既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『所でタタラさん、嫁入り婿入りは分かりませんが……何か私達に良いものをくれたりしません?』
「母上……それは流石にこう、台無しなのじゃ」
ちょっと遠慮がちに言われたそんな言葉に、四葩が苦言を呈する。まぁ、確かに前世で嫌われるクレクレって嘲笑される行為では有るのだが……ふむ。
「あの、俺が母の日にあげたドライヤー……前に此処で四葩の髪に使った物とかでも大丈夫ですか?」
『あら、あの絡繰ってそんな経緯で出来た物なのですね』
「まぁ、乾かす物は元々有ったんですけど傷薬を塗布して髪の潤艶を保つ機構は俺が作った物です」
『あらあら……それをお母様にあげたのですか』
「ええ、喜んで貰えました」
さて、このドライヤー実は都市長が特許申請出してて量産やら販売権なんかは結構複雑化するんだよな。俺がやれるのはカートリッジの装填と風に同期させて傷薬を少量吹く機構の特許使用の許可のみ、ドライヤー本体は陽出國の企業に頼る事になる。
『お母様は喜んでいたのですね』
「はい、日々の探索者生活で傷付いた髪が綺麗になって喜んでいました」
『ふふ、とても嬉しかったのですね』
「はい、母さんが笑って……それを見て父さんも笑ってて。とても、とても幸せな時間でした」
俺が両親が生きていた日々を思い出して、胸が痛まないのは珍しい。良い思い出だからだろうか?
四葩が俺の顔を見て笑っていた、何か嬉しい事が有ったのだろうか?
『では、そのどらいやぁを一つ頂けますか?』
「ええ、それは全然大丈夫です」
『そういえば、何故四葩の髪に使う時薬を換えたのでしょうか?』
「それは単純に此方で四葩達鬼種を治せる薬がそれしか無かったからですね、通常の傷薬では鬼種の薬物耐性を越えられないんです」
俺の説明に奥さん……お義母さんはふむふむと考え込んでいる。
『そちらのお薬はどういった?』
「此方で信仰されている癒しを司る神の一柱から祝福を受けた薬です、教会に寄進して分けて貰っています」
『なるほど、四葩が貴重と言っていた理由はそれですか』
お義母さんは納得してくれた様子だ。俺が寄進して貰った物だから誰かに譲るのも何か違うと思っているらしく、癒薬を分けてほしいとまでは言われなかった。そして──
『それではタタラさんは
「はい、以前調べた限りではそちらの刀と言う物は複数の金属を折り混ぜて鍛え上げる物と有りました。ならば世に有る魔法金属を重ねて素晴らしい合金を作れるのではないかと思って」
『それは素晴らしいですね、此方から送る鍛冶師にもその技を伝えて欲しいのですが』
「教えはしますけど、出来るかはちょっと……俺の技術って再現性無いらしくて」
『それこそ、そこで止まれば鍛冶師の名折れでしょうに』
「そう言って貰えると嬉しいですよ、お義母さんみたいに思ってくれる人が此方には全然居なくて」
『もう、それでも此方には来ないのでしょう? タタラさんはイケズですね』
「その、四葩の里帰りとかに付き合うとかはしますので勘弁を」
「……なんか凄く仲良くなっとるのじゃ」
クラフターと鍛冶師の違いは有るが、話が非常に盛り上がる。俺の技術の一つ一つを聞いて、様々な質疑応答が出て楽しいのだ。流体魔石の話をした時など、その魔力伝達効率を問われて目から鱗だった。魔力炉の内部を流体魔石で満たせば、強化銅を使用するよりも遥かに魔力伝達効率が上がる可能性が有る。勿論取扱いには細心の注意が必要では有るが、試してみる価値は有る。
四葩はなんだか面白く無さそうで、そんな拗ねた態度が可愛くて思わず繋いだ手を離して肩を抱き寄せた。
四葩は驚いたが、力を抜いて身を預けてくる。それに対してお義母さんは嬉しそうだった。
『あらあら、すっかりタタラさんは四葩に骨抜きですね?』
「……正直、エテルがいなかったら告白してました」
『あら、それは残念。しかし、エテルさんだからこそ四葩の今の幸せですね』
「はい、自慢の妻ですから」
『ふふ、ご馳走様です』
俺の言葉に気を悪くすることも無く、笑いながら聞いてくれているお義母さん。娘を蔑ろにする男を許せない物だと思っていたが、何故だろうか? とても怖くて聞けないが。
『タタラさん、もし此方で名を名乗るならどのような物にするつもりなのですか?』
「氏って事ですよね……『小鍛冶』かな」
『あら、ジュロンに当て字をするのかと思いましたわ』
「妾もじゃ、何か意味があるのかの?」
四葩に問われて、経緯を語る。とは言え、大した捻りも無い。
「俺のジュロンって、古代語での鍛冶屋を意味する『フォルジュロン』が訛って伝わった物なんだよ」
このルーツは昔、都営図書館で古代語翻訳をしている時に見付けた物だ。現代では珍しい苗字らしく、世界中で1000人前後しかいないらしい。なので、和名にするならば鍛治が名前に入る物にするので『小鍛冶』という訳だ。
「安直と言われたら安直だけどな」
『あら、此方で式を挙げた際は小鍛冶四葩か虎熊タタラになりますから苗字は重要ですよ?』
「なら、此方で結婚したなら四葩・ジュロンですね」
「タタラ、落ち着け……」
『此方の式ならば白無垢ですよ!』
「此方ならウェディングドレスです!」
「その、落ち着けタタラ……恥ずかしいのじゃ!」
「今、四葩の可愛さ合戦してるから邪魔しないでくれ!」
『何方で式を挙げるか重要な戦いなのです、止めないで四葩!』
「タタラもお母さんも落ち着いて!!」
「……結局、奥様もタタラ殿も似た者同士だったのでは?」
「まだご主人が奥様とお嬢様可愛いを言い合っただけで戦いはコレからでござる」
重要な外交やってる脇で何をやっているんだろうね、俺は。
少しして落ち着いた俺の肩を軽く叩いてくる四葩、恥ずかしかったのだろう耳まで真っ赤で俯いている。
「その、悪い四葩。興奮し過ぎた」
『四葩、顔を上げなさい。虎熊家の者が俯いてはいけません』
「奥様、鬼でござるか?」
「奥様は元々鬼だろう?」
「いや、駄狐のはそういう意味じゃ無いと思う」
雛菊さん、大分天然が表に出て来るな。やはり駄狐が旅中で苦労して来た感じだろうか、どうも共同生活してる中の駄狐が入管でやらかす雰囲気を感じない。書類の不備が有ったの、本当は雛菊さんで駄狐がバレない様にすり替えて騒動を起こしたとかじゃないよな?
分からないが、駄狐は今度何か好きなもの作ってやろう……いなり寿司とか言われたら詰むが。
「そういえば、向こうの話し合いは終わりそうに無いでござるな?」
駄狐が見ている先は都市長と財務長、そして法務長が激戦を繰り広げているらしい当主代行との会議だ。
どうも都市側の利益を少しでも上げる為に色々しているらしいが、流石に俺にはどうしようも無いのが分かる。いや、あの場面で俺に何が出来ると?
『ふふ、では私も参戦しに行きましょうか』
「あ、そうですね。政に関わるから話し合いに参加できましたね」
『……完全に鍛冶師の話で忘れてましたね、タタラさん』
「いや、すみませんつい」
四葩のお母さんとか以上に認識を共有出来る鍛冶師として話が盛り上がった、途中から四葩可愛いにシフトしてしまったが。腕の良い鍛冶師はお義母さんの事なのだろうか? いや、あの人は多分國から動かせないな。
『取り敢えず、先程タタラさんが言っていた案を取り入れさせて貰いますわ』
「……あの中央を巻き込むってやつですか」
『ええ、虎熊家が取引する国家事業……見事な案でしたよタタラさん』
「出来ますか?」
『勿論』
俺の問に、お義母さんは即答だった。なら、任せよう。
「お願いします」
『はい。では行ってきます』
そう言って席を外したお義母さんは当主代行の所へ歩いていく、コレから更に紛糾するかな交渉は。
俺達が蚊帳の外になり暫くして、交渉は終わったらしい。為替についても落ち着き書面が出来て、護衛役二人の賠償も以前俺が言った陽出國の菓子折りではなく趣向品を贈る形になった。上手く質屋に持っていけば相当な金額になるだろう。
魔力炉の生産時における特許料は驚く事に60億に金額が上がっていた。コレは俺が言った中央との折半案を前提に、お友達価格で提供を考えていた30億を支払う形としてお義母さんが提案したらしい。前回、俺を撃発させて贈答用の家庭用魔力炉を一台と更に安く購入する魔力炉について詫びも入っているんだとか。
都市長、当主代行からはめっちゃ睨まれた。本来、トップに出すべき意見を脇の人間に伝えて通しに掛かったのは流石に体裁が悪かった。もっとも、法務長は何故か笑って俺を見ていたが。
笑顔って本来は威嚇で、牙を剥く動作が元だとか有ったがあの笑顔もそうなのだろうか。どうも圧は感じなかったが。
そして、財務長が隅でお腹を押さえてうずくまっていた。この人、キツイ見た目の割に繊細で体力弱いな? 駄狐に胃薬分けられるか聞いたら材料を後で一緒に買いに行く約束を取り付けられたが、一つ譲ってあげていた。怪しんだのも束の間、思い切り飲み込んだ財務長はすぐに胃の痛みが引いたらしい。即座に復活して礼を言われた。俺が駄狐の頭を撫でて褒めてやると、尻尾が忙しなく動いていた。大分可愛いなコイツ。
「そういえば、お二人にお伝えする事が有ります」
双方が一息吐いたタイミングで、俺は声を上げた。都市長、もう一つの爆弾投下しますので胃を痛める覚悟をして下さい。
『ふむ、重要な事かね?』
「ある意味で四葩の身に関わる事です」
『なるほど、それは何かね?』
俺は一つ息を吸って、答える。
「四葩に、ある特殊な『鑑定』の使い方を教えました」
『ふむ、特殊な『鑑定』と?』
『……タタラさん、それはいったい?』
当主代行とお義母さんの意識が俺に向く、合わせて誰か別の一人からもだ。もしかして、法務長か?
「概要を説明すると、『鑑定』を使用する際に掛かっている抑制を取り払いより深く概念レベルで事象を観る物となります」
「……前より説明がわかり易いわね」
都市長、今そこ突っ込まないで。
『……タタラさん、抑制とはなんでしょうか?』
「逆に質問をさせて欲しいのですが」
『はい、なんでしょう』
「『鑑定』で調べられる情報って、何処から届くものなんですかね?」
『……なるほど』
コレで分かるのか、凄いなお義母さん。
『華澄、どういう事だ?』
『……タタラさんが言っている意味は『鑑定』で得られる情報の出所についてです。使用者の脳に有る記憶ではなく、別の所から引いてくる情報……それが『鑑定』で得られる情報なのでしょう』
「それを真理と呼ぶか世界の記憶と呼ぶのかそれとも別の呼び方かは知りません。しかし、確実に言えるのは世界の持つ記憶と接触している事です」
『なるほど、スキルとは奥深い物だな』
当主代行も『鑑定』を理解したのだろう、難しい表情を浮かべている。そして、お義母さんが俺の作った装備について思い至った。
『……四葩の鎧、単純な真銀鎧ではなく『鑑定』しても情報が出なかったのは』
「はい、俺が新規に作ったそれまで世界に存在しない形態の鎧……その為に『鑑定』が通じませんでした」
『……タタラさん、今まで同じ様な事の経験は?』
「子供の頃から沢山。始まりは魔鉄と名付けた一つの金属からです」
『魔鉄……』
「実演してみましょうか。都市長、鉄と魔石有りますか?」
俺は都市長に声を掛けて、素材を貰おうとする。
「自分のは?」
「最近探索でミスリルばかり出て手持ちが少ないんですよ」
「具体的には?」
「直近でミスリル70kgに対して鉄20kgですね」
『「おかしいだろ」』
当主代行と都市長の声が重なった。
いや、おかしいのは分かってるよ。しかも市場に流せないし、俺の店はミスリル製品売れないしで研究や仲間の装備を作るくらいしか使えないし。
「それに、俺が事前に仕込みの出来ない他人の持ち物でやる事に意味が有りますし」
「……はぁ、分かったわよ。その代わりそのインゴットは私が貰うわよ?」
「元から都市長のでしょうよ……」
都市長がインベントリから出した鉄のインゴットと小さな魔石を受け取り、画面に向ける。実演の為だから『概念鑑定』を使用し、鉄の路に魔石の魔力を流し込む。所要時間は計測していないが、体内時計で5分くらいで終わった。
『……コレが、魔鉄』
お義母さんが驚いて魔鉄のインゴットを見ている、そりゃ『ワールウィンド』内でしか出回ってない代物を見ればこうなるか。
「他にも鋼を同じ様に魔力で強化した形状記憶合金や、当時の俺には作れない細密な魔法陣が必要で都市長と共同で制作した人造オリハルコンなんかも有ります」
『魔力炉の内部を張り巡らされていた強化銅線もそうですね?』
「はい、ミスリルの代わりを探している時に試した物になります」
『貴金属に対して他には?』
「なにぶん子供の頃の小遣いでやってたことなので、銀と金は高くて手が……」
『コレを子供が作っている事が一種の恐怖だろ』
お義母さんからの質問に答えていると、当主代行がそんな事を漏らした。いや、確かに『ワールウィンド』で天災とか直近では機巧乙女に悪魔とか言われたけど。
「ここ迄を一つの前提として受け止めて下さい」
『前提条件で既に胃が痛くなるのだが』
『貴方、少し黙って』
『ハイ』
「世界に無い物を作れば情報が無い鑑定と言うスキル、コレはスキルが濾過をしているのかそれとも世界が濾過を行っているのかは分かりませんが何かしらのフィルターが設置され流れる情報に制限が掛かっている……子供の頃の俺はそう考えました」
お義母さんの視線の圧と、別の所から送られてくる圧が強くなる。
「より深くこの世界を知りたい、そんな幼い思いで来る日も来る日も『鑑定』の使い方を探り……そして至りました」
俺の言葉にお義母さんは無言、先を促してくる。
「俺は深い使い方、と呼んでいましたが都市長達が『概念鑑定』と名を付けてくれたこの使用法。コレを四葩に教えました」
『それを知る事、覚える事にそれ程の価値を見たのですか四葩』
「はい、母上。迷宮を探索している時にタタラに見せられ、覚える価値を見出しました」
お義母さんの視線は説明を求めている。ならば、実演するべきか。
都市長に魔鉄のインゴットを返して、インベントリからミスリルのインゴットを取り出す。無造作に出された本来希少で有る魔法金属を前に周囲が少しざわめく。
「俺の『概念鑑定』は、物質を構成する最小単位から認識し……その物質の弱点を見極めます」
『概念鑑定』を使用して、ミスリルのインゴットの歪を見る。
「鉱物や無機物に対して見えるこの弱点を突いてやれば」
ミスリルのインゴットの歪へ指を押し当て、力を込める。指はインゴットの中へ沈み、やがて砕いた。
「このように、物は関係無く破壊できます。コレが、四葩に求められ俺が教えた『概念鑑定』です」
砕けたミスリルを拾い、インベントリに投げ込む。画面の向こうに居るお義母さんは目を見開いて居る。当主代行は難しい表情だ。
『タタラさん、その技法は伝授出来ますか?』
「現状、この都市内の住人で使用出来るのは俺と四葩を抜かして二人。挑んだ者は多かったようですが……上手くいかなかったみたいです」
『才覚の問題、と?』
「多少は有るかも知れませんが、固定概念が固まってしまうと難しそうです。教えた相手は何れも『鑑定』のレベルが低かった事も影響が有るかも知れないです」
『なるほど……』
お義母さんは口元に手を当てて考え込んでいる。実は、まだ途中なんだよな説明。
「あの、続けても?」
『……続きが有るのかね?』
「はい、四葩について重要なのは此処からです」
俺の『概念鑑定』は使用者が僅か4人、そのうち無機物に出来たのが3人で例外が1人。
コレが話を複雑にしている。
「俺の『概念鑑定』を使えるのは数少ない人間である事は説明しましたが、この影響を軽く見ていました」
『それは何かね?』
「個人による視点の違いです。俺が四葩に先んじて教えたのはクラフターでした、なので見えたものは俺と一緒だった。しかし、剣士であった四葩は違いました」
『なんだと?』
「此処からは妾が話すのじゃ、ありがとうタタラ」
「……大丈夫そうか?」
「大丈夫じゃ、信じよタタラ」
「分かった」
俺から説明を引き継いだ四葩を見詰める。それとなしに周囲を確認、俺へ強い視線を送っていた人物を特定する。思った通り、法務長だった。この人、法の番人として裏仕事も担ってたりするのか?
「父上、母上。先ずは勝手にタタラの『鑑定』を覚えた事をお詫びします」
『次に取得するのは『歌唱』であるとの約束を破ったのだ、帰ったら罰を受けてもらう』
「承知しています」
罰って、それは……いや。抑えろ、今は耐えろ。
お義母さんから視線が向いている、やはり撃発するのを疑われたか。当たり前か、今もしかけたんだから。
「妾が『鑑定』を覚えようと決心したのは、目前で鉄の傀儡を豆腐を砕くように破壊した姿を見たからなのじゃ」
『それは……』
「此方には妾の刀を研げる人間が居ませぬ、故にタタラの『鑑定』を持ってして刃への負担を無くす……そう考えたのじゃ」
『なるほど、理には叶っていますね。まだ転移門も用意出来ていなかった時期でしょうし』
流石に察して貰えたか……いや、そもそもダンジョンへ潜るなと言われるか?
『確かに理には叶おう。しかし、タタラ殿に任せれば良いのでは無いのか?』
「お言葉ですが、父上。此方の魍魎は時に鎧を纏います、その相手とならば斬鉄が叶う技は必須。『鑑定』一つで叶うなら安い物と思うのじゃ」
『貴方、タタラさんは鍛冶師です。故に戦いの腕は低いのでしょう、四葩が前に立つ方が理に叶います』
『しかし、娘の後ろに隠れるのはどうもな』
「……虎熊家随一の戦闘力持ちの娘を、人間が守れるんですかね?」
『……いや、その』
前に出て攻撃を受ける事は出来るが、そもそも四葩の純粋な能力が高い。それに俺が身体を張る場面は確かに有るが、四葩はそれを基本よしとしていない空気が有る。
「しかし、四葩お嬢様はご主人に勝てないと思うでござるよ?」
「いきなりだな駄狐、何の根拠が有るんだ?」
途中口を挟んだ駄狐の言葉に疑問を抱く、四葩に勝てる要素なんてあったか?
「居間の椅子で眠るご主人が起きないのを良いことに髪を撫でたり、寝顔を眺めたり……何ならその胸を借りて一緒に寝てるでござる」
「まって俺それ知らない」
思わず四葩を見ると、何故知ってるのかと言わんばかりの顔で駄狐を見ていた。マジにやったのかお前。
「今日、会談前にご主人の体調を整える為に睡眠薬を盛って短時間だけ寝てもらったでござる。その時にやったのでとれたて新鮮なネタでござるよ」
「新鮮な脅迫ネタかよ、つか睡眠薬ってお前……何時盛った?」
「食後のちょっとしたタイミングでござる、水溶性の睡眠薬を紅茶にサーッ! っと」
無闇矢鱈とサーッで迫真の演技をするな。
「それはもう幸せそうな顔で、安らかに眠りを」
「一華ぇ!?」
四葩が思わず飛び付いて駄狐の口を押さえた、思い切り握っているのかギリギリと物凄い音が聞こえてくる。
『……惚れたら負け、という訳ですね』
お義母さん、めっちゃニヤニヤして此方見てきますね。もしかして、駄狐送って来たのお義母さんだったりします?
四葩の可愛いところが見たいとかそんな理由で。
『……タタラ殿、四葩と不用意な接触をしていないだろうな?』
「いや、その……」
唇にキスをしたのは一回、あとは頬と角だが……ヤバいなコレ。
『嫁入り前の大事な娘を預けたのは、エテル殿という伴侶が横に立ち四葩を友と見ていたからだ……その領分を越えれば分かっていような?』
画面越しでも威圧感が半端じゃないな。けれど、正直に答えるしかないな。
「俺を殺しますか?」
『無論、そちらの都市との繋がりも絶とう。それで手打ちとする』
「責は俺1人、それで良いんですね?」
『そうだ』
「分かりました。貴方の娘である四葩は俺を好いてくれています、その思いを伝えられ一度断りました」
『……それで?』
「婚約者であるエテルが、四葩を受け入れろと俺を促しました。再三裏切らないと言いましたが、エテルはコレを拒否。俺はエテルの心を四葩に伝えて、決めて貰いました」
『……それから?』
「四葩はこの関係を受け入れました」
『殺す』
『落ち着いて下さい貴方』
『黙れ、この男は我が信頼を裏切った……エテル殿が居なければ四葩を嫁がせてもいいと思えばコレだ。その裏切り、万死に値する』
『落ち着けと言っているでしょう』
ゴォンっと、いつも聞いているものよりも凄まじい音が響いて当主代行の顔面が床にめり込んだ。何時もは拳が離れていたのに対して、今回は殴りながら床へ叩き付けたのだろう。衝撃が逃げずに頭の中で暴れまわったのだろう……生きてるよね?
『四葩が受け入れているのですよ? しかも、タタラさんは何度か断りを入れています。それでも尚、彼を求めてしまうのは鬼の本能でしょう。貴方、私との結婚でどれだけ執着したのか忘れまして?』
「あの、流石に手を離してあげたほうが……」
『……あら?』
ピクリとも動かない当主代行に長々と語ったお義母さんだが、流石に声は届いて無いんじゃ……そもこの世にとどまれているのかも心配である。
『痛つ……流石に、川が見えたぞ華澄』
あ、よかった生きてた。
『娘の幸せを奪おうとするなら全面戦争ですよ貴方?』
『いや、だってな!?』
『でももだっても有りません、四葩の子を抱ける最後の機会なのですから逃せません』
『いや、その……タタラ殿!?』
「此処で俺に振ります!?」
夫婦喧嘩に俺を巻き込まないでくれ、俺が原因だけど。
『第一、エテルさんが居なければ認めていたって先程自分でおっしゃっていたでしょう? エテルさんが認めて居るのですから、この機に乗じて四葩も貰っていただきましょう』
『いや、だがな……四葩が報われんではないか』
「妾はタタラとエテルの箱推しなので、むしろこの距離が最上なのじゃ! タタラとエテルのイチャイチャを見るたびに脳が破壊と再生を繰り返す感覚が癖になるのじゃ!!」
『それ本当に大丈夫なの!?』
俺もそれ心配してるんですよね、最近は結構甘えてきて嬉しいけど……偶に遠くから俺とエテルを眺めてくるし。
「あの、当主代行……」
『うちの娘が壊れたの、タタラ殿のせいだぞ!?』
「どうしろと!? 遠くから眺められてハァハァ言ってる姿とか見てこの子大丈夫かなとか心配してますけど!?」
『そんな事有ったの!?』
「普段からあるよ!」
挙句、俺とエテルのセックス見て自慰に耽ってたしな。言え無いけど。
もう空気がぐだぐだだよ。
『それに、タタラさんには既に私を『お義母さん』と呼ぶように言ってます。ねぇ、タタラさん?』
「だからそれ敷居高いんですよ……その、お……お義母さん」
羞恥で顔が熱い、火を吹きそうだ。思わず俯いてしまった、恥ずかしい。そんな俺の頭をよしよしと撫でてくれる四葩が頼もしい。
「因みに自覚は無いようじゃが、タタラと母上が刀の制作談義に花を咲かせてる時は普通に呼んでおったぞ?」
「マジか、自覚して無かった」
無意識下では完全に認めてるのか、強いなお義母さん。
「少し、よろしいですかな?」
そこに声を掛ける法務長、このタイミングって何が有るんだ?
「申し訳ないですが、我が国において原則重婚は認められておりませぬ」
『ふむ、それは我が国でも同じ事。法に大きな違いは無い』
「その為、そちらのお嬢様を我が都市の工匠長の嫁とは法的には認められ無いのです」
至極真っ当な意見である。王族や一部の貴族は認められているが、あくまでも正妻は1人であとは妾の扱いだ。正式に夫婦には成れないのがこの国の法である。
『それならば問題有りません』
「ほう、それは?」
『タタラさんは陽出國において『小鍛冶タタラ』ですので、タタラ・ジュロンとは別人です!』
「さっき氏聞いてたの此処で使うの!?」
「小鍛冶……ああ、古代語の『フォルジュロン』からなのね」
「よく分かるのじゃ都市長殿」
「伊達にタタラの翻訳本を読んてないわよ」
脇で何か話してる四葩と都市長はスルー、関わるとロクな事が無さそうだし。
「ふむ、この都市の戸籍とは別人。と言いたいのですね?」
『はい、そちらで婚姻を結ばなければ問題は無い筈です』
「なるほど……それは反論出来ませんね」
「出来ないんだ!?」
法務長、そこ反論出来ないってなんでですかね。
「ある意味、法の穴ですね。多重国籍を使って各国に現地妻を作られたら流石に何も言えません」
「俺、戸籍はこの国だけなんですが」
『あら、もうすぐこの國の国籍も出来ますよ? 名前は『小鍛冶 蹈鞴』ですね』
「バカな、早すぎるでござる」
「此処でネタ突っ込んでくるな、反応しづらい」
あと、国を跨ぐ現地妻ってスケールがデカ過ぎないか?
『み、認めん! 認めんぞ!! 儂はまだタタラ殿と飲み明かしてないし、釣りを一緒して無いし風呂で語り合っても居ないからな!!』
「認める為のハードル低くない!?」
「お父さんはあれでタタラの事を気に入ってるのじゃ、息子みたいな触れ合いをしてみたいのじゃよ」
当主代行、実子に蔑ろにされてた過去とか有る? 直に会ったらちょっと優しくしてみよう、俺も生きてたら父さんと飲み明かしたりしたかったし。
【好きな魔導具発表ダリア】
「別世界線だと思った? 残念。機巧乙女ダリア・ジュロンが、好きな魔導具を発表します。本日はこれ」
魔法術式投射砲『サザンカ』
「鬼才タタラ・ジュロンが創り上げた新時代の魔力砲、それがこの『サザンカ』です。通常の魔力弾型魔導銃は代表される『ロニセラ』がそうであるように、決められた魔法攻撃力を決められた魔力を流し込む事で発揮します。コレは、持ち主の魔法攻撃力がどれだけ高くても反映されない反面安定した攻撃力を発揮します。対してこの『サザンカ』は攻撃力を持ち主の魔法攻撃力に依存する為、担い手如何では最強にも最弱にもなります。魔法攻撃力が高ければ、それに見合う魔法を。となりますが、魔法には基本キャパシティが定められていてそれを越えるダメージは原則発揮出来ません。秘奥とも言える聖霊顕現魔法辺りならば理論上の上限値にも届きますが、普通はそこ迄魔法攻撃力が成長する存在もいません。何より、この『サザンカ』の真価は魔法を覚えられない我ら機巧乙女こそが発揮する。通常の機巧乙女ならば自身の魔法攻撃力の2倍が攻撃力になりますが、私なら3倍は発揮できます。理論上の上限までは届きませんが、それでも大概の相手ならば消し炭です。更にはモードセレクトも搭載、対一用の単射や一直線に放ち続ける放射。広域を対象にした拡散モードなど様々な場面に対応出来ます。この『サザンカ』が量産された暁には国家連合軍だろうと一捻りです」
この小説は……
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