既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
「話が物凄く脱線しておるのじゃが、そろそろ戻して大丈夫かの?」
『あ、ごめんね四葩。続けて?』
四葩の言葉にお義母さんが反応する、落ち込み気味の当主代行の事はスルーだ。ちょっと可哀想に見える。
「妾がタタラより『鑑定』を習った時、最初はタタラの打った剣を見ていたのじゃ。タタラからの助言を受け、より深く使用するもその歪は見えず。遂にはタタラに止められる始末」
あの時の事を思い出したのか、四葩が沈んだ雰囲気を出す。
「そして顔を上げた際に、妾の『概念鑑定』は正常に発動していた事に気付いたのじゃ」
『だが、タタラ殿の剣では見え無かったのだろう?』
あ、当主代行が復活した。
「はい、妾の『概念鑑定』対象は生物。生物が持つ歪を目視し死を与える……そのような目を得たのです」
『それは……タタラ殿』
「コレは俺も予測出来ていなかった事象です、見通しが甘すぎた事をお詫びします」
『先程、この目を使えるのはタタラ殿含めてあと三人と言っていましたな?』
「はい」
『四葩と同じ目を持つに至った例は居なかったのだな?』
「はい、俺が教えた二人もクラフターだったからか俺と同じく鉱物に向いた『概念鑑定』でした」
俺が四葩に教えた事でのイレギュラーがコレだった。俺と他二人が同じ方向の『概念鑑定』だったが故に、四葩のそれも同じになると先入観が有ったからこその失態でもある。
『先入観からの失態……いや、事前情報が少な過ぎたが故の思い込みか』
『コレを責めるのは少々……』
『分かっておる。して、四葩よ』
「はい、父上」
『分かる範囲でその『鑑定』の効果は?』
「……生物に限り行動の予知、敵の防御能力の無視、確定で致命打を与える。この辺りでしょうか」
少なくとも、駄狐と雛菊さんを同時に相手して凌ぎきれるくらいには行動に対しての予知を行っていた。俺が『ゴーレム』相手に出来る事が、四葩は生物に出来る……範囲としては四葩の方が上だろう。
「それと……生命の活動限界が見えるのじゃ」
ああ、最初に生命への冒涜と言っていたのはコレなのか。
「俺達のその時点での寿命が見えた……か、辛かったな」
「それでも、タタラが抱きしめてくれたからの。耐えられたのはアレのお陰なのじゃ」
想像もつかないくらいに辛かっただろうに、それを表に出さなかったのだ。やはり、四葩は強い子だ。
『……その『概念鑑定』に、何か副作用などは有るのだろうか?』
「副作用と言うか、身体に影響は出ますね」
『それは何かね?』
「瞳の色です」
『……なに?』
「瞳、虹彩の色が変わります。具体的には、俺の瞳がそうです」
俺の言葉に、一番驚いているのはお義母さんだった。
『その瞳は後天的に変わったのですか? 生まれつきではなく?』
「はい、俺の本来の瞳の色は琥珀でした。幼少期から『概念鑑定』を使いすぎた影響なのか、瞳の色が使用時の色と同じ金に染まっていました……エテルに言われるまで自覚出来なかったんですけどね」
自分の事ながら笑い話である、容姿の変化に気付けないとかどれだけ自分に興味が無かったのか。
『金色の瞳……鍛冶師として抜きん出た腕……
「そんな伝承なんですか、その鍛冶の祖神は」
陽出國で最初に鍛冶を行い広めた神とされているのがこの『天目一箇命』である。地方の土着神では有るが、神に名を連ねる程の鍛冶の腕等気になることが多い。会えるのなら会ってみたいものだ。
『しかし、四葩の瞳は元から金だ。大きな変化では無さそうだが』
「お言葉ですが、当主代行」
少しイラッと来たが、当主代行に他意は無い。この人が多少の変化くらいで娘への愛情が変わらない事は分かってる、それでも……両親から貰った身体の一部が変わる事を寂しがってた四葩の事を少しは知って欲しい。
「大切な両親から貰った身体なんだ、大きく無くても変わってしまうのは辛いんだ……それは考えてくれよ」
口調が荒れる。そんな俺の姿を見て、当主代行は瞑目する。
『……失言だったな、すまん四葩』
「父上がそんなつもりで言っていない事くらいは分かっているのじゃ。妾こそ、父上と同じ眼が変わってしまって申し訳ないのじゃ」
『気にするな、四葩。瞳の色一つで親子の繋がりは消えん』
なんとか当主代行から四葩への言葉を引き出せた。よかった、互いにすれ違う事がなくて。
そんな事を考えていると視線を感じた、そっと目を向けると法務長が居た。何だろう、口調についてだろうか?
『タタラ殿、その『概念鑑定』については以上だろうか?』
「はい、現状は四葩に教えた事を知って頂けたらと」
『ふむ、分かっている事は少ないか』
「……あ、そうだった。長時間続けていると脳に負荷が掛かり過ぎて顔の穴という穴から血が出るので気を付けて下さい」
『それは最初に言え!?』
すっかり忘れてた。あの無茶から来る痛みよりもっとヤベェ呪いが待ってるから、一切の無茶を辞めたからな。
「いや、幼少期はそうやって脳を鍛えてたので……つい」
『本当に君は危なっかしいな!? エテル殿も四葩も居るのだ、自分一人の身体では無いのだから労りなさい!!』
「うぇ!? は、はい!」
『返事が小さい!!』
「はいっ!!」
何か凄く叱られた、心配してくれたのだろうか?
『まったく、するべき話をする前に何故こんなに疲れているのか……』
『あら、騒がしくて楽しいではないですか』
『お前はそうだろうな! 交渉してる横で和気藹々としおってからに……』
『ですが、タタラさんが中央との共同出資の案を出して下さいましたし』
『どうせ彼の事だ、何処かで普通に言ってくれていただろう』
『そうかも知れませんが、もっと場が重い時に言っていた可能性の方が高いかと』
おおう、目の前で家族会議始めちゃってる。しかも何か俺の事が主っぽい。霊圧が消えかけた外交長が口を挟もうとしてるけど、今は止めとけマジで。お義母さんを一気に不機嫌にさせるぞコレ。
「……そういえば、この会談って元の目的は何だったんです?」
呼ばれた理由、四葩との長距離通信って訳では無いだろう。向こうもそんなに暇では無いだろうし、つか1領主がそんな暇な訳が無いし。
『む、そうだったな。聞きたいのだが、もう転移門は設置し終わって居るのかね?』
「はい、頂いた翌日の昼過ぎには」
『……すまない、何だって?』
「頂いた翌日の昼過ぎには建て終わりました」
『……終わるのは早くて夕方頃って聞いていたのだがな』
俺の回答を聞いて、眉間に皺が寄って蟀谷を指先でとんとんと叩いた当主代行。目を開いてから視線を四葩に向ける。
『……四葩?』
「帰ったら朝は無かった鳥居が庭先に出来ていて驚いたのじゃ」
『雛菊?』
「お嬢様の言う通り、立派な鳥居が建っていました」
「私も、男手を連れて昼頃に伺ったら終わっていたのを確認しましたので本当ですわ」
四葩、雛菊さん、都市長からの証言を得て益々眉間に皺が寄っている。うん、俺も何か言わなきゃな。
「陽出國から組み立て易いように目印も用意して貰っていましたし、様式が親切で楽でした」
『だからと言って一人で作れるものか!? アレ、耐震やらで相当重く作られていた筈だが!?』
「はい、なので文明の利器に頼りました」
そう答えて俺はインベントリから『浮身石』を取り出す。お義母さんは解析したらしく、吹き出しそうになるのを必死に耐えている。
『今度はどんな仰天発明かなタタラ殿!?』
「そんな、身構え過ぎですよ。少し『浮遊石』を解析して再現しただけです、コレを使うと重力を打ち消して重さを無くせるのでどんなに重かろうと関係無いですから」
『……都市長殿?』
「タタラの独自技術です、『ワールウィンド』では一般では有りません」
『一人だけ突出し過ぎてて苦労してそうですな』
「ご理解頂けて助かります」
おう、俺の事に文句有るなら直接言え。初対面時の四葩じゃないがそういうのイジメになるんだからな?
『タタラさん、その『浮身石』と言うのは……』
「『錬金術師の卵』よりは簡単だと思いますよ、素材も特大魔石3個と少し手軽ですし」
『確かに『卵』よりかは軽いですね』
「それに、コレを作ったから『卵』の案も浮かんだので練習には良いかも知れないですね」
『なるほど、練習の質が高過ぎますね』
そういえばコレ、特許料とかどうなってるんだろう……今のところ再現性無いみたいだし。
『転移門の設置ではどのように時間の短縮を?』
「重い物はこの『浮身石』で重量を打消して、『卵』で魔力を回復しつつ『クラフト』全般を使った感じですね」
『例えばどのように?』
「塗装や基盤になる土台に魔石を混ぜて速乾性を高めたのが主ですね、基盤は霊脈との干渉が簡単で更に魔力の抵抗値も落ちますしお勧めですよ」
『あらあら……』
「身構えていても死神は来るものでござるよ、奥様」
駄狐、何故今その台詞使った?
「工匠長、少しよろしいかな?」
「あ、はい。なんでしょうか法務長」
と、そんな時に声を掛けて来たのは法務長だ。今、何か法に触れる事が有っただろうか?
「工匠長のお宅に霊脈が通っているとのお話ですが」
「はい、その通りです。持っている土地の自然魔力の使用は法に抵触して無かったと思いますが」
「主に、どのような用途ですかな?」
「工房の運用関係ですね、炉が主です」
「一般的な魔導具は?」
「探索で取得した魔石が主ですね」
「なるほど。では家庭用魔力炉が完成した場合、どのように使用しますかな?」
「転移門の運用が主だと思いますが、家全般を賄えますしそちらも使うとは思います」
「ふむ、探索での魔石はどうなります?」
「魔鉄の生成に使いますから、小型の物は半分商会に卸して一部は手元に残しますね」
「なるほど……問題は無いようですね」
抜き打ち監査かな、めっちゃ怖かった……そうだ。
「法務長、ちょっと法律で聞きたいことが」
「おや、なんでしょうか」
「この前、夜に帰ろうとした都市長に暗い夜道を出歩く危険を少しでも無くす為に道に魔力灯を設置出来ないかって話題を出したんですよ」
「……ふむ」
「この場合、法律としてはどのような配慮が必要ですかね? 特定の時間か、または空の光量に合わせて魔力灯の点灯と消灯を設定して住民に配慮はします。が、光による安眠妨害等の文句は発生するとは思うので対策も立てたいんです」
「魔力はどのように?」
「試験的な物ならば、俺の家庭用魔力炉から特定の道に対してのみ実施するなら問題無いと思います」
「本格的な運用ならば?」
「複数箇所に魔力炉を設置して対応になるとは思います、その辺は都市長とも相談しますが」
「ふむ……」
法務長は考え込んでいる、やはり難しいか。
「……現状、法としては問題は有りません。魔力炉の使用による魔力面での問題解決も良案ですし、光による安眠妨害を視野に入れているので夜間の光量をある程度絞る事で対応が出来るとは思います」
「問題点はなんですか?」
「運営費、ですね」
横から声が掛かった。驚いて顔を向ければ、財務長が眼鏡を左手の指で軽く持ち上げながら立っていた。
「そのプロジェクトを動かす為の運営費が最初のネックになります、維持費も考えると税を上げる必要もあるかと」
「成る程……」
「そんな難しいですかね?」
「「は?」」
「魔力炉から一般家庭にも魔力を引いて、魔石使用の代わりにする代わりに使用料金を取ればいいんですよ」
「……公平性はどうしますか?」
「家庭ごとに使用量が分かるメーターを設置して、月毎に税金として徴収すれば解決出来ますね。明細を細かく書いた請求書を添付すればある程度は納得出来るかと」
要は、前世の光熱費と同じで魔力使用量での料金設定だ。基本は魔石と同じか少し安い値段設定にして、過剰に使えば額が大きくなるようにする。魔石は一つ辺り600で取引されているから、1日の基本を500辺りで計算出来るようにすれば契約も増える筈だ。
「……正直、夢物語でしか無いですが技術的には出来るのですね?」
「本国に睨まれる覚悟なら1基で『ワールウィンド』全体を賄える物だって用意出来ますよ」
「恐ろしいのでやめてください」
俺の理論と計算が正しければ、10個の『卵』を用意出来れば初期構想の超大型魔力炉程の設備の必要は無く同程度の魔力量を確保出来る。ただ、制御失敗したり暴走させられたりすると土地ごと『ワールウィンド』が消し飛ぶ計算だが。
「それに、やり方如何ではこの魔力炉でも800世帯を越える家庭を賄えそうですしね」
『タタラさん、その話を詳しく伺っても?』
「タタラ、詳しく話しなさい」
食い付いて来たのはクラフター系女史二人。女子と言うには薹が立ってるので女史だ。心を読まれたら殺されるかこれ。
「『卵』が理論上、1250世帯を賄える魔力量を保持している。コレが前提知識です」
『ええ、そう言っていましたね』
「ですが、この保有量は所謂上限値。一分も有れば半分は回復します」
「……成る程、魔力を貯めておける設備を各家庭に置けば」
『より多くの世帯を1基で賄える……コレなら國としても負担が軽くなりますね』
「家庭への充填は寝静まる夜間を主に、日中は緊急時の魔力源と工房への補填ですかね」
「工房の消費魔力については?」
「大型の充填設備と日中の魔力炉からの供給を割増料金でやればある程度費用は回収出来ませんか?」
「財務長」
「おそらく可能と思われます。設備の流通には商会長を交えての議論になるとは思いますが」
「法整備も問題無いでしょう、新規に建てる家には義務化を促しさえすれば普及率も上がります」
「あ、都市長。工業もそうですけど、医療施設と商業施設それに宿泊施設にも工房と同じ物の設置義務を促せませんか? 特に大型の商業施設」
「医療は分かるけど、商業も?」
「はい、災害時の避難施設として有用なので多くの人を受け入れられるように。それと、この中央と中央病院は固有の魔力炉を持つくらいは必要だと思います」
「工匠長、病院はわかりますが中央を独立させる理由は?」
「本国との通信網の確保です、国際救難通信を飛ばせるように最高責任者の所は常に可動出来るようにしたいです」
「それならば賛成です」
財務長と法務長も加わり、都営魔力炉の運用計画が出来ていく。お義母さんは途中から静観している。この技術欲しいよね?
悪いんだけど、都市長と外交長から使用権の獲得をお願いしますね。
『……やはり、タタラさんは人材として欲しいですわね』
『華澄、頼むから無茶はやめてくれ。四葩が泣くような事は本当に、な?』
俺達の様子を見ていた虎熊夫妻の反応が妙に気になった。俺、仮に四葩の里帰りに付いて行って無事に帰れなかったとか無いよね?
会談そっちのけで始まった緊急会議だったが、形がある程度出来上がった所で法務長が指摘して全員正気に戻った。この手の話に参加できない外交長は部屋の隅で俺を睨んでくる。いや、俺はこの手の技術的な話ではクラフター代表として話さなきゃならない立場なのだが何故嫉妬を?
『魅力的な計画を立案なされているようで、羨ましいですね』
「いえ、まだ草案でどれだけ上手くやれるかはこれからに掛かっています」
お義母さんの言葉に、都市長がさらりと返している。なんであんな牽制合戦してるんだろう、怖い。
『それに、若くても工匠長を任じられる器……タタラさんはとても重要な立ち位置なのですね』
何故その評価が入るのだろう、俺は精々モノ作りが他より少し上手い程度なのだ。
「それは違いますよ、虎熊夫人」
此処は、工匠長としての在り方を示さないと。今はお義母さん呼びは封印だ。
『……何が違うのでしょうか、タタラ工匠長?』
「俺は重要な立ち位置などでは無いです、所詮は一人のクラフターでしかなく名誉職も同然です」
『あれ程の物を作っておいて、ですか?』
「いまだ作れただけで、それを都市に生きる人達に還元出来ていません。それに、作れたとしてそれに対する法整備や資金調達は俺には出来ません。この時点で、俺の立ち位置に重要性は有りません」
『いえ、それはあり得ません』
「また謎の自己評価の低さだの」
四葩、ツッコミはやめてくれ。
「重要なのは、俺自身ではなく俺の発明です。俺達クラフターが作るものは、誰かに幸福を齎して初めて認められます。確かに俺が作った『卵』は一人の命を救いましたが、魔力炉はまだ未完成で何も貢献出来ていません」
『今、さらりと命を救ったとか言ったぞ』
当主代行、反応が親子っぽいですね?
「俺が
『……その生き方、何時まで続けるのですか?』
「俺を越えるクラフターが生まれるまで、ですね」
「無理でござろう」
駄狐、諦めたらそこで終わりだぞ。
『タタラさんの覚悟は分かりました。豊かな暮らしと幸福を齎す為の発明、良い心掛けだと思います』
「ありがとうございます」
『ですが、それを齎すのは何も『ワールウィンド』でなくても良いと思うのです』
おや、流れ変わったな?
『四葩を娶り、此方で骨を埋めるのもいいと思いませんか?』
「引き抜こうとすんな」
『華澄、そろそろ本格的に話が進まないからそれは後でな?』
「続けようとすんな」
ぐだぐだなまま時間が進み、俺も当主代行も疲れ切って本題に移る。
『……今回呼んだ目的は、此方とそちらの転移門を繋げる日時に付いての取り決めを行う為だ』
疲れ切って溜息を吐きつつ当主代行が言ったのは、俺の庭先に建てた転移門を繋げるタイミングを合わせようとする事だ。
この『ワールウィンド』と陽出國ではその距離から当然時差が有る、正確に割り出してはないが大体が6〜8時間前後だと思う。護衛二人が妖怪の体力で多少はゴリ押ししただろうが、到着するまでの日時からの逆算で大体それくらいになると思う。
「何時間後にしますか?」
『む、何故だタタラ殿? 日時を決めればよいではないか』
「ええっと、時差が有りますし」
『じさ?』
「タタラ、じさとはいったい何じゃ?」
「えぇっとな」
魔導技術で忘れがちだが、この世界は存外その辺りの認識が出来てない場合も多い。『ワールウィンド』は結構進んでて、この星が巨大な球状だと分かっている。対して、陽出國はそこ迄は知識が無いのだろう。
試しに此方の時間を伝えると、やはり8時間程ズレていて当主代行も驚いていた。どうも、海を越える為の転移門で時差が一時間も無いらしく陽出國は時差を単なる移動時間だと思っていたそうな。
「とりあえず、一時間半後に一旦繋いでみませんか?」
『ふむ、そうするか……鍛冶師は後日そちらへ送ろう。先ずは資材からだ』
「ありがとうございます」
俺と当主代行は互いに持っていた時計の時間を合わせ、一時間半後に転移門を繋ぐ事を約束した。此処から家迄を考えると、少し早めに向う必要がある。此処から家まで一時間近く掛かるのだから、猶予は三十分になる。
『そちらに送る鍛冶師はアマツと言う男を予定している。偏屈な爺だが、腕は確かだぞ』
お義母さんが当主代行の言った名前を聞いて、物凄い顔でその顔を見ている。余程の人物なのだろう、ちょっと不安になった。
しかし、アマツさんか。どんな刀を打つんだろう、楽しみだ。
『すまないが、儂等はコレから都市長殿達ともう少し会談を予定しておる。タタラ殿達は家で門の準備を願いたい』
「お心遣いありがとうございます、失礼しますね」
『うむ。四葩よ、タタラ殿にあまり迷惑を掛けぬように。仮に無体をはたらかされそうになったなら、イチゲを身代わりにせよ』
「ファッ!?」
いきなり身代わりにさせられて駄狐が語録なのか素なのか分からない悲鳴を上げた。いや、結構予想外の所から刺された反応っぽい。
「辞めたくなるでござるよ……」
「えっと……今日は野菜無しのレシピにするから」
「ほんとぉ?」
狂気……は無いな、珍しく本気で参ってる様子だ。
久し振りに肉100%のハンバーグステーキ作るか、つなぎを塩だけにしてひたすらこね続けるからちょっと疲れるけど今回は駄狐を少し労おう。
途中買い物をしつつ家に着けば、約束の時間まで15分だった。
一先ず食材は冷蔵庫に入れて、庭先の転移門に近付く。雛菊さんから以前貰った座標を登録し、時間まで待つ。
時間丁度、転移門を起動する。鳥居の中央の空間に波紋が広がる、やがて柱の間が別風景になる。
「おお、屋敷の庭じゃ!」
四葩が嬉しそうに声を上げる。鳥居の先に広がるのは見事な日本庭園、しかしノイズが酷く木材やら何やらが見えた。コレを今から此方に運んでくるのか、結構多いな。
「それでは、失礼しますね?」
涼やかで聞き覚えの有る声が耳に届く。気付くのに一拍遅れたが来訪者は既に此方へ向かい門を通っていた。
豊かな黒髪、細い眉、黒い瞳をした女性。つい1時間程前まで通信で話していた相手だ。
「……お義母さん!?」
「なんで!?」
「うふふ、来ちゃいました」
来ちゃいました、じゃないでしょあんた虎熊領から出ちゃダメなじんざいでしょうが!
「生身では初めまして。四葩の母、虎熊 華澄と申します。気軽にお義母さん、と呼んで下さいね?」
いきなりの登場で思考が空回りするばかりで纏まらない、いやどうすれば良いんだこれ?
「ほら、タタラさん。さんはい♪」
「お、お義母さん……」
「よくできました、えらいえらい♪」
着物の袂を押さえ、俺の頭に手を伸ばして撫でてくるお義母さん。エテルに撫でられた時とは比べ物にならないくらいに気恥ずかしい。
「画面越しでは分かりづらかったのですが、タタラさんはとても背が高いのね」
「いや、その……」
何だってこんなに恥ずかしいんだ、抵抗するって言うのも何か違う気がするし。
「お母さん! なんで此方来てるの!?」
四葩が思わずといった具合に叫んだ。
「あら、四葩とタタラさんが出会って即座に分かる人材が私だけだったからよ? 四葩とイチゲに雛菊がわかっても、家主のタタラさんが分からないのでは不審を抱かれてしまうでしょう?」
俺の頭から手を離して、袖口で口元を隠してそんな事を言ってくる。
正論だが、多分この人楽しんで此処に来てる。俺と四葩の反応が楽しくて仕方ないって空気が出てるの隠せてない。
止められないかと駄狐と雛菊さんを見るが、明らかに腰が引けている。そんなに怖いんだ、この人。
「そ、その……当主代行は来るんですか?」
「あら、領主が領地を離れる事が出来ると思いますかタタラさん」
「ですよね」
当主代行、南無。出来れば領主の奥方を連れ帰って欲しかったです。
「ああ、そうでした。素材を運び込まないと駄目ですね。お前達、始めなさい」
「はっ」
お義母さんの言葉で、いつの間にか現れた部下らしき人達が資材を此方に運んでくる。一応、檜風呂関係は建てる予定の場所へ集めて貰った。ぱっと見、3時間も有れば組めそうなくらいに組み立てがわかり易い。しかも鉄製の釘等は使わない手法で、今から触るのが楽しみである。
「……タタラさん、今から始めるつもりかしら?」
「タタラなら四時間以内に作りそうなのじゃ」
「そんなに早いかしら?」
「転移門を一人で作った男に、そんな常識を持ち込むと頭痛で倒れますよ母上」
「そうなのかしら?」
後ろで何か聞こえたが、目前の資材を見ていて我慢が出来なくなった。もう作ってしまおう。
檜の長さを見るに浴槽の広さは六畳程だった、ならば浴室全体は11畳程で作ろうか。早速クラフトで地面に穴を広げて、そこに資材として送られていたセメントに転移門と同じように砕いた魔石を混ぜ込み魔導コンクリートにして流し込む。穴を全て満たしたコンクリートの上に、玉砂利を撒いてから固める。前世の温泉でよく見た床が出来上がった。次は建物の壁を、と思ったら何処からともなく職人さんらしき人達が集まってきた。俺が作った基礎と床をみてから軽く叩き、俺に向かって力こぶを見せてきた。どうやら認められたらしい。そこから作業は加速していく。職人さん達の素晴らしい手際に圧倒されつつ、置いていかれてなるものかと技を盗み続けて喰らいつく。斑無く塗る壁面の範囲で負けを認めつつ、その塗料に魔石を混ぜて速乾性を上げた技術を褒められる。
俺が挑戦者として、先達に倣う楽しさはあっという間に終わってしまった。所要時間1時間半、あの楽しい時間はたったそれだけに濃縮されていたのだ。
思わず寂しさで涙が流れた、まだ沢山学んで居たかった。
「良い腕だったぜ、童。また仕事出来たら楽しもうや!」
大工の棟梁を思わせる逞しい翁が、そうやって笑いかけてくれた。俺は声も出せずに頷き、床を褒められた時に向けられたように力こぶを作った。棟梁をはじめ、職人さん達も笑って返してくれた。ああ、素晴らしい人達だ。こんな人達がコレから『ワールウィンド』に来て、技術の交流をしてくれるのか……素敵な未来が待っていそうだ。
「……一刻で建物は出来る物なのですね」
「タタラが関わるならコレくらいやるよ、お母さん」
「そうね、本当にうちに欲しいくらい」
心にあの職人さん達の技を刻み、気持ちを新たにしていた俺には四葩とお義母さんの言葉は頭に入っていなかった。
と、そうだ忘れる前に。
「お義母さん、少し良いですか?」
「あら、何かしらタタラさん」
「四葩が持つべきだと言ったんですがずっと俺が預かってました、すみませんが持ち帰って当主代行に渡して下さい」
そう言って、虎熊家の継承者の証である『鬼神の腕輪』をお義母さんに手渡す。
「……へ?」
あまりの展開にお義母さんが変な声を漏らす。この人、こんな声もだすんだな。
【裏設定説明天使長】
《し、システムアナウンス!『天使長』がこの世界の事をお教えします。本日のお便りは此方! ででん♪》
『瞳の色』
《はい、お便りを要約すると『概念鑑定で瞳の色が変わったけれど意味は有るの?』と言う物でした。始めに分からない人の為に現状タタラさん本人と関わっている人物の瞳の色一覧から載せますね》
タタラ→金(昔は琥珀)
エテル→赤
四葩→金(タタラより少し薄い)
タチア→蒼
『天使長』→翠
都市長→青
カラムス→翠
バカ→青
シャムス→赤
エスト→青
おっちゃん→黒
ダルマさん→茶
オリーブ→翠
ナルキ→翠
エテル父→赤
エテル母→紫
四葩父→金(四葩と同じ)
四葩母→黒
シスターカレハ→茶
駄狐→金(タタラより濃い)
雛菊→黒
ダリア→金(タタラと同じ)
スミス→茶
シスターランカ→蒼
《現状このようになっています。この中で変異したタタラさんの瞳の色、金と言うのは一部の神が持っている瞳の色になります。その神に連なる者か、神の権能に近い力を発現した者がこの色になります。タタラさんの場合、『鑑定』の使い方が本来は一部の神のみが使えたものだったのを無理矢理突破してしまったが為に神と同じ色の瞳になってしまいました。四葩さんの場合はまた別で、陽出國に存在した鬼神『酒呑童子』に連なる血を色濃く引いている為に近い色になっています。機巧乙女のダリアさんは創造主である『機械神』が、自身に近い存在を作るという方向で種族を作ったが為に同じ色の瞳を持って生まれるように遺伝子的に設計されています。手元のメモ曰く『誰も気にしなさそうな設定なので説明する気は無かった』とのこと、聞かれたら答えるスタンスでどれだけの人が知らない話が有るやら。それでは、システムウィンドウを閉じますね。またいつか〜♪》
この小説は……
-
エテル・ネル=バーラルとの物語
-
虎熊四葩との物語
-
騎士タチアとの物語
-
探索者パーティハーレム
-
聖人カラムスとの物語
-
都市長との物語
-
熟女ハーレム
-
シャムスとの物語
-
エストとの物語
-
後輩二人との物語
-
探索者ローガスとの物語
-
『天使長』に愛されて夜も眠れない
-
異世界追放