既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
形状記憶合金を精製するシャムスとエストだが、意外な事にシャムスが此方を得意としていた。理路整然としているエストはどうやら片付けが苦手なタイプらしく、炭素の配列を整える事に苦戦している。
対してシャムスはどう整えれば炭素が最も効率的な配列になるかが分かるらしく、インゴットの中に絵を描くイメージで炭素を整えている。長じれば形状記憶合金の精製に関しては俺を超える可能性すら見えて、思わず笑ってしまった。
「く、シャムスに負けた……!」
「ふふん、此方は僕の方が上手いみたいだね!」
悔しそうに歯噛みするエストに、ドヤ顔を決めるシャムス。
いいコンビだな、本当に。
「人には得意分野が有るから仕方ないさ、今は苦手でも普通くらいにはそのうち出来る。試行錯誤や模索は得意だろエスト」
「……はい、負けたままは嫌ですからね」
「シャムスは形状記憶合金が得意だし、近いイメージで作れる物はきっと上手く出来る。後は繊細な魔力操作を出来るように心掛ければ魔鉄の成功率も上がると思う、家で出来るトレーニングとして瞑想をするのも有りかもね」
「はい! 先輩の一番弟子として頑張ります!」
「おい、待てシャムス! 一番弟子は俺の方だ!」
またじゃれ合いが始まる。何方が一番弟子、という括りは無いが揃って教え子の0期生とでも言う立場になる。都市長に報告して、なにかの便宜を図って貰えるように頼んでみよう。
「二人は俺の最初の教え子だから何方が一番とかは無しだ、それでも争うなら先に俺の特許関係が全部作れた方が一番って事で」
「「上等、此方が先に全部覚えます!」」
息の揃い具合に大笑いしている最中、今日の終業の鐘を聞いた。
エテルと揃って帰り道を歩く、途中食材を買いつつお留守番をしている四葩達にお土産としてお菓子も少し買っておく。基本甘いものはとことん甘く作る『ワールウィンド』では珍しい甘さ控え目な個人経営の店で、陽出國が日本をベースにしているなら好まれる甘さだと思う。喜んでくれたら俺も嬉しいが。
「「ただいま」」
揃って帰宅の挨拶するも返事は無い、疑問を持った次の瞬間に庭先から凄まじい音が聞こえてきた。
「な、何!?」
「あぁ、多分四葩と護衛二人が鍛錬でもしているんだろうな。今度ウレタン竹刀でも作るか」
重さは違うが武器の当て勘を養うには丁度いい筈だ。
庭先に行けば四葩が護衛二人を相手に攻撃を捌いていた、雰囲気からどうやら『鑑定』を使用しているらしいが二人同時に相手してやるとは凄まじい。俺でも複数同時はそんなに経験が無いのに。
天狗さんの攻撃に刃を合わせて逸らし、勢いにのり振るった刃が駄狐の苦無を弾く。ふと、動きに既視感を覚えた。何故か最近見た何かに似てる。アレは──
「虎熊家の舞、か?」
足運び、刃の軌跡……それらが朝の舞を想起させている事に気付く。ゲーム時代にも『舞踊』スキルは有ったが、精々が『歌唱』と合わせて趣味スキル扱いだった。特定の場面で活かす事は出来たが、イベントやシナリオで密接に関係する物は無かったのですっかり存在を忘れていた。
動きに対して未来予知じみた事が出来るからといっても、天狗さんの攻撃速度はエテルを超える。更に駄狐も忍者らしく攻撃が予測し難い、その二人を相手に圧倒している様子の四葩はやはり頭一つは飛び抜けた強さなのだろう。
十分程続いた模擬戦は終わり、結果軽く息を吐く四葩とかなりの汗を流す天狗さん……殆ど様子の変わらない駄狐の結果になった。帝の守護を任された近衛が汗を流すのに対して、軽い運動で終わったといわんばかりの四葩はまだいいが駄狐は少し異常とも言える戦闘力だ。
「お強く成られましたね、四葩お嬢様」
「鍛錬を怠らない勤勉さは好感が持てるでござる」
語録を混ぜて褒めるな、褒めてるか微妙になるだろ。
「うむ、妾もこの地で腐ってはおらんからな。それに……」
チラと、俺とエテルに視線を向けてくる四葩。
「強くなりたいと思わせてくれる出会いも有ったからの」
「……左様ですか」
「やっぱ好きなんでござるなぁ」
呆れ気味に言うなよ駄狐、ほら天狗さんが拳骨叩き込んでる。
しかし、四葩は駄狐の言葉に呵々と笑い言った。
「うむ! あの二人は好ましい、まさに推しじゃ!」
「……それだけでは無さそうでござるね」
色々察した様子の駄狐は溜息を吐いた後、背筋を伸ばした。
「鍛錬は終わりでいいのか? 飯用意するから手を洗うなりシャワー浴びるなりしてこい」
俺の言葉で動き出す四葩と天狗さん、駄狐は嫌そうな顔で動こうとしない。
「最低でも手を洗わないと飯出さんぞ」
「ご主人……手洗いなんて所詮病気にならない為の予防でござる」
「……語録で何かを言おうとしたのは分かるが、予防に必要だから洗ってこい」
「……選択を間違えたでござるな」
肩を落として洗面所へ向かっていく駄狐、風呂の時もそうだが身体を洗うのが嫌なのだろうか?
エテルと二人で朝に続いて料理をする。不意を突いてキスしたり、エテルが尻尾を身体に絡めてきたりするがいつもの事なので調理を進める。この後はエテル達が探索へ向かうから、欲しくなってもエテルと行為はしない。少しエテルが不満そうに見えるが、そもそも朝まで繋がってた上に風呂の中でヤッてるのでそんな足りなくなってないだろ俺の精気は。
用意したのは赤身魚のフライだ。とはいえ、油の処理が面倒なのでシュニッツェルと同じ調理方の炒め揚げだ。オリーブオイルとバターが表面に付けられたパン粉を香ばしく焼いている。レモン汁やソース類も用意して卓へ並べてる最中に呼び鈴が鳴った。
玄関の先、門扉まで行けば柵の間からタチアの姿が見えた。
「こんにちはだ、タタラ殿。門を開けて欲しいのだが」
「ああ、今開けるよ」
金属どうしの擦過音がしない滑らかさで門が開く、その先には騎士服姿の何時ものタチアが一人立っていた。
「丁度昼飯出来たタイミングでな、食ってってくれよ」
「ああ、頂こう」
俺の提案に嬉しそうに頷くタチア、さてさて俺達の料理は皆を満足させられるかな?
食事は滞りなく終わり、俺は一人食器を片付けている。
途中駄狐が『かけて! 魚にかけて! でござる』とか言ったので目に向けてレモンを絞ってやった。汁が目に入ったのか『ファッ!?』とか反応したあと、床を転がって『目が、目がぁぁぁでござる!!』なんて言ってたが余裕そうなので放っておく一幕は有ったが概ね平和だった。
天狗さんからは資材と座標を貰い、見送った。四葩の護衛に入るなら先に中枢へ許可貰ってくるように言ったがどうするかなあの二人は。
そんな事を考えつつ、魔力が最も集まりその影響で空間に歪みが出来ている箇所にマーキングを行う。歪みといってもかなり小さい物で、このままでは殆ど影響が出ない大きさだ。余程特殊な事態でもなければこの歪みに触れてランダムテレポートなんて起きない影響力で、転移門による行先の固定と大きさの拡大でもしなければ問題は出ない……虎熊家の特殊遺伝子が触れたらその限りでは無さそうだが。
思えば俺達も気を付けているとはいえ、四葩は迷子になってない。本当に迷子因子が有るのかなんて疑うってしまいそうなくらい一緒に行動出来ているが、確かコレは過去作で設定出てたと思う。
運命に出会う為に迷子になる特性であるが為に、運命と出会えたのならその特性が発揮されなくなるとか。嘘か真かは分からない、過去作で虎熊家のヒロインを出した当時のデザイナーがアートブックでのインタビューで答えていたコメントなので眉唾物だ。
ただ、シナリオではキチンと回収されていた様子で、過去作に於いては主人公と出会った為に迷子の頻度が落ち着いていた事や別のヒロインと結ばれると途端に迷子になってしまったと台詞が有った。
四葩の運命が鬼神の腕輪であるなら迷子から脱しているだろうが、俺やエテルの事ならばその限りでは無い。関係の変化が起きて、ある日突然四葩が消えるなんて事も有り得る。運命なんて曖昧な物に大切な仲間を奪われたくは無いが、対応の仕方が分からない。もしも四葩が目の前から消えそうな時、俺はその手を取れるだろうか?
そんなことを考えながら『クラフト』スキルで穴を掘る。受け取った転移門の台座から深さは3m必要と判断し固定する為に広さと深さは少し余裕を持たせて作成、事前に用意しておいたセメントに砕いた魔石や砂に砂利と水を混ぜて流し込み台座を入れる。基部の固定と合わせ魔石を混ぜ込んだ事で、霊脈から魔力を汲み上げる上での効率化を行う。『クラフト』と『創製魔法』の併用で基部の素材である魔石を混ぜたコンクリートを固める。本来なら完全な硬化まで一月近い時間が掛かるのだが、『クラフト』と『創製魔法』により内部の化学反応が魔力反応に促進されて時間を短縮出来る。ファンタジー様々だ。
コンクリートに『鑑定』を掛けて完全に硬化した事を確認して、台座に柱を差し込む作業に移る。陽出國の規格なのか台座と柱には凹凸があり、それを嵌めるようにして完成の手助けをしている。ロボットのプラモデルがこんな感じだったなと思い出しつつ、軽く1tは有る柱に触れる。インベントリから出した『浮身石』を当て、その重量を無くしてから柱を持ち上げる。ゆっくりと台座の溝と柱の突起を合わせて差し込む。柱がそれ以上動かない所まで差し込めば片側が終わる。柱を見上げれば4m程の高さが有る、基部に刺さった分を合わせれば長さ7m有ることになるのだがコレくらいないと地震大国っぽい陽出國では倒れるのかも知れない。尤も、此方は向こう程地盤の強化等は行ってないので根刮ぎぶっ倒れる可能性が有るのだが。
同じ要領で反対の柱も建てて、柱の上に台座の輪を乗せる。その上に反った梁を渡し、その下に空いていた穴へもう一本梁を通す。下の梁には楔を打ち込み固定、物が物なので防腐等を目的に送られてきた塗布剤に砕いた魔石を混ぜて塗る。斑無く塗り『クラフト』で乾かして重ね塗り、そうして5度塗れば木目模様が美しい門が出来上がる。
「……転移門っていうか、これ鳥居だよな」
朱漆等で色は付けていないが、完成したものはどう見ても鳥居である。確かに門ではあるが、この家には神様も居ないのにいいのだろうか? それともこの先住人に神様が増えるフラグとか?
そんな訳ないか、神格を隠そうと神が一つ所に留まる事はまず無い。力を発揮したが最後、その場における魔力の濃度や生態系を崩しかねないからだ。
「取り敢えず、起動するかの確認だな」
座標は入力せず、ランダムテレポートとして転移魔法が稼働するかを確認する。霊脈から汲み上げた魔力で転移門が稼働を始めたのが分かり、組み立ては完璧なのが分かる。そのまま起動していると向こうから侵入を許しそうなので転移門を停止する、鑑定で確認すると結構な魔力消費が確認出来たので家庭用魔力炉の作成を視野に入れる。
そんな風に考えをまとめていると、呼び鈴が鳴った。玄関へ向かえば都市長とカラムスさん、そしておっちゃんとダルマさんが居た。
「えっと、いらっしゃいませ。どうしたんですか?」
「昨日の会談で今日転移門を建てるって言ってたでしょ? 男手を連れてきたのよ」
「そういうことは先に言え」
「俺も理由くらいはいって欲しかったぞ」
都市長の言葉に呆れを含んで言ったおっちゃんとダルマさん、流石にその二人を連れ回すのはどうなのか。それに何より、もう作業終わってるんだよな。
「心遣いはありがたいんですけど、もう終わっちゃってます」
「……夕方まで掛かるとか言ってたわよね?」
「思いの外陽出國の規格がこの手の物を作る上でわかり易くされてて、簡単でしたね」
まぁ、『錬金術師の卵』を持って魔力を回復しつつ『クラフト』と『創製魔法』を併用したコンクリートの速乾なんて力技が出来たからって話では有るが。
「術式の稼働確認も問題無かったですし、後は虎熊家の人達と協議して何時開通するかってだけですね」
「クラフトも分からねぇし学も無いからアレだが……坊主のコレは異常なんじゃねぇのか?」
「タタラにとっては正常よ、他と比較したら禿げるわよ」
「ダルマはもう手遅れだぞ、都市長」
「ハゲてんじゃ無くて剃ってんだよコレは」
俺の作業速度に対して色々思う所が出たらしいダルマさんだったが、都市長とおっちゃんにボロカス言われて溜息吐いてる。
なんかごめんダルマさん。
「ところで、ダルマさん武器と『卵』の調子どう?」
「おう、ご機嫌だぜ! 斧は今まで外皮割れなかった奴等も余裕だし、この『卵』のお陰で技が使い放題で練度を上げるのが楽だぜ! 休みの日も気にせず振って鍛錬出来るからこの歳で成長を実感出来るのも最高だな!!」
ダルマさんは見た目に違わず豪快だけど、豪快さに反して鍛錬を欠かさない。おっちゃんやバカの話を聞くに力押しよりも小手先の技が得意なスタイルなのだそうで、斧を使っているのもそのスタイルを誤認させる事を目的としているかららしい。それでいて力技も得意って言うのだから流石はトップクラスの探索者だ。
「時間は有るし武具のメンテナンス必要なら受付けるよ、ダルマさんとカラムスさんはどう?」
「俺はまだ大丈夫だ、刃がミスリルのお陰で不調は無いな」
「ふむ……私は診て貰っていいだろうか、どうも最近魔力の通りが違和感有ってな」
ダルマさんが断りを入れて、カラムスさんは鞘ごと外して『フィエルテ』を渡してくる。俺は丁寧に預かって、早速工房に向かわせて貰う。
何故か全員ついて来て、公開整備と相成った。
「それじゃ早速」
作業台の上に『フィエルテ』を置き、魔法陣を起動させつつ『鑑定』を掛ける。集中して『概念鑑定』を発動させ、路を見ればかなりの数の澱みが見えた。
カラムスさんの言う不調の理由は単純に言って使用魔力の出力過剰だろう、カラムスさんの魔力が『フィエルテ』に馴染んだ為に柄が調整していた出力が上限を越えてしまったのだ。
早速柄の出力関係の術式を弄る。カラムスさんの魔力に最適化した事を踏まえて調整すれば、初期と同じ出力を消費の半分で済ませられるようになる。そもそも、本人が技を鈍らせない様にリミッターを甘くしていたくらいなのでコレで正常とも言えるが。
次に刀身の中に有る魔力の澱みを整える。魔石の魔力で無理矢理押し流そうとすると、形状記憶合金の路を壊しかねないのでここは丁寧に取り除く。中には潰れかけていた路も有り、このままでは焼き切れる部分が出そうだったので良いタイミングだった。
所要時間20分、普通の武器よりも時間が掛かってしまったが無事に終了だ。
「ふぅ……取り敢えず作業は終わりました、魔力の循環を確認してくれますか?」
「ふむ、分かった」
俺から『フィエルテ』を受け取ったカラムスさんが自身の魔力を流していく、するとその刀身がカラムスさんの魔力で光を放ち始めた。
「……凄いな、調子が凄まじく良い。下手をしたら本山に置いてきた愛剣に並ぶ程くらいの魔力循環だぞ」
何処か興奮気味にそう言ってくるカラムスさん、庭先で試すか聞いたがどれだけの事が出来るか把握出来ているようで、問題無いと言われた。
「……そうだジュロン、一つ頼みが有る」
「え、俺にですか?」
「ああ……『フィエルテ』を作り、かつ転移門を個人で持ったお前だから頼める事だ」
「……もしかして、軍神教会の本山から愛剣持ってくるから武器のバランスを合わせてくれ……とか?」
「分かってくれるなら話は早いな」
「うっそだろ」
この使い方は許されるんだろうか、物の提供は虎熊家だぞあの転移門。
「なに、稼働実験として近場で先ずは試したという体でいれば問題無かろう。虎熊家は娘の安全が確認出来て幸せ、私は愛剣と同じ武器が握れて幸せで何処にも不幸がない」
「俺が怒られたらカラムスさん盾にしますからね……」
「その時は、主として私も怒られてあげるわよ」
都市長が何処か諦めたかの様に溜息を吐いた。まさか都市長がカラムスさんに苦労させられるとは、不思議な物だ。
「と言うか、カラムスさんの武器って持ち出せるんですか?」
「……無理だな。仕方ないからジュロン、私と一緒に総本山へ征くぞ」
「いきなりハードル高ぇなおい」
軍神教会の総本山って現代最大宗派のソレだろ、手ぶらで行けねぇだろそれ。
「……1時間ください」
「む、どうしてだ?」
「手ぶらで行けないんですよ、少なくとも剣の一本でも寄進しなきゃ信者でも無い俺がどんな目に遭うか分かんないんですよ」
「……お前が何に、何をされるというんだ?」
「いや、軍神様がそこ迄狭量とは思いませんけど……他の熱心な信者とか怖いですし」
「……そうか、好きにしろ」
カラムスさんは何か複雑そうな表情である、そりゃ自分と同じ宗派の人間を疑ってるならそうもなるか。
俺は奥の工房へ向かって早速武器を作る。
どうやら此方も見学したいらしい面々が入ってきたが、俺は作業中は絶対に話し掛けないように言い含めて作業を開始する。
先程は剣と言ったが、軍神の宗派で最も推奨されているのは槍である。その為、寄進するのも槍にする。本当は軍神様用に奉納するべきなのだろうが、俺は信者では無いので多分許されない。
3個のミスリルインゴットを取り出し、『クラフト』で路に魔力を通していく。熱を与えられたように柔らかくなったら早速鎚を振るう、都市長に見せる丁度いい機会だしミスリルの鍛造を公開しよう。
調子が良く手早く20回折返して約315万層の金属層を作り出し、焼入れするように水へ浸す。内部を通っていた俺の魔力が水へ溶け出し、急速に行われたそれが焼入れと同じ効果を発生させ穂が一気に硬くなる。鍛造技法と合わせてオリハルコンに匹敵するくらいには硬く出来ただろうか、尤もコレの真価はミスリル特有の魔力との親和性だ。下手な飾り付けず、シンプルな穂が出来た。刃を研ぎ次に柄を用意する。
とは言っても、余ってるオーク材を握りやすいように棒状へ加工してその表面にお馴染みの魔石を混ぜた防腐剤を塗るくらいだ。『クラフト』で高速で乾かしつつ、ミスリルインゴットを二つ取り出して石突を作る。此方は穂と違って鍛造はしない、純粋に『クラフト』だけで変形させて作り上げる。穂に比べて石突は適当に感じるが、此方は攻撃に使う目的では無い為にそこ迄凝った作りにする必要は無い。
出来上がった全てを組合せて槍を一本仕立てた、コレなら軍神様とその教会に寄進しても文句は無いだろう。ミスリル製だし。
「……見事な物だな」
「俺の色を出すともっと穂が長い突きにも切りにも使える物にしそうでしたが、誰でも使えるシンプルな物にしました。出来は悪くないと思いますよ」
「この出来で『悪く無い』はシンプルに喧嘩売ってる案件よ、タタラ」
俺の言葉に都市長が注意してくる。そうか、俺の作品は自尊心傷付ける案件か……どうしろって言うんだよ。
「軍神様に奉納は出来ませんけど、教会に寄進すれば大丈夫ですよね?」
「向こうの適当な神官にその槍を渡した後、軍神様の神像に祈りを捧げれば大丈夫だ。ほら、さっさと行くぞ」
「ちょっ、ま! 引っ張らないで!?」
カラムスさんに襟首掴まれながら庭先へ連れられる、ちょっと行動が早すぎですカラムスさん!?
転移門の前に付き、カラムスさんから教えられた座標を設定する。カラムスさんは宗派特有の聖印を使ったネットワークで総本山の転移門にコレから転移する事を伝えたらしく、双通行に設定されたらしい。シンプルに職権乱用である、と言うか俺の庭先に誰かが勝手に入ってくる可能性。
「それでは我が主、行ってまいります」
「……都市長、俺は手形とか持って無くて良いんですかね?」
都市外に出る上での許可証を俺は持っていない、取得をこれ程早く求められるとは思っておらず申請はしているが審査が通って無いので本来まだ国外に出れないのだ。
「私の権限で今回は問題無しとしておくわ、カラムスの件も含めて特別処置に出来るしね」
胃が痛そうに腹部を擦っている。コレは俺のせいじゃ無いよな?
取り敢えず、都市長達三人にお留守番を頼みつつ俺とカラムスさんは軍神教会の総本山へ転移した。
最初に印象に残ったのは白亜、意匠は何処か学園の元になった砦を彷彿とさせる。いや、考えてみれば当然だろう。軍神様は常に神々の最終戦争に備えている、ならばその総本山が砦であるのは当然の帰結だ。転移門は黄金、細かい装飾のなされた巨大なソレ……の近くに有ったこじんまりとした物と繋がっていた。まぁ、あの巨大な奴に繋がってたら此処から向こうへ転移する際に出口が詰まりそうだしな。
「此処が軍神教会の総本山……」
「ふふ、随分と圧倒されているなジュロン」
「そりゃ、こんな膨大な神気に満ちた所なんて初めてですからね。公正と公平の闘争を司る、なんて此処では夢物語でも何でもないって思わせてくる……これが神のお膝元。聖域ってヤツなんだなって」
俺の言葉にカラムスさんはニヤリと笑う、反応楽しんでるのは普段俺と都市長に振り回され気味だからだったりするんだろうか?
「早速教会へ入ろう、時間は有限だしな」
「はい、案内をお願いしますよ?」
「当然だろう、此方だ」
そんなやり取りの後、先行して進んでいくカラムスさん。
すれ違う信徒達はカラムスさんに挨拶をした後、俺を見て訝しげな表情を浮かべる。そりゃまぁ宗派でも教皇に継ぐ聖人の後を、聖印も持たなければ鎧も着てない奴がついて行ってたらそうもなるわな。
「ここだ。そこの神官、少しいいか」
案内された先のどデカい扉を通った先は、コレまた広いロビーだった。カラムスさんは近くに居た神官に声を掛けている。
「コイツを神像の前まで案内してくれ、それと寄進する物も有るらしいから案内の後受け取るように」
「は、はい!」
まだ年若い男性の信者は聖人様に声を掛けられて緊張気味である、有名人はこういう所が大変そうだ。
「で、では此方へ!」
「よろしくお願いします」
緊張して角張った動きの神官さんの背後をついて行く、それにしても広いな此処。十分は歩いたと思えば、入口の扉よりも更に大きな扉の前に着いた。神官さんが厳かに開けば、そこは礼拝堂だった。
その最奥には巨大な像、軍神様を模した神像が鎮座している。
「それでは、私はこれで」
「はい、ありがとうございます。此方が寄進になりますのでお納めください」
俺はインベントリからさっき作った槍を取り出し、神官さんに渡す。装飾も無い槍を見て一瞬顔を顰めた神官さんだが、直ぐに表情を戻して受け取り去っていった。……ミスリル製って気付いたかな今の人?
俺は神像の前まで進み、改めて軍神様の姿を見上げる。
……なんというか、違和感が有る。造形だろうか、コレじゃない感が凄い。
カラムスさんが来るまで祈りを捧げようかと思ったが、信者でも無い俺が祈るのは流石に軍神様も嫌だろう。それに、俺には俺の此処でやるべき事が見えた。
インベントリからミスリルのインゴットを一つ取り出して『クラフト』を使用する、頭の中のイメージを強くしてインゴットを成形する。出来上がったのは掌に収まる軍神様の神像、目の前に有る像から感じる違和感を取り除いた俺なりの物だ。
目前の軍神様の神像は槍と盾を持ち、剣を佩き厳しい表情をした女神様だ。対して、俺の像は違う。天秤と盾を持ち、槍と剣は持たず穏やかに微笑む像である。なんとなく、俺が軍神様に持つイメージはコレだ。公正と公平を示す天秤、誰かを守る為の盾。戦いに備える以上に、愛するものを慈しむ笑顔。そんな手製の像をそっと神像の側に置いて、奉納する。
普通の祈りを捧げるように目を閉じて、開いた時には俺の作った像は無くなっていた。……少しは、気に入って貰えたら嬉しいな。
「待たせたなジュロン……ジュロン!?」
入ってきたカラムスさんが俺に声をかけたが、次の瞬間には驚いた様子だ。
「え、どうかしましたかカラムスさん?」
「どうしたも……いや、何でもない」
何かを言おうとして止めたカラムスさん、俺と言うか俺の周りを何やら見ているっぽい。何なんだ?
「それで、ここに来た目的を果たさせて欲しいんですが」
「……そうだな、コレを観てくれ」
そう言って差し出されたのは青い鞘に納められた一本の剣。
そっと預かり、鞘から引き抜く。青い刀身に銀色の刃、黄金の鍔に黒い柄。刀身には金色の彫金が施され、荘厳さと神聖さを感じさせる。鍔の中心に嵌められた赤い宝石の奥には炎のような揺らめきが見える……コレは宝石では無く霊核だろうか。
「コイツの銘は『ケラヴ』だ、軍神様より聖人の号とともに与えられた私の剣。私の半身とも呼べる相棒だ」
「『ケラヴ』……戦ですか」
随分と見た目に反して物々しい名前だ、求める物の為に振るうなら『ルーエ』とか似合いそうだが……俺の作品でも無いしいいか。
眼前に『ケラヴ』を掲げて『鑑定』を行う。
連接剣『ケラヴ』
物理攻撃 +110
魔法攻撃 +85
最大射程 8
特殊 『魔力吸収Ⅴ』『聖人カラムス専用』
驚く事に『天使長』の剣と違って脳への負担が無かった。そしてとんでもない性能である。確かに俺の作った一部の武器より攻撃力は劣るが、あちらは使い捨てのエネルギー有りき。対して此方は普通に振るってこのダメージだ。神造武器とか張り合いたくないわ。『天使長』の剣はアレはもう『天使長』そのものなので考えない、アレこそ再現性無いし。
剣の長さやバランスを記憶して、俺は『ケラヴ』をカラムスさんに返した。後は『フィエルテ』を調整すれば終了だが、いっそこの場でやってしまうか。
「カラムスさん、比べて欲しいんで『フィエルテ』を貸して貰えますか?」
「……此処で、か?」
「はい、情報は頭に入ったのでこの場で調整して元の剣と比較して貰えれば。流石に重さは無理ですけど」
偶然では有るが、『ケラヴ』と『フィエルテ』では後者の方が50g程重い。ギリギリ許容範囲だとは思うが、そこ迄調整するとなるとギリギリを見極めて削る必要が出る。
「いや、刃の長さと幅が合うのならそれで十分だ。頼めるか?」
「勿論です」
『フィエルテ』を預かり、早速調整を開始する。内部に有る情報へアクセスして、数値を書き換える。『クラフト』スキルで直接数字を書き換え、そのたびに『フィエルテ』の形状は変わる。
都合30分、カラムスさんの『ケラヴ』と同じバランスに『フィエルテ』の調整は終わった。
「凄いな、振るった感覚にほぼズレが無い」
「そりゃ、『ケラヴ』が素直で変な癖が付いてなかったからですよ」
誰かが調整したのかも知れないが、『ケラヴ』はカラムスさん特有の誰かを守った癖すらも残っていなかった。自然と修復された可能性も有るが、常に別の誰かが研いだりメンテナンスをしていたら持ち主の癖も消えてしまう。
「コレなら私も大丈夫そうだな」
「お力になれて光栄ですよ」
ふと、誰かに頭を撫でられた気がする。振り返っても誰もいない、有るのは精々神像だけだ。誰かと居て、こうなるのは初めてだ。
「……どうした、ジュロン」
何か動揺が滲んだかのような雰囲気のカラムスさんの声、俺は顔を向けて答える。
「いえ、偶に有るんですが誰かに頭を撫でられた気がして……」
「……偶にそんな事が、どんな時に起こるのだ?」
「教会に寄進したりして、その神様の神像に祈りを捧げてる時とかですかね。直近では癒しの乙女様の教会で有りました」
「ほ、ほう……」
カラムスさん、何か反応変じゃね? なにか心当りが有るんだろうか?
「わ、私もそろそろ筆頭騎士として我が主の所へ戻らねばならんな。送ってくれジュロン」
「え、はい。わかりました」
なにか誤魔化されたような気がする、あの感触は一体何なんだろう?
『微笑む軍神の像』
とあるクラフターが作ったミスリル製の神像。その者の中に根付く軍神のイメージを投影されて作られた。
右手に公平と公正を示す天秤、左手に盾を持ち慈愛に満ちた表情を浮かべている。
小さな掌大の像だがその造形は素晴らしく、総本山に有る神像と同じ物ならばと多くの信者が嘆いた。不信心者が作ったが故に闘争に見合わない表情なのだ、神罰が下るぞと言われている。
尚、教皇と聖人はこの像の造形を好んでいる。
作ったクラフターに神罰が下ったかは不明。
この小説は……
-
エテル・ネル=バーラルとの物語
-
虎熊四葩との物語
-
騎士タチアとの物語
-
探索者パーティハーレム
-
聖人カラムスとの物語
-
都市長との物語
-
熟女ハーレム
-
シャムスとの物語
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エストとの物語
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後輩二人との物語
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探索者ローガスとの物語
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『天使長』に愛されて夜も眠れない
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異世界追放