既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
本文は何日も文に悩んだのにあとがきのオマケは1時間足らずで書けたりするの何なんだろう?
身体が重くなる会議が終わり、リビングの窓に面したソファに身を預ける。深く息を吐くとドッと疲れに襲われる、都市長からの威圧は精神的にクる物が有る。
「お疲れ様だな、タタラ殿」
「ああ、疲れたよ。それとおはようタチア」
「うむ、おはようだタタラ殿」
労いの言葉を送ってきたタチア、朝の挨拶がまだだったので言葉を掛ければにこやかに返してくる。今日も調子は良さそうだ。
「タチア、分かってると思うが鎧は」
「ああ、ダンジョンに入ってから纏えと言うのだろう? 心得ている」
「愚問だったな」
「構わぬさ、逸る気持ちを抑えられず此処で纏ってしまいかねない浮かれようなのは自覚が有る」
そんなやり取りを笑いながらする、何とも心地良い距離感だとそう思う。
そう、距離感。以前虎熊は、俺がエテルにフラレたら慰めるとそう言っていた。俺とエテルの在り方が好きだと、そう言った。
それが今や狂っていると、そう感じる。あいつが時折溢す言葉が、俺にその事実を突き付けている。応えられないからと俺は気付かないフリをし続けている。
不誠実なのだろう、虎熊に直接言わなければいけない事だ。
正直に言えば怖い。彼奴の好意を拒否する事で、傷付いたその姿を見た自分が傷付くのが怖い。情けない上に卑怯な思考だと自分でも思う。
「タタラ殿、どうしたのだ?」
「え」
心配そうなタチアが俺を見ていた。どうやら考え込んでしまって、それが顔に出ていたらしい。心配を掛けてしまった。
「いや、虎熊の装備をどうしようかなって考えてた」
「ふむ、やはり素材は魔鉄に?」
「ああ、それも虎熊の為に90kgの超重量武器にしようってな」
嘘を吐いてしまった。虎熊の事ではあるが、こんな気軽な内容なんかじゃない。
仲間に嘘を吐いて、最低だな俺って。
そうしてタチアと会話を続けている最中に、エテルが帰って来る。玄関まで迎えに行って、その荷物を受け取る。
「おかえり、ありがとうな」
「ううん、私も食べたいレシピ有ったからその食材多めに買ったしね」
そんなやり取りをしていると、軽い足音が背後に聞こえた。
「エテル、待っておったぞ! 早速で悪いが洗濯について教えて欲しいのじゃ!!」
興奮気味の虎熊が楽しみで仕方ないといった雰囲気でそうエテルを促す。……気不味くて顔を見れない、意識しだすと駄目だな。
二人はそのまま洗濯室へ向かい洗い終わった洗濯物を取りに行った。教えながらだから十五分も有れば終わるだろう、そうしたら出発するか。
「タタラ殿、あの二人は何を?」
「ああ、虎熊が家だと家政婦任せらしくて家事未経験らしくてな? 洗濯物を干すって簡単な事からやってみようってエテルが教えてるんだよ」
「ふむ……仲睦まじい姉妹か、母娘のような光景だな」
「母娘はやめてやれ、虎熊の方が身長高いのに幼児味強いけどさ」
そんな会話をしながら、食材を冷蔵庫に入れていく。インベントリに入れっぱなしでも食材は悪くならないのだが、気分の問題である。
終わるまでの間、タチアも待つことになるので作り置きの水出し紅茶を淹れて二人で会話をしながら飲む。2階からは楽しそうな虎熊の声が聞こえて来た。平和である、内側に有る淀みを無視すれば。
「そういえば、家の防備を強化するとの事だったが」
「ああ、取り敢えず魔鉄を40kgくらいかな。家を一周する鉄柵と、正面の扉を作りたい」
「足りるだろうか?」
「正直、倍の80kgは確保したいのが本音だな。この前のレア祭が発生してミスリルが大量に出たら……諦めてそっち使うよ」
「切実な問題である筈なのに、ブラックジョークにしか思えない状況だな」
因みに、大貴族とか王族でもそんな家を持っている存在は居ない。魔鉄で作ろうとしたらミスリルしか出なくて仕方なく、とか都市長にぶっ殺されそうだな。
「家の事はゆっくり進めるとして、虎熊の装備は近い内に作らないとなぁ」
「一つ辺り1時間程で終わるのでは?」
「防具はちょっと調整が必要なのがな。夜に虎熊と二人で作業とか、エテルが不安になるだろ?」
「……エテル殿ならその場に居そうな気がする」
「否定は出来ないな」
正直、虎熊と二人きりは俺が気不味くてキツイ物がある。エテルも居てくれるならまだマシだろう……結局、俺の心持ち次第なのだ。
「二人共、洗濯物は干し終わったぞ!」
「おう、お疲れ様」
「初めての家事はいかがだったかな、ヨヒラ殿」
「うむ、新鮮で楽しかったのじゃ!」
まるで童女のように笑う虎熊を見て、内に残る靄を一旦忘れる事にする。迷いを抱えてダンジョンに潜るのは危険だ、気持ちを切り替えろ。
脳を切り替えるために自己催眠を施しつつ、エテルに視線を向ける。エテルは俺の視線に気付いた後、笑顔で頷いた。どうやら洗濯物を干すのは大丈夫らしい、2階に干す理由も教えててくれたら助かるが……まぁ取り敢えず干してくれるだけでも助かる。
「それじゃあ、準備して出るか?」
俺の言葉に、各員が目線を合わせた後に頷く。ダンジョンへ向けての準備を始めるのだが、問題が有るのが一人。
「ねぇ、タタラ……私の服は?」
「諸々デカくなって着用不可だ、新しいのが出来るまではケープだけで我慢してくれ」
エテルは防具の新調が間に合っておらず、上にケープを羽織るだけになってしまった。持っていた私服はまだ着れるらしいのだが、動きに合わせるために徹底的な調整を行った防具には遊びが殆ど無く流石に胸元がアレだけ増えればとても着れなかった。いや、下の方も履くのが無理になってた。
コレ、もしかしてエテルがクラスアップするたびにぶち当たる問題じゃないよな? ……もう少し調整出来るよう余裕の有るサイズで作るか。エテルは若干不服そうだ、あのデザイン気に入ってたのか?
「お主らは防具の新調よりも子供用品と妊婦用の服を用意した方がいいじゃろう」
俺が防具の構成を考えてる時に、虎熊がそんな声を掛けて来た。顔を見ると悪戯っぽく笑っていて、からかいであるのは分かる。
「え、まだそんなにお腹目立って無いよね」
そして、エテルがこの発言をするのだ。……え、待って?
「あの、エテル……出来てるのか?」
恐る恐る声を掛ける。出来ていた場合、俺はかなりのやらかしをしでかしている。安定期前にするとか、嬰児にとってかなり拙い。
「……まだ、かな」
少し目を瞑って何かを調べたらしいエテルがそう言った。いや、まだなのか。
「いきなりで緊張した……」
「流石に出来ておったら探索から外しておったの……」
斥候役として一番前に出るエテルなので、緊張状態が続く。そんなのは当然母胎に良い訳もなく、更に不意打ちで攻撃された場合も危険極まりない。妊娠したのなら即座に探索を禁止させる。
「うぅ……タタラぁ」
「いや、名前を呼ばれてもな……妊娠したらいろんな事を控えさせるからな?」
「え、エッチも!?」
「真っ先に挙げるのがそれかよ、当然禁止だ」
「なんで!? タタラとエッチしないとか私が死んじゃうよ! 栄養不足で!!」
「あながち間違っては無さそうじゃの……精気を摂取出来ないのは死活問題だろうて」
「母胎にそんな刺激与えたら危ないからだ! 精気なら性魔術で皮膚接触から送ってやるから大丈夫だ!」
「駄目だよ! タタラ分が不足する!!」
「タタラ分!?」
「ついに栄養素にまでされたのう」
「タタラを
「迫真過ぎてマジに見えるのじゃ」
「我慢出来なかったら夢を使え、『性魔術』取る前から使えてただろ!?」
「ヤダ! 生タタラが居るのに夢タタラなんて!!」
「タタラに生とか夢なんて概念有るんじゃな」
「それ以前に、まだ出来ていないので杞憂なのでは?」
出来ててもおかしくない回数は熟してるから危ういんだよ、タチア。
混乱する場を最終的に納めたのは虎熊の『人体鑑定』だった、まだ妊娠していないとキッチリ鑑定して取り敢えず落ち着いた。その際にエテルの諸々のサイズを正確に知ったらしく、自らの胸を持ち上げるように確認していた。
僅か3日で虎熊のストレスが最大化するかも知れない、上手くやれてたのは俺の勘違いだったのだろう。
ただ、俺の反応をつぶさに見ていたらしい虎熊は笑い出した。
「何じゃ、余裕が無いのタタラ」
「いや、お前今までの会話の流れを考えろよ」
「序と言ってはなんじゃが、エテルは妾が惚れている相手に気付いて無い様子じゃぞ」
「マジか……」
流石に鈍感すぎやしないかエテル?
それとも、分かってて気付かないフリをしているのか?
「いつも通りエテルを一途に愛しておれ、妾達の事など頭の片隅に残す程度で良い」
虎熊の表情はとても静かだ。何もかもを諦めたかのようで、先程までの言動が全て嘘で有ったかと思わせる。
「……分かったよ、どうせお前は俺とエテルが仲良くしてれば元気が出る妖怪ハコオシ鬼だもんな」
「その通りじゃ! 妾の必須栄養素をしっかりと摂取させて貰うからの!」
俺の答えに笑って応える虎熊。空元気に見えてしまうが、きっとそんな筈は無い。そうやって、罪悪感に蓋をした。
四人でダンジョンに向かい、受付で手続きを行う。タチアは逸る気持ちを抑えきれず、リードを前にした散歩好きな犬を彷彿とさせる興奮っぷりだ。
ある程度人目が付かなくなるダンジョンの中で、早速タチアが『アーラ』を纏う。翼はマント状のままで展開はせず、一見すればサーコートを纏った騎士鎧にしか見えない。
「入口付近には空中戦のいい練習相手が出るからな、任せるぞタチア」
「ああ、任せてくれ!」
鼻息荒く答えるタチアに苦笑いをしつつ、以前と同じ隊列で進む。早速エテルが反応し、指差しで『ジャイアントバット』の位置を知らせる。
タチアは翼を広げ、浮き上がる。次の瞬間には羽音を残して『ジャイアントバット』に肉迫していた。上空では常の剣技を上手く使え無いのだろう、エストックを槍に見立てた騎乗突撃のような刺突方でその中心を突き穿つ。勢いが付きすぎたのか、『ジャイアントバット』が爆散したかの勢いで翼だけ残して消えた。
「……そういえば、タチアのスキルを知らないが『突撃』とか持ってそうだな彼奴」
先天的な物は予想不可だが、少なくとも『剣適性』と『騎士剣術』は現時点で持っている筈だ。レベルが10に至った時に『移動力上昇』を取得したので、残り三つが不明のまま。今の一撃を見る限り『突撃』を持っていても不思議では無い気がする……上空から奇襲じみた『突撃』とか恐ろしいことこの上ないな。
ドロップした翼を回収しつつ、タチアにはそのまま自由に戦わせてみる。3匹の『ジャイアントバット』に囲まれた際には先手を取り三連突きで見事に仕留め、残心状態のタチアに迫った追加の一匹を左手の盾で殴り飛ばして四散させる。
純粋に強いな、今のタチア。
地上に見える『ジャイアントラット』にも上空から仕掛けていく、大型の猛禽類が餌に襲い掛かるかのような気配を消しながらの襲撃はあまりにも素早くコレこそがタチアという少女の本領なのだと知らしめた。地上で剣を振るっている時よりも活き活きしている、『ゴーレム』以外なら前回踏破した階層のモンスターで敵は魔法を使う『ゴブリンウィザード』くらいしか居ないのも相まって無双っぷりが凄い。
途中で宝箱を回収しつつ、どんどんと階層を進んで行く。
5階層まで降りて早速ぶち当たる『ゴブリンコマンダー』御一行、前回の時よりも遭遇率が上がっているように感じる。数は『コマンダー』『ウォリアー』『ウィザード』が一匹ずつ、『ゴブリン』が六匹だ。
「さて、今回はタチアがメインで立ち回って貰おうと思う」
「ふむ、鎧に少し慣れてきた。望むところ」
「興奮し過ぎて視野を狭めないようにな、万能感が凄いだろうけど頭は冷静にな。心はそのまま、燃やし続けてくれ」
「……ふふ、そうだな」
俺の言葉に一瞬キョトンとして、タチアは落ち着きを取り戻したのか笑っている。何方かと言えば、先程迄の興奮気味の自分へ向けての苦笑いだろうか。
「タチアは最初に『ウィザード』を狙って欲しい」
「ふむ……私への攻撃手段を制限するため、だろうか?」
「その通り、俺達の中で奴等の天敵は遠距離攻撃でないと対応出来ないタチアとエテルの二人だ。奴等の筋力と腕の短さから『投擲』は殆ど当たらないと考えていいが、魔法は別だ。鎧に変な不具合が出る前に片付けておきたい」
「委細承知した」
「上空からの急降下突撃の恐ろしさ、冥土の土産に教えてやれ」
「ああ、存分に味あわせてやろう」
目に力が入ったタチアは、ギリッと音が聞こえる程にエストックの柄を握る。
「エテル、普通の『ゴブリン』達を相手してくれるか? 『ロニセラ』での射撃でいい」
「うん、分かったよ。タチアに向けて『投擲』を向けられないようにすればいいんだね?」
「ああ、万が一の可能性も無くしてくれ。それと虎熊、『ウォリアー』を頼む。『鑑定』を使う練習だと思ってくれればいい」
「承知した、仕留めた後は『コマンダー』を相手するがよいか?」
「それで頼む。まぁ、俺が先に『コマンダー』と戦って足止めしとくけどな」
この中である意味一番戦闘能力が低いのは俺だ。エテル程の理不尽なデバフ効果を発揮せず、タチア程に壁になれず、虎熊程は火力を出せない。必然、俺は足止め要員として仕事をするのが主になる。
「それじゃ、やるか」
「うん」
「応」
「ああ!」
最初に飛び出したのはタチアだ。翼による飛翔能力を全開で発揮し、60m程先に居る『ウィザード』へ向けて突撃を敢行する。鎧による移動力上昇効果も合わせ、一息で『ウィザード』に迫ったタチアは勢いをそのままにエストックを突き入れ『ウィザード』の頭を吹き飛ばした。反応も許さない疾風迅雷が如き速攻、俺が『コマンダー』へ向けて距離を詰めている最中にその勝負は付いていた。
俺と虎熊の姿を認め、俄に騒ぎ出した『ゴブリン』達を魔力弾が襲う。正確に頭部のみを吹き飛ばし、瞬きの間に3匹の生命を奪っていく。仲間が倒れた事に気を取られた外の『ゴブリン』も、その一瞬の隙を付いて襲ってきた魔力弾により頭を吹き飛ばされる。エテルの射撃の腕がかなり上がっている、『射撃』スキルもそうだが『狙撃術』スキルも効果を発揮しているのだろう。やはり頼りになる。
自身に迫る虎熊に、下卑た嗤いを浮かべて迎撃の姿勢を取る『ウォリアー』。しかし、その瞳を金色に変えた虎熊は振るわれた腕を躱す必要も無いと切り飛ばしてその首を落とす。余分な力みも過剰な攻撃も必要としない合理の塊の様な剣技だ。斬られた『ウォリアー』は自身の死すら気付いて無いだろう、片腕と首を失ったその身体は数秒してから倒れた。
そんな頼りになる仲間達に遅れる事一秒、『コマンダー』が叫びを上げて部下達に指示を出した。しかし、もう遅い。お前の部下は全滅している。『鑑定』を使用すれば、前回と変化の無いステータスが確認出来る。攻撃行動を選択、技は『連撃』を使用。
武器命中15+43=58−30、判定28。命中判定。
物理攻撃58+【連撃】10=68−25、判定43。連続攻撃。
袈裟斬り気味に相手の左肩へウォーハンマーを打込み、振り抜きからベクトルを変えて右切り上げ気味に脇腹へ打ち込む。折れた鎖骨と肋骨が内臓を盛大に貫き、更に打ち込んだ衝撃で内臓が完全に潰れたらしい。『コマンダー』は口から血を吐いてそのまま灰になった、前回の探索で上がったステータスの影響で大分楽に倒せるようになった。
遺っていた魔石を回収し、パーティの面々へ目を向ける。全員異常が無いのを確認し、安堵する。ダメージは無く、消耗は基本俺の技力とエテルの魔力、エテルの『精気譲渡』で俺の技力は回復出来るしエテルは時間経過で魔力が回復するから実質消耗無しで戦闘を終えている事になる。タチアが機動力と攻撃力を引き上げた効果がかなり大きい、コレからも頼りになるだろう。
この1戦で感覚を掴み、階層を探索しつつ敵を殲滅していく。
前回から更に運が偏ったのか、出会う『ゴブリン』が全て『コマンダー』率いる一団になっていた。タチアは『ウォリアー』『コマンダー』のそれぞれにも上空からの襲撃を仕掛け、的確に頸を吹き飛ばして即死させ続けている。この場合、『ウィザード』の相手は俺が担当している。防御を固めておけば『ウィザード』の魔法ではダメージを受けず、そのままぶん殴れば殺せるので特に問題は無い。
この楽勝ムードはボスの『ゴブリンロード』相手でも変わらず、『ウィザード』を欠いた状態では『ロード』側にタチアへの攻撃手段が無く一方的に攻撃を受ける結果となった。猛禽が小動物を嬲る光景にも似ていたが、タチアの攻撃は的確に急所を突いていた。この場合は『ロード』の体力の高さが問題だっただけだろう。ボス宝箱からはミスリルインゴットが出て来たので、エテルの装備の足しにしようと相談したら許可を貰えた。
「そういえば、タタラ殿に相談したい事が有るのだが」
「おう、何だ?」
ボス部屋でスキルの状態を確認している最中に、タチアから声を掛けられた。
「スキル構成を見て貰いたい」
「いや、それは」
「是非とも頼みたいのだ、短期間で戦闘力を上げる……騎士見習い達の暴走に対応出来るスキル構成を教えて欲しい」
「……」
ある意味で、最悪な方向のスキル相談だ。タチアも俺にこの相談をする事が嫌だったのだろう、苦々しい表情をしている。
「……先ずは前提として、スキルってのは神々が人間種をモンスター達と戦えるようにする為に与えた物だって事はいいか?」
「ああ、親父殿から聞いている。あくまでも御伽噺として、ではあるが」
学園に入る前から両親から御伽噺として俺も聞いているし、何なら初等部でも同じ事を授業で教えられる。始まりは神々から祝福を受けた者達が広め、やがて世界の基盤に根付いた物がスキル……そんな夢物語だ。真実はどうかは分からないが、『天使長』曰く神々では干渉出来ない世界の滅びに対して祝福を与えられた人間達が解決へ導いた事は有ったらしい。それが戦う為の技術を身体に刻んだ、なんて話だから本当にこれがスキルの始まりの可能性は有る。どうやって世界に根付くまでその血が広まったのかは分からないが。
そして、そんな物が前提である為かスキルは結構大雑把な物である。適性関係は振り方や使い方、技は覚えられるが発動の隙を潰したりするのは当人の努力だ。故に覚えたての技等は隙が大きく、対人で使うと見切られやすかったりする。
余程武に精通しているモンスターでも無ければ問題にならず、更に言えばそんなモンスターは完全に特殊な個体である故に探索者は技や攻撃が大雑把なままになる。
そして、騎士は基本対人戦闘を想定して日々鍛錬をしている。
多少速かろうが硬かろうが、人間である限り持ち得る隙や弱点を日々見極めて突く技術を鍛えている彼等は探索者に対して特効を持っているようなものだ。尤も、そんな騎士達も対モンスター戦闘になると途端に脆くなる。モンスターの生命力が高過ぎて、対人用の技では致命傷になる事が殆ど無い。タチア程に他より優れた身体能力が有れば話は別だが、この手の特例は滅多に居ないから特例なのだ。
確かに、騎士達がダンジョンに潜りレベルを上げられれば探索者達では手を付けられない戦力に達するだろう。現にタチアは『地母神シリーズ』で必ずステータスを上げられる状態にした結果、パーティ内では無敵に近い盾へと成長している。
しかし、コレはタチアが見習いという立場であり、探索に際して俺達という中堅に届く探索者と一緒だったからだといえる。『コマンダー』や『ロード』等の『ゴブリン』種ですら対人戦に成熟した騎士達には厄介な相手なのだと言う、人間のセオリーが通じない為に想定外な行動を取られると後手に回ってしまうのだとか。国も高度な教育を施された騎士を損耗させたくないので、基本的に騎士がダンジョンへ潜る事を禁止しているらしい。結果、『見習い騎士』でも無いとダンジョンへ潜る事が出来なくなる。
日々の鍛錬でスキルのレベルは上がっていくだろうが、本人のレベルを上げる手段がほぼ無いのでステータスが上がらない。唯一基礎能力上昇系を取れた場合は話は変わるだろうが、騎士達は基本的に取るスキルを指定されると聞いたことがある。集団戦をするなら技術を均一化するべきだし、そうなるのも当然だろう。
なのに、タチアは俺に取るべきスキルを聞いた。コレはもう騎士学校、ひいては騎士団に所属する事をやめると言っているに等しい。
「……いいのか? 俺が関わるって事は、騎士団や騎士学校の方針から外れる……騎士から遠ざかる事と変わらないぞ? それに、対人に向いたスキルってのも基本的に無い。」
「それでも、頼みたい」
俺の言葉に、タチアは真っ直ぐに返して来た。俺はその顔に溜息を吐く。既に俺は以前『移動力上昇』スキルの取得を勧めた身なのだ、今更だろう。
「対人戦に向く、というよりも即座に応用が効くのは『騙し討ち』と『白刃流し』だ」
「……『騙し討ち』はどのようなスキルなのだ? 『白刃流し』は『オークスレイヤー』が使っていたと聞いたが」
「『騙し討ち』は言うなればフェイントのたぐいなんだ、魔力によって幻惑の刃を生成して相手の目を騙す……対人でも使い方を間違えなければ必殺に届くだろう」
「なるほど『騙し討ち』か……」
ゲーム時代で言うなら『騙し討ち』は近接攻撃時に命中補正を掛ける他に、攻撃に魔法攻撃力の半分を上乗せする効果が有った。それ故、高い魔法攻撃力を持つキャラクターに覚えさせれば近接戦でも一定の強さを持てた。仮にエテルを暗殺者スタイルにするなら、『不意打ち』と合わせて持たせたいスキルの一つだったりする。
「『白刃流し』は回避からの反撃を行うスキルだ」
「壁である私には合わないスキルだな」
「そうでもない、タチアの防御を抜いたり『貫通』効果を持つ攻撃に対して使えると生存率が引き上がる」
「なるほど、より下層を目指す場合にも備えた物が『白刃流し』なのだな」
「ああ、出来るなら『白刃流し』は『速力上昇』と合わせて取りたいが……」
「ふむ、将来的な取得スキルとしては欲しいな」
タチアが手っ取り早く強くなる方法としては、他に防御力を攻撃力に上乗せする『渾身』スキルが存在している。物理攻撃に物理防御を乗せる超攻性スキルなのだが、発動させると暫く防御行動と回避行動を取れないという欠点がある。タチアの素の硬さならダンジョン内なら暫く問題は無いが、コレが対人戦闘だと致命的な物になりかねない。この場で勧めなかった理由はコレだ。
因みに、ゲーム中最強武器と最強防具を装備したタンク役が自爆覚悟で『渾身』『影打ち』『不意討ち』『騙し討ち』を上乗せした最高火力技を使用するとダメージがカンストする。コレを活かして最深部のボスを一撃で倒すというのが、ゲーム時代でタンク役の終盤における活用法だったりする。タチアには流石に教えられない、自爆覚悟で使われて生命を散らされたら死んでも死にきれない後悔に苛まれるだろうから。
「目標は『騙し討ち』にしようと思う、騎士らしからぬスキル名ではあるがな」
「決闘の場なら卑怯もクソも無い純粋に必要な技術なんだけどな」
「確かにな」
二人で笑う。一通り笑った後に、タチアがスキル構成を教えてくれた。
『剣適性Ⅱ』『騎士剣術Ⅰ』『突進Ⅱ』『鷹の眼Ⅱ』『炎の黄金証明、苦難の人間証明Ⅲ』『移動力上昇Ⅰ』
全く知らないやたらと長い名前のスキルがある、しかも割とランクが高い。
「私も効果がよく分からないのだが、生まれた時から所持しているスキルなのだ」
「何かしらのユニークか、本当に何なんだろうなこれ」
何となく、文面は前世で好きだった格言に似ている。確かラテン語の物だったかの『
文面から推察するに、苦難と遭遇する確率が高くなる……レアな敵やらレアなアイテムの入手率が上がってる理由ってコレだったりするのか? コレ、もしランクⅤになったら『ムゥ
「個人的には『突進』と『鷹の眼』のレベルが最大になったら、次に『騙し討ち』と『魔法攻撃力上昇』を合わせて取るか『白刃流し』と『速力上昇』を合わせて取るかのどっちかだと思う」
正直『突進』スキルは『移動力上昇』が育てばそれだけで攻撃力を稼げるし、遠距離攻撃を現状持たないタチアが射程距離を延ばす『鷹の眼』を所持し続ける意味が無い。コンプリートはする必要が無いので後回しだ。
「ふむ、『突進』は役に立っているのだがな」
「ランクⅡの最大レベルなら暫くは不足は無いさ、だが『騙し討ち』の方が対人戦闘には有用だし『突進』は隙が大きい。伸ばすのはもっと後でも問題無い」
「成る程、確かにな」
俺の言葉に考え込んだタチアは頷いて、今後の方針を決めた様子だ。しかし、初期スキルに『剣適性』と『騎士剣術』が揃っているのは凄いなタチア。騎士になるために生まれてきたみたいなもんだぞ。
タチアへのアドバイスを終えた直後、今度は虎熊から袖を引かれる。何事かと思えば、視線の先はエテルの胸をガン見していた。羽織ったケープが乳に押されてカーテン状になっていて眼福だ、あの下はシャツと下着だけと考えると中々に興奮する。
俺はダンジョン内で何を考えてやがる。そして、虎熊も見比べながら自分の胸を持ち上げるんじゃない。
「……その、何だ? エテルが規格外ってだけだから、気にするな」
「煩いぞおっぱい聖人、どうせ妾のBカップなど対象外じゃろ」
「いや、その……すまん」
正直、虎熊四葩が相手ならそんなに大きさは気にならないと思うのだが。おっぱい聖人なのは一切否定出来ないが、それは惚れた相手にまで求めるものでも無いし。
仮にエテルに振られて虎熊と関係を持っていたら、普通に全てを好きになっていたと思う。
「なんじゃ、言いたいことが有るなら言うのじゃ」
「え、その……おっぱいに有るのは貴賤じゃなくて貧富だけだ?」
内心を誤魔化すためにそんな事を言った結果、虎熊の目が細まった。
「押し倒して子を孕んでやろうかお主」
「とんでもねぇ脅し掛けてくんじゃねぇよ」
それ『ワールウィンド』が虎熊の家と外交問題になるやつじゃねぇか。目が完全に据わってる辺りガチだなこれ、普段の冷静さ何処に捨ててきたお前。
「妾はよいのじゃぞ? お主とエテルを我が家に連れ帰って妾を正妻、エテルを妾に据えて共にタタラの子を産んで暮らすくらいはの」
「覚悟は嬉しいが俺はエテル以外を愛せるほど器用じゃ無いぞ」
「なに、愛は無くても棒は勃つじゃろ」
「キャラ崩壊著しいから元に戻れお前」
「すでに好いた男と親友の情事を覗き見して自慰に耽り、挙げ句は親友が風呂へ突撃してきて泣いている理由を問われた妾には処女以外に失うものなぞ無いわ」
「自暴自棄で無敵かよお前」
「苦心して誤魔化したはいいが、エテルに興奮して耽った事を指摘された時の気持ちが分かるかの?」
「地獄だな」
「更には性魔術と夢魔の手練手管を最大活用されて何度果てた事か……」
「お労しい……」
シャワーを終える迄の間にそんな壮絶な事態が起こっているとか思わないだろ、というかエテルお前はなんでそんな進化してるんだよ。
序に、今ダンジョン内で話す内容じゃねぇよコレ。
「いっそ孕んだエテルが安定期に入るまでは妾が相手してやろうかの?」
「地味に修羅場を形成しようとすんな」
「乳が必要ならタチアも誘うかの」
「地獄を追加しようとすんな」
暴走状態に片足突っ込んでる虎熊だが、何となくこうしてストレスを吐き出して平静さを保とうとしていると感じた。
いや、保ち方が大分アレだが。
「……ふむ、一先ずは腑の中を吐き出せて清々したのじゃ」
「それは良かったな、言われた側は大分アレだったが」
「タチアを構っておったのじゃ、妾を構っても罰は当たらんじゃろ?」
「誰が当ててくる罰なんだろうな、ソレ」
会話の内容から当ててくるのはエテルな気がする。当てられるのは魔力弾か、それとも性魔術だろうか。何方にしても死にそうだ。
「さて、集中力は取り戻せたのじゃ。先へ進むとしようかの」
「俺は大分心乱されたけどな」
「なら、多少は成功じゃな」
何処か寂しそうな、切なそうな表情でそんな事を言う虎熊。そんな姿が妙に心に残った。
そうして降り立った11階層、案の定初手から遭遇する『オークスレイヤー』の姿にタチアの固有スキルの強力さを認識するのだった。
どうしよう、虎熊の不憫さが増してる……?
ギャグ足して補えるかな……それともルートのアンケートでも取ろうか?
会議室の中、地方都市の代表からの通信を終えて魔術を切る。
超大型の水晶板、遠隔通信魔道具は映していた映像を消し元の透明さで壁に佇んでいる。
「……学生によるクーデター、だけで終わらぬとはな」
複数の人物が集まる中、代表して声に出したのはまだ若い印象を与える男性だ。しかし、その身が纏う気配は王者のそれである。年若い外見ではあるが、既に人間ならば初老と言える年齢に差し掛かっている。夜闇の眷属であり、長命種な為に老化が遅い故の若々しさである。
「しかし、何か起きれば大体この名前を見ますな……」
「王立研究所からは『再現性が無い!』と文句が出ているとも聞く」
「今回のは『設備さえ有れば再現が可能な域』と言っておりましたが……」
「彼の都市から出ているハイエンドモデルだったか? アレを使用する前提だろう……」
「いや、それよりも素材だろう。魔石の数が問題だ」
「提唱者は自力で魔石を『錬金術』で用意したらしいが……約800個は異常だぞ」
会議室が俄に騒がしくなる。先程まで行われていた地方都市『ワールウィンド』の代表である都市長から受けた報告、希少な『浮遊石』を人工的に再現した『浮身石』を作った者が居ると話しを受けた本国の重鎮達は思い思いに発言している。
皇帝は徐ろに報告書の写しを手に取り、執筆者の名前に目を向ける。
『タタラ・ジュロン』
ここ十年程で見るようになった名前だ。
錬金術を応用し、鉄を魔力で強化した『魔鉄』。
鋼に魔力強化を施し、魔力に反応して設定した形状へ変化する『形状記憶合金』。
鉄に効果を発揮できる最小サイズまで砕いた魔石を鋳入し、魔力伝達率を引き上げた『人工オリハルコン』。
霊核ではなく、着用者の魔力で稼働する『新型魔導鎧』とその稼働術式。
『形状記憶合金』を応用して作成された『人工筋肉』。
魔力や生態反応に応える『反応術式』。
天使族の翼が持つ魔法効果を解き明かした『飛行術式』。
再現性が無いと王立研究所の人間が文句を言った物だけでもコレだけ上がる、彼の都市にとどまらず帝国で最多の特許を保持する10代の青年だ。
王立研究所の中でも彼を招聘するべきと主張する派閥と、彼の下へ技術を学ぶ人材を派遣するべきと主張する派閥とで分かれている。寧ろ、一部の行動的な変態が荷物を纏めて飛び出そうとしたのを精鋭部隊が取り押さえたなんて報告も出る程だった。
皇帝はその報告で胃を押さえる羽目になったのが記憶に新しい。
そんな彼が今回提唱した『浮遊石』の再現。以上に皇帝が注目したのが落書きのように隅に書かれた理論。
それが『超巨大魔力炉』と『魔力万有引力の法則』、どうやらあの天災青年はこの世に混沌を齎す事が使命として与えられているらしい。
「……随分と、面白い者がいるようだな」
そんな皇帝の背後から、愉快な色を含んだ男の声が聞こえた。
皇帝の手に有った報告書の写しを取り、丁寧に読み込んでいく。
「興が乗った、視察団には俺も帯同する」
その言葉に皇帝を含め、会議室の重鎮が一瞬黙り込み即座に爆発した。
「危険です!」
「勿論、俺の護衛も連れていく」
「ですが!」
「楽隠居を決めている老体一つ増えても問題なかろう?」
「大問題です父上!」
皇帝の背後に現れた男、皇帝の父……建国王にして初代皇帝は愉快そうに笑っている。
皇帝の面差しに似ているが、更に若々しい外見だ。しかし、その身から発せられる覇気は現皇帝ですら及びも付かない。
「なに、これでも荒事には慣れている。剣の腕もそこまで錆びていないし、なんなら近衛全員相手にしても勝てるぞ?」
「父上は我が国の顔なのですよ!?」
「今はお前が皇帝だろう?」
のらりくらりと言葉を躱していく前皇帝に、次第に現皇帝は諦めを纏い始める。
「安心しろ、可愛い孫達の勇姿はしっかりと記録結晶におさめて来てやる」
「はぁ……もうそれで良いです」
諦めの極致と言わんばかりの現皇帝の姿に、前皇帝は高らかに笑った。
「ついでに、そのタタラとかいう若者も見てくるとしよう」
「……それ程までに気になりますか?」
「この経歴で気にならぬ訳が無いだろう?」
そう言って前皇帝は持っていた資料を机に放る。個人で帝国最多の特許保持者にして、建国に携わる二つの家の血を引く少女の専属クラフター。
「彼奴の血を引いている娘の動向も気になるからな、直接見なければ見極められん」
「もし、帝国に仇なす者ならば?」
「殺すさ、そうして私はこの国を安寧に導けると信じてきた……このやり方しか知らぬしな」
何処か自嘲するような前皇帝の言葉に、現皇帝は複雑な表情だ。帝国の礎を築いた偉大なる王、数多の国を纏め有数の国へと発展させたが同時に多くの血を流させてきた。
簒奪王と口さがない者は彼を呼ぶ、彼の心根も知らぬままに。
「……あの、父上」
「なんだ?」
「もし、もしですよ?」
「いや、早く言え」
「その……このタタラ・ジュロンが気に入った場合はどうしますか?」
「ふむ……」
現皇帝の言葉に、前皇帝は考え込む。少し目を瞑った後、結論が出たのか言葉を発した。
「俺の末娘かお前の子の一人を与える、とかどうだ?」
「何考えてんだクソ親父!?」
思わず口調が荒れる現皇帝、何が悲しくて可愛い妹か可愛い娘をよく知りもしない男にくれてやらねばならないのかといった雰囲気が溢れている。
「この才覚なら取り込むのに不足は無さそうだと思うがな」
「才覚がよくても血がよくありませんよ!」
「そうか? 俺の妾には元平民も多いぞ?」
「そうですけど! 庶民に皇族の血を齎しても不幸になるでしょうが!!」
最早重鎮達はまた始まったと皇帝親子をスルーし始めている。しかし、タタラ・ジュロンを取り込むというのは良手にも思えている。
「第一、父上の護衛って誰を連れていくつもりですか!? 近衛兵長ですか!?」
「いや、彼奴はお前の近衛だし堅苦しくて苦手だし」
「本人に言わないで下さいね、父上のファンなので!」
哀れな扱いの近衛兵長である。因みに四十代男盛りと髭面マッチョだ、慈悲は無い。
「俺の護衛なんて旅慣れてかつ戦力になるなんて……うん、結構多いな」
「というか、后含めて側室全員出来ますね」
腕を組んで考えた前皇帝の言葉に、現皇帝はため息を零しつつそう言った。建国の為に共に剣を取り、平定の為に駆け抜けた同胞達がその多くを前皇帝に身を捧げ愛を育んだ。結果、現皇帝には100人を越える兄弟姉妹が出来た。
正妃は子を残す前に逝ってしまったのだが、その後を皇帝の年上幼馴染が引き継ぎ支えて現皇帝を含む5人の兄妹を産んでいる。今でも弟か妹が増えそうで現皇帝は頭が痛い状態だ。
「まぁ、連れていくならセラスだな」
「母上、ですか……まぁ妥当ですね」
前皇帝の上げた名前に、現皇帝は納得する。悪魔族の血を引く自身の母親は、巧みな剣術と豊富な魔力を活かした魔法剣で未だに国内で有数の戦闘力と名高い。身分を隠してよく旅に出ている事もあり、視察団に紛れて行動しても問題は無いだろう。
「で、どうだ? まだ止めるか?」
「……私が止めたところで父上は止まらないでしょう?」
「本気で止める気なら止まるぞ、本気ならな」
その本気が『手足の一本も奪ってでも』と言っている辺り、前皇帝には敵わないと思っている現皇帝だ。
「……はぁ、あまり兵やこのタタラ・ジュロンに迷惑を掛けないで下さいね?」
「ま、努力はしてみよう」
言い残して、前皇帝は会議室から出ていく。足取りから楽しみを隠せていない父の姿に、現皇帝はため息を吐くしかなかった。
この小説は……
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