既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント進行中
年増同年代パロは学生時代の話になります。
納品した報酬があまりにも破格である為、一瞬自失する。現状、手に入る可能性が低いが必要となる金属がコレだけの量手に入るのは殆ど無い。確かにミスリルを常から数十kg単位で手に入れているが、普通は有り得ない事態なのだ。オリハルコンが5kgも有るのなら、ダリアの鎧に当てれば制御機構はかなり良い物になるだろう。問題は霊核と『卵』の確保くらいな物だ。
「マスター、コレだけオリハルコンが有るのなら」
「ああ、ダリアの魔導鎧が作成し易くなる」
俺の『玄武』は大分調整出来たので、次に作るべきダリアの魔導鎧に使用するべきだろう。必要な霊核と『卵』の数は多くなるが、その分潜って『リッチ』を狩ればいいだけだ。
そんな相談をしている俺とダリアに、『天使長』は声を掛けてくる。
《タタラさん、もう一つの依頼の方もいいですが?》
「え、ああ。姉妹の像を作って欲しいってヤツですよね、少し待ってて下さい」
指摘されて思い出した俺は、ミスリルのインゴットを取り出して『料理長』に向き合う。俺に視線を向けられた『料理長』はビクリと肩を震わせ、小動物のように震え始める。そんなに怖いかな、俺の顔。
目を閉じて、頭に浮かんだイメージを手に持ったインゴットに送る。感覚から完成した事が分かり、目を開くと『料理長』の像が出来上がっていた。
『天使長』の時と同じ、コンプリートスチルで見せていた満面の笑み。その腕には花束が抱かれていた……のだが、どういう訳か先程贈ったぬいぐるみが抱き締められている。コレでいいだろうか?
《うわ、うわぁ! 可愛い! 私の妹がこんなに可愛い!!》
と、張本人の『料理長』よりも『天使長』の方が先に反応した。『料理長』の像を手にとって、キラキラと輝く目で眺めている。『料理長』はその反応に驚き、初動が遅れた。再起動した時にはもう遅く、『天使長』の手にある己の像を取ろうとするがその手は尽く躱されている。こんな所で『看板娘』間でのステータス差を見せ付けて欲しく無かったな。
《姉さま! かえ、返して! 私の! それ私のなの!!》
《だめですよ〜姉特権を行使します!》
何と言うか、『看板娘』もただの姉妹なんだなとそう感じた。仲の良い何処にでも居そうな姉妹の光景に、思わず笑ってしまった。会話が聞こえてないダリアも、二人の身振り手振りで内容が分かったのか口元を押さえて震えている。
そこで俺は一つ思い付いてミスリルのインゴットを2つ取り出す。再び目を閉じてイメージを構築する、今度は明確なイメージが有る。一つは料理長、ただし彼女が着ているのはダリアの機巧乙女衣装にも似た超ハイレグのレオタード。そして、もう一つは彼女の武器であり鎧である。『料理長』はダリアと同じように魔導具を複数活用して戦うキャラで、専用装備は魔導鎧だった。
使うのはパワーローダタイプであり、薄着で魅力的なスタイルをさらす『料理長』とゴツいメカの対比が人気だった。俺が作ったのはこの姿の『料理長』だ。魔導鎧はギミックを再現し、着脱を可能としている。
「あの、『料理長』」
《なんですかタラシさん! 今、姉さまからフィギュアを返して貰うのに忙しいんです!!》
今、タラシって言われたな? それは『看板娘』達にそう認められてるのか俺。流石に泣くぞ。
ええい、挫けるな俺。取り敢えずコレを渡そう。
「仕方ないか……『天使長』、此方を差し上げますのでそちらを返してあげて下さい」
そう言って新しく作った『料理長』のフィギュアを『天使長』に差し出す。此方のフィギュアを見た『天使長』は驚きの表情を浮かべ、気付いた『料理長』は俺の手を見て固まった。
《うっそ……凄い、凄いですコレ!》
興味を引けた様子だが、固まってる『料理長』は『天使長』からフィギュアを取り返せていない。いや、早く取り返してくれ。
おずおずと手を伸ばしてきた『天使長』だが、本体と装備で分けている為片手では同時に持てない事に気付いた。
《どうしてタタラさんはこんな残酷な事をするんですか!? 私は、可愛い妹と格好良い妹を同時に愛でれ無いじゃないですか!?》
「いや、メイド服の方を本人に返してあげましょうよ。恥ずかしがってるんだから」
姉特権とか言ってるが、そこ迄横暴をしないと信じたい。
《姉さま! いい加減にしてくれないとタラシさんの事で普段から他の姉妹達に惚気てる事をバラしますよ!!》
「……此処で言ってたらバラしたも同然じゃないかな」
泣き出す手前みたいな顔で『料理長』がそう言うが、俺に聞こえてるからダメじゃないかな。言われた『天使長』はピタリと止まり、錆び付いたような動きで首を動かす。
《た、タタラさん。あの、妹が言ったことはですね……》
「深くは聞きませんから取り敢えず『料理長』が嫌がる事はやめましょうか、お姉さん?」
《はい……》
しょんぼりと肩を落として、『料理長』にフィギュアを返す『天使長』。『料理長』は一度ぬいぐるみをインベントリにしまって、自身のフィギュアを受け取る。最初に作ったメイド服フィギュアに目を輝かせていたが、ふと気になったのかスカートの中を覗く『料理長』。次の瞬間、その顔が真っ赤に染まった。
《タラシさん! なんでスカートの中まで再現してるんですか!? なんで私のお気に入りを知ってるんですか!?》
「いえ、それ『クラフト』スキルの自動生成なので勝手に世界から情報汲み取ってるんで俺の意思は介在してないですよ」
俺の言葉を聞いた『料理長』は一瞬言われた意味を理解出来なかったようだが、次の瞬間には膝から崩折れた。そりゃまぁ、世界にパンツを記録されてるとか地獄だわな。
《最悪です、姉さまも私も世界にお気に入りのパンツまで知られているなんて……》
「いや、その……どんまい?」
なんと声を掛けて良いのか分からないのでそんな事しか言えなかった。
《姉さまのフィギュアでパンツまで再現されていて、それだけ心を開いて見せてたのかと思えば当人の意思が介在しないなんて……》
《私、そんな風に思われてたの!?》
大分姉としての威厳を無くしたらしい『天使長』、冨と岡と義と勇も失いそうだなコレ。
《タラシさん》
「タタラです。で、なんですか?」
《フィギュアはパンツが再現されれば売り上げが3倍変わるという法則を知っていますか?》
「知りません」
前世のフィギュア業界ではそんな話が有ったとか何とか。詳しくは知らない。
《つまり、細部への作り込み如何でそのフィギュアの良し悪しが決まると言っても過言ではなく……その筆頭がパンツなんです》
「論理が飛躍し過ぎでは?」
芸術分野で神は細部に宿るとは聞くが、パンツに宿ってる神様とか嫌だよ。
《このフィギュアの造形は素晴らしいです。服の作り込み、皺のリアリティ……パンツの食い込み具合》
「最後のは注目するのやめましょうか」
《コレがPVCなら4万円は取れるクオリティです、彩色されていたら6万円迄なら出していました》
「それ、ミスリルなので地上だと最低で1000万しますからね?」
《キャストオフも出来たのなら10万円でも仕方なかったでしょう》
「オタク特有の高速詠唱とスーパーアーマーの展開はやめません?」
そろそろツッコミも嫌になってきたんだけど。俺にしか聞こえないとはいえ道の真ん中でフィギュアのパンツについて語るのはちょっとどうなの?
『天使長』もそろそろ止めようかとまた剣の一本をハリセンにして構えている。うん、一発スパンとやってあげて下さい。
《何より姉さまと私のポージング、此等は揃えてこそ完成する物だと理解出来ました。個でも完成度は高いと思われますが、このフィギュアはセットを揃えてこそその真価を──》
《いい加減に起きなさい!》
《ふぎゅ!?》
快音を響かせて『天使長』のハリセンが『料理長』の顔面にぶち当たる、『料理長』はまた変な鳴き声を上げた……もしかしてこの鳴き声ってフィギュアから取られてたりしない?
「あの、つまりこの像は出来がいいって事でいいんですかね?」
《……はい、色々語りたいことは有りますがその為には余白が足りません》
「おう、数学者に謝れ」
流石に最終定理の証明とオタク語りを同列に扱われたらキレると思う……いや、同族嫌悪になるか?
《つきまして、私のフィギュアの納品に対して報酬を出そうと思います》
「あ、はい」
『天使長』からは貰えなかったが、『料理長』からは貰えるのか。ゲーム時代では彼女達の加入権だったが、どうなるか?
《此方をお納め下さい》
「はい……はいぃ!?」
渡されたのは先程『天使長』から渡された物と同じオリハルコンのインゴット、それも10kgは有りそうな量である。普通に受け取っているが、今この瞬間にも逃げ出したくなる量だ。
《タラシさんは作り手との事なので、希少そうな素材を用意してみました》
「なるほど、基準が超越者のそれ」
地上に居る生物にとっては希少でも、視点が違う『看板娘』達にはそうでも無いと。とは言え、コレで『卵』の数さえ確保すればダリアの魔導鎧は作れる。
《そして、此方が追加の報酬です》
そう言って差し出された物を前に表情が引き攣る。
『料理長』の掌の上には前世のソフトボール程の大きさが有る硝子質の真球の物体だ、内部にまるで宇宙でも納めてるかのような煌めきが見えてとても美しい。コレの本質が『卵』はおろか霊核など比較にならない高密度の魔力結晶体、神核である点を除けば。
目の前にポンと出された神核を前に一般人メンタルの俺にどうしろと言うのだ、しかもコレ物凄い高位の魔神の神核だろ。下手しなくても国宝レベルだぞ。
《更に、本体と合わせてオプションパーツ分も含めてもう一つ》
この『料理長』には容赦という言葉を辞書で引き、実践して欲しい物である。気絶しても許されると思うんだ、俺。震える手で神核を受け取り『鑑定』を掛ける。
素材『終焉女神の神核片』
素材『創世女神の神核片』
なにこれ知らない。……いや、微かに記憶に引っ掛かった。過去作の中にほんの少しだけこの世界の始まりについて語っていた場面が有ったと思う。それでは旧い世界を終わらせた終焉の女神と新たにこの世界を創り上げた創世の女神が存在している、そんな最も旧い魔神と呼ばれた者からの証言だ。その言葉が真実なのだとすれば、今手の中に有る物はそんな世界最強から零れ落ちた力の欠片だ。本体からどれだけの力が別れた物なのかは分からないが、掌から伝わるのは無限大とも思えるような魔力量。仮にコレを魔法金属の昇華に使ったとしても、使い切れるか不明な程のソレだ。つまりはアレか、『卵』を集めるよりもコレを使って手早くダリアの魔導鎧を作れという思召か?
《以上3つを持ちまして私の報酬は全てとなります。無駄遣いせず、大切にお使い下さい》
「あ、はい」
オリハルコンは兎も角、神核片なんて使い切れるのか甚だ疑問だが。
《それでは失礼しますね、タタラさん。姉さまも、あまり遅くなる前に帰ってきて下さいね?》
そう言い残して『料理長』は立ち去った、最後は俺の名前をちゃんと呼んだな。手元の神核片は怖すぎてさっさとインベントリにしまう、後で調べてみようと思うが手で持ってるのが怖すぎる。
《なんか妹がすみません、あの子人見知りですけど悪い子では無いんです》
「ええ、まぁ……特に気にはしてませんが」
タラシ呼びも何と言うか姉に近付く悪い虫判定から出ていた物っぽいが、最後は名前を呼んでくれたので判定は外れたっぽい。いや、微妙か。
《あと、私がタタラさんについて妹達へ吹聴していると言うか。色々お話はしていますけど惚気ている訳では無くてですね。タタラさんがこの世界で様々な功績と大罪を繰り返している事の愚痴と言いますか、私が不安になる行動をとって私の気を引きたいんじゃないかななんて疑惑を持ちましたと言うか。いい加減サクッとヤッて私の部屋に魂を閉じ込めるべきなんじゃないかななんて話をした程度と言いますか》
何やら『天使長』の目が混乱でぐるぐるしてる気がする、何を言ってるか自分でも理解してないんじゃないかコレ?
「マスター、先程から独り言にしか見えず私には何が起こってるのか分からないのですが」
「ぶっちゃけて言うと、前に依頼を受けてソレを果たしたら頭が痛くなる報酬を貰ってるだけだ」
「それが何故このような状況に?」
「そう言われてもな」
俺自身も説明が難しいんだが、パンツを完全再現されたフィギュア渡して報酬貰ったとか意味が分からんだろ。
《と、兎に角! 今回は妹の『料理長』の像をありがとう御座います! でも、なんで二つも作ったんです?》
「貴女がその妹からおもちゃ取り上げてたから気を引く為ですが?」
《う、ソレを言われると……》
肩を落とす『天使長』を見て、超越存在でも人間味を見せるんだなと感心する。ゲーム中だとこんな人間的な反応しなかった上に、姉としての姿なんて初めて見たしな。
《あ、なら私にももう一つ作って下さい!》
「他の妹さん達の分を作り終わったら考えます、待ってるだろうし早く屋敷に帰ってあげて下さい」
《いいですか? 約束ですよ!?》
「はいはい、分かりましたから……」
考えるとは言ったが作るとは言ってない。
そうして『天使長』も帰って行った。何だかドッと疲れたな。
「……帰るか」
「Yes my Master」
俺と一緒に『天使長』を見送ったダリアは無感情にそう答えた。何だか、ダリアも疲れてそうだなとそう思った。
「それで、説明会が長引いて少し遅かったと」
「自警団の方々で再装填タイムアタックを開始したのは予想外でしたが、それだけ熱意と練度が有ると言う事なのでしょう。マスターも嬉しそうでしたし、止められませんでした」
帰ってから夕飯の時間に入り、今日のそれぞれの話をする。ダリアと共に『看板娘』の話はパーティメンバー間ではしないと決めて、遅くなったのは主に自警団での説明会が影響している事にしている。ダリアもあの二人が持つ力の強大さを理解しているが故か、話題に出さないのを納得してくれた。下手に吹聴すれば何かしらの報復がくる可能性を考慮したのかも知れないが、彼女達はそんな事をする者達では無い。それでも主に俺が居る時にしか姿を見せない理由が有るだろうし、彼女達が進んで全員の前に姿を見せてくれる迄は待つのが良いと思ってる。
「しかし、やはり私のような超絶美少女メイドに一言も無いのが解せません」
「まだ言うか」
「変に拗らせてるでござるな」
ダリアが口を尖らせてそうこぼす姿に、呆れを滲ませた言葉を駄狐が紡ぐ。ダリアは確かに美少女ではあるが、そこを一々気に掛けるような自警団の人達では無いだろう。美少女無罪とか通じないのだこの世界は。
「タタラはそのトリモチランチャーで採用されなかったのはどうするの?」
「自警団で正式採用されないってだけだから、設計図は譲って販売は認めるよ。個人使用なら大丈夫みたいだし」
中折式が制式採用されそうだなと感じた、整備班の人達もそうだが力の弱い種族や身体の小さい種族の人達との兼ね合いや従来の弾頭が使える事が決め手になるだろう。班長さんは小型連射式を推すだろうし、団長さんは増弾バズーカ型を推すと思うが他の団員さん達からは不満点の方が多かった。ただ、団長さんは権限でトリモチランチャーの個人所有を認める旨を伝えていたのでそれぞれが個人で持つ物に制限はしないのだろう。自身の推しが認められなかったら自分で買うつもり満々みたいだったし、班長さんもそのつもりだったっぽい。根っからの自警団だなあの人達。
因みに、連射型の小型弾頭を単発で撃てるタイプも作っている。見た目が某天空の城で海賊が使っていたハンディランチャーみたいになったが、投擲が苦手な女性層をターゲットで販売出来ればと思ってる。少しでも『ワールウィンド』が平和で治安の良い街になればいいと思う。
そんなふうに雑談を交えながら夕食を終えて、タチアを送り出してから工房に籠もる。理由は神核片についてで、どれだけの力を有しているのかを調べる為だ。怖くて『概念鑑定』は使えない、なんとなく『天使長』の剣を『鑑定』したみたいな事になる気しかしないからだ。早速テスターに繋いで魔力量を調べてみるが、予想通りの結果を予想より早く成した。つまり、カウンターが1秒保たず吹き飛んだ。魔力の内容量は本当に無尽蔵と言ったところだろうが、出力自体もとんでもないらしい。下手しなくても『フォルジュロン・ドライブ』よりも上だろう……終末に対抗する為の動力炉より上とか、コレこそが終末だったとか……いや流石に無いか。それなら『天使長』が言っていた世界がこの世界の前身って事になりかねないし。
結局、何をしても調べられそうに無いので諦める。何かしらの加工は出来るかも知れないが、下手したら俺が死にかねない程の難易度な気がする。『概念鑑定』を使った上で『クラフト』スキルを使用し全力で多重魔法陣を敷いてギリギリ圧縮出来るくらい、そうして出来上がった物を何に使うかと言ったら……魔導鎧が限界だろう。魔力炉にしたら多分、出力に耐えられず施設が消滅する。魔導鎧の稼働に可能な限りのリミッターを設けて、使用する武器の魔力を賄う……コレですら吹き飛ぶ可能性を孕んでいるだろう。いや、どう使えってんだマジで。
取り敢えず、終焉女神の神核片を持って10kgのミスリルインゴットに対して昇華を試す。引き出した魔力が余りにも多量で暴走しかねないが、ギリギリ制御出来る量に抑え込んでミスリルを昇華させる。10kgのうち2kgは内部の路が過剰に魔力を流され焼け爛れ、一度溶かして作り直さなければミスリルとしての機能も怪しくなっている。ただ、8kgはイヴィルミスリルに昇華が叶っていた。
此処から考えるなら、闇の女神が加護を与える夜闇の眷属はこの終焉に属する存在になるのだろう。うん、こんな真実知りたく無かったな。
一応、創世女神の神核片でもミスリルインゴットの昇華を試す。先程の経験から制御の難しさを予想したのだが、どういう訳かすんなりと魔力が馴染む。疑問に思いながら10kgのミスリルを昇華した結果、10kg全てがセントミスリルに変わった。
創世は光……今の世界に属する者に近いのだろう、俺が魔力にすんなり馴染んだ事からそう判断出来る。
さて、こうして用意したセントミスリル10kgとイヴィルミスリル8kg……練習も兼ねて溶かして形成し直したミスリル2kgを再度終焉女神の神核片で昇華させて両方10kgの昇華ミスリルを用意したが、正直使い方が浮かばない。俺の身体に合わせたインナーマッスルアーマーを作ろうにも、『玄武』を作り終えたばかりだ。
ダリアの装備は『卵』で強化したハイ・ミスリルを使用する事が前提、ダリアの場合神核や霊核を用いて昇華させた物より『卵』を用いた方が相性が良い可能性が高いからだ。つまり、作ったはいいが完全に用途が無い。
《……タラシさんは実験がてら予想外の事をするって本当だったんですね》
「ぬわ!?」
悩んでいる最中に背中から声を掛けられ驚いて声を上げる、振り向くと銀髪に翠の瞳をジト目にした『料理長』が立っていた。……俺が渡したぬいぐるみを抱き締めてるの、本当に気に入ったんだろうか?
《姉さまから聞きました、この世界の魔導鎧の技術を革新させたって。確かに、こんな神の御業じみた事をしているならそんな事になるのも納得です》
「……いや『料理長』? 何故居るんです?」
《姉さまが背後に立てるのですよ、同じ姉妹である私にも出来ます》
「説明になってねぇ……」
俺は居る理由を聞きたいのだが。
《追加の依頼をしたいのですが、期日は特に設けません》
「依頼、ですか?」
《ええ、貴方なら多分分かると思いますが……私の鎧についてです》
「……え、正気?」
『料理長』の言う鎧、つまり『天使長』の剣と同じくその絶大な戦闘力を支える為の神器に比肩するとんでも武装だ。『料理長』の鎧は特化してない代わりにその総合力が凄まじく、全ステが最終的には運と移動力を除いて100上昇する無法っぷりだった。それをどうしろと言うのだろうか。
《貴方が地上でやらかした事は調べました、本当に正気を疑うレベルでやらかしていて頭が痛くなるところです。何故姉さまの剣を作った時点でこの世界から追放されていないのかも理解に苦しみます。ですが、その『クラフト』の技術は超一流であると認めざるを得ません。冗談半分で渡した神核片を使いこなせている意味不明ぶりも加味して、貴方に私の鎧の強化乃至新造を依頼したいのです》
「え、本気?」
《本気です。それと、姉さまは兎も角私には敬語は不要です。距離を感じて嫌です》
長々と酷い事を言われたが、結局は俺のクラフト技術を認めて依頼をしに来たのらしい。後、敬語も無しになった。
「まぁ受けるけども……取り敢えず、今の鎧を見せて貰っていいか?」
《当然ですね、確認をお願いします》
俺の言葉に従った『料理長』がインベントリからその鎧を引き出す。魔導鎧と言うよりもパワードスーツ、見方によっては某花の大戦な霊力で動く甲冑に近いだろう。俺としては飛竜に変形する天空な人型鎧の方が好きな方式だが、アレもアレで作るの面倒そうである。兎に角、今ある『料理長』の魔導鎧を弄るか新たな素体を作り直す必要が有る。
《素材の持ち込みが必要でしょうか?》
「出来るなら色々用意して貰った方が良いな。オリハルコンとかアダマンタイトなんて物は家に殆ど無いんだ」
《分かりました、コレを使って下さい》
そう言ってインベントリから『料理長』が出したのはミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの三大魔法金属だ。尤も、その量が異常である。ミスリル50kg、オリハルコン30kg、アダマンタイト20kgとか地上の価値だと頭が痛くなるなんてレベルじゃないぞ。
「……幾つか要望を聞いてもいいか?」
《ロマン溢れる感じで》
「具体的に頼む」
《なら、先ずは私の鎧を解析してからご自身の技術を注ぎ込んで下さい》
何とも面倒と言うか、無茶な依頼である。『料理長』の鎧を解析とか、そも『鑑定』掛けて俺の頭が保つかも分からんだろ……取り敢えずやるが。
「幾つか劣化してるけど、取り敢えず俺の鎧を一度出すからそこから欲しい機能を言ってくれ。出来るかは兎も角、やってはみるから」
《そうですね、では出して下さい》
鎧用のハンガーを運んできて『玄武』をインベントリから出してアームで固定させる、空間投影型のディスプレイにステータスが映し出されて『料理長』に読めるようにする。
「ではコレを……」
《すみません、先ずはこの鎧用のハンガーを下さい!》
「……鎧が出来たら専用のを作ってやるから、その時また別途に素材出してくれ」
《はい!》
ダリアと同類か……いや、俺も自分でロマンを注ぎ込んだハンガーだと思うけどな。
性能を追求すると大型化する、コンパクトに纏めるよりも余剰のスペースを作り全体的に余裕を作る方が後々に強化したり機能を追加する上で便利だ。所謂拡張性と言える物が有ると良い。
俺の持つ技術と機能を追加するとなると、まぁ『飛行』は確定だろう。次に『魔導砲撃』辺りも戦闘の幅を広げる上で追加するべきだな。装甲は三大魔法金属の合金で、アダマンタイトは全て此処に使う。基礎フレームは鍛造ミスリル、関節と脊椎のフレームは鍛造オリハルコン。稼働は昇華ミスリルによる新型人工筋肉だろう。
以上の一覧を設計図に落とし込み、一度『料理長』に見せようとしたら俺の背後で食い入るように設計図を見ていた。いや、目が血走ってて怖いんだが。
《……タラシさん、コレはいったいなんですか?》
「タタラだ。何と聞かれても『料理長』の新型鎧の設計図とだけ」
《なんでこんなトンデモナイ物を作ろうとしてるんですか、いいぞもっとやって下さい!》
おう、本音が漏れてるぞ。
「それより、欲しい機能とか有るか?」
《えっと、この『魔導砲撃』機能は右腕に限定して下さい。多分、機能を絞る事で威力を上げられます》
ほう、システム側からのこう言ったアドバイスは助かる。俺が知らない事を指摘して貰えれば、リバースエンジニアリングとは少し違うがレパートリーが増える。
「何かしらの霊核が有れば弄れると思うが、何か無いか?」
《なら、コレを使って下さい》
そう言って出されるのが終焉女神の神核片と創世女神の神核片って辺りが最高に意味不明である、なんで複数持ってるの?
「……これ、そんなにいっぱい有るのか?」
《そんなに無いですよ、私は後一つずつしか持ってません》
後1セット有るだけでも怖いよ。
先ずは渡された神核片を使用して昇華ミスリルを作成する、セントミスリル20kgとイヴィルミスリル20kgの計40kgの昇華ミスリルを作成してそれぞれに魔力を通してみる。此処で分かったのが、セントには光属性イヴィルには闇属性の魔力を流さないと露骨に出力が落ちると言うこと。同一のエネルギーでないと反発が発生しているのかも知れない、メカニズムを解明するよりも分かった事をそのまま活用する。
機体の操縦席となるフレームを作る為に『料理長』の身体の採寸をさせて貰う。首周り、肩回り、腕周り、腹周り、腰回り、足周りと次々に採寸する。胸周りはちょっと勇気が出なかった、やったら『天使長』が降りてきて剣を抜きそうだったし。
取った採寸から操縦席となるフレームをオリハルコンを鍛造してパーツを作る。『料理長』の身長が155cmとダリアより少し大きい身長だったので、平均的な体重から算出される骨の重量とだいたい同じになる10kgのオリハルコンを鍛造する。何やら作業中に『料理長』から凄い目で見られていた気がするが、気にせず鍛造してパーツを選り分ける。操縦用の本人にフィットするフレームを組み上げていく、精神感応金属であるオリハルコンで作成したために追従性は格段に上がる筈だ。固定されてる『料理長』の鎧から従来の内部フレームを外し、付け替える。内部の規格に合わせて微調整をしつつ、術式を構築し直す。
次に腕と脚の装甲を外し、内部の構造の一新を開始する。家の在庫のミスリルを80kg用意し、フレームを全て鍛造ミスリルで作り直す。腕部の稼働は全て人工筋肉にし、関節部には昇華を試したオリハルコンを使用する。人工筋肉とフレームには出力調整可能な強化術式を施して、更に右腕そのものを魔導銃と同じ構造になるようにする。右肩部に終焉女神の神核片、左肩部に創世女神の神核片を錬成し圧縮した物を組み込む。左右の半身だけで魔力が循環するように構造を整えて、内部で相反する魔力がぶつかり合って爆発しないようにする。
背部に飛翔用の機構を付ける為の接続部を作り、そのためのユニットの作成に移る。恐る恐ると言った具合に『料理長』が追加の素材を渡して来た、主にオリハルコンとミスリルだ。正直助かるので感謝を伝えつつ、織り交ぜて合金を作る。パーツ分けをして翼とエンジンに大まかに分けて、翼には天使族の飛翔術式を施して揚力を得られるようにする。エンジンは周囲の空気を吸引・圧縮し、神核片の魔力によって加熱し放出する形を取った。流体魔石を使ったジェットエンジンの発展型ではあるが、推力は若干劣ってしまう。しかし、流体魔石を何時でも補充が出来る訳では無いので此方の方が合うだろう。稼働させてみても問題が無く、ぶっつけでも上手く行く事に神へ感謝する。
最後に取り外した装甲を一度溶かし、残っていた素材も含めて混ぜて合金にする。一度特大の板で作った後、爆発的に上がった魔法防御を苦労しながら『クラフト』で突破して各部位に合わせて切り分け成形する。膝部には小型でハイパワーなモーターを仕込み装甲で覆い、ドリルを装着。腕部は右腕外部へ術式を施し、魔力弾の圧縮率を上昇させる。左腕は掌に『障壁』と『結界』の術式を刻み、防御能力の向上を施す。最後、胸甲には獅子の顔を彫り込み完成する。
『看板娘』の無尽蔵とも言える素材の所持を前提とした趣味と閃きを全開で作った魔導鎧、多分『料理長』以外にまともに使える奴が居るのかすら疑問を抱くレベルのとんでも性能だろう。
《……依頼した身で言うのもなんですけど、やり過ぎじゃないですか?》
急に冷静にならないでくれ。出来上がる迄止める気配も無かったじゃないか。
「やれる事、出来る事、出来た事を詰め込んだロマンの塊だぞ。依頼通りだろ?」
《誰が此処までやれと言いましたか?》
「途中でやめろとも言われなかったがな」
呆れ返った反応してるけど、お前今にもコレ着て飛び出したいって表情してるぞ。
《コレの名前は有るのでしょうか?》
「え、あー……『
《何故か別の意図を感じる説明ですね》
そりゃまぁイメージしたのが同じ音を聞いたらロボ好きが気付くネタだからな、右腕から魔力弾の時点でコレが思い付いたくらいだし。胸に獅子と膝にドリルも察せる部分だ。
「後は専用のハンガーを作れば終わりだな、鉄とかあるか?」
《ええ、まぁ……金属の持ち合わせが心許なく成りましたが鉄ならまだ余裕が有ります》
そう言って出される100kg程の鉄。『看板娘』って全部のアイテム所持してたりするんだろうか、なんて思ったが取り敢えずおいておこう。鉄そのままでは無理なので、全て魔鉄化して形成する。『我駕牙』専用のハンガーを作り、空間投影型ディスプレイを展開するギミックを仕込む。『鑑定』スキルを応用した鎧の状態確認を可能とする機能を盛ったので、不調が見えたら持ち込めるだろう。
尤も、コレが不調になるとか予想も出来ないのだが。
《ハンガー含めて、凄まじい品物をありがとうございます》
「ああ、なんて言って良いのか分からないレベルで済まないな」
凄まじいとか、大分言葉を選んだな。
《今更このレベルの装備が出来て、私は何と戦えば良いんでしょうか?》
「現実とか?」
《貴方に力の差と言う現実を叩き付けてあげましょうか?》
「ごめんなさい」
くそ、ステータスじゃ勝てないから力を持ち出されると何も言えない。
《ま、コレだけの働きに何の報酬も無いのは仁義に悖るので……此方をどうぞ》
「……え、マジ?」
渡されたのは『我駕牙』を作る際に最初に渡されたのと同じミスリル50kg、オリハルコン30kg、アダマンタイト20kgである。コレだけ有ればダリアの鎧は『卵』の素材だけで足りるだろう。
《……人間でしか無い貴方に、姉さまの事を少し教えてあげます》
「おい、『天使長』がどうしたって? あの人、何か困ってるのか!?」
《落ち着きなさい》
『天使長』の事、と言われて思わず焦る。ゲームの『看板娘』イベントは終了しているが、時間軸的には再び『天使長』が襲われてもおかしくは無いのだ。もし、あの人に再び悲劇が訪れるなら俺は全力を持って阻止しなければならない。
それで例えこの世界に居られなくなる事になっても、あの人には心を救って貰った恩を返さなければならない。
《姉さまは普段、貴方の何気ない日常を守る為に行動をしています。少なくとも貴方が人としての一生を終える迄は、この街の平和は保たれるでしょう》
「……人としての一生、か」
《はい。しかし、それは貴方の子供やその子供達までは対象としていません》
「それは、そうだな」
『天使長』にとって、あくまで恩が有るのならそれは俺だけなのだろう。俺の子供達にまでその庇護は働かない、当たり前の事だ。
《もし、未来の子供達を平穏に暮らさせたいのなら……ダンジョンの最奥を目指しなさい》
「……は?」
《姉さまがその力を振るい、かのダンジョンの最奥に封じた厄災を滅ぼす。それが貴方の子供が平穏に暮らし続けられる条件です》
ダンジョンの最奥。この『ワールウィンド』が生まれた切っ掛け、ダンジョンを生み出す存在が待ち構える場所。ゲーム時代、最高難易度として用意されたそれを俺が目指す……それは非常に難易度が高い事だ。
《仮に、貴方がそれを目指すのなら……その時は私も力を貸しましょう。ただし、条件を満たせばですが》
「その条件って?」
《姉さまを含めた全ての姉妹の協力です》
何とも難易度の高い事を言ってくれる。今回の『料理長』で考えるなら最終装備の強化が前提じゃないか。
《それが叶った時、私は私の力を用いてこの街の未来の為に戦います》
真っ直ぐにそう言ってくれる『料理長』の目に嘘は見えない。
子供達の困難は子供達で切り開くべきかも知れない。しかし、ちっぽけな俺でも出来る事が有るのならやるべきだろう。
《それはそれとして、私は貴方が姉妹を誑す事に協力はしませんので》
「いい加減俺をタラシ扱いすんのやめないか?」
《タラシなのは事実じゃないですか。姉さましかり、私だって……》
「……は?」
《いえ! 違います! 違いますからね!!》
『料理長』は焦った様子で否定してくる。もしかして『看板娘』って、恋愛経験無くて危ういんじゃなかろうか?
悪い男に捕まらなければいいが。
《兎に角、今回は帰ります! また何か作って欲しくなったら来ますので、その時はお願いしますね!!》
「ああ、分かった。包丁とか欲しくなったら来るといい、会心の逸品を打つよ」
《あ、それは純粋に楽しみですね。それでは失礼します》
優美にカーテシーを決めてから、鎧とハンガーをインベントリにしまって『料理長』は帰って行った。
俺の人生の目標になり得る、ダンジョン最下層の到達。
子供達の未来の為の目標が出来た気がする。
それはそれとして、先ずはタチアが伝えて来た学生運動を何とかするのが直近の目標だけどな。
【裏設定説明天使長】
《システムアナウンス!『天使長』がこの世界の事をお教えします。本日のお便りは此方! ででん♪》
『料理長』
《はい、この私『天使長』の2番目の妹である料理上手な妹です。身長は155cmとダリアさんに比べて少し大きい程ですが、とてもスタイルがいい子ですね。姉妹の中では私の次に大きいんですよ、何処とは言いませんが。家事は料理以外は壊滅的で、部屋を片付けられず逆に散らかしてしまう片付けベタです。その事は本人も気にしているので、決して誂わないようにお願いします。最終的には泣いてしまうんです……泣かせたら私も剣を抜きますのでそのつもりで。皆さんの感覚で言うと重度のオタクで、ロボットとかも好きですがアイドルとかも好きですね……ただし2次元に限るとの事ですが。気安く接する相手を苦手としていて、コレは特にグイグイと距離を詰めてくる相手はダメです。趣味はぬいぐるみやフィギュア、漫画の収集です。好きな物は最近だとお昼寝してるネコの姿みたいですね。少しは妹の事が知れましたか? よろしければ、今後とも妹達の活躍をご期待下さいね。それでは、システムウィンドウを閉じますね。またいつか〜♪》
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン