※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント継続中


翼は道を進み、鍛冶師は至る

 迫りくる『オークスレイヤー』の群れ、上空から襲撃を仕掛るタチアは少し梃子摺ってる様子だ。というのも、『スレイヤー』が所持している『白刃流し』がタチアの攻撃を回避させているらしく決定打を与えられていないのだ。反撃に対してはタチアが即座に上空へ上がる為に『スレイヤー』の刃は届いていない、『飛行』の特性を上手く使いこなしている。

 この場における最強は虎熊だろう、複数の『スレイヤー』に囲まれているにも関わらず『鑑定』で攻撃を全て見切り反撃で頸を落としている。対生物については独壇場だ。

 エテルは上空から『ロニセラ』で援護射撃を行っている。以前は不意を突いて尚避けられたが、今では恐ろしい精度で頭を撃ち抜いている。更にエテルへ意識を向けた『スレイヤー』はタチアが襲撃して討ち取るので、タチアへの援護としては最上だろう。

 俺は『スレイヤー』に囲まれつつも、『創製魔法』を使用して『スレイヤー』の動きを誘導し一匹一匹を確実に処理していく。時折『白刃流し』で攻撃を避けられるものの、フランベルジュの刃が引っ掛かる位置に『クリエイトウォール』で壁を用意してやれば刃が壁に食い込んで攻撃を失敗させられる。そうなれば距離を取って体勢を立て直せる。時間はかかるがエテルが自由になれば『スレイヤー』を倒せる、それ故の遅延戦闘だ。

 俺自身の能力が大分低いのがネックか、体力魔力技力を除くステータスが軒並み1ずつしか上がらない為に決定打を与える能力に欠ける。『黒鐵の鎧』により物理攻撃が多少上がっているが、それだけなのだ。ウォーハンマーを更新してもあまり変わらないだろう、タチアに勧めた事だし俺も『騙し討ち』を取るべきかも知れない。『クラフト』『鑑定』『槌適性』がコンプリートしたら取るとしよう。

 そんな事を考えている最中に、目の前の『スレイヤー』の頭に風穴が開く。エテルが此方を援護してくれたらしい、助かった。

 

「純粋な前衛で『スレイヤー』相手に優位に立てるのは虎熊だけか、やっぱり厄介だなアイツ」

「群れを作っているのも厄介だな、それと『白刃流し』が面倒に過ぎる」

「当れば倒せるけど、正直『魅了』掛けた方が早そう」

 

 俺とタチアが少し苛立つ中で、エテルは簡単な倒し方を提示してくる。極まったエテルの『性魔術』なら正直浅い階層のモンスターなら問題無く魅了出来るだろう。やらないのはタチアの『剣適性』と『騎士剣術』のスキルを上げる為だ。

 

「しかし、タタラ式の『鑑定』は本当にエグいのじゃ。あの豚頭が『白刃流し』を使おうと問答無用で切り捨てられるとか狂っとるの」

 

 慣れる為に虎熊も『鑑定』を使用して戦っているが、必中かつ確定クリティカルで防御無視などと言う無法の火力故に草刈りでもするかのように『スレイヤー』の頭を刎ねていた。

 正直、見習い騎士の暴走が起こったとして殲滅するだけなら虎熊一人で事足りそうである。それだけ対生物という点で虎熊は圧倒的だ。

 

「タチアの鎧の技術で俺の鎧も強化しないとな、流石にちと力不足を感じる」

「いや、タタラ殿の鎧は今でも十分に強力だと思うが」

「3人に置いて行かれてる気がするんだよ」

 

 正直、動力関係をそろそろ何とかしないと俺自身の魔力がそこまで高くないから負担が大きいのだ。エテルと共有しているとはいえ、俺自身の魔力上限を削っている為に『創製魔法』を使用すると息切れしやすい。鎧に仕込んでいる強化魔法の術式の出力を上げようとしても、タチア程に保有魔力が高くないのが痛い。

 ヒントは既に得ている、『浮身石』から『反重力術式』を無くし魔力の圧縮量を引き上げれば良い。予想では『浮身石』の作成素材に二つ特大魔石を追加すれば目的の物が作れる筈だ。自前で揃えられる、という利点で正規の魔導鎧とは差別化を図れる筈だ。

 その為にはそれなりに魔石を集めなければならない。家の防備の為、更には虎熊の武器の為に鉄と魔石が必要で、自分の研究の為にも魔石が要る。優先は虎熊の武器で、家の防備が次点。最後に動力源だな。家の防備は魔鉄でなくても、ドロップ状況如何ではミスリルで代用も有りだろう。……ミスリルが代用品と言うのが意味不明過ぎるが。

 

 溢れかえる『オークスレイヤー』の群れを抜け、15階層に降りる。タチアは順調にレベルが上がっているらしい、さっき16になったと嬉しそうに報告された。

 此処からは『オーガ』が出て来るのだが、どう考えても『グラップル』祭りになる気しかしない。あの回避性能は大分面倒だが、タチアのスキルレベルを上げる為にも罠に掛ける選択は外す。

 先行したエテルが早速対象を確認する。此方でも確認したら、変わらず脱力して立っている『グラップル』が一匹見えた。

 タチアは早速飛び立ち、上空からの『突進』を仕掛ける。反応して回避しようとする『グラップル』だが、エテルが『魅了』を使いその動きを阻害する。自失して動きを止めた『グラップル』へ向けて急降下突撃を仕掛けたタチアは『グラップル』の頸を吹き飛ばす。『グラップル』の死を確認する前にタチアが翼を羽撃かせ宙に上がる。その瞬間、タチアが立っていた場所へ『グラップル』の拳が振り抜かれた。

 以前の置き土産でタチアの警戒心がしっかりと上がっている、もう二度と受けないだろうと確信がある。

 灰になり魔石を残して消えた『グラップル』を見て、タチアの恐ろしさを再確認する。空中移動と補正の入った移動力を活かした『突撃』は、コンスタントに高ダメージを叩き出せる物だろう。コレからも活かして行くなら、タチアの『アーラ』は移動力を高める方向にするのも良いかも知れない。

 

「コレなら安定して倒せるか?」

「うむ、静止目標なら確実に頸を取れるだろう」

 

 問題は、敵が静止目標だけではない事だろう。暴走した見習い騎士相手にもそうだが、回避力の高いモンスターに当てられない事は問題だ。『オークスレイヤー』もそうだが、先程の『オーガグラップル』も避けられていた可能性が高い。速力に補正が必要かも知れない、『騙し討ち』以外にも『速力上昇』スキルを取って貰う必要性を感じる。タチアの取得するスキル、もう一度相談するか。

 相談はこの階層を移動する際にしようと決め、探索を進める。

 案の定、階層に出る敵は全て『グラップル』だった。基本エテルの魅了とタチアの突撃が片付けて行くが、偶に虎熊が『鑑定』で見切って即死させている。改めてこの階層で苦戦なくレア種を倒せてるのヤベェな。

 レベルが同等の相手を倒し続ける為にタチアのレベルアップも早い、1階層で1レベル上がっている状態だ。コレならタチアに『騙し討ち』『魔力上昇』『速力上昇』の三つを取って貰う事も出来るかも知れないな。

 

「タチア、少しいいか?」

「なんだろうか」

 

 階段部屋に着いた際にタチアへ声を掛ける。

 

「今、レア種と連戦が続いていてスキルについて少し考えたんだ」

「む、そうなのか? 先程の物に何か有るだろうか」

「『突進』の活用でタチアの命中精度がやや落ちているから、『騙し討ち』の次は『速力上昇』を取った方が良いと思うんだ」

「ふむ……身のこなしを速めるのか、確かにエテル殿の援護が無ければ当て難い場面が多いからその方がいいかもしれんな」

「対人戦闘だと余計に当て難い場面が多いと思う、いっそ反応を置き去りにする速度を出すって言うのも有りかなって考えたんだが」

「では、優先は『騙し討ち』で次に『速力上昇』と『魔法攻撃上昇』の順で取得しよう」

「それで頼む、悪いな」

「いや、タタラ殿が私のことを考えてくれた結果だ。素直に聞くさ」

 

 笑ってそう言ってくれるタチアのお陰で気分が軽い、レベルアップも早いから目標の3スキルの取得も早いだろうと予想できる。

 そうして探索に戻った俺達は相変わらず『グラップル』と連戦をこなし続ける。途中でタチアの『突進Ⅱ』と『鷹の眼Ⅱ』が最大レベルに至ったので『騙し討ち』と『速力上昇』を取得して貰う。そこからのタチアは明らかに命中率が上がり、当人もその劇的な変化に驚いていた。エテルの『魅了』による援護もあまり必要としなくなり、タチアの無双っぷりに虎熊でさえ苦笑いを浮かべる程だ。

 そうして20階層、『ハイオーガ』が待ち構えるボス部屋の前に到着した。

 

「安定を取るなら虎熊が『鑑定』使って戦闘、だが」

「タチアを鍛えるなら、やらせるべきはそちらじゃの」

 

 戦闘の方針を確認しようとすれば、虎熊がそう言ってくる。

 タチアの『騙し討ち』を鍛えるならば攻撃回数を増やすのが手っ取り早い、一ヶ月と長期間を見て鍛えるならば焦る必要は無いがレベルアップがし易く技力をアイテム無しで回復出来る今の状況を活かした方がコストパフォーマンスが良い。

 

「タタラ殿、『騙し討ち』スキルはランクアップで主にどう影響を受けるのだろうか」

「ランクアップは消費軽減だな、レベルが命中補正だ」

「ふむ……なら、技力が尽きる迄は『騙し討ち』を使わせて貰いたい」

「なら、タチアの技力が尽きたら虎熊に戦闘へ入って貰うか」

「分かったのじゃ」

 

 方針を定め、ボス部屋の扉を開ける。中央で堂々と仁王立ちをして待ち構える『ハイオーガ』が見えた。

 初手で動いたのはエテルだ、『ハイオーガ』に対して『魅了』を行い行動の阻害を狙う。見事に魅了が通った『ハイオーガ』は脱力し、隙をさらす。

 最高速度で接近したタチアは『騙し討ち』を使い『ハイオーガ』にエストックを突き立てて行く。元々動けない『ハイオーガ』に幻影の刃など殆ど意味は無いが、半分とはいえタチアの魔法攻撃力が上乗せした攻撃は『ハイオーガ』の身体を穿っていく。正直、魅了無くても良かったかもとちょっと思った。

 魅了から抜け出した『ハイオーガ』がタチアに眼を向け持っていた斧を振るうが、空中へ逃がれて躱す。そのまま上空から加速したタチアが顔面に向けてエストックを突き入れ、その肉を削っていく。突撃を使用しない場合、タチアの火力不足が顔を覗かせる。『ハイオーガ』が高い耐久性を持っている事も関係しているだろうし、虎熊と比較してしまう為だと思うがそこが気になった。尤も、タチアに現状必要なのは対人戦闘でも応用が可能なスキルであり『ハイオーガ』へ一撃で大ダメージを与える手段では無い。何時かタチアが火力不足に悩んだのならその時にまた相談に乗ろう、スキルの相談をされたのなら最後まで面倒を見るさ。

 暫くして、タチアが大きく後ろへ下がった。どうやら技力が尽きたらしい。

 

「虎熊!」

「応っ!」

 

 俺の声に即座に答えた虎熊が飛び出す。その姿を認めた『ハイオーガ』がタチアを無視して虎熊へ向って咆哮を上げる、どうやら何方がより脅威か分かったらしい。

 虎熊は『ハイオーガ』の叫びに一切恐れを持たず、全力で接近して行く。『ハイオーガ』は得物を上段に構えて受けて立つ様子だ。振り下ろされる『ハイオーガ』の一撃、しかし虎熊にはその軌道が見えている。一寸の見切りで攻撃を避け切り、『ハイオーガ』の歪へ向けてその刃を振るう虎熊。一刀両断、『ハイオーガ』を文字通り真っ二つにした虎熊は息を一つ吐いて納刀した。

 防御力無視、確定クリティカルとはいえ『ハイオーガ』を真っ二つにする虎熊の物理攻撃力に身震いする。致命打ダメージとは違う、アレは恐らく部位破壊に分類されるだろう。

 上半身と下半身が分かたれた『ハイオーガ』はまだ生きていて、這ってでも戦おうとしているようだ。しかし、虎熊は納刀状態から一閃してその頸を落とす。タチアがどれだけ体力を削ったかは『鑑定』を掛けていないために分からないが、恐らく虎熊の2度の攻撃で『ハイオーガ』は死んでいる。やっぱりとんでもないな彼奴。

 

「ボス宝箱か、タチアか虎熊だと思うんだが」

「それならヨヒラ殿を推したい。私はスキルレベルを上げる為に時間を貰ったからな」

「ふむ……タチアがそう言うのであれば妾が開けよう。それ、開けゴマ! なのじゃ」

 

 軽くそんなやり取りをして、虎熊が宝箱を開ける。中から出て来たのは特大の魔石だった。

 

「またデカいのを引いたな、売れば結構な額になるぞこれ」

 

 俺のそんな言葉に虎熊は考え込み、魔石を俺に渡して来た。

 

「え、なんで」

「何かの研究に使うのじゃろ? 『浮身』を作成する際にかなりの数の魔石を使っておったからな、必要だと判断させて貰った」

「いや、確かに助かるが」

 

 作成を決めた物的に、このサイズが5個必要だったので本当に助かる。しかし、俺ばかりが得をする気がする。

 

「なに、タタラへの点数稼ぎじゃ」

「え、点数稼ぎ?」

「そこそこ貯まればエテルと二人同時でも抱いてくれそうじゃしの?」

「そんな野望は捨ててしまえ」

 

 悪戯っぽく笑ってそんな事を言ってくる虎熊に、俺はジト目でもって返す。エテルはよく分かってないのか俺と虎熊に視線を行ったり来たりさせている。

 

「ま、恐らくそれで出来る物は翻って妾達の為にもなるじゃろうて。先行投資にはちょうど良いの」

「はぁ……分かった貰っとく」

 

 虎熊のそれらしい言い分を、溜息を吐いて受け入れた。なんというか、一生口で勝てる気がしない。

 

「そうだ、タチアのスキルはどんな感じだ?」

「うむ、『騙し討ちⅠ』が既に半分迄育っているな。かなり良いペースだろう」

「むしろ早すぎる気がする」

 

 エテルの『性魔術』程では無いが、レベルアップが早すぎる。下手すれば今日中にランクⅡに届くかも知れない。

 そうやって各人がスキルを確認した後で階層を進む。此処からはモンスターが『トロール』種に変わる、運が働けば『ムゥ民(たみ)』が大量発生するだろう。手に入るステータスアップアイテム如何ではタチアの火力を上げる為に使うのも有りだろう。

 そして遭遇するモンスターの実に六割が『ムゥ民(たみ)』になった。エテルが盗む度に抱き着く『ムゥ民(たみ)』に殺意を抱きつつ、その殺意は四割の『トロール』へ向けた。一匹くらいは『ムゥ民(たみ)』をすり鉢状落とし穴に掛けて磨り潰してやろうかと画策したが、悉く失敗した。

 25階層へ降りる階段前で全員の状態を確認する。

 現状持っているステータスアップアイテムは体力増加1、魔力増加1、技力増加1、物理攻撃増加3、物理防御増加4、魔法攻撃増加5、魔法防御増加5、速力増加6、運増加10、移動力増加10だ。

 なんでこんなに運と移動力に偏ったんだ、むしろこの二つがワンツーフィニッシュ決めるくらいに出ないのに。

 

「さて、そろそろ溜まってきたコレを使おうと思うんだが」

「それって、私があの妖精さん達から盗んだやつだよね?」

「ああ、前にも言ったと思うがコレはステータスを永続的に1上昇させる事が出来る。種族的な限界値は超えられないが、かなり有用なアイテムだ」

「……ソレを大量に盗ませておったのか、この男」

「レア種からしか手に入らないとはいえ、無法に過ぎますな」

 

 むしろタチアがレア種の出現率を上げてくれたから出来るチートコンボだけどな、コレ。

 俺が各アイテムで増加するステータスを説明し、分配の方針を決める会議になる。系統としては得意を伸ばすか、弱点を補うかだ。俺個人の意見としては弱点を補いたい、というのもこのパーティがフルメンバーで何時でも潜れる訳では無いからだ。

 俺が理由を説明した上で虎熊に魔法防御増加を勧めると、エテルとタチアも頷いてくれた。

 今度はタチアからエテルに物理防御増加と速力増加をと話が上がる。最前線で斥候をするエテルには可能な限り素早くなって欲しいし万が一の為にと言われ、俺は賛成する。虎熊はタチアにも必要ではと意見を述べるが、タチアは自身の硬さを理由に辞退。エテルに全ての速力増加と物理防御増加が回される。

 物理攻撃増加はタチアにと虎熊から意見が出る。自分には即座に必要な程では無いと言われ、俺とエテルも賛成した。

 運増加は俺がエテルを推した。『盗む』スキルの成功率に関わるので、底上げをしたいと言ったら虎熊とタチアがステアップアイテムを見てから頷いた。分かり易い成果が有ると楽だな。

 移動力に付いては意見が割れた。というのも、活用法があり過ぎるのだ。タチアに一点集中させて『突撃』の威力を引き上げるプランや、パーティ最高火力の虎熊を前線に飛び込みやすくするプラン。斥候のエテルに割り振って強行偵察を行えるプラン等の様々な物を挙げた。

 此処でエテルが俺に対して一切ステアップアイテムが分配されていない事に気付いた。俺としては俺自身の強化よりも3人を強化した方がコストパフォーマンスが良いためにそうしていたのだが、エテルは遠慮していると取ったらしい。

 移動力を俺に一点集中させようとしたのを俺が拒否、それなら俺と虎熊に3ずつでエテルとタチアの二人に2ずつの方が平均化出来ると言ったらその方向に定まった。

 体力、魔力、技力は一番消耗するタチアに渡して分配は終了。僅かながら全体的に強化が出来た。

 26階へ降りてからは俺の仕事だ。前回タチアと共に組んだ戦術を用いて、『ゴーレム』達を転ばせて額の一文字を削っていく。

 構成する物質に区別なく、俺の『鑑定』の前で無機物は粘土も同じ。『ロック』も『アイアン』も『スチール』も出ずに初手から『ミスリル』を相手に文字を削り続ける。

 そんな事を繰り返していたら、頭の中に『こんぷりーと!』と啓示が降りてきた。一旦立ち止まって確認してみると、『クラフト』と『鑑定』の横に輝く『complete!』の文字が見えた。

 思わずガッツポーズをした俺に、エテルがそろそろと近付いて来た。

 

「どうしたの、タタラ?」

「ああ、今『クラフト』と『鑑定』がコンプリートしてな」

「え、おめでとう!」

 

 エテルは小さく拍手しながら祝ってくれた、俺の嫁が可愛い。

 

「む、タタラ?」

「何か有ったのだろうか?」

 

 エテルの拍手を聞いてから虎熊とタチアも気付いたらしい。

 俺がスキルをコンプリートした事を伝えたら、二人共自分の事のように喜んでくれた。周囲に『ゴーレム』はいないので、今のうちにスキルをセットする。取得したのは『物理攻撃力上昇』と『速力上昇』の二つ、俺自身の火力不足を多少は補える選択だ。

 それに、鎚を振るって物を作る際にこの二つのスキルは刺激を受ける。1年間毎日1本の剣をうち続ければ多分コンプリートが叶うだろうし、スキルレベルとランクがどれだけ影響を与えるかの観察にもなる。後はレベルが30になった時に『騙し討ち』を取れば暫くは問題無いだろう、戦闘向けスキルを取るのはあまり俺らしくも無い気がする。

 気分も新たに『ゴーレム』狩りを再開する。相変わらず『ミスリル』しか出ないので、家の防備はミスリル製の門と柵にする事を決める。出来れば鉄のインゴットが80kg分は欲しいのだが、出ないので有れば手に入った分のミスリルを圧縮した質量兵器を虎熊に作ろうと考える。

 30階層のボス部屋の扉前に辿り着く迄で手に入ったのはミスリルインゴットが40kgと、鉄のインゴットが20kg。明らかに比率がおかしい。ミスリルはどんなに贅沢に使ったとしても、家の防備は恐らく40kgをまるまる使う事になるだろう。前回の探索で手に入った分の残りはエテルと虎熊の装備に回せる事になるから、コレはコレで良かったかもしれない。

 

「虎熊の武器を作ろうと思ったが、鉄が足りないな」

「ふむ、どれくらい足りんのじゃ?」

「今回手に入った量の3倍くらい」

「お主、何を作ろうとしているのじゃ?」

「超質量武器」

 

 俺の返答に溜息を吐く虎熊だったが、俺が自分の為に武器を拵えようとしていることは嬉しいのだろう。少し口元が緩んでいる。

 

「あ、そうだ。試したい武器が有るから今回は俺が前に出ていいか?」

 

 ボスである『オリハルコンゴーレム』相手に是非とも試したかった武器だ、少しだけわがままを聞いて欲しい。

 

「私は大丈夫だよ」

「む、私は盾として共に行けないか?」

「……また頓痴気武器のお披露目かの?」

 

 エテルは特に問題は無いと即断、タチアは盾役として俺が一人で向かう事が心配らしい。そして虎熊、何がトンチキ武器だ。ロマン溢れる武装だぞコラ。

 

「タチア、俺は一応『ゴーレム』相手なら問題無いから」

「む、そうか……そうだな」

 

 あまり納得はしてくれない様子、まぁ仕方ないか。ようやく自分の騎士道を見付けたのに、仲間から守るのを断られたら。

 

「次に身を挺して何かをやらなきゃならなくなった時は頼む」

「……ああ、分かった」

 

 何処か納得出来ていない空気は変わらない。何となく、本人も何故なのか分かってない雰囲気だ。

 ボス部屋の扉を開ける前に、インベントリから一つの武器を取り出す。魔導兵器では有るが明確な分類別けされていない特殊兵装だ。

 高密度の魔鉄で作り上げた鉄杭、ソレを打ち出す為のレール。操作する為に単純化され、取り付けられた握りと引金。魔法術式を稼働させる魔石を挿入するソケット。

 全長にして220cm、総重量120kg。

 その名も近接魔導加速式杭打機『オウトエイズル』、俺が作り出した浪漫兵器の一つである。

 

「……何じゃこの釘の化物は?」

「見ての通り杭打機だ、基本超硬度を誇る相手を倒す為に作成した。前回、エテルに『エリンジウム』を使って貰ったが流石にこの閉所じゃやばかったからな。代わりになるものを考えたらこうなった」

「……私はタタラ殿と敵対したらコレを向けられるのだろうか」

 

 俺の説明にタチアがガチビビリしている、敵対する予定が無ければ問題ないだろ。

 

「それじゃ、殺ってくるわ」

 

 そう言ってボス部屋の扉を開く。中央に佇む『オリハルコンゴーレム』に向って思い切り踏み込む。

 アイテムによる強化を受けた為、一息で『オリハルコンゴーレム』の懐に入る。『鑑定』を深く使用し、その弱点を見極める。

 見出したのは腹の中央、見据える先にはゴーレムコアの存在を感知した。術式を起動させれば1秒と経たず展開される魔法陣、その数は3枚。『エリンジウム』に比べれば遥かに少ないが、一撃の重さは此方が勝る。杭を思い切り『オリハルコンゴーレム』の歪へと叩き付けて引金を引く。

 

 武器命中10+23−25判定33。命中判定。

 物理攻撃500−100致命打判定500×2=999

 

 轟音。衝撃。腕に抱えた武器から伝わる反動で身体が痺れる。眼前の『オリハルコンゴーレム』は腹を穿たれ、そのまま上半身と下半身が分断された。俺の頭上を『オリハルコンゴーレム』の上半身が舞い、下敷きにならないよう俺は走った。まだ身体は少し痺れていたが、そんな事は言ってられなかった。

 2秒程の滞空時間の後、轟音を響かせて『オリハルコンゴーレム』の上半身が地面に叩きつけられた。その振動が伝わったのか、立ったままだった下半身も倒れる。

 『オリハルコンゴーレム』はピクリとも動かず、やがて粒子となって消えると同時に脳裏に流れるファンファーレ。今回の経験値でレベルが30に上がったらしい。

 後に残ったのは部屋の中央にボスドロップの宝箱のみである。

 

「うん、改善点は有るがやはりロマンが有って良いな」

「お主はなんてもんを作っとるんじゃ!?」

「コレ、人間相手に使ったら挽肉になるのでは……」

 

 血相を変えて突っ込んでくる虎熊と、青褪めた表情をしたタチア。エテルは特に何か言うわけでもなく、軽く浮きながら俺に抱き着いて頭を撫でて来た。どういう感情からの行動だコレ?

 

「中型の魔石を一発で一個使い切って超ダメージを出す攻撃方法だから連発は出来ないが、当りどころが良ければこうなる浪漫武器だ」

「タタラの『鑑定』を考えると『ゴーレム』種相手なら即死攻撃じゃろうなコレ」

 

 実際、『ゴーレム』種が相手ならどんな相手でも問題にはならないだろう。ボスの『オリハルコンゴーレム』ですら一撃で屠れたのだから。

 

「とりあえず、ボス宝箱を回収したら今日は上がるか」

 

 俺がそう言うと、タチアが挙手してきた。

 

「どうしたタチア?」

「この先の階層へは挑まないのか?」

 

 やはり聞かれるか。

 

「正直に言うと、攻略が難しい」

「む、相手はいったい?」

「モンスター種で言うなら『死霊系』だな、『ワイト』や『ゴースト』が主に出て来る」

「それは……祝福が出来る者がいないと難しいな」

 

 ゲーム時代の『死霊系』は物理無効と聖が2倍炎が1.5倍のダメージになる特性を持つ『死霊特性』を持つ。魔法防御が低く、体力も10や20程度なのでエテルが『ロニセラ』で無双出来る階層だ。

 普通ならば。

 31階層から34階層までの間に出て来るレアエネミーは『リッチ』である。

 魔法の研究の為に永遠の生命を求めた者の末路、『死霊系』に有るまじき魔法防御を持つ高火力魔法ユニット。倒すならば弱点を突ける魔法を覚えたユニットの用意が必須、最悪エテルに魔法攻撃力上昇と火属性魔法を取ってもらわないと詰む。

 流石に液状化魔石を使った火炎放射器が通じるかをぶっつけ本番で試す訳にもいかない、タチアのスキルが無ければ進めはしたが今は全体の戦力アップが優先である。

 そんな事を話しながらボスドロップ宝箱を開く、中から出て来たのは特大魔石だ。コレはもう研究を進めろって神の啓示だな?

 

「とりあえず、今は戻ろう。先に進む為の手段は考えておくから」

「タタラが言うんじゃ、今は本当に危ういと判断すべきじゃの」

「私も納得した。流石に『リッチ』は我々には荷が勝ち過ぎる」

 

 虎熊とタチアの納得を貰えたので帰還結晶を取り出す、何時も通り繋いでくるエテルの手を指を絡めて強く握る。逆に手に持っている結晶を手ごと包んでくる虎熊に、腕に手を添えるタチア。全員の接触を確認した上で結晶を使用する。

 こうして準備期間の最初の探索は終了した。

 

 地上へ戻り、前と同じ店で慰労会を兼ねて食事を取る。頼む料理はやや少な目で、足りないなら随時追加する方式だ。

 明日の予定を決める。タチアは明日もダンジョンに潜るつもりらしいが、俺は今回手に入ったミスリルで家の防備を硬めようと思っている事を伝えた。

 エテルと虎熊はタチアと一緒に明日もダンジョンに潜るつもりらしい、可能なら鉄のインゴットと魔石を集めて欲しいと頼んだら鉄のインゴットは自信無いと苦笑いで返された。

 明日に備えて整備したいと頼んでタチアから装備一式を預かった、エストックもそうだが『アーラ』が実戦でどれだけ消耗するのかもデータを取りたい。普通の魔導鎧なら自己修復機能なんかも持ってたりするのだが、生憎簡易版がベースのコイツにそんな便利な機能は無い。インベントリからインナーごと預かり、明日の朝家に取りに来るように言って別れた。

 家路は3人並んで歩いて帰った、何故か俺を中心にして。エテルが手を繋いでくるのは何時もの事だが、虎熊がそっと小指を絡めて来て焦った。指摘しようとしたら切なそうな顔をされて何も言えなくなる、自分の意思の弱さに吐き気がする。

 

 家に着き、二人を風呂へ向かわせる。エテルが俺もと言い出し、虎熊が湯が勿体無いからと賛同する中で全力でお断りした。

 多分、入ってたら途轍もない過ちが発生していた気がする。それは駄目だ、流されて関係を結んだら互いに後悔する。

 こういう時にはクラフトへ向き合うに限る、雑念を払って集中が出来るのだ。

 先ずは『錬金術』を使って魔石を融合させていく、前回と同じく750個の小ぶりな魔石を合成して特大の魔石を三つ作る。この過程で『錬金術Ⅳ』が最大レベルに達したのでランクアップをさせる、僅かでも経験値が勿体無いのは嫌だ。

 ダンジョン内で手に入った特大の魔石も合わせて合計5個の特大魔石を一番精密に作業が出来る台に乗せる、そうして理論実証のクラフトを開始した。

 作業工程は『浮身石』を作成する時とほぼ同じだが、表面に刻んでいた『反重力術式』は今回無くして只管に圧縮させ続ける。特大の魔石5つが『浮身石』と殆ど同じ大きさにまでの圧縮・結合したら完成である、表面に術式を刻むよりは難易度が低いと思ったが圧縮する魔力の大きさから下手すると爆発しかねないので繊細な制御が必須だ。俺も作業台が無ければ1割くらいは失敗しかねない、それだけ難しい代物だ。

 出来上がったソレを手に取った瞬間、脳裏にファンファーレが響く。『こんぷりーと!』とスキルマスターを知らせる啓示に、恐る恐るステータスを開くと見えた『complete!』の文字。その横には『錬金術』と書かれていた。

 今さっきランクⅤに上げたばかりで、一度の生成でレベルを最大にする代物。俺の頭の中には手元のコレがとある物だと仮定されて冷や汗が流れる。

 案の定『鑑定』を掛けても名前が出て来ない、伝承では語られていても存在が仮定されているだけで本物は存在して無かったものな。

 

「タタラ、風呂が空いたのじゃ……どうした?」

 

 出来上がった物に頭を抱えていると、虎熊が呼びに来た。悩む俺に疑問を持ったが、手にした物体で何かを察したのか距離を取ったままである。

 

「いや、都市長宛にちょっと報告書出さなきゃいけなくなってな」

「その手に持っておる危険物が理由かの?」

「危険物言うな、爆発はしないぞ……錬金術師達が発狂はするが」

「危険物ではないか」

 

 そんな事を宣う虎熊に、手の中の物体を軽く放る。慌ててキャッチした虎熊が、嫌そうに『鑑定』を掛けた後に項垂れた。やはり情報が読み取れなかったらしい。

 

「それで、コレは何なのじゃ?」

 

 俺に物体Xを返しながら聞いてくる虎熊、俺はコレに慎重に名前を付ける。

 

「そうだな……『錬金術師の卵』って名付けようか」

 

 そう言葉にすると、世界から何かが繋がる感覚がした。再度手元の『錬金術師の卵』に『鑑定』を掛ければ情報が更新されていた。

 

 装飾具『錬金術師の卵』

 体力 +100

 魔力 +100

 技力 +100

 特殊 『体力回復Ⅴ』『魔力回復Ⅴ』『技力回復Ⅴ』

 

 うん、とんでもなくヤベェもんが出来上がってる。自分の鎧の動力源を作成しようとしたらコレだけでも色々ひっくり返る代物だった、量産が面倒な事以外に弱点が無い。

 再度虎熊に『錬金術師の卵』を渡したら、顔が引き攣った。

 

「のう、タタラ……コレ本当に何なのじゃ?」

「そうだな……錬金術師の悲願、錬金術の最高到達点かな」

 

 別の名前を付けて誤魔化してはいるが、所謂『賢者の石』なのだコレは。

 俺の言葉にどうやら意味を理解したらしい虎熊が、そっと『錬金術師の卵』を俺に返してくる。そのまま距離をとられたので地味に傷付いた。

 

「風呂が空いたんだったな、入ってくるわ……」

「いや、傷付けたのは悪いと思うのじゃが流石にコレは仕方ないと思うのじゃ」

 

 肩を落として浴室へ向かおうとすると虎熊が必死と言った様子で呼び止めて来る、お前の寛容さに甘えている面が有るのは自覚しているが割と本気で傷付いたぞ。

 

「……いや、俺も虎熊が驚く姿を見たいからってやり過ぎてたな。すまなかった」

「……悪いと思っておるのなら、一つ良いか?」

 

 俺の謝罪に対して虎熊は真剣な表情を作る、場を緊張感が支配した。

 

「妾をだ……いや、四葩と名前で呼んではくれぬか?」

 

 本来の頼み事が何なのか大体分かったが、虎熊は理性でその発言を止めたらしい。出て来たのは、当たり障りの無い願いだった。

 

「何でだ?」

「何時までも家名では距離を感じてしまっての、そろそろ良いのではないか?」

「いや、別に構わないが……」

 

 コレを断る事は良心が痛む。

 

「分かった……四葩、だな」

「ああ、之からも頼むぞタタラ」

 

 名前を呼べば虎熊……四葩が嬉しそうに笑う。花が咲くような、綺麗な笑顔だった。




この後都市長の下に『賢者の石』の件が届いて都市長が発狂します。鳥型ゴーレムくんは泣いていい。

この小説は……

  • 永遠と愛の絆
  • 寛容と一途な愛
  • 信念と翼
  • 鎚を包む花束
  • 誠実と誇り
  • 都市長いっとけ都市長
  • 年増園
  • 太陽の笑顔
  • 星の微笑み
  • 太陽と星
  • 娘さん、親父殿を俺にください
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