既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント発生中
早速明日にでも専用のインナーマッスルアーマーを試すつもりなのだろう、ダリアは早々に寝る為に部屋へ戻って行った。また明日寝坊しなければいいのだが。
「
俺にそう言ったアマツさんを見詰めて、心臓が高鳴り始める。此処からだ、此処から俺は刀を打つために技に向き合って生きて来た職人と向き合えるのだ。自然と口角が上がるのが分かる、アマツさんはそんな俺を見て獰猛に笑う。
技を見せると俺には言ったが、自身の技を安々と盗ませる気のない自信に満ちた笑みだ。ああ、本当……職人と触れ合うこの空気が堪らない。
鍛冶場に入り、アマツさんがコレから使う設備に対して礼をしていく。そうか、家の物なので意識したことは無かったが炉や水を満たす魔力は星の物だ。万物へ感謝し、礼節を失わない事は鍛冶師として初歩だろう。俺もアマツさんに倣って改めて炉や金床に水槽へ礼をする。今迄蔑ろにしてきた謝罪も込めて、誠心誠意の礼を向ける。
鍛冶の始まりは鋼を赤める事から始まる。アマツさんが持ってきていた玉鋼を三つ炉へと入れ、熱していく。鋼が熱を持ち赤くなった状態、コレを赤めると書物には有った。火加減や鉄の熱を見極める事、コレだけでも職人の熟達を測れると書かれていた。火加減は炉が使い手の意思を汲み取って最適な物になる代わりに、集中しないと直ぐ温度が変わるピーキーさが有る。そんな炉を操るアマツさんは常とは違い閉じていた右目を開き、その奥に隠されていた黄金色の瞳で火と鋼を睨めつける。火と鋼の温度を目と肌で判断し、最適な温度を見計らい鋼を炉から出し鎚で叩く。少し低い温度の状態から何度も繰り返し、薄く延ばしていく。薄く延ばされた鋼を水槽へ入れ、急速に冷却する事で鋼を割る。炭素の含有量が多い部分がこの焼き入れ作業により割れ、逆に少ない方は割れずに残る。こうして内側になる柔らかい
鋼に梃子棒と呼ばれる工具の先に心鉄に向く柔らかい鋼を重ねていく。一見無造作に見えたが『概念鑑定』を掛けるとその逆、鍛錬時に発生する
炉の熱をアマツさんが操作する。癖でふいごを操ろうとしたらしく、何かを掴もうとして失敗する姿が見えた……次の作業迄にこの辺り追加しておこう。アマツさんが金色の右目で鋼の状態を見極めていく、俺の炉による熱の通りは常軌を逸するのでこの辺り油断すると鋼が溶け出してしまったりするので気が抜け無いだろうに気負いが見えない。自然体で熟せる迄に積み重ねられたその歴史を背中に見て、あまりにも遠く感じる。鍛錬の技術は上回っている等と言われたが、精神面では全く追い付けている気がしない。本当、虎熊領からこの人を送って貰えてよかった。熱を通した鋼を取り出し、金床へ置く。俺に目配せをしてきたので、インベントリから大鎚を取り出して鋼に振り下ろす。見事に沸かしが出来ていた鋼は衝撃で崩れる事はなく、一打毎に一つの塊になっていく。コレは仮付と言って、本格的に鋼を沸かす前に鋼を一つにする作業だ。打った鋼を三度炉へと戻し、別の鋼を取り出して同じ作業を繰り返す。少しずつ、確実に鋼を鍛えていく。いきなりやれば崩れるし、疵が出来る為に少しずつ。そう考えると俺のアホみたいな速度の判断と鍛錬にアマツさんが引いていたのも納得か。まぁ、アレでどうにかなる訳が無いという確信の元にやっていた作業だが。
そうして仮付を終えて、いよいよ鋼から不純物を抜く本沸かしを開始する。焼け焦げた藁灰を払い、新たな藁灰をまぶして鋼を炉に入れる。炉の熱で溶け出す物、俺の打撃で飛び散る物と鉱滓は多量に発生していき少しずつ鋼は最適な炭素量になっていく。熱し、叩き、また熱し、また叩く。幾度も繰り返して、俺の目は鋼の純度が増していくのを見続ける。こうして見ると、本当に『ワールウィンド』の金属には不純物が殆ど無いのが分かる。おそらく、アマツさんが持ち込んだこの虎熊領の鋼ではなくこの都市の鋼を使っていたのならこの作業工程が殆ど無かった筈だ。炉の温度調整も含めて、俺が剣を1時間弱で作れるのは環境が良いからだろう。この都市で産んでくれた両親に感謝が絶えない。
十分に鋼が固まったのを確認して、いよいよ刀鍛冶の本領とも言える鍛錬に移る。普段から俺が炭素量だけでなく、金属内を走る路を整えている作業だ。アマツさんがどんな哲学で鋼を鍛えるのか、何を俺に教えてくれるのかを楽しみにしていたのだ。
腰を落とし鋼を抑えて打点を指示する横座にアマツさんが付き、俺が鎚を振るう先手に付く。大鎚を振り上げ、指示を待つ。そして、アマツさんが持つ小槌が鋼を打ち、寸分違わぬ強さでそこへ相鎚を打つ。前世の世界では三・四人で行っていたと俄知識にある作業だが、身体能力が爆発的に上昇している今生では一人でも熟せる作業だ。しかし、こうして誰かと共に一つの剣を打つなんて初めてで、とても楽しい。小気味良くリズミカルに鎚の音が鍛冶場に響く、アマツさんが薄く延ばされた鋼に切り込みを入れ折り曲げて次の打点を指示してくれる。俺も『概念鑑定』で打点を見極め、アマツさんが持つイメージを補強しつつも理想とされる力具合を0.0001%単位で肉体操作して実践する。再び折り曲げる時には長さではなく幅に切り込みを入れて折り曲げた、アマツさんが自ら言っていた十文字鍛えだ。俺の目は発生する歪の大きさと同時に、一文字鍛えに比べて複雑化して内部の魔力反応を引き上げる路が見えた。成る程、コレで歪を正していけば鋼であれど下手な職人に鍛えられたミスリルにも匹敵するだろう。今度はコレでミスリルを鍛えるのもアリかも知れない。俺が鋼の様子を見る限り、炭素量には問題が無い。下鍛えと呼ばれる前半戦を終えて、問題無いと判断されて上鍛えに移る。とは言え、やる事は変わらないのだが。20回の折鍛えを終えて、皮鉄が完成する。その後、柔らかい鋼を使用した心鉄を鍛える。此方はあまり折返す事はなく、5回も折鍛えたら完了した。
次の作業は造込みと呼ばれ、心鉄を皮鉄で包む作業だ。
アマツさんが心鉄に皮鉄を巻き付け炉に入れる。そうして熱された鋼に鎚を振るうこの作業は素延べ、此処から刀の形状へ打ち伸ばしていく。鋼の温度が落ち始めたら再び炉へと入れ、沸いたら打ち伸ばす。硬い皮鉄と柔らかい心鉄が共存する状態のまま打ち伸ばし、少しずつ鋼の形が刀に近付いていく。ある程度伸びた時に、アマツさんが先端を斜めに切り落とした。刀の鋒を作ったのだ、そこから斜線の反対側から打ち出していく。こうしなければ、鍛えた肌目が鋒に繋がらず脆くなるのだと資料に有った。
そうして刀身の長さに近付いた時に行うのが火造りだ。棟と呼ばれる反りや、鎬と呼ばれる厚みを此処で決める。アマツさんが刃になる箇所を薄く打ち出して、峰側を刃に比べてほんの少し厚く打ち出す。
そうして形を作った後、せんと言う中央に薄い板の付いた道具を使い鋼の形を本格的に整える。次に
本来、炉に入れた鋼を均一に熱する為に職人は全体の火の通りを見極めて出し入れする事も多いらしいのだが、俺の炉は魔力を用いた火であり均一に熱を通す事が可能な構造をしている。アマツさんは何処か呆れたような雰囲気を出しつつ、鋼に熱が入るのを見続ける。『概念鑑定』で見る限り全体が750℃辺りになった際に引き抜き鋼を水槽に入れた。焼き入れ作業を実施すると、凄まじい音が響く。蒸発する水により水蒸気が発生し、鍛冶場内を満たす。
しばし時間を置いて、アマツさんが水槽から鋼を取り出す。急速に冷やされた焼刃土はボロボロだが、剥がれてはいなかった。均一に塗られ、確りと焼かれた為に確りと固まったらしい。何処か呆れたような雰囲気のアマツさんはその焼刃土を叩き、割っていく。その下から姿を現したのは真っ黒な鋼だった。『概念鑑定』を掛けると内部の路や歪の状態が頭に入ってきて、とんでもないレベルで整えられていて軽く引く。
アマツさんはその鋼から梃子棒を外し研ぎ台に置く、そして表面を研いでいく。専門の研師では無く刀匠が行うコレを鍛冶押しと言う。
表面を研ぎ終わると美しい鋼色が姿を見せる。反りは浅く、やや肉厚の峰。幅はやや広めで、それに合わせた鋒もやや広い。その後に柄に納める為の茎を削る茎仕立てを行う。
削り出した茎に銘を切り、その裏に日付を切る。俺が初めて見る作刀はこうして終わる。
「っはぁ……緊張、したぁ」
アマツさんが銘を切り終わるまで知らない内に呼吸を止めていたらしい。出来に納得しなければ鋳潰す事も有ると聞いた、ならば俺が手伝った事で出来に納得いかず鋳潰される事も有ったはずだ。
「タタラさん、初めての作刀お疲れ様でした。見事な相鎚でしたよ」
「アマツさんが的確に打点と力を教えてくれたからですよ、俺のイメージ通りだと多分失敗するからああして的確に力加減を示してくれたのは本当に助かります」
「……因みに、どうやって判別を?」
「え、鋼を叩いた時の音ですけど。どれくらいの強さで叩けばその音が鳴るのか分かっていれば、普通に合わせられますよね」
労いの言葉をくれたお義母さんに対して、この出来はアマツさんのお陰だと答える。何やら当たり前の事を聞かれたが、何故そんな質問をするのだろうか?
しかし、あの焼刃土は中々作り手の哲学が入る物だな。俺なら砕いた魔石を混ぜ込むだろう、配分は実際に試しながらでないと最適な所は分からないがそれを追及する事が職人ってものだろう。
既に頭の中では自分ならどうするか、どうやって作るかを思い描いている。アマツさんが今作った方法は甲伏せと呼ばれる作りだが、
そんな考えを形に残す為に、早速ワードプロセッサを起動して理論を書き込んでいく。コレこそ焼刃土には魔石を砕いて混ぜなければならないだろう、魔力を含んだ炉の火と焼刃土の魔石で魔法金属の内在魔力を活性化させてより高次元で魔法金属どうしの特性を融合させる。炉の温度調整は更に難易度が上がりそうだが、構うことはない。その壁を乗り越えて、限界を踏破せずに何がクラフターだ。
「
「アマツ翁、恐らくタタラさんの思い付きとぶっつけ本番の成功を見せられて頭を抱えると思いますが……出来れば覚えて下さい」
「
脇で陽出國の二人が何か話していたが、取り敢えずはそんな事を気にするより先に理論提唱だろう。実際に作らない限りただの机上の空論だが、アマツさんに見て貰い間違っている所を直して貰う必要が有る。
「アマツさん、聞きたいことが有ります!」
「
俺の勢いにやや身を引きながら、それでもキチンと話を聞いてくれるアマツさん。俺は自分で思った事や疑問に持った事を次々に質問し、アマツさんはそれに対して長い経験則からくる答をくれる。
そして、驚いた事にアマツさんは刀として最適な魔法金属の配分を一つ知っていたのだ。俺の刃鉄の理論は一つだけ変更が必要になる、オリハルコンそのままでは無く、重量の二分に相当するアダマンタイトを混ぜる事。曰く、アダマンタイトは硬いがその分他の金属特性を阻害するとの事で、干渉しないギリギリの量が重量の二分とのことだ。この配分は通常よりもオリハルコンの強度を上げることが出来て、更にオリハルコン自体の特性を殺さない……そんなとんでもない物だそうな。もう少し早く知れれば、シスター・カレハの武器に使えたのだが。
それに、刀の作りを知って分かった事が有る。バカに適合する武器はコレだ。俺が作った
「早速今から打ちたいな……アマツさん!」
「
今から始めようとする俺の事を思い切り叱ってくるアマツさん、師匠になってくれる人がそう言うなら仕方ない。今夜は一先ずここ迄にしよう、寝て頭の中を整理するのも必要だろうしな。
作刀に何時間か掛かっていた為、夜も大分遅い。お義母さんは待っていた四葩達女性陣に連れられて、檜風呂へ向かう。エテルが夫婦風呂に来そうだったが、アマツさんも居るので四葩に連れて行って貰った。流石にアマツさんが居る間は駄目だからな。
アマツさんを手狭な夫婦風呂に連れて、使い方を教える。この辺りはかなり使い易いように手を加えている為、アマツさんも物珍しそうにしながら直ぐに使えるようになった。
『エテルさん!? 何ですかその大きさ!?』
と、檜風呂の方からお義母さんの悲鳴みたいな叫び声が聞こえてきた。そういえば初見の頃は四葩もタチアも同じような反応してたな。母娘は似るってヤツか。
「
うちの風呂は別に薪を使っていないし、魔力が燃料だ。しかし、こういう心遣いは素直に嬉しい。それに、父さんに出来なかった背中を流すとかやれそうだし一緒させて貰うか。そう思った俺は脱衣所にバスタオルを二人分置き、服を脱いで浴室に入る。アマツさんの身体は筋肉の量が凄まじく、肌には大小様々な傷痕が見て取れた。
「お邪魔します」
「
「はい、いいですよ」
垢擦り用のタオルを石鹸で泡立て、その背中を擦る。煤で汚れていたのか、炭の臭いがしていたのが無くなっていく。しかし、鬼と言うのは凄い筋肉だ。コレは確かに背中へ手が回らないだろうな。
「
「エテル……あの紫髪の娘で慣れてますからね」
「
「ええ、結婚する約束はしてるんですよ。ただ、学生なので法に許されて無いのでまだ出来てないですが」
「
広い背中を擦りながら、そんな益体もない話を続ける。一声掛けて背中の泡を流せば、確り洗えている様子だ。
「
鏡越しに男臭い笑みを向けられて、俺も笑う。
「いえ、どういたしまして。俺も、父さんの背中流せたらこうだったかなとか考えてやってましたし」
「
俺の言葉に更に笑うアマツさん、笑い飛ばしてくれて心が軽くなる。そのまま立ち上がり、浴槽に向かう姿を見送る。チラと見えたがスゲェデカいな、流石は鬼だ。
と、他人のモノを気にしてたら湯冷めしそうなので俺も身体を洗う。先ずは頭からだ、汚れを上から下に落として行く方が効率が良いし湯を汚さない。髪が長いので時間は掛かるが、将来的には子供の玩具の一つに出来そうなので伸ばしたままだ。
「
「はい?」
「
髪を洗う時間でそんな事が気になったのだろう、アマツさんがそんな事を聞いてきた。大した理由は無いし、普通に答える。
「エテルが偶に髪を触って遊ぶんで、切れないんですよ。将来は子供も玩具にしそうですし」
「
「まぁ、惚れたが負け……ですかね」
俺の言葉にアマツさんが呵々大笑と言った風に笑う、俺も釣られて笑った。ああ、男同士でこう言うやり取りをするのは楽しいな。
それからも俺は身体を洗いつつ、アマツさんと会話を続ける。風呂の機能を伝えて、薪が必要無いと聞いて心底驚いていた。アマツさんは鍛冶における炭切りの腕を鈍らせない為に薪や炭を切り感覚を養っているそうだが、風呂の利便性は心から認めていたし何なら俺の炉は自分も欲しいと言ってくれた。設計図を渡すか聞いたら、自分で考えて再現するから良いと返された。この人も生粋のクラフター……と言うか職人だな。
それからも俺の作る様々な道具の話をした。タチアやダリアの魔導鎧にエテルのロニセラ等の武器は素直に感心された、それ以上に驚かれたのが都市内で広く伝わっているトリモチやホイホイの事だった。アマツさんも家で保存食を荒らしにくる害虫に苛立っているらしく、何なら土産に買って帰って家で再現するか悩んでいた程だ。なら俺が友好の印で魔力を補充するタイプの『虫殺し』と『誘導』の魔術式を使用したホイホイを用意してもいいだろう、あまり表に出してないがアマツさんの魔力は相当な物だし霊脈から魔力を汲み取れるなら半永久的に動かせるしな。
と、俺も身体を洗い終えるタイミングでアマツさんが浴槽から立ち上がる。相変わらずデケェモノがコンニチワするが、思えばバーラルさんのもデカかったし馴れたモノだ。
「
そう言って浴室から出ようとするアマツさん、気を使わせてしまったか。
「ああ、そうですか。体を拭くタオルは脱衣所に置いてますので、使って下さい」
「
そんなやりとりで出て行こうとするアマツさんに合わせて、俺も立ち上がり浴槽へ向かう。その時、アマツさんが俺の身体を見てから視線を下ろし……俺の愚息を見てから目を見開いた。
「あんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!?」
物凄い悲鳴が上がった。え、何で?
「え、どうしました!?」
「
「いや、あんたも十分デケェでしょうがよ!?」
いきなり何言い出してくれんのこの人、此方とら一般人間種だぞコラ。
「
「えぇい、落ち着けや! さっきから人の愚息を剣に例えんじゃねぇ!!」
錯乱したアマツさんを何とか脱衣所に送り、湯船に浸かる。何か盛大に疲れたな。
風呂から上がると、リビングには女性陣とアマツさんが揃っていた。特に四葩と駄狐に向かって熱心に何かを説いているらしい、刀の手入れに付いてだろうか?
寝間着用なのか綺麗な作務衣を着用したアマツさんの背後に立つタイミングで、アマツさんが四葩の肩に両手を乗せて真剣な雰囲気を出している。はたして、どんな重大な話をしているのか?
「
「お前は何を言ってるんだ」
思わずそんな言葉が出た。いや、マジで何を言ってるんだよ。
「……タタラさん、大きいのですか?」
「答えにくい質問しないで下さい」
「タタラのは大きいよ、何時も受け入れたら息詰まっちゃうし」
「エテルが答えるのかよ、つか言うなよ」
もう頭痛いんだけど。そして駄狐、さりげなく俺の後ろに回って話題から逃げようとするな。何気にこの手の話題苦手なのは分かったから、俯いて裾を掴んでくるな。大丈夫だって安心させる為に頭撫でたくなるだろう。
「同学年で比べた事無いし他人ので見たのも俺よりも大きかったから普通サイズだと思ってたんだが……エテルからオーガに近いサイズとは言われたが」
「比較対象がおかしいと思うのですがタタラ殿」
俺の申告に真顔で返してくる雛菊さん。いや、クラフトの腕もそうだけど他と比較出来ないと自分の立ち位置って分からないんだよ。エテルしか相手してくれた事も無いし、前世は兎も角今世の男子平均サイズとか知らんのよ。
「……
「小声でなんて事言ってやがる駄狐」
振り向き気味に駄狐へツッコミを入れたら、下腹部に手を当てていた。うん、前にピカピカの処女とか自己申告してた人がそんな挙動するんじゃ無いよ。コメントしづらいよ。
「マスター」
「何だダリア。あまり頓痴気な事を言ったら引っ叩くぞ」
「マスターと2身合体を行う為のジョイント部分の情報が足りません、公開をお願いします」
「お前を助けた事を後悔しかける台詞はやめろ」
インベントリから咄嗟にスリッパを取り出してダリアの頭を引っ叩く、パコンと快音を響かせるダリアの頭だがその顔は無表情だった。
そんな混沌とした風呂上がりを得て、それぞれの部屋へ解散した後。俺は一人工房に籠もる。目的はダリアの鎧に使う装甲材の用意と、各オプションの作成だ。
ダリアの鎧は俺が作れる現状の技術をかなりの部分で注ぎ込む代物になるため、事前に色々用意しておかないと面倒極まるのだ。手の込む物は後回しにして、最初に作るのはアンカーガンだ。腰部に搭載予定のテールバインダーに仕込む代物で、射出には『加速』の魔法陣を1枚展開する超簡易型の魔導式加速砲の理論と巻取り機巧を組み合わせた再利用が可能な固定武装だ。イメージとしては某反逆の皇子な作品に出て来る人型兵器の標準装備なアレだ。仕込むワイヤーはミスリル銀糸を縒り合わせた物で、先端のアンカーは鍛造ミスリルをお持ちして返しを出し入れ出来るギミックを仕込む。コレで刺した後に巻き戻しを利用して相手を引き寄せる事も、巻取りの分も合わせて加速する事も出来る。巻取りに使うのはダリアに作ったチェーンソーの物と同じ小型でハイパワーなモーターだ。
同じ物を二つ用意して、軽く機能を確認する。庭先に出て適当な的へ向けて試射、勢いが付き過ぎて木製の的を粉砕してしまい焦った。一応武器では有るし、攻撃力的には物理で20くらいに相当するから人を即死させたりはしないと思う。ダリアの影響で火力が上がるとどうなるか分からないが。
腰部に搭載した使用方法では中々狙いが付けにくいので、魔力灯を応用してレーザーポインターを作成して照準装置として搭載する。コレなら命中率も上がるだろう。
さて、作ったはいいがこの装置を遊ばせて置くのも勿体無い。然るに、コレを搭載して運用する仮のダリア用のアーマーを用意しよう。
そう思ったが即行動、使用するのはミスリル20kg分だ。ライトアーマー構造にして、バイタルエリアだけ覆う簡易型の鎧を用意。高速移動用として、魔導式ジェットエンジンの理論を転用したホバー起動を脚に付ける。更に背中へ推進機巧として魔法で空気を圧縮・放出する簡易ブースターを作る。両脚だけでバランスが取れなかった時の為に、腰部に小型のスラスターを搭載したスカートアーマーを付ける。
本来は腰部へのマウントだが、使用感を覚えて貰うためにアンカーガンは腕に着ける。だが、暗器的な使用方法を可能とする為内部に仕込む。外見的には少し物珍しくする為、陽出國の着物の袖口に似たデザインにした。
ダリアの虚しさを補う為に胸甲には偽乳を盛る。カップサイズは三つ上げてD相当、コレなら満足するだろう。
そんなこんなで色々と仕込んで出来上がったのは、某機動戦士シリーズでラスボスを務めた女性の架空機体にそっくりになってしまった。そう言えば、アレって白無垢モチーフなんて噂有ったっけ?
何となく、袖の中には魔導剣用のハードポイントを追加する。袖口からサーベルって益々アレっぽいかも知れないが、それなりに有用だろう。
一通り作業を終えて、自室に戻る。寝る前に汗をかいてしまったが、どうせ何時もベッドの上で汗をかいているのだし変わらないだろう。明日は朝から刀鍛冶か、楽しみだな。
因みにタタラは勘違いしてますが、腕のデザインがキュベ◯イではなくドラ■センになってます。
自警団の詰所、その一室で男が項垂れている。失意と言う言葉に人の姿を取らせれば、まさに今の男の姿が該当するだろう。
男は自警団にて一つの班を任される程に有能だ、人望も厚く将来は団長になれるとすら目されている。
そんな彼が、ただ一人薄暗い部屋の中、目に涙を浮かべながら項垂れていた。
「すみませんタタラさん……すみません……っ!!」
口をついて出る言葉は彼が敬愛する一人の青年の名前だ、自分達を正義の味方だと信じて様々な助力をしてくれる善意の一般人。そんな彼が信じて預けてくれた新たな力に、いま一つの危機が迫っているのだ。
「……あの、班長」
そんな彼に声を掛ける一人の女性団員。班長の後輩に当たり、彼の班で副長の役割を担う有能な女性だ。
「お気に入りの小型連射型が団内で不採用になるってだけで悲壮感出し過ぎですよ」
「仕方ないだろ! お気に入りなんだから!!」
タタラ・ジュロンが開発した新型のトリモチランチャー。3種類用意され其々を実地運用して行うトライアルが始まり、早1週間程でその評価は固まりつつ有った。
採用されるのは整備班一推しの中折式が濃厚だ。団員の中でも従来と使用感が殆ど変わらず、それでいてホビットやドワーフなど体躯の小さい種族にも装弾をし易くしたこのモデルが人気だった。
反対に班長が推している小型連射型は整備班から蛇蝎の如く嫌われ、従来の弾頭が使えない為に会計からも嫌われていた。
因みに団長が推している増弾型は重すぎて女性から不評で有った、当人がマッチョ故の弊害である。
「団長なんて見て下さいよ、自分のお気に入りが採用見送りになりそうだからって個人所有の持込を可にするつもりですよ」
「私情混じりなのはアレだが、正直俺も賛成派だけどな」
「そりゃ班長はそうですよね、小型連射型が採用見送りですし」
「……それだけじゃ無い」
後輩からの言葉に真剣な色を帯びた声を出す班長、そんな雰囲気の変化に後輩の心臓が強く拍を叩くが表には出さない。
忍ぶ恋と言う物も有るのだ。
「タタラさんが市販用のモデルに、女性や子供向けのハンディランチャー型を出すつもりなのは知ってるか?」
「そんな情報何処で拾ってくるんですか……」
「会計や整備班が零れ話を教えてくれるんだよ、商会長の愚痴から分かったらしいぜ」
そんな重要な情報を愚痴るなよ、そう思う後輩では有るが同時にタタラ・ジュロン作のハンディランチャーと言う情報に胸を躍らせる。恐らく誠実な彼の事だ、反動を抑えて再装填が容易な物を作ってくれるだろう。
「俺も試作品触らして貰ったが、アレも中々良かったぞ。俺の手には少々軽いが、女性団員が個々で持つには丁度いいだろう」
「……本当、班長はタタラさんフリークですね」
「俺にとっての憧れだからな!」
胸を張って答える班長の姿に、呆れと少しの嫉妬を抱いてしまう己を自戒する後輩。後輩からしても、タタラ・ジュロンと言う青年の気質は好ましいかったのだ。
数年前に起きた大討伐、それに参加して帰らぬ人となった彼の両親。その姿と被ったからと、自分達自警団へ安全に犯人捕縛を可能とする捕具を作ってくれた事。この後輩も、家庭向けに作られたトリモチ玉で両親が暴漢から身を守ったエピソードが有る。
『正義の味方が誇れる相棒を、俺に作らせてください』
あの場で聞いた言葉は胸に残っている。次期工匠長と言う立場に就く若き天才だと色眼鏡で見ていたら、その実は心が傷付いた子供だったのだ。苦しんで同じ苦しみを他者へ強いるでは無く、同じ悲しみを背負う者を減らせるようにとその技術を提供してくれる善性。
目の前の班長がファンだと公言するのも納得だと後輩は考えている。尤も、そっくりな妹っぽい少女にメイド服を着せている趣味はどうかと後輩は考えている。タタラの意思はそこに無いのだが。
「そんでな、あのタタラさんがこんなに早く新型をテストさせてくれたって言う事がちと引っ掛かってな」
先程までの巫山戯た雰囲気が鳴りを潜め、元来の知性を湛えた目で思考を巡らせる班長。普段からこうなら格好良いのにと思いつつ、この姿を見るのは自分だけだと考えた後輩は班長の言葉に疑問を返す。
「次期工匠長ですし、作るのが早いだけでは?」
「それだけならいいんだけどな……最近、きな臭い噂流れてるのは知ってるだろ?」
「……尻尾を掴めないドロップアウトとの接触を図る存在ですね?」
「ああ」
班長は片目を瞑り、腕を組む。彼が深く思考を行う時の癖だ。
「タタラさんは次期工匠長、この都市の運営にも関わる人だ。俺達に降りてこない事情ってのが分かる立場の筈。そんな中で、俺達に装備を作って渡すべきだと判断する材料が有った……」
「それは、少し考えすぎでは?」
「団長の最近の動きを見てもそう思うか?」
自警団の団長は低位とは言え貴族である。市井に寄り添い、治安を守りたいと自警団を立ち上げ中央から警察権の一部を与えられた程にその家は信頼されている。
防衛長が普段は探索者として活動出来る理由はコレだったりする、団長は政治方面でも活躍出来るので丸投げされているのだ。
そんな団長が、トリモチランチャーを個人所有した場合勤務時に携帯しても良いとルールを作った。ならば、使い慣れた物を手元に置けと遠回しに言っているのだ。これから何か大きな事が起こる、おそらく自警団が一致団結して当たらねばどうしようもない災厄が。
「……班長、もしかして」
「少し無理をして、俺はタタラさんの所でこの小型連射式の物を個人的に買う。貯金を全部使えば隠し玉的なヤツも買えるかも知れないしな」
「……そんな都合よくいきますかね?」
因みに、もし班長がそんな依頼をしたならば総ミスリル製でドットサイト付きの物を格安で売ってくる。タタラ・ジュロンは正義の味方の支援者なのだ。
「お前も備えておけよ、タタラさんが一人でも生き残れるように備えてくれてるんだからよ」
「言われなくても分かってますよ」
後輩もまた、日々の生活費を一部削ってハンディランチャーを買うつもりだった。
彼等は自警団、街の守護者。
大きな悪意の前に立ちはだかる、正義の味方達。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
-
タタラとエテルの立場逆転
-
現パロ(エテルヒロイン)
-
現パロ(四葩幼馴染)
-
武器が擬人化してタタラへ物申す
-
年増組と同い年
-
聖人カレハ
-
原作エテルとタタラ
-
ガチ妹ダリア・ジュロン