既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
虎熊四葩関連イベント発生
部屋に連れ込んだエテルに覆い被さり、収まらない怒張をその膣内に挿入する。絶頂を迎えた後故に、感覚が過敏になっているエテルは俺の愚息に対して過剰とも思える反応を示す。背を仰け反らせ、高く甘い声を上げて膣内が収縮する。その動きに陰茎と亀頭を同時に愛撫されたかのような快感が襲い、思わず射精しそうになる。
やはり、此方も一度射精した直後なので感覚が鋭敏になっている。『性魔術』の影響か、回復速度が上がっている為に即座に発射しかねなかったが何とか耐えた。次弾だから耐えられた、初弾だったら耐えられなかった。
そうしてエテルから与えられる快楽に耐えながら、その身体を貪る為に腰を振る。腰の動きをそのままにエテルとキスをすれば、互いに舌を絡め合う深い物になる。二種類の水音を室内に響かせて、互いの身体を貪り合う。
限界が近付いて身を起こし、腰の動きを速める。エテルの両手首を掴んで離れないようにして、本能のままに最奥へ精をはなつ。射精の快感で震える腰を、エテルの脚が逃さないとばかりに挟み込む。痺れた脳髄は思考回路を失っていて、ただ愛しい雌へ種を仕込む事を求めるだけだった。
荒く息を吐いていると、額から零れ落ちた汗がエテルの顔に掛かる。エテルはその汗を指で拭って舐め取る、そんな姿にまた性欲が刺激されて愚息が硬度を取り戻す。
いや、流石に回復早過ぎないか俺?
そんな疑問を抱いている余裕は無く、身を起こしたエテルが俺を押し倒して上下が逆転する。俺の両手を指を絡める所謂恋人繋ぎで握り、腰を動かし始める。夢魔の技量で振られる腰は、俺の理性を簡単に崩し俺の本能を剥き出しにする。精を吐き出したばかり、それも連続なのにも関わらず精子を増産し続ける陰嚢が次弾の用意を早々に始めているのが何故か分かる。もしかして俺、エテルとヤり過ぎて淫魔に片足突っ込んでたりしないだろうか?
そんな事を考えていたら、身を倒して来たエテルが耳元で囁いて来た。
「ねぇ、このままだして。わたしをはやくはらませて。あなたのあかちゃんがほしいの、せつないの」
子供っぽい口調でとんでもない台詞だったが、どうも俺の本能はその言葉を快く受け入れたらしい。『性魔術』で強化された性欲により精子が凄まじい勢いで増産され、エテルの膣内を満たす量を作り出すつもりのようだ。これがエロゲ世界か、改めて思うととんでもない身体である。もっと違う事にリソース割けと思う。
エテルの手に力が入り、俺の手を強く握る。それに合わせて膣壁が大きく動き、俺の愚息を搾り上げる。自然と腰を上に突き上げエテルの腰と深く繋がり、一瞬気を失う程の快感と共に射精した。陰茎の道を通る熱い感触を感じ、力強く吐き出される精子が感じ取れた。命を捧げるかのような、そんな開放感。エテルの膣内を満たし、俺の愚息で栓をしているにも関わらず結合部から漏れ出している。
いったいどれだけの量を射精しているのだろうか、エロゲファンタジアな世界とは言えこんな量経験したことが無い。
遂には腰が抜けたのか俺の上に倒れ込んでくるエテル、荒い息を吐き続けるそんな彼女を労る様に頭を撫でる。気持ちよさそうな表情で俺の手を受け入れるエテルをそっと抱き寄せて、その額にキスをする。
瞬間、急激な眠気に襲われて瞼が落ち始める。何となく目を閉じたくなくて、必死にエテルの顔を見ていようとするがそっとエテルに目を手で塞がれて唇にキスをされた。
「おやすみたたら、いいゆめをみてね」
そんな言葉と共に意識が暗転する。
この夜は夢を見た。父さんと母さんが生きていて、二人にエテルを紹介して結婚を許してもらう夢だ。父さんはマジかみたいな顔をしていて、母さんは心から喜んでいる様子だった。場面が変わり、バーラルさんとエテルのお母さんへ挨拶に向かい、バーラルさんから散々言われた後二人で酒を飲んで和解する。そんな夢。コレは夢想の絵画だ。叶うことの無い、幻想の日々。
きっと、バーラルさんが生きていたら俺とエテルは出会えなかっただろう。俺の両親が生きていたのなら、俺はエテルに好かれる人格にはなっていなかったと思ってる。
かつてはエテルが幸せならば、それでも良かったと思う。今では自分の手で幸せにしたいと思う、醜い男の独占欲。
そんな夢を見て、目が覚めた。
朝、スッキリとした頭で目が覚めた。同じタイミングで目が覚めたエテルが柔らかい笑顔で挨拶をしてくる。
「おはよ、タタラ」
「おはようエテル」
そのまま触れるだけのキスをして、何方からともなく笑い合う。汗やその他の体液で汚れたシーツを洗濯機の中に放り込み、二人で夫婦風呂に入る。
昨夜あれだけ求め合ったのに、結局朝から浴場で欲情をかまして合体した。エテルの身体はどうも完成が見えてきたらしい……何か腰が細くなってる割に胸と尻が大きくなってきたような気がするが多分気の所為だと思いたい。真実に気付いたらヤバい気がする。何となく二人で湯船に浸かってる時にエテルの下腹部に手を添えていたら温かい気持ちが流れてきた気がする。いや、まさかな?
風呂から上がり、エテルに朝食を任せて俺は工房の掃除に入る。今日は陽出國から鍛冶師を招くのだ昨夜の汚れや臭いをそのままにするのは流石にアレ過ぎるだろう。ダリアからすれば俺が作った作品は俺の子供も同然らしいので『クラフト』は子作りに当たるのだろう。やかましいわ。工房でナニしてんだと言われたら、子供を作っていたので『クラフト』です! なんて言った日にはぶっ殺されても文句言えない。
清掃と消臭を終えて、序に換気も行ってリビングへ向かう。台所ではエテルと駄狐が並んで朝食を作っていた。庭先では四葩と雛菊さんが打ち合いをしているが、何となく型稽古にも見えるゆっくりとした動作だ。身体に型を馴染ませて、無意識下でも最短で最適な動作を行う為の稽古なのだろうか。ゆっくり動くのは変な癖を身体に覚えさせない為に必要なのかも知れない、戦闘の才能が無いとこの辺理解できなくて勿体ないな。
「タタラ、ご飯出来るから二人呼んできて!」
台所からエテルが俺に向けて声を掛けてくる。片手を上げて了承し、俺は四葩と雛菊さんを呼びに向かう。そう言えば、まだダリアが起きてないな?
「ぐぬぬ」
「どうしたでござるか雛菊、昨日といい何時もは語っている評価が聞こえぬでのざるよ?」
駄狐が作った食事に対して複雑そうな表情を浮かべる雛菊さん、対して余裕の表情を浮かべる駄狐。エテルがスープを担当し、駄狐が主菜を担当する形で出したのはプレーンオムレツとソーセージと此方の料理だった。エテルが出したのはオニオンスープで、朝から機嫌が良くなる献立だった。オムレツを切り分けると中まで確りと火を通した固めの焼き加減、しかし口当たりはふわりとしていて丁寧に溶かれた卵の舌触りは滑らかだ。半熟も好きだが、出汁巻きに近いこの舌触りも良い。焼にはバターとオリーブオイルを使ったのだろう、コクと植物の風味がマッチしていた。
「その、ご主人。お口に合うでござるか?」
「ああ、とても美味い。今度は出汁巻きも食べてみたいな」
「っ! 任せるでござる、得意料理でござるよ!」
不安そうに聞いてきた駄狐に素直な感想とリクエストを頼めば、名前の通りに花が開いた様な華やかな笑みを浮かべる。うん、朝から眼福だな。
そして、そんな俺の様子を見ていたエテルも楽しそうな様子だ。どうも俺が駄狐の笑顔を引き出す姿を見て嬉しくなったらしい、そしてそんな俺達を見て四葩が箱推しを発動させる。幸せスパイラルだな。雛菊さんを抜かして。
「く、うぅ……駄狐めぇ! 何故この様に美味い玉子焼きを作るのか!?」
「食べてくれた人が笑顔で美味しいと言ってくれるのを見たいから、でござるよ。拙者なりの『料理は愛情』の実践でござる」
「ぐうの音も出ない正論だな」
駄狐の『料理は愛情』の理論は俺も思っている事だ。食べる人の笑顔を見る、その為の努力を愛情と解釈している。エテルの場合は俺の笑顔を見たいから、とかで味付けが俺に特化している。これも愛情と言えるだろう……大分直接的か。
「昨日言った通り、今日は四葩達と中央に行くのと今日から鍛冶師が一人寝泊まりするからな」
「あ、寝泊まりは此処なんだ? どんな人なの?」
「アマツって名前の偏屈な爺さんって聞いたな、顔は知らないが……四葩は知ってるか?」
「いや、妾もアマツと言う御仁は知らぬのじゃ」
四葩も知らないのか、アマツって鍛冶師は。ただ、駄狐がアマツって名前に変な反応をしていた。ただ、何となく触れてほしく無さそうな雰囲気だからスルーだ。いつか話してくれた時は真剣に聞こう。
「所で、ダリアはまだ起きてこないのかな?」
「夢の中で専用の魔導鎧着てウハウハなんじゃね?」
「ご主人、流石にその扱いは可哀想でござるよ」
そんな会話をしていたら、ドタドタと廊下を走る音が聞こえて来た。リビングに勢いよく入って来た寝起き姿全開のダリアは、開口一番に叫ぶ。
「マスター! 私の魔導鎧は何処ですか!?」
「まだ素材不足で出来てねぇよ、顔洗ってこい」
夢から覚めてない模様のダリアにそう言って、食事を再開する。
ダリアは俺の言葉が理解出来て居ないのか、小首を傾げている。
「マスター、私の魔導鎧ですよ? 空を飛び、音を越え、奥様を越えるバインボインになる夢の機能が付いたあの鎧です」
「前二つは設計段階で搭載するのを見せたが、最後の機能は俺の技術を越えている。他の機能を言え」
ダリアの身体をどうやればエテル越えのスタイルに出来ると言うのか、そもそも身体に肉が付いてないのだから何処かから持ってこないと無理だろ。雛菊さんの腹肉貰ってこい。
「……何故、どうしてそんな嘘を吐くのですマスター。あんなに燥いで私の巨乳を弄んだではないですか」
「お前は弄べぬ虚乳だろうが、いい加減夢から帰ってこい」
俺の言葉で漸く現実を受け入れたのか、ダリアがその場で崩れ落ちた。
「……見事なorzでござる。ジャスト一分、いい
ペットの立場でも奪還したんかお前は。
「何故……何故ですか、機械神様! 何故貴方は私に授けて下さらなかったのですか!? コレではあまりにも救われないではないですか! せめて……せめて四葩様程も有れば私にも挟めたかも知れないと言うのに!!」
「おう、言うに事欠いてこの場で妾を名指しするとは良い度胸じゃな?」
ダリアの言葉に青筋を立てる四葩、口元もヒクヒク動いてて大分キレてる感じがする。
そんなやり取りを聞いていたエテルが、脳裏に俺の愚息を思い浮かべているのか少し目線が遠くなっている。そして、二人に向けて口を開く。
「……トラッちゃんサイズじゃタタラのを挟むの無理だよ? 最低でもチーちゃんサイズ無いと」
「なん」
「じゃと」
ダリアの言葉に被弾した四葩を、更にエテルが二人とも消し飛ばす勢いで追撃した。いや、自分の愚息のサイズを話題に出されて居た堪れないのだが。あと駄狐、気になってもチラチラと視線を股間に向けてくるな。
「取り敢えず、ダリアは早く飯食ってくれ。今日も潜って『卵』の素材集めて来るんだろ?」
「そうでした」
俺の言葉に対して即座に復帰したダリアは、席について食事を開始する。そのあまりの切り替えの速さに、四葩が呆然と言った具合で視線を向けている。コイツはそう言う奴だぞ、四葩。
迎えに来たタチアにエテルとダリアを任せ、残った俺達は軽く所用を終えたあと家を出る。服装は四葩曰く畏まった服装では無く、失礼が無い程度の格好と言われて盛大に頭を悩ませた。結果としてフォーマルカジュアルと言った服装を選んだ。ハイネックにジャケット、下はカーゴパンツだがスマートなラインの物を選んでいる。
四葩は以前俺が選んだトラディショナルスタイルで、今更気付いたが俺の服と色合いが調和する組み合わせだった。
「ふふ、偶然じゃろうが……こうして並ぶと恋人のようじゃのう」
自然と俺の腕を抱く四葩に、何となく気恥ずかしさが出て顔を逸らし鼻の頭を掻く。駄狐は俺の普段着に近い物では無く、『ワールウィンド』で一般的な平服を着用している。
「……駄狐は黙ってれば美人だよな」
「きゅうん……」
何か語録を返してくるかと思ったが、何も言えずに駄狐が顔を伏せる。両手で耳を押さえているのは何か特殊な意図が有るのだろうか?
で、一番の問題児だ。
「……陽出國から着て来た服にして下さい」
「いえ、私も此方の服を着て行きたいのですが」
「陽出國から着て来た服にして下さい」
流石にデカデカと『食っちゃ寝生活』とか地方言語で書かれたダサTを着てる奴を中央に連れていけないのだが。都市長に見られたらぶっ飛ばされるぞ、カラムスさんに。
「……のう、タタラ。この服に描いてある模様、もしや言語だったりするのかの?」
「すこし遠い地方の言語だな」
「読めるかのう?」
「『食っちゃ寝生活』だ、流石に都市長とか読める人の前に連れて行けない」
「今の雛菊にピッタリ過ぎて逆に恐ろしくなるでござるな」
流石に前に着てた『働いたら負け』の方がマシ……か? 3着目の『安定の豚』も含めて着ていける服が無いぞ雛菊さん。
「……そういえば、雛菊が服を買う時にご主人再三確認してたでござるな?」
「読める人間からしたらとても着させられねぇって」
当人に頑なに拒否されたけど。いや、知らない人が模様として見たなら格好良く見えはするのだ……理解出来る人間からしたら正気を疑うだけで。エテルはそこまで広く語学を修めていないからツッコミを入れられなかったが、中央で働く人間に読めない奴など当然いない。当主代行達が読めなければワンチャンその場は誤魔化せるが、読めたら最後物理的に首が飛びかねない。
「……分かりました、ならば以前高級な服屋で買ったあの服で向かいます」
「……成る程、アクセサリーを着けなければアリだな」
ダブルボタンで軍服をイメージしたデザイン、色もあまり派手さが無いからアクセサリーさえ過剰に着けなければ雛菊さんにの残念さは隠せる。そう考えるなら選択肢としては良いとも言える。問題は、普段の食事量で腹回りが増えてたら着れないと言う点だが。
その後、試着したら着れたので安堵した。しかし、以前着た時に比べ胸元が苦しくなっているとの事でそれを聞いた四葩が胸の前で手を上下させていた。スカッて音が聞こえそうだからやめてくれ。
昼前に中央に着き、都市長達の待つ会議室に入る。中に居たのは都市長とカラムスさん、法務長と財務長に外交長。そして見慣れない老婦人。
「おはよう御座います。お待たせして申し訳ありません」
俺達以外が揃ってると判断して謝る、しっかりと腰を折って頭も下げる。
「おはよう、いいわよ時間の指定を特にしていないのだから」
都市長に赦しを貰い、姿勢を正す。法務長や財務長も目礼で挨拶をして貰ったので黙礼で返す。外務長は無視して、見慣れない老婦人に声を掛ける。
「初めましてタタラ・ジュロンです。宜しくお願いします」
自己紹介をして礼をすると、老婦人はパンッと勢いよく扇を広げて口元を隠して言葉を放ってきた。
「初めまして、内政を取り仕切る長を務めておりますわ。以後よしなに」
内心は分からないが確りと挨拶は返してくれた。何となく、コレはキャラを作ってるとそう感じる。俺の後に四葩も挨拶をするが、俺の時と特に態度は変わらず。しかし、内政を司る長が何故此処に?
法務長と内政長はその方向性が近いが別だ。前回法務長に話した街灯の話ら法律に於いての問題点を確認したが、光量や点灯時間等の設定は内政長の分野になる。各部門の長を集めて会議をするなら、この場に呼ぶものでは無いはずだが。そんな疑問を抱きつつ、都市長が魔導具を起動して会合が始まった。
「お久しぶりです、当主代行……いえ、代行は外れましたか?」
『久し振りだな、タタラ殿。前回華澄にとんでもない土産を渡してくれおってからに此方は上へ下への大騒動たぞ。継承の義はまだ故、代行のままで構わぬ……何なら
悪戯っぽく笑う当主代行の言葉に、一瞬面食らう。しかし、そちらがそう言うなら俺も乗ってやろうじゃねえか。
「それでしたら
俺の返しに対して当主代行も一瞬面食らった様子だが、直ぐに取り繕う。距離感が気安くなり過ぎている気もするが、あまり距離が開くのもなんだろう。
『これまでと同じく代行で構わんと先に言ったぞ?』
「分かりました、当主代行」
そんな俺と代行のやり取りの後、四葩が前に出る。
「お久しぶりです、父上。息災なようで良かったのじゃ」
『おお、久し振りだな四葩! その装い、そちらの平服か? 可愛らしいではないか』
「ありがとうなのじゃ、タタラが選んでくれた服で気に入っているのじゃ」
『あら、タタラさんが?』
四葩と代行の会話に、横から声が割り込む。お義母さんだ。
『エテルさんを見る限りもう少し肌を見せる服を好みそうですが、意外ですね』
「いえ、陽出國の着物があまり肌を曝さない物なので可能な限り露出を減らす方向にしました」
『ふむ、及第点と言った所だな』
お義母さんの疑問に答えたら、当主代行から及第点を貰った。選択した理由としては妥当と取って貰えたか。しかし、四葩がエテルのチョイスを選ばなくて助かった。何を言われていたやら。
「失礼しますわ、当主代行様」
『む、此方こそ失礼した都市長殿』
家族の国際通話に割り込む上司、みたいな居た堪れなさが有りそうな都市長が会話中に挨拶をしにくる。取り敢えず、今回の会合の内容は事前に伝えられていたので前回の様に脇に反れる事の無いようにするべきだろう。何となく、虎熊家の因子で会話が迷子になりそうな怖さは有るが。
『タタラさん、お久しぶりです』
「あ、婦じ……お義母さん。お久しぶりです」
危ない、婦人って呼ぼうとしたら一瞬目から殺気漏れたぞ。
個人で挨拶を交わしていなかったから此処で差し込まれるのは良いとして、何か有るのだろうか?
『持たせて貰った御土産、良い物でした。どらいやぁで髪は潤いを保ち傷みを癒されましたし、扇も素直で癖が無く作り手の真心が見えました』
真正面から褒められるとやはり照れる、顔に血が昇って赤くなってる感覚がした。
「む、母上もタタラから扇を?」
『ええ、鉄扇……とは少し違いますけれど』
そう言って袂からミスリル製の扇を取り出す。四葩はシンプルな拵えでは無く、全体のバランスから俺が作ったのだと理解したらしい。なんかこそばゆいな。
『四葩とお揃いというのも趣が有りますね』
「母上の審美眼に叶うタタラの製作能力に何と感想を言えば良いのか分からんのう」
「……お義母さんが使ってる扇って、もしかしてとんでもない値打ち物だったりするか?」
「簡単に言えば、妾達の國で祭事にて使われる神器の一つなのじゃ。それを国宝と称される職人が母上用に調整した代物じゃよ」
「うわっ」
想像を越えてヤバい物の話を聞いた、国を挙げての祭事に使われるって国宝とかそのレベルじゃねぇかな。何より、それを預けられているお義母さんがヤバい。神事にて神に奉納する舞を任される立場なのだろう、四葩が舞踊を先天的に持ってた時は後継者としても期待されたんじゃなかろうか?
『ところでタタラさん、何か新しい作品はないのですか?』
何処かワクワクと言った様子で聞いてくるお義母さん。
「えっと、依頼を受けて作ったのが有りましたがもう相手に渡してしまっていて」
『あら、それは残念ですね。どの様な物だったのですか?』
「はい、武器と盾ですね。武器は……あ、四葩に似たのを作ったから後で参考の為に出してもらおうかな。いいか四葩?」
「む? 構わぬぞ、母上も物を見たいじゃろうしな」
「ありがとう。で、盾の方ですがオリハルコンとミスリルそれに少しのアダマンタイトを複合鍛造して強度を確保してます。『結界』と『念話』の術式を刻んで親機にして、6枚の『結界』と『感応』の術式を刻んだ小さな盾を操り、盾の間で結界を展開する魔導盾を──」
『タタラさん、待って下さい頭が追い付きません』
説明している最中でお義母さんから一旦停止を求められる。そうか、お義母さんでも口頭だと混乱させるか。ダリアは居ないがワードプロセッサは有るし、空間投影型のディスプレイも有るから設計図を投影しながら説明しようか。
そう思ってインベントリからワードプロセッサと空間投影ディスプレイを取り出す。
「待てジュロン」
そうしていると背後からカラムスさんから声を掛けられた。しまったな、流石に説明するのに大型の装置を取り出すのは拙かったか。
「あ、すみませんカラムスさん。流石に設計図とか使っての説明は拙かったかですよね」
「違う、実際に戦闘した私の所感も有れば解像度とやらも上がるだろう。何故、声を掛けない」
「確かに!」
「騎士殿はやはり阿修羅でござるっ」
おい駄狐、久し振りの語録が大分マイナーな所だがいいのか?
まぁ、語録にはルール無用か。
『……四葩、タタラさんが大分凄い事になってますよ?』
「ここ最近鬱憤が溜まる場面が多かったみたいだったのじゃ、分かり難いのじゃがアレもタタラなりの甘え方なのじゃと思う。コレだけ濃いくらふとの話をしても引かれたりしない信頼が有るんじゃろう」
『タタラさんも苦労をしてるのね……』
何やら母娘の会話をしている様なので、少し待機する。設計図が問題無く入っている事を確認したワードプロセッサを弄っていると、法務長が話し掛けて来た。
「次期工匠長、少しよろしいですかな?」
「あ、はい。何でしょうか法務長?」
「そのとんでもない盾を依頼した人物が誰か伺っても?」
「癒しの乙女教会のシスター・カレハですが」
「……分かりました、ありがとう御座います」
法務長、シスター・カレハの名前聞いて頭抱えちゃったよ。見た目の年代が近そうだし、もしかしたら現役時代を直接知ってるのかも知れない。俺もバカから聞いてドン引きしたエピソードをリアルタイムで聞いていた人なら、この反応も当たり前か。
「タタラ・ジュロンさん」
と、法務長の会話が終わるタイミングで別口から声を掛けられた。顔を向けると内政長が立っていた。
「はい、何でしょうか内政長」
「シスターへの武器供与の理由は何でしょうか」
「制作依頼を受けたから、ですが。何か法に引っ掛かりましたか?」
「宗教関係者への武器供与その物を罪に問う法案は有りません、確認したいのは『ワールウィンド』の法である『鉄製品の作製依頼』を満たしているかですので」
「え」
ヤベェ、そう言えば普通に受けてたけどシスター・カレハって『ワールウィンド』で武具頼むの初だったんじゃないか?
持ってた武器のリメイクみたいな物だから普通に受けてたが、肝心な所を確認し忘れてた。
「む、パラディン・カレハが鉄製品の依頼を必要とする程に実力が足りていないという事は無いだろう?」
そんな俺達の会話に横から入って来たのはカラムスさん。まぁ、鉄製品の依頼ってその人が最低限の実力を持っている事を示す方便と言うか在学中の学生や卒業直後の探索者がいきなり強力な武器を持って調子に乗らない為の措置みたいな物だからな。正直、都市最強であるカラムスさんと打ち合える実力の人にその資格を問うってのがアレではある。
「騎士カラムス、聖人である貴女が認めようともコレが『ワールウィンド』内の法です。内政を司る長として見過ごすわけにはいきません」
内政長、ド正論言われると何も言えんのですよ。とは言え、実は解決策と言うか何と言うか言い訳は出来ていたりするのだ。
「内政長、一つ確認ですが」
「はい、何でしょう」
「作製依頼を受ける際に必要な素材を自力で集めて来る者を対象とした場合、その制度において素材の制限は如何ほどでしたか?」
「……実質上限は有りませんね」
「では『ワールウィンド』外で取得した装備を新調する場合において、預かる事が出来る武具の素材の制限はどうでしょうか」
「……有りませんね」
「では最後に。相手が持ち込んだ嘗て使っていた武具にミスリル、オリハルコン、アダマンタイトが含まれていた場合クラフター自身が加工可能である上で断る義務はありますか?」
「……有りません、ね」
「以上を持ちまして、シスター・カレハが持つ旧来の装備を新調した自分に非が無い事を証明します」
「……詭弁ですね」
「はい。しかし、ルールには従っています」
かなり無理な誤魔化しでは有るが、一応これもルールになってたりする。タチアと四葩に対してシスター・カレハの決定的な違いとして、過去に明確な活躍をしたと記録が残っているか否かが有る。タチアと四葩は若い上に、都市の外で明確な活躍の記録が無い。その為、『ワールウィンド』内で初めて武具を作る場合に鉄製品の依頼と言う形で実力を示す必要が有る。
対してシスター・カレハには明確に活躍したと言う過去の記録が有る。それも公平と公正な闘争を司る軍神様の教会に所属するカラムスさんがそれを保証しているのだ、ここ迄揃っているならば実力無しとは言えない。……まぁ、成りすまされたらどうにも出来ないルールだったりするのだが。
「……分かりました、シスター・カレハとの作製依頼は法の内側で行われた事を認めます」
「ありがとう御座います……次は無いように努めます」
「お願いしますね? 工匠長がルールを破ると次が続いてしまいそうなので」
内政長の懸念はそこか、法務長のやる仕事スレスレの仕事だが内政にも引っ掛かるんだろう。俺が原因で『ワールウィンド』内のルールを変えるのは心苦しいし、きちんと協力を心掛けよう。
何故か心掛けてもお前は出来ないだろと言われた気がしたが。
『ではタタラさん、どの様な盾を作ったのか伺っても?』
「あ、はい。お待たせしまして申し訳無いです。それではまず概要なんですが──」
お義母さんに呼び掛けられて、解説を開始する。ワードプロセッサを起動してシスター・カレハの為に作った盾、開発名『カラガナ』の性能や機能を説明していく。脇で聞いてた法務長と内政長が顔を青くしてた気がしたが、何か有ったのだろうか?
まぁ、開発時に使用した技術の話をして武器と揃って80億前後とその場に居た都市長に値を付けて貰ったと言ったら法務長と内政長だけでなく財務長まで頭を抱えていたが。いや、財務長は胃を押さえてたな、駄狐が以前渡してた胃薬あげてたし。
カラムスさんが実際に模擬戦を行いどれだけ厄介で強力な盾かというのを所感を混ぜて語った為に、お義母さんも大分興味を持ったらしい。しかし、作ろうにも素材が無いから無理なのだが。
『……タタラさん、魔法金属の合金化に成功してるのですか?』
「コレを合金と言えるのならそうですね、ミスリルとオリハルコンにアダマンタイトを重ねて打って折り曲げただけですが」
『一つの製法として見たのならば素晴らしい出来だと思います、我が國から職人を送る意味が有るのかしら』
「それは俺の我が儘では有りますが、刀の製法を教えて欲しいですね」
『あら、我が儘と?』
「好きな女の手に自分の刀を持たせたいなんて我が儘以外ないでしょ?」
『あらあらまぁまぁ!』
俺の言葉を聞いたお義母さんが目を輝かせている、他にも手入れの出来ない状況下で武器を労り本気を出せない状態では四葩が危険だからってのも有る。
「ご主人ご主人」
「うん? どうした駄狐」
「拙者、ご主人が打つ忍刀が欲しいでござる。四葩お嬢様の刀の前に試作品として打っては貰えぬでござるか?」
「ふむ……」
確かに、駄狐の武器も此方で補充が出来た方が良いだろう。問題が有るとしたら駄狐の分の素材だが。
「作るのは構わないんだが、素材は?」
「里から此方に来る際、いざという時に換金出来るように蓄えを持ってきているでござる。幾つかの忍具と合わせて作って欲しいでござるよ」
「有るなら良いぞ。ただ、さっき内政長が言ってた通りダンジョンで鉄を採ってきてくれ」
「分かったでござる……コレでいいでござるね?」
了承の返事を貰った直後、インベントリから鉄のインゴットを一つ取り出してきた。訝しみながら『鑑定』を掛けてみれば、本当に『常闇の洞』から採ってきたインゴットだった。
「マジか……」
「拙者、手癖が悪いでござる。ちょっと一つばかしくすねたでござるよ」
「いや、一緒に潜った時に『盗む』スキルの分捕りでも使ったんだろ? なら問題無いさ」
「……なんで直ぐに分かるでござるか?」
「え、駄狐の事だし普通だろ?」
「コレで口説いてる自覚無いってマジでござるか……」
また女誑し扱いされるのか、酷くね?
「んで、何が欲しいんだ?」
「……苦無と言って伝わるでござるか?」
「おう、分かった。作った事は無いがそれっぽいのは此方にも有るから大丈夫だ」
「伝わったでござる……」
何処か呆れた風な反応の駄狐にどう反応するか迷いつつ、預かった鉄のインゴットをインベントリにしまう。一つ200gで5本作るかな。
『タタラさん、此方から送る相手に
「え、お母さん!?」
お義母さんの言葉に驚いた四葩が思わずと言った声を上げる。いや、俺も驚くわ。陽出國の帝都守護を任された領主の家とはいえ、普通に3大魔法金属をポンと出せるものではない。
それだけ愛情が深いってのと、俺の技術を吸収させる為だろうな……コレはマジで刀鍛冶への期待が大きくなるな。
「任されました、可能な限り技術を吸収して渾身の逸品を打ち上げます」
『宜しくお願いしますね? ところで……四葩の武器はどの様な?』
「あ、それはですね」
「余りにも早い話題の移行、拙者でなければ見逃してるでござる」
おう、手刀とか見逃さないけど実力差見極められない人の台詞は辞めろ。
その後、四葩にソードメイスを出して貰い武器の方向性を説明しつつお義母さんからの意見も貰った。四葩達鬼の膂力を活かせる武器としての選択だったが、お義母さん曰く鬼の男は膂力に優れ女は器用さに優れるそうな。その場でワードプロセッサを使い、橙色の髪をした死神代行が使いそうな巨大な牛刀に似た物を見せたら推奨されたのだ。尤も、四葩としては何も考えずぶん殴れる今の武器を気に入ってるみたいなのだが。
「後は……あ、鎧も強化したんですよ」
『あら、あの絡繰鎧をですか?』
「ええ、少し待ってて下さいね」
そう言ってインベントリから鎧用のハンガーを展開して『玄武・改』を架ける、アームが動いてガシュッガシュッと『玄武・改』を固定する様はやはり男の子の心にダイレクトアタックをかましてくるな。
『タタラ殿! 今! 今の凄い!! ちょっと1台欲しい!!』
『ちょっ、あなた!? おち、落ち着いて下さい!』
と、いきなり脇から普段真面目な姿を見せている当主代行が割り込んで来た。おう、少年の心が輝いておられる……同類だったか。後ろから殴られて止められる姿が印象に強いが、あのお義母さんが焦って止められない辺り相当だな。
「次期工匠長」
「え、あ。法務長」
「それ、幾らで買えますかな?」
「この人も同類だった」
法務長も目を輝かせてハンガーを指差してる、やっぱりこう言うガチャガチャしたの好きなんだよな男って。後で都市長から値段聞いておこう、俺の趣味全開の代物だし。
「えっと、取り敢えず鎧について説明しますね?」
『え、ええお願いします……あなた落ち着いて!?』
『う、うむ……こほん。済まなかったな』
「いえ、俺もコレ作った時本気で自分自身を褒めましたし。やっぱり良いですよね、こう言うガチャガチャしたギミック」
『分かる』
「男ならこういうの好きなのは基本ですからな」
当主代行と法務長が俺の言葉に同意してる、そして反応してない外務長がなんかハブられててウケる。この人、当主代行との会話にも参加出来てなかったっぽいけど大丈夫だろうか?
「さて、今回俺が簡易式魔導鎧を動力が手に入った事で強化するに至ったのがこの『玄武・改』です。以前のは着用者本人から魔力を提供させて鎧を稼働させていましたが、作製した例の『卵』を動力とする事で正しく魔導鎧として作製出来た物になります」
『初めて拝見した時は着用者の魔力で動いていたのですね……そちらの技術、進んでいますのね』
「まぁ、俺が作って俺にしか作れない技術になってますけどね。漸く俺の後輩達が作れる可能性を見せてくれましたが、此方でもまだまだ普及には遠いです」
『……タタラさん、なんだかお労しいですね』
何やらお義母さんから同情されてる気がする。後輩達には人造オリハルコンの作成を伝えてから教えるつもりだが、あの二人が更なる発展を齎してくれることを期待している。
「装甲は変わらず魔鉄を使用していますが、内部構造を大幅に変更してます。偶然手に入ったオリハルコンを脊椎付近と関節部に使用して、ミスリルを昇華して作成した新型人工筋肉の制御に充てています。コレにより使用者の意識とのズレを可能な限り減らし、更に強化術式も魔力の伝達率が上昇した事で出力が上がってます。今迄は出来なかった砲撃も動力を積んだことで使用が可能となり、その他にも──」
『すみませんタタラさん、技術の格差が大き過ぎて今の私達には理解出来ません』
お義母さんすらお手上げなのか、少し悲しい。
『タタラ殿、同じだけの素材を提供すれば同じ物は作れるだろうか?』
「ええ、素材さえ有れば出来ますけど……これ結構ヤバいですよ?」
「ざっと考えて10億を越える技術料ね、タタラしか作れない事も考慮したら30億ってところかしら?」
「しかもミスリルとオリハルコンは必須、作る相手の体重の半分はミスリル要りますからねコレ」
『血を吐きそうな素材要求だな……』
尚、他にもかなりの数の霊核が必要なので素材の金額考えると50億は余裕で越える可能性が有る。そう言えば、そろそろ当主代行も継承の儀が有るはずだが……何時頃だろう?
「あの、当主代行。聞きたいことが有るのですが」
『む、何かね?』
「当主の継承の儀が有ると思うんですが、何時頃になるんですか?」
俺の言葉に当主代行は顎に手を当てて考え、俺に向き合う。
『まだまだ調整中では有るが、三ヶ月程先になる予定だ』
「そこそこ離れてますね……」
『関係各所との都合が中々、な。もし決まればタタラ殿にも出席願いたい』
「ええ、その時は参加させてもらいます」
向こうとしては何百年と見つからなかった継承の証を見付けた張本人なのだから、参加を願うのも当然だろう。学園の卒業が近いタイミングだし、登校も半ば自由になっている時期だから基本的に問題は無いはずだ。……俺の卒業レポートがどうなっているかは分からないが。
『む、そろそろアマツを送らんと時差でボケるか……悪いがタタラ殿』
「はい、鍛冶師の受け入れですね。此方もわざわざ申し訳ありません」
『いや、元々が四葩を救ってもらった事の礼なのだ。遅くなって申し訳無い』
「いえ、此方こそ。それと、申し訳無いですが七日程でそちらへ帰って頂きます」
『それは……いや、そうか。前回聞いたあの件に関係するのだな?』
俺は黙って頷く。
当主代行は俺の言わんとする事を理解してくれた。学生運動さえ無ければ、一月二月……それどころか年単位で居て貰いたい所だが、流石にそれどころでは無くなってしまう。
一週間、それが俺に陽出國の歴史的技術を収めるまでに許された時間だ。
「では、俺達は受け入れの為に此処で」
『うむ、一刻後に華澄と共にそちらへアマツを送ろう。偏屈かつ言葉が旧く何を言っているのか分かりづらい上に直ぐ手が出るが、腕は確かだ。済まないが頼む』
なんだか属性増えてないか? 直ぐ手が出るってのは良いけど、言葉が旧いってなんだよ。
俺と四葩、護衛二人はその場を後にする。都市長達はまだまだ話し合う事が有るそうで、通信を続けていた。何となく、内政長が今回来た理由を考えていたが……まさかこの先の技術交流に対して都市内の法整備に関する事だろうか?
やはり俺にはこの手の政治的な思考力が無いな。
「さて、そろそろ一刻じゃの」
家に着き、着替えてから庭先の転移門前に今いる全員で並ぶ。はたして、どんな相手が来るのか。
そうしていると、転移門の柱の間に有る空間が揺らめく。水面に波紋が広がるように揺らいだ後、門の先の景色が変わる。以前よりも明瞭に見える虎熊家の庭。そこに立つ二人の人物。
一人は四葩の母、虎熊華澄。
そしてその隣に立つ、恰幅の良い老爺。
身長は俺より少し低いが、おそらく180cmは越えている。しかし、横幅は俺よりも有るだろう。肩幅がかなり広い上に筋肉質な腕だ。煤で汚れた作務衣に身を包み、袂から覗く胸筋ははち切れんばかり。豊かな髭と、短く切り揃えられた白髪。右目の瞼は閉じられ、開かれた左目は黒真珠を思わせる。そして、左右非対称の長さを持つ二本角。鬼、それも見た目よりも遥かに生きた存在だろう。
「初めまして、本日より鍛冶を教わります。タタラ・ジュロンです、宜しくお願いします」
丁寧に挨拶をする。これから俺に刀について教えてくれる相手だ、敬意を持って接しなければ。
老爺は頭を下げた俺に目を向け、重々しく口を開く。
「こんからぁ世話んなぁアマツいう、よろしゃあな小僧」
……なんて?
おまけ
「クソッタレが!」
ガンっとテーブルにコップを叩き付ける音が響く。
此処は商店区から外れた小さな酒場、悪態をついた男は学園の学生である。
男は矮小である。プライドだけが肥大し、若さ故の万能感で行動し、様々な相手に迷惑を掛ける。そのうえで、結果が振るわなければ他人にその積をなすりつける。それは何処にでも一定数存在する、小さな悪だった。
この酒場は荒くれや破落戸、後ろ暗い連中が集まる店だ。都市を運営する者達には汚物と認識されるも、下手に摘発すればそう言った人間達が行き場を無くし無辜の民を傷付ける。その為目溢しをせざるを得ない必要悪だった。
矮小な男は空になったコップに舌打ちを一つうち、店主へ酒を頼む。
男は昨日までパーティのリーダーをやっていた。しかし、見た目の良い女を侍らせるクラフターへ喧嘩を吹っ掛けた挙句埋めようの無い格差を見せ付けられた。結果、パーティは解散し男は独りになった。
男は比較的裕福な家に生まれた。一粒種の息子に両親は惜しみない愛情を注ぎ、躾を怠った。結果、肥大化した自己肯定感を制御出来ずに男は育った。親の金を頼み、付近の子供達を暴力で支配し、まるで世界の中心であるように振る舞っていた。
学園は高等教育課程へ進み、探索者として何れ自身は英雄に至る者と根拠もない自信を持ち生きて来た。
その結果、根本からその自信をへし折られた。
たった一人のクラフターを前に恐怖し、逃げ出した。自分を囲っていた仲間達ですら同様だったが、リーダーがその姿を見せたのだ。暴力はより強い暴力で潰され、井の中の蛙は大海はおろか空の青さを理解する事も無く井戸底に沈んだ。
仲間だった者達から向けられた失望の視線。
粉を掛けた女達から向けられる白けた視線。
ありとあらゆる者が向ける感情が男の心を苛み、結果酒に逃げている。
「クソ、あのクソクラフターがぁ……! 何が弱い奴は死に方も選べねぇだ……知ったかぶりやがって!!」
男は理解していないが、レベル差と言うのはそれだけ修羅場をくぐった回数の差でもある。ステータス差と言う以上に、その差は明確な格差と成り得る。
タタラが言う『弱い奴は死に方も選べない世界』とはベテランの探索者達も納得する言い分であり、男の楽観意見には駆け出ししか納得しない。そんな残酷な世界に気付いていないのがこの男の矮小さである。
新たに注がれた酒を再び煽り、コップをまたテーブルに叩き付ける。そんな男に、静かに近付く影があった。
「おや、随分と荒れていますね?」
「あっ?」
何処か粘着質な声だった。男が振り向けば、身なりの整った同年代程の男が立っていた。
「なんだテメェ」
「いえいえ、しがない学生ですよ」
凄む男に飄々と返す男。しかし、明らかにその目には侮蔑が混じっていた。
「今の俺は気が立ってるんだ。失せろよ、ぶっ飛ばされねぇうちにな!」
その侮蔑を感じ取ってか、矮小な男は凄む。しかし、迫力に欠ける。酒のせいでもなんでも無く、男にそんな物を出せる凄みが欠片もないのだ。飄々とした男はその姿を無様に思いながらも、口を開く。
「世の中に不満は無いですか?」
「……あぁ?」
飄々とした男の突然の言葉に、矮小な男は疑問符を返す。
その頭の回転の悪さに飄々とした男は更に評価を下げつつ、利用できる事に一定の価値を見出しただけであると思い出し言葉を続ける。
「この『ワールウィンド』と言う鳥籠の中、敷かれたルールや格差に不満は無いですか?」
「……んなもん有るに決まってんだろうが!!」
飄々とした男の言葉に、矮小な男は怒鳴り返す。
「どいつもこいつも俺を見下しやがって! 学園でちょっと成績が良いからって誘ってやったのに断りやがったあの馬鹿野郎! 見た目が良いから一発ヤろうと思えば俺に塩対応したあのアマ! 何より俺を見下してきたあのクソクラフター!! どいつもこいつも気に入らねぇ! 挙句、俺を見捨てて逃げ出したクソ野郎共が! 散々リーダーだとか寄生しやがったくせに、あのクソクラフターにビビって逃げ出しやがってよ!!」
自らもそのクラフターから向けられた圧から逃げ出した事実を棚に上げ、矮小な男は身勝手な不満をぶち撒ける。
飄々とした男は笑顔を浮かべているが、その目は侮蔑を深めるだけで何も変わらない。この男にとっても目の前の男は矮小に過ぎて、本来なら蛆と同じく関わり合いになる気の無い存在である。
しかし、目的の為にはこの矮小な存在が一匹でも欲しい。
「でしたら、変えてみませんか?」
「……変える?」
鸚鵡返ししてきた矮小な男に対して、飄々とした男は内心勝利を確信して言葉を紡ぐ。
「ええ! 旧く優秀な者を抑えつけるだけの法も! 上に居座り若き芽を摘む事しか出来ない中央も! 作り手が大きな顔をするこの都市の構造も! 全て全て壊して作り替えてしまいましょう!!」
「この都市を……作り替える……」
飄々とした男の熱弁に、矮小の男の酒で鈍った思考は取り込まれる。そんな事をすれば矮小な男を庇護し、愛情を注いできた両親にも不利益が発生するだろうに男は気付かない。
親の愛情を受けてもその価値に気付けない男は、利己的な行動しか取れない。
「世の中に不満が有るのなら世界を変えましょう! 目を開かせ耳を向けさせ声高に叫びましょう! そうして真に正しき意見を通すのです!!」
もし此処に、タタラ・ジュロンが居たのなら真逆の台詞を吐いたかも知れない。しかし、同時に言葉を紡げなかった可能性も有る。彼は世の中を変えさせる程の力を持ち、その技術を継がせる為に都市の中で認識を変えさせる事を願われた立場だ。
飄々として男の意見に意図せず則してしまっている。
ただ、違いが有るとするならば。飄々とした男は自分自身で勝手に動く事であり、タタラ・ジュロンは他人に願われて動いた事だろうか。自身の技術を伝える事を他者から願われた、それが飄々とした男との決定的な違いだ。
「……世界を、変える」
『探索者とかクラフターとか関係無く、此処は弱ければ死に方すら選べない世界だぞ? お前、今迄何して生きてきたんだ?』
男の頭の中でクラフターの台詞が蘇る。
「そうだ、世界がどうとかあのクソクラフターは言ってたな……なら間違った世界は正さなきゃなぁ!!」
矮小な男が叫ぶ、身勝手な世直しで正義を気取っているがその為に今を安寧に生きる人達を踏みにじる事になんの配慮もない。
何処までも自分勝手で我が儘、それがこの矮小の男の気質だ。
「でしたら、私達に協力をしてください。しかる日に、私達と立ち上がり力を貸してください。我々には貴方の力が必要です」
「ああ、俺が世界を変えてやるぜ! 俺の優秀さが有れば確実だ!!」
根拠の無い自信を口にする矮小な男を見て、飄々とした男は侮蔑の目を向けるだけ。特に考えもせずコンプレックスを刺激され、あっさりと手駒に堕ちるこの矮小な男に価値など見出していない。
大声で笑い始めた矮小な男を見て、飄々とした男は何処までも冷酷にその姿を見続ける。
都市の影で悪意は蠢く。
対する秩序が力を付けようとも嘲笑うかのように。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン