既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中
番外編アンケートの年増と同い年は、全員が若い頃のお話になります。
新型魔導鎧のテストとして『ジャイアントバット』と『ゴブリンコマンダー』で砲撃2種の試験は無事に終わったと判断して、実稼働試験はもう少し下で行う旨を伝えた。ダリアはやや不満そうではあったが、真面目に稼働状態を見るなら『ゴブリン』ではなく『オーク』や『オーガ』を対象として見るべきだろう。はっきり言って、物理攻撃力の補正はウォーハンマーが比較にならない程に高いのだこの鎧は。単純に殴り合うだけでも『ゴブリンロード』相手だろうと余裕で勝てる、速力もそうだが単純な防御力で『ロード』の攻撃を通さないのでまず死なない。此方の攻撃は相手の防御を余裕で上回るので一方的に倒せるのだ。
そして、俺が試験相手として求めた敵は11階層で相対した。
両手にそれぞれ構えたフランベルジュを俺に振るってくる『オークスレイヤー』の攻撃を見極めて回避行動を取る。
武器命中20+速力20+『突進』10=50−速力138、判定−88。回避成功。
武器命中20+速力20+『突進』10=50−速力138、判定−88。回避成功。
2連続で振るわれるフランベルジュを余裕を持って、と言うか想定以上に余裕で回避した。反撃行動でも問題無かった可能性が高かったなと思いつつ、今度は此方から攻撃を行う。
武器命中0+速力69+【騙し討ち】15=84−速力40=44。命中判定。
物理攻撃74−物理防御1=73。
魔法攻撃42/【騙し討ち】2=21−1=20。
魔法攻撃50−魔法防御1=49。
『スレイヤー』の頬に直撃した拳から最大威力の『魔導砲撃』を射出する。追撃のつもりがオーバーキルになって、『スレイヤー』の頭は文字通り消し飛んだ。『騙し討ち』使用の時点で魔法攻撃が半分乗るのを忘れていたな。
「マスター、今の攻撃方法は何でしょうか!?」
「いや、思い付きで拳が当たるのに合わせて魔導砲撃使っただけだ。特殊な使用方法とか無いから詰め寄らないでくれ怖いから」
ダリアがリードを持った飼い主に詰め寄る犬みたいな勢いでグイグイ来る、怖い。
「『騎士剣術』のバーストエッジに似ているな、さしずめバーストナックルと言った所だろうか?」
「なんかそう言われたらそんな術式を組んだ方が良い気がしてきた、自力で出来るなら問題無いがそうでない人の為に補助用の術式組もうかな……」
でも、こう言った仕様外のパイロットスキルを技にする方が浪漫が有るんだよな……命は浪漫より重いから一応組んでおくが。
取り敢えずそんな感じで『魔導砲撃』を組み合わせた戦闘方法を試して行く、皆には少し無理を言って『スレイヤー』とのタイマンの状況を作って貰って一撃で倒せるように出力調整を感得していく。
「……ところでタタラ、気になったのじゃが」
「おう、どうした?」
「何故無手で殴り掛かっておるのじゃお主は?」
「いや、ウォーハンマーじゃなくて『玄武』の性能実験だからだけど」
何と言うか、『玄武』の試験をしたいのに武器を使うのは間違ってると思ったのでこんな事をしている。自身の本来の運用と変えてどうするんだと言われたら言い返せる気がしないが。
ついでに、魔力を使用する事で『魔法攻撃上昇』と『魔力上昇』のスキルを刺激出来るので、僅かでも強くなりたいが故の挙動だったりもする。意地があるんだよ、男の子には。
「地味に妾の攻撃力に近そうじゃの?」
「鎧の物理攻撃補正は30だから無手の状態だと74だな、まだまだ足りないぞ」
「それでも、人の身なればほぼ最高域だと思うのじゃが」
「まぁ、一般的な人間種の限界値は100だしな」
改めて考えると、タチアの初期レベルで物理防御40越えと魔法防御60越えは本当に異常と言える。例え1レベルにつき1しかステータスが上がらないとしても、レベル50に至れば物理防御90越えの魔法防御が限界値の100を叩いている。尤も、コレはタチアが人間種と同じ限界値である仮定の上での想定だ。タチアには天使族の血が流れているので、限界値が高い可能性も有る。その場合、転生前にステップアイテムでドーピングしてやる必要が有る。レベルの上限を上げる代わりにステータスが最終状態の2割に落ちるのは元が強ければ強い程キツイだろう、それでも地母神シリーズでかなりステータスが上がってる分マシだが。
そんな会話をしつつ、俺は鎧の調整をしつつ探索を続ける。途中途中で出会う『スレイヤー』とタイマンを張り、より効率的に打倒出来る様にする。出力調整の結果、鎧の速力補正が更に強力になった。今では『スレイヤー』に対して『騙し討ち』無しで直撃を取れるようになっている。
そうやって少しずつ強くなり、16階層に辿り着く。此処でも俺は無理を言って『オーガグラップル』とタイマンを張らせて貰う。一匹で悠々と歩いている『グラップル』の前に立ち、静かに構えを取る。『グラップル』も笑い構えを取り、何方からともなく駆け出した。
先に仕掛けて来たのは『グラップル』からだ、互いの距離が0になるタイミングで拳を突き出せるように踏み込み腰を捻る。
武器命中0+速力40−速力75=-35。回避判定。
迫る『グラップル』の拳を手で逸らし、そのまま反撃に移る。
武器命中0+速力75−速力40=35。命中判定。
バランスを崩し、反撃も回避も間に合わない『グラップル』に対して右の拳を振り抜く。既に魔力の充填も終わっている。
物理攻撃75−物理防御21=54。
魔法攻撃50−魔法防御15=35。
相手の頬に突き刺さった渾身の右拳と、そこから放たれた『魔導砲撃』により『グラップル』の頭が盛大にブレる。首の曲がり具合から、頚椎が折れている可能性は有るが『オーガ』がその程度で死ぬはずが無い。右腕を引きつつその勢いを利用した左拳を『グラップル』の心臓の位置へ向けて突き刺す。
武器命中0+速力75−速力40=35。命中判定。
脳を揺らされてスタンしたのか、回避をする様子もなく俺の左拳を胸部に受ける『グラップル』へ更に『魔導砲撃』を叩き込む。
物理攻撃75−物理防御21=54。
魔法攻撃50−魔法防御15=35。
胸に大穴を空け、更に心臓へ直接魔力を叩き込まれた『グラップル』のスタンは続いているらしく、そのまま左手を動かして魔石を掴み引き抜いた。直後、最後の抵抗も無く『グラップル』は塵へと変わり消滅した。エテルと魔力を共有しているからこその『魔導砲撃』2連射という荒業でゴリ押ししたが、そうでも無ければ俺1人での『グラップル』撃破など不可能だった。やっぱり、あのバカは凄いな。
「タタラ、そろそろお主の我儘も止め時じゃ。一戦で2度もばぁすとなっこうとやらを使わねばならないのは見過ごせん」
「……そう、だな」
四葩に注意され、渋々ながら俺も納得する。俺自身のスキル強化も含めて行動していたが、それは俺自身の都合でしか無い。皆の好意に甘えてばかりも居られないので、コレからは何時も通りの探索に切り替えよう。
「皆、付き合って貰って悪いな。此処からは何時も通りに進もう」
「タタラ殿の焦る気持ちも分かるさ、私とて最初は同じようにやらせて貰ったのだからな」
謝ると、タチアが気にするなと声を掛けてくれる。思えば、人を人と思えなかったと明かしてくれたタチアも随分人間らしさを持ってくれた。良い仲間に恵まれたな俺は。
隊列をエテルを先頭にした従来の物に変え、探索を再開する。やはりパーティで戦うのはとてもやりやすく、出会う『グラップル』を手軽に撃破していく。中型の魔石を抜き取り稼いで20階層まで降りて、『ハイオーガ』を危なげなく撃破する。
出現率の上がった『ムゥ
敵が『ゴーレム』に変わってからは24階層迄の鬱憤を全て叩き付け、尽く破壊する。ボスの『オリハルコンゴーレム』に対しては以前と同じく開幕からエテルの狙撃で頭を消し飛ばし、簡単に倒し過ぎててコイツが全ボス内でもダントツに高い防御力と体力を誇る事を忘れそうだ。
31階層からダリアが『リッチ』狩りを行い、タチアのスキルがレベルアップしたのかドロップする魔石が全て特大になり俺とダリアが狂喜乱舞してエテルと四葩に止められた。
地上に戻るとまだ外は明るく、時間には余裕が有る。
「そうだ、ダリアの普段着買わないと」
「既に買って貰いましたが」
「お洒落着じゃなくて普段着、もっとラフな服装だよ」
俺の言葉に訝しむダリア、納得してねぇな。
「今のロングコートとか、完成した魔導鎧とかじゃなくて普段買い物に出た時に着るような服が必要だろう。初めは家からダンジョンに向かう服も無かったんだし」
「私は困りませんが?」
「……エテルの古い防具使うか?」
「さぁ! 早く店へ向かいましょう、お買い物楽しみぃ!!」
「……必死じゃのう」
試しに着た時の事は半ばトラウマだろうしな。
「そうだ、四葩も要るか?」
「む、妾もか? いや、確かに異文化交流というなら着るべきじゃのう」
四葩はこの前実家と繋がった時に着物や浴衣を何着か送って貰っているが、『ワールウィンド』ではとても目立つ。気軽に出掛ける為の服も欲しいだろう……1人だと迷子になりそうだが。
そんなやり取りをして、以前駄狐と雛菊さんの普段着を買った店に入る。此処の店は安いが頑丈で、着心地も悪く無い素材を選んでいるから重宝する。偶に、雛菊さんが選んだようなネタシャツも有るがいい店である。……そういえば、雛菊さんがあのシャツを買おうとした際に店員さんも『正気か?』みたいな顔をしてたな。感性は普通なのにネタに走らないとダメな持病が有るのだろうか。
「マスター、コレがいいです」
と、入って真っ先にダリアが向かって行き一着の服を指差した。その先に有るのはゴシックロリィタ風のエプロンドレス……ぶっちゃけて言うならメイド服だった。何故こんなの有るの?
店員さんに目を向けると『コイツ、マジか』みたいな表情である。売れる気がしないなら何故作って置いておいた?
「いや、マジでコレなのか?」
「はい、何故か私はコレを着るべきであると。私の中の機械神様が囁くのです」
「本当に機械神様か? ゴーストか何かじゃなく?」
コレを勧めてるのが機械神様なら殆んど邪神だろそんなん。メイド服好きの機械神様とか変なイメージ定着したら神像作る時に悪影響出るだろどうするんだ。
「タタラ、ダリアが選んでるからそれにしてあげよ?」
「いや、下手したらメイド雇ってるとか近所から思われるぞ?」
「なら、お店の制服にするとか」
「エテル……お前、メイド服着る覚悟有るのか?」
「え、なんなら夜も着ていいけど」
「アウトぉ!!」
一瞬でも『いいな』とか思ってしまった自分が憎い、絶対シナリオライターかイラストレーターの影響受けてるだろ俺。
「お客様」
「あ、騒がしくしてすみません」
「制服として一式お揃えになるのでしたらお安くしときますよ、なんなら汚れても大丈夫な素材のも有りますが」
「理解力高すぎねぇかな!?」
心が揺れてしまってる、男って悲しくてバカな生き物だよな。
結局、ダリアの普段着用と店の制服用に夜専用を買ってしまった。四葩もメイド服が可愛らしく感じたらしく、しっかりと要求してきた。タチアも流れで用意され、渋々ながら受け入れた。使うとしたら店番を手伝って貰う時かな、因みに俺は従来のエプロンのままで居ようとしたら赤銅色のツナギとゴーグルを渡された。試しに着てみたらサイズピッタリでビビる、コレがプロか。
「ふむ、良いですねこの服は。通気性に優れ動きを阻害しない、何よりスカートの下に武器を隠せます」
「全世界のメイドに謝れ」
物騒な事を言うなっての、そもそも武器はインベントリに入れておけるから仕込み武器とか暗器は廃れてるしな。
「タタラ、私に合うサイズが無いから特注だって」
「でしょうね」
エテルのサイズに合わせたメイド服が用意されてたらどんな想定なのか気になるレベルだ、中央近くのランジェリーショップとかでも割と珍しいサイズらしいしな。
「タタラ、妾は此方の服をよく分からぬ。選んで欲しいのじゃ」
そう言って来た四葩の方へ向かう、エテルもついてきたので着せ替えを楽しむつもりだろう。
都市長から譲られた平服を参考に、動きやすさを重視したパンツルックを選ぼうと考える。しかし、四葩の女の子らしい格好を見たくもなる。それに、普段装備も着物も裾が長い物を履いているしそれに合わせてロングスカート等もいいかも知れない。
対してエテルはガーリッシュに仕立てる気満々らしい、ミニスカートを持ってきている。
俺が用意したのはブレザータイプの上衣にハイネックニット、青と黒のチェック柄のロングスカートだ。いわゆるトラディショナルと呼ばれる系統の服装で、オーソドックスなそれである。露出の少ない服装は四葩も気に入ったらしく、姿見を嬉しそうに見ている。髪を結い直し、常のポニーテールからサイドテールにして雰囲気を変えてみる。うん、可愛らしい。
エテルはサイズが大きめの薄いピンクのパーカーに赤と黒のチェック柄のミニスカートだ。袖が余り気味で、指先が少しだけ見えている。大胆にさらされた太腿の白い肌が眩しいが、オーバーニーソックスにより半分隠れる事で絶対領域を形成している。髪はツインテールに結い直されて、少女らしさが強調されている。何より、短いスカートを恥ずかしがる姿が良い。
エテルも四葩のコーディネートに合わせた所謂双子コーデといった服装に着替えている。エテルの場合、身体の破壊力がデカ過ぎてコメントに困る。デートしたら俺は我慢出来そうに無いぞ。
「……マスター、何か私に言う事は無いのですか?」
そう声を掛けてきたダリアに視線を向けると、クラシカルなメイド服を身に纏った姿で立っていた。機巧乙女特有の人形じみた美貌から高級なビスクドールを思わせるその佇まいに、思わず息を呑んだ。
「いや、綺麗だな。驚いた」
「……そうですか」
飾る言葉を思い付けず、思ったまま口に出したらダリアにそっぽを向かれてしまった。
「何と言うか、絢爛ですな」
「お前も欲しかったら服買ってやるぞ?」
「生憎、私には騎士服が一番リラックス出来るので断らせていただこう」
タチアには素気無く断られたが、エテルは着せ替えさせたくてウズウズしている様子だ。この先、タチアが逃げられず捕まる未来が待ってそうだな。
買い物を終え、まだ空は明るかったので俺は自警団の詰所に向かう事にした。メイド服を着たままのダリアが助手を申し出てくれたので、二人で向かうことになった。エテルは四葩とタチアを連れて家に帰り、夕飯の用意をしてくれるとの事だったので頼る事にした。此処最近は和食が多かったから、エテルが此方の料理を作ってくれると思う。
「どうも、失礼します」
「はい……はっ!? ジュロンさん!?」
詰所の受付で声を掛けると、対応してくれた団員さんが大声を上げた。一斉に詰所に居た団員さん達が俺とダリアの方へ視線を向けてくる、直前迄談笑していたらしい人達もだ。いや、そんな超反応しなくても。
「すみません、アポイントも無く。新型の試作品を持ってきたので受け取って貰いたいんですけど」
「し、ししししし新型のトリモチランチャーの試作品ですね! しょ、少々お待ち下さぃ!!」
受付の団員さんは椅子から飛び出して駆けていく、遠くから『だんちょー! はんちょー!』と聞こえてくる辺り相当焦った対応である。そこ迄急がなくても良いのに。
そうして他の団員さんから以前通して貰った会議室ではなく、屋外訓練場に案内して貰う。『クラフト』で即席のテーブルを作り、その上に9丁の試作トリモチランチャーを並べる。ダリアは俺からワードプロセッサを受け取って、屋外でも使える大型の空間投影と接続して俺の助手を務める気満々である。
「た、タタラさん!」
「あ、班長さん。お疲れ様です」
前に関わりが出来た班長さんが緊張しながら声を掛けて来た、よしよし良いテスターを確保出来そうだ。
「丁度いいので、班長さん手伝って下さい」
「うぇ!? お、俺がですか!?」
「はい、班長さんがです」
動揺する班長さんに周りから野次が飛ぶ、ヘタレだの何だので煽られ遂にはやってやろうじゃねぇかと啖呵を切ったので良いチームだと感じる。
そして団員さん達が集まれるだけ集まった所で、実演を兼ねた説明会を開始する。3丁のうち2丁を俺と班長さんで使用し、実際に発射や装弾を俺の動きを真似た班長さんが初見で対応出来る簡易さで有ると示していく。戸惑っていた班長さんはどんどん動きが良くなり、再装填の動きが1秒を切る速度を叩き出す。素直に凄いと手を叩けば、次々に団員さんが参加して再装填のタイムアタックが開始。班長さんも凄かったが、団長さんが増弾型バズーカタイプを2丁持ちして撃ち終わりからの再装填を2丁まとめて1秒ジャストで終わらせたのは思わず喝采した。
一通り装弾の体験が終わった後は、整備班の人達の前で分解整備の実演だ。丁寧にパーツ一つ一つの配置を教え、どんな機構で動作しているのかを解説する。工具を使って完全に分解して何処にどんな汚れが溜まりどう消耗するかを話して、再び組み上げる。小型連射式の構造に悲鳴を上げられ、増弾型バズーカの重さに恨み言を言われ、中折式に感謝される。
自警団の人達に試験をお願いして、再び団員一同から敬礼を向けられる。やはり、この人達は格好良い。
「……誰一人として私のメイド服へのツッコミが有りませんでしたね」
「いや、そんな事よりも新型トリモチランチャーの方が気になるだろ」
日が落ち始め、茜色に染まる街道を二人並んで歩く。不満を漏らすダリアに、そうやって言葉を返してやると表情の変化は無いのに不機嫌さが増したのが分かった。
「私のような超絶美少女が居ると言うのに、何故捕具に興味を向けるのか」
「……めっちゃイケメンがキメッキメの服装でナンパしてくるのと、煤で汚れた俺が新作の魔導具持ってくるのとどっちが気にかかる?」
「魔導具に決まっているでしょう、馬鹿ですか?」
「それが答えだこの馬鹿が」
ダリアにそう答えて前を向いた時、背筋が泡立った。ダリアも瞬時に俺の前に出てインベントリから魔導具の剣を取り出す。
50m程先に居たのは1人のメイド、ダリアのと同じクラシカルタイプのメイド服を着ているシルバーブロンドの髪に翠の瞳。異質なのはその背に髪と同色の一対の猛禽の翼が生えている事か。
俺はその姿に見覚えが有る、何故こんな街中で此方を待ち構えていたのか分からない。
「……マスター、あのような『天使族』に恨まれるような事は?」
「いや、『天使族』なら直近だと鎧の為に霊核を『クラフト』に使った事は恨み買うんじゃないか?」
尤も、目前の存在は『天使族』では無いのだが。つか、何でこんな威圧感出してんだこの子?
「マスター、私が時間を稼ぎますので逃げて下さい」
「いや、多分無理」
「……マスターもそう感じますか」
感じると言うか、知っている。目の前のメイド姿の天使っぽい存在は、遠距離戦闘を得意としているダリアの同類だ。しかも、俺が知っている物を装備しているなら一分以内にこの『ワールウィンド』を更地に変えるくらいは出来る。
彼女を止めるなら同格以上の存在が必要だろう。例えば、そう──
《なんで相手を怖がらせてるんですか貴女は!》
《ふぎゅ!?》
上空から高速で降りてきてハリセンを振り抜いて後頭部をぶっ叩いた『
「……マスター、類似個体の増加を確認しましたが先に居た個体を攻撃。仲間割れでしょうか?」
「あー……仲間ってのは間違って無いだろうな、後から来た方は知り合いだけど」
俺の言葉に振り向いてくるダリア。まぁ、意味不明な圧を放つ推定天使族の知り合いが居るとか普通は信じられないだろうしな。俺はダリアの前に出て、ハリセン片手に殴った相手に説教をしている『天使長』に声を掛ける。
「あの、『天使長』? 状況を説明して貰っていいでしょうか?」
《え? あ、すみませんタタラさん!》
俺が声を掛ければ慌てたように振り返ってくる。手に持っていたハリセンは背中の剣の一本だったらしく、元の姿に戻って背中に並ぶ。
《この子は私の妹の1人で、名前は言えないのですが役職は『料理長』です。気軽に役職で呼んであげて下さい》
「役職で呼ぶのは気楽なんですかね? ……取り敢えず俺はタタラ・ジュロンです、よろしくお願いします『料理長』さん」
《……よろしくお願いします》
俺の挨拶に言葉を返した直後、『天使長』の後ろに隠れる『料理長』。俺が知っていた理由は彼女もまた『看板娘』の1人であるからだ。
登場したのは3番目、そのまんま姉妹で三女の立場になった小柄なのに一部は姉妹の中で2番目にデカい引っ込み思案な少女だ。掃除の腕は壊滅的だが料理の腕は公式で最高峰、その才能から『料理長』の役職を与えられたと言う設定である。実際、過去作含めたゲームで彼女を仲間にしてからアイテムで料理を作って貰うと完全回復効果や全てのバフが掛かる効果が有るなど強力極まりないサポート能力を誇っていた。
クール系のキャラに見えてすぐ涙目になるので一部のプレイヤーからは絶大な人気を誇っていた、俺は泣く表情よりも偶に晴れやかな笑顔を見せてくれた時の方が好きだったが。
「そういえば、妹の像を作って貰うために紹介するって言ってましたっけ?」
《はい! 丁度手が空いていたので先ずはこの子をお願いします!!》
そう言って背中に回っていた『料理長』を自分の前に押し出す『天使長』、知らない相手の前に立たされた『料理長』はテンパって涙目だ。多分、立ち絵なら瞳孔がぐるぐるになって混乱の極みって雰囲気だっただろう。……ここは先ず、警戒を解いて貰わないとな。人見知りな『料理長』には酷な事だけど、依頼を受けてる身なので俺に馴れて貰わないと。
膝をつき、目線を『料理長』に合わせる。インベントリから『天使長』に『看板娘』の依頼を受けた時に作っておいた物を取り出す。出て来たのは『料理長』の胴体程の大きさを持つぬいぐるみだ、中は綿では無くビーズを詰めた所謂『人を駄目にするクッション』と同じ抱き心地を持っている。見た目はなんか気の抜けた感じのネコに似たナマモノで、見てる方が脱力しそうな表情である。そのぬいぐるみの顔を見て驚いたような、或いは戸惑ったような表情をする『料理長』。おずおずとぬいぐるみに手を伸ばして来たので、そっと持たせる。
「お近付きの印として、どうか受け取って下さい。触り心地は兎も角、抱き心地は良いと思いますよ?」
俺の言葉を聞いてからか、そっとぬいぐるみを抱きしめる『料理長』。ぬいぐるみに頬擦りして、ふわっと笑ってくれた。どうやらプレゼントは成功したらしい。
《早速妹を誑し込むとは……流石はタラシさんです》
「今のは言い間違いと態とのどっちですか?」
《失礼、噛みました》
「本当に噛んでます?」
《神は居た》
「過去形じゃなくて現在進行系で居るでしょ神様は」
なんなら貴女もその類でしょうよ、天使みたいな見た目してますけど。
何処か拗ねた雰囲気の『天使長』だが、そんな姉を気にする素振りも見せない『料理長』はぬいぐるみを抱き締めて戯れている。余程気に入ったらしい……まぁ、過去作の『看板娘』イベントではだいたい新しいぬいぐるみを欲しがって降りてきて人見知りから買えずに困ってる姿で登場したしなこの子。因みに、ファンの間ではぬいぐるみに釣られた挙句に汚いオッサンに襲われるエロが流行っていた。ゲームやった身としてはそのオッサンがなんで生きてるのか不思議な程の戦闘力持ちなのだが、少なくとも『深く深い闇の先で』で作れる最終装備の説明には『ワールウィンドを消し飛ばせる』とテキストデータで書いてあったのだ。
『天使長』が『看板娘』イベント終了後の時代から来てるのならこの『料理長』もその筈、ならば彼女の装備も『天使長』基準で考えるべきだろう……アレが有るとか地獄かここは?
「……あの、マスター? 一人で会話をしているのですか?」
「あ、そうかダリアには二人の声が聞こえないのか」
忘れていたがこの世界では現状俺以外に『天使長』達の声を聞ける者が居ないらしい、俺と同じ転生者でも居れば聞けるかも知れないが今のところ出会えていない。本当に俺だけに聞こえてたりしたのなら恐怖だ。
《タタラさん、申し訳無いのですが機械神様の神像を作っていただけないでしょうか?》
「機械神様の、ですか? もしかして今直ぐ要るやつですか?」
《今日中に作っていただかないと、機械神様がダリアさんの身体を乗っ取ってタタラさんに襲撃をかけそうなので巻きでお願いします》
「神様が何をやろうとしてんだマジで」
ダリアに襲撃されたら普通に死ぬ、そんな恨み買ってたのか俺は。しかし、俺は機械神様との関わりが薄い。月女神様や軍神様のように何か関係が有るものを参照にしないと、機械神様のイメージが補強できないのだ。
「マスター、機械神様と今聞こえたのですが?」
「ああ、ちょっとした依頼でな。機械神様の神像を作らなきゃならん」
ダリアに軽く説明していて、ふと思いつく。ダリア達機巧乙女は機械神様の生み出した種族で、自身に似せた者達だと言う。俺の近辺で一番機械神様との繋がりが強い存在である。
「……ダリア、少しそこにそのまま立っていてくれ」
「? Yes my Master」
俺の頼みに対して疑問を抱きつつ、素直に従ってくれるダリア。そんなダリアを前にインベントリからミスリルのインゴットを一つ取り出し、集中する。ダリアをイメージの元に置き、その奥に有る根幹に触れるように深く深くスキルに潜っていく。何かが指先に引っ掛かるような感覚があり、その感覚を頼りに『クラフト』スキルを通じてインゴットを形成していく。
身体から溢れたイメージが落ち着いたような感覚が有り、目を開けばミスリルのインゴットは形成が終わっていた、
ショートボブの髪、髪の間から飛び出る耳の代わりらしきブレードアンテナ。華奢な身体を包むエプロンドレスに、得物であるモップを両手で持っている。
どう見ても某緑髪メイドロボです、本当にありがとうございました。
「いや、なんで!? なんで機械神様のイメージコレになった!? 確かに一部業界ではこの方面を開拓した偉大なメイドロボだけども、此処で出るのは違うじゃん!!」
思わず悲鳴みたいな大声を上げてしまった。いや、メイドロボと言う割に作中では基本制服だったな。でも公式設定では試作型のメイドロボだったしやっぱりメイドロボだな。
待て、俺は何を考えている。先ずはこの特級危険物を処理しなければならない。こんな物を機械神様の元に持っていかれたら俺の命が危ういだろ。
《あ、ちゃんと機械神様の神像が出来たんですね! コレならきっと喜ばれますよ!!》
「ウソだろ、コレで!?」
なんで某緑髪メイドロボと同一視されて喜ぶんだよ、意味分かんないよ。
「……マスター、このメイドのスタチューはいったい何なのでしょうか。何となく、恐れ多い神性を感じるのですが」
普段の慇懃無礼な態度は残っているが、何処か腰が引けた雰囲気のダリアがそんな事を言ってくる。
コレ、お前の創造主を模した神像なんだぜ。とか言ったら殺されないか俺?
「それと、一部業界を開拓した偉大なメイドロボとはいったい……?」
「気にするな、気にしたら負けだ。それ以上触れるな、いいな?」
「え、はっ……」
「いいな?」
「……Yes my Master」
何処か納得がいって無さそうだが、俺の前世とか以前に外の世界の知識を与えるのはなんかヤバそうなのでそれ以上の質問をシャットアウトする。何となく、ダリアの存在が危うくなりそうな気がするんだよな前世知識を与えるの。他の、エテルや四葩は問題無さそうなのに。
「……『天使長』、コレを納品で大丈夫ですか?」
《はい。機械神様の神像、確かに受領しました! 此方が報酬です、受け取って下さい!!》
そう言って渡されたのは5kg程のオリハルコンだった……え、マジで?
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン