既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
「タチア、多くの物を抱えて来た苦悩を語ってくれてありがとう。この『ワールウィンド』に迫っている危機的状況を話してくれたのも沢山考えての結論なんだってのも分かる」
俺の言葉にタチアは泣き笑いの様な表情を作る。たった1日、共に探索を行っただけで劇的に変化した彼女の性根が善寄りなのは間違いない。手を貸したいのが本音だ、しかし俺とエテルは決定的に無理な面が有る。
「しかし、その騎士見習い達の鎮圧に俺とエテルは参加出来ない。いや、正しくは戦力になれない」
「それは……どういう?」
俺の言葉を聞いたタチアは戸惑った表情だ。騎士と探索者の決定的な違い、騎士学校と学園間に有る方向性の違いだ。
「タチア、先に質問させてくれ。タチアから見て、騎士学校の人間はモンスターに対処出来るか?」
「……いや、浅い層の『ゴブリン』なら大丈夫かも知れないが『オーク』やまして『オーガ』等は無理だろう。人型を取っていても、対人剣術では致命傷を与えられない。バーストエッジ等の魔法剣なら通じるだろうが、息切れも早いだろう」
「正直な回答をありがとう。なら逆に、学園の探索者が騎士学校の人間相手に勝てると思うか?」
「……そうか、そういうことなんだな?」
「ああ、俺とエテルは対人戦闘の訓練なんて受けていない。地上において俺とエテルは騎士と戦っても通じないんだ」
人間同士の戦闘では呼吸や隙の読み合いが重要で、突き詰めればどれだけ巧く相手を騙して急所に攻撃を当てられるかに尽きる。
逆に対モンスターの戦闘は、硬い外殻を貫いて高い生命力を奪う事に尽きる。その為に強力な武器が必要になるし、特殊なスキルや技を求められる。怪物を倒す為に人間の知恵を使うのではなく、より怪物に近付く事を求められる……ソレが探索者だ。
おっちゃんがダルマさんに対して危惧していたのはコレだ。長く探索者をやっているダルマさんは、対モンスター戦闘のノウハウが豊富だが隙の読み合いになる対人の経験が足りないのだろう。どれだけ速く力強い一撃を放てようとも、盾などで受け流されてしまえば致命的な隙を曝す事になる。おっちゃんはそれに対して『防御ごと叩き割れる武器』を欲して俺に依頼を頼んだのだろう、あの斧がそれに叶うかは分からない。が、未熟な騎士見習い相手なら問題無い逸品に仕立てたつもりだ。熟練した冒険者のダルマさんならきっと、あの斧で生き残ってくれるはず。
「それは……そうだな、タタラ殿はクラフター……作り手だ。戦闘を頼むのはお門違いか」
「必要な物を用立てるのが俺の仕事だ、そういった協力なら出来るから頼ってくれ」
「ああ、頼みにしている」
タチアは俺の言葉に納得して、協力を頼む方向を改める様子だ。よく成長してくれたよ本当。
「取り敢えず、固まってる暴徒対策に焼夷弾辺りを投げ込もうと思ってるんだがどうだろう?」
「……しょういだん? どういった物なのだろうか?」
俺は焼夷弾の詳細を軽く説明する。因みに、中身に詰める燃料は流体魔石の予定だ。あれなら少量で済むし、小型化も容易だ。
俺の話を聞く内にみるみるとタチアの顔が青褪めていく……いや、俺の話を聞いたその場の全員が青褪めていた。
「た、タタラ殿? もう少しこう……手心と言うか」
「え、じゃあ火炎放射器とか?」
「名前からして物騒過ぎぬかの……?」
「燃料撒きつつ着火して火を吹いて相手を燃やす武器ってだけだぞ? ダンジョンではせいぜいが再生し続ける『オーガ』とか草木に交ざる『ドライアド』とか『アルラウネ』を纏めて燃やす時にしか使えないし」
「タタラ、対モンスター用の武器は人間相手だと過剰火力だよ……」
「でも相手はカラムスさんと同じ騎士を名乗ろうっていう奴等だろ? タチアを退けられそうな装備を前提としないと不安が……」
「私はタタラ殿の敵に回ったらそれ等を向けられるのか……」
敵に回ったらそりゃ容赦しないよ、接触状態から魔導加速式の杭打機を叩き込むくらいはするぞ。中型魔石を使い捨てる代わりに物理攻撃力500で貫通Ⅳ付きの一撃を叩き込める自慢の浪漫兵器だ。流石のタチアも暫く動けなくなるだろう、体力的に耐えきれるだろうが。
「むしろコイツらを向けてもタチアなら耐えられると思うぞ、俺の鎧無しで考えても火傷を負わせられるかも疑問だしな」
「タタラ殿の中で私の評価が高過ぎる気がする……」
いや、お前なら多分何だかんだと耐えられる筈だ。
「しかし、騎士達と戦うなら装備の充足もそうだがレベルも上げて能力の向上も必要だろうな。タタラ殿、悪いが基礎能力を上げる装飾品は作れないだろうか? この効果も分からない装飾品より、直近ではそちらの方が必要そうなのだが」
と、思考を切り替えたタチアが頼んで来た、そういえばその『地母神シリーズ』の効果を教えて無かったか。
「うーん……正直、それは身に付けたままレベル上げに行ったほうが遥かに有益だぞ?」
「そう、なのか……?」
「その装飾品は2つ揃えて身に付けていると、レベルアップ時に確実に各能力を上げてくれる。タンジョン内でレベルアップのたびにステータスが上がってるのを見てたと思うが、全ステータスが最低でもレベル分は上がってないか?」
「……え」
俺に言われてタチアが自身のステータスを確認し始めた。少しずつ顔が青くなっていく、そりゃ俺が善意で渡していた物の意味が分かればそうなるか。
「……タタラ殿?」
「うん、あの時に話せなかった理由を分かってくれたか?」
「この厄ネタ、話されていたら意味も分からず学校内で言いふらしていただろうな……タタラ殿の判断は正しかった」
言葉の意味を理解していない時なら本当に危険だっただろう、おっちゃんに伝えても物凄い迷惑を掛けるのも理解したと思う。
流石は虎熊をして受取拒否したくなるぶっ壊れ装備である。
「レベルアップでステータスが上がるのは希、そんな基本的な教えすら頭に無かったのだな私は……」
「まぁ、1レベルの時からその装備持って探索してりゃ気付けないだろうな」
「持たせた本人に言われると理不尽に感じてしまうのは何故だろう?」
同じようにレベル1から『地母神シリーズ』を持って探索していたエテルがすぐ横に居るんだけどな、しかも一部の成長率が尋常じゃなく高くて現時点で俺を越えるステータスも有るし。
「鎮圧する、という行為で非殺傷の道具などは作れないだろうか?」
「例えば、閃光音響爆弾とかか?」
「それはどのようにして相手を壊す道具なのだ?」
「いや、壊すって……強力な光と爆音を発生させて相手の行動力を奪う道具だよ」
「何故最初にその手の道具を暴徒鎮圧に用意しようと考えないのだ貴方は……」
「いや、だってエテルに危険が及びそうだし」
この世界の元になったゲーム出した会社、下劣な騎士は本気でクソ野郎しかいないからな。人殺しを躊躇って銃爪が引けないエテルを組み伏せてレイプなんて可能性は普通に有り得る、そうなったら俺は騎士見習いとその一族を一人残らず殺して回る自信が有る。インベントリ内に有るありとあらゆる道具を使って、可能な限り惨たらしく殺し尽すだろう。その果てに、俺自身が討伐対象になったとしても。
「安心するのじゃ、タタラ。エテルは妾が守ろう」
「正直、お前の事も心配なんだからな? 男からそういう目で見られるような容姿してるんだから気を付けろよ」
「……一番そう見られたい相手が既に心を定めている場合、その手の褒め言葉は空虚じゃな」
最後の虎熊の言葉は聞かなかった事にする。多分、本人も無意識だろうし指摘されたくは無いだろう。
「もっとこう、相手の動きを物理的に封じるとか」
「粘性と吸着性の高い半流動体で相手を捕縛するみたいな?」
「思い付くなら初めからそういったのを作って欲しいのだが」
「そんなトリモチを相手にぶつけて拘束するなんてのは『ワールウィンド』の一般家庭でも出回ってるぞ」
因みに、作ったのが俺である。某害虫の好きな匂いを発しておびき寄せ、トリモチで捕縛して殺すGホイホイを模して作ったらバカ売れした。そこから着想を得て緊急時に物取りや不審者を拘束する道具として作ったら都市長が商会長を連れてきて独占販売を持ち掛けられたのだ。珍しく俺が作った中でも再現性が有るらしく、年に500万のパテント料が発生している。都市長は安すぎるなんて溢していたが、下手に高くして値段が高騰した挙げ句普及率下がっても意味が無いのだが。
ここらへんは商会長に半ば脅しを掛ける様に値段を安くする様に言った、商会長はやや顔を青くしながら頷いていたから分かってくれたのだろう。
一般家庭の奥様がホイホイに大歓喜、守衛が投げ付ける拘束ボールに大歓喜らしい。もっとも、悪い奴はいるもので強盗が逃走時に使用したり拘束して強姦に使用する例も存在しているらしい。コレがダイナマイトを戦争で使われたノーベル博士の心境かなどと落ち込みつつ、それでも正しい使い方をされる事を願い続けるしかない。
なんとなく、俺の再現性が無いと言われる技術は金属や魔石の加工に限る気がしている。悲しいかな、魔力で強化した銅を使用したヒューズは普及していないのだ。偶に大型の工房用として依頼されるが、導入してから事故が減ったとは都市長の言である。コレもシャムスとエストが広めてくれたら助かる命も増えてくれるだろう、彼等には期待している。
「意外と『ワールウィンド』内なら被害が少ない気がして来たな……」
「色々と有るからな、この都市内。トリモチ砲の弾に水詰めて火点に叩き込む消火器とか」
あの応用は素直に感心した。衛兵用にトリモチを高速で対象に当てる砲型魔導銃を作って渡したら、消防団の方でそう言った使用法で使っているのを見て感動した程だ。消防団の一部は『銃適性』スキルの取得と訓練を日々行っているらしい、こんな平和な使い方されて満足である。何ならウキウキで専用弾頭の設計図と消火剤のレシピを防災ギルドに持ち寄って渡した程だ、何か都市長がキレながら特許を叫んでいたとか噂を聞いたが多分気の所為。
「……騎士見習いの暴走、実は大した事が無い?」
「いや、油断は出来ないぞ? 色々有るが、内乱や戦争の経験なんてそれこそ100年くらいは『ワールウィンド』では無かったからな」
義務教育で習うのだが、この不穏と過酷で成り立つ世界観では珍しく『ワールウィンド』が戦争に巻き込まれたという歴史は驚くほど少ない。無い訳ではないが、ダンジョンという物を内包し監視するという元の役割の為に各国が不可侵であれと定めているらしい。100年程前に攻められた時は丁度ダンジョンからモンスターが氾濫した時と被り、敵国の軍人も巻き込まれて地獄絵図だったと教わった。以来、敵国から謝罪を受けた上正式に『ワールウィンド』には侵攻しないと条約も結ばれたのだそう。
その代わりなのかは知らないが、『ワールウィンド』は氾濫したモンスターを内々に処理するようにと定められた。探索者が活発になったのはこの時からと言われていて、間引きの意味も有るのだと教わっている。そうでなければ、俺の両親が死ぬ切っ掛けになった大討伐なんて話は上がらない。俺も、そしてエテルだって学園を卒業したらそう言った話をされるようになるだろう。この『ワールウィンド』で生きるというのは、そういう事なのだ。
「市民への被害を出されたら流石に中枢の責任問題になるだろう、防衛長が辞任に追い込まれる可能性もある」
「む、親父殿が……それは確かに問題だな」
「そう、おっちゃんが……え?」
待て、おっちゃんがなんだって?
「もしかしておっち……ローガスさんって防衛長なのか!?」
「む、知らなかったのか?」
「いや、知らんて……本人から聞いた事も無いし」
何なら現在各役職の長に就いている人間の情報なんかも調べようにも無理だったりするからな、秘匿されてるとかじゃなくて情報の整理が出来ていない。
「何年か前の大討伐で功績が認められて打診を受けたらしい、親父殿は『俺には向かんが、散って行った友人達の家族と命を賭けて守ったもんを俺が守ってやりたい』と語っていたな」
「……あの人なら言うな」
俺の両親の葬儀を執り行ってくれた人だ、そうやって一つ一つの家庭に寄り添ったんだろうなと予想出来る。
原作ゲームではローガスというキャラを俺は知らない。しかし、おっちゃんの装備はなんとなく覚えがある。ダンジョンの深層でランダムエンカウントする強敵ユニット『黒骸の王』と名称を与えられた存在だ。幾多の攻撃を受けてボロボロになった黒い鎧と、数多の敵を切捨てた為に刃毀れが目立つ巨剣を携えた騎士型のユニット。
もしアレがおっちゃんの成れ果てなのだとしたら、仲間とタチアを何らかの形で亡くしている可能性がある。ゲームテキストでは多く語られていなかったが、設定資料集には『かつては高名な探索者だったが、大切な者を喪い失意の果にダンジョンに飲まれた』とか書かれていた。原作中はおろか設定資料集にも『タチア』や『オルサイア』という名前も出ない事から、原作時点でソレを語れるだけの人物が残っていない可能性も高い。
原作主人公は頭に女体しか詰まってないのでこういう過去の情報が殆ど出てこず、考察班が阿鼻叫喚の地獄絵図をお出しし続けていたのが掲示板の常だった。当時をマトモに知らない原作主人公に対して、都市長がおっちゃんという戦友の話をするとも思えない。
マジで他の事にも興味持っとけよアイツ、未亡人とか人妻なんかの色っぽさに鼻の下伸ばしてるくらいならさ。まさか原作始まった時にはエテルに粉かけたりしないよな? ……もしそうなら去勢してやる、絶対にだ。
「タタラ殿、予想する限りで構わない。親父殿が『防衛長』の立場を辞するなら、被害はどれだけになると思う?」
「最小の予測なら一人でも一般人に被害が出たら、だな。上は都市の住民の1割だと思う」
「約一万人の被害か……それなら退任を求められても納得してしまうか」
一万人、原作で防衛長が辞任した事件が二万人以上だったので大分甘く見積もった数字だ。
俺の本当の予想は千人被害が出たのなら、おっちゃんは辞任すると思っている。タチアには少し希望を持たせ過ぎているかも知れないが、テロを起こされたら……それも自爆覚悟の物なら千人などあっという間に出るだろう。相手は訓練を受けた未熟なれども騎士数百人、一般人がどうこう出来る相手では無い。
家屋を燃やされ、対処しようとした消防団や自警団を殺害されてしまえば火災の被害は広がり続ける。そうなれば、万に届く被害も納得する。ワールウィンドでは木造家屋は貧民街に寄っているが、少なくとも五千人は暮らしていると言われている。更に、一般家庭の家も強力な魔法をぶつければ倒壊する。俺の家には霊脈から汲み上げた魔力を使って貼った結界があるが、それですら最高位魔法を使われれば突破を許すし人間そのものを弾ける訳でも無い。
俺の家は両親が遺してくれた大切な家だし、エテルも今の家に思い出が有るだろう。見習い騎士に手を出されないようにしなければならないな。内部に入られて魔鉄装備を持ち出されたら被害も増えるだろうし、流石に特殊な武器はインベントリに入れてるが……魔鉄武器だけでも被害が増えそうだな。
「考えれば考える程、俺が今都市全体の為に出来る事が無いな……身近な所で家の門を魔鉄で作り直して飛び越え防止柵と侵入者用の撃退装置でも作るか?」
「ふむ、魔鉄の門というのは良い案だと思うのじゃ。柵は高さが重要じゃの」
「高さは4mから5mくらいかな、家の全周を覆うとなると……またダンジョンを探索するか」
エテルと虎熊も居るし、家の防備を上げるのは丁度良いかも知れない。タチアも実戦で鎧の調子を見たり慣れたりしたいだろう、四人でダンジョンに潜って地力を上げておくのもいいだろう。仮に前回と同じなら、『トロール』が出る階層では『ムゥ
「所でタタラ殿、先程言っていた侵入者の撃退装置とはどのような物にする予定なのだろうか」
「え、侵入者が入ってきている結界の穴へ向けてトリモチ弾か魔力弾を叩き込むとか。柵とか設置する上で目印になる物を仕込めばより正確に狙えるし」
「その、前者は兎も角後者は人が死なないか?」
「いやいや、そんな簡単に人は死なないさ。ただちょっと雷精霊辺りの精霊石を探して、魔力弾に属性付与させて行動不能にさせたりはするけど」
所謂、前世で言うテイザーガンの魔導式アレンジである。
俺の言葉にタチアが引いた表情になる。普通に属性付与型の魔導銃は有るし、それを自動で発射する機構と合わせるだけなのだから大した事はないのだが。確か、地上戦艦や空中戦艦の自動迎撃機構が応用出来た筈だし……後で都市長から個人使用のパテント料聞いて払えば問題ない。
「あ、そうだ。虎熊に聞きたいことが有ったんだ」
「む、妾か?」
「ああ、此方で活動する上での武具を作ろうと思ってな。想定としてはこの前の探索で大量に手に入ったミスリルで作ろうとは思うんだが」
「むむ、良いのか?」
戸惑い気味の虎熊だが、エテルとタチアは問題ないと頷いている。
「正直、ダンジョンに平服とか騎士服で挑んでる姿にモヤッとしてたから」
「む、ヨヒラ殿だけでなく私もか……いや私自身の防御力が高くても確かに服だけは不安を煽るな。やはり、騎士を目指すなら装備にも気を配らねば」
エテルの言葉に横から刺される形になったタチアだが、他人から見られた際の印象に気を向けて納得している。もしかしたら、俺達と出会わなければこんな考え方も出来なかったのかも知れないのか……出会えて良かった。
「ふむ、なら言葉に甘えさせて貰おうかの」
「序に武器も専用のを作るか、魔鉄のアレはあまり合わなかっただろ?」
「いや、アレはアレで良かったぞ? 元々鬼は膂力に優れておるからな、あの手の質量兵器を全力で叩き付ける方を好むのじゃ」
「あー……成る程な」
何方かと言えば刀で斬っている方が異端と言うか異常事態だった、と。まぁ鬼の代名詞としては金棒だしな、諺にも有るし。
とはいえ、虎熊の癖を見るに刀の意識が残っていたのだろう片側の刃に消耗が寄っていた。それに合わせた物を作った方がいいだろう……どうせなら特上に重い物を作ってやろうかな。
「虎熊、片手でどれくらいの重さ迄なら振り回せる?」
「む? うむ……大体二十七貫までなら武器として自在に操れるかの?」
二十七貫……大体100kg前後か? それを自在に操れるくらいと……なら、魔鉄で90kgの片刃剣を作るか。あ、そうだ。
「そういえば虎熊、鉄で一つ武具を作るなら何が欲しい?」
「む、唐突……いや前に言っていた鉄製武具を一つ仕立てると言っていたあれか?」
「ああ、それだ。何も無いなら小型のナイフでも作るが」
「いや、それなら鉄扇を頼む」
「え、鉄扇?」
大分意外な武器を頼まれたな、とはいえインゴット一つくらいの軽めの物になるが作れはする。
「母上から教えられた舞が有るのじゃが、扇が無ければ本格的な物が舞えぬ。下手に鈍っておれば折檻も免れん……緊急時の仕込み武器としても丁度よい、故に鉄扇を一つ頼むの」
「分かった、飾りとかは求めるなよ?」
「構わぬ、向こうで使っておったものの代わりに過ぎぬ。多くは求めぬよ」
そう言われると逆に燃えてくる、バランスだけは完璧なヤツを作ってやるか。
「そういえば、ずっとお話してたけど……チーちゃん時間は大丈夫?」
「む……ぬわっ!? すまぬエテル殿、助かった!」
エテルに指摘され、タチアが時計を確認した瞬間に立ち上がった。なんかこのパターン多いな……何故か騎士学校を卒業したタチアが家に居着く未来が見えた気がした、多分気の所為だ。
「タタラ殿、出来ればコレからは可能な限りダンジョンへ潜りたい!」
「俺も鉄と魔石が欲しいから潜るつもりだ、出来ればパーティの方がやり易い」
「ならば共に潜ろう、それではな!」
挨拶を残してタチアは駆け出して行った。忙しい奴だなと思いながら、伝えてくれた情報を整理する。俺に何か出来るのか、考え続けなければならない。
俺は取り敢えず、浮遊石の解析を進める為に工房に入る。エテルと虎熊は昨日と同じく一緒に入浴する様子だが、俺も混浴させようとしたから全力で逃げた。虎熊が居るだろ自重しろよ。
工房の中で浮遊石を集中して『鑑定』する。タチアの翼から飛行術式を読み取ったのとは別に、浮遊石の魔力干渉から術式を構築するアプローチへと変える。内部から放たれる魔力が、どうやって反重力魔法に変換されるのか。外殻の結晶体から解析を始め、その構成から一種の魔術式を描いているのではと仮説を建てて挑む。タチアの飛行術式を参照し、飛行と浮遊の術式の共通点も探る。
結果分かったのは、それぞれの魔力干渉する対象の違いだ。
天使族の飛行術式が空間に存在する魔力に干渉するのに対して、浮遊石の術式は触れているものの内包魔力へと干渉している。この世界では魔力の無いものは存在しないため、触れている対象を全て浮かせる事が可能なのだ。
解析が出来たなら後はそれを書き起こすだけ。何時もの思考入力式魔導ワープロを起動し、今解析した物を論文として書き上げていく。読み取った外殻の結合状態が一種の魔法術式を構築している事が読み取れ、その術式を報告書に書き込んでいく。更に俺が考える限りの効率化を図った術式も書き込み、コレに対する実験を行う事も決める。『鑑定』で確認した限り内包している魔力量は特大の魔石が三つ分か、低位の霊核1個分と言った所だが周囲の魔力を吸収して一定魔力量を維持する性質が有るらしい。特殊な術式というより、高密度の魔力が発生させる引力のような物であると推測する。霊核の魔力が尽きない事象もコレに連なることなのではないだろうか? 考察をメモとして添えておく。使い方如何では超巨大な魔力炉のような物も作れるかも知れないが、あまりにも現実感の無い規模なので制作に最低限必要になりそうな諸々の素材と設計図だけ描いて放置する。
最終的に作成で必要になる素材の概要を書いて、一次報告書として都市長に送る。最近よく都市長の下に飛ぶようになった鳥型ゴーレムが、何処か哀愁を漂わせる姿で飛んでいく。
人心地ついたと思いきりのびをして、身体を解す。作業台に向かいっぱなしで肩が凝っている、これは湯船にゆっくりと浸かるのが良さそうだ。
「……一段落付いたのかの、タタラ」
半ば気を抜いたタイミングで背後から声を掛けられた。昨日と同じ様に虎熊が、入口の縁に寄りかかって声を掛けてきた。何だか視線がエテルに似ている、作業に没頭していた俺を見た際によくする『仕方ないな』と言いたげな目だ。
「……監視してたのか? 趣味悪いぞ」
「風呂が空いたと声を掛けに来たら没頭しておったからの、終わる迄待っておったのじゃよ」
まぁ予測は付いていたが、どれくらいそうして見ていたのやら。まぁ、虎熊が居るならちょっと試してみたい事が有るからやってみるか。
インベントリから小型の魔石を取り出す、その数は750個。その魔石を『錬金術』で融合させていく。小型の魔石が10個ずつ集まり中級の魔石を形成し、更に5個ずつ集まって大型の魔石を形成する。最後に5個ずつ集まって特大の魔石を三つ作り上げる。
「……何じゃこの魔石のお化けみたいなものは」
「見ての通り特大の魔石だよ、年若い竜から取れたりする」
「なんでそんな物を用意しておるのか……」
「これから、こいつらを使って物を作るからだな」
そう言って、作業台に魔力を流して魔法陣を起動させる。三つの特大魔石を囲むように幾つもの魔法陣が展開され、球形に立体的な魔法陣が描かれる。『クラフト』スキルで魔石同士の結合を開始し、同時にその表面へ浮遊石の反重力術式を刻んでいく。魔法陣により魔石は圧縮されていき、クラフトにより魔石の表面を結合させて魔力を内側に抑え込んだ後どんどんと加圧していく。
成人の頭程は有った3つの魔石は小さくなっていき、やがて小さな濃紺の石へと変わった。光に翳せば内部が水面の如く揺らいでいるのが見えた、成功か確認をする為に『鑑定』を掛ける。
「……お、成功だな」
「成功ってお主、何じゃそれ?」
そう虎熊に言われて、物を軽く投げて渡す。虎熊は訝しげに受け取って『鑑定』を使用したのだろう、段々と表情が変化していく。
「た、タタラ! 本当に何じゃこれ……『鑑定』しても何も読み取れんぞ!?」
驚きか恐怖かよく分からない感情でそう言ってくる虎熊、俺は悪戯が成功した気分でネタバラシをする。
「人工の浮遊石だ。『鑑定』しても何の情報も読み取れないのは、この世界に今迄存在してなかったって証拠だな」
「はぁ!?」
虎熊から人工浮遊石を受取り、軽く魔力を流す。すると身体が10cm程宙に浮く。
「浮遊石まんまじゃ変だしな……身体を浮かせるから『浮身石』って辺りかな?」
そう言葉に出すと、何かが変わる感覚が肌に伝わってきた。改めて『鑑定』を使用する。
装飾品『浮身石』
特殊効果 『飛行』『魔力回復Ⅰ』
うん、知らん能力生えてきてた。これはあれだろうか、魔力を収集する効果の副産物だろうか?
「ほれ」
「うにゃ!? ……タタラが名付けた通りの名前が付いておるの」
「こうやって魔鉄や形状記憶合金なんかは世界に登録されたのさ、もう何度目かも分からないけどな」
「お主、最終的にこの世界から追い出されたりせんか?」
「いや、それは流石に……無いといいな」
怖いこと言わないで欲しい、ちょっと可能性が有りそうだし。
寒くなった背筋を温めようと、俺は浴室へ向かう。湯船にゆっくり使って芯まで温まろう、うん。
近接魔導加速式杭打機『オウトエイズル』
物理攻撃 500
速力 −20
射程 1
特殊能力 『貫通Ⅳ』『連続攻撃不可』
タタラ・ジュロンが作成した魔導兵器。
密着状態でないと攻撃不可かつ、一度の使用に中型の魔石を消耗する。ただ、その威力は絶大であり物理防御を高確率で無視する『貫通』の影響も有る為に一発逆転の切り札になり得る。
特殊燃料火炎放射器『メルフラフスピンテール』
物理攻撃 250/min
射程 1〜3
特殊能力 『延焼付与』
タタラ・ジュロンが作成した魔導銃の一種。
分類としては火炎放射器では有るが、使用されている燃料が可燃性において最高レベルの流体魔石を使用している為その威力は桁違いである。ただし、流体魔石は作成にそれなりのコストが掛かるため10秒も使用したら資金が火の車になりかねない。
※名前は完全にネタです。
この小説は……
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