既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
腕の中で意識のない少女を抱き上げて、傷を確認する。特大の問題は胸に空いた大穴だが、呼吸はある。肌は所々怪我が見えて戦闘の後で有ると認識出来る。
機巧乙女は人に似ているが人では無い、聖人や勇者に似た核を持ちそれが活動をささえ、同時に心肺機能も持ち合わせている。
おそらく、この胸の大穴はその核を抜き取られた結果出来た物だろう。このままでは衰弱して死ぬ事になる。
「エテル、病院まで連れて行く!」
「わ、分かった! 都市長に連絡だね!?」
「緊急信号でカラムスさんを呼べば速いからソレを使え、取り敢えず俺は行く!」
言って、俺は即座に『黒鐵の鎧』を展開して駆け出す。鎧によるアシストで秒間の移動速度が10m伸びる、コレなら少しは間に合うようになるはずだ。
中央の病院まではおよそ3kmだ、全力で走り続ければ一分も掛からない。
少し人の多くなって来た大通りを機巧乙女を抱き抱えて走る、レベルの低い人達は俺達を視認する事が出来てない様子だ。ただ、人の間をぬって走るのは効率が悪い、このままではダメになるかと不安になった時天啓が降りてくる。
『地母神の祈り』をインベントリに格納し、別の装飾品を呼び出す。『浮遊石』を装備して、思い切り跳ぶ。空中に浮遊した俺はそのまま空を蹴る形で進む。移動速度が更に10m伸びて、更には障害物を無視できるコレならばきっと間に合う。自警団に見つかったらトリモチを撃たれるかも知れないが、負傷者が居ると叫べば躊躇ってくれる筈だ。
空を翔ける、前へ前へと進む。腕の中の少女は力無くされるがままで、ただの等身大人形ではと思ってしまう瞬間が有る。見据える先に病院が見えた、更に前へと進む。
「そこのお前! 止まれぇ!!」
先回りした自警団が揃ってトリモチランチャーを構えて陣取っていた、いや本当お仕事お疲れ様です。でも申し訳ないんですけど。
「怪我人です! 通して下さい!!」
「止まれぇ!!」
職務に忠実で日々助かってますけど、今回はちょっと申し訳ないがもう少し怠慢して下さい。
「押し通る!!」
「総員、斉射ぁ!!」
俺の叫びを聞いた直後、トリモチランチャーが発射される。しかし、俺はクラフターだ。隊長らしき人の声が聞こえた瞬間『創製魔法』の『クリエイトウォール』を発動させトリモチを防ぐ。作った壁を更に高く飛ぶことで乗り越えて、更に一歩一歩と重ねて自警団の頭上を越えていく。
「この後出頭します! 先に病院へ行かせて貰います!!」
「待て! せめて飛ぶのはやめろ!!」
「そこなんですか!?」
言われて着地直後に『浮遊石』をインベントリにしまってそのまま走る。残り400m程だ、コレなら大丈夫だろう。
自警団の人達を後ろに引き連れて、病院に飛び込む。騒がしく入ってきた俺を受付の人間が睨んで来たが、腕の中の少女を見て慌てて飛び出して来た。
「急患です! おそらく機巧乙女、核を抜き取られてます!!」
「分かりました! ドクター!!」
受付さんの叫びにより何かしらの魔導具が可動したのだろう、ベルの音が聞こえた後に複数人の医師が駆けつけてる。
ストレッチャーに少女を乗せ、そのまま手術室へ。俺が一息吐いていると、背中を叩かれた。振り返ると、汗だくで息を切らせた自警団の班長っぽい人が居た。
「ぜひゅ……ぜひゅ……ん、くはっ」
「あの、一度呼吸を整えて下さい。受付さん、水貰えます?」
紙コップに水をなみなみと注いだ受付さんが急いで班長っぽい人に渡している、班長っぽい人は手で感謝を伝えると一気に水を飲み干した。なんだが夏場にドリンクのCMで起用したら売れそうな飲みっぷりだ。
「ぷはぁ美味いっ!」
その姿を見た子供達が美味しそうだと楽しげに声を上げていて、杖をついたお爺さんも此処の水は美味いよなと貫禄を感じさせる頷きを見せた。
「えっと、お疲れ様です」
「ええ、どうも……ではなく! 何故街中で空を飛んだのだ君!!」
「あ、すみません。此処は病院なので声は抑えてもらえると」
「し、失礼しました! ……何故空を飛んだのだ君!」
「小声で叫ぶって器用だな……あの、今は手術室で処置を受けていますが大怪我をした人が居たので此処へ向かっていました。ただ、道が人で溢れていてそのままだと間に合うか微妙でしたので空を飛んで来ました」
班長っぽい人はメモを取って調書の変わりにしている。ただ、隣に居た受付さんは空を飛んだという事に驚いていた。やっぱりそこは驚く事なんだな。
「ふむ、ではその大怪我をした人と言うのは?」
「種族は機巧乙女だと思います、初めて見ましたが特徴がそのままでしたので。胸に拳大の穴が空いていましたが、心肺は機能していたので此処に連れて来ました」
「ふむ……関係は?」
「不法侵入者と家主です」
「………は?」
「不法侵入者と家主です」
俺の言葉に班長っぽい人は固まった。まぁ、そうだよな。
「家には個人使用の転移門が有るんですが」
「何故そんな物が?」
「高度に政治的な問題ですね。で、転移門が有るんですがそれが何故か勝手に起動しまして……いま手術を受けている機巧乙女が飛び出して来ました」
俺の言葉をキチンとメモしている辺り、真贋は兎も角情報を取る必要が有るのだろう。
「その胸の傷はその時に?」
「いえ、元から付いていました。おそらく、転移前に何かと交戦して霊核を抜き取られたのかと」
「ふむ……にわかには信じ難いな」
「俺も言っててそう思います」
俺でも第三者視点なら信じてない。当事者だからこそ真実が分かるが、事実は『胸に穴の空いた女性を抱えて街中を飛び病院に入った』であるのだ。普通に不審者でしかない。
「……街を騒がせて何をやってるのかしら貴方は」
そんな中で声を掛けられる。聞き覚えのある威圧感と呆れの混ざったこの声は──
「いえ、転移門からいきなり女の子が飛び出してきて……」
「本当、トラブルに事欠かないわね貴方」
案の定都市長だった。行き先登録してるのが軍神教会の総本山くらいしか無いのに、外部からの干渉で誰かが通過してくるなんて普通はあり得ないんだけどな。
「失礼ですが、此方の方の関係者でしょうか?」
「一応、後見人よ。この子の身元は私が保証します」
「はぁ……ん? ぬぁっ!?」
あ、班長っぽい人は最初都市長って気付いて無かったなコレ。
そりゃああんな変な悲鳴も上げたくなるわ。
「もし調書や身元確認用の書類が必要なら後で届けさせます、宜しいですか?」
「は、ははははひぃ! 大丈夫であります!!」
おおう、すげぇ緊張してる。そりゃそうか、今の都市長になってから自警団の装備や維持費の拡充や駐屯所の増設なんかも口出しして叶えたって教わったしな。
「そ、それでは貴方のお名前を控えさせて下さい!」
「あ、はい。タタラです、タタラ・ジュロン」
「はいっタタラ・ジュロン様ですね……タタラ・ジュロンっ!?」
おう、いきなりどうしたんだ班長っぽい人。さっきからオーバーリアクションが過ぎるぞ。
「あ、ああああああの! も、もしや自警団や消防団にトリモチランチャーや消火キャノンを進呈して下さったあの!?」
「え、ええ俺の発明ですけど」
「本当ですか!? ファンです、握手お願いします!!」
「はぇ?」
え、ファン? ファンてなんぞや、俺はただのクラフターだが?
「貴方の作ってくれた物で仲間達の怪我が減りました! 多くの人達を助けられました!! 貴方は俺達のヒーローです、是非握手をお願いします!!」
そんな言葉を言われて、戸惑う。そんなの、俺の自己満足の結果でしかない。怪我や殉職をしてしまう自警団の人達を見て、父さんと母さんを思い出したから安全に捕まえられる道具を作ったんだ。ヒーローはそんな物が無い時から恐怖に立ち向かってきた貴方達だろう。
「え、あ……こんな俺で良ければ」
心の中に湧くそんな想いを押さえ付けて、手を差し出す。班長さんは両手で俺の手を力強く握ってきた。ボロボロで、傷が目立つ手のひらだった。それはきっと、人を助けてきた彼の勲章。
こんな誇り高い手を握って本当に良かったのだろうか?
「その、また新しいトリモチランチャーのモデルが出来たらテストをお願いしたりとか出来ますか?」
「勿論です! わぁ、そんな最新装備のテスターとか自慢出来るぞ……あ、すみません」
「いえいえ、此方こそ楽しみにして貰ってありがたいですよ」
前々から言われてる連射可能なモデル、複数有るやつを早めに仕上げてテストして貰おう。制式採用されたら、彼等の安全をより確かな物に出来る筈だ。後はネットランチャーも開発を急ごう、駄狐の忍具に使えるものが有るかも見せて貰おう。
立ち去る班長さんを見送りながら、新たな装備開発に熱意を燃やす。
「随分嬉しそうね?」
「そりゃ初めて現場からの感謝の声を聞きましたから、やる気も出るってもんですよ」
俺の言葉に溜息を吐く都市長、確かにこの人はやる気を出した俺の被害者みたいなもんだから溜息を吐きたくもなるか。
「やるのは良いけど、再現性は考えなさいよ?」
「設計してる内容はコレですけど、再現性有ります?」
早速携帯型プロセッサから連射型トリモチランチャーの設計図一覧を呼び出して空間に投影する。都市長は驚きながらもそれぞれの機関部を確認して、脳内で組み立てていってるようだ。
「……コレなら普通に作れるわね、コレ全部作るの?」
「試作型を三丁ずつくらい作って、現場の人達に使ってもらいます。実際の使用感から一番優れてるものの設計図を譲ろうかなと」
「トライアルって訳ね……いいでしょう、その計画を許可します。略式だけど、後で正式に書面に出すわ」
「はい、お願いします」
俺と都市長の間で様々な事をやり取りしこの場で計画を立てる……都市長がクラフターでも有るから出来る事だ。
「あの……」
「あ、すみません」
無視する形が続いた受付さんが声を掛けて来た、多分やり取りが専門的過ぎて声を掛けるタイミングが掴めなかったのだろう。
「お連れになられた方とはどのような関係なのでしょうか? 先程は不法侵入者と家主と答えていましたが」
「はい、そのまんまですね」
「えぇ……書面どうしよう」
まさか善意の第三者により連れて来られるとは予想外だったのだろう、しかも家に不法侵入された被害者だ。
「タタラ、状況を詳しく教えなさい。カラムスを通して私に連絡をしたって事は、何か重大な理由が有るのでしょう?」
「はい、不法侵入もそうですがこの相手は不法入国者でも有ります」
「……虎熊家関連かしら?」
直近で思い当たる駄狐の事を思い出したのだろう、しかし今回はちょっと違うのだ。
「いえ、転移門が外部からの干渉を受けたらしく向こう側からの一方通行で渡ってきました。それに、少なくとも虎熊家は無関係です」
「……その理由は?」
「侵入してきたのは機巧乙女です」
俺の言葉に都市長は額に手を当てた。
機巧乙女はこの『ワールウィンド』にとってある意味で最も相性が良く、それでいて一番いて欲しくない種族だ。
クラフターが数多く居るこの都市は、当然数多くの魔導具が作成されている。機巧乙女はそんな魔導具への干渉能力……ハッキング能力を持っている。その上でそれらの魔導具の性能を倍する能力まで持ち合わせているのだからこの都市ではそれはもう嫌われる。
過去作の舞台にもなった魔導大国は、秘蔵されている魔導具を機巧乙女に奪われて近隣諸国と開戦一歩手前まで進んだ。別の作品で敵対していた工業大国は魔導技術を初めて導入した機動戦艦を奪われて滅ぼされかけた。
そんな事をする機巧乙女は当然少数派なのだが、そもそも機巧乙女の数が少なく一部のやらかしが全体に風評を作ってしまっている。過去作では神格に至る程の機巧乙女の献身で主人公達の進む道を作る場面も有り、そのシーンでタイトル中一番好きなキャラになったくらいに儚く美しかった。それに対してやらかした奴等よ……地味に此奴等もいいキャラしてたので憎みきれない。
「……タタラ、機巧乙女を助けてどうするつもり?」
「救える命が有るなら掬い上げる、ただそれだけですよ」
「分かってると思うけど、暴走したら被害はとんでもなくあるわよ?」
「その時は……俺が殺します」
実は少しだけ試したのだが、『概念鑑定』であの機巧乙女の弱点を見れた。半機半有機生命体である事が関係しているのだろう、俺は彼女を破壊出来る。故に、この『ワールウィンド』に何かしらの災厄を招くなら俺が終わらせる。
「……分かったわ」
都市長は静かに認めてくれた。
「……貴方が、彼女を連れてきた方ですかな?」
後ろから静かな声が掛けられた。振り向くと、術衣を着た年老いた男性が立っていた。
「はい、俺が彼女を連れて来ました」
正直に答えると、男性は難しそうな顔をした。
「あの機巧乙女の患者ですが、手は尽くしました。しかし、本来自ら傷を癒す力を発揮する核を失っている為に長くはないと思います。保って24時間でしょう」
「そう、ですか……」
助けようとした手前、それが叶いそうにない現実が辛い。
「助けられる可能性は有ります、しかし……その為には代えになる核を用意せねばなりません。あいにく我が病院には霊核や神核の類は無いのです」
申し訳なさそうに語る男性、俺はその言葉に仕方ないと納得する。霊核や神核は希少品だ、悪魔族や天使族が出るのはかなり下の階層になる。そこまで潜り、更にかなりの強さを誇る天使族や悪魔族を倒した上でのレアドロップ。タチアを連れて行けば可能性は高いが、先ず実力が足りてない。
例えおっちゃん達であろうと、所持数に余裕なんてないだろう。万事休すか。
「あの、患者とは話せますか?」
「今はまだ眠っていますが、麻酔が効く訳でも無いので間もなく目覚めるでしょう。患者は個室へ移しますのでそちらでお話を」
都市長をチラリと見た男性はそう言い残して立ち去った。
10分程して、移された部屋へ入る。顔に大きな傷を負っていたのか、左目を隠すように包帯が巻かれている。掛布の上に出されている腕にも所々包帯が巻かれて、ガーゼを血が染めていた。
痛々しいが、核を失い自己修復すらままならず外部からの修復も出来ない。完全に手詰まりだ。
「んっ……ふ、うん?」
そんな風に観察していると、機巧乙女が目を覚ました。開いた目で天井を確認した後、見えてない左目に手を添えて包帯の存在を認識した。周囲を確認する為に首を動かし、此方を見て固まった。金色の瞳が俺を見据える、何かを探っているのかも分からないガラス玉のような瞳だった。
「……貴方達は、何者ですか?」
少し高めの、ややエコー掛かった声が問いかけて来た。
「俺はタタラ、タタラ・ジュロン。この『ワールウィンド』でクラフターをやっている者だ。俺の家にいきなり君が現れて、大怪我を負っていたからこの病院に連れてきた」
「……タタラ・ジュロン、ワールウィンド、病院……認識しました。私は貴方に助けられたのですね、タタラ・ジュロン」
機巧乙女のその言葉に、俺は首を横に振る。そんな俺の反応に疑問を持った表情を浮かべる機巧乙女
「助けられていない、君の核は失われたままだ。代えが無い現状では君は24時間以内に死んでしまう」
「そうなのですね」
俺の言葉に無感情な返答をする機巧乙女、やはり半分が機械な為か自らの死に対しての反応が薄い。
「タタラ・ジュロンにとって、私の生命活動の継続こそが私の救済であると認識している事は理解しました」
感情の無いまま紡がれる言葉は、ただの事実確認である様子だ。
「しかし、タタラ・ジュロンは損傷の激しい私を病院へと運び命を繋げるように対応しました。それは私を助ける為に出来る最大の行動で有ると認識します。ならば、私は貴方に感謝を伝えるべきであると判断します」
ガラス玉のような金色の瞳は俺をじっと見詰めたままで、言葉を伝えてくる。
「ありがとう御座います。私は少なくとも、人のように終わりを迎えられる」
これが、機巧乙女か。こんな自分の死を粛々と受け入れ、諦めにも似た姿を曝させるのが機械神様が求めた生命なのか。
ふざけるなよ。
「なぁ、お前は生きたいと思わないのか?」
「現状を鑑み、不可能と判断出来ます。事実を受け入れ、機能停止を受け入れるのが妥当だと判断しました」
「死にたくないって思わねぇのかよ?」
「私という1個体の機能が停止しても世界に影響は与えません」
「ふざけてるのか?」
「巫山戯てはいません、私達機巧乙女と貴方達有機生命体は違う」
そろそろキレそうだ。
自分をただの機械だと思っているこの価値観は相容れない。
何故自分が誰かの愛で生まれて来たと思えない、そんな考えが蔓延する種族を作りたかったのか機械神様は。
「お前、家族は?」
「私と同じ機巧乙女の母と、人間の父です。姉妹はいません」
「生きてるのか?」
「両名とも存命です」
そこ迄聞いて、一度息を吸う。
「お前の死で、両親は悲しまないと思ってるのか?」
内心、感情が弾けそうで辛い。相手は負傷している、感情をぶつけていい相手では無い。それは分かっている。
「母はわかりません、同じ種族なので受け入れると思います。父は悲しむでしょう、そういう人です」
「お前、ふざけてるのか?」
「巫山戯ていません」
「ならなんで諦めてんだよ」
「どうにもならないからです」
「初めから諦めてりゃ神様にだって見捨てられるだろうよ」
ガラス玉みたいな金色の瞳が細まる。なんだ機械人形、怒ったのか?
「訂正して下さい。機械神様は私達を見捨てません」
「なら何でお前は今死にそうなんだよ」
「それは運命だからです」
「その運命ってのは誰が決めてるんだよ」
「それは……」
機械人形は黙る。
「答えられないのか、なら言ってやろうか?」
「それは……」
「お前が信奉する神様だろ、運命を決めてるのは」
「違います」
「なら誰だよ」
「それは……」
「ほら、答えられない。お前はお前の神様に見捨てられてるんだよ、運命を他者に委ねてるからな」
「違います」
「否定するなら別の事を言えよ、否定する材料を示せよ」
「それ、は……違う」
「何が違うんだよ」
「私は、見捨てられてない」
「何を根拠に」
「貴方に会えた」
「……は?」
突然の言葉に思考が止まる。
「貴方が助けてくれた、貴方に出会えた……ならきっと私はまだ見捨てられていない」
「……何を言っている」
「機械神様が貴方との出会いを導いたのなら、きっと意味が有るはず」
「ただの人間に何か出来ると思ってるのか?」
「私を助けようと足掻く人間が“ただの人間”であるはずがない」
ガラス玉のような金色の瞳が俺を捉え続けてる。
「貴方は私が諦める事に否定的です。私が死を受け入れようとしている中で、両親を想起させて思考を生存へと向ける為に足掻いていた。私達の創造神を引き合いに出して、私の考えを変えさせようとした」
真っ直ぐに俺を見て言葉を紡いでいく。
「貴方は私が死を受け入れた瞬間から私を機械人形だと認識した、生きる為に諦めない精神性を持たなければ人間として私達機巧乙女を見ないのでしょう……傲慢ですね」
「ああ、傲慢だ。人間って種族は傲慢だ、そうして運命を手繰り寄せる為に生き足掻いている」
「……ならば、私も人間らしくしましょう」
俺を捉える金色の瞳に感情が宿る、その目から一雫の涙が流れた。
「助けて下さい、まだ死にたくありません」
それは切実な願いだった。
生きとし生けるものが等しく持つ生への渇望。
それが聞けたのなら、俺は悪足掻きが出来る。
「任せろ、全力を尽くす」
俺の言葉に機巧乙女は、乙女の名に相応しく綺麗に笑った。
「幾つか質問をしたい、君の状態は核を奪われただけなのか?」
「その質問には肯定と返します。詳しくは核を抜き取られた際に記憶領域に影響が出て思い出せませんが、私を襲ってきた敵は私の武器を全て破壊した後に私の核だけを抜き取り去っていきました」
機巧乙女は基本的に高い戦闘力を持つ種族だ。魔導武器の性能を強化し、どの種族よりも巧みに使う。そんな彼女達を圧倒出来る種族など限られる。身体の欠損がほぼ無い事から、彼女を捕食する目的で襲う幻獣種は自然と外れる。精霊種は彼女の核に興味を抱かず再生不可な程粉々にするだろう。
「覚えているだけでいい、何処かの勢力と敵対していたか?」
「特定種族との敵対関係は作っていません、旅をしている最中にエルフやドワーフの集落に宿を取ることは有りましたが問題なく出れています」
「……何処かの国に仕官を打診されたりは?」
「一度だけ、しかし断りました」
おそらくコレだろう。機巧乙女としての戦力を求めて所属する事を打診して、断られたが故に核を奪った。そんなところだろう。
「傷を見せて貰っていいか?」
「わかりました、どうぞ」
そう言って身を起こした機巧乙女は、病衣の袂を開いて傷を見せてくれる。
空いた穴から血は流れておらず、肉と機械が混ざった内部が見える。その中でポッカリと空いたスペースがきっと彼女の核を収めていた場所だろう。
「核を抜き取られただけで他へのダメージは殆ど無いのか?」
「はい、代わりの核さえ有れば後は自動修復機能で内部機構も直せます」
本来の核に代わる物さえ有れば、彼女の身体は修復が出来る。
「代わりになる動力は、例えば何が挙がる?」
「天使族、悪魔族の霊核や神核です」
「……霊核は、例えば人工的な物でも代用は出来るか?」
俺の質問が一瞬理解出来なかったのだろう、彼女は目を瞬かせてから言った。
「恐らくは肯定です、寡聞にしてそのような存在は知りませんが存在するのなら最も相性がいいとも言えます」
「人の手で作られたから、か?」
「肯定です。私達は神々に作られた機械が神格を得た機械神様の手で生まれました、ならば人の手で生み出された物が相応しく無い筈がありません」
その言葉で覚悟が決まる。霊核は手持ちが無いが、理論上は霊核と同種の物なら手元にある。
インベントリから一つのアイテムを取り出す、希少品だとか言われるだろうが構うものか。生命よりも重い物じゃない。
「……タタラ・ジュロン、その高エネルギー結晶体は?」
「こいつは『錬金術師の卵』という、彼等の悲願とも言われている物だ」
「……『賢者の石』が実在した、と?」
「いや、実在したんじゃない。辿り着いたんだよ」
その言葉の意味を理解するのに時間が掛かったらしく、少しの間だけ彼女は動きを止めた。改めて俺を見て確認してくる。
「辿り着いた者がいるのですか、あの悲願に。生命の創造すら叶うとされた物質の生成に」
「御伽噺程に大層な物じゃ無いがな。しかし今、君の生命を繋ぐだけの事は出来る」
その言葉に大きく目を見開く機巧乙女、意を決して俺に言葉を放つ。
「お願いします、それを私に使用して下さい。見返りは払います、戦力でも身体でも欲しい物を差し上げます。だからどうか……」
その懇願が切実で、彼女が生きているのだと実感出来る程の感情が見えた。なら、俺はそれに応えよう。
「分かった、なら俺からの条件は一つだ」
「はい、なんでしょう」
「幸せになれ」
「……え?」
俺の示した条件に戸惑う機巧乙女、俺はもう一度条件を言う。
「この『錬金術師の卵』をお前にやる条件はお前が幸せになる事、それだけだ」
「私の幸せが、条件……」
呆然とした機巧乙女は俯く。
「幸せとはなんですか?」
「さぁな、人それぞれだろうそんなの」
「私には分かりません」
「なら、諦めるか?」
「嫌です、諦めるのだけは嫌です」
「ならどうする?」
「……探します、貴方から与えられる時間で。私の幸せを探します」
「……その言葉、忘れるなよ?」
機巧乙女の言葉を聞いて、俺は手に持った『錬金術師の卵』を差し出す。機巧乙女は両手で受け取り、胸の穴に収めた。
空いた穴から見えたのは、胸に収められた『卵』と内部から伸びたコード等が繋がるところまでだ。次の瞬間には機巧乙女の身体に強烈な魔力光が走り、周囲に衝撃波が放たれた。
思わず転がった俺が顔を上げると、全身を光で包まれた機巧乙女の姿があった。解けた包帯の下に有った傷は次々と癒えていき、最後には胸の傷が塞がる。
傷一つない裸身が目前に佇む。
「……ありがとう御座います、タタラ・ジュロン。貴方のお陰で機能が回復……いえ、以前よりも調子が良くなりました。今ならあの時に私を襲った相手にも勝てそうです」
薄く微笑みながらそう言ってくる機巧乙女、しかし俺はそれに答えるよりも先にインベントリから大きめの外套を取り出し機巧乙女に被せる。
「お前、羞恥心を持てよ。女の子なんだから!」
「……Yes my Master」
……ん?
「待ってくれ、なんだって?」
「Yes my Masterと」
聞き間違いを疑ったが、本気で言ってるなコレ。
え、なんで?
「核を新規に与えられ、情報の更新を行いました。私はマスター・タタラの剣にして盾、この身が砕け散るその日まで貴方を守り続けます」
「ごめん、どういう事?」
「必要なら夜伽も行い、望まれるなら子を成します」
「覚悟が重くない?」
ただちょっと生命を助けただけで人生掛けられるのはちょっと此方の覚悟が足りない案件だよ、またエテルに搾られる。
「改めて自己紹介を。私はダリア、貴方に仕え貴方と共に幸福を探す機巧乙女です。よろしくお願いします」
そう言って手を差し出してくる機巧乙女のダリア。
「……タタラ・ジュロン。しがない学生兼クラフターだ」
そう答えて、俺は手を伸ばしてその手を取った。
コレからも前途多難だなと思っていると、誰かに抱きしめられる感覚がした。ダリアとは握手の最中で、都市長は病室の外だ。
最近頻度が多くなってきた姿の見えないボディタッチ、なんなのだろうかコレは。
「そういえばマスター、聞きたいのですが」
「おう、何だ?」
「私の核となったこの『錬金術師の卵』の製作者に会いたいのですが。マスターにコレを渡し、私を生かす事に繋がったお礼を言いたいのです」
「おう、気にすんな」
「しかしマスター、それでは礼儀に欠けます」
「作ったのも作り方見付けたのも俺だから気にすんなって話だ、礼はキッチリ届いてるよ」
俺の言葉にダリアは目を瞬かせてから言う。
「しがない学生と言う話では?」
「いや、普通に学生だが」
「……あ、学聖ですね?」
「どんな意図で言ってるのかはだいたい分かったけど、それも違う。正真正銘の学生だよ」
「……り、理解不能」
【殺戮人形】
リメイク版から追加されたイベント。
ある日、主人公スミスの下に殺人事件の情報が舞い込む。
被害者は全身をバラバラにされ、その凶器は高出力の魔力刃であるとの事だ。
早速調査を開始したスミス達だが、都市の闇である暗殺者集団と対峙する事になっていく。やがて彼等の前に、一人の機巧乙女が立ちはだかる。
ボスとの戦闘に勝利した際に特定のアイテムを所持していると、機巧乙女のマスター権を奪うことが出来る。
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