既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
タチアから正式に盾の製作依頼を受けたが、先ずは鎧の完成を目指す。時間はあと一ヶ月有るが、可能な限り早く仕上げる必要がある。タチアが鎧に慣れる時間を作らねばならない。
食後、15分程おいて庭先に立つ。タチアは服の下にインナーマッスルスーツを着てきたのか、部屋も借りずに気付いたら着替え終わっていた。長袖&パンツルックだからってよくやれたな。
「それじゃ、早速やっていくか」
「応、最初は何をしていこう?」
「先ずは完全装備状態での通常行動からだな。先ずは歩いて庭を3周、その後駆け足で3周して欲しい」
「分かった」
足元に目印を用意して、タチアをその場に立たせる。
「用意……始め」
「!!」
俺の号令に合わせてタチアは歩き出す。通常の状態なら2分半程で3周回りきれる程の広さしか無い庭だ、『鑑定』をしていても負担は少ないしエテルとの御呪いの条件には引っ掛からない。
身体の動きを意識したタチアの歩行は、強化術式の影響で早い。タチアは一周を様子見にして、二週目からは普段の動きに切り替えた。3周を終えるのに2分丁度、人工筋肉の動きや発動している強化術式に不備は見えない。
「タチア、歩いてみた上での違和感は?」
「全身に力が張っている感覚がするな、一歩踏み出すだけでも身体が跳ね上がりそうだ」
「駆け足は出来そうか?」
「一先ずはやらせて欲しい、今の状態での負担を見たいのであろう?」
「うん、頼む」
「任されよ、私はこのパーティの盾……『ワールウィンド』で最も硬い存在だ。信じてくれ」
「ああ、信じてるさ」
俺の言葉にタチアは口角を上げるニヒルな笑みを返してくる、おっちゃんの笑い方だ。やはりこういった所は似てるな、親子だと感じる。
俺の号令で今度は走り出すタチア、一歩目でつんのめったが立て直し難しい顔をしながら一周する。そこからペースが安定せず3周を終えた時間は一分強、どうやら強化術式以上に人工筋肉が過剰に作用しているらしい。
「タチア、少し調整する。もう何度か歩行を試して貰うと思う」
「分かった……なんというか、出そうとした足のイメージからもう一歩分前に出るように感じた」
「ありがとう、そういった意見が有るなら出してくれると助かる」
そこから脚部の人工筋肉の反応に手を加える。一歩分前に出ると言うが、『鑑定』をしている感じだと出力過剰と言うよりも各人工筋肉のバランスの問題に思えた。張り方と言うより、緊張と脱力のバランスとでも言おうか。全部位を一定出力のまま強化し続けているらしく、そのせいで脚を止める側の筋力が前に出す筋力に追い付いて無いと思える。歩行に関する出力関連の術式を一旦解体し、『鑑定』で得られた情報から配分を少し調整して入れなおす。
「……これで試してみてほしい」
「分かった、先程と同じ歩行3周駆け足3周でいいだろうか?」
「ああ、それで頼む」
タチアが一つ頷いて了承し、先程と同じ位置に立つ。俺の号令と共に再び歩き出すと、先程よりもスムーズに脚が動いている様子だ。普段のタチアの足運びより心持ち早いだろうか?
3周を終えるのに2分弱、最初の状態よりも動かしやすい様子だ。続いて駆け足を試して貰う、先程とは違い表情に険しさは無い。つんのめることも無く走り出し、庭を3周する。時間は一分弱、先程とは比べ物にならない程に綺麗な動作だった。
「脚はこれで大丈夫そうか?」
「ああ、長距離走は分からないが短距離ならまったく問題が無い。流石はタタラ殿、一回の調整で問題を無くすとはな」
「煽てないでくれ。それじゃ、次は武器を持って型を一通り頼む。一応、木で出来た人形を置くからコレに向って実際に打ち込んでくれても構わない」
「ああ、私もどれだけ威力が上がってるか気になっていたんだ……ようやく試せる」
タチアの表情は獰猛な物になっている、俺としては脚から腰に掛けての連動に対して術式がついて行けるかが課題に思えている。
先ずはエストックを構えて、ゆっくりと身体を動かしていく。基本の中段突き、顔を狙う上段、脚を狙う下段と身体の動きを確かめながら綺麗に型をなぞる。更に上空への迎撃としてより高い角度への突きや、仮想敵の武器を弾く動作等を試していく。俺はエテルとの約束を守り、2分程で分けて『鑑定』でスーツの内部稼働を見続けている。魔力の流れ、人工筋肉の動きを見ながらタチアの動きにより最適化させる術式構成を脳裏に描いていく。
一旦タチアに止まって貰い、術式を調整する。完了した後に更に試して貰うと、タチアの動きがより洗練されていた。
「……驚いた。技が出しやすい」
「タチアの無意識な動きも見させて貰ったからな、それに合わせた」
「ふふ、もうタタラ殿以外の武具は使えないな」
「おっと、専属クラフターを裏切るつもりだったのか?」
俺が冗談めかして言えば、タチアも悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「腕が未熟なら、離れるだろうさ」
「なら、研鑽を怠れないな」
元から怠るつもりは無いが、この手の発破は気合が入っていい。
タチアは木人形の前に立ち、ゆっくりと型をなぞる。的確に急所を穿つ位置に鋒を当て、引くを繰り返す。少しずつ速さを上げ始めるタチアだが、俺の目は『鑑定』で異常を捉え始めた。タチアの技の速さに対して人工筋肉の反応が遅れ始めている、ソレを見た瞬間にタチアを停める。
事情を話して再び調整を開始、特に使用する人工筋肉への指示を早く伝える為に術式を単純化させて反応速度を上げる。
調整を終えてタチアが再び型をなぞり、速度を上げれば鋒が残像を残し始める。
「た、タタラ殿? コレ、危なくないか?」
「ヤベェな、最適化させたとはいえ虎熊の剣閃に近い速度だぞ」
漫画でしか見たことが無い残像で無数の剣が相手に迫るなんていう光景を、生で見るとは思わなかった。まるで流星群の夜を思わせる光の奔流は美しさすら感じる。
「ふむ、妾としてはまだ対処可能な速さでは有るがあの速度で突き入れられたら中々反応が難しいかも知れぬの」
「トラッちゃんのお墨付きかぁ、タチアも立派に火力要員になれるね」
「……所でエテル、妾の剣閃は見えるのかの?」
「え、うん。タチアのもそうだけど普通に避けられる速度だよ?」
「此方も中々規格外じゃの……」
タチアの動きを見た虎熊とエテルが会話をしているが、エテルのヤバさが分かった様子だ。俺、普通に防御固めるしか対処が出来ないんだが。
「力だけでなく動きそのものが速くなった故に前より明らかに強くなったのが分かる……この鎧、量産したら世界が変わるのでは?」
「研究が進んで強化が進んだらそうかも知れないが、コレ着ておっちゃんやカラムスさんに勝てる自分の姿が思い浮かぶか?」
「……無理だな」
正直、あの二人は規格外の戦闘力だ。が、あの手の実力者がゴロゴロ居るのがこの世界だ。高々1都市で実力を示しても外の世界には同じかそれ以上が居る。俺のコレも魔導科学が最盛とされている魔導公国では中堅に届くか怪しいレベルの可能性すら有る、慕ってくれる皆の為に世界最高のクラフターと認められる努力は欠かしたくないな。
「それじゃ、遂に本番だな」
「……ああ、既に緊張している」
やや震えているタチアの手を見る、鎧越しに動きが分かる程の震え。今迄に無い装備状態での飛行、更には碌な調整も出来てない補助翼付きだ。緊張しない筈が無いだろう。
「バランスを崩して落ちた場合は虎熊に任せて大丈夫か?」
「うむ、受け止めよう。しかし、エテルと共に飛べば空中でも支えられるのでは?」
「あ、そっか私も手伝えるね」
そうして、タチアと共にエテルが飛び万が一に備えて虎熊が控える形になった。一応、スライム素材で衝撃を分散させる安全マットを用意したがこの上に落ちなかった場合は虎熊の出番である。
「それじゃ……タチア、頼む」
「分かった」
タチアは己の翼を広げる。それに合わせて鎧の補助翼も広がり、魔力が流れタチアの翼と同じ色に染まる。その翼を羽撃かせた瞬間、タチアの姿が消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
遥か上空からタチアの悲鳴が聞こえてきた。まさか、一度羽撃いただけで姿が掻き消える程の速度で上昇するとは思いもよらなかった。真ゲッ◯ーみたいな加速力である。
「ち、チーちゃん!?」
慌てて翼を羽撃かせて飛翔するエテル、速力上昇と移動力上昇の影響で此方もタチア並……いやタチア以上の速度で空に上っていく。エテルも大分おかしいな?
「……タタラ、流石に反省せよ」
「はい」
術式解析したはいいが、補助翼に回す魔力が過剰だった。単純にタチアの翼が3倍になったと仮定するならそりゃ制御不可だなと思い直し、降りてきたら謝罪しようと決める。
「チーちゃん、大丈夫?」
「正直、雲の上に出た時は死を覚悟した……」
十分後、エテルがタチアを支えながら降りてきた。上昇の勢いで下降も出来ず、出力を調整してゆっくり降りてきたのだろう。本当に申し訳ない事をした。
「タチア、すまない。補助翼の出力調整が甘かった」
真っ先に頭を下げて謝罪する、出来上がったはいいが本当に調整出来てなかった。
「いや、私も興奮し過ぎてて力を込めすぎた」
タチアの説明では何でも力を普段よりも入れて翼を動かしたとの事、それでも本人曰く普段の5倍は速度が出ていたらしいので早速翼に回す魔力の調整を始める。取り敢えず出力を1/10にして再度飛んでもらうと、視認が可能な速度で宙に舞う。『鑑定』を続けるが魔力と人工筋肉の動きはある種理想的であり、羽撃く姿は美しい。宙空で留まる事も問題は無いが、ややタチアの表情は苦しそうだ。
「少し、翼の負担が大きい」
降りてきたタチアが真っ先に言った意見だ。取り敢えず、現状の2倍の出力に翼を設定して飛んでもらう。最初程の加速は無いが、相当な速さで空に上がるタチア。降りては調整を繰り返し、最終的には元の出力に対して1/7で落ち着いた。
此処からはタチアに自由に動いて貰い、意見を受けて調整を繰り返す。空中戦における出力調整など未知の領分でワクワクしながら調整をしたりと、とても楽しい時間だった。
「コレで、完成か」
「一先ずの完成だな。浮遊石の解析が終わったら応用してより装甲を厚くするなんて強化も施せるから、楽しみにしていてくれ」
「ふふ、勿論楽しみにしているさ」
調整を始めて約3時間。カラムスさんの『フィエルテ』を作成したのと同じくらいの時間で出来上がった事に驚きであるが、向こうは形を整えたら後はカラムスさんが武器に合わせたからあの時間で済んだのだと思い直す。普通に使いこなしているあの人はやはり化け物の一人だろう。
「タタラ殿、この鎧の銘はなんだろうか」
「え、銘?」
「うむ、共に騎士として歩む相棒なのだから銘は知っておきたい」
「銘、ねぇ……」
思えばエテルの『ロニセラ』は自然と名前を付けていたが、カラムスさんの『フィエルテ』等誰かに贈る武具へ俺は基本名前を付けていない。
「タチアが付けてやってくれ、俺はその辺のセンスがダメだからな」
「え」
「そうなのか……」
俺の言葉に一瞬エテルが反応した気がした。『
「私も思い浮かばないな……タタラ殿、仮に付けるとしたらどんな名前にする?」
「え、それは……」
何かこの流れは前にも有った気がする。
「うぅん……『アーラ』、とか?」
「ほう、意味は?」
「古代語で翼、まんまだけどな」
「それならこの鎧は『アーラ』でいいだろう、分かりやすいしな」
「ですよね……」
命名はこうして行われ、タチアの鎧改め『アーラ』が完成した。
昼食を挟み、俺は工房の奥の鍛冶場に入る。タチアには庭で鎧の慣熟をエテルと虎熊にはその補助を頼み、俺はタチアの盾とダルマさんの斧の作成に入る。
使用する鉄のインゴットは10個、物は10kgになるがあの鎧込みなら負担にならない重さだ。インゴットを熱し、金床で叩いて伸ばす。10枚の板金を作り重ねて叩き、折り曲げまた叩く。直径30cmの円形を作りながら繰り返すこと7回、直径33cmの円形の板金が出来た。そのまま焼入れし、硬度を上げる。表面になる面を磨いた後、裏面を当て木しながら叩き緩く曲面を作り出す。縁をヤスリがけしてバリを取り、裏面には鞣し革を張り衝撃を吸収する作りにする。最後に固定用のベルトと磁石を付け、表面は錆止めを施して完成。シンプルだが、タチアは騎士として多くの人々を守る故に盾は傷付いていくだろう。華美にするよりも、此方の方がタチアの意に沿うと思えた。
続いてダルマさんの斧を作成する。
魔鉄の斧では有るが、シャフトの芯金にオリハルコンを備え刃をミスリルで作るつもりだ。先ずは鉄のインゴットを全て溶かし、一つに纏める。再び形成し、巨大なインゴットにする。複数の魔石を持ち、魔鉄への精製を開始する。一度俺の手が入った為か、内部の路が整然としていて魔力の通りが良い。そのまま9kgの魔鉄のインゴットが出来上がる。
次に、オリハルコンのインゴットを加工する。わずか100gでは有るが、コレでも魔鉄よりも強度は上だし魔力の通りも比較にならないほど良い。長さ1mの細い円筒状の棒へと加工して、その表面を魔鉄で覆っていく。握りはダルマさんの手に合わせて直径4cm、柄巻で多少の調整をする事でピッタリのサイズに出来るようにする。柄尻には槍の石突に似た突起を加工する。
最後に頭となる部分を形成する、刃の幅は平均的なブロードアックスが20cmなのに対して、45cm程になるように調整した。下部に伸びる構造にしたため短く持てばハンドガードにも成るので、ダルマさんの怪我を少しでも減らせるだろう。刃になる部分に溝を形成した後、ミスリルを加工する。溝と凹凸がピタリとハマるようにし、魔鉄を変形させてガッチリとくわえ込ませる。更に等間隔で鋲を打って完全に固定させる。ミスリルを研ぎ、刃を形成したら完成だ。我ながら、かなり物々しい見た目の武器を作ったものだと思う。一枚板を加工した為に構造上かなり頑強なのも相まってダルマさんの引退まで相棒になってくれる事を願う。
依頼品を2つ完成させ、ダルマさんのは何時もの棚に置いて盾だけ持ってタチア達の所へ向かう。庭先では鎧を装備したタチアの刺突を虎熊がいなし、隙を見て一閃を叩き込んでいる。流石に怪我をさせないよう互いに持ってるのは木の枝だが、虎熊の物理攻撃は純粋にタチアの物理防御を越えているので当たる度にタチアが揺らいでいる。同レベル帯になっても防ぎきれないだろう、虎熊は自慢のアタッカーである。
「悪い、ちょっといいかタチア」
互いに間を取って隙を伺っている最中に声を掛ける。タチアと虎熊は構えを解いて二人揃って俺に目線を向けてきた。
「依頼されてたラウンドシールド、出来たから確かめてくれ」
タチアに歩み寄り、盾を渡す。両手で受け取ったタチアは目を見開いて盾を見た後、早速左腕に盾を装着する。魔鉄に磁石が張り付き、そこをベルトで固定する。手首付近と肘付近の2箇所をベルトで固定され、タチアは腕を振って具合を確かめている。
「……凄い、重さは有るのにバランスが良いから安定感が違う。騎士学校で貸出される物よりずっと質が高い」
「そりゃ、タチア用に作ったんだ。そこら辺の汎用品と一緒にされちゃ困る」
興奮気味に言ったタチアに対して、俺は苦笑いで答える。エストックを鎧の強化込で片手で扱うタチアは、左腕の盾を前面に出す構えで虎熊と向き直る。
「申し訳ないがヨヒラ殿、まだまだ付き合って貰いたい!」
「ふむ、この国の伝統的な戦法かの? ならば学ばせて貰おう……敵対する者が出た時に活かせそうじゃしの」
小声で呟かれた言葉はタチアには届いてない様子だが、どうも虎熊はこの先で対人戦闘を予想しているらしい。他国の人間が介入するのは危険だが、虎熊自身の自衛の為に経験を積んで貰わないと駄目かも知れない。問題はエテルだろう、ダンジョンでモンスターを殺せても地上で人間相手に銃爪を引けるかはまた別の問題だ。俺は俺でカラムスさんから稽古を付けて貰った事が有るからまだマシレベルだが、エテルは性魔術でエナジードレインして貰うのが最上かも知れない。相手は見習いとはいえ騎士の集まりだ、対人戦闘の訓練を受けているのは確定として探索者では対応が出来ない策を仕掛けてくる可能性も有る。
俺に出来ることが有るとしたら、圧倒的な火力で何もさせずに薙ぎ払える武器の作成程度だろう。流体魔石を使用した火炎放射器でも用意するべきだろうか?
そんな事を考えつつ、タチアと虎熊の鍛錬を縁側に座り眺め続ける。虎熊が振るう木の枝を、盾で巧みに払い防ぐタチア。いつか魔力による力場を発生させて物理も魔法も防ぐ魔導盾でも設計しようか等と考える。それとも盾に砲撃機能を搭載してみようか?
ふと、肩に重みを感じた。何時の間にか寄り添ってきたエテルが肩に頭を預けて来ていた。手は重ねられ、尻尾が腕に巻き付いてくる。虎熊が見たらハコオシ鬼になりそうだなと思いつつ、重ねられた手を指を絡める形で握る。こんな時間を大切に思えて、約一ヶ月後に起こる事件を乗り切る覚悟へと変える。
結局、タチアと虎熊の鍛錬は1時間程続いた。途中で離れた俺とエテルは腹を空かせるだろう二人の為に多めの夕食を用意しに台所へ、二人から見えないのを良いことにエテルとキスする等恋人らしい触れ合いをしつつ蛋白質が取れる鶏肉をメインにした料理を作る。そろそろ食材も買ってこないといけないなと思いつつ、仕上げの手前で一旦作業を止める。二人が汗だくで空腹を訴えて来た際に浴室へと叩き込み、出て来るタイミングを見計らって料理を完成させる。
「うむ! よく動いた後の御飯は美味いのじゃ!!」
「肉と野菜のバランスが良い、鶏肉と豆とは身体の作り方をよく知っているな……」
前衛二人はそれはもう美味そうに飯にがっついている、俺とエテルはその光景に自然と笑って居た。何だか一家の団欒みたいだなと思いつつ、そうなると俺とエテルが夫婦で虎熊とタチアが子供かと想像する。本当に子供が出来てこんな穏やかな時間を過ごせたら、なんて考えて頭を横に振る。下手したら我慢出来ずにエテルを部屋に呼ぶ事態になりかねない、虎熊が居候中は控えよう。流石に見られたら気不味い。
それなりに多く作った料理を見事平らげた虎熊とタチアを見つつ、二人の胃を休ませて俺とエテルは洗い物を済ませる。作業が終わりリビングに戻ると、タチアが真剣な表情をしていた。
「タタラ殿、それとエテル殿にヨヒラ殿。話したい事が有る」
その声音に、強い決意を感じ取った俺は覚悟を決めてその話を聞くことにした。エテルも俺と同じ気持ちらしく、虎熊は目を閉じ腕を組んで声に集中している様子だ。
全員分の飲み物を用意し、タチアに話を促した。
「タチアと名乗っているが、これは私の本当の名前では無い。私の名前はオルサイア、オルサイア・フォン・タチ・アオイ・チュテレール。公爵家の庶子だ」
「チュテレール家……」
過去作に出た名前だ。しかも、結構初期に出た作品……国取りの物語で出た仲間キャラで。
その作品では男女の兄妹キャラでその家名を名乗っている、妹の方は主人公である後の王に側室として輿入れして後に子供を産んだと公式設定が有る主要キャラの一人だ。兄の方も主人公の友として共に戦い、建国を見届ける役割を持っていた。何方のキャラも真面目な性格で、生涯を一人の相手しか愛せなかったとテキストが出されるくらいに愛が深い。
そんなチュテレール家の所属する国、となると『ワールウィンド』は国取りの主人公が建国したものになる。時代の推移によって王国から帝国に変わると設定が有るので、今の国名によって大体の年代が分かる。……騎士見習い達はあの超武闘派王家に喧嘩売るつもりなのか、何もせずとも死ぬぞ。
更に言えば、タチアに流れる血はあの王家の血になる。確か主人公の息子の一人が婿入りして関係を深めたって設定が出てた筈なので、チュテレール家の内に流れる古い王家の血も合わさってとんでもない血統が生まれたと作中でも言われていた。
一番疑問なのは、王として大量の側室を持ちながら正妃への愛を貫き喪った後は遺言に従い別の相手を娶っても正妃の座を与えなかったなんて愛の深さを見せた王。そんな男の親友である生真面目血統のハイブリッドがなんで天使族と関係持って子供が出来てる上に家に招かなかったのかって事だ。いや、自国と敵対関係にある国かつ夜闇の眷属と根本的に相性が悪い天使族と通じた時点でどうなのかって疑問も有るが。
「……その名前を明かしたって事は、何か関係の有る事件が迫ってるのか?」
「ああ、それと……改めて謝罪をしたい」
俺の言葉に頷いたタチア……オルサイアは立ち上がり、俺達へ深々と頭を下げた。
「名を偽り、初対面で働いた無礼の数々……誠に申し訳無かった」
オルサイアの声は静かだが、そこに込められた感情はとても強かった。本当に後悔をしているのだろう、俺はエテルと虎熊に視線を送り代表して言葉を返した。
「その謝罪を受け取ります、オルサイア様。どうか頭を上げて頂きたい」
「寛大な心遣い、痛み入る」
ゆっくりと顔を上げたオルサイアは真剣な表情のままだが、僅かに安堵が見て取れた。
「それでは……今、何故この時に謝罪をなされたのか質問をしても?」
「ああ、勿論答えさせて貰う……その前に」
オルサイアは俺達の顔を見て、寂しそうな目をした。
「出来れば変わらずタチアと呼んで欲しい。私は庶子のオルサイアではなく、騎士見習いのタチアとして貴方達と共に在りたい」
「……ったく、真剣な顔をしてるから態々オルサイア様なんて慣れない呼び方したんだぞ? タチアのままが良いなら最初に言えよ」
意図して普段よりも荒くした俺の口調を聞いて、タチアは嬉しそうに笑った。名前の呼び方を変えたからってお前が望まなきゃパーティから離脱なんてさせねぇよ、もうエテルからも友達認定されてるんだしな。
「それでタチア、何の謝罪なんだ?」
「ああ、名前を偽っていた事もそうだが……初めの頃の振る舞いについてだ」
あの人の話を聞かなかった時、か。騎士学校が蠱毒になってる事もそうだが、何かもっと……生物的な問題がありそうだと思ったな。
「正直に話すと、最初の頃の私は人の顔と言葉を認識出来ていなかった」
「……なんだって?」
来店したあの時、更に言えばダンジョンに挑んでる時タチアは俺達の言葉が分からなかったと言うのだろうか? いや、例外は居る。虎熊だ。虎熊は最初からタチアと挨拶を交わし会話が出来ていた……つまり、異形との意思疎通は叶う。
「もしかして、昔から人間を人間として見れていなかったのか?」
「その言葉が一番的確だろう、親父殿以外とマトモに会話が成り立たせられなかった。騎士学校に入ってからは同級生が『庶民など所詮家畜』『真に高貴な者だけが人間』と言っていてな……それが影響して『会話が成り立たぬ者は人にあらず』と認識が出来上がってしまった」
「なんとまぁ……」
かなり危険な思考状態だが、おそらく理由は有る。最大の物はおそらく天使族の血だ。天使族は人間を導くべきものだと認識している、とどの詰まり下等生物だと見ているのだ。翼が生える程に濃い天使族の血を引き、更に言えば王家の……神に連なる血を引いているせいで生物としての格が人間より高いのだ。結果、ダンジョン内で俺が言ったように『鳴き声としか思ってない』というかそうとしか思えなかったのだろう。例外はおっちゃん一人、かなり生きづらかっただろう。
「……では、何故タタラを人として認められるようになったのじゃ? 探索中から突然変わったじゃろ?」
「あれは……情けない事に、タタラ殿に本気で怒られその後感謝されたからだ」
「え、俺か?」
確かに一度本気でキレたし、その後エテルを守ろうとした事に感謝の言葉を贈った。たったアレだけで変わったのか?
「私は、人生においてあの瞬間まで心からの感謝を送られたことが無い。情けない話だが、そんな時に真っ直ぐ感謝をされて世界が開けたんだ」
「それは……」
おっちゃん、本当騎士学校じゃなくて学園に入れた方が良かったって。たった一つの成功体験から人間になれるタチアだったら、絶対良い方向に進めただろう。多分、バカがタチアの道を正してた。俺が助けられたから言えるが、アイツならこういった苦しみから人を必ず助けられる。
「タタラ殿から受けた言葉でエテル殿も人に見えるようになった。それだけじゃない、市井の人々の顔も判別出来るようになったんだ。それまで守るべき民という実感が無かった絵空事が、目に見える風景に変わったんだよ」
タチアは言葉を紡ぐごとに声に涙が混ざっていく。しかし、誰もソレを指摘しない。その涙もきっと、タチアには大切な物だと思う。
「そうすると、騎士学校の異常さが理解出来てきた。奴等は私に流れる王家の血を旗頭にして、視察団に対して正当な王家であると嘯いて剣を向けるつもりだった」
「おいおい……」
「奴等の中には私の容姿からどの家の血を引いているのか分かる者が居た、最初は意味が分からなかったが……どうもそいつは此処最近で家を取り潰された元貴族らしくてな。逆恨みから行動を起こそうとしているようだ」
「うわぁ……」
逆恨みで暴走した挙げ句、騎士学校のいち学年を暴徒に仕立てるってなんだよ。
「私は親父殿に事の次第を伝え、対処を願ったのだ。タタラ殿、今日都市長と騎士カラムス様を含めたお話……それについてだったのでは?」
「……当たりだ」
俺はそっと虎熊に視線を向けて、言葉を紡ぐ。
「虎熊、此処からは我が国の恥部を曝す事になる。最悪、巻き込まれる事も予想される……出ていった方がいいぞ?」
「ふん、タタラとエテルに災いが降り掛かるならば妾が払おう。妾はお主ら二人の友じゃ、命に関わるならば友と共に立ち向かおう」
「……ありがとうな」
俺の感謝に虎熊は気にするなと言わんばかりに頷く。
「奴等の計画は雑では有るが、規模を広げた為に被害も多数予想される。事前に都市の数カ所に発火装置を仕掛け、都市内の重要施設以外にも居住区に被害を出して混乱を招くつもりだそうだ」
「燃やせる家屋っていうと、西区の貧民街か」
「木造の家となるとそこしか無い。現地での物取り等は出ないがあの区画は燻っている探索者も多いと聞く、街の混乱に乗じて何か問題を引き起こす輩も現れかねん。更に浮浪者も多い、中には犯罪に走る輩も出る可能性が高い」
浮浪者の言葉で脳裏に浮かぶ、広場でエテルの母親の遺体に群がっていた奴等。ああいったのが混乱に乗じて婦女暴行に走るなり、物取りになるなりと可能性が有る。騎士学校のいち学年の数などせいぜい数百止まりだろうに、扇動如何ではその100倍に届く被害者が出る。出来れば止めたいが、カラムスさん曰く決定的な証拠が無いために捕まえられない。
一ヶ月後、暴走した騎士見習い達に後手に回りながら対処する必要が有る……コレは被害の大きさを覚悟しなければならないかも知れない。
飛翔式魔導鎧『アーラ』
体力 0
魔力 −100
技力 0
物理攻撃 +10
物理防御 +40
魔法攻撃 0
魔法防御 +20
速力 +15
移動力 +1
特殊能力 『飛行』『タチア専用』
タタラ・ジュロンが設計・製作した、見習い騎士タチア専用の魔導鎧。
背面に新機構『疑似天使翼』を搭載した、単独飛翔能力を有する世界初の魔導鎧である。
外装と専用のインナーマッスルスーツと呼ばれる服により構成された全身鎧であり、膂力や瞬発力が爆発的に上昇している。
更に、外装はハニカム構造と言う衝撃を分散する細工を施された魔鉄で作成されていて、防御力も高い。
タタラ・ジュロンにより開発された技術である『魔鉄』『形状記憶合金』『人工筋肉』『人造オリハルコン』『非霊核搭載式動力術式』『反射反応伝達術式』『天使族飛翔術式』等を組み合わさせた、当時のタタラ・ジュロン理論の集大成の魔導鎧である。
【極秘】
オルサイア・フォン・タチ・アオイ・チュテレール専用に仕立てられた魔導鎧。本人の持つ天使族の翼を解析し、連動する補助翼を四枚搭載する事でその機動力・飛翔能力を強化する目的の魔導鎧である。
地上による待機状態では翼を外套のように身体に纏わせる事も可能、外部からの攻撃に反応し構成している形状記憶合金が鈑金状になり盾としても使用可能。
タタラ・ジュロン曰く、正当な魔導鎧と比べれば劣化品との事。希少な魔法金属や霊核を使用した純正魔導鎧型も設計されている。
この小説は……
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永遠と愛の絆
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寛容と一途な愛
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信念と翼
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鎚を包む花束
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誠実と誇り
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都市長いっとけ都市長
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年増園
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星の微笑み
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太陽と星
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娘さん、親父殿を俺にください