※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント進行中。


鍛冶師は受け止める

 カラムスさんと共に転移門を通り家に戻る、都市長達は思い思いに過ごして待っていた。都市長、なんで俺が書いた錬金術師の研究書の現代訳持ってるんですかね? それ中央図書館で持ち出し禁止ってされてるやつでしょ、序に写本も個人で持ってますよね?

 おっちゃんとダルマさんは庭先で打ち合いをして対人戦闘の鍛錬中だった、スキルによる技無し鍛えた武技のみって縛りっぽいがどうもダルマさんが押してるらしい。おっちゃんは総合力と指揮能力が優れてると聞いたが、近接戦闘ではダルマさんがあのパーティで最強っぽい。見る限りおっちゃんのフェイントは全部見破ってるのに対し、おっちゃんはダルマさんのフェイントを7割くらいまでしか見破れて無い。魔法有りならおっちゃんも勝ててる可能性は有るけど、現状『卵』っていうどうしようもない装備の壁が有るんだよな。

 

「我が主、ただいま戻りました」

 

 カラムスさんが声を掛けると、都市長は顔を上げた。

 

「あら、おかえりなさいカラムス。それとタタラも」

 

 カラムスさんを見て、次いで俺に視線を向けてくる。

 

「……どうやら目的は果たせたようね?」

「ええ、それと後で報告する事が有ります」

 

 都市長に答えた後、何やら溜息交じりに言うカラムスさん。総本山で何が有ったんだろう?

 それはそれとして、俺は都市長に幾つか確認と報告があるのを忘れていた。

 

「都市長、此方に居ますけど来る前に四葩達には会いましたか?」

「ええ、護衛二人も含めたダンジョン探索許可でしょう? ちゃんと許可出しておいたから安心なさい」

 

 今日の懸案事項の一つは解消されて一安心だ、此処からは報告漏れと新規案件だな。

 

「そう言えば俺式の『鑑定』についてなんですが」

「あら、その様子だと教えてる後輩が覚えたのね?」

「ええ、魔鉄の作製も成功させてます。本人曰く十個中十個成功させてるとの事です。コレが精製した魔鉄になります」

 

 学園でエストから受け取った魔鉄のインゴットをインベントリから取り出して都市長へ渡す、都市長は受け取り矯めつ眇めつ確認する。多分、『鑑定』も使ってるなアレ。

 

「……凄いわね、私が見る限りタタラのと遜色のない魔鉄よコレ」

「授業中に俺の特権活かして今日は形状記憶合金を教えました。この魔鉄の作成者は苦手みたいですが、先に『鑑定』を覚えた方は此方が得意みたいでしたね」

「……貴方、学園でそんな事してたの?」

「俺の『クラフト』してる所を見せるだけじゃ可哀想かなって、たった二人だけ見学しに来てくれる後輩なので出血大サービスですよ」

「……学園では工房主以外での『クラフト』は禁止の筈よね?」

「作れる人間の少なさから『クラフト』判定されてないのを言い訳にしてます」

「……はぁ、貴方それがバレたら責任一人で取るつもりだったでしょ? 後輩達も可哀想な事になるから気を付けなさい」

「はい、設計思想なんかは教えますが実際に作成までは許しません。それは彼奴等が高等教育課程に進んだら自分達でやる事ですから」

 

 俺の言葉を聞き、目を真っ直ぐ見てくる都市長。俺も真っ直ぐに見つめ返し、覚悟を伝える。

 都市長は少し目を合わせた後、フワッと笑った。

 

「ちゃんと先生出来てるようで感心よ、工匠長としては昨日みたいに感情を暴走させないように気を付けて欲しいのだけど」

「いや、まぁ……その。地雷を踏まれるとどうも」

「あの後大変だったのよ。魔力炉の一基は贈呈、もう一基は割引価格での販売に抑えたわ」

「いや、本当にすみません」

「別に貴方個人の特許だからタタラ以外はそこ迄マイナスにはならないけれどね、年間使用料については言及無かったからキチンと払う形だったし。新規製造には特許料の支払いさせる事は了承させたし」

 

 いや、本当にすみませんでした。

 

「まぁ、新規製造については魔力炉がだいたい50億で決まりそうだから向こうも出し渋るでしょう」

「あー……虎熊家がある程度量産するような計画を思い付いたので言おうと思いましたけど止めときましょうか」

 

 俺の言葉に都市長は一瞬キョトンとした表情になる。

 

「……何を思い付いたか言ってみなさい」

「はい。先ず第一に俺が特許の使用を許可してるのは“虎熊家のみ”に対してです、コレはいいですよね?」

「ええ、虎熊家の当主代行もそう把握していたわ」

「その上で、帝と言うか中央政府も巻き込みます」

「……どういう事?」

「陽出國内部で魔力炉の作成を許可されているのは虎熊家のみ、しかし陽出國としては全国に魔力炉を展開したいのが本音になると思います」

「そうね、そうなるでしょう……つまり虎熊家で生産させて流通を許可させる?」

 

 俺の思い付きの内容にたどり着いたらしい都市長、やっぱり優秀だな。

 

「その上で、中央政府から虎熊家に助成金を出させます。特許料を虎熊家と政府の折半が理想ですが、虎熊家へは割引価格で提示して中央政府は定額の提示。差分は虎熊家の懐にでも入れて貰えればって」

「流石にそれは国際的な詐欺になるからダメね、やるなら通常価格の提示で中央と折半させる事で虎熊家の負担を割引かそれ以下にするわ」

 

 都市長も計画に乗ってくる、俺の失態で迷惑を掛けてしまったがこういう所で気にしないでくれて助かる。

 

「それと、二つ虎熊家に条件を出して欲しいんですが」

「変なやつとか無茶な要求じゃ無いでしょうね?」

「いえ、俺が望むのは“虎熊家が流通させるのは陽出國に限る”事と“販売権は虎熊家のみ有する”です」

「……つまり、海外への売買は許可しないと?」

「はい、基本中の基本ですがコレで海外に売られたら『ワールウィンド』と言うか本国側が面白くなくて戦争になりかねないんで」

「そうね、それは言えてるわ」

「それと、陽出國は島国でまだ統一が出来ていません。魔力炉を足掛かりに天下統一に動いて貰えたらなって。エネルギー問題の解決はここら辺大分有利になるでしょうし、交渉で終わらせられるかもって思いまして」

「……そうね、ならコレも次の会合で上げてみましょう」

 

 都市長は少し笑っていた、俺の思い付きが面白かったのだろう。序に爆弾も落としておこうか。

 

「そういえばもう一人俺の『鑑定』が使える奴が居るんですけど」

「あら、そうなの?」

「ええ、虎熊四葩って言うんですけどね」

「へぇ、トラクマヨヒラね……虎熊四葩っ!?」

 

 都市長が悲鳴みたいな叫び声を上げた、脇で聞いていたカラムスさんと悲鳴を聞き付けたおっちゃんとダルマさんが慌てて都市長を見る。

 

「ちょっ、なんで他国のお姫様にあんたの意味不明概念教えてんのよ!?」

「いや、探索を一緒にするうちに俺の『鑑定』に興味持ったみたいで……スキルスロットが空いたタイミングで取得したので教えてみました」

「教えてみました。じゃないわよ!?」

 

 おう、超反応だな。

 

「第一、何でクラフターでも無いお姫様が『鑑定』に興味持つのよ?」

「俺が『鑑定』を戦闘に応用しているのを見せたら興味持ちまして、自分も使えたら役に立つからって覚えてました」

「待てジュロン、お前の『概念鑑定』を戦闘に応用するとはいったいなんだ?」

 

 興味、と言うか疑問を持ったのはカラムスさんだ。俺の『鑑定』の詳細が分かってないおっちゃんとダルマさんは首を傾げているだけだ。

 

「あれ、話してませんでしたっけ? 俺の『概念鑑定』は物質の弱点を見る力が有ります、例えば鉄に有るこの弱点を魔力で埋めると魔鉄が作れます。逆に、そうやって埋めていない弱点を突けば破壊も出来ます。コレを応用して無機物相手、例えばゴーレムの動きに対して未来予知をしたり弱点を突いて致命打を出したりと出来ます」

「……もしや、先程『ケラヴ』を見せた時は」

「一応、破壊可能な箇所は見えてました。する気は無いですけどね」

 

 カラムスさんは頭を抱えている。そりゃ、騎士も戦士も関係無く無機物である装備なら俺は破壊が出来るなんて頭が痛くなるだろうな。ただ、『ケラヴ』は多分生きている武器だ。破壊は出来たとしてもあの剣は自力で復活出来る。

 

「……坊、それは俺達にも使えるのか?」

「『鑑定』を覚えた直後なら俺が教えて使えるようにはなると思うけど、問題が有るよ」

「坊主、その問題ってヤツはなんなんだ?」

「教えたテストケースが少ないこと、もう一つは俺と同じ『概念鑑定』が出来るかは不明って事」

「何故だ、坊が教えるなら結果は同じだろう?」

「そうだね、当人が『概念鑑定』を使えるって事は同じ……違うのは見えるものだよ」

 

 おっちゃんの疑問も仕方ないだろう、俺も同じになると思っていたくらいだから。

 さて、此処からが頭の痛くなる話だよ都市長。

 

「四葩曰く、俺と見えている物が違うんだってさ。俺が無機物に特化しているのに対して、四葩は生物に特化してる。彼奴、生命の歪を認識して攻撃出来るんだよ」

「……何よ、それ」

 

 都市長の反応、そうもなるか。仲間の『死』を直視して悲鳴を上げた挙句俺に抱きしめられた、なんて話は今は関係無いし黙っておこう。

 

「ジュロン、私とその『鑑定』を使ったヨヒラ嬢……何方が上だ?」

「正直分かりません。ただ『鑑定』が稼働している限り連接剣の軌道すら読まれると思いますし、回避動作も全て読まれて当てられる……その可能性の方が高いです」

「……私でもそう判断されるか」

 

 カラムスさんの戦闘能力は間違いなく『ワールウィンド』で最強だ、それでもあの『鑑定』を使用している四葩は対生物のスペシャリスト……敵対したら勝ち目が見えない。

 

「ところでコレ、次に俺が会合する時に当主代行に話そうと思ってるんですけど」

「貴方は『ワールウィンド』と虎熊家領で戦争させるつもりなの?」

「何方にしてもいずれは知られるものだと思いますけど」

 

 此方から知らせるか、帰った四葩が両親に伝えるかの違いしかないと思う。

 

「それに、コレは俺が四葩から請われて教えたものです。虎熊家からの叱責は俺が受けるのが筋ですから、俺から言います」

「……はぁ、また地雷踏まれて撃発しないでよ?」

「それは……すみません、正直確約出来ません」

 

 俺は感情の制御が下手くそだ、特に地雷を踏まれるとダメ。

 昨日の奥さんは意図して踏んで、俺から欲しい発言を取っている……絶望的に相性が悪いのだ。

 

「次の会合でもタタラは呼ばれてるから、四葩嬢と一緒に参加しなさい。多分、あの親も子供がいる時には貴方の地雷を踏みに行くとは思わないわ」

「そうなら良いんですけどね……」

 

 当主代行は兎も角、奥さんならやると俺は思ってる。あの人は俺と四葩の前で当人を道具として扱って、俺が彼奴を奪うと明言させる気がする。何となく、娘の為に汚れ役を担うつもりが見え隠れしてる気がするんだよなあの人……俺と四葩をくっつけようとする過激派みたいな?

 何となく二人きりの俺と四葩を見て窓から『抱くでござる! 抱くでござる!』と叫んでる駄狐が脳裏をよぎる、やりそうだな彼奴。

 

「転移門の準備出来た事は次の会合で、ですか?」

「いいえ、私がこの後定時報告として伝えるわ。向こうの当主もこんなに早いとは思ってないでしょうけど……いえ、カラムス達の話を聞いて半信半疑ってところかしら?」

「聞いた後に頭を抱えるか口が開きっぱなしになるかの反応が思い浮かぶな」

 

 カラムスさんは何処か同情を含んだ言い方だ、当主代行も付き合い短いし仕方ないだろうな。

 

「おい、都市長。そろそろ帰った方がいい」

「流石に暗くなってきたぞ、俺達が護衛に就いても暗闇だと分が悪い」

 

 おっちゃんとダルマさんが都市長にそう声を掛けた。確かにもう暗いな。

 

「あら、もうこんな時間なのね」

「確かに、我ら三人でも闇討ちされれば辛い物が有ります。我が主、そろそろ」

「ええ、分かっているわ」

「……魔力炉を作って夜間に灯る魔導街灯の計画とか立てようかな」

「タタラ、その話は報告書まとめて後日提出しなさい。こんなギリギリで面白そうな計画提示するんじゃ無いわよ」

 

 そんなやり取りを最後に、都市長達は帰って行った。何か、今日はドッと疲れたな。

 空を見上げれば茜と群青が混ざる魔法の空が広がっていた。こんな空の日は青い満月が昇るんだと思い出し、月が昇ったら軍神様の時のように神像を作ってみるのも良いかも知れない。

 何となく、最近は神々への感謝を蔑ろにしている気がするし。

 そんな事を考えた後、エテル達が帰ってきたら夕食をとれるように調理を始めようと台所へ向かう。今日は何を作ろうか?

 

 

「帰って来たら庭先に鳥居が出来ていて驚いたのじゃ」

 

 帰ってきたエテル達が食卓につき、最初に出た言葉がコレである。まぁ、出発前には無かった故郷の物が庭先に増えてたら驚くわな。

 

「そう言ってもな、アレ送って来たの四葩の実家だぞ?」

「そうじゃろうな。幾らタタラが妾達の国に詳しくとも、態々異国の様式を庭先に置かんじゃろう」

「確かにそうだな」

 

 切り分けたハンバーグを口に運ぶ合間にそんな会話を挟む。

 

「……何か肉っぽさが足りぬでござる」

「野菜嫌い用の大豆と野菜をミックスしたレシピだ、サラダばっかり残す何処ぞの駄狐用の特別仕様だからしっかりと食えよ」

「こんな特別扱い嫌でござる……」

 

 どこかションボリとしてモソモソとハンバーグを突付く駄狐、因みに他の面々も同じ物を食べているが不満は出てない。天狗さんなんかは一口含むたびに驚きに満ちた顔をして、頷きながら咀嚼している。この人、食を楽しみすぎでは?

 

「野菜の甘みを多く含みながら、ひき肉と共に焼くことで肉汁を吸わせてその味も含ませる……コレはめかぶ? 肉汁と野菜の水分を余すことなく閉じ込め旨味を強くしている、良いお手前ですタタラ殿」

「……飯で認められて名前呼ばれるようになるの、なんだかな」

 

 お前、俺の事は鍛冶師殿だったじゃん。なんで飯で呼び方が名前になってるんだよ。

 

「しかしこう、米が欲しくなるの」

「まぁ、白米は肉にも魚にも合うしな」

 

 陽出國の味覚的にはやはり主食は米だろう、此方ではあの甘味のあるもっちりとした品種が無いので開通後に送ってほしいが……後で四葩に話してみよう。米が食べられなくて寂しいと当主代行に言ってもらえれは手に入るだろうし、炊飯釜が有れば前世の炊飯器を魔道具として再現も出来る。

 美味い米が食えるなら俺はどんな技術的な壁でも越えてやる、それが出来ずに何が工匠長だ。

 

「うう、ご主人……完食したでござるよ」

「お、偉いな。次も野菜を残さず食べられるように頑張ろうな」

 

 やや涙目な駄狐がキチンと完食しているので褒める。少し味の濃いビーフシチューとかなら野菜も食べられるかな?

 

「……なんか、タタラがイチゲさんの飼い主みたいに見える」

「そうじゃの、餌やシャンプーの躾をする調教師にも見えるのじゃ」

「タタラ殿はそのようなスキルをお持ちで?」

「持ってる訳ねぇだろ」

 

 むしろ持ってる疑惑はエテルの方だろ、俺は性癖破壊されそうになったり癖押し付けられたりで調教紛い食らってるんだぞ?

 

「しかし、明日はダンジョン探索無しかぁ」

「ここ最近、装備のメンテナンスして無かったからな。明日は整備と対人訓練に割り振って貰うのはタチアにも了承して貰ったろ?」

 

 今日はエテル達の帰りが遅かった為に、タチアは早々に帰って行った。装備の整備を頼まれたので受け取ったが、明日は家で対人訓練に割り振ろうと提案したら了承して貰えた。

 俺の目的としては、格上の空中戦闘技能を持つ雛菊さんに戦い方を教えて貰えればこの先自分と同じ様な敵に出会した時に手札になり得るから技術を吸収して欲しいのだ。

 

「私としては、あのタチア殿と言う武人に空中戦を仕込めるのが楽しみですね」

「コレは中々の戦闘狂だな、天狗さん」

「きゅうん……酷い言われようでござる。まぁ事実だからしょうがないでござる」

 

 お前は狐なのか猿なのか良くわからないけどな、獣なのは変わらないけど。そう言えばコイツは忍者だし、その手の身の熟しをエテルに教えて貰おうか。斥候の技術に活かせそうだし、無駄にはならないだろう。

 明日は朝にウレタン竹刀作って、全員怪我が無いように気を付けて貰おう。装備の調整は日中には終わると思うが、エテル達は連日探索してるから1日は多少疲れを抜いてもらおう。

 

 工房で一人、設計図を描く。作成は難しくなりそうだが、せめて概要や概念だけでも作っておかなければならない。

 物は『タタラ・ジュロン式魔力炉』、『錬金術師の卵』を核に魔力万有引力の法則を利用した半永久機関である。

 物としては単純で、内部の台座に置かれた『錬金術師の卵』から魔力を収集しそれを分配する。たったそれだけの機械だ。

 必要なのは『卵』から発させられる魔力を効率良く回収出来る台座のミスリル、ソレを等しく分配する術式だ。

 『卵』の魔力を一切のロス無しで使えるならばその出力は一般家庭1250世帯に分配出来るが、例えミスリルでも魔力の伝達効率は100%では無い。それでも80%には届く高効率だが、一般家庭に伝達する為の導線までミスリルで作れる訳でも無い。一応、昇華させた銅線なら近い魔力伝達効率を誇るがコレを輸出するとなるとまた荒れそうである。シャムスとエストにはコレを作って売れるようになって欲しい、1m辺りの値段、俺への特許料差し引いても凄まじいからな。学園の工房で50m程作って商会に持ち込めば奨学金の返済も出来るくらいの金額になる。一番の問題は先ずそれだけの銅を買うのが大変だって事ではあるが……1kgも買えば100m越えの銅線を作れるので頑張って欲しいところだ。

 ミスリルと強化した銅線を併用し、結果として伝達効率が更に落ちて恐らくは800世帯程を賄うので精一杯だろう。取り敢えず、この設計図を纏めて鳥型ゴーレムに渡す。明日の朝には都市長の下に届くだろう、より効率的な稼働をする意見が有れば言ってくれるだろう。

 

 調子に乗ってウレタン竹刀を4本作ったところで作業を終えて、リビングの以前エテルとの行為で押し付けた窓を開けて縁側に座る。空を見上げれば、見事な青い満月が昇っていた。青い月、静謐と安寧を司る月の女神様。

 そっと目を閉じると、女性の姿が脳裏に浮かぶ。そのイメージを、軍神様の教会でやったようにミスリルインゴットに投影する。手の中で形を変えていくインゴットは、一つの像になった。

 ナイトキャップにパジャマ姿、良くわからないナマモノを模したブサ可愛い抱き枕を両手で抱き締めた立ち姿。抱き枕に頬を寄せ、眠そうな顔で童女のように笑う女性。

 って、なんでだよ!?

 試しに青い月女神様の神像を作ってみたら明らかに神らしさが無い何かが出来た、これ下手したら神罰の対象じゃねぇか!?

 もしや総本山の神像とか見て、軍神様の時みたいな違和感を覚えないと無理なんだろうか?

 溜息を吐いて俺の傍らにその像を置く、イメージを損なうような神像を作って申し訳ないと月に向かって祈った。つらつらと祈りを続けて仲間達の安寧に満ちた未来を祈り終えたところで、特級の危険物をインベントリに入れようとしたら傍らに置いていた危険物が無くなっていた。これ、もしかして俺は詰んでないか?

 

 エテルは自室に戻って寝たらしく、俺は自室で一人眠りに着いた。ただ、眠る時に子供を寝かし付けるような力加減で手を握られた気がする。エテルが起きてきて、ママごっこをしに来たのだろうか。しに来たんじゃなくて死が来た案件ではとビビるのも一瞬で、俺は深い眠りに落ちた。

 目を覚まして重い頭を振って歩く。何か長い夢を見ていたような気がするが、もしそうなら青い月の女神様が干渉して来たのだろう。流石にあのパジャマ女神様は恨みを買ってしまったか。

 動きの鈍い頭を動かして、朝食を作る。鈍い頭ではマトモなレシピは思い浮かばず、ホットサンドを作る事にする。

 基本のハムチーズ、ベーコンエッグ、ツナオニオン、ベーコン・レタス・トマトサンドと複数の具材のホットサンドを作り、切り分ける。駄狐が野菜嫌いなので、偏食を許さないようにしなければならない。栄誉不足は体調不良に繋がるから、彼奴が拒否感をあまり感じないレシピを考えなければ。

 なんか、ペットに対する飼い主の思考になっている気がする。

 もしかして俺、汚染されてる?

 

「おはよ、タタラ」

 

 そんな俺の背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「おはよう、エテル」

 

 俺も振り返り挨拶を返す、運動用のジャージとブルマを着たエテルが立っていた。

 

「気合い十分だな」

「もちろん、教えてもらう立場だもん」

 

 言いながら俺の横に来て、スープの準備を始めるエテル。俺がメインを作っているのを察して、こうして補助をしてくれる。以心伝心とはこういう物なのだろう。

 エテルが作っているのはトマトスープだ。一緒に入れるのはタマネギとブロッコリーか、エテルも駄狐が野菜を少しでも食べやすいように工夫をするつもりらしい。まるで子供の食育に悩む母親だな。

 

「おはようなのじゃ、二人とも」

「おはよう、四葩」

「おはよ、トラッちゃん」

 

 声を掛けてきた四葩に答えて、出来たホットサンドをテーブルに運んでいく。5人分ともなればそこそこの量なので、往復を必要とする。そんな俺を四葩が手伝ってくれた。

 後は護衛二人が起きてくるのに合わせて、エテルがスープを注げば朝食を始められる。俺達3人分の紅茶を先に淹れて、穏やかな時間に会話をして楽しむ。四葩は紅茶の味変を色々試していたらしく、陽出國の緑茶では考えもしなかったミルクティーが心底気に入ったようだ。何となく、四葩は牛乳が好きそうな雰囲気が出て来ている……幼児味が強いのだろうか。美人なのに。

 

「おはようございます、皆様」

「おはようでござるよ」

 

 そして護衛二人がリビングに入って来て、食事が始まる。

 

「しゃあっ、野菜抜きでござる!」

 

 駄狐はホットサンドのハムチーズを独り占めしようと考えた様子だが、許す理由が無い。

 

「朝飯は自分の前に有る皿だからな?」

「はいっクズ確定。ぶっ泣くでござる」

 

 ションボリと肩を落としてBLTホットサンドを食べ始める。そうは言っても今回は野菜オンリーとか作ってないし、野菜は控えめだぞ?

 対して居候を始めてから食が楽しみで仕方ない雛菊さんは、同じくBLTサンドを口にしているがその目はキラキラと輝いている。

 

「タタラ殿、此方の赤茄子とちしゃのはさみ焼きとても美味しいです! 燻製肉の塩加減が赤茄子の酸味と混じり合い、ソレをちしゃの水気が適度に和らげて舌に馴染みます! 外のサクリとした食感とちしゃのシャクっとした歯ごたえの合わせ技も見事です!!」

「わかったわかった、感動してくれてありがとう」

 

 ちしゃってのは確かレタスの和名だったか? あまり聞かないから自信は無いが、食感から考えてコレだろう。

 クラブハウスサンドとかも好んでくれそうだな、素直に美味しいと思ってくれるのは料理した人間にとってはやる気が出る。

 

「そしてこの汁物、赤茄子と玉葱に味をまろやかにする牛の乳も加えているのでしょう。飲みやすく、身体が温まります……コレはエテル殿の品ですね?」

「うん、そうだよ。美味しい?」

「はい、とても!」

 

 完全に絆されてるなエテル、お母さんのレシピを褒めて貰えてご満悦だ。エテルにとっては雛菊さんとの共同生活は当たりだろう。

 

「……雛菊は何故、このように青臭く苦みの強い食材を食べれるでござるか?」

「何を言う、青臭さは可能な限りは取り除いてくれているではないか。お前は昔から野菜を毛嫌いして食べないから美味しく感じられないのだ」

「無理な物は無理でござるよ……」

 

 ちょっと弱々しい反応の駄狐だが、もしかして五感が鋭くて野菜の苦みや匂いが辛いのかも知れない。それでも許さないけどな、食べても問題は無いんだし。

 食事を共にして分かった事だが、駄狐は苦手な物を先に食べるタイプらしい。BLTホットサンドを食べ終えたら、ツナオニオンに移った。此方は玉ねぎがただのアクセントにしかならない為か直ぐに食べ終えている。心做しか表情も明るくなっている。

 

「ふぉ!? 溶けた乾酪(かんらく)が伸びる!?」

 

 雛菊さんはハムチーズを次に選んだらしい、伸びるチーズに驚きながらそれでも美味しそうな食べている。

 その後も雛菊さんはホットサンドを楽しそうに食べて、スープも飲みきった後に手を合わせてごちそうさまと言ってくれた。

 駄狐も何とかスープを飲み終えて、手を合わせてごちそうさまを言う。どうもトマトスープは牛乳が入っているお陰でそこ迄拒絶しなかったらしい、エテルも駄狐用のレシピアレンジを考えてメモを取っている様子だ。

 

「片付けもやっとくから、身体を休めてくれ。エテル、悪いんだけどタチアが来たら家に上げてやってくれ」

「うん、分かったよ」

 

 少し胃を休ませてやらないとこの後運動して戻しかねないからな、乙女の尊厳が破壊されるのは流石に回避しなければ。

 タチアも家に来たらしく、揃って庭先での対人戦闘訓練を始めた辺りで俺は仲間達の装備の整備を始める。

 消耗が激しいのはやはりタチアのエストックだ、攻撃頻度の高さを物語っている。刃を直す際に鉄のインゴットが一つ必要になった……多分強化されたなこれ?

 次に消耗が大きかったのはエテルの『ロニセラ』だった、どうやら少し連射が必要な事態に陥ったらしく内部の魔力塵を取り除くだけでなく回路が焼け切れる手前だったのでそちらも直す。魔石だけでは足りず、ミスリルのインゴットを一つ使って調整する。久し振りだがコレ、強化だな? 案の定、強化が1段階上がっていた。

 防具はタチアの『アーラ』が調整を必要とした。人工筋肉が稼働を続ける為に形状記憶合金内部の路を潰しかねない状態だった。ゆっくりと内部の澱みを取り除いていく、カラムスさんの『フィエルテ』よりも数は多いが大した事はない。疑似翼と飛翔術式には問題が無かったのでコレを持って一通りの整備は終わった。

 時間を見れば作業開始から2時間程経っていた、庭先に様子を見に行こうと決める。

 最初に目に入ったのは空中でウレタン竹刀を高速でぶつけるタチアと、受け流し反撃を入れゆっくりと様々な空中機動を見せる雛菊さん。タチアは熱心にその動きを見ていて、自身に反映していく。驚くのはその習得速度だろう、拙い動きは数度使えば完璧に覚えるらしくその動きは複雑さを増していく。雛菊さんが苦笑いをするなんて相当だと思う。

 エテルは駄狐に教えを受けている。どうもエテルが持つ隠密の才能を理解したらしく、スキル無しでやれる身体操作の最適化を教えているらしい。エテルの飛行を封印した上での動きはぶっ飛んでいるらしく、忍び足のコツを教えたらしばらくすると足音や草を踏み締める音も聞こえなくなった。隠形も教えてるらしく、ふとした瞬間にエテルを見失うことも有った。コレには駄狐も後方腕組み師匠面である。

 

「よう、四葩」

「む、タタラか。整備は終わったのかの?」

「ああ、バッチリだ」

 

 刀は預かれないので防具だけだが、整備をした四葩の『紫陽花』一式を渡す。

 

「うむ……うん、完璧じゃの」

「得意分野だからコレくらいは、な」

「何を言うておるか、まったく」

 

 俺の反応に四葩は苦笑い気味だ、謙遜はあまり良くないか。尊大になる気も無いが。

 

「タタラも鍛錬に加わるのかの?」

「いや、俺はちょっと対人はな。本気で無理だ」

「……何か有ったのじゃな?」

「ああ、昔カラムスさんにボッコボコにされてな。結果『お前は対人戦闘になったら逃げろ』とまで言われた」

「それは何とも……」

 

 四葩から同情を含んだ声が聞こえてくる。

 そんな反応に苦笑いをしていると、変な感覚が走った。何かは分からない、しかしうなじが粟立つような感覚が嫌な予感を伝えてくる。

 

「タタラ、どうしたのじゃ」

「分からない、嫌な感じがする」

 

 俺の反応に何かを感じだったのか、四葩が周囲を警戒する。なんだ、どこから起きる?

 それに気付いたのは偶然だ。鳥居型の転移門が魔力反応を発したのを見た俺は、その前で指導を受けていたエテル達を咄嗟に駆け付けて突き飛ばした。驚くエテルと駄狐を横目に見つつ、転移門から飛び出して来た……いやもはや射出されたかのような勢いの何かを受け止める。

 黒くて重い何かを受け止め、後ろに吹き飛ばされる。咄嗟に何かを抱き締めて、地面を転がる。勢いが収まり顔を上げれば、転移門の魔力反応は消えていた。

 

「……なんだったんだ?」

「タタラ! 大丈夫!?」

 

 俺に突き飛ばされたエテルは状況に気付いたのか、俺に向かって心配そうに駆け寄ってくる。そんな場合じゃ無いのに、運動着越しに揺れるエテルの巨峰を目で追ってしまう。俺の馬鹿。

 

「ちょっと身体が痛いが、取り敢えず大きな怪我は無いと思う」

 

 ぶつかった衝撃で出来る打撲痕と、地面を転がった擦過傷程度な物だろう。

 

「それで、タタラが抱き締めておるソレはなんじゃ?」

 

 どこか冷たい四葩の声が届く。侮蔑に近いが、何方かと言えば拗ねてる雰囲気か?

 言われて、受け止めたモノを見る。

 それは人形だった。いや、人形を思わせる少女だった。何処か人工的な雰囲気を放つ黒い髪は恐らくは肩口辺りで揃えられていて、白い肌は少し硬質なプラスチックを思わせる光の反射をしている。四葩よりも薄い胸元には拳大の穴が空いているが、呼吸は確認出来る。全体的に華奢な身体は、身体に張り付くようなゴムに似た素材の服に包まれている。

 

 神々が作り上げた原初の機械が神格を持った神族『機械神』が生み出した、眷属とも種族とも言われている存在。驚く事に女性だけしか生まれない種族であり、ヒト属で有るなら交配が可能。

 ありとあらゆる機械や魔道具と合一し、その性能を爆発的に上昇させる半機半有機生命体。

 

「……機巧乙女?」





↓没案:タタラ・夢の内容


 ああ、コレは夢だな。そう理解した。
 朝を迎えたリビング、日差しに照らされたそこに入れば台所には見慣れた後ろ姿。長い髪を首の辺りで結び、肩から胸元に垂らされている。ゆったりとした衣服にエプロンを纏い、朝食の準備をするエテル。その足元には、小さな影が二つ。

『おはよう』

 後ろから声をかければ、エテルが振り返った。俺を見て、朝の日差しのように眩くも優しい笑顔を向けてくれる。

『パパ!』

 そしてそんなエテルの足元から高い声と共に、小さな影が一つ飛び込んでくる。背中に生えた小さな蝙蝠の翼を懸命に動かしながら、俺の胸元に飛び込んでくる。
 優しく受け止めて顔を向けると、くりくりとした大きな琥珀色の目が俺を見つめ返してくる。俺と似て黒くエテルのように艷やかな髪。俺の娘、なのだろう。

『おはよう──』
『おはよう、パパ!』

 名前を呼んでいる筈だが、音が聞こえない。やはり夢なのだ、此処は。この、俺が理想だと感じる世界は。
 娘が元気よく返事を返してくれる中で、ズボンが弱々しく引かれる。その正体もまた小さな影だ。
 身を屈めて視線を合わせる。俺と同じやや癖が有るエテルと同じ菫色の髪、その下の垂れ目で自信が少しなさそうな菫色の瞳が俺を見る。

『お、おはようおとうさん』
『ああ、おはよう──』

 やはり音が聞こえてこない。呼び掛けた相手は俺の息子、なのだと分かった。娘を片腕で抱き、空いた腕を広げて息子を受け入れる。両腕に幸せを抱きしめて立ち上がると、エテルは幸せそうに笑ってい近付いて来ている。

『隙ありよ、あなた』

 そう言ったエテルはそっと俺の唇にキスをしてくる。優しい想いを乗せた口づけ、日常の幸せの形。
 この夢がずっと続けばいいと、一瞬でも思ってしまった。
 駄目だ、そんな甘い誘惑に乗ってしまっては。

『……ありがとうございます、月女神様。大丈夫です、この光景はちゃんと手に入れるように頑張りますから』

 きっと、この優しい夢を見せてくれたであろう相手に感謝を伝える。すると目前の光景が固まり、色褪せて消えていく。
 そうして目が覚めた。

「……なんで涙を流してるんだ俺は」

 悲しい夢では無かった、むしろ優しい夢だ。
 でも、優しすぎたのだろう。あの夢の中では今の俺を悩ませている四葩の影は見えなかった、それでは駄目だ。

「俺は、どう選択するべきなんだろうな……」

この小説は……

  • エテル・ネル=バーラルとの物語
  • 虎熊四葩との物語
  • 騎士タチアとの物語
  • 探索者パーティハーレム
  • 聖人カラムスとの物語
  • 都市長との物語
  • 熟女ハーレム
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  • 『天使長』に愛されて夜も眠れない
  • 異世界追放
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