既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
「コレが私の為に造られた魔導加速式魔導銃『エリンジウム』……素晴らしい、この重量と内蔵された機構の力強さ。『オウトエイズル』と同じ機構、いえ此方が本元でしたか。加速術式は『オウトエイズル』の2倍、初速は通常の魔導銃の64倍と言う狂気の域。その高負荷により銃身であるミスリル製のレールは本来の破壊力よりも低下しているとの話でしたが、此方は使用されるレールを鍛造して製作する事で強化している……より完成度を高めた物。命中精度、稼働率等の基礎性能の徹底的な上昇を行われたのは正しく匠の拘りでしょう。兵器に最も求められるのは信頼感、それに対してこの回答を返してくる……これこそがタタラ・ジュロンブランドです」
「ご飯冷めちゃうから後にしよ?」
「あ、はい」
朝から武器ソムリエ全開なダリアを一言で黙らせるエテルの圧、胃袋を掴む者が家庭を制する……昔父さんが言ってたっけ。
シャワーを浴び終えて最初に俺が見たのが四葩だった。挨拶をしたらふらりと寄ってきて抱き着く四葩と、そんな四葩を抱き返しつつ頭を撫でる俺と言う珍しい光景が朝から展開された。その後は普通に朝の鍛錬を始める為に庭へ行く四葩だったが、慣れない事をしたせいか耳が赤かった。
その後に続いたのが駄狐。挨拶の後に頭を差し出して来たので、大型犬にやるように両手でワシャワシャとしてやった。抵抗するでもなく受け入れて、毛をボサボサにしたまま庭先へ四葩と鍛錬しに行った。
少し間を置いてリビングの入ってきたのはエテルで、シャワーの後に来た様子だった。取り敢えず、おはようのキスをしてから朝食の準備を一緒にした。尻尾が脚に絡んでいたが、可愛らしいスキンシップなのでスルーだ。
料理を並べていると、庭先から四葩と駄狐そして雛菊さんが上がってきた。どうも俺が料理中に鍛錬へ参加したらしく気付けなかった。改めて挨拶すると雛菊さんも笑って返してくれた。
そして部屋に入ってくるダリア、今日はキチンと起きれたようで良かった。食事前に昨日の事を踏まえて用意したロングコートタイプの防具と、『エリンジウム』そして──
「コレが私の新たな力……収束魔力放射型魔導砲『サザンカ』ですか」
昨夜工房で作ったもう一つのダリア専用魔導銃『サザンカ』である。コレは一般的な基礎魔法の術式の中から共通の物を選び出して開発した、純粋な魔力弾では無く無属性の魔法として自身の魔力を撃ち出す物である。エテルの使う『ロニセラ』のように一定の魔力の消費で一定の攻撃力を発揮するタイプでは無く、消費した魔力に見合った無属性の魔法を発射する為に使用者の魔法攻撃力に依存するタイプになる。
色々手直しして、いずれはエテルにも近い物を持たせたいと思う……『ロニセラ』が強化されたら近い物になりそうでは有るが。
「やはりマスターは鬼才です、これ程迄に私へ最適化した武装を作れるとは正に至高。一般的な魔導砲型とは違う、コレは魔法のプロセスを完全再現した人造の魔法そのもの。使用者の魔法攻撃力を全て引き出し放出する事が可能な機構は、我等魔法の使えぬ機巧乙女に待ち望まれた逸品。機巧乙女ならば基礎攻撃力が各自の魔法攻撃力になり、更に特性により火力を引き上げられる。物理攻撃が届かない程度の死霊どもなど十把一絡、冥府の軍団で在ろうと我が前には百草も同然です。是非とも量産し、タタラ・ジュロンと機巧乙女の前に7つの世界を制覇致しましょう」
「7つも異界って有ったかな……」
「エテル、そこは多分関係ない」
俺は人間界、天界、魔界、冥府、神界、奈落くらいしか知らないがあと一つは何か有りそうではある。あと学園だと天界と神界、魔界と冥府と奈落を一緒くたに教えてるから分からないと思う。
「コレでダリアの武器はあと長物くらいか」
「魔導鎧はどうなのですか、マスター」
「他のメンバーの装備と兼ね合いしてるから、まだ出来てない。正直、鉄と鋼が足りん」
「買わないのですか?」
「俺が商業区で鉱物買うと嫌味言われるんだよ、いっそミスリル1kg出して鉄と鋼をふんだくってやるか……?」
「ミスリルの値崩れが起こるのでやめたほうがよろしいかと」
「だよな……」
絶対に都市長から怒られる……地道に集め続けるしかないか。
そんな会話のあと、『エリンジウム』を取り出したダリアがソムリエを始めたのが冒頭のやり取りである。むしろここ迄よく耐えたなエテル。
「今日はタタラとトラッちゃんが居ないんだよね……」
「最近の俺は参加したりしなかったりだが、四葩が抜けるのは初めてか?」
「そうだよ。トラッちゃんが探索しなかったのって、家で鍛錬した日くらい」
「物理攻撃はタチア頼みだな、武器を新調して渡したが最初は慣らしをするかも知れないな」
そんな会話をしながら洗い物をしている俺とエテル、互いに会話しながらも手元を見て次の動きに合わせてサポートし合う。こういうのを以心伝心というのだろう、心が繋がってる気がして少し嬉しくなる。
「それと、今日はケープ着けろよ」
「分かってるよ、タタラがいない時には着ける約束だし」
以前した注意をまたしておく。しつこいかも知れないが、エテルはなんだかんだ無防備だから気にしておかないと他の男が近寄りそうで怖くなる。力自体はそんなに強くないから、抑えられたら抵抗出来ない……性魔術で隷属させたら大丈夫そうだが。
「そんなに心配?」
「何時もそうだよ、手の届かない所にエテルが居ると怖い。大丈夫だとは思うけど、不安になる」
「それは私が信じられないから?」
「いや、多分コレは……エテルの言う寂しん坊ってやつだと思う。いつもいつでも側に居て欲しいってそんな感情」
「……そっか♪」
そっと身体を寄せてくるエテル、翼も俺を包んでくる。
「タタラは私が大好きなんだねぇ」
「当たり前だろ」
「ふふふ、即答だぁ」
「大好きとか愛してるって言葉を躊躇いなく言えるくらい大切なんだ……嫌なら、やめるけど」
「嫌なんて言ってないでしょ、変な所で自信無いんだからタタラは」
唇を尖らせて俺を咎めるエテル、何となくその顔が可愛くて尖らせられてる唇に唇を合わせる。1秒にも満たない接触で離せば、エテルは目を見開いたあと首元に抱き着くように飛びついてキスをして来た。そのまま腰に腕を回して抱き返す。
「……朝からお盛んなのはよいがの、そろそろタチアが来るからおっ始めるのはやめておくのじゃぞ?」
脇からそんな言葉が届いた。目を向けると、仕方ないと言いたげでそれでいて少し寂しそうな四葩が居た。
「あっ、そうだね。私も着替えなきゃ」
エテルは余裕そうに俺から離れて、自室へ向かう。装備もそうだが下着の類もだろう、色々準備する必要が有りそうだ。
「……タタラ、正妻ばかり構うのは少し淋しいぞ?」
「お前、いきなり可愛いこと言うなよ」
エテルが離れてからそんな事を言う四葩をそっと抱き寄せる、胸元に顔を埋めるその頭をゆっくりと撫でてやると抱き返してきた。
「何時もは頼りになるのに、こういう時は甘えん坊だな」
「妾もこんなになるとは思わなかったのじゃ。箱推しなのにエテルへ嫉妬して……何をしておるのじゃ、妾は」
苦笑い気味の四葩の頭を更に優しく撫でる。抱き返してくる力が強くなり、離れ難いと意思を示している。
そして、立ち去ったと見せたエテルがドアの影から笑って覗いていた。アイツ、可愛いもの好きだからって四葩のこの反応を見に来たな? 自室に行くふりしたのも分かっててやっただろ。
「四葩は、その……俺と繋がりたいとか思うのか?」
「時折、ふと寂しく思う時にタタラの顔が頭に浮かぶ夜も有るのじゃ。けれど、まだ駄目なのだ。虎熊家で然るべき筋を立てて、それからでなければならない」
俺の腕から離れた四葩は、決意を固めた表情だった。
「虎熊の家より出て嫁に入るにしても、虎熊家にタタラを迎えるにしても準備が要る。それに、タチアが伝えた騒乱の事も有る。妾がタタラの子を求めるのはその後でもよかろう」
「……本当、頼りになるな四葩は」
「これでも、探索中はタタラの意見を定めさせたり引き出したりと支えておるつもりじゃぞ? 日常においても同じじゃ、エテルで支えられないところは妾が支える。タタラには何方が欠けても駄目なのだと、沼に嵌めるつもりじゃ!」
「それを宣言するなよ」
思わず笑ってしまった。本当、心強い。
「うむ、妾も調子が出て来たのじゃ。コレもエテルの言うタタラ分のおかげかの?」
「前に『遂に栄養素になった』とか言ってたのに、四葩も言い出すのかそれ」
「どうせコレはタタラに惚れている女にしか感じられぬ特殊栄養素じゃ、言い出せるのは限定しておるよ」
欠乏して死にそうとか言い出したエテルと同じくらい中毒化しないといいけどな。
そんなやり取りをしていると呼び鈴が鳴った、おそらくタチアが来たのだろう。ドアの向かうで隠れていたエテルが返事をして、走って行った。
「おはようタタラ殿、今日はエテル殿とダリア殿を借りさせてもらう」
「ああ、しっかり無事に帰してくれよ?」
「分かっている、この身にかけて必ず帰そう」
互いにニヤッと笑ってそんなやり取りをする、早速エテル達はダンジョンへ向かって行った。
時は過ぎ、昼食を早めに取ってから家を出た。四葩は指定されていたが、護衛二人も一緒して貰った。と言うか、護衛役なのだから会談の場にいないと怒られそうだし。
「思いのほか、駄狐がすんなり付いてきてくれて驚いてる」
「拙者、これでも護衛役の自覚は有るでござるよ」
「まぁ、家に罠仕掛けて守ろうとしてくれるくらいには真面目だよな」
「ふふん、ご主人は拙者をもう少し褒めてもバチは当たらぬでござる」
「調子に乗るな」
ドヤ顔をキメる駄狐の額を指で軽く押すと、駄狐は楽しそうに笑った。やっぱりこの顔が似合うな、こいつ。
「一華はタタラを気に入ったのじゃな?」
「コレだけ懐深く拙者を受け入れてくれる相手を気に入らないのは無いと思うでござるよ、四葩お嬢様」
「確かに、妾もこの面を好んでおるから否定出来んな」
腕を組んで頷いている四葩を見て、そこは納得するのかと考える。
「すっかり駄狐に懐かれましたね」
「まぁ、あれくらいは可愛いものです」
偶に飛び出る語録は中々キツイが……普通の言葉も語録に聞こえてくるからな、お茶の件とか。
「正直に言うと私は、この命に対して否定的でした」
「まぁ、帝の守護の任に就いている人間を送るものではないですよね」
「ええ、まったくその通りなのですが……先方からの『迷わない人材を送って欲しい』と言うのが祟りまして」
ヤバい、俺のせいだった。
「虎熊家の者は家臣も含めて迷子になり易く、奥様等の重要な職に就いている者が基本的に迷わず居られる者が揃っているのです。長旅に耐えられる体力、襲撃されても凌げる戦闘力、外れても問題無い役職と厳選した結果が私で……」
「あの、辛くなるのでその手の裏話はその」
いたたまれねぇ、この人俺の犠牲者じゃん……せめてものお詫びに美味いもの食わせてあげよう。
「長旅など初めての事、駄狐が付いてきましたが行く先行く先で騒動に巻き込まれる事が多く路銀の節約もままならず。野宿には馴れていましたが、野盗や野生動物に襲われる危険と隣り合わせ。更に宿を取ろうにも駄狐が彼是我儘を言い出してそこそこ高い宿に泊まる事に。いえ、温泉や風呂等は楽しめましたがその為路銀が寂しく……」
なんだろう、騒動の一部は雛菊さんもやらかしてる気がして来た。駄狐、騒動の大半ってフォローしてた結果だったりしない?
あと、高い宿取らせたのもその宿と人攫いが共謀してたとかそんなな気がする。この人、戦闘力は高いけど修行と箱入りが合わさった天然タイプっぽい。
戦闘力は十分だけど旅慣れて無いからギリギリだったろこれ。
「……ですが、此処に来て良かったです。四葩お嬢様の元気な姿も見れて、駄狐も自然に笑えている。私も美味しい料理が楽しめる、最高の場所ですね」
「……それなら良かったです」
最後のが一番の本音に思えるの、普段から食べてる姿を見てるせいだと思いたい。普通に漏れ出ていたのなら、残念美人過ぎる。
そんな会話を挟みつつ道を歩き、俺達は中央に到着した。受付で身分を明かすタイミングでカラムスさんが来て、そのまま会議室へ向かった。
最初は護衛役二人を連れてきた事に疑問を持っていたが、職務を全うしているかは姿を見せた方が早いと思った旨を伝えると納得された。朝には四葩と毎日鍛錬しているし、天狗さんの食いっぷりからすぐに肥る可能性が指摘されたらアレだが……そんな早く変化は無いはず。
会議室には誰も居なかったが、後から都市長と外交長そしてあまり知らない二人の人物が入ってきた。
「待たせたわねタタラ、それに虎熊の姫様も。今回はこの二人、法務長と財務長も伴わせて頂くわ」
マジか、此処に今“長”に就いている人間が4人も居るのか。
「挨拶はしたことが有りませんでしたね、法務長を任じられているただの年寄です。よろしく」
柔和な笑顔で名乗って来たのは自称の通り老年の男性、皺の目立つ顔に反して矍鑠とした動作と真っ直ぐな姿勢が若く見せてくる。髪は大部薄いが、丁寧に整えられている為に見苦しくない。
握手を求められたので握り返す、枯れ枝にも見える痩せた身体だがその奥から強い生命力と覇気を感じる。この人、曲者って感じがする。
「虎熊家の令嬢を預かります、タタラ・ジュロンです。よろしくお願いします」
「おや、工匠長ではないと?」
「まだ学生の身、正式に任命もされていませんので名乗れませんよ」
「おや、コレは失敬」
嘘つけ、今のやり取りで俺が法に触れてるかの確認しようとしたろ。俺が工匠長名乗ってたらやんわりと注意した挙句、遵法精神に問題有りとかマークしてたろ。食えない爺さんだな。
「私も初めましてですね、財務長を担当しています。よろしくお願いします」
そう言って挨拶をして来たのは、眼鏡を掛けたキツイ印象を与えてくる女性だった。若くても20代後半、年食ってても30代前半の見た目をしている。しかし、青み掛かった黒髪の隙間から見えた尖った耳から彼女が何かしらの長命種である可能性が見えた。髪の色から考えて、夜の森とか呼ばれてる常に夜みたいな暗さの森に住まう地方のエルフである可能性が有る。
握手はもとめられなかったので取り敢えず手は伸ばさない。
「初めまして、虎熊家の令嬢を預かりますタタラ・ジュロンです。よろしくお願いします」
名乗って、腰を折る一礼。頭を上げると、眼鏡の奥の眼が少し開かれていた。握手を求められると思ったのだろうか?
「タタラ、この二人が居るのは」
「多分、護衛役二人の引き起こした騒動の事と為替の事ですよね? 賠償の件や、俺の特許に対して向こうが支払う額についての財務長。入管でやらかした駄狐の件で呼ばれた法務長、そんなところだと思いますが」
「合っているわ」
「……駄狐?」
「はい。この狐耳は駄狐で結構です」
「きゅうん……ひどい言われようでござる。まあ事実だからしょうがないでござるが」
語録を混ぜるな、それと駄狐判定を受け入れていいのかお前。
法務長はやや納得がいかない雰囲気を出してはいるが、俺達を冷徹な目で見定めてる。法の番人と言われて真っ先に思いつく様な姿だ。
「法のお爺ちゃん殿、納得出来ないなら拙者は一華という名前が有るのでそちらでいいでござるよ」
「ほほ、では私はそちらで呼ばせて貰いましょうイチゲ様」
「よろしくお願いするでござる。それと、不躾にご主人を見定めるのはよして欲しいでござるな。流石に苛立つ」
「コレはコレは、失敬」
一瞬、駄狐の語尾が消えて怜悧な雰囲気を出した。コイツ、本当に普段はキャラ作ってるのか……にしては気を抜いてる雰囲気なんだよな。
それに、俺は庇われたのか。駄狐は何故かこの呼び方をされる事を気に入ってるっぽいが、それは身内に限るのか? イマイチ分からない。
「それでは私もイチゲ様と呼ばせて頂きます。よろしいですね?」
「構わないでござるよ、金庫のお姉さん」
「きんっ!?」
「失礼過ぎるだろ駄狐!」
「きゃうん!?」
財務長への反応で流石に雛菊さんがキレた、駄狐の後頭部に拳骨を振るってる。……俺の気の所為なのかな、駄狐のキャラ。
「うちの駄狐が失礼しました、法務長殿に財務長殿。私は帝都の帝を守護する近衛を務めます雛菊と申します。以後よろしくお願いします」
「コレはコレはご丁寧に、法務長の爺です。よろしくお願いします雛菊様」
「わ、私も財務長を務めております。よろしくお願いします」
財務長、ちょっと駄狐の方をチラチラ見てる。そりゃあんな勢いで殴られて地面に顔面を叩き付けられたらそうなるか。
「挨拶が遅くなって申し訳無い。妾は虎熊家の末姫、虎熊四葩と申すのじゃ。以後よしなに」
最後に挨拶をして一礼をする四葩。その動きに財務長は一瞬対応が遅れた。対して、法務長はすかさず礼を返す。
「コレはご丁寧に。トラクマヨヒラ様、法務長を務めております爺に御座います。以後、よろしくお願い致します」
おそらく、最敬礼に値する角度の礼だ。思考は一瞬も掛けて居ないが、選択は最上。老獪ってヤツかこれが。
「わ、私も財務長を務めさせて頂いています。以後よろしくお願いします」
此方も最敬礼……思えば、都市の最高責任者は都市長。その部下である二人が他国の令嬢に最敬礼をするのは特に異常では無いだろう、都市長がこうしたら大分ヤバい合図だが。
「挨拶は済んだわね? 時間よ、画面に向きなさい」
そんな此方を見ていた都市長がそう声を掛けてきた、なんだかんだ時間が過ぎていたのに気付かなかった。
画面に光が灯り、少しずつ像が結ばれていく。やがて画面には座して此方を見る当主代行と、奥さんが並んで映った。珍しい、奥さんが最初から参戦してるなんて。
『数日ぶりだな、タタラ殿。そして都市長殿。息災だろうか?』
『お久しぶりです、お二方』
「お気遣いありがとう御座いますわ、そちらもお元気そうで何よりです」
「お気遣いありがとう御座います。此方は元気でやっています。ほら、四葩」
「お久しぶりです、父上! 母上!」
『おお、四葩!』
『……あら?』
四葩の姿を見て嬉しそうな当主代行に対して、四葩の顔を見て何かに気付いたらしい奥さん。なんだろう、妙に胸騒ぎがする。
『……四葩、何か変わった事が有ったかしら?』
「む、母上? 妾は特に変わりませんが……」
『そうですか。何やら……恋する乙女と言うか、恋人が出来立ての少女を見た様な雰囲気だったので』
鋭いな!? 確かに四葩を受け入れたけど、それを娘の表情で察するか? これが母親ってやつなのか……勝てねぇ。
「……それについては母上、出来れば二人きりで話したいのじゃ」
『あらあら……四葩も成長したのね』
全てを察したらしい表情で俺と四葩を交互に見る奥さん。
俺、終わったかも知れない。
『ふむ、母娘の会話に父は入れんな……タタラ殿はどうだ?』
「女同士の会話とか割り込んだら袋叩きでしょう? 怖くて近寄れませんよ」
『分かる』
……あれ、なんか大分距離が気安くなってる気がする。
『護衛役二人は如何だろうか、よく働いていると良いのだが』
「助かってますよ。特に駄狐、迎撃用の対人罠なんかを仕掛けてくれるので家の防備が上がってます。この前は家の掃除をしてくれてかなり細かい所も綺麗にしてくれましたし」
『……イチゲが、か?』
「ええ、大分家事が得意なようで……そちらではしなかったようですね」
『ああ、イチゲは此方にいる時はやる気の無さで有名でな。実力は有ったが問題児だった』
「まぁ、野菜が苦手とかで料理は手間掛かりますけど……いい奴ですよコイツは」
『……そうか、タタラ殿の所には居場所が有るのだな』
何処か安堵を滲ませた表情だ。あちらの方では余程の問題児だったのだろう、この家ではのんびりしてて良いのだろう。
「あ、そうだ。前回の魔力炉についてなのですが」
『む、あれは』
「取り敢えず、試作品が出来たので見てもらおうかと」
『此方も……へ?』
「ちょっタタラ?」
インベントリから試作品の家庭用魔力炉を取り出して、画面の前に置く。喉を潤そうとお茶を口に含んでいた奥さんが、物を見た瞬間盛大に吹き出した。
「丁度今日に向けて昨日試作品が出来ました、製作中に費用を抑えようとしたら想定の出力より下がってしまいましたがそれはコレからも研究を重ねたいと思います」
取り出した魔力炉について解説を始めようとした瞬間、真後ろから後頭部を紙束で殴られた。
「タタラぁっ! あんた、こんな特級危険物の完成何で知らせて無いのよ!? 『卵』の時とかちゃんとやってたでしょ!?」
「いや、鳥型ゴーレムがそっち行ってて手紙が送れなくて……」
「限度を考えなさい! コレ、本国で研究されてるけど形になるの10年先とか言われてんのよ!?」
「え、そんな掛かるの?」
「あんたと! 世界が! 同じ技術で進んでると思うな!!」
これでも試作品なんだけどな。
『こふ、ごほ……んんっ! タタラさん、その家庭用魔力炉は譲って頂けるものですか?』
「いえ、まだ試作品なので家で運用しようと思ってます。送るのは完成度を上げた物にする予定ですね」
『そうですか……因みに、出力低下の原因は分かりますか?』
「現状は内部の素材ですね」
魔力炉を少し分解して、中身を曝す。『卵』を収める台座と、その周辺を見えるようにする。
「この通り、台座はミスリルで作製して魔力の伝達率を上げて居ますがその他の配線は強化銅にしています。この強化銅はミスリルに次ぐ魔力伝達効率を誇るのですが、それでもミスリルには劣ります。その為、想定よりも魔力の消耗が多く計算上は800世帯を賄う魔力しか発揮出来ません」
『……なるほど、二百世帯分はそれなりに大きいですね』
「なので、技術的・素材的なこの問題を突破する方法を模索してます。仮に全てミスリル製で作る、などするとお友達価格にしても虎熊家の財政に致命打を与えかねないので」
『……否定は出来んな』
「いま、本国との協議で1基50億と値段が出ています。贈答品1基に割引したものを1基と致しましても3基目以降の製造は厳しいのではと思っています」
俺の説明を引き継ぐ形で、都市長が値段についての説明を始める。その傍らには財務長が立ち、互いの為替についての話も始めるつもりのようだ。
あ、そうだ。
「法務長、あの交渉の場で取り決めで入れて欲しいんですけど」
「ほほ、この爺にあの修羅場へ飛び込めと?」
「ちょっと特許と本国から睨まれ兼ねない事で」
「ふむ、聴きましょう」
「はい。都市長には伝えていて、取り付けてくれるとは思うんですが『虎熊家の魔力炉は陽出國のみの販売に限る』と『魔力炉の販売権は虎熊家のみが持つ』事を交渉して貰います」
「……ふむ、妥当ですな」
「そこで、それを破った際の罰則を可能な限り重くした物……此方の法で出来る物をねじ込んで欲しいんです」
「……販売権、制作時の特許使用料に年間使用料。此等を我が国以外が他国に売る事を禁止する、そんな法案をこの場で作れと」
この人、怖すぎる。俺が考える以上に彼是設定して来た。
「はい、そうしなければ最悪『ワールウィンド』が本国に睨まれる。年若い俺にはそれくらいしか考え付きませんが」
「いえ、それが考え付くなら十分です。では、私はあちらに行きますのでそちらの対応はお願いしますね
ニコニコ笑顔で威圧感を消した後に都市長の所へ歩いていく法務長、首の皮1枚繋がったこの感覚は何なんだろうな?
しかし、前に都市長に言った虎熊家と帝の共同出資についてとかどうしようか。俺が切り出せとか言われてるんだよな。
『あら、タタラさん。場に混沌を持ち込んで手持ち無沙汰ですか?』
「ええ、俺に交渉とか無理なので」
『実直で素直ですものね』
「単純に子供なんですよ、虎熊家に出す案とか考えても通せる自信が無い」
『ふふ、それは例えば?』
「法務長に言いましたが、虎熊家で作った魔力炉は陽出國内での限定販売で販売権は虎熊家の独占ってこととか」
『……それは、大分大きいですね』
「虎熊家が国外に売った場合、『ワールウィンド』の本国が面白くなく敵対関係に移りかねません。四葩の故郷へは自由に行き来がしたい……この案件は飲んでもらいたいんですよ」
『……資金について、何か考えは?』
「お友達価格を止めていいなら一つ」
『ふむ、内容は?』
「先程の条件を前提に、陽出國の中央を巻き込みます。特許料を中央と折半する事でお友達価格よりも安くし、虎熊家の負担を減らします。それでいて国内へは定価で販売出来る……何なら、中央からの依頼なら全額支払わせる形で虎熊家の負担が減る。そんな子供の浅知恵ですよ」
『……なるほど、浅知恵ですわね』
「はい、俺は所詮クラフターでネゴシエイターでは無いですから」
『……ある意味、交渉人としての才は有りますけどね』
「え?」
言われて奥さんを見ると、何処か力の入った目を向けられる。
『場を動かす力を持つのは、大なり小なり交渉の場では必須。先程の魔力炉も、もう少し出すタイミングを変えればそちらが有利になったでしょう。更に言えば私に先程の事を伝えたのも減点になります』
「……そういえば、四葩のお母さんってだけで意識から抜けてたけど政に関わる人でしたね」
『……まぁ、政に関わる者以上に四葩の母親ですので特に今のは言及致しませんが』
何か、揶揄われてるな。そんな俺にそっと寄り添って手を握ってくる四葩。その手を軽く握り返すと、目の前の女怪がニチャアっと効果音が聞こえそうな笑みを浮かべた。
『あらあらうふふ……タタラさん、四葩を選んで頂けたのですね?』
前回の言質発言とか見るに、この人は俺と四葩をくっつけたいのではなかろうか。婚期を逃してるとか当主代行も言っていたし、心配なのだろうか?
「申し訳有りません、俺が愛しているのはエテルです」
『あら、そうですか……その割には距離が近いような』
「……母上、出来れば二人きりの時に言いたかったんじゃが」
『あら、四葩。何が有ったのかしら』
四葩は一度目を瞑り、再び開いて自身の母親を見つめた。
「妾はタタラを愛しています。タタラの心にはエテルが居て、唯一の愛はエテルにしか向けられていません。それでも、諦められず……そんな妾にエテルが許しをくれました。あくまで妾は二番手ではありますが、タタラと共に生きる事を許されたのです。だから……妾は、タタラとずっと一緒に居るよお母さん」
その言葉を聞いて、奥さんは大きく目を見開いて……大輪の花みたいに綺麗に笑った。
『そう、幸せを見付けたのね四葩』
「うん、タタラが妾の幸せなのじゃ!」
『ならばよし! あ、一度は此方に帰って来なさい? 嫁入り道具は用意しているのだし』
「はい、此方の問題が片付いたら一度帰るね?」
『よしよし……タタラさん』
明るく四葩と話していた奥さんが俺を見据える。雰囲気が変わった、とても重い圧が掛かってくる。
「はい、なんでしょうか」
『一途な貴方がこの選択を取る上でどれ程葛藤したのかは分かりません、子を駒として見る親にあれ程激昂して見せた貴方の事です……とても苦しんだのでしょう』
「……はい」
あの時の怒りから、俺の気質を完全に理解されたらしい。本当、母親と言う人種には勝てる気がしない。
『ですが、私も四葩の親ですのでコレだけは言います。娘を幸せにして下さい、泣かせないで下さい』
「……はい、全身全霊を持って彼女を幸せに出来るよう努力します。その……泣かせ無いのは自信無いですが」
『あら、それは何故?』
問い詰める奥さんに、俺は一つの決意を持って返す。
「多分、嬉し涙くらいは流させるので」
『まぁ♪』
何処か嬉しそうに声を漏らす奥さん。四葩の握る手に力がこもった気がした。
『ふふ、いい男性を捕まえたのね四葩』
「……少々無自覚に魅力を振り撒く悪癖が有るのじゃ」
『それでも、その出会いが良いものであったのです。運命の迷い子として、正しく運命に出会えた事に感謝なさい』
何か、正面から褒められて気恥ずかしくなる。
『そうだわ、タタラさん』
「あ、はい。なんでしょうか?」
『私のことはお義母さんでいいですよ』
「いきなりハードルも高ければフライングしてるよ!?」
俺のそんな言葉に、お義母さんになる人は笑った。
【好感度発表ダリア】
「機巧乙女ダリア・ジュロンが、タタラハーレムの好感度を発表します。今日は此方」
『天使長 95/100』
「この世界において最初にマスターが出会った原作キャラにして、救済キャラです。所謂看板娘的なキャラの為に攻略ルートもエロも無いキャラになります。その戦闘能力は異次元のレベルであり、世界の法則を上回って傷を与える事が出来るのだそうです。各種状態異常にも高い耐性を持ち、特に魅了は一切効かないのだとか……一人魅了してる男が居る気がしますけどね。女誑しが。なんでも『アンケートを増やしてみたところ個で人気をぶち抜いててビビる、パーティ入りかコレ』等とメモが有りました。もう散体しろ」
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