもこんな劇物は報告してない。『鑑定』では【極濃回復薬】と出たので一応過去に存在はしていたらしい、癒しの乙女が祝福していない回復薬としては最上級の物だが安易に人へ使えないのでレシピと研究資料は破棄した。尤も、頭の中には残っているし『クラフト』スキルで作り出せてしまうのだが。
リビングに戻ると、不機嫌気味の虎熊を宥めるエテルと苦笑いしているタチアが席についていた。
「悪い、待たせた」
そう声を掛けると、3人が一斉に此方へ目を向けてきた。
「おはようタタラ」
「おはようエテル」
寝間着姿のエテルが朝の挨拶をしてくるので、俺も挨拶を返す。今は服装は整っているが、タチアが悲鳴を上げた事から起き抜けは酷かったんだろうと予測する。実は俺、エテルの寝起きでまともな姿を見たことが無い。俺が貸したシャツだったり、互いに行為後で裸だったりと俺の前で普通に寝間着だった事が無いのだ。各自が自室で寝ていた場合、基本俺より先に起きて朝食作ってたりするしな。
「タタラ、エテルの抱き着き癖の事は先に言うのじゃ! お陰で窒息死するところじゃったぞ!!」
「いや、俺の場合抱き寄せられたらそのままキスしたりその先にいったりとするから警告が……」
「夫婦仲は宜しいようじゃな、朝からご馳走様じゃ!!」
怒るのか満たされるのか何方かにしてくれ、俺とエテルのエピソードなら何でも良いのかお前は。
それから虎熊は箸を幾つか手に取り、何度か試して一膳に決めたようだ。
「よく箸が有ったの、此方では見ないので無いと思っておったのじゃ」
「いや、無かったぞ? この前の探索で大量に余ってるオーク材で作ったが、納得する出来のが無いなら作るぞ?」
「何故知っとるんじゃお主は……」
呆れ気味だが、虎熊は既に俺だからで納得してる気がする。
俺も自分の手に合わせて作った箸を取る。
「まぁ冷めちゃったけど、いただきます」
「「「いただきます」」」
俺の音頭に続き3人も挨拶をした。俺は最初に玉子焼きを一切れ取って口にする。芯とも言える部分は半熟を保っていて、トロリとした卵黄が舌に馴染む。出汁では無く塩で味付けされた故に控えめながら卵そのものの味を楽しむ。
「そういえば虎熊、玉子焼きって塩でいい派か? 白出汁が無いから出汁巻きは兎も角、甘いのがいいって言うなら次から砂糖にするが」
「むん? んぐ……いや、塩加減もいいしこのまま塩がよいのじゃ。砂糖は……偶に、お願いするのじゃ」
「分かった。交易始まったら鰹節とか味噌とか米とか買えないかな、流石に虎熊も此方の飯ばっかりは辛いだろうし」
「父上に聞いてみよう、醤油や味醂は妾も恋しいしの」
軽妙に会話を続ける俺と虎熊。そしてそんな俺達の手元を見て目を見開いているエテルとタチア。
「……2人共どうした?」
「いや、どうしたって言うか……」
「その2本の棒で器用に食べるものだなと、関心していた」
言われて普通に箸で食べていた事を思い出す。そういえば箸って文化が無い『ワールウィンド』じゃ異様かこれ。
「普通に流しておったが、何故タタラは普通に箸を使えておるのじゃ?」
「そんなの、俺だからだ」
転生について誤魔化す為に適当な事を言った。この言葉でツッコミが入ると思ったら3人に納得された、解せぬ。
「食べ終わって一服したら、タチアの鎧の調整を始めよう」
「ああ、今日もよろしく頼む」
「それと、タチアの鉄製武具を考えよう。一応、決まりだからな」
「うむ……タタラ殿、実は決めているのだがいいだろうか?」
予定を立てている間に、タチアが要望を伝えてくる。
俺も真剣にその言葉を聞こうと箸を一度置く。
「盾を。
「承った、最高の逸品を打ってやる」
一般的な店の傷薬在庫 300〜500
フォルジュロンの傷薬在庫 1500〜
この小説は……
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永遠と愛の絆
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寛容と一途な愛
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信念と翼
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鎚を包む花束
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誠実と誇り
-
都市長いっとけ都市長
-
年増園
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太陽の笑顔
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星の微笑み
-
太陽と星
-
娘さん、親父殿を俺にください