既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
「マスター、手応えが無くてつまらないです」
「満面の笑みで殺し終えておいてそれか」
戻って来たダリアの開口一番に出て来た台詞がコレである。
お前が相手して満足するの、多分80階層とかその辺りだと思うぞ。
「このようなモノを幾ら片付けようと、マスターが作ったこのハイマツァーンラートの優秀さが示せません」
「……そのチェーンソー、そんな名前にしたんだな」
「えぇ、マスターの名付けのパターンからコレがしっくりくるかと」
「……そうか、気に入ってくれてよかったよ」
確か意味はハイマが『血』でツァーンラートが『歯車』だった筈……『血の歯車』とかヤベェ名前付けられてる。ピッタリだけど。
「取り敢えず、此処からは俺達で進めていくからダリアは見学で」
「そんな、何故ですかマスター!」
「俺達のレベルとスキルのレベル上げの為、ダリアには無いだろ?」
「アッ、ハイ」
俺の言葉を聞いて大人しく最後尾に控えるダリア、聞き分けは比較的良いんだよな。
俺達何時ものメンバーでの攻略も快適に進んでいく。途中、俺の『槌適性』スキルがコンプリートして、次に『魔力上昇Ⅰ』を取得する。この『魔力上昇』と『魔法攻撃上昇』には魔力の制御力に補正が掛かるので、コレから先も魔法金属を鍛える際により精密に魔力を通して仕上がりを良く出来るだろう。
ボスドロップはダリアに取らせた、途中で何もしないのもアレかと思ってダンジョン初挑戦記念でやらせて見れば特大の魔石を2回引いていた。コレはもしや、新しく『卵』を作れと言う御告げなのではと思い相談して俺が預かる運びとなった。
攻略は進み、問題の25階層に到着する。
「さて、此処からは敵が『ゴーレム』だし俺がメインで良いよな?」
「ま、妥当じゃな」
「撹乱はエテル殿にお願いしたい。私ではまだ空中での速度で劣るので」
「うん、分かったよ」
そうやって俺達が役割を決めていると、ダリアが疑問を持ったようだ。
「此処は私が『オウトエイズル』で粉砕する流れでは?」
そういえば、ダリアは知らないんだよな。
「いや、基本種類が何であれ『ゴーレム』相手なら俺が一番ドロップ率を高められる倒し方が出来るから俺がやるべきなんだ」
「……途中『ムゥ
「今、何でその状況引っ張ってきた?」
流石にアレを見てキレるのは正常だと思う。醜い嫉妬と言われても納得はするが。
「まぁ、簡単に説明すると俺の『鑑定』ってちょっと変わっててな。無機物の歪と言うか弱点を見れるんだよ。コレを応用すると『ゴーレム』相手に防御無視確定致命打が与えられる訳だ」
「それは中々ですね……あれ、それって機巧乙女は対象外ですよね?」
「いや、対象内だ。ダリアを助けた時、暴れるようなら俺がその場で責任を持って破壊するつもりで助ける事を了承された」
「……」
ダリアが固まってしまった。
「マスターは、何故私を助ける選択をしたのですか?」
「誰かを助けようとする心に理由なんて有るかよ。迷って足踏みして間に合わないくらいなら、自分が傷付こうとも手を伸ばして助ける。馬鹿な考えでも俺はコレをやめられそうにない」
始まりはきっと『天使長』を助けた事。大小様々な手助けをして生きて来た。エテルに手を伸ばして、ダンジョンで四葩を連れ出した。タチアを人間として立ち直らせて、駄狐に餌を与えた。そしてダリアに『卵』を譲って、今の関係が有る。
「マスター、その生き方を何時まで続けていくのですか」
「さぁ、懲りるか死ぬまでじゃないか?」
「……なら、最後まで私はそれを見届けましょう」
静かに一礼するダリア、俺の何がコイツをここまで思わせるのかがよく分からない。
そんな会話の後に最初に見付けた『ミスリルゴーレム』、最近では『アイアンゴーレム』の方が希少なのではないかと俺は思う。
「タチア」
「うん? なんだろうか」
「ミスリル製になるかも知れない、お前のエストック」
「……まぁ、私の自業自得では有るからな」
タチアが俺の言葉に苦笑する、本当に希少金属とは何なのか。
「エテル、撹乱頼む」
「うん、任せて」
エテルは俺の言葉に答えて、ふわりと飛んでいく。
そういえばエテルの動きが静かだと今更ながらに気付く。駄狐と行っていた訓練が此処で役に立っているのが少し面白い。
何時もの通りだ、エテルが視界を塞ぎ俺が回り込んで『クラフト』を使う。以前と違い地面を弄る際に魔石を必要としなくなったなと、そんな事を思っていたら『ミスリルゴーレム』が姿勢を崩す。倒れた所で額の文字を一つ削る。コレでおしまい。
「……『ゴーレム』は何故崩壊したのですか?」
ドロップアイテムを回収している俺に対して、ダリアが聞いてくる。
「『ゴーレム』って魔法生物だろ? なら、魔法を成り立たせてる術式の起点が存在してるんだよ。それが額に有る文字で、最初の文字を消す事で術式の意味を反転させて『ゴーレム』を壊してるんだ」
俺の言葉に驚くダリア、案外知られてないんだよなこの倒し方。
そっと額に手を当てて隠すダリア。
「……お前は『ゴーレム』では無いだろ」
「……そうでした」
なんというか、変な行動が偶に見えるなコイツ。
そこからボス部屋まで同じ事を繰り返す。既に笑い話の域だが、出てくる敵が全て『ミスリルゴーレム』だった。コレで作れるのは精々、ダリアの『エリンジウム』とタチアのエストックくらいか。合計で70kgも手に入るミスリルは本当に希少素材なのだろうか? 23階層で鉄が採れた時の方が盛り上がったぞ。
「さて、どうやって倒すか」
「以前の魔道具は使えないのだろうか?」
「ダリアに譲ったからな、新しいのも作ってない」
此処でダリアに頼るのも何か違う気がする、一時的に『オウトエイズル』を返して貰うのも何か気分が良く無い。
仕方ない、以前と同じにするか。
「前と同じで行こう、エテル『エリンジウム』を頼む」
「え、うん……分かった」
「それと皆、コレを首に掛けてくれ」
そう言ってそれぞれに渡す小さなネックレス、個人専用の遮音結界と同じ装備間で念話を使用出来る試作のアイテムだ。
『あ、あーテストテスト。念話届いてますか?』
『ぬぉ!? 頭の中にタタラ殿の声が!?』
『此奴等、脳内へ直接……?』
『遮音と同時に意思疎通の為に試しで作ってみた、整えたらパーティ用のアクセサリとしてイヤリングとかカフスなんならヘヤピンにでもするつもりだ。希望の形が有るなら後で頼む、基本的にタチアの鎧に刻んだパーティシンボルを彫り込むつもりだ』
『ふむ、探索後に伝えるのじゃ』
『私もそうしよう、髪飾りとかが無難かな……』
念話でやり取りする俺と四葩とタチア、エテルとダリアはまだ着けるのに手間取っている。
『……〜って、ちゃんと使えてるかな?』
『お、届いてるぞエテル』
『ごめんねタタラ、私の髪ってこういったアクセサリ滑っちゃって』
『エテルの髪は艶やか過ぎてこの手のは無理じゃったか、耳飾りが妥当かの?』
『ピアスかカフスかなとは思うな、指輪は絶対にしないが』
『魔道具で指輪を贈るのは……いや、二人は既にその手の指輪を着けてましたな』
『丁度此処で取ったヤツだな』
懐かしさすら感じる、忙しい日々が続いてそんなに昔でも無いのに遠い過去にも感じる。
『……アクセス完了』
『よし、ダリアも着けられたな』
『単純過ぎて語る気も起きないこの情けない魔道具は何なのでしょう?』
『何処ぞの赤い人みたいな拘りはやめてくれ、試作型なんだから。コレは屋内でエテルに『エリンジウム』を使って貰った際に発生した轟音で耳をやられかけた時に作ると決めた魔道具だ、遮音も結界で発砲音を遮断しつつ念話で意思疎通も可能としている。パーティメンバー用のアクセサリーとして後で配るつもりだが……ダリアは要らんか』
『要りますが? 出来れば髪飾り所望です』
『後で要望まとめるか……エテル、前と同じだ。出来るか?』
『初手から精密射撃で頭を狙うね』
『タチア』
『エテル殿の発射後に動けば良いのだな、任されよ』
各人のやる事を再度確認し、準備に取り掛かる。以前のマットを厚くした物に寝そべるエテルを見て、啓示の事をバレた結果後で搾られないかと少し怖くなる。
そして、そんなエテルに寄り添いそっと『エリンジウム』に触れるダリア。
『ダリア?』
『私が触れる事で一時的に【エリンジウム】の強化が出来ます。任されたのは奥様ですから、照準と銃爪は奥様に任せます』
『……分かった、確実に終わらせるよ』
エテルに気合が入ったらしい、目が紅く光っている。
『始めるぞ、準備は?』
『エテル、照準および銃爪の準備よし』
『タチア、突入準備よし』
『四葩は後方待機、いざという時後詰め頼む』
『了解じゃ』
『では、作戦開始』
扉を開けて、エテルの後ろに回りシールドの影響下へ。それを察してエテルが『エリンジウム』に魔力を送る。
魔法陣の展開と魔力の充填が通常よりもずっと速い、コレが機巧乙女の影響を受けた『エリンジウム』か。扉を開けてから2秒と掛からず、エテルは銃爪を引いた。
衝撃と眩い光が発生するが、音は伝わって来ない。魔道具の出来は上々だと思った矢先に前方に見える『オリハルコンゴーレム』が倒れた。
『……頭吹き飛ばしちゃった』
『ボス相手にヘッドショットで即死させる事って有るんだな……』
10階層の『ゴブリンロード』相手でも起こった事無いぞ。
全員魔道具を外してボス部屋に入る、ボスドロップ宝箱をエテルに開けて貰うとまたも特大の魔石……なんだろうあと一つ『錬金術師の卵』が必要になる場面でもこの先来るんだろうか?
「何かお悩みですか、マスター」
「ああ、『卵』をもう一つ作れそうだから作るべきかと思ってな」
「それはいい、是非ともマスターの魔導鎧を次のステージに進めるべきです。人造の霊核により稼働する、人の手で造られた魔導鎧。我等機巧乙女はその完成を祝福します」
「いいのか、それ……」
他のメンバーも俺の装備を更新する事に賛成の様子だ。いや、確かにこの中だと俺が一番弱いが……そんな心配される程?
そして、ここ迄来てダリアの性能検証を進めるべきだろうと考えが浮かぶ。
「ダリア、少し無茶を頼めるか?」
「はい、何をすれば良いのですか?」
「コレから少し下へ降りる、敵で『リッチ』が出たらダリアに相手を頼みたい。物理は通らないから、魔力刃で試してくれ」
「Yes my Master」
俺の言葉に、他のメンバーは驚いた様子だ。
「タタラ殿、大丈夫なのだろうか?」
「通常の『ワイト』や『ゴースト』ならエテルの『ロニセラ』で普通に消せる。『リッチ』がヤバいだけだ」
ただ、『リッチ』は即死攻撃を使うからダリアには一切の油断なく何もさせずに倒して貰うのが最上では有る。即死回避のアクセサリ、『死霊』系が落とす素材が必須なんだよな。
「出来そうか、ダリア?」
「任せて下さい。死霊の王だろうとぶった斬ります」
「魂に干渉して即死させてくる攻撃が有るから触られるなよ?」
「Yes my Master」
そうして俺達は31階層へと降りた。
工場に似た様子から一変し、4階層までの洞窟を更に薄暗くした雰囲気になる。壁の岩が色味を黒くしている影響だろう、不気味さが出ている。
「エテル、危ないが先行してくれるか?」
「任せて、油断はしないから」
そう言って飛んでいくエテル、俺達は離れ過ぎない位置を保ちつつ進む。少しして、エテルが壁の影から先を見て止まる。どうも敵を確認したらしい。
少し急いでその背後に回り先を見ると、敵が居た。
法衣を纏い錫杖を持つ骸骨……死霊王『リッチ』の登場だ。
「一発目から『リッチ』かよ、持ってるな俺達」
「本当にすまない」
「タチアが悪い訳じゃ無い。ダリア、頼む」
「Yes my Master」
静かに答えて、ダリアが進み出る。アイツ、『リッチ』の前に堂々と姿を曝して大丈夫か?
ダリアを認識した『リッチ』はその身から目視が可能な程に魔力を立ち昇らせて、魔法を展開する。魔法の代名詞とも言える炎魔法『火球』だ、それがダリアに撃ち込まれる。170km/hといった所だろうか、前世の野球選手でもこんな速度出す人類は居なかった。
対してダリアは左手の魔導剣を起動、魔力が物質化する前に振るい『火球』を両断する。アイツ、漫画みたいな事するな。
次々に魔法を展開していく『リッチ』に対して、ダリアは爆発的な加速で距離を詰める。1秒にも満たない時間で80m前後の距離を0にしたダリアは剣を一振るい、対して『リッチ』は魔法の詠唱を止めて魔力盾を形成する。
拮抗は一瞬、硝子が砕けるような音がして『リッチ』の盾は割れて突き出した錫杖ごと本体が両断された。
マジか、こんな強いのかアイツ。
「任務完了しました、マスター。この階層でコレが一番強いのなら、問題は有りません」
「そうっぽいな……」
ドロップした大型の魔石を拾う、これもしかして此処である程度『リッチ』を狩ってれば『卵』の量産出来るんじゃないか?
エテルの火力不足を補う魔導銃や、タチアの『アーラ』を発展させる際に幾ら有っても問題無い。ダリアの装備を作る上でも有った方がいいし、何なら家で魔力炉を設置して虎熊家に贈る物の試作をする必要もある。
「……悪い顔をしとるぞ、タタラ」
「悪い事を考えてるからな、寄生してるみたいで心が痛むが」
四葩の言葉にそう答えて、メンバーに向き直る。
「ダリアが『リッチ』を一方的に倒せるのが分かったから、方針を少し変える。34階層までこのまま進もう」
「つまり『リッチ』を全てダリアに任せて探索するのじゃな?」
「ああ、普通の『ワイト』や『ゴースト』が出たらエテルが対処して経験値の足しにする。敵との差が10近く有るから多分レベルアップも早いだろう」
「分かったよ。同時に出たら?」
「ダリアに『リッチ』の対処して貰いつつ、エテルが『ロニセラ』で周囲の『ワイト』及び『ゴースト』の排除でいこう」
そうして方針を決めて先に進む。尚、34階層迄で『リッチ』以外に出会う事は無く最大10体もの『リッチ』に囲まれる場面も有ったが……何故かダリアが戦略ゲーで無双ゲーしてた。
「マスター、お願いが有るのですが」
「新規武器に付いてだな?」
「はい」
大型の魔石を回収しつつダリアに答える、偶に特大の魔石も落ちてウハウハだ。レア素材も落ちたのでモンスター防具の『死霊王の衣』が作れるだろう、売れれば100万は硬い代物なので買い手が付けば全員に美味いものを食べさせられる。気合い入れて売ろう……オリーブさん辺りか、学園の魔法科教師が狙い目だな。
「魔力刃を展開する物で、薙ぎ払いが出来る物が欲しいのです」
「魔導剣の機構を応用したハルバードで大丈夫そうか? 長物はそんなにレパートリー無いから、他の工房を見に行ってコレって物を見立てるのも良いが」
「流石はマスター、デートの誘いが色気無い」
「デートなのかそれ?」
魔石の数を確認すると、新規で二つ『卵』が作れる数が揃った。ダリアにレベル有ったら二つ三つはレベル上がってたなコレ?
「タタラ、この先に挑むの?」
「いや、40階層は目指すつもり無い」
「む、此処で撤退とは。敵が厄介なのですかな?」
「……この先、敵が『ゾンビ』系なんだよ。臭いんだコレが」
「……そんなになのかの?」
「初めて挑んだ時に余りにも臭くて吐いた」
「「「うわぁ……」」」
この先ボスフロアまで出て来る敵は『ゾンビ』、正しく言うなら『不死』系である。『ゾンビ』や『グール』は臭い上に無駄にタフだ、一番楽なのが燃やしてしまう事。試作の火炎放射器が出来ているから文字通り『汚物は消毒』して進めはするが、燃料の流体魔石を使い過ぎれば赤字になる。
「……レアな敵はどうなのだろうか?」
「35階層からのレア敵は『ヴァンパイア』だな、四葩が特効では有るが問題が有る」
「む、妾では手に余るのかの?」
「いや、『鑑定』しながらなら多分普通に再生させる前に殺せると思う。けど彼奴等、魅了魔法持ちなんだよな……」
「トラッちゃんが魅了されて敵になったら全滅しそうだね……」
「ああ、最低限全員が『性魔術』を取得して魅了耐性を上げてからじゃないと不安が残る……だから撤退しようと思う」
俺の言葉にパーティメンバーが頷く、ニオイが臭いか面倒臭いかの二択とか選びたく無いだろう。今回は宝箱からそこそこ鉄が出て30kgは回収出来たから、ダリアの『エリンジウム』と魔力砲型の魔導銃を作製出来る。エテルにも魔力砲型を作って渡せば『リッチ』を撃破出来るかも知れない、そうなればダリアを欠いても探索出来るしレベルも上げられる。
「それじゃあ戻ろうか、皆何時も通り……ってダリアは初めてか。何処でも良いから俺に触れててくれ」
「? Yes my Master」
俺の言葉に返事をして、正面から抱き着いてくるダリア。小さいから出来る荒業だ。左手を恋人繋ぎしてくるエテル、結晶を持つ手を包みこんでくる四葩に、そっと肩に手を添えるタチア。
全員が準備出来たのを確認して、帰還結晶を起動した。
入場口に戻ると、ダリアは転位したことに驚いていた。使い切りタイプだが、この手の魔導具は天翔の腕輪くらいしか無いのでその驚きも当然か。
思えば、この転移結晶も消耗品だ。毎回中型魔石一つ分の出費は特に気にしてなかったが重いかも知れない、子供が出来て探索者を目指したら『卵』をベースに再利用出来る物を作るのも有りだろう。……それはそれで都市長にぶっ殺されそうな気がしてきた、『高等部に進学する意義を無くさせる気か』と言われそう。
全員で俺の家に戻ると、なんか凄かった。
綺麗に掃除されているのだが、多分これ駄狐の仕事だ。かなり細かい所まで埃や、汚れが無くなっているし何気に侵入防止用の罠が設置されている。アイツ、この家に長く住む上で住民の安全に配慮してるのか……やっぱり根は良い子だな。
で、雛菊さんはソファで膝を抱えて黄昏ていた。その近くには腕組をして監視しているかの様な駄狐……普段と逆だなコレ。
「ただいま、掃除してくれて助かったぞ駄狐」
「おかえりでござるご主人……というか、何故拙者だと?」
「対人用の侵入防止トラップが増えてたからな」
「それで判別するのは半ば変態でござるよ……」
引いているのか、察せられて嬉しいのか微妙なラインの反応である。ただ、昨夜の事から俺に何となく心を開いてくれたような気がする。
「で、多分だが……雛菊さん家事全滅か」
「帝護衛の任に就くための修行修行の日々でござる、出来ないのも無理ないでござるが……本人がやりたがりでござるよ」
実は苦労してたの駄狐の方かコレ、何となく頭を撫でると尻尾が揺れる。
「……私だって、タタラ殿達に恩を返したいのに」
「エテルや俺の飯を美味しく食べてくれるだけでも嬉しいけどな、やる気が出る」
「うう、どうせ粗食に慣れ過ぎてどんな物でも美味しいバカ舌です……」
「いや、卑下すんなや」
「雛菊は落ち込むと長いでござるよ」
駄狐は突然俺の近くで匂いを嗅いできた、獣人である彼女には臭っているかも知れない。
「ご主人」
「分かった、先に風呂入ってくる。女性陣には待ってもらう」
「急ぐでござるよ、発情した夢魔に襲われる前に」
「いやに具体的だな!?」
この家にハーフとはいえ夢魔は一人だ、流石に聞かれてたら怒られてたぞ駄狐。
汗を流し、消臭効果の高いシャンプーとボディソープで洗う。髪が長いのが邪魔だが、どうも偶に遊ぶエテルが居るので切れない。30分程時間が掛かってしまい、女性陣を大分待たせてしまったが特に文句は出てこなかった……内心何を思われてるか分からないから早く風呂を増設したい。
「ご主人、水出し紅茶しかないでござるがいいでござるか?」
「……何も入れてないよな?」
「ご主人、砂糖入れる派でござったっけ?」
「いや、何でもない」
アイスティー出されたからって過剰に反応し過ぎたな。
一口飲むと、香り高くて渋味もない素晴らしい一杯だった。
「淹れるの上手いんだな」
「潜入する上で相手に茶を出す事もある故、徹底的に仕込まれたでござるよ」
「……大変だったんだな」
「大変とも思えない、無知な子供でござるよ」
駄狐もカップを両手で包んでゆっくり紅茶を飲んでいる、穏やかな表情だ。
「ご主人、拙者は此処で見る夢が楽しいでござる。ずっと覚めたくないでござるよ」
「見飽きるまで見てろって言ったろ、飽きたら目を覚ませばいい」
同じやり取りをすると、駄狐は安堵した表情をする。コイツの方言は試し行動なのかも知れないな、まだ心が幼いままなんだろう。
と、そんな会話をしてる最中に窓が軽く叩かれる音がした。目を向けると、小さな影。都市長とやり取りをする時に頼っている鳥型ゴーレムだ。
「なんだ……手紙か」
ゴーレムの脚に括られていた手紙を取り読む。
明日の昼頃、虎熊家との会談がある故に四葩との参加命令だ。
「コレは、また何か有りそうだな」
前回、地雷を踏まれて撃発してしまった。今回は大丈夫だろうか……不安だ。
エテル達が風呂から上がり、俺とエテルによる共同作業で作った夕飯を終えた後で工房の奥にある鍛冶場へタチアと二人で入る。
「それじゃあ、エストックの製作に入るぞ」
「ああ、頼む」
重さは8kgとしようとしたが、流石に重すぎると言われたので5kgにした。それでもインゴットが50個とか言う意味不明な数だが、まだまだ余裕が有る。本当、何なんだろうなこれ。
事前に作っておいた『卵』を装備し、作業開始。
50ものインゴットに魔力を流し柔らかくして、折り曲げて鎚を振るう。流石に数が数なので中々曲がらないが、その程度なにする物と折重ねていく。途中からコツが掴めてどんどんと折り曲げ重ねて都合15回、約164万層の金属層が出来上がる。細く長い円錐になるように整え、全長が2m程になるように調整した。そして先端まで研ぎ鋭さを出していく。年輪のように波紋が浮くかと思えば、完全に金属同士が溶け合い波紋は浮かなかったようだ。光を妖しく反射するその身は、世界すら穿ちそうな凄味を放っている。
拵える柄は長さを一握り半にする。片手で、いざという時には両手でも使えるようにした。オーク材を削り、茎を挟んで目貫を打つ。用意する柄紐は蒼、タチアの瞳と同じ色だ。鍔は翼を模した意匠にして、鉱石の中に紛れていた小さなルビーを飾る。金は無いが、タチアの髪色をイメージした。柄紐と同じ色に鞘を染め、塗装には砕いた魔石を含ませて速乾性と艶を出しつつ魔法防御も持たせた。
そうして完成したタチアのエストック、そっとタチアに差し出した。
「……コレが、私の新たな剣か」
感慨深くそう呟いたタチアが、そっと剣を受け取る。納めた鞘から改めて剣を抜き、眼前に掲げる。
「ミスリルだというのに何という重厚さだろうか」
「そりゃ、剣一本に5kgもミスリルなんて普通使えないからな」
「それはそうだ」
タチアが苦笑いする。おっちゃんとは違う白銀の剣だが、気に入ってくれたらしい。
「ミスリル製にしてるから、魔力の伝達も上がってる。多分、バーストエッジの威力も上がると思うぞ」
あの技は剣を通じて自身の魔力を相手に伝達させる技だ、その触媒になる武器が魔力の伝達を阻害しなければそれだけで威力が上がる。実際、ミスリル装備には『魔力属性攻撃威力上昇』の特性が有った。エテルの『ロニセラ』が高威力を発揮出来る土壌はこの特性がバーラルさんの霊核から流れる魔力を阻害しないからでもある。
「まさに、私の為の剣なのだな」
「当たり前だろ」
「ふふ、ではこの剣の名は?」
「お前ら、俺の名付け楽しんでるだろ」
「たまには私もいいだろう。タタラ殿の事だ、既に案は有るのだろう?」
タチアの確信を持った言葉に、溜息を零す。
「……『アンドレイア』、古い言葉で『勇気』って意味だ」
「タタラ殿の事だ、あらゆる困難や苦難に立ち向かう勇気とかそういった願いで打っただろう?」
「分かってて聞くなよ……」
タチアに揶揄われ、溜息がまた零れる。タチアはそんな俺の姿を見て大きく笑う。
「では、そろそろ時間なので帰るとしよう。明日、タタラ殿と四葩殿は探索に不参加で良いのだな?」
「それで構わない、ダリアが付いて行くが危険な場面以外は静観するように伝えておく」
「ああ、分かった。では、な」
共に玄関まで歩いて、そんな会話をしてからタチアは帰っていった。
さて、俺は工房でダリアの装備を作っておくか。エテルの『エリンジウム』の整備も必要だしな。
翌朝、俺は自室で目を覚ます。同じ布団の中には裸のエテル、昨夜の作業後に風呂に入ったら中で待ち構えて居た。
初めて家に来て一緒に風呂へ入った時を再現し、あの時に俺がヤりたかった事をさせてきた。非常に盛り上がり、部屋でも続きをして……エテルの泣き言も聞いた。
「『お願い消えないで』とか、叶えるしかないよなこの願いは」
そんな愛しい人の言葉を思い出し、起きる。取り敢えずシャワーを浴び、昼からの会談に備えよう。多分、向こうと此方の開通タイミングを合わせる事が目的だろうからキチンとしないと。
「……そういえば、都市長に提出するの忘れてたな」
思い起こすのは昨夜作製した『タタラ・ジュロン式魔力炉』の試作1号と、その設計図と概要書。取り敢えず物は当主代行と奥さんに見てもらう為に持っていかなければならないし、実稼働実験は家でやろうと思ってる。今日は見せるだけのつもりでいる。
それに、鍛冶師の紹介についても何か有ると助かる。
「取り敢えず、シャワーと朝飯の用意だな」
そう声に出してから、1日を始める。ダリアは今日、ちゃんと起きれるだろうか?
【好きな魔導具発表ダリア】
「機巧乙女ダリア・ジュロンが、好きな魔導具を発表します。本日はこれ」
魔導加速式魔導銃『エリンジウム』
「鬼才タタラ・ジュロンが世に出した次世代の狙撃型魔導銃。加速術式をミスリルで造られた三本のレール内に6枚展開し、1枚を通過するたびにその速度を2倍に上げ最終的に初速を64倍にして撃ち出す兵器です。絶大な消費魔力の大きさ、本体の重量、整備性の悪さなどの問題は有りますが有り余る攻撃力は都市長をして『対城装備』として認める程。何よりも脅威なのはその射程、有効射程距離は2500mを誇りその限界の距離ですら直撃を許した鋼製の鎧を引き千切ります。私達機巧乙女が使用すればその攻撃力を2〜3倍に引き上げ、消費魔力も1/2にまで低減可能。我等がマスターを囲みこの『エリンジウム』を量産して貰えるのなら世界に覇を唱えに打って出る事も可能でしょう」
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