既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
「シスター・カレハ……武具の作成依頼、ですか?」
思わず言葉を漏らす。確かに癒しの乙女様の宗派にも教会や神殿が有り、そこにはそれを護る騎士達も居る。このご時世と言うか、この世界は基本的に治安がよろしくない……遍く人々に癒しを謳う乙女様の宗派も前提として優先されるのは自身の身命だ。
自己犠牲は美談では無く、無責任の代名詞。それが乙女様の宗派の根幹だ。生命を賭して救われた者に己の生命を背負わせるな……確かそんな感じの標語だった筈だ。
確かに、他人の生命を背負うのは良いけど自分の生命を背負わせるのは違うよな。
「はい、何やら街に不穏な空気が漂っていますので自衛の為にも一つ持っておくべきかと」
「そう、ですか……」
見習い騎士による火遊びは情報統制が出来ている筈、自警団の人達を見ていれば何となくそこ迄は話が広がっていないのが分かる。
それなのに、シスター・カレハは不穏な空気と言った。
まさか、教会で求められる傷薬から水面下の動きを察したとか?
「えっと、取りあえず素材は何をご希望ですか? 申し訳無いのですが、商会からミスリルとオリハルコンの販売は禁止されてまして……」
「あら、そうなのですか? しかし、販売ではなく作成依頼と言うなら問題ないのではと思いますが」
確かに、作成依頼なら問題は無い。その代わりとして素材の持ち込みが必須になる……元から素材を持っていたりするのなら話は別だが。
「分かりました、お受けします。しかし、作成依頼となると素材の持ち込みが必要になります」
「ええ、承知しています。なので、此方を溶かして作り直して頂ければと」
そう言ってシスター・カレハがインベントリから取り出したのは、ボロボロな盾と巨大な金属塊だった。いや、武器と言うにはあまりにも飾り気無く整えられた様子の無い物で金属塊と言うしか表現が思い付かない……コレで相手をぶん殴ってたのかシスター・カレハ。
「……コレを使えるように調整した方が良いのでは?」
「若気の至りなので、心機一転といきたいのです。タタラさんの腕前も風の噂で伺っていますよ、奇想天外な物を作るのだとか。それならば、過去の清算とまでは言いませんが気分転換に作り直して貰った方がいいかなと」
まぁ、作成依頼だし作り直しなら受け入れるが。しかし、どうするかな。今日は家に俺一人で店から離れてシスター・カレハの現時点での動きが見れない、そうすると最適な物を作り上げられないのだ。
「申し訳有りません、シスター・カレハ。依頼はお受けしますがすぐに作成は」
「あら、お忙しかったかしら?」
「生憎、今日は家に俺一人なのでシスター・カレハの現時点での動きを見る事が出来ません。それではシスター・カレハに相応しい武器を仕立て上げられないので、明日もう一度店に来て貰えますか?」
「成る程、それでしたら明日もう一度お伺いしますね。何時頃伺えばよろしいかしら?」
「何時でも大丈夫ですよ、明日は1日作成の為の時間に当てますので」
「それはありがたいですね」
「店は開けないので、家の方へ来て呼鈴を鳴らして下さい」
「分かりました、それでは明日よろしくお願いしますね」
そうして、明日の昼前に来ると約束してシスター・カレハは帰って行った。武器の方は俺が預かる形になり、後程傷でどんな戦い方をしてきたか確認するつもりだ。
そして、シスター・カレハが帰ってから少ししてドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ……って」
「オッス、依頼に来たぜタタラ」
来店したのはある意味見慣れた幼馴染の面、バカが入店してきた。
「依頼って、また剣ぶっ壊したのか?」
「んな訳あるか、今回は製作依頼だよ」
そう言ってカウンターに近付くと、鉄のインゴット3つと小振りな魔石を3つ置くバカ。
「……篭手と胸鎧か?」
「お、よく分かったな」
今日は武具に縁がある日だな、まぁコレくらいの方がクラフターとしてやる気が出る。
「篭手のタイプは五指が別れてる指先から肘迄のタイプでいいとして、胸鎧は上半身覆うタイプと心臓を重点的に護るタイプのどっちにする?」
「心臓護る方で頼む、正直に言うと軽鎧でも身に着けると重く感じてな」
「分かった……正直、そっちの方が調整楽だから助かるわ」
「お前なら5分と掛からず直しそうだけどな」
「相手を理解してるなら1分で終わるが、お前の身体の事は詳しく知らんから3分だ」
「予想より早かった」
予想とか言ってるが顔に『知ってた』って書いてあるぞコノヤロウ。取りあえず、成金さんと同じように一通り篭手と胸甲を渡して身体に合う物を探す。参考資料の有無は完成迄の時間に影響するしな。
「それとさ、コートみたいな物は無いか?」
篭手の様子を見終わった辺りで、バカがそんな事を聞いてきた。
「コートって、服なら服屋に行っとけよ。俺の店より良いのが有るぞ」
「いや、モンスターの素材を使用した感じの防具として一定の性能を持つヤツだ」
バカからの要望に少し考え込む、駆け出しと言うか学生……更に言えば苦学生に位置するコイツが求める物は有るには有る。上層の『ジャイアントバット』から採れる翼膜を鞣して作る物で、物理防御力は+5といった感じのアクセリーに分類される装備だ。
ただ、雑魚とは言えモンスターの素材なのでコレでも万を越える値段がする。必要な数を揃えるのも何気に面倒で、最低でも10枚の翼膜が必要になる、その上で製作費は魔鉄を越える4万とかのボッタクリ価格だ。
「お前がそんな『有ったら助かるが、無くても困らない装備』を欲しがるなんて何が有ったんだ?」
「いや、その……俺達もあと何ヶ月かしたら卒業だろ? なら、卒業後に有名になる為の記号っていうかトレードマークみたいなのが欲しくてさ」
「……なるほどね」
おっちゃんの『黒い装備』みたいなもんかな、そんな記号も無いのに最強と実力だけで名を馳せるカラムスさんとかいうバケモノもこの都市には居るけどな。あの人、聖人専用とかじゃなくて一般的な軍神宗派の鎧しか着用してないのに一目で分かるヤバさしてるけど。
それはそれとして、コイツの悩みは一人の探索者としては間違ってはいない。イメージ戦略としてそういった装備を求めるのは理に適う、指名をされる時に一目で分かる特徴を掲げているのは周囲の覚えもいい。
「……お前、今回の装備の予算は?」
「え、あ……魔鉄の装備で六万とマントが三万くらいで考えてたけど」
「モンスター素材は高いから全く足りんぞ……仕方ない、裏技使うか」
「え、なんだそれ?」
下手したら商会から睨まれる可能性が有るのだが、幼馴染の為に何かしてやりたいのが心情だ。それに、コイツが有名になれば店の宣伝とはならずとも魔鉄の有用性は広がるだろう。そうなれば、作れるシャムスとエストの価値も上がる。
「胸鎧とマントってかコートを一つの装備として使う」
「え、そんな事出来んのか!?」
「だから裏技だよ、コレで加工料減らしても意外に文句言われないんだぞ?」
「マジか……」
「まぁ、『ジャイアントバット』の素材を使うからってのも有るけどな。他の、例えばドラゴンの鱗とかだと指数関数的に価格が増大する」
「それは当たり前だろ」
魔法金属以上の性能と価格を持つのがドラゴン素材だ、自然と高価になるのも当然と言えば当然。しかし、今回は『ジャイアントバット』の素材でありコレは希少性と言う点でドラゴンとは比べ物にならない程低い。なので、オプション加工の一環としてゴリ押せる。
「その代わり、胸鎧のリクエストは聞けなくなった」
「それはどういう……」
「コートの下が心臓だけ護るデザインだと文句出るんだよ、手抜きだってな」
「意味分からんぞそれ…」
実際、店を始めたばかりの頃はそれで文句言われた事が有る。
曰く『魔物素材の防御力頼みで鉄をくすねた』だそうだ。要らねぇよテメェの手垢が付いた純度の低い鉄なんぞよ。
その後、商会に召喚され一部のクラフターを前に俺が何を作ったのか説明したらまぁ酷い事酷い事。俺の技術と工夫が理解出来ないんだそうで荒れに荒れた。ただの鍛造ってだけなのにな。
最終的に都市長が出て来て俺のやった事を解説して、いちゃもんでしか無い上に名誉毀損との事でその製作依頼者はそこそこの罰を受けたそうな。詳しくは知らんし興味ない。俺の技術を理解出来なかったクラフターは何件か店が潰れたって噂は聞いた、何で鉄の鍛造程度が理解出来ない奴等が集まっていたのかも不明。
少なくとも、魔鉄の見学に来ていた面子は理解してたから一般的な技法の筈なのだがな。
それから俺は、少なくともこの形状で作る際は胸を完全に覆うタイプで鎧を統一している。
「取りあえず、作成したデザインは一任させて貰うからな」
「それはいいんだが……幾ら掛かるんだコレ?」
「鎧だけで九万だな」
「うげ、一気に上がってる……」
「一応聞くが、『ジャイアントバット』の翼膜とか持ってるか?」
「持ってねぇ……」
「その分の上乗せだ、諦めろ」
コレでも製作費は魔鉄基準にしてるから大分安くはなっている、本来なら集めさせて来るのだが生憎と空を飛べない上に魔法を覚えて無いコイツは空中の敵に対して無力に近い。
翼膜の在庫はアホ程有るので今回はオプションとして計上しているが、純粋に作ろうとすると素材を別として4万の製作費だ。俺の店でマントを買うだけでも八万、それを鎧と素材込みで九万は大分良心的なレベルだと思う。
「トホホ、コレなら武器込みで魔鉄一式揃えた方が良かったぜ……」
「別に切り替えてもいいが」
「そんな訳にいくか……俺はまだあの二本を使いこなせても無いしな」
前に見た限りだと、コイツの腕で使いこなせてないって事は先ず無い。正直、俺が知る中でコイツの腕に並べる奴はそこ迄多くない。明確に上回っていると思えるのはカラムスさんとおっちゃんにダルマさん、そして護衛の二人くらいしか言えない。パーティでは四葩が何とか並ぶくらいで、他は技量で全員負けている。
同年代でも別格、それがコイツの評価だ。
「なら、今日の夜には作っとくから明日の朝に受け取りに来い。調整はそこで済ます」
「明日も店をやるのか?」
「いや、とある人の武器を作る為に1日使うつもりだ。タイミング如何ではお前の鎧の調整もそこでやれるがどうする?」
俺の言葉にバカは少し考えて、頷く。
「分かった、何時も店を始めてるくらいの時間に俺も顔出しする。家の方へ行けばいいか?」
「ああ、呼鈴鳴らしてくれれば対応するから着いたら呼んでくれ」
「おう、じゃあ取りあえず今回の依頼料を渡しとくわ」
そう言って料金12万を渡してくるバカから、確りと金を受け取る。さて、一切の手抜き無く作らないとな。
「この後はダンジョンに潜るのか?」
「ああ、予想外の出費だったが補填しとかないと」
「なら、明日はサービスで武器見てやるから暴れて来い」
俺の言葉に苦笑いをしつつ、バカは退店していった。
預けられた信用に応える為、頭の中でバカの装備を構築していく。彼奴の名前らしい燃える様な赤をトレードマークに入れようと考えつつ、次に来店する客を待つ。
バカの後は特に何か特殊な客が来ることも無く、売り上げは270万程だった。やはりオリーブさんが買っていった『死霊王の衣』が良い売り上げになったな、量産は中々出来ないが店頭に並べるだけでも視覚効果が有るだろうしまた作っておきたいな。
店を閉めてもまだ帰らないエテル達の為に、夕食の用意をする。自動炊飯機能を搭載した魔導炊飯釜に磨いだ米を入れ、3時間後に炊き上がるように設定する。食材を確認すると主菜に出来そうな物が足りてない、ひとっ走り豚肉と生姜を買って来て今日は生姜焼きにしようと決める。
施錠を確認してから商店区へ向かう、精肉店で豚の肩ロースと鶏肉を3kg買いそのまま八百屋で生姜と玉ねぎにキャベツを買う。サラダとは言わないがキャベツの千切りは必要だろう。
家に帰ったがまだエテル達は帰っていない、取りあえず簡単に仕込みを開始する。
豚肉を一人辺り200gとして切り分け、焼いた際に丸まらないように筋切りしつつ表面に軽く包丁を入れる。バットの中に肉を敷き、醤油とみりんそして料理酒を2対2対1の割合で入れ摩り下ろした生姜とりんごを混ぜたタレを注ぐ。バットの表面に蓋をして冷凍庫へ入れ、冷浸透で味を染み込ませる。本来なら前日から仕込みをしたかったが、レシピは基本的に思い付きだ。
玉ねぎとキャベツをスライスし、キャベツはボールに入れて水にさらす。本来は旨味が逃げてしまうのだが、駄狐は青臭い物が苦手なのでこうして抜いておく。二度程水を入れ替えて瑞々しさは残すようにする。玉ねぎも器に入れて冷蔵庫だ、皆が帰ってきたら焼き始めるのでそれまではこのままだ。
味噌汁は出汁を煮干しと鰹節で取る、虎熊家から送られてきた食材の中にはワカメも入っていたので使おうかと思ったが分解酵素ってどうなのだろうか? いや、ワカメでサラダを作るわけでも無いから大丈夫……だと思いたい。確か熱を加えたら海藻の繊維質も破壊されて食べられる筈だし、最悪そのまま体外に出るだけなので問題は無いだろう。味噌は赤と白を三対一の割合で合わせる、鰹節と煮干しで大分魚臭さが出ているが濃い味の味噌で飲みやすくなる。個人的には鰹節と煮干しの魚臭さは好きだが、全員の好みを把握し切れてないのだから、癖は控え目にすべきだろう……赤味噌も大分癖が有るかも知れないが。
味噌汁が出来上がり、米が炊けた後に生姜焼きを焼けば十分と言った所まで調理をしたがまだエテル達は帰ってこない。少し心配になるが、唐突に欠伸が出て来た。今日は少し早めに起きたし、色々と作業もしたので身体が休息を欲しているらしい。自室に戻るより、ソファで軽く寝る方が楽だと思ってソファに寝転がる。ブランケットをインベントリから取り出して身体に掛けた直後に欠伸が再び漏れる、急激に襲い来る眠気に負けてそのまま目を閉じた。
ふと、何かが唇に触れる感触がして目が覚めた。ゆっくりと目を開けば、霞む視界の先に金色が見えた。いや、金色では無く深い茶色の髪が光の反射でそう見えただけだった。
俺を優しい目で見下ろす金色の瞳、頭頂から伸びた一対の耳の持ち主。
「……一華? おかえり」
「……ただいまでござるよ、ご主人。こんな所で寝るとは余程お疲れでござったか?」
身体を起こそうとしたが、上手く力が入らない。不安定な所で寝たせいで上手く身体が休まらなかったか?
「少し、そのまま横になっているでござるよ」
「いや、夕飯……」
「冷凍庫の中に仕込んで有った生姜焼きを見付けたでござる、拙者が調理するゆえにここでもう少し休むでござる」
そう言って、立ち上がって台所へ向かって行く駄狐。入れ替わるように此方へ近付いてくる白い影。
「よう寝とったの、タタラ」
「おう、四葩もお帰り」
「ただいまなのじゃ、お主がこんな所で寝る姿が珍しくて驚いたぞ?」
そう言って誂ってくる四葩だが、その手がそっと俺の額に添えられる。疲れから熱でも出てないかと触診しているのだろう、俺はそっと手を伸ばして四葩の頬に手を当てる。運動で体温が上がっているのか、少し熱い。
「なんじゃ、妾はエテルでは無いぞ?」
「エテルだけにやってる訳じゃねぇっての」
「それはそれでどうなのじゃ?」
俺の言葉に呆れた風に返してくる四葩だが、俺の手に自らの手を添えてより強く頬へ触れさせて来る。何となく、俺が風邪でも引いたら安心させる為に同じような事をしそうだな。
「……良かった、無事みたいで」
「今迄の階層でお主が恐れる様な状況になるか?」
「『リッチ』みたいな即死持ちに挑んでたらって不安も有る」
「心配し過ぎじゃが……一人はやはり寂しいか、タタラ?」
四葩は俺の両親が死んだ時の状況を思い出したのだろう。
俺はあの日、両親をいつも通り見送って一人で留守番をしていたら訃報をおっちゃんに届けられた。ずっと残り続ける俺の心の傷、エテルが寂しん坊と言ってくる原因がコレだろう。
「一華か雛菊を残す方がよいかの?」
「お前の護衛なんだからお前の側に置いてやれよ」
「少なくとも一華は妾よりお主を護ると思うぞ、タタラは妾よりも弱い。何より、あの一華の心を射止めておるしの」
よくわからない、俺は彼奴を結構ぞんざいに扱っている筈だ。確かに彼奴がこの生活を泡沫の夢と思っているなら、覚めるまでその夢を見続けろとは言ったが。
「一華はの、妾達の國には居場所も未練も無いのじゃ。タタラの側なら居ても大丈夫じゃと思ったのだろうて」
「……俺にはエテルが居るんだが」
「妾と言う例外も居るのにか?」
その言葉に黙らざるを得なくなる。今更二人三人と増やしても、等と言われるかも知れないが俺の根幹に有るのは一夫一妻の考えだ。四葩もエテルを認めてくれたから、側に居て欲しいと頼んだのだし。
「ま、ゆっくりと向き合うがいいのじゃ。少なくとも、エテルは一華を認めて居るようじゃしの」
「……は?」
前は時間が足りなくて認めてないって言ってたぞ、エテル。
「ほれ、そろそろ身体も起きたじゃろ? 夕餉の支度もそろそろ終わる、食卓へ向うのじゃ」
「あ、ああ……分かった」
いまいち納得し切れない感情を胸に、身を起こす。取り敢えず飯にして、明日の予定を伝えよう。
「コレがショウガヤキ……ポークジンジャーとちょっと違うんだ?」
「ベースは四葩の國から送ってもらった醤油とみりんに料理酒を使ってるからな、旨味の方向性が違うぞ」
「確かに、バルサミコ酢に比べてもう少し味が淡泊に感じますな」
エテルの質問に答えた後、タチアも味わって感想を伝えて来る。今日も2人は平皿のライスと格闘しながら、生姜焼きを切り分けて食べている。
「甘辛いって言うのかな、少し不思議な味」
「昨日のブリテリと似ていますが、生姜の味がアクセントになっていて良いですね」
口々に感想を言いながらも食べる手が止まっていない2人、良かったコレは当たりか。
「ふむ、此方の味付けに近いがきちんと妾達の國の味じゃの」
「コレは大変旨いですね。豚肉の脂を上手く醤油とみりんの味に馴染ませています、肉質も柔らかくどこか果物の甘さを感じます……コレは林檎? 玉ねぎも絡めて焼いた為でしょう、みりんや果物以外に野菜の甘味もたされて醤油の濃い味わいを適度に中和して素材の味わいを持たせている……見事なお点前ですタタラ殿」
「焼いたのは拙者でござるよ、雛菊」
「ふ、味付けはタタラ殿であろう? ならば、私が褒める先はタタラ殿で間違いない」
感心したような四葩に、変わらぬ食レポを披露する雛菊さんと焼いた本人である駄狐。
「マスター、このキャベツ青臭さを感じないのですが」
「ああ、切ってから水にさらしたからな。旨味も逃げちまうが此方の方が食べやすいだろう?」
「成る程、青臭い野菜が苦手な誰かの為の工夫ですか。やはり胸ですか、おっぱい聖人マスター」
「おっぱい聖人を極めたみたいになってるからそれは辞めろ」
ダリアが俺に質問してきたから答えたら、ヒデェ言われ方したんだが。話題が聞こえて来たのか駄狐の耳が此方に向いているのが見えた、気にすんなよ頼むから。
「そう言えばタタラ殿、最近探索に参加していませんが大丈夫てすか?」
「正直、自身のスキルアップが出来てないのが痛いがやる事が色々とな。明日も探索は参加出来ないし」
俺の不参加を心配したタチアから聞かれたが、明日も参加出来ない旨を伝える。
「む、明日もか? 最近、タタラが参加する事のほうが稀じゃの」
「まぁ、な。クラフターとしての依頼とか色々有るからな」
シスター・カレハとバカの為の装備を作らなきゃならなくなったのは今日店を開いたからだが、もう3週間程で発生するであろう見習い騎士達のクーデターを考えるとこのタイミングで依頼を受けれたのは良かったのかも知れない。特にシスター・カレハ、預かった装備を改めて確認したが最悪コレで戦ってたのかと考えると背筋が寒くなる。特に盾は外見では分からなかったが内部にダメージが蓄積されていて、下手したら一撃で砕けていた可能性が見えた。
「明日は何をするのですか、マスター」
「明日は近くに在る教会のシスターから頼まれた盾とメイスの製作と、幼馴染の鎧と篭手の調整だな」
「では、明日は私も残ります」
「……魔導系統とは限らんぞ?」
「それはあり得ません、近所のシスターと言えば癒しの乙女教会に住む老女か低身長巨乳メガネドジっ娘の何方かになります。巨乳死すべし慈悲は有りません」
「何でその手の情報集めてんだお前……」
つか、低身長巨乳メガネまでは分かるがドジっ娘って情報は直接見ないと分からんと思うが。
「マスターが学園に通っている間、周囲の散策をして色々見ています。結果、周辺に在る教会は癒しの乙女教会1軒のみ。そこに住む相手で明確な脅威となる対象の情報を得るのは普通です」
「……脅威度の採点基準は?」
「マスターが大好きなおっぱいの大きさです!」
「黙れやポンコツ」
確かにおっぱい聖人なのは否定しないがな、それで周辺に住む人達を狙うと思うな。最早説得力が無い気もするが、俺はエテル一筋なんだが。
「それで、何方からの依頼でござるか?」
「老シスターの方だよ、昔から世話になってて依頼が来たら無償で受けるって前から決めてる」
「まさか本当に熟女も対象でござるか……」
「都市長とのやり取りを今ここで引っ張ってくんな」
「タタラ、流石にお母さんに手は……」
「四葩、流石にそれは無い。お前に似ててもお前じゃないならそんな感情は抱かない」
俺の言葉に、何処か嬉しそうな雰囲気を出す四葩。今のも口説く内に入るんだろうか……入るんだろうな。
「タタラ、そのシスターさんってどんな人なの?」
「少なくとも俺がガキの頃から教会でシスターやってる人、俺の両親が探索で重症負った時に癒薬を施してくれてからの付き合いなんだ」
「……付き合い長いね?」
「父さんと母さんが死んでからは料理教えてくれたり、少し面倒見てくれた事もある。都市長と並んで母親みたいな人だよ」
「そう、なんだ……」
エテルからの質問に答えると、何か考え込んだ。少し悩んだ後、エテルが口を開く。
「うん、明日は私も家に残るよ。そのシスターさんとも話してみたい」
そんな事を言い出した、コレは何を考えたんだろうか?
「妾達は明日も探索に往くぞ、タチアはどうじゃ?」
「私も探索に行きますよ、ヨヒラ殿」
「自然と拙者と雛菊も探索組に組み込まれてるでござる」
「四葩お嬢様の護衛なのだ、当然だろう」
そうやって明日の予定を決めてから解散となった、タチアは明日の朝四葩達を迎えに来るとの事だ。
俺は一人工房に入り、シスター・カレハから預かった盾と金属塊を『鑑定』する。
盾『ベネディクトス』
物理防御力+25
魔法防御力+25
特殊能力『対魔力結界』
鉄槌『神鉄鎚』
物理攻撃力+45
速力 −15
盾に固有の名前が付いてるのも驚きだが、金属塊に仰々しい名前が付いていた。神鉄ってなんだ、コレは手を出して良いものなのか?
更に両方を詳しく確認すると、ベネディクトスはミスリルとオリハルコンの合金で神鉄鎚は特大のアダマンタイトに申し訳程度のミスリルとオリハルコンが混ざった物だった。大丈夫かコレ、溶かして作り直すって罰当たったりしないか?
戦々恐々としながらも、最低限表面の血錆やらを落としていく。もっとも、錆びてるのはこびりついていた血痕程度で布巾で拭うと盾は元の輝きを取り戻した。
ここ迄来るとシスター・カレハの筋力とスタミナが問題になる。カイトシールドと依頼されたが、ベネディクトスを作り直すとなると正直重量がネックになる……場合によってはバックラーが最上ではと思っている。
構想を練っていたダリア用の防御兵装として考えていた魔導盾の設計図を取り出した、結局ダリアの言う通り魔導具になってしまう可能性が出たな。
着想は『天使長』の為に作った剣と、それに付き従う12本の剣。基点となる一つの盾と、使用者の意思に従って稼働する浮遊盾。オリハルコンが有るなら思考操作は容易になる、コレならシスター・カレハの筋力が落ちていても問題ないだろう。更に、子機に値する盾の間に結界を張れるようにすれば当人の意思により広域を護る事も出来る……多分この機能が必要になる気がする。
初期の設計では基点の大盾に子機になる六枚の盾を想定していたが、素材から考えて大盾一枚に子機三枚辺りが妥当になるだろう。基点を小型化して、子機を六枚にする事も視野に入れてそちらの設計図も用意する。
メイスはなんというか、メイスそのままにするのは間違っている気がする。何となく、シスター・カレハはメイスよりも剣を振るっているイメージが有るのだ。両方の側面を持つソードメイス的な物を作る方が正解かも知れない。コレは明日、シスター・カレハが来たら確認してみよう。
続いての作業はバカの鎧と篭手の作成だ。昼間来店した時に選ばせた篭手と胸甲のサイズを参照して、早速作り始める。
先に用意するのは腕甲だが、盾を使わないスタイルの彼奴の為に預かったインゴット2つを魔鉄化する。魔力の通りは悪くなるが、ミスリルの鍛造で馴れてきた俺は針の穴を通すように路へ魔力を流して形質を変える。2個のインゴットを重ね、折り曲げ叩き常と同じ鍛造を開始。手早く20回折り曲げて、約210万層に及ぶ金属層を作り出してクラフトで均等に切って半分にする。細かくパーツ別に更に切って行き、一つ一つを形成する。
出来上がったのは魔鉄特有の黒に青い光を反射する指先から肘迄を覆う篭手だ。内には鞣し革を張って、衝撃を吸収するようにしている。細かい調整は明日バカに身に着けて貰いながらになるが、形は出来ているからそれこそ三分で終わるだろう。
続いて鎧の作成だ。魔鉄化からの鍛造で薄く伸ばして行く。21回の折り曲げで篭手と同じ約210万層の金属層を作り、鎧に使えるように加工する。曲面で形成し、胸から上だけを覆う形状を作り上げる。続いてマントコートの作成だ。10枚の『ジャイアントバットの翼膜』を錬金術で一つに合成し、丁寧に鞣していく。一枚の大きな鞣し革になった翼膜を染色する、片面を紅と黒で染めて裁断する。マントになるように肩と背中を覆うパーツと、胸甲の脇から下に流すパーツに分ける。肩から肘近くまでと、背中は腰の辺りまで覆う。表は紅、裏は黒でコレなら目立つだろう。今はまだ鮮やかだが、使い込めば落ち着いた色味になる……その時には新人から歴戦と印象が変わるはずだ。
「……永く、彼奴を守ってくれよ」
出来たばかりの鎧と籠手に、俺はそんな声を掛ける。
本人に直接言う事は恥ずかしくて、生涯無いと思うから作った武具にそんな本音を零すだけだ。男同士なんて、こんなで良いと思ってる。
工房での作業を終えて、報告書を送ろうとして鳥型ゴーレムを探すが中々見付からない。
何処に居るのかと探したら、庭先になんと『天使長』が居てその差し出した指に鳥型ゴーレムが止まっていた。
《あ、タタラさん!》
俺を見てパッと顔を明るくさせた『天使長』だったが、鳥型ゴーレムは俺を見て一目散に逃げようとする。
「逃がすか!」
俺は思わずその脚を掴むために走り出し、宙に上がった瞬間を逃さないように跳ぶ。ギリギリの所で鳥型ゴーレムの脚を掴むが、バランスを崩してそのまま倒れ込む。俺を支えようとした『天使長』も巻き込み、地面に転がった。何とか身を起こし鳥型ゴーレムの脚に報告書を括り受け、送り出す。
《あ、あの……タタラさん》
「へ?」
何とか報告書を送れた事から安堵の息を吐いたタイミングで、『天使長』から声を掛けられる。視線を向ければ、俺の下に『天使長』が顔を赤らめて此方を見ていた。
ヤバい、殺される。
頭から一気に血が下りて、気絶しそうになる中何とか身体を離す。『天使長』は真っ赤になりながら身体を抱いている……まさか、会社の看板娘を押し倒すとか俺はここで死ぬかも知れない。
魔導盾『カラガナ』
基点となる一つの盾と、その盾を中心に展開する複数の子機に当たる小盾にて構成された魔導盾。小盾そのものには防御力はそこ迄無いが、小盾の間に結界を張る事で強い対魔法効果を発揮する。持ち主の魔力や技量によりその展開出来る範囲と強度が変わる為、持ち主の技量が直結する特殊なタイプの魔導具である。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン