既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
虎熊関連イベント継続中。
駄狐と天狗さんを押し付けられた俺は、部屋は有るが掃除が出来ていない事などを伝える。最悪、一晩は別で過ごして貰って朝に片付けをさせてもらいたい。
問題が有るとすれば明日は学園の登校日である事だろう、流石にシャムスとエストの様子を見たいので休む訳にもいかない。
日中は四葩に家でお留守番をしてもらう事となるが、まだ家事になれてない彼奴に部屋の片付けとか無理だろうと思う。なれない片付けで逆に散らかして泣きそうになる姿が簡単に浮かぶ。
お迎え二人も実は天狗さんが怪しいと思ってる、近衛とかやる人間が家事にかまけていられるのか。
逆に駄狐はそこら辺卒なくこなしてそうなイメージが何故か有る、何故かは分からないが。
『ところで気になっていた事をいいだろうか、タタラ殿』
「あ、はい。なんでしょうか?」
俺の言葉を静かに聞いていた当主代行が、言葉の切れ目に合わせて質問を挟んできた。
『何時から君は……我が娘を名前で呼ぶようになったのかね?』
「あ」
しまった、普段から名前で呼んでたからやらかした。
『以前はそんな素振りを見せていなかっただろう? ならば、共に過ごす内にそう変化したはず……もしや娘に無体を働いてはいないだろうな?』
丁寧な口調がだんだんと剥がれていき、最後にはド低音でドスの効いた声に変わっていた。奥さんに後頭部を殴られて沈んでいた姿に見合わない、物凄い威圧感を放つ姿……これが当主代行の本気か。
どうしよう、本人から名前で呼んで欲しいって言われたからそうしてるとか事実を伝えても火に油を注ぐ結果しか見えない。
「その……えっと……」
『君の事だ、何も切っ掛けもなく無許可で呼んでいる訳では無いだろう事は予測がつく。正直に言いなさい、先生怒らないから』
「ぶちギレフラグでござるな、ウケる」
「馬鹿、此方に飛び火するような発言をするな!」
お迎え二人、普通に聞こえてるからな。
ええい、恨むぞ四葩。
「……家名で呼ばれるのは距離を感じて寂しいと、そう言われまして」
口に出そうとしなかった思いまで言ってしまった感は有るが、四葩の感情はつまるところコレだろうと予想がつく。あの元気で明るい四葩でも、文化の違いから名を気軽に呼び合う中で一人だけ家名で呼ぶ俺に距離を感じてしまったのだと思う。
初めて出会ったあの日、ここで通信をしている時に当主代行が溢した言葉の『遂に友達が出来たのか!?』は多分本当に友達が居なかったのだ。歳が近そうなお迎えの二人は名前で呼んでいるがその実『仕えてる家のお嬢様』の距離感で接しているのを感じる……全員『虎熊』だし名前で呼ばないと判別付かないだろうからそれが普通だろう。
『……君は、相手が許すならば名前を呼ぶのかね?』
「むしろ相手の許可なく名前で呼ぶ事なんて有りませんよ」
『相手が未婚の娘で、君の態度で周囲から勘違いを招くとしても?』
「既婚者に対しての方が疑惑を招くだろそれは」
『……たまに君、本音が出る時口調荒れるな?』
「んん、失礼しました。育ちが悪いので」
『息子の反抗期を思い出すからそこ迄不快では無いが、儂以外には気を付けなさい』
何か、結構寛容な対応をされているな? 何か当主代行がそんな対応になる事をしただろうか、親ってのはよくわからないな。
『では少し、政治の話に戻ろう。君の家に我が家に直接繋がる転移門を作るが、その魔力等はどう賄うのかね?』
「家が龍脈の上に建っているので、そこから魔力を汲み上げるつもりです。足りないようなら『錬金術師の卵』で家庭用の魔力炉を作ってそれで賄います」
『家庭用の魔力炉……』
『あなた、タタラさんの発想にツッコミや疑問を抱いたら日付が変わりますよ』
「既に奥様がタタラ殿の扱いを決めているな……」
「残当でござる」
おう、好き勝手言ってくれるなあんたら。そして都市長、胃痛仲間を見付けたみたいな雰囲気を出すな。
『我が家にもその家庭用魔力炉を作っては貰えるかね?』
「ご依頼とあらば……あ、都市長コレって」
「都市外からの依頼だから鉄製品云々の制限は無いわよ」
「それもそうですけど……『錬金術師の卵』とそれを加工する技術料って幾らになるんです?」
「……」
都市長が俺の言葉に渋い顔をする。おっちゃんのパーティとカラムスさんに合わせて五個の『錬金術師の卵』を作った際に、都市長は金額を全額持つと言ったが具体的な金額を言っていなかった。その為、俺はこの場で値段を言えない。
「まだ決まった訳では無い、私の見解を言うわね?」
「何か怖いんですが……」
「ふふ、安心しなさい……『錬金術師の卵』だけで9000万は余裕で越えるわ」
「億には届かなくて安心すればいいんですかねコレ……」
『この出力だけで1億を切るなら安いと思うが……』
「……最低で9000万よ? 私や他の人間に求められる技術的な敷居の高さ如何では余裕で三億に届くわよこれ」
「え」
『……そ、それでも三億なら』
「それでもタタラが作った上での技術料、他国や他のクラフターが作った際の特許料は五億は硬いわね。年間使用料に至っては十億ってところかしら?」
「都市長、何か胃が痛くなってきたんですが」
不労所得だけで一生遊んで暮らせていけそうなんですが。子供の為にも貯めておくべきなのは分かるが、身を崩しそうで怖い。
「それをさらに家庭用の魔力炉にするとか数十億の国が対応するようなプロジェクトみたいな金額になるわね、虎熊家の財布吹き飛んだりしないかしら?」
『た、貯えは有るから耐えられるが……出来ればローンでお願いしたい』
「……年間使用料を月で割って、その分の支払いもやってたら地獄じゃねコレ」
『……財政傾くなやっぱり』
『しかし、使用される魔石の購入額を考えれば数年で黒字になります。それに、1000世帯の家を賄える魔力量ならばその世帯から月ごとに魔力代を収集すれば年間使用料は問題なくなります』
一応、元の金額よりは割引と約束したし……四葩の実家だから安くしたいのが内心だが俺が下手に技術を安売りすると『ワールウィンド』そのものが安く見られて買い叩かれる。ダルマさんが言っていた事が国にも起こり得ると俺は思ってる……せめて何か手があれば。
『……安くする手段、例えば虎熊家とタタラさんが身内になる事で魔力炉を一つ有効の架け橋として寄贈と言うのはどうでしょう』
それは、奥さんから漏れ出た提案だった。身内、とは?
『お前、それは……』
『卑怯、卑劣な手段とは思っています。ですが、財政を逼迫するのもまた事実……ならばタタラさんに金銭に匹敵するモノを貰って頂ければ、と』
待て、何を言おうとしている?
やめてくれ、そんな言葉を聞かせないでくれ。
『タタラさん、我が家の末娘……四葩を差し上げますので魔力炉を一つ頂ければと思います』
「っざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」
駄目だ、抑えが効かない。それだけは赦せない。
「お前っ四葩の親だろう! なに娘をモノみたいに扱ってやがる!!」
『コレは異な事を。貴族ですから、このような事は幾らでも見られましょう? 貴方が見ていないだけで、そちらの都市長様も同じような経験が有るかも知れませんよ?』
「都市長の話も貴族の話もしてねぇよ! 俺は! お前が! 親として子を駒として見ることに恥もねぇのかって聞いてんだよ!!」
ヘラヘラ笑ってんじゃねぇ。俺よりも長く触れ合って愛情を注いだ娘だろう、何を魔力炉一つで手放そうとしてやがる。
四葩を、あの優しくて強い少女を安く見るんじゃねぇ。
「お前は親なのに分からねぇのか、四葩がどれだけお前達を愛してるのかを! 教えられた舞をどれだけ大切なものだと思っているのかを! 愛した人から裏切られたあいつがどれだけ傷付くか分からねぇのかよ!?」
『それこそ、生まれた家にそして領地に貢献できて喜ぶでしょう。タタラさんは分からないかも知れませんが……あの子は貴族ですよ』
「貴族の前に1人の女の子だろうが! お前達に駒として使われるくらいなら俺が貰ってやる! 魔力炉も好きなだけくれてやる! だから! 二度と! 四葩を道具として扱うな!!」
『ええ……言質、頂きました!』
「……え?」
あれ、急に雰囲気が。
「……タタラ、貴方」
「あ、え……あれ?」
ゆっくりと自分の言葉を思い出す。失礼な事を言った以上に、何か取り返しの付かない事を言った気がする。
口元を隠した奥さんがすげぇ楽しそうに笑っている。
俺、本気でやらかしたかも知れない。
「……令嬢一人に対して数十億の魔力炉を複数出す、完全に赤字ですね」
外交長のそんな言葉が届いた。いや、別にそれは問題では無いんだが。素材を集めれば作れるし。年間使用料とかも実際は煩わしくてどうでもいい。それ以上に、俺……四葩をどうするって言ったっけ?
「まったく、コレだから子供は困りますね。感情に任せて勢いばかり、交渉のコの字も分かっていない。おかげで我が都市に対する赤字を生むとは……コレでは工匠長としての適性も怪しい」
何か聞こえてくるけど、俺は四葩が道具にされるくらいなら貰うとか言ったな? つまり、エテルが居るのに四葩と……裏切り者じゃん俺。
裏切り者、エテルの想いを裏切る最低野郎。その事実に膝をつき項垂れる。感情を制御出来ないゴミじゃん、四葩の未来まで潰して……何やってんだ俺。
「凄い見事なorzでござるな、まさに敗者の姿にござる。誉は此処に死んだにござるな」
「むしろ、奥様は先程見せた姿に天晴と言わんばかりですがね」
護衛二人も何か言ってる、意味が頭に入らない。
「俺は……エテルを、裏切ったのか……ごめんエテル……ごめん」
涙が溢れてくる。
『華澄、流石に趣味が悪過ぎるだろう。彼の誠実さは分かっていた筈だ、あのような言葉を吐けば過剰に反応するのも当然だ』
『あら、大分お認めなのですねあなた』
『お前がそれを言うか? 何方の言質を取りたかったのかは知らんが、流石に擁護出来んぞこれは』
頭の上から当主代行と奥さんの声が聞こえてくる、俺の言葉で断交辺りの相談かな……はは。マイナスしか生んでなくてウケる。
「父上! 母上!」
そんな時、四葩が会議室へ入ってくる。え、なんで?
「なんでって顔してるわね?」
「いや、本当になんで」
「大分前にカラムスをダンジョンの方に迎えに行かせてたのよ、丁度良く出て来た所だから運が良かったわね」
いや、それでもこのタイミングって神がかってないか?
『おお、四葩! 元気そうだの!! それがそちらの文化の鎧か? 似合っているではないか!!』
当主代行の嬉しそうな声が上がる。久し振りに見る娘の姿に嬉しさを隠せないのだろう、こういう所が好ましい人だな。
『……四葩、元気そうですね』
「母上! はい、妾は元気です!」
満面の笑みを浮かべる四葩だが、奥さんは何か気になる所があるらしい。
『一つ確認したいのだけど……その鎧、タタラさんの作かしら?』
「? はい、そうなのじゃ」
奥さんは口元を押さえて何か考え込んでいる様子だ。
改めて四葩に目を向けると髪の毛先が焦げて縮れていた。
「おい、四葩。お前その髪……」
「む、ああコレか。『ゴブリン』どもに囲まれた時に、少々な。魔術師複数からの魔法は避けきれんかった……その一発が【火矢】だったのじゃ」
あっけらかんと答えられる。しかし、俺はその言葉を半分くらいしか認識していない。
「駄狐、椅子」
「ふぇ?」
「椅子、だ。早くしろ」
「あ、え」
「聞こえないのか?」
「は、はいぃ!?」
俺の言葉が分からなかったらしい、繰り返してようやく理解してくれた。やはり駄狐か。
「うぉ、一華か? お主、なぜ領から出ておるのじゃ?」
「勝手に天狗さんについて来たらしい、さっきお前のお父さんと天狗さんに揃って怒られてた」
「天狗さん……おぉ、雛菊じゃ! お主、帝の防人しとったんじゃないのかの?」
「あっと、ご当主様に命じられて……」
「うむ、そうか。……ところで、なんでタタラは怒っとるのじゃ?」
怒ってる? 俺が? 確かにさっき激昂したが……俺の短絡的な思考のせいだな。
「いや、今は大丈夫だ」
「……そう、かのう?」
「い、椅子をお持ちしましたご主人!」
俺と四葩の会話が終わるタイミングで駄狐が椅子を持ってきた。俺は四葩を座らせて、インベントリから家で使っているドライヤーを取り出した。
「都市長、魔力借ります」
「……はぁ、流石にそれを此処でやる?」
「時間が経てば間に合わなくなります、さっさとやるに限る」
「た、タタラ?」
「お前は大人しく座ってろ」
近くの供給口から魔力を引き、ドライヤーを起動させる。傷薬を噴霧して四葩の髪に塗布するが、やはり鬼の身体には普通の傷薬が通じない。
「タタラ、何を怒っておるんじゃ!? 妾の髪が焼けたのがそんなにいけなかったか!?」
「当たり前だろ! お前、こんな丁寧に手入れして綺麗に保ってたんだろ!? 自分を蔑ろにすんな!!」
「何故か知らんがタタラにだけは言われたくない無いぞその台詞!?」
ドライヤーに嵌まっている傷薬の瓶を外し、インベントリから祝福の癒薬を取り出して装填する。此方は直ぐに効果を発揮し、髪が美しさを取り戻していく。
「ちょ、タタラ!? それ貴重なもんじゃろうが!」
「うるせぇ、お前が自分を大切にしないなら俺やエテルがそれ以上に大切にしてやるんだよ! また教会に寄進すれば一本二本は貰えるんだ、コレくらい大した事はない! いいからお前は大人しく俺に身を預けてろ!!」
この言葉がとどめになったのか、四葩は抵抗をやめた。やや俯き気味で髪のケアを受けるその耳と首筋は真っ赤で、身体は少し震えているようだ。
「髪は女の命なんだろ、粗末にすんなよ……」
「……妾はお母さんとかエテルみたいに女の子らしさがそんなに無いもん」
「バカじゃねぇの? お前はお前の良さが有って、二人にだって負けてねぇよ」
「……ほんと?」
「当たり前だろ。お前は真っ直ぐで優しくて、力とは別の強さを持った魅力的な女の子だよ」
「……そっか」
髪が元に戻り、少し乱れていたのを櫛を通して整える。
『……親の前でいちゃつくのはどうかと思うのだがの?』
『ふふ、貴方ったら。会話の途中で割り込まないくらいにはお認めなのに今更そのような体裁を取らなくても』
画面の向こうから四葩の両親からそんな事を言われた。
はっとして顔を上げれば複雑そうな表情の当主代行と、面白くて仕方ないと言わんばかりの奥さんが此方を見ていた。
「あー……確かに、恋人でも無い相手が髪を触るなんて不躾に過ぎたな」
「わ、妾は気にせんから大丈夫じゃ! ま、まぁタタラ以外は認められそうにないがの」
顔を真っ赤にした四葩がそういってフォローを入れてくる。とはいえ、エテルが居る身でこの距離感の近さは俺の感覚が間違っているのだ。少し距離を取らなければならない。
『それで四葩、先程の質問なのですけど』
「はい、母上。この鎧はタタラが作ってくれた物です」
そういえばそんな話をしていたな。見て疑問を持っているという事は、何かの異常が見て取れたと言う事。
『……タタラさん、そちらの鎧はどのような物なのですか?』
「えっと、四葩の身体に合わせた専用の鎧って話では無いですよね……工程としては鍛造鎧なんですが」
『ミスリルの銀糸で編んだ布を使うのは納得出来るのですが……ミスリル銀を鍛造したのですか?』
「ええ、作業は面倒と言うか繊細ですが頑強と言うならこの手法ですからね。ミスリル単体で打っているものなので一つの金属特性しか持ちえませんが」
俺の説明を聞いて奥さんは口元を押さえて考え込み始め、都市長は頭を押さえている。そういえば魔法金属の鍛造技法は伝えてなかったか、俺も『錬金術師の卵』が無いと魔力切れ起こす手前の荒業だし制御はキツイしで相当特別な場面でないと作る気はしない代物だしな。
『タタラさん、一つ聞きたいのですが』
「はい、何でしょうか」
『そちらの鎧、銘が見えない……という以上に『鑑定』で情報が一切読み取れないのですが』
「……あ、そういえばまだ銘とか考えて無かったな」
「ふむ、確かに受け取った時から銘を聞いてなかったの」
使用した以上世界が性能を記録してると思ったが、まさか銘とセットじゃないと登録されないのだろうか?
「銘……銘かぁ」
「なんじゃ、タタラは名付けが苦手かの?」
「苦手だよ、安直になるし」
「安直、か……私は贈られた剣の銘を気に入っているがな」
俺と四葩のやり取りを聞いていたカラムスさんがそんな感想を伝えてくれた。とはいえ、此方にも有ったがあれは前世の異国の言葉で『誇り』なんていう安直さだ。タチアの鎧も『翼』だし、俺にその辺りの命名についてセンスは無い。
「付けるとして……『紫陽花』かやはり」
「……それは確かに安直扱いされるの」
「なら四葩が付けてくれ」
「いやじゃ、タタラの子供みたいなもんじゃしタタラが付けるべきじゃ」
「そういうの良くないと思う」
ただ、このやり取りで銘が登録されたのだろう。慣れてきた何かが繋がる感覚がした。
『……紫陽花、ですか』
「安直も安直ですけどね」
『あら、四葩の名前が何か分かるのですね?』
「まぁ、その……はい」
前世知識とか言えないが、まぁ運命の迷い子を調べ上げたって点から俺が其の辺の言葉を分かっててもおかしくはないだろう。
『しかし、魔法金属を鍛造出来るとは驚きですね』
「製法自体はありふれてますけどね、魔力制御が繊細かつ打ち上がるまで継続しないとダメですが出来は良いと思いますよ」
『良いと思います、なんて出来では無いですけどねこれは』
「それよりもタタラ、貴方何で魔法金属を鍛造出来るのよ」
「魔鉄作製の応用ですよ、俺がそもそも金属ならアプローチが少し違うだけで同じように鍛えられるナマモノなのは知っているでしょ都市長」
「最早自分の事を生き物と言わないのね……」
「最近の俺の扱いなんてこうでしょ」
もう開き直ってるよそこら辺。
『……此方の鍛冶師を送るという話だが、必要なのかこれは』
「是非とも技を教えて欲しいですね、俺が伝えられる技も教えるので是非とも互いの国の発展に繋げたいです」
『……分かった。偏屈だが腕の良い鍛冶師をそちらへ送らせて貰おう、転移門の作製はどれくらいになるかね?』
「生憎と明日は学業が有るのですぐには無理ですね、早くても明日の夕方です」
『ふむ……何時になると?』
「明日の夕方です」
『……早すぎんか?』
「失礼ながら虎熊家のご当主様、私の剣も3時間で作るイカレ具合なので今更です」
「妾の鎧と鉄扇も一晩で形にして翌朝共に調整したの」
『……早すぎんか!?』
『タタラさん、此方の国へ参りませんか? ちょっと鍛治についてのお話しと、出来れば複数の相手に胤を撒いて頂きたいのですが』
「一気にカオス」
「拙者、体よく母体にされそうでござる」
「私も使われかねなくないか、これ」
俄に騒がしくなり始めた会議室、ツッコミがカラムスさんしか居ないのにツッコミ入れないから話が散らかってる。
これ、仮に四葩の『鑑定』について話したら収集付かないかな? 次の機会に話すか。
「でもそっか、転移門が出来たら四葩は帰っちゃうんだよな……寂しくなるよ」
「む? 妾は帰らんぞ」
『「……は?」』
四葩の発言に思わず俺と当主代行の声が重なる。
「いや、折角なんだし家族との時間を作りに帰ろうよ」
『そ、そうだぞ四葩。儂も一日千秋の思いで待ち望んでおるからな!』
「嫌なものは嫌じゃ。エテルとタチアも離れ難いし、タタラの事だから妾が実家に帰っている間に門を閉じて事が終わるまで開かん可能性も有るからの」
やべ、読まれてた。
『……タタラ殿、事とは何の事かね?』
「げ」
咄嗟に都市長を見れば、溜息を一つ吐いた後に覚悟を決めた表情をする。尻拭いさせてすみません。
「……これは我が都市における恥部であり、問題です。コレをお話しになるのは最悪、四葩様の力をお借りするという事になります」
『都市長様、四葩の力を借りたい程の事態なのですか?』
「ええ、出来れば護衛の御二方も込みで……ですね」
都市内の秘密として隠すのではなく、共有する事での協力要請か。国の政治は難しくて分からないが、四葩の帰国に繋がってくれるだろうか?
そして都市長の口から伝えられる、騎士学校の学生達が引き起こすであろうクーデターについて。外交長が取り乱すかと思ったが、事前に知っていたのだろう落ち着いている。腐っても一部門の長か。
『……そのような内乱に、娘を巻き込もうとは』
「申し訳有りません、出来れば四葩を速やかに帰国させたいのですが」
「だから、妾は嫌だと言っておろう。強制するならタタラが妾に子を孕ませて戦線離脱の理由を作りでもせんと帰らんぞ」
「理由作りで子作りさせようとしてんじゃねぇよ」
『出来ればタタラさんと婚約者のエテルさんだけでも此方に引き取りたいですね』
「ドサクサに紛れて囲い込もうとしてるんじゃねぇでやがりますよ」
心配する当主代行に対して強かに俺とエテルを抱き込もうとする奥さんで温度差が凄い、四葩の事で欠片程も心配してないらしい。
「父上、妾の意思は以前から変わりません」
真っ直ぐに画面に向かい、四葩が声を上げる。そっと隣にいる俺の服の袖を掴んでくるが、当人は無意識らしい。
「妾は、この人と生きていきたい。どうか許してほしいのじゃ」
『……頑固なのは誰に似たのかのぅ』
盛大に溜息を吐いた当主代行と、しっかりと四葩の姿を見詰める奥さんの姿が対照的に見えた。
『四葩、無事に帰ってきなさい』
「はい、母上」
そんな母娘二人のやり取りを眺めつつ、俺は当主代行に視線を向ける。バッチリと目が合い、強い圧を向けられた。
『タタラ殿、くれぐれも娘を宜しく頼む』
「はい、無事に帰します。それに、転移門の起動についても徹底的に対策します。最悪、俺かエテルが死んだ場合は転移門が自動で崩壊するように設定しておきます」
『……侵攻を防ぐためとはいえ覚悟決まり過ぎだろう、学生の身分で』
俺だって工匠長を任ぜられた人間だ、それくらいの責任感を持つ。
「そういえば気になっておったのじゃが」
そうして話が進む中、四葩が疑問を口にした。
「何故、妾が部屋に入る少し前にタタラはキレて怒鳴っておったのじゃ」
沈黙が場を支配した。冷や汗が流れ始めた俺と、画面の向こうでニヤニヤし始めた奥さん。この人、実は鬼じゃなくて女狐じゃね?
「あ、いや……えっと」
『少し、愛が強かっただけですよ四葩。気にしては可哀想です』
フォローに見せかけた死体蹴り入れてきやがった。当主代行は複雑そうな顔で無言を貫いている、頼むから止めてくれ。
「ふむ、それなら何時ものタタラじゃな」
「お前の中の俺はどうなってるんだ?」
四葩は何でか変に納得してるし。思わず溜息を零せば背中を撫でられる、視線を向ければ駄狐が俺の背中を擦っていた。
「拙者さぁ……胃薬有るんだけど、飲んどかない?」
「微妙に語録で汚い気遣いなのなんなの?」
口では文句を言ってしまうが気遣いに感謝して貰う、水無しで飲めるタイプな辺り普通に気の使い方は上手いんだな。この世界、オーバードーズの概念が薄いらしく前世のように多量の服用を避けるためにそういった効果を含む物を入れていない。その影響か、駄狐の胃薬は喉と胃の中をスッキリさせるミントにも似た風味があって飲みやすかった。水無しかつこの風味の組み合わせは普通に食後の胃もたれにも良さそうだな。
「……タタラは、一華の言葉遣いで忌避せんのじゃな?」
「は?」
四葩からの言葉に疑問を持つ。確かに汚い語録だったりするが、普通に会話してくれるから助かるまであるが。
「俺だって言葉遣い綺麗な訳でもないのに、他人を拒絶するような攻撃性も無いのに忌避しないだろ」
「……そうかそうか、やはりタタラはタタラじゃの」
「そうか、つまりご主人は
「何故そこでエーミール……」
この世界にあの文学ってあったっけ……? いや、ゲームでも所々で使われてたから何かしら有るのかも知れない。義務教育では習わなかったが。
何故か凄い顔をしてる当主代行に疑問を持ちつつ、そろそろ明日に響きそうなので場を辞する事を願い出る。
「申し訳御座いませんが、明日に障りそうなのでそろそろ」
『あ……うむ、学舎が有るのならそれも当然だな』
『そうですね。四葩、タタラさんにあまり迷惑を掛けぬよう』
「はい、承知してるのじゃ」
『よろしい。タタラさん、娘が粗相をしてしまうかも知れませんがどうぞよしなに』
「俺が迷惑を掛けてしまう事も有りますから、持ちつ持たれつでやっていかせて貰います。では、失礼します」
最後に一礼して、俺は四葩と連れたってその場を離れた。
然りげ無くお迎え二人もついて来ていて、そういえばこの二人も家に住まわせるんだよなと思うが突発なので部屋が空いてない。仕方ないから四葩の部屋かリビングを使って貰おう。
家の前に着くと、エテルとタチアが所在なさ気に待っていた。
俺達の姿をみてパッと明るく表情が変わる。
「タタラ!」
「タタラ殿、家が要塞みたいになっているのだが!?」
そういえばタチアには家の防備強化の話はしてなかったか?
「ただいま、二人共。それとおかえり」
「あ、うん! ただいま!!」
エテルが元気よく挨拶を返してくる。そして、俺の後ろにいる見慣れた四葩と見慣れぬ二人組を見てきょとん顔になる。
「トラッちゃんおかえり……そちらのお二人は?」
「ああ、この二人は……四葩のお迎えだ」
「……え?」
ありのままを伝えた結果、エテルは泣きそうな顔になった。
【少年と少女のあの日の想い出】
この世界において有名な官能小説。当然、義務教育で取り扱う事はない。
主人公の『少年』と少女『エーミール』の物語。
二次性徴を迎え女らしくなってきた少女エーミールに女性の身体を見せてほしいと頼み断られ逆上した少年が、親の居ない家に押し入り一人留守番をしていたエーミールを強姦した。賢者モードに入った少年は謝罪するがエーミールは拒絶。家に帰った少年はエーミールの写真を前に行為を思い出し自慰にふける場面で物語は終わっている。
行為の後で涙を堪えて気丈にエーミールが言った台詞『そうか、つまり君はそういうやつなんだな』が有名になり、様々なところで使われる。基本的に物語を知る人間にとってこの台詞を使われる事は最大級の侮辱に取られる。
割かし元の小説を書いた人に殺されても文句を言えない改変である。
尚、タタラの親の書斎にも大人の義務教育として蔵書が残っているし、セルビア・バーラルの書斎にも有った。
そしてエテルは既読である。
この小説は……
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エテル・ネル=バーラルとの物語
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虎熊四葩との物語
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騎士タチアとの物語
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探索者パーティハーレム
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聖人カラムスとの物語
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