既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
唐突ですが、いま実施しているアンケートは10月いっぱいで終了します。
連続投稿が出来なかった……俺は、弱い!
「……それで、お風呂が増えてたんだ?」
「出来れば広いあっちを女風呂にしたい、流石に人数が増えてきて俺が入りづらいし」
「一緒に入ればいいのに」
「エテルだけなら問題ないが、流石に他が居たら問題だろ」
帰ってきたエテルの横で、俺は塩と胡椒を振った挽き肉をこね続けている。時折氷水で手を冷やし、体温で挽き肉の脂が溶けないようにしつつ作業を繰り返す。こねられ続けた挽き肉は、高い粘性を出して一塊になり始めている。コレならあと少しで100%ミートのハンバーグが出来るな。
「んー……多分、心からタタラを拒絶する人は居ないよ?」
「それでも駄目に決まってるだろ」
一緒に入れても精々が関係が進んでる四葩くらいなものだろう、流石にそれ以外は駄目だ。
「タタラは真面目だね」
「コレは普通だと思うがな……よし、これだけ捏ねればいけるな。焼きに入るわ」
「分かったよ、イチゲさんにはサラダ無しでいいんだよね?」
「今日、ちょっと可哀そうだったからな、苦手な物を食べさせなくてもいいだろう……正直に言うと人参と馬鈴薯のグラッセは付け合わせに出したいが」
「タタラ、真面目だよね……」
預かってる人なのだから健康管理くらいは普通だろ、偏食で身体を壊したら可哀そうなのは駄狐だし。
鉄板に油を敷き温める、熱されて粘性が弱くなった油をヘラで伸ばし全体に馴染ませた所で形成した挽き肉を乗せていく。置いた時に少し押して、真ん中を凹ませるのがポイントだ。
先ずは少し強めの熱で焼き色を付けてひっくり返し、熱を弱めてじっくりと焼く。一つ一つが大きめなので少々時間が掛かるが、内部まで熱を伝えるには時間が掛かるので焦らずにゆっくり待つ。とは言え、何もしない訳では無い。赤ワインを少量垂らして鉄製の蓋、クロッシュもどきを上に被せて蒸し焼きにする。
時間は大体15分を目安にして、蓋を開ける。赤ワインと肉の香りが立ち昇り、空腹を刺激されるが我慢してハンバーグの中央に串を刺す。まだ出て来る肉汁は赤みが見えるので、再び蓋を被せて2分程待つ。もう一度蓋を取って串を刺せば、透明な肉汁が溢れて中が焼けた事を伝えてくる。
鉄板から皿に移し、駄狐に運んでもらう。配膳の為に近付いて来た駄狐はハンバーグを前に目をキラキラさせたので、一番大きな野菜抜きを渡して配膳が終わったら先に食べていいことを伝える。
「い、いいのでござるか?」
「今日、頑張ってくれたご褒美だ。四葩の為に身体張れとか言われて可哀そうなのも有ったしな……よく頑張ったな」
戸惑う駄狐の頭をクシャクシャに撫でたら、その目から一筋涙が溢れた。慌ててその涙を拭ってやると、駄狐は自分が泣いた事に気付いて無かったのか遅れて涙を拭い始める。
何だろう、気遣われたり褒められたりしなかったんだろうか?
「そ、それじゃ先に頂いているでござる!」
そう言い残して足早に複数の皿を持ってテーブルへ向かった。
動揺しててもまったく体幹ブレないな、アイツ。
「……何が有ったのかな」
「あまり触れてやらない方がいいだろう、自分から話すのを待ってやろう」
「うん、そうだね」
そんな会話をしながら使い終わった調理器具を洗う俺と、スープの仕上げに入るエテル。何だかんだ、既に夫婦みたいな距離感に気付いて笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いや、結婚だとか彼是言ってたのに……今の時点でやってる事が殆ど夫婦だなって」
「……ホントだ、私達ってもう結婚してたんだ」
エテルのそんな天然発言で思わず笑ってしまった、そんな俺を見てきょとんとした顔を見せたエテルだが釣られて笑い出す。
声が重なって、台所を二人の笑い声が満たした。
「随分と仲が良いの、まるで夫婦じゃな!?」
「いえ、ヨヒラ殿。御二人は婚約済みですし……」
そんな俺達を見て明るい声を漏らした四葩と、やや引き気味に止めに入ろうとするタチア。うん、箱推し鬼になってやがる。
「もう、お義母さんとは良いのか?」
「うむ、久し振りに舞を見て貰えたのじゃ。充実した時だったの」
実は『鬼神の腕輪』を渡してからも暫く残ってくれるとの事で、四葩と母娘二人でコミュニケーションを取って貰っていたのだ。自主練が中々出来なかった舞を見て貰い、ずっと指導を受けていたらしい。それでも、母娘二人の貴重な時間は充実したらしい。
「タタラからのお土産も嬉しそうじゃったぞ!」
「気に入ってくれたならよかったよ」
少し手慰みで作った四葩の物と同じバランスで作ったミスリル製の扇を用意していたので、ドライヤー等と一緒に包んでおいたのだ。中身の確認は後でになるとは思うが、喜んで貰えたら嬉しい。
「とりあえず、長話はお料理冷めちゃうしご飯にしよ?」
そんなエテルの言葉に賛成し、全員食卓に着くのだった。
「タタラ殿! このはんばぁぐ、今迄のと味の濃さが違います!! 玉ねぎも入れぬ純粋な肉の旨味が詰まり、切り分けた瞬間に溢れる肉汁! 口に含んで舌先で押し潰しただけで解ける柔らかさ! 酒精を飛ばし香り付けされたわいんの芳醇な葡萄の香りが口内で肉のそれと混ざり合い、香りまで美味い!!」
雛菊さん、変わらず大興奮である。サラダと一緒に食べて目をキラキラさせたり、駄狐には付けてないグラッセを食べては声を上げる。
駄狐には他よりも一回りはデカいハンバーグを出していたのだが、しっかり完食して腹を擦っていた。満足そうである。
「駄狐、もう満腹か? エテルのスープはまだ残ってるが」
「……もう喰ったでござる、腹ぁいっぱいでござる」
「お前、消えるのか?」
思わず別のネタで反応してしまったが、満腹で動けそうに無い駄狐の台詞に成仏でもしそうな気配を感じて思わず言ってしまったのだ。
「まだまだ此処に居たいでござる、美味しい物を沢山食べたいでござるよ」
「それなら、また沢山作ってあげるよ」
駄狐の言葉に微笑んだエテルがそう言った。何だかんだ、エテルも駄狐を可愛がってるな。
「そういえば、調味料が多かったの?」
「ああ、四葩の故郷の味が出来る様に多めに貰った。米も一俵貰ってるから、炊ける様にしないとな」
何故か炊飯釜も有ったので、コレを利用した魔導炊飯器の研究開始である。
「……前から思っていたのだが」
「どうした、タチア」
「タタラ殿、食の探求に本気すぎでは?」
「食は生命活動の基本中の基本だぞ、おろそかにしてたまるか」
「……タタラのコレ、何方かと言うと妾達の國の気質に近いの」
文字通り魂はそっち寄りだからな、俺。言っても伝わらんが。
「そういえば、新しい剣はどうだったタチア?」
「素晴らしいの一言だな、途中鎧を着た『ゴブリンコマンダー』に相対したのだが問答無用で貫けたぞ」
「まぁ、エストックの別名は鎧刺しだしな」
装甲貫通力は剣としては破格なのだ、『鑑定』はしてないがそこそこ高い『貫通』持ちではなかろうか?
「……で、ダリアは何でこんな大人しいんだ?」
朝はあんなに俺が作った武器で饒舌だったダリアが、見た目通り人形みたいに大人しい。何が有ればあの暴走特急がこうなるのか?
「今日は24階層まで潜ったから、ダリアの出番が無くてね。戦いで活躍も出来ずに、専用コーナーまで奪われたとかなんとか」
「……専用コーナーってなんだ?」
「私達もわかんない」
機巧乙女特有の特殊な何かだろうか?
「えっと、今度また31階層以降に行って『サザンカ』試させてやるから元気出せ」
「……マスター、同情は要りません。同情するなら子種下さい」
「よし、平常運転だな」
心配して損した。
「明日は登校日だし、探索はどうするかな」
「妾は潜るつもりじゃ、少しでも技を磨きたいからの」
「私も潜るよ『ロニセラ』が何となく使われたがってるように感じるし」
「当然私もだな、『アンドレイア』が思いの外手に馴染んでるから技を磨きたい」
「私も潜ります。皆様の安全もそうですが、私が居れば25階層以後の敵も粉砕して進めますので」
四葩、エテル、タチア、ダリアは次々と探索を申し出ている。
「……なら俺は今回も此方で色々やるかな、パーティ共通のアクセサリーも作らなきゃだし」
「そうじゃの、あの遮音と念話のアクセサリーが無ければ狙撃銃の音で鼓膜がやられそうじゃ」
「あ、この前の試作品は渡しとく。必要になったら使ってくれ」
そう言って遮音・念話のアクセサリーをインベントリから取り出して机に置けば、全員が手を伸ばしてソレを手に取る。
完成品の要望はエテルがピアス、四葩が簪、タチアがブレスレット、ダリアが髪飾りである。明日帰ってきたら一通り作るか。それと、35階層以降の対策である防臭マスクも作ろう。ミスリルが有るわけだし、毒ガスへの経口対策を兼ねた物にすればこの先も役立つだろう。
しかし、四葩の簪は悩むな。四葩の綺麗な白髮にミスリルの銀は映えない……少し色味を出す工夫をするか。
「そろそろ解散かな」
「確かに、そろそろ帰らねばならない時間だ」
俺の言葉に、タチアは時計を確認してそう言った。一つ頷いてから立ち上がり、玄関へ向う。俺はそれの見送りだ。
「じゃ、明日もエテル達を頼む」
「任せてくれ。必ず、命を賭けてでも守ろう」
そう決意を固めるタチアの顔を見て、俺は少し苛立った。
「馬鹿、お前も無事に帰るんだよ!」
「ぬぉっ!?」
俺の言葉に驚いたタチアが、少し後ずさる。俺はそんなタチアの肩を掴み、目を真っ直ぐ見る。
「誓え、タチア!」
「な、なにをだ?」
「エテル達だけじゃ無い、お前自身も生きて帰るんだと! お前自身も守る対象に入って居るのだと!!」
「わ、私は……」
「確かにお前は見習いとは言え騎士だ、だがそれと同じく俺達の仲間なんだ!」
「私は……仲間……」
「それに、おっちゃんの娘でもあるんだ。もしお前が死んだら、残された俺達は悲しむんだ」
俺の言葉を受けて、タチアは俯く。
「……こんな私でも、悲しんでくれるのだろうか?」
「当たり前だろ」
「ふふ、即答なのだな」
「お前はもう少し、周りの人間を見たほうがいいぞ」
「それはタタラ殿に言われたくないな」
顔を上げたタチアは、笑っていた。目尻に涙が見えて、そっと指で拭ってやる。
「……やはりタタラ殿は天然の女誑しだな」
「失礼だな、エテルに対して純愛だぞ?」
「それは分かるのだが……他意無くあの手の行動をするから勘違いを増産するのだろうな」
訳知り顔で頷いているが、何を持って女誑しなんて言うのか。
「そうだ、明日はどう集まる?」
「ふむ……ダンジョンへ直接はどうだろう?」
「分かった、伝えておく。それじゃお休み」
「ああ、お休みだ」
別れの言葉を残して、タチアは去っていく。後ろ姿が見えなくなるまで見送って、俺は息を一つ吐く。
「駄狐、聞いてたな? 明日、昼過ぎに四葩とダリアを学園の正門前まで連れてきてくれ。エテルと合流させてそのままダンジョンへ向かわせる」
「御意に」
「褒美に帰り道なんか奢ってやる、何が食べたいか考えといてくれ」
「御意」
案の定聞いていた駄狐に予定を伝えた。さて、俺はエテル達に明日の事を伝えるか。
それにしても、最近店を開けてないな。あの成金さんも気になるし……明後日は店を開こうか。
タチアからの予定メンバーを伝えて、最初に口を開いたのは四葩だった。
「のう、タタラ。その案内はダリアに頼むだけでも十分だったのではないか?」
「はい、私もそう思います。マスターはあの獣耳に頼るより、従僕たる私に任せるべきです」
まぁ、言われるだろうとは思った。だが、一応駄狐の役割は四葩の護衛である。雛菊さんは家に置いときたい、あの人を街に放つのは何か怖い……最近駄狐を深く知るごとにそう思うようになった。
雛菊は善良で優秀だ。しかし、箱入りと修行による浮世離れが招く世間ズレが怖い。駄狐が三日三晩入管から逃げた理由、結構ヤバめの理由だったのではなかろうか?
「そうは言うけどな、元々アイツの役割は四葩の護衛だぞ?」
「確かにそうじゃが」
「戦闘力は私が上だと自負しますが」
「ダリアの場合、勢い余って周囲ごと消し飛ばしそうだしな」
「失礼な、『サザンカ』及び『エリンジウム』による威嚇射撃で人は殺しません」
「その過程で施設が破壊されるって言ってんだよ」
ダリアに渡した魔導具の性能から考えて、モンスター以外に使うのは非推奨だ。と言うか、都市長から『エリンジウム』の対人使用を禁止されてる。ダリアが使ったなら没収される案件だ。
「言い忘れていたがなダリア、『エリンジウム』は対人使用を禁止されている」
「な、どういう事ですかマスター。横暴です」
「人間に使うのは過剰火力だって言ってんだよ」
掠っただけで死ぬわあんなもん。
「私からマスターの子供を取り上げようと言うのですか!?」
「人に使うなって言ってんだよ。つか、余程の事がない限り地上では使うな! いいな!!」
「うー……」
「返事!」
「……Yes my Master」
めっちゃ不満そうである。そして、俺とダリアのやり取りを見ていた四葩は額に手を当てていた。やがて、一つ頷いた。
「そこ迄言うのなら仕方ない、一華と共に行こう。良いな、ダリア」
「……」
「よいな?」
「……はい」
流石に四葩も理解したのだろう、渋々と頷くダリアを見て溜息を吐いた。トリガーハッピーみたいなコイツにナンパの対処させたら死人が出そうだ。
話し合いが終わり、俺は工房で開発を行っている。
今日の会談でお義母さんと話している間に浮かんだ流体魔石による魔力伝達効率に付いて調べているのだ。魔力のテスターを使い、魔力の伝達効率を調べていると驚異の96%を記録した。こんなとんでもない素材だったのかと驚きつつ、別の実験を開始する。
発生した魔力を受け取る為のミスリル製の円錐型の芯で上下から『卵』を挟み、ガラス製のカバーで覆う。その中を流体魔石で満たし、空気が完全に無い状態にする。芯には『回転』の術式を刻んでいて、術式の起動と共に『卵』が回転を始める。回転数が上がるたびに計測される魔力量はどんどん出力を上げていく、やがて計測器の限界に達して数値を表記する画面が爆発した。
慌てて術式を解除し、『卵』を減速させる。放出されていた魔力はゆっくりと弱まっていき、『卵』の静止と共に収まった。
「……昔のアニメで見た構造を真似たらトンデモナイ事になったな」
《タタラさんはこの世界からお別れしたいんですね》
「ぬわっ!?」
突然俺以外の声が聞こえて声を上げてしまった。振り向くと、今にも泣きそうな『天使長』が立っていた。
「え、あ……お久しぶりです」
《お久しぶりです、じゃ無いですよ! この世界から追放されるかも知れないから気を付けてってお伝えしたのに!! 何でこんなとんでもない動力を生み出してるんですか!?》
「それは、人々の生活が豊かになるようにですけど……」
《志は立派なのに、何でこんなの作っちゃうかな!?》
頭を掻き毟る『天使長』を見て、結構ヤバい事をしでかしたかもと今更ながら思う。
「と言うか、コレ以前存在したんですか?」
《別世界で世界の終末に対抗する為の最終兵器の動力源ですよコレ!》
「……マジかぁ」
俺が知らないタイトルでコレが存在してるのか……と言うか、コレを必要とした事態っていったい?
《タタラさん、私に赤ちゃん抱かせてくれるって言ったのに! 約束破るつもりですか!?》
「いや、流石に魔力炉を作った時には問題無かったのでその延長で作ったんですけど」
《どうして追い詰められた別世界の人と同じ発想になっちゃうんですか!?》
「いや、それはその人達が俺と似た人種ってだけじゃ?」
《つまりタタラさん、追い詰められてるんですか!?》
成る程、そうなるのか。いや、少し前まで追い詰められてはいたがそんな世界の命運を背負うような切羽詰まった状況では無いからな。
《タタラさんのリーチって凄いんですよ! 私、今回ので追放になったと思ったくらいなんですから!!》
「そんな崖っぷちなのか俺」
むしろ何で大丈夫なんだ?
《もう本当……今回ので最後にして下さいね! でないとまた泣いちゃいますよ!? エテルさん達が居る状況で大泣きしますよ!?》
「すみません、本当勘弁して下さい」
思わずガチで頭を下げた。『天使長』が泣いて他の面子に見られたらどんな反応されるか分からない、それこそエテルと四葩が揃って俺を搾り殺そうとするまで有る。それは流石に怖い。
《いいですか、次にこの世界から追放されそうな物を作ったら……私が先にタタラさんを殺して魂を『屋敷』に持ち帰りますから!!》
「待ってすごく怖い」
魂持ち帰るって何、俺この会社の中で『天使長』がそんな事を言い出すの見たこと無かったんだけど!?
《私が、タタラさん殺しにならないようにタタラさんも気を付けて下さいね!》
「はい、気を付けます」
俺にそう言い残して『天使長』は帰っていった。人殺しじゃなくてタタラさん殺しか……あれ、俺人扱いされて無い?
とりあえず、封印するか否かは都市長に設計図と概要書送ってからにしよう。追放されて無いならまだ大丈夫だと思いたい。
鳥型ゴーレムの脚にコレを付けようとしたらめちゃくちゃ嫌がられた、何か君ゴーレムなのに意思に目覚めてない?
朝を迎え、朝食の準備を始める俺とエテル。『天使長』の言葉が影響して眠りが浅かった俺は、早く目覚めた時間を利用して昼のサンドイッチ用のも含めた具材を作った。後から起きてきたエテルは量に驚いていたが、雛菊さんが台所を破壊する可能性を考慮した結果だと言ったら妙に納得された。もしかしたら、俺が知らない所でやらかしたのをエテルは見てるのかも知れない。
帰ったら魔導炊飯器の作製を必ずしようと決心しつつ調理をしていると、四葩が起きてきた。何と昨日持ち込まれた資材の中に、四葩の和服も入っていたので久し振りに襦袢を着たらしい。此方に着て来た物は色々直す為にお義母さんが持って帰ったとの事だった……俺が職人さん達と風呂場を作ってる最中にやり取りしたそうだ。手際がいいな。
次に起きたのがダリアだった、なんでも新しい魔導具の気配を感じたらしい。見せて欲しいと騒いだので夜に見せると約束した、とは言えアレはダリアが求めるようなのでは無いんだよな。
最後に入ってきたのは駄狐に引き摺られた雛菊さんだ。普段と立場が逆転してるのは何が有ったのだろうか?
「……ご主人、今日の護衛雛菊も一緒に連れて行きたいでござる」
「……拗ねたのか?」
「回答は控えさせて貰うでござるよ」
「拗ねたんだな」
原因は何だろうか、昨日のお義母さん案件か?
「雛菊さん、ご飯出来ますよ?」
「……」
「今日の朝はベーコンエッグとサラダに人参のポタージュですよ」
「…………」
「運動の後は美味しく成りますよ」
「……………………」
「……もう、此方のご飯は飽きちゃいましたか?」
「私は何時から腹ペコキャラになったんです!?」
「え、割と最初から?」
もしかして、駄狐に起こされる時に何か言ったのだろうか?
「拙者、朝起こす時に『楽しみにしてる朝食の時間でござるよ』としか言ってないでござる」
「……うん、本当だな」
「……目を合わせただけで嘘が見抜かれるでござるなコレ」
何となく、駄狐の嘘を吐くさいの癖は分かったから本当なのは確信出来た。では、何故その程度の言葉でこんなダメージ受けてるんだ?
「そう言えば、昨日奥様に『画面越しだと分かりませんでしたが、雛菊少しふっくらしました?』って言われてたでござる」
「原因それか?」
いや、でも普通に食ってたよな?
「どうせ……どうせ私は鴉天狗でもふくよかな方ですよ! 胸だって一生懸命晒しで潰してたのに四葩お嬢様より大きいし! この街に来るまでの間美味しい物を食べ歩いた事も有りますし! それでも……それでも空は飛べるもん!!」
「……とりあえず元気そうだから放っておくでござる」
「まぁ、肥えたのなら鍛錬で消費すればいいと思うけどな……」
取りあえず、問題は無さそうだからこのままでいいだろう。多分、食事になったら復活するだろうし。
あと、胸についての発言で四葩とダリアが胸元で手を上下に動かしていた。スカッと音がしそうだったので目を逸らした……そう言えば、前に都市長とカラムスさんもやってたなアレ。
で、食事が始まれば案の定雛菊さんは復活した。鍛錬で動けば食べた量は消費される! と勢い込んでいたが、はたして上手くいくかな……低カロリー高タンパク料理を出すようにするか。
食事を終え、食器を洗うのは俺と並んで四葩が担当している。
こういった物も体験したいと言われ、以前から教えていたが思いの外飲み込みが早い。今も楽しそうに洗剤を水で洗い流して終わった物を俺に渡してくる、俺はソレを布巾で拭いてから片付け食器台へ置いていく。
後ろの方で絶望した気配を感じる……これ、もしかして雛菊さんか? 自分は家事が壊滅的なのに、後から始めた四葩が上手くてショック受けてるのか……やはり音痴はどんなに努力してもどうしようも無いんだなと家事音痴な雛菊さんを見て思った。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってくるね、また後で!」
俺とエテルが揃って出発するのを、四葩達4人が見送ってくれる。
そのまま俺とエテルは並んで歩いていく。
「なんか、最近家が騒がしいね」
楽しそうにエテルがそう言った。
「そうだな。四葩が来て、護衛二人を押し付けられて……ダリアが増えた。タチアも来るし、都市長やおっちゃんも最近は頻繁に来るしな」
「あの二人きりの時にも思い出いっぱいだけど、今の家も楽しいんだ」
エテルがそう言うが、俺は少しだけ違う。
「それでも、偶にエテルと二人きりの静かな時間が恋しくなる時が有るんだ」
「……そっか、タタラは私が好きだからそうなっちゃうんだね」
「悪いな」
「いいよ、私も時々そうだしね」
やはり、恋人との時間っていうのは特別に感じる物。
それは共通認識なんだろう。
「でも、えっちの時は二人きりだし」
「エテル、往来でそう言う事を言うのはやめよう」
やはり、何処かズレてるよエテル。
「おはよっす」
「はよー」
俺とエテルが教室に入ると、バタバタと駆け寄ってくる気配。
「すまんタタラ! 助けてくれ!!」
挨拶をする余裕も無いバカが駆け寄ってくる、こんなに焦るって何があった?
「どうした、落ち着いて説明しろ」
「わ、悪い……コレ」
そう言ってインベントリから出される一本の剣、依頼で打ったやつでは無く買っていったやつだ。
受け取り、鞘から引き抜くと半ばから折れていた。
「……何をやったらこうなるんだ?」
「17階層を探索したら、なんか小さい奴とやり合って……何とか首を落として勝ったがその時突き入れられた拳を剣で受けたら」
「おいおい『オーガグラップル』を単独でやったのかよ……」
どんな戦闘センスしてんだコイツ、四葩と並ぶくらいに強くなれるんじゃないか?
「……『オーガグラップル』?」
「『オーガ』種のレア個体だ、基本能力はボスの『ハイオーガ』に劣るが此方の方が正直言うと強いぞ」
最初の頃のタチアが腕折られたからな、攻撃力自体は『ハイオーガ』より劣るが攻撃の打ち方が上手いのだ。
「で、この真っ二つになった剣だよな……」
「直せるか?」
「正直、打ち直した方が良いな。鉄で繋いでもここだけ脆くなる」
「そうか……」
あからさまに落ち込むバカ。そんな姿を見た俺は溜息を吐いて、後頭部をガリガリと掻き言う。
「鉄のインゴット一つと5000」
「……は?」
「この剣を元にして打ち直すから鉄のインゴット一つと5000で済むぞ」
「え、いいのか?」
「軽く癖を見たが、コレお前にとって軽かったろ?」
癖を読み取ると、バカの成長に剣が耐えられなかった側面が有る。金貯めて魔鉄作りに来い、ミスリルが必要になるまでお前に相応しいのはそのランクだ。
「取りあえず預かるが、専門授業で直すから放課後取りに来い」
「で、出来るのか!?」
「新規でも一時間で剣なんざ打てるよ、家じゃなくてもな」
バカは顔を明るくさせる、本当に世話が焼けるかコイツは。
「すまん、助かる!」
「はいはい気にすんな。金は剣を返す時な」
「分かった!」
バカは足取り軽く席に戻る。俺はインベントリに剣をしまうと、エテルが近付いて耳元で囁いてきた。
「やさしいね、タタラ」
「……ほっとけ」
唯一親友なんて言える相手が困ってるんだ、手助けの一つもしたくなる。
時間は進み、専門授業の時間になり自分の工房に入る。さて、剣を打つ準備をするか。
「先輩、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「おう、いらっしゃい二人共」
入ってきた後輩二人に生返事をしつつ、炉の火を見る。やはり、家のものに比べると劣るな。
そんな俺を見て、首を傾げたシャムスが聞いてきた。
「……先輩、何をするんですか?」
「おう、クラスメイトが剣を折っちまってな。この時間中に打ち直す」
「……は?」
俺の言葉に反応を返したのはエスト、そりゃ普通は1週間掛かるとか言われてるのを一時間で済ますってなればそうもなるか。
「……エスト、剣って一時間で打てる?」
「無茶言うな、刀身を打つだけでも何時間と掛かる」
後輩二人は小声でなんか言ってるが、取りあえず注意。
「コレから集中するから絶対話し掛けないように、いいな?」
「「はいっ!?」」
なんか背筋を伸ばして返事してきた、なんで緊張したこの2人?
半分になった剣の刃を柄から外して炉に入れる、鞘の中に残されていた切っ先側もだ。そして鉄のインゴットも入れて熱されるのを待つ。やはり炉の火力が低くて時間が掛かりそうだ、仕方ないから別アプローチで行こう。
炉から刃とインゴットを取り出す。溶けはしないが赤熱する手前だった刃とインゴットに魔力を流す、魔法金属を鍛造する時のやり方だ。
路を満たした俺の魔力により、柔らかくなったそれぞれをまとめて鎚で叩く。一度完全に叩いて伸ばし、一つの板にする。そこから元の剣の幅と長さに整え、折り返す。次は折らせない、その意思を込めて魔力を流し刻み込むように鎚で叩く。
繰り返すこと20回、約315万層の金属層を持つ剣身が出来上がる。不燃油を混ぜた水の中に剣身を入れ、急速に冷やして焼き入れする。『鑑定』で確認して熱が無くなったのを見計らい水から上げる。
油を落とし、砥石で刃を研いでいく。バランスよく、根本から鋒へと研ぐ。やがて見事に研ぎ上がった剣身は緩く波紋が見えた。水を拭き取りその剣身に元の柄を付けて、鞘に納めて時計を見る。授業終了の10分前だ。
「……悪いな二人共、今日は授業してやれなくて」
「い、いえいえいえいえ!?」
「何だろう、コレ……ただ剣を打ってるだけなのにこんなレベルの違いを感じるのか」
高速で首と手を横に振るシャムスと、心臓の辺りを押さえて呆然と言葉をこぼすエスト。何が有ったのだろうか、俺はただ剣を打っていただけなのだが。
「残り十分じゃまともに教えられないな……雑談するか」
「アレが先輩の平常運転……」
「コレに追い付かなきゃならないのか、俺達は……」
なんか心此処にあらずって雰囲気だな。うん、何か切っ掛けを出そう。
「そういえば、知り合いに言われたんだが」
語り掛けても二人はあまり反応してくれない、ちょっと挫けそうになるが頑張れ俺。
「俺のことを女誑しとか言ってくるんだが、風評被害だと思わないか?」
「「思いません」」
「綺麗に言葉と意見揃うじゃん、泣いていいかな?」
後輩にすら女誑し扱いされるってなんなんだろうな?
俺の学園での被告白回数0だぞお前、何処が女誑だよ。
【異世界発表ダリア】
「『天使長』かと思いましたか? 残念。可愛い機巧乙女ダリア・ジュロンが、別の世界線を発表します。本日は此方!」
『立場逆転』
「拾われたのがマスター側な世界線ですね。始まりは断章/愛の絆と同じく降りしきる雨の中、マスターが雨に打たれながら彷徨います。両親の死後、親戚を名乗る顔も知らない禿鷹に家や遺産を奪われ身一つで追い出されてしまったマスター。このまま二度目の死を受け入れてもいいかと思った所に、奥様が通りかかり傘で雨を遮ります。死人の様な顔をしたマスターに危機感を覚えた奥様はそのまま家に連れ帰り、面倒を見ようと奮闘します。突然娘が連れてきた男の子に激昂するバーラル氏、遂に娘が男の子と仲良くなれたと喜ぶ母。そんな騒がしい日々に少しずつ人間性を取り戻していく物語に成ります。ハチャメチャクラフトに入るまでがやや遅く、発動した瞬間からバーラル氏が胃痛に苛まれる都市長枠になるのだそうです」
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