既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
虎熊関連イベント継続中。
天狗さんと俺の間で決定的に差が有るもの、それは速力だ。
この世界、速力は身の速さも有るが反応速度の高さも含まれている。俺の素の速力はスキル込みで40、それでも視認不可となると倍近い差が有るのだろう。下手したらパーティ最速のエテルよりも速い。そんな相手に、痛打を与える……正直言って不可能案件である。
相対しながら、脳内でスキルスロットの項目を開く。これはイメージがズレやすくてあまりやりたくないのだが、悠長に手でステータスを開けないのでマルチタスクを使って行う。
空いているスキルスロットに選択する『騙し討ち』と『魔法攻撃力上昇』、精々が微々たる強化にしかならないだろうが無いよりはマシだ。
「考え事とは余裕だな?」
声は衝撃より遅れて届いた。防御も間に合わず鎧の胸元に凄まじい一撃が入った、頸を狙わなかったのは殺すのが不味いとの判断からか。
「マジかよ……天狗ってのはこんなに速いのか」
「なに、私が鴉天狗でも最速等と持て囃される者なだけよ。しかし見事な鎧よな、私の一刀でも表面に引っ掻き傷程度とは」
「お褒めに預かり恐悦至極、自慢の手製鎧だ」
「……その歳でその腕、よい才だな」
何処か敬意を持って接してくれる天狗さんに、少し親近感が湧く。ハッキリ言って鋼で作ってたら鎧が真っ二つだった、加減してくれて居るからこそ俺は意識を保っていられる。
装備が刀以外に金属製品が無いのも痛いな、軋みを見極めて対応とか出来ないから反応出来ない。
「一つ聞く、若人。何故お嬢様の名前を知っている」
「答える条件は一つだ、あんた達が探してる鍛冶師の名前を言ってくれ」
「……平行線か」
「ああ、悪いけど……大切な仲間に脅威が迫ってる可能性は看過出来ないんだ」
「……そうか」
天狗さんが明らかに笑っている。この人、俺の事をどのタイミングかは分からないが気付いてたな?
しかし、妖怪ってのはヤバい位に強い。討滅出来た武芸者を英雄と持て囃すのも納得出来る。普通の人間じゃ闘いにすらならない。
「では精々耐えてくれよ、
「人間の悪足掻き、見縊るなよ鴉天狗」
「初めから人間を見縊ることなど、無い!」
瞬間、突風が迫る。鴉天狗の姿が掻き消えた事に気付いたのは無意識に腕を上に掲げて衝撃を受けた時だ。
速すぎて目で追えないのは分かっていたが、攻撃の起こりを捉える事すら不可能とは想像以上だ。次々に打ち込まれる斬撃に『黒鐵の鎧』はよく耐えてくれている。何度か直感に沿ってバトンを振るうが、鴉天狗からは止まって見えるのだろう刃を逸らす事も出来ず鎧に打ち込まれる。コレは仮に速力がカンストしてても捉えられて無いな、護衛としての人選なら間違いなく正解だよ当主代行。
「どうした、武芸はからっきしか鍛冶師殿?」
「悪いが、俺は武芸者じゃないんでね!」
聞こえた声の方向とは逆にバトンを突き入れる。一瞬気配を感じたが、風は流れを変えて俺の胴を薙いだ後に吹き抜ける。
本格的に勝ち目が見えない、とんでもないなこの人。
「まったく、鍛冶師の腕と心意気以外に見込みが無いな。何故奥様はこの人間を……」
天狗さんは再び距離を取り、何やら悩んでいる。微妙に嫌な予感がする独り言が聞こえてきた気がするが、精神的な安寧の為に一先ず無視した。
そして、少しだけ策を練った。インベントリの中に入っているアイテムを一つ選択し、次の一撃に備える。両腕で頭部を守り、腕の隙間から相手を覗く防御姿勢。今迄の攻撃パターンから、この手の構えを取れば
「守りを固めても無駄だ!」
正面から崩しに来る。そうだよな? インベントリからアイテムを展開、腕の前に一点だけそれを出現させる。直後、何かが割れる音と腕に衝撃。
「な、私の小烏丸が!?」
またとんでもない刀の名前が出たな。しかし、策は通った。俺の展開したアイテムはトリモチ玉、それが割れて俺と天狗さんを固める。刀はもろにトリモチ塗れになって、更に俺の鎧とくっついてる。
「ようやく捕まえたぞ、鴉天狗!」
自由に動く手首を動かして、刀を掴む。
「く、離せ……なんて粘着力だ!?」
「いいだろ、無法者達を捕まえる為に作った正義の味方用の武器だ。人々の安寧を守る意地の結晶だ、易々と抜けさせるかよ」
天狗さんが力を込めて離れようとしても、少し離したらすぐに引き寄せられて抜け出せなくなってる。
そのまま『黒鐵の鎧』ごとインベントリ内に格納する。
突然無手になった戸惑いから一手遅れた天狗さんにベアハッグをかます。多分この人、速度特化の影響で物理防御が低いと思う。
ギシギシと締め上げると体内から異音が聞こえてくる、降参をして欲しいが歯を食いしばって耐えている。更に力を込める、そして。
「い、いい加減にしないか! 嫁入り前の女子をこのように力強く抱擁するなど……私をどうするつもりだ!?」
「……え?」
なんか予想外の言葉が頭上から聞こえて来た。思わず上を向くと、俺に絞められたせいで体型が浮き彫りになって見えたのは女性らしい曲線だった。
キツめの顔立ちが羞恥に染まり、目には涙が浮かんでいる。
「あ、すみません」
思わず謝って離せば、自分で身体を抱きしめるような恰好をする。涙目で眉根を寄せ、此方を睨んでくる姿に罪悪感が凄い……周りからも俺が冷たい目で見られてる。
「あの、被害者みたいな雰囲気出してる所へ申し訳ないんですが」
「な、何だ変態!」
「……俺に先に刀突き付けて来たのそっちだからな、被害者面すんな」
流石に今のは苛立ったぞ。
俺の言葉に天狗さんはハッとした顔でバツが悪そうにした、質問に答えてくれてたら問題なんて起こんなかったのにな?
周囲の人達も視線が変わった、俺が被害者側だと思い出したらしい。
「……お前は何をやっているのだ、ジュロン」
そんな俺に呆れた雰囲気の声が掛けられる。振り返れば、無傷のカラムスさんが立っていた。右手で持たれている抜き身の『フィエルテ』は刀身が視認できない殲滅形態だが、驚く事にNINJAは無傷で立っていた……いや鋼糸で雁字搦めになってるのかコレ?
「え、カラムスさんなんでそんな使い方出来るんですか? と言うか、そんな細かい動作出来たのか『フィエルテ』……」
「今日、我が主からとある装飾品を賜ってな。装備したら前以上に相棒を使いこなせるようになった」
「そ、そうですか……」
軽く口元がヒクついてる、多分渡されたのって『錬金術師の卵』だよな……魔力の総量が上がったから使いこなせるって事か?
「お前、本当に何を作ったらこんな物が出来るんだ……いや説明はするなよ? 胃が保つ気がせん」
まぁ、そうですよね……多分渡す時の都市長も発狂手前だったろうし。
「おい、娘。動かない方がいいぞ、コイツの斬れ味はミスリルすら容易く切り裂く。都市最高のクラフターが鍛え私の魔力で強化した特別製だ、抵抗は諦めろ」
主である都市長を置いて俺を都市最高と言うカラムスさんだが、次期工匠長って肩書で止まってるんだけどな。
そして、カラムスさんからそう言われたNINJAは暗器を取ろうとして僅かに動いたのだろう。身体の何カ所からか血が流れている。殲滅形態と名付けたのは細かい操作不可の広域攻撃形態として作成したからなのだが、意味不明なレベルで使いこなしてるな。あとカラムスさん、ミスリル斬れるは盛りすぎですよ。
「天狗さん、多分もう分かってるでしょ貴方。と言うか、多分俺と戦うってなった時に俺の事で何か気付いたでしょ?」
「……はぁ、正面戦闘に対する腕前を見ようと思ったのだがな。そちらで及ばぬと見たら私の癖を読み取って罠を仕掛けるとは……」
「人間は弱いから弱者なりの戦い方をするしか無いんだよ。俺達弱者が強者の矜持を理解出来ないように、弱者の足掻きを君達強者は理解が出来ない……そうだろ?」
「そうだな。そして、それが人間の強さだ」
天狗さんが俺の言葉に同意した。誤魔化しているが、俺の質問内容で俺を誰なのかも理解している。
「ジュロン、悪いが此奴等はコレから入管管理局に連れていった後に中枢に連れていく。流石に外交長が黙ってられないそうだ」
「ですよね」
天狗さんには悪いがNINJAの面倒を見れなかった事は連帯責任で怒られて貰おう、むしろ監督責任者として当然の扱いかもなコレは。
カラムスさんに首根っこ掴まれたNINJAは何処となくショボンとした雰囲気であり、哀愁を誘うが……ござるの時から考えて擬態の可能性も有るんだよな。
天狗さんはむしろ協力的で、NINJAが何かしようとしたらしばく気満々である。あの拳骨落とした時って演技でも何でも無く本気だったんだな、やっぱり苦労人か。……鴉だけにクロウ、オヤジか俺は。
「あ、天狗さん」
「む、なんだろうか鍛冶師殿」
「刀なんですけど、返却ちょっと待ってください。水場じゃないとトリモチちゃんと落とせないんで」
「ああ、そういう事なら気にしないで欲しい。少なくともこの駄狐が手続きを終わらせ、お偉方から説教をされた後でないと受け取れませぬ」
「ご協力ありがとう御座います。何と言うか……諜報とかは優秀なんでしょうけど、潜伏とか苦手そうですねあのNINJA」
「ご理解頂けたようで……あの、何故忍者という言葉を?」
「まぁ、色々ありまして」
世間話を挟みつつ入管管理局に到着する。完全武装の警備兵と怒り心頭と言った姿の職員が中で待ち受けていて、早速取調室じみた個室へ連行されて行く。何やら途中で天狗さんに泣き縋って同行を求めていたが、当の天狗さんには足蹴にされそのまま警備兵に連れられて行った。
「ご主人、助けてでござる!」
「天狗さん、呼んでますよ」
「私はアレの主人になった覚えは有りません。鍛冶師殿では?」
「行倒れてて餌は与えましたが生憎飼うつもりは有りませんね」
ござる口調に戻したNINJAが部屋に連れられ、某名探偵のアニメでCM入りする時を思わせる重々しさで扉が閉まった。
「どれぐらい掛かりますかね、1時間とか?」
「いや、一刻だな。前回逃げだしたのが二刻との事だ、半分の時間で終わらせるだろう」
天狗さんとそんな話をしつつ、カラムスさんに『フィエルテ』の調子を確認したりで時間を潰す。気付けば1時間が過ぎ、更に三十分が経ち……遂には2時間経った。
「……これ、もう1時間コースかな」
「流石に話が通じなさ過ぎだろう、何をやっているのだアイツは」
「……ジュロン、私は一度主の所へ戻る。相手方との話し合いの準備も有るので、な」
「あ、はい。お願いします」
俺と天狗さんで時間についての賭けを外した事でどれだけ時間が掛かるのか分からなくなった。カラムスさんは都市長と当主代行との遠距離通信の用意をしなければならないからこの場を去っていく。
「……ジュロン、やはり」
「で、俺が情報をそれなりに知ってた理由は分かりましたか?」
「ああ、お嬢様の為に我々の事を明らかにしようとしていた事も含めてな」
当主代行から名前はやはり聞いていたらしい、あの場では俺自身名乗っていないが外交担当の人達から伝わっているだろうと思っていた。
「で、あのNINJAの調書は何時終わるんだ……」
「コレでは我々だけが貧乏籤だな……」
天狗さんと揃ってため息を吐く、通信が終わったら深夜とか無いよな?
「すみません、ジュロンさんとヒナギクさん。よろしいですな?」
そんな時だ、疲れ切った雰囲気の職員さんから声を掛けられた。と言うか、天狗さんはヒナギクと言うのか。
「えっと、何か?」
「お連れ様と話しが通じなくてですね……申し訳ないのですが通訳をお願いしたいのですが」
「「……はい?」」
共通言語で話しているのに通訳とは?
「あの【カツドンダセ】や【ベンゴシヲヨベ】等と申しておりまして……」
「……あんの馬鹿が!」
ヒナギクさんガチギレである。と言うか、あんだけ食っておいて『カツ丼出せ』はねぇだろまだ食う気かよ。
「じゅ……鍛冶師殿!」
あー……その呼び方って事は、上司にガチ説教させるつもりだな?
「なんでしょうか、天狗さん」
俺もさっき聞いた名前は聞かなかった事にする。名乗りは通信の場で、あのNINJAだけ知らなかった状況を作ると。
「申し訳ないが手伝いを願いたい、この都市の方々に通じる言葉にしてほしいのだ」
「同じ共通言語の筈なんだけどなぁ……」
取調室には何故か踏ん反り返るNINJAと、青筋立てて顔を引き攣らせる職員さん達が居た。部屋に入ってきた天狗さんを見たNINJAは顔を明るくさせて、勝ち誇ったかのような雰囲気を出すが……天狗さんがその後頭部に物凄い勢いで拳を叩き込みテーブルへ頭を沈めさせた。
「……お疲れです、協力要請を受けて来ました」
「あっ……」
俺が職員さんに挨拶をすると、何かを察したかのような反応をされた。多分、この人は俺が次期工匠長の打診を受けてる事を知ってる人だ。それと、天狗さんに俺の店の場所を教えてると思う。
「うぅ……何故でござるか、拙者達は同郷の仲間の筈」
「同郷なのはたしかだが、私は正式に手続きを終えていてお前は手続きから逃げて不法入国をしているからだ」
頭を押さえながら呻くNINJAの言葉に対して、天狗さんはバッサリと切り捨てている。
「で、なんでこの都市に来たんだお前」
「むむ、ご主人! その様な乙女の秘密に対して踏み込むなど!!」
「主人になった覚えなんて無いんだが? つか、誤魔化し続けて既に2時間越えてるんだよ。家に同居人達が帰ってきそうでさっさとしたいんだが」
「むむ、しかし……」
「いい加減にしないとお前」
「なんでござろう、拙者はどのような脅しにも屈さないでござるよ!」
「商店通りで買った飯の代金ざっと3万、耳揃えて返して貰うからな。なんなら上司に連絡入れて」
「すみません、ごはん代は勘弁してくださいお願いします」
上司に連絡される事より飯代の請求が怖いって何なんだこのNINJA。因みに後から聞いた話ではこのNINJAの種族は『奢られたと思った食事代を請求されるって女として終わってる』とか意味不明な価値観があるらしい、最悪な認識過ぎないか?
俺と天狗さんが参戦してから15分、調書は終了した。
途中で脱線させようとするNINJAに対して天狗さんの拳と、俺の飯代発言で軌道修正して何とか終わらせた。職員の方々、本当にお疲れ様でした。
「さて、コレで」
「ありがとうでござるよご主人! 拙者、こんなに早く調書が終わるとは思わなかったでごさる!」
「脱線させてたの主にお前の集中力の無さのせいだからな、つかなんで途中途中で方言連発すんのお前」
方言、なんていう柔らかい言い方をしているが何方かといえば語録である。野性味の有りそうな獣な先輩っぽいのとか、高校生の武闘家伝っぽいのとか様々な奴が15分の調書の中で13分程を占めた。いきなりんあーとか言い出した時には思わず「汚い流石NINJAきたない」とか言ってしまった。俺も大概だったな。
「所で鍛冶師殿、この後は?」
「流れ的に二人を連れて行かなきゃならない所が有るんで、そこ迄は同行して貰いますよ」
「やや、もしやお嬢様の所まで!?」
「その前にあんたが交戦した騎士様の所だ、あの人にもちゃんと謝れよ?」
「えー……」
「この駄狐が」
思わず罵倒が溢れる、お前がそもそもちゃんと手続き終えてれば問題無かったんだよ。ほら、天狗さんが凄い目で見てる。
「ところでご主人」
「主人になった記憶は無いな、天狗さんはどうです?」
「私ならもっと賢く躾けていますので違いますね、鍛冶師殿は玩畜を飼う予定はありますか?」
「子供が出来たら命に触れさせたいな、とは思いますけど予定はまだ無いですね」
「おや、お相手は?」
「婚約者は居ますよ、まだ互いに学生なので卒業後とは決めてますが」
「……それは、その」
「あの、流石にこの扱いは傷付くでござるよ?」
天狗さんが何やら複雑そうな表情をする中、NINJAが自己主張する。多分、名前でも聞こうと思ったのだろうがまだ知らせる気は無い。
そうしてNINJAの意識を逸らす会話に勤しみながら、中枢に辿り着く。空は既に暗くなり始めていて、家にはエテル達は帰っているだろう事が予想出来た。出迎えたかったな。
受付の前には仁王立ちしたカラムスさんが立っていた、すげぇ威圧感。
「さて、俺は少し受付に寄っていくからあの騎士様について行ってくれ。あとそこの駄狐はあの騎士様にきっちり謝っておくこと、いいな?」
「えぇ、理不尽でござるよ」
「飯代返すのと謝るのどっちがいい?」
「誠心誠意謝罪させて頂きます」
調書の時から大体コイツの扱い方は分かった、天狗さんはそんな俺を妙な視線で見てくる。俺が受付へと向かうと同時にカラムスさんが歩き出して二人に接触しにいく、俺は二人から意識を外して手続きを行う。身分証として学生証を提示して、更には外交長と都市長に用事だと言えば職員さんは理解してくれた。
というか、俺の名前を見て二度見三度見してたから次期工匠長として伝わってるのかも知れない。卒業後は身分証として腕輪が渡される筈だが、工匠長の場合何か分かり易い違いとか有るんだろうか?
手続きを終えて案内された部屋に入ると、都市長と外交長そしてカラムスさんと妖怪二人が居た。どうやらNINJAはカラムスさんに謝る際に何か有ったらしく、天狗さんに何発か拳骨を貰ったらしい。
「お待たせして申し訳有りません、お疲れ様です都市長に外交長」
「貴方も変なトラブルに巻き込まれるわね……」
「全く、どれだけ待ったと思っているのです。時は金也と遠き東の国で言われているというのに、なんとだらしのない……」
同情混じりの都市長と、厭味ったらしく俺を責めてくる外交長。眼鏡を掛けた神経質そうな都市長よりも年上に見える痩せた男性だ。正直悪いとは思うが、文句は彼処に居る駄狐に言って欲しい。彼奴がまともな対応をしていれば早く終わっていたのだ、仕方ないから当主代行に叱って貰おう。
「まったく、何故先方は貴方の参加を条件としたのか……」
「……それを本気で言っているなら、申し訳無いですがこの場から立ち去って欲しいんですが外交長」
「嫌味に決まっているでしょう、最近の若者はユーモアも理解しない」
「今のがユーモアだと思うなら貴方に他人と話す能力は無いですね、失言で他国と問題起こす前にその立場を辞しては?」
喧嘩売ってくるなら買うぞ? 原作で顔も見せない外交長だったが、こんな人物とか……そういえば原作だと物語開始前に前任が問題を起こして更迭されたなんてテキストが有ったか? この外交長ではないと思うが、いやまさか。
「ほら、戯れてないで恰好を整えなさい。向こうは特に貴方を重要視してるんだから」
「いや、確かに最初に接触したのは俺ですし面倒も見てますけど……」
「本国からは貴方を使って縁を作ろうなんて話も上がってるのよ」
「えぇ……エテルが居るのに」
「国の思惑に個人の意思が反映されるのなんて、余程の例外でもないとあり得ないわよ」
「……エテルを裏切れと国が言うなら、俺は出ていきますよ」
「前にも言ったでしょ、カラムスを引き連れてでも止めるって」
都市長のこの弁、余程本国の方で俺の扱いが重くなったらしいな。もしや『錬金術師の卵』が影響したか? 向こうでアレの意味を理解されたら重要度も上がるか……やらかしたな。
「まったく、コレだから子供は……」
「その子供の発明や技術にすら追い付けない老耄と自分から言って楽しいとか凄い被虐趣味ですね、気持ち悪いから外で出すのやめた方がいいですよ」
「……何ですって?」
「あ、やべ本音が」
あまりにもムカついたから心の声が漏れた。見れば外交長は青筋立てて睨んで来てる、やっちまったな。
「ふん、高々新機軸の技術を幾つか考えていた程度の若造が偉そうに」
ほう、幾つか考えた程度。都市長から止められて流通出来ないだけだけどな?
「その新機軸の発明を何百年と歴史を持つ都市のクラフターが再現出来てない現状見えてないとかウケる、外に目を向けてばっかで足元お留守なんじゃないですか? そんなだから外貨獲得が上手くいってないんでしょ?」
「貴様……」
おっと、青筋からお顔真っ赤で大変効いてらっしゃるご様子。
「あれ、図星でした? ……外交努力とか言ってお姉ちゃんとお酒飲むだけで無駄だったとかやめてくださいよ、都民の血税なんだから」
「分かったような口を」
「あんたが今特権階級として立てているのはこの都市に生きる人達が居るおかげだ。それを忘れて増長し、本来の在り方すら損なうならその椅子から降りろ。お前一人のせいで本国から自治権を疑われたらどうするつもりだ」
嘗ての武将曰く『人は石垣、人は城』礎無き国など有りはしない。そこを履き違えて蔑ろにすれば、待ってるのは破滅。そんなのは『ワールウィンド』の義務教育の教科書を見れば幾らでも見つかる。なんでこの大人はそんな事を忘れてしまってるのか。
「次期工匠長風情が偉そうに」
「このクラフトで成り立つ都市でクラフターを下げない方がいいぞ、ボイコットされて供給絶たれて経済が回らなくなったら責任取れないだろアンタじゃ」
因みに、俺は血税使わずにテナント料で研究・開発してるがこの都市に還元はしてるからな。自警団の人達が実際に使ってる所が見れたトリモチランチャーとかトリモチ玉、あんたも世話になったの知ってるんだが?
「……工匠長、そこまでにしなさい」
いい加減空気が最悪に成りかけてたので都市長が介入して来た。仕方ないか、確かに俺の口も大分悪かった。
「はい、分かりました都市長」
「ふん、若造が」
「外交長、発言が目に余ります。虎熊家の当主代行に不快感を与える可能性が見えたのなら退席して頂きますが」
俺だけ注意されて調子に乗った外交長が調子に乗った瞬間、都市長が警告した。俺が諌められた時にもう何も言っちゃ駄目だろ、分かれよ大人なんだから。
「外交の長である私を抜きに、何の権限が有ってそれを命じますか」
「都市の長としての権限ですが、文句がお有りですか?」
工匠長を含めて各分野に対する長を定めているのは、あくまでも都市長の補佐が目的だ。人事その他の最高決定権は本国の皇帝陛下が所持しているが、都市内の最高決定権は都市長が持っている。でなければ、役職ではなく都市の長等と呼ばない。
外交長、普段は都市長が口出ししないから勘違いしてないか?
つか、外交関係で都市内で一番力持ってるのは間違いなく都市長だ。本国でも有数の貴族の家柄らしいのは原作でも仄めかされていたし、原作では戦争が起きそうな時に他の国への繋ぎをしたのが都市長だ。同盟国の盟主や代表が都市長からの言葉で協力を取り付けられていたから、多分顔の広さは軍神様の聖人であるカラムスさん以上だろう。
世界でも有数の規模を持つ宗派の聖人をして顔の広さで負ける都市長とか、本当に何なんだろうな?
外交長が押し黙った姿を見て胸がスカッとするが、コレで調子に乗れば次に俺が怒られる。今回は呼ばれた理由に四葩の様子の確認も有るだろうし、気を引き締めていこう。
「あ、都市長……」
「何かしら、と言うかなんで小声」
「いえ、四葩……虎熊のお姫様が例の事件に介入する気満々で、下手したら騎士見習いを見たら鏖殺しかねない気の入れようですが報告どうします?」
「……ここに来て胃痛案件増やさないで欲しいわ」
都市長は盛大に溜息を吐く。うん、戦力としては本気で居てほしいんだけど……仮に何かしらの策略で四葩が捕まると外交問題が発生する。つか、内乱に巻き込む事自体が大問題なのだが。
出来ればスキルスロットに余裕を作って『性魔術』スキルを取って耐性を上げて欲しいのだが、この前レベルが30に達したばかりでレベルを上げられる気がしない。四葩のスキル構成も分からないので、現状の何かしらのスキルのランクアップを控えて『性魔術』を取ったとして総合力が低くなる可能性も有る。
「……正直、話したくは無いのだけれど」
「俺は話した方が良いと思いますけどね」
「どうせ、あの子が大切だから安全な場所にいて欲しいんでしょ。エテルは連れていく気なくせに」
「エテルと俺は一蓮托生、互いがいないと生きていけませんので。アイツはそうじゃない」
あの告白を思い出せばまだ胸が痛むが、だからこそ彼奴には生きていて欲しい。俺が不幸にしてしまうから、俺の居ない所なら幸せになってくれる。そんな甘い幻想だ。
「はぁ……貴方から話しなさい」
「分かってます。それと、後日虎熊のお姫様と当主代行のお話しの場を作ってください」
「当たり前でしょ」
昂然と前を向いて言った都市長は、やっぱり頼りになる姿だ。俺はこの人を継いで工匠長として立派になれるだろうか、努力を欠かせないな。
俺、都市長、カラムスさん、妖怪二人にオマケの外交長が会議室で装置に向き合う。巨大な鏡面の前に立てば、以前と同じ偉丈夫の姿。虎熊家の当主代行が映っていた。
『ふむ、久し振りだのう若き鍛冶師殿。娘は息災かな?』
「お久しぶりです当主代行様。御息女はお元気です、少々此方の文化に触れていただこうと平服を用意させて頂きましたが……やはり故郷の服が恋しい模様です」
『ふむ、異文化交流も積極的と』
「ただ、少々食事を取り難かった様子でしたので此方で箸を作らせて頂きました。やはり手に馴染む食器が一番ですしね」
『ほう、それは心遣い有り難く』
「尤も、手慰みじみた物なうえに此方には漆等は無いために木材そのままの質素な物になりますが」
『構うまい、手に馴染めばそれ以上は求めぬが虎熊の教育よ』
「あ、あの……」
俺と当主代行が四葩の事であれこれとやり取りをしていると、NINJAが話し掛けてきた。うん、そろそろだと思ったぞ。
「な、何故ご主人がお嬢様のお話しを当主代行様と……?」
「何故もなにも、俺が虎熊四葩を保護している家の持ち主だからだが?」
「ひょえぇぇぇぇぇぇぇぇえぇ!?」
「やはりそうですよね……」
変な悲鳴を上げるNINJAと、やはりと納得した様子の天狗さん。
「で、当主代行との会話に割って入ってきた訳だが……そろそろ報告しなきゃな?」
「ひぇ!? ま、待つでござる!?」
「誰が待つか、散々待たされた身にもなれや駄狐!」
俺に縋り付くNINJAの姿を見て、当主代行が額に手を当てた。
なるほど、コイツよくこういう事をやらかしてるな?
「正式な入管管理局の手続きを拒否って天狗さんを三日三晩待ち惚けさせ、挙句には街中で行倒れ! 俺が偶々ぶつかって面倒見たから良かったが、相手如何では裏に持ち帰られて二度と表に出て来れなかった可能性だって有るんだからな!!」
「きゅうん!?」
「お前、見た目が美人で男の欲望の捌け口になる容姿だって事を理解しろ! 何か有った後じゃ遅いんだよ!!」
「……ふぇ?」
「あ、お嬢様こういう所でやられたな?」
俺の言葉でNINJAが呆けた顔をしたら、天狗さんが何か小声で言っているみたいだが頭に入ってこない。
「挙句、俺と天狗さん同行で入管管理局に戻れば2時間も何をやってやがる! もう少し考えて生きろお前!!」
「ほ、褒められたり貶されたりが忙しくて感情の置き場に困るでござる!?」
何か顔を赤くしてるNINJAは取り敢えず置いとくとして、俺は画面の方へ向き直る。当主代行の額にぶっとい血管が浮いてら。
『イチゲ! 貴様、あれ程大人しくしろと言い含めてそれか!!』
「きゅうん!?」
当主代行に滅茶苦茶怒られてるNINJA……イチゲってのは多分コイツの名前か? わかんなければ最悪ござるって呼ぶところだった。
天狗さんは何やら俺の言動で不思議がっている様子だ、まぁ自分達の探し人を保護している相手に刃を向けておいてその事を報告する気配が見えないのは疑いもするか?
「だ、大体雛菊が悪いんでござるよ! 拙者一人で書類なんて出来る筈が無いでござる!!」
「開き直るなこの駄狐!」
『そもそもお前が反対を押し切って迎えに参加したのだろうが!』
コレは説教が長引きそうだ。
イチゲ(花:牡丹一華)リメイク版キャラエロあり
雛菊(花:雛菊)リメイク版キャラエロあり
【白詰草】
ゲーム『DAWN〜深く深い闇の先でRe:make〜』追加イベント。
ランダムイベント【鬼哭】を特定条件でクリアすると発生フラグが建つ。遥か遠い国より人探しをする二人の女性が『ワールウィンド』に流れ着き、主人公スミスと接触する。交流を深めていく中である人物の姿を見て驚愕と失望、そして怒りをスミスへと向ける。非常に強力な敵ユニット2体と戦闘し、勝利する事で隷属させられる。
この小説は……
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永遠と愛の絆
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寛容と一途な愛
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信念と翼
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鎚を包む花束
-
誠実と誇り
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都市長いっとけ都市長
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年増園
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太陽の笑顔
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星の微笑み
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太陽と星
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娘さん、親父殿を俺にください