既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
なんか筆が進まず遅くなりました、すみません。
「やっと見付けたでござるよご主人に雛菊」
そうやって声をかけながら近寄って来た駄狐、身体や服に傷は見られなくて一安心する。
「まったく、逸れるなよ駄狐」
「む、ご主人達が逸れたでござるよ!」
「心配したんだからな、この馬鹿が……」
「……」
近寄って来た駄狐の頭を思わず撫でていた。
ああ、無事で良かった。帰ってきてくれた。
「……ごめんなさい、ご主人」
少し、声が震えている。俺はコイツを泣かせてしまう行動を取って居るのか、しまったな。
そうは思うのだが、駄狐はどうも俺の手を逃したくない様子で少し頭の位置を変えて撫でやすいようにしている。なんか、家で引き取った保護犬が此方に馴れてきてくれたかの様な感覚だ。
引き取った事は無いけど。
「もう、勝手に逸れるなよ。お前が居ないと寂しいからな」
「……御意にござる」
頭の上にあった手を取って、自らの頬に当てて答えた駄狐。その顔はようやく探していたもの見付けた迷子のようで、俺はコイツの拠り所となれたらしい。
「ところでタタラ殿、あちらのついすたぁぽてととやらを食べてみたいのですが!」
「……分かりました、買いに行きましょう」
わざとなのか素なのか分からない雛菊さんの言葉に溜息を吐きそうになるが、さっきは助けて貰ったので礼としてもポテトを買いに向かう。ふと、左手に感触を感じたので目を向けると駄狐が手を繋いで来ていた。何となく握り返して屋台へと向かう。
しかし、本当強くて有能なのは分かるんだが……雛菊さん食い過ぎて豚菊まっしぐらじゃねぇかこれ?
屋台でツイスターポテトを買った後、元の目的である平服を売っているような安めの服屋へ入る。此処は当人達が気に入った物を買おうと思い、二人に選ばせようとして少し後悔する。
駄狐は外を歩く人達の傾向を見て、目立ち難い物を選んできた。おそらく諜報活動等を行ってきた癖なのだろう、溶け混みやすい物といった雰囲気だ。ただ、なんというか俺が普段着ているような少し男っぽい服を持ってきてもいてコレが趣味なのだろうかと考える。まぁ、本人が選んだのならいいが。
雛菊さんはもうやばかった、持ってきたのは所謂ダサTで、地方の方言言葉で『働いたら負け』やら『食っちゃ寝生活』はては『安寧の豚』と書かれたシャツを持ってきた。狙ってるのかな、心配になるが再三確認してもコレと譲らなかったので購入する。
今度、ダリアの武器を見て回った後に普段着としてまた買いに来ようか。お洒落着以外はあのレオタードみたいなのしか無いみたいだし。
服を買い終わった後は、少しだけ商店区でスクラップを買い漁る。一山幾らの物を買う際に店主に駄狐が交渉を行い値切っていた、いやまぁ美人でスタイルの良い相手から迫られて鼻の下伸ばすなとは言えんけど……だらしない顔してたなあのオッサン。
「駄狐、値切りは嬉しいけどあんま無理すんな」
「むむ、ご主人は拙者が無理してるように見えたでござるか!?」
「お前、あんまり人に身体触られるの好きじゃ無いだろ。太腿触られた時一瞬硬直したの見えたぞ」
「……気付かないで欲しかったでござるよ」
気恥ずかしさからか、他の感情からか駄狐は俯いた。こういうのを指摘するからデリカシーが無い判定を受けるのだろうが、それでも無理はするなと言葉にしないとコイツは無理を続けるだろう。人に期待されたり、賞賛されたりが苦手な奴。そう俺には見えた。
「居心地のいい夢を見る上で俺に気を使うな」
「……無理でござるよ、ご主人が少しでも喜んで欲しくなるでござる」
「なら笑ってるだけでいいさ、お前の能天気な笑い方が結構好きなんだ」
「……そうやってまた口説く」
「これも駄目判定って厳しくねぇか!?」
もう俺お前達と話せないじゃん。
夕飯の食材も買い、家に帰ると門の前に二人分の人影が有った。
「……待っていたわヨ、タタラ」
「ジュロン、朝から我が主が怒髪衝天の具合なんだ。お前、何を作ったんだ?」
いっそ穏やかな口調で告げた都市長に対して、カラムスさんは真逆の雰囲気の言葉を出してきた。
「……まるで穏やかな姿の奥に怒りを隠した超戦士と言った雰囲気でござるな」
「噴火の為に内部で力を溜めている火山にも見えますね」
駄狐と雛菊さんも不安を煽るような事を言わないで欲しい。
都市長が俺の通学時間を計算して家に訪問して来るって辺りでまだ余裕が有りそうに感じるが、多分あの終末動力炉についてここに来たんだよな?
「今開けますから少し待ってください」
「ええ、少しだけ待つわ……少しだけネ?」
背筋がゾクッとした。ヤバい、殺されるかも知れない。
都市長とカラムスさんを家に上げ、駄狐に紅茶を淹れるように頼む。駄狐は不安そうだが、多分怒りは全て俺に向くはずなのでと説得した。駄狐は不安そうに俺を振り返りながら、台所へと向かう。
「さて、今朝届いたこの意味不明な物体の設計図についてなのだけど……コレは何かしラ?」
そう言って差し出されたのは、表紙に赤字で『封印』の文字がデカデカと書かれていた。うん、ヤバいかやっぱり。
「……新型魔力炉を発展させる為の実験で生み出された、新型動力炉ですね」
「……魔力炉ではなク、動力炉とはネ……で?」
「構造としては流体魔石で満たしたケースの中に、ミスリルの円錐で挟んだ『卵』を回転させる事物です。魔力を生み出せないかって考えて作りましたが……出力がちょっと」
「具体的にハ?」
「
まるで何処かの目に掛けるタイプの戦闘力測定機が爆発するみたいな光景だった、盛大に吹き飛んだからな。
「で、何デ魔力が大量に発生したのカは分かってルのかしラ?」
「はっきり言って不明です」
「ハァ?」
「いや、だって未知の現象なんですもん!?」
一応、前世知識の中に似たものは有る。発電機は磁石回転させる事で電力を生み出し、それを抽出する事物だった。
俺がやったのは『卵』を磁石に見立ててミスリルの円錐に刻んだ『回転』の術式で回転させる事で、同じように魔力が発生させられないかという物だ。結果として、単純に『卵』から魔力を抽出するよりも高出力な魔力を発生させる事が出来てしまったという事だ。
「……で?」
「コレを、都市長に見せたのは研究内容その物を破棄するか否かの判断を仰ぐ為です。我ながら危険な物なので破棄するべきとも思いましたが、都市長達ならコレを平和的に使えるかなって」
「……はぁ」
都市長は額を押さえて溜息を吐いた。流石に自分でも無責任だとは思うが、コレは正しく使うなら人々を豊かに出来る。俺より正しく判断出来る都市長なら、そんな思いで報告したのだ。
「……アンタは、私を神聖視と言うより絶対視し過ぎよ」
「……え?」
「私だって間違える、悩んで道を踏み外すの。アンタが私を母親みたいに絶対的な存在って思ってるみたいだけど、そんな高尚な存在じゃ無いのよ私は」
どうして、ここでそんな事を言うんだ? いや、そうか──
「俺が判断するべき、なんですね」
「ええ、そうよ。タタラ・ジュロン、貴方が判断なさい。その選択に責任を負いなさい」
その言葉で、胃の奥が重くなった。そうか、そうだよな。俺は今までこの人にこんな重圧を味あわせていたんだな。
「……俺は、この発明を残したいです」
「それは何故?」
「人々の生活を僅かでも豊かに出来るからです」
この世界では多分、自動化と言う工業的な発展は無いだろう。しかし、エネルギーが大量に有れば魔導具が動かせる。野菜の収穫に使うトラクターや、クラフターが使う工房を稼働させる魔力が確保出来るのならそれだけで食料自給率や生産性は上がる。
確かに、この動力炉は使い方を間違えれば大きな災いを齎すだろう。俺達の命が終わった後で誰かが悪意を持って使ったり、奪われたりする可能性も存在している。けれど、正しく使っていけるんだと信じなければ何時までも変わらないのだ。
「自らが生み出した発明の軌跡を消したく無いだけじゃないの?」
「都市長には言ってませんけど、本気でヤバいと判断した物とかは研究資料ごと破棄してますよ俺」
「具体的には何よ」
「薬効上げすぎて依存症になる傷薬、とかですね」
俺の言葉に都市長と、横に居たカラムスさんが絶句する。
「麻薬のレシピ、確かにそんな物は残さず破棄するわよね」
「頭の中にレシピは残ってるので再現は出来ます、やる気は無いですが」
「あんたの根っ子が善良で良かったわよ」
「亡くなった両親と後見人になってくれた貴女にかけて、道を踏み外す行為はしませんよ」
「ご主人、熟女も対象でござるか?」
ぶっ飛ばされるぞ駄狐お前。
「おまっ、流石に都市長を熟女扱いは駄目だろ!?」
「ご主人ーッ、熟女を愚弄する気でござるかぁっ!」
「だから熟女扱いすんなっての!」
「きゅうん……熟女は母性、熟成、経産……そして寝取りが含まれた完全性癖でござるゥ」
「最低だよ!」
なんで久し振りに語録言い始めたと思った禁断の語録二度打ちやってんだよコイツ、あとコレ俺が殺されないか?
「……タタラ、熟女を強く否定されると逆に私が熟女であると肯定されている気がするのだけど?」
「……」
「何とか言いなさい」
死ぬ。答えたら確実に死ぬ。
カラムスさんに助けを求めようと視線を向ける。
「……三桁を越えて生きる化石に何か用か、ジュロン」
紅茶を飲みながらそんな事を言ってきた。駄目じゃんこの年増園、抜け出せない地獄かよ。
「……ワインが味わい深くなるのは、年老いてからですよ」
「そう……遺言はそれね?」
次の瞬間、頭に物凄い衝撃が走った。気絶するかと思ったが、何とか耐えた。頭の中がミキサーでかき混ぜられたかのように揺れ、思考を回すこともマトモに出来ない。
頭に振り下ろされたのはフライパンらしい、素材はおそらくミスリル製。頑丈ではあるけど熱伝導性低くてあんまり良くないと思いますよそれ。
「取りあえず、今回の失言はコレでチャラよ」
「は、はい……」
頭の中が揺れたまま、何とか返事を返すが思考が定まらない。
防御力40手前に対してこの威力って、都市長は多分まだ探索で現役を張れると思う。
「というか、イチゲさんが言った『熟女も対象』って何の事よ」
「……自分で言うのはいいんですね、そのワード」
「アンタが必死に反応するから余計にムカついただけよ」
「そうですか」
漸く痛みが引いて来たので頭を振って意識を確かにする。さて、駄狐が言ってる言葉についてだっけ?
「なんでも、俺は無意識かつ無自覚に相手を口説く女誑しやら人誑しらしいですからね。駄狐としては、俺が言った言葉が口説き文句に思えたんじゃないんですかね?」
「……貴方、苦労してるのね?」
おい、何でその台詞が俺じゃ無くて駄狐の方に向いてるんだよ。
「ジュロン、お前の口説き文句を自然と零す悪癖は治す事を強く勧めるぞ。偶にお前に口説かれたと相談を受けるからな」
「待ってください、俺は普通に話しただけで口説き判定されるんですか!?」
「……意図して口説いた相手はエテルだけって事ね、コレは重症だわ」
「何だこの扱い、俺は普通に喋る事も禁止されるのか!?」
俺の反応を見て、カラムスさんは溜息を吐く。頭痛を覚えたかのように頭を押さえて俺に言ってくる。
「以前、私の武器を見て戦い方を知り褒めた事が有っただろう」
「『フィエルテ』作製の時ですよね、それが?」
「あれを敬虔な軍神様の信者にやってみろ、求婚と取られるぞ」
「……はい?」
カラムスさんの言葉が一瞬理解出来なかった、なんて?
「武器を褒めただけで、ですか?」
俺の言葉にカラムスさんはまた溜息を吐く。
「軍神様の宗派にとって、武器とは己そのものとも言える。その傷を褒められ、戦い方を読まれると言うのは……人生を理解されると言う事だ」
「待って、重い」
流石に武器と使い方を褒めたからってそれは飛躍し過ぎでは?
「お前が我が宗派では無いのであの時は無視したが、お前はそれ程危うい事をしているのだと理解しろ」
「いや、無理ですよね!?」
俺、結構な頻度でやらかしてるぞそれ。自衛しろって言われても無理だろ、宗教とか何が地雷なのか分からんのだし。
「各宗派の地雷なんてどう調べろって言うんですか、俺が親しいのなんてカラムスさん軍神様の宗派と癒しの乙女様の宗派とかしか無いですよ……」
「……他で何かやらかしてないだろうな?」
「分からないですよ、乙女様の宗派には子供の頃世話になってたから寄進をよくしたりしますけど」
「ふむ、基本は金か」
「ええ、月に50万ほど。大分教会も綺麗になりましたね」
「……」
「後はよくドジで食器割っちゃう子が居るみたいなので食器をこの前贈りました」
「……それでよく信徒認定されないな、お前」
「乙女様の敬虔な信徒ならクラフターや商人なんてやれないでしょ、傷薬とか売ったら不敬ですよ」
「なるほど、そういう事か」
「ま、その傷薬を5000個納品して来るのがタタラだけどね」
因みに、漸く補充した分が2000個程になった。成金さんを驚かせるにはまだ足り無い。
「で、タタラ。また傷薬納品出来る?」
「……2000個なら」
さよなら、成金さんの驚き顔。
「取りあえず、新型動力炉ってのは管理を一任するわ。絶対に、悪用しない事」
「……緊急時のエネルギー供給所として家を使うとかは有りですかね?」
「今は無しよ、法務長と協議しないと許可出せないわ」
「協議はするんですね……」
「当たり前でしょ、あんたのそれが人々を温める光に出来るかは私達にも掛かってるんだから」
そう言って、都市長とカラムスさんは帰って行った。
工房に入り、俺が責任を持って管理する新型動力炉を改めて確認する。『鑑定』を使っても当然情報なんて出ず、改めて名前を付ける必要が出た。
しかし、なんと名前を付けるか。『天使長』はコレを終末に対抗する為の最終兵器の動力炉と言った。
世界の終末、それはどのような状況を指すのか?
エネルギーの枯渇というのならコレは確かに対抗措置になり得る、しかし兵器の動力炉と言われるなら相応しくない。
明確な敵が存在し、これ程のエネルギーが無ければ動かせない程の強大な兵器。最後の拠り所、そんな存在。
「……駄目だ、名前が浮かばない」
難しく考え過ぎなのかも知れないが、なんか無駄に仰々しい物を考えようとしてしまう。
「そうだな、鍛冶師が作ったんだ。『フォルジュロン・ドライブ』……それがコイツの名前だ」
何時もの何かが繋がる感覚がして、動力炉に『鑑定』を使えば名前が『フォルジュロン・ドライブ』となっていた。
さて、コイツの仕様として問題なのは『卵』の回転数だろう。回転が速くなればなるほどに発生させるエネルギー量が指数関数的に増える……つまり、平常時はそこ迄の回転は要らない。回転数の制御は魔力によっての制御となるが、流体魔石と本体から発生させる魔力の何方も影響を与えて加速させるのだ。
制御関連を施さなければならないので、一度バラす。流体魔石は別容器に移してミスリルの円錐……シャフトでいいか、シャフトに刻んだ回転術式を見直す。回転術式を魔力で刻んでるのも干渉を助長しているのだろう、流体魔石に術式を触れさせている事も問題の可能性が有る。
設計をやり直す。少々手間は掛かるがシャフトを分解構造にする、直接『卵』に触れる先端と回転術式を刻む箇所は分けた。
ガラスも変形させて天頂部から内側に凹ませるようにしてその先端に穴を空けてネジ穴を掘る。
円錐は先端を落とし穴を空けてネジ穴加工を施し、更に外周の回転術式は魔力で術式を刻むのではなく手彫りで彫り込んだ。円柱を作りネジをきり、先端を円錐状にする。
ガラスカバーを挟んでシャフトを組み合わせる、ガラスに掘ったネジ穴で流体魔石が外へ溢れないようにしているが不安になる。零れ出ないようにクラフトで加工してネジ穴の中に溶かしたガラスを流し込んで固め隙間を無くしておく。メンテナンスをする際は作り直し確定だがコレで良いだろう。
下部のシャフトも同じ構造にしておき、台座にはガラスを受ける溝を深めに掘ってその中をネジ穴加工する。
ガラスのカバーの縁をネジ穴状に加工し、内部へ流体魔石を流し込む。『卵』をシャフトが上手く挟めるように工夫しながら台座部を取り付け、ひっくり返す。天頂部、台座部の縁からも流体魔石が流れ出る事は無く加工の成功を確認できた。改造前にガラス内を通っていたミスリルの基部はガラスカバーの外へ出し、天頂部のミスリルと触れさせて4方からカバーを押さえるような形で台座にとどかせる。固定と、このミスリル部から魔力を取り出せるようにする為の再設計だ。
直した計測器の回転を測る測定機を取り付け、稼働実験を行う。上下のシャフトに刻まれた回転の術式が先端が触れている『卵』へ無事に伝わり、『卵』がゆっくりと回転を始める。伝える魔力は調節して秒間20回転程になるように調整した、回転した『卵』は無事秒間20回転のまま回転数が一定になり考察が当たっていた事に安堵する。魔力の計測器は512世帯分の魔力を1秒毎に生み出している事を示していた。
さて、回転数はどれだけ上げれば1200世帯を賄えるかも実験しなければ。秒間の回転数を1.5倍の30に上げた瞬間、計測した魔力量が1024世帯を賄える量になった。更に秒間10回転増やせば賄える世帯は2048になる。2048世帯が1日で消費する魔力量を1秒で生み出す……10回転増やすと生み出す魔力量が倍の数字なるのは大分狂っているな、コレ。
想定通りの稼働状態で、想像以上の出力を発揮する動力炉の実験結果を逃げようとする鳥型ゴーレムの脚に括り付けて都市長へ送る。コレを『家庭用魔力炉』と呼ぶのは少し不安だが、他の呼び方が思い付かない家電だ。
動力炉の作製が終わって、まだエテル達が帰ってくるまで余裕が有る時間なので送ってもらった炊飯釜を取り出す。炊飯釜と言うか炊飯窯だが、魔導具としての改造を施す。とはいえそこ迄複雑ではない、加熱を『加熱』の術式で行い時間経過で温度を自動調整するようにして蓋の密閉性を上げつつ圧力鍋に近い構造にして内部の余分な水分を抜けるようにするだけだ。せっかく貰った木の蓋を無くすのは失礼な気もするが、出来たら構造を伝えて向こうでも試験的に作って貰いたい。朝のお母さん達の一助になってくれたら嬉しい。
「あの、ご主人? 何で拙者は連れてこられたでござるか?」
「すまん、米の炊き方を教えてくれ!」
「……ふぇ?」
生憎、俺には理想的な火加減や蒸らし時間等の知識は無い。故に、何気に万能な駄狐を頼った。
「……なるほど、魔法炊飯窯でござるか」
「魔導式炊飯器って呼ぼうかなと思うが、コレで基本的な炊き方を自動で出来るようになれば此方でも四葩やお前にご飯を食わせてやれると思ってな。炊き方、教えてくれ」
「……しょうがないでござるな、ご主人は。一度普通に炊くでござるから、その御自慢の目でしっかり『観る』でござるよ」
「ああ、助かる」
そう言って火加減等は魔法による制御で、蓋から吹き出る湯気による判断を見せてもらう。
「既に魔法で火加減が自在と言う時点で楽でござるな」
「薪はやはり調整が難しいのか」
「そうでござるよ、強くするのも弱くするのも一苦労でござる」
そんな会話をしながら、駄狐は炊飯釜で米を上手く炊いていく。
「は〜じめちょ〜ろちょ〜ろ中ぱっぱ♪ じゅうじゅう吹いたら火をひ〜いて♪ あっか子泣〜いてもふった取るな♪ わらしべひっとたばく〜べまして♪ そ〜れ〜で蒸〜らして出来あ〜がり♪」
米の炊き方を歌った、前世でも聞いたこと有る物だ。俺は『はじめちょろちょろなかぱっぱ』までしか知らなかったが、どうも駄狐は全部きちんと知ってたっぽい。
「ご主人、出来たでござるよ」
蓋を取り、その中に有る綺麗な白米を俺に見せてくる。久し振りに見たが、やはり白米が美味そうに見えてしまうのは魂に刻まれているからだろうか。
「ありがとう」
思わず駄狐の頭を撫でると、駄狐も自分から頭を掌へ押し付けてくるように動いた。なんだか、甘えたがりの大型犬を愛でている気になってきた。調子に乗って両手で髪の毛をワシャワシャとしてやれば、駄狐はきゃーと悲鳴を上げるが逃げようとしない。その尾がバッサバッサと左右に揺れていて喜んでいるのが分かる。
手をどけた後に、早速先程見た火加減を術式で再現する。『鑑定』で内部の圧と窯の熱の推移は見た、それに合わせて感知系の術式と組み合わせて熱と圧に合わせて温度を調整する式を組む。蓋にも温度調整に連動して蒸気を逃がす構造と術式を取り付ける。コレで一先ずは完成で、後は日常的に使いながら改善しよう。
「それで、妾に久し振りの和食を食べさせたくなったと」
「駄狐がかなり優秀でな、めっちゃ教え上手で助かった」
「拙者としては肉じゃがの食材一式先に買っておくご主人が信じられぬでござるよ……」
前世振りに和食を作ろうと思って馬鈴薯と人参、玉ねぎと牛蒡そして牛肉を買っておいた。個人的には豚肉の方が脂が甘くて好きなのだが、雛菊さんに共食いさせるのは忍びないので牛にした次第である。
味噌汁は送って貰った調味料の中に含まれていた鰹節から出汁をとって具材はキャベツにした、メインは魚の鰤が買えたのでブリ照りだ。久し振りに照り焼きなんて作ったから焦がさないようにするのが苦労したよ。
「……タタラ、妾達の國の料理を作るのは初めてじゃよな?」
「ん? ああ、初めてだぞ」
転生してからは、な。
「なんというか……作り方を心得ておる味じゃの」
「入れた砂糖の影響で焦がし易いとかそんな事を考えつつ、『鑑定』で魚の身が焼き過ぎで固くなる直前を見極めればこれくらい出来るぞ」
「……『鑑定』とは便利なのじゃな」
「そうでも無いぞ、焼き加減とかは小まめに使わないと変化読み取れないし。状態の移り変わりを目視しようとすると『概念鑑定』になるしな」
言いながら箸で解した鰤の身を一口、白身が口の中でほろほろと更に解れ、内に溜め込まれていた脂が溢れる。それに加え照り焼きタレの甘みが混ざり、口の中は魚と醤の旨味が混ざり合う。久し振りの醤油や味醂の味に感動する、この旨味……魂が覚えている。茶碗から白米一口分を箸でつまみ口に運ぶ、駄狐が炊いてくれたご飯は表は固めで米の甘みをしっかり引き出した素晴らしい出来だ。くどくなりそうだった照り焼きのタレも、ご飯も一緒に口にする事で味わいがまろやかになる。
ご飯茶碗を一度置き、汁椀をとって味噌汁を啜る。味噌と鰹節の風味が口の中の味を一旦リセットする。味噌は赤と白の合わせ味噌、その割合は赤1に対して白4だ。個人的には赤よりも白が好みだが、そのままでは少し弱く感じてしまう。そこで少しだけ赤味噌を足す事で味に深みを持たせる。同じく味噌汁を飲んだらしい四葩が、味に対して感心したような声を漏らしている。豚菊さん? 元気に肉じゃがを絶賛してくれているよ。
ただ、今回の夕食は二人犠牲者が居る。箸を使えないエテルとタチアだ、ダリアは俺達使える組の手を数秒確認したら使い始めた。ラーニングだろうか?
「……平皿にライスを乗せてもらってるけど、食べ難い」
「む、フォークで食べようとしたら身が崩れてしまうな」
こんな感じだ。更に、味噌の味が未知すぎて若干の忌避感が見える。コレは洋食と和食の割合考えないとな。
「タタラ殿、ご飯と味噌汁をおかわりお願いします!」
「……三杯目からはそっと出すでござるよ、豚菊」
元気よく茶碗と汁椀を突き出してくる雛菊さんに、ボソリと駄狐が呟く。うん、俺はもう諦めてるよ。鴉じゃなくて鵞鳥育ててる気分だ、気分はフォアグラ作る人。
「駄狐、お前までその呼び方を」
「待て、俺は心の中でしか言ってないぞ」
「そうですね、失礼しました……あれ?」
「拙者、確かに駄狐と呼ばれるやらかしはしているでござるが……豚菊みたいに肥ってはござらんよ?」
おおう、駄狐が大分強い毒を吐いてる。駄狐、ここに来てから基本見えない所をフォローするスタンスだからかなり助かってるんだよな。多分、護衛としては此方が正解だと思う。
「わ、私は肥ってなどいない! 今日下着を買う際にも腰回りは変わっていなかった! 少し乳と尻に肉がついていたが、それだけだ」
「食事中になんてことを言うんだこの人」
男も俺だけだが居るんだが、そう見られてないのだろうか?
なんだかこういう所が駄狐に心配されたのでは……虎熊領にいた時も変に距離感近くて相手を勘違いさせたとか。
俺はそんな事を考えつつ、小鉢から馬鈴薯を一つつまんで口に運ぶ。舌で押せば簡単に崩れる程に煮込まれた馬鈴薯から醤油と砂糖の味醂を下地とした野菜の甘みを含んだ汁が溢れる。牛蒡も灰汁は強いが、良い出汁となってくれる優良食材だ。煮込んで柔らかくなった他の野菜に反して、しっかりと歯応えを残してくれるので食感に飽きが来ない。
肉は一旦フライパンで表面を焼き、出た脂を捨ててから煮込んでいる為に出汁に余りくどさが無い。豚菊さんが絶賛してくれたので多少は自信を持っていいだろうか。
全員が食事を終え、俺とエテルが食器を片付けた後はお茶を用意してミーティングだ。とはいえ、大した物にはならない。
「という訳で、どうも駄狐と雛菊さんが裏の奴等に狙われているらしい。四葩も気を付けてくれ、此方だと妖怪は珍しい上にお前は美人だからな」
「うむ、気を付けよう」
なんか四葩の顔が赤い気がする、まさか美人と言われて照れたか? いや、何度も言ってるし慣れてるだろ流石に。
「家に居る限りには安全っぽいが、もう少し防備上げるか」
「今でも既に要塞みたいな物だと思いますが」
「実は店側が薄い、余ってる大量のミスリルでシャッターとか作ろうと思う」
「相変わらず、希少性が行方不明だね……」
雛菊さんの質問に返した言葉を聞いて、エテルがぽそりと零す。もうこのパーティでは当たり前になっているが、普通は店のシャッターをミスリルで作るなんて出来ない。出来てもやらないだろう。
そして俺はパーティメンバーに向けて言う。
「俺はこれからシャッターの作製やって、明日の朝設置する。明日も探索には参加は出来ない……ついでに、最近開いてないから店もやるよ」
俺の言葉に了承を伝えてくるパーティメンバー。タチアが帰るのを見届けて、俺は工房に入る。
作るのは縦2.5m横3.5m厚み2mmのシャッターだ。ガイドレールも含めて100kg程用意しよう。昇降用のモーターはダリアの武器に使った小型ハイパワーな物を使用する、ガイドレールとシャッター何方にも術式を刻んでリニアレールみたいな物も考えたが流石に勢いが危険域になりそうなので辞めた。
先ずは加工で削る分も考えて余裕を持った一枚板を作る。長辺4.5m、短辺3.8m、厚み2mmのミスリル板だ。調子に乗って鍛造する、流石に大きさが大きさなのでウォーハンマーを使用した。動力炉に使った分とは別に作っておいた『卵』と『黒鐵』を装備して、プレス機も真っ青な均等さになる様に丁寧に叩く。8回程折り返し、均一な2mm厚で縦4.5m、横3.8mのミスリル板が出来た。コレを10cm幅で凹凸になる様に長辺を切っていく、前世のとは違い『クラフト』スキルで切断する為に火花など散ることも無く綺麗な断面で切れる。
ざっと45枚切り終わり、両縁を加工する。凸を丸め、上下で噛み合うような形にしたら丸めた中に芯を通す。何気にこの芯もミスリル製だったりする。こうして2.7m✕3.8mの蛇腹型のシャッターが出来上がる。底部になる箇所を更に加工し、衝撃を吸収する機構とそれを検知してモーターに停止の信号を送る術式を刻む。
反対に上部になる箇所は上から吊り下げる為の太いシャフトに接続が可能となる様にする。シャッターを正しく下ろせる様にするガイドレールを作製し、シャッターのケースも作製した。
一通り作業が終わり、思い切り伸びをする。時計を見れば、ざっと2時間近く作業をしていた。
流石に汗をかき過ぎて気持ちが悪いので、風呂場へ向かう。広い檜風呂を女子に割り振ったので、狭い今迄の風呂は俺専用になっていからゆっくりと入れる。そう考えてウキウキで脱衣場に入った。
「待ってたよ、タタラ」
ありえない筈の声が聞こえて、固まる。
「……何で居るんだ、エテル。檜風呂は女子に譲るって言ったはずだ」
「でも、此方を使っちゃ駄目って言ってないよね?」
言ってない。確かに言ってないがそんな屁理屈は認めたくない。
「それに、此方の事はトラッちゃんがいい名前付けてくれたんだ」
「へ、へぇ……」
正直聞きたくない。しかし、聞かないという選択肢が無い。
「ここは『夫婦風呂』だって、いい名前だよね♪」
「……ハイ、イイ名前DEATH」
最早、脳が考えるのをやめている。力が抜けてしまった俺の服を慣れた手つきで脱がせていくエテル、互いに一糸まとわぬ姿になってから早速風呂に入る。
正直、朝からバカの剣を打ち直したり動力炉やシャッターを作っていたので疲れている。本当なら即座にベッドへ飛び込んで爆睡したかったが、汗と工房の鉄と火の匂いが身体に付いたままなのは翌朝シーツが悲惨な事になるのでやれない。
なので風呂に入ろうとしたら、今度はエテルが待ち構えていた。何でこんな地獄みたいな流れが出来ているのだろうか?
エテルは俺の身体に密着して、匂いを嗅いで来た。
「うん、1日頑張ったタタラの汗の匂いがすっごい染み付いてる。私がキチンと洗ってあげるね♪」
そう言ってから、愛用のマットを取り出そうとするエテル。
その後ろ姿にムラっと来て、背後からその大きな胸を揉む。
「ひゃん!? た、タタラ?」
戸惑い俺の名前を呼ぶエテル。しかし、俺の頭の中は半ば死んでいた。限界まで疲れた身体は、生命の危機が迫ったかの様に目の前の女体へ種付けして子孫を残せと本能が急かしてくる。
「ごめん、エテル。後で怒ってくれていい……もう、我慢出来ないんだ」
エテルの返事を聞くことも無く、俺は前戯も無しにエテルの膣内へ挿入した。
【裏設定説明天使長】
《システムアナウンス!『天使長』がこの世界の事をお教えします。本日のお便りは此方! ででん♪》
『レベルアップ』
《この世界のレベルアップシステムは、機械神様……と言うよりも神々が創り上げた原初の機械が担う物になります。スキルシステムも同じで、この2つは神々が行った最初にして最後の戦争にて活用されました。機械神様の原型は別の世界から侵略して来た敵対神性に対してこの世界の法則を無理矢理適用させることで此方の神々や人間に倒せる存在へと零落させる事でした。永く長い戦争の果て、神々は敵対神性を見事封印する事が叶いました。……はい、討滅では無く封印です。この世界でも最高戦力に位置する神々ですら敵対神性を滅ぼせませんでした。それ故に神々は自身達が地上の残り、それが封印した敵対神性を刺激して目覚めさせる事を恐れて神界へと昇りました。この時、原初の機械が神格を得たのが機械神様です。長々と語りましたが、レベルアップはこの機械神様が存在する故に起きる現象と言う前提は伝わったと思います。それでは、レベルアップの仕組みについて。この世界における生命は、その活動を終了した際に21gの質量を失います。この21gの質量を持った魔力を魂と定義付け、生命が他の生命を奪った際にその魔力を吸収する事で肉体と言う器を満たして行きます。その魂が一定に達した際に人はその器を得た魔力で拡張して成長する、コレをレベルアップと言います。このレベルアップには上限が設けられていて、コレをレベルキャップと言います。更に、器の成長と言いますがその上昇幅はランダム……その人の才覚によって伸びやすい又は伸びにくいと言う差が生まれます。更に、種族によってその肉体が発揮できるポテンシャルの上限も決まっています……それをある程度越える上で必要になるのが存在昇華、通称『転生』システムになります。今回はレベルアップについての説明なので、『転生』については次回にしますね! それでは、システムウィンドウを閉じますね。またいつか〜♪》
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