既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント発生中
朝起きて、顔を洗った後に台所に立つ。米を研ぎ、炊飯に掛けてから味噌汁に取り掛かる。鰹節と昆布がお義母さんによって持ち込まれたので、この二つで出汁を取る。先ずは昆布を入れて水炊きをする。沸騰する前に火を止めて、一度冷まして次に鰹節を入れる。再び沸騰しそうになったら昆布と鰹節を取り出す。
この出汁の中に玉ねぎと馬鈴薯を入れて中火で煮込み、白味噌5に対して赤味噌1の割合の合わせ味噌を溶く。全体に味噌が馴染んだら味噌汁の完成だ。
次は主菜だ。お義母さんから塩鮭を貰っていたので朝食はこれにする。しかし、そのままではエテルやダリアに和食贔屓に思われてしまう。ならば、此方のテイストを入れよう。
オリーブオイルにバターと刻んだ大蒜を入れて、フライパンを温める。大蒜が薫りを出し始めたら鮭の切り身を敷いて焼く。最初は皮を下にして、上からフライ返しで偶に押し付けながら焼いていく。数分経ったら切り身をひっくり返し、上から醤油を掛ける。鮭の醤油ガーリックバター焼き、非常に食欲を誘う香りだ。小麦粉やパン粉を付けて揚げ焼きにしてもよかったかな。
副菜に取り掛かろうとしたら、いつの間にか隣に立って卵を溶いている駄狐が居た。割烹着を着ていておそらくコレは自前の持ち物だろう、三角巾を押し上げる狐耳の形がなんか可愛い。液状化した卵を前に、駄狐が俺に顔を向けて聞いてきた。
「ご主人、玉子焼きは砂糖でも食べられるでござるか?」
「え、ああ。玉子焼きは塩でも出汁でも砂糖でも美味しく食べられるよ」
「好き嫌いが無くてよかったでござるよ」
と、俺の答えに返してくる野菜嫌いの駄狐。最近は主菜と一緒に食べる事で乗り切れているが、根本的には野菜嫌いのままなんだよな。克服は出来てないが、あまり無理強いするのも違う気持ちになって来たな。
そんな事を考えているうちに、卵液の中に砂糖を入れ掻き混ぜる駄狐。ガラス製のボウルを使用している為、卵液と容器の間で摩擦熱が起きにくく卵液が熱を持った事での変化が少ない。そしてその影響で砂糖が溶けていくのが遅く、掻き混ぜる回数が自然と多くなる。そうやって砂糖が溶け切ったのを確認してから、玉子焼き用のフライパンに薄く油を敷き卵液を注ぐ。薄くフライパンに卵液を伸ばし、膨れる気泡を菜箸で潰しながら軽く固まるのを待ってから巻き始める。巻いて手元の方に寄せ、空いたスペースに油を適量敷いて卵液を注ぐ。先に巻いていた玉子の下に卵液を流して、再び固まるまで待つ。そうして同じ事を繰り返して玉子焼きが完成する。形を整える為に前世ではかまぼこ板などで押し固めたりしたが、駄狐のはそういった事をしないため少し膨らんだ可愛らしい形をしている。
「ご主人、そんなじっと見るのはやめるでござるよ」
どうやら玉子焼きをじっと見ていたのに気付かれたらしい、駄狐から苦笑い気味にそう言われた。
駄狐はフライパンから俎に移した玉子焼きを均等に切り分け、そのうちの一切れに爪楊枝を刺してから俺の口元に運んでくる。
「はい、ご主人。あーん」
目を細めて薄く微笑んだ表情の駄狐が定番のシチュをやってくる。細められた金眼にはからかいの意図は見えず、純粋に味見を勧めて来ているのが分かった。
俺は勧められるままに口を開いて玉子焼きに口を近付ける。そうすれば駄狐からも玉子焼きが口の中へ運ばれる。玉子焼きは巻いた玉子が直ぐに解ける程のふわふわ具合、それでいて半熟気味の部分も有る好みの口溶けだ。砂糖で甘味が強いが、前世で子供の頃よく食べた味に感じる。遠足のお弁当などに入っているとテンションが上がってたあの味だ。
「……美味しいな」
「そうでござるか、良かったぁ」
心底安心したといった雰囲気で紡がれる言葉、駄狐が俺に対して此処まで身を捧げてくれるのは何故だろう。止まり木になれたからだろうか、それとも別の感情だろうか?
いつかは話して欲しいと、そんな事を思った。
そうして朝食の準備が大体出来てきた所で、家が朝の様相を見せ始める。庭先では四葩とお義母さんが舞の稽古をしていて、起き出したエテルは俺と駄狐が朝食の準備を終えている事に膨れている。ダリアは起きてこず、雛菊さんの姿も見えない。アマツさんは庭先に出て陽光を浴びながら体操をしている……気持ちよさそうだな、アレ。
そんな朝の風景をソファに座って眺める俺の膝の上に頭を乗せて眠っている駄狐、エテルは負けじと俺に身体を預けている。嫉妬を見せている割には俺が駄狐の頭を撫でている事は咎めてこず、空いている手を恋人繋ぎにしてくるくらいだ。
駄狐も駄狐でエテルが近付いて来た際に起きる事が無かった、以前は四葩が近付いて来たら目を覚ましていたのに。ふとエテルが駄狐の頭に手を伸ばし撫でると、駄狐は眠ったまま受け入れて尻尾を緩く振る。ここで漸くエテルは俺が駄狐に膝を貸している理由に気付いたらしい。そう、この挙動がひたすらに和むのだ。ペットみたいな扱いだが、何故か駄狐は満足している……大丈夫かなコレ。
「くっ、寝過ぎました……」
そんな中で起きて来た雛菊さん。服装は『安定の豚』と書かれたダサTで、俺の目線からでは下を履いているのかどうかが分からない状態だった。思わず身体が緊張すると、膝の上の駄狐が一瞬身体を震わせてから身を起こした。しまった、安眠を邪魔してしまった。
駄狐はゆっくりと首を動かし、膝を借りていた俺の後に寄り添っていたエテルを見て驚いた顔をした。しかし、何か納得したかのように笑う。もしかして撫で方で気付いたのだろうか。その後、周囲を確認して雛菊さんへ視線を向けて全てを察した表情で怒気を纏った。其処からの動きは迅速だった、ソファの上から消えたと思えば、天井近くまで跳び上がった駄狐が雛菊さんを上空から襲撃して押し倒したのだ。……雛菊さんが倒れる一瞬、捲れ上がった裾から布地が見えず黒い毛が見えた気がしたが違うと思いたい。
「なっ!? 敵襲? 襲撃? って、駄狐!? 朝からいきなり何をする!!」
「最重要護衛対象である奥様よりも遅く起き、そのだらしない格好を曝しておいて何を言うでござるか駄目菊!」
駄狐、渾身のド正論。言われた雛菊さんも言われた事が反論不可な事象なことに気付いてか、言葉を詰まらせている。
「挙げ句、なんでござるかその服装は! 昨日、ご主人から書いてある言葉が情けない物と聞いたでござるよな!? 挙げ句また下着を着けずに起きてきて!! 女としての恥じらいを浜で死なせて来たでござるか!? 今はご主人だけでなくジッ様も居るんでござるよ!?」
駄狐、怒涛の正論乱打。最初期の立場が完全に逆転してしまっててどうしようもないなコレ。
「なっ!? 着易くて過ごし易いのだから仕方ないだろう!!」
「良く無いでござるよ! ご主人なんてエテル殿を抱いているのに女性慣れして無いんでござるよ!? 雛菊がそんな格好で出て来たら緊張と恐怖で強張るでござる!! それに、ジッ様も性欲が残っているでござるからな!! 興奮した挙げ句にこの家で雛菊の花を散らされても困るでござる!! 散らすならせめて菊の方を散らせでござる!!」
「
アマツさんも聞こえていたらしく、苛立った雰囲気だ。あのデケェ逸物を怒張させたらさぞや恐ろしいだろうな、そんな事を一瞬考えたらお前が言うなと声が聞こえた気がした。
上から押さえ付ける駄狐を退かせないらしい雛菊さんはろくな抵抗も出来ずに言われっぱなしである、しかし言われている事は事実でしか無いから止める気になれない。此処はお義母さん辺りに止めてもらわないと無理かな。
「……一華」
と、そんな時にお義母さんから駄狐に声を掛ける。
「雛菊は後で私が言い聞かせます、今は離れてタタラさんの匂いを吸って落ち着きなさい」
「まてや」
なんで駄狐を落ち着かせる為に俺を吸わせるんだよ、と言うかなんでそれを推奨してんだよ。で、言われた駄狐も何で渋々と雛菊さんから身体を離して俺に近付くんだ?
不満いっぱいの表情をした駄狐が、俺の腹に軽く飛び込んでくる。ポフっと音がしそうな勢いで飛び付いて来た駄狐の背中を咄嗟に抱き締めて、その頭を撫でてやる。大きな尻尾が振られ、機嫌が直っている事が見て取れた。本当に大型犬みたいだな……諸々の柔らかさがエテルには劣るがかなりヤバいレベルでムラっと来そうだったが。しかし、俺は此奴の『ご主人』だ。一時の劣情でエテル共々裏切る気は無い。
で、雛菊さんはお義母さんの姿を見て絶望した表情である。もしかして舞とか教えてる辺りそう言った行儀作法の教師とかやってるのかも知れない。ご愁傷さまである。
そんな一幕を挟みつつ、食卓を囲む。タチアもやって来て、朝食を一緒にとっている。
「ふむ、鮭は此方と陽出國を折衷させた味付けですね。醤油と牛酪、此方で主要のおりぃぶの油を使用して焼いて風味が豊かですね。塩鮭の塩味がやや強いのは此方の落ち度……しかし、味でも文化交流を図るとはタタラさんもやりますね」
「あ、そこ迄深い考えは無いんですが……」
お義母さんがシンプルに評価してくれる。何時も似たような役割を担っている雛菊さんは、お義母さんからの説教を受けて口から魂が出ている感じだ。役割が完全に奪われてますね最近。
アマツさんは特に何か言う訳でも無く、鮭と白米そして味噌汁をバランス良く食べている。玉子焼きが甘い事に少し苦手意識が有るらしかったので、目線で隣に座っていた雛菊さんの方を示してそっと譲って貰う。何気にお茶目なところも有るな。
因みに、二人が使っている箸は俺が以前作った物だ。四葩の為に複数用意していた中に、二人の手に馴染む物が有って良かった。
「しかし、ご飯を炊いたのは一華なのですね。炊き方の癖と味が変わらず良いですね」
「あ、これ自動で炊いたヤツです」
「……はい?」
「前に貰った炊飯釜を魔導具に改造しまして、駄狐に炊き方を見せて貰ったのを再現しました。本人みたいに気温とか湿度に合わせて調整とかは出来ませんけど、常に一定の出来が保証出来ます。都市長に自動釜の申請通ってますから、特許料頂ければ販売許可は出せますよ?」
俺の言葉にお義母さんは少しの間フリーズした。そんなに変だったかな。
「
「量産は効きますよ、何なら1個作って譲りましょうか? 使用に魔力使いますけど」
「
勢い良く魔導炊飯釜の購入を申し出たアマツさん、此方の通貨は無いので昨日二人で鍛えた刀を譲って貰う事で物々交換とした。何か、刀を陽出國の方で値段付けられたら貰い過ぎになりかねない気がする。
「タタラさん、炊飯釜を持ち込んで改造とかって出来ます?」
「譲って貰ったのと同じ形式なら出来ますよ。別の人の炊き方が良いならその方を連れて来て貰えれば……一度炊いて貰う必要は有りますが再現は出来ます」
「では、依頼したいと思います」
報酬としては陽出國で染めた布を貰える事になった、色によってはエテルの着物とか作れるかも知れない。値段聞いたら気絶するかも知れないが。
「2日目で早速馴染んだのじゃな、お母さん」
「雰囲気が馴染み易いんですよこの家、多分あの人も直ぐに馴染みます」
「お父さん、タタラの事気に入ってるようじゃしのう」
当主代行が家に来たら緊張で胃が死にそうだよ。
「タタラ殿、御二方が居る間は探索への参加は無しで宜しいのですな?」
「ああ、滅多に無い陽出國の技術を覚えられるチャンスだからな。しっかり覚えて武器に悩んでる探索者達に選択肢として見せるつもりだ」
タチアの質問に頷きながら答える。
此方の叩き斬るタイプの剣が苦手な人も居るみたいなので、刀がその人達の手に馴染めばと思う。俺を切っ掛けに『ワールウィンド』で広まれば、色々な人達が助かるかも知れない。
そんな俺の考えを察したのか、タチアが何処か嬉しそうに笑って頷いた。ダンジョンで手に入れたエストックや俺が打った『アンドレイア』等、馴染む武器との出会いを思い出して嬉しくなったのだろう。こうやって躍進する人達も居るのだから、やはり取り扱える武器種は増えて損は無い。
ふと視線を向けると、甘い玉子焼きに付いて会話をするエテルと駄狐が見えた。料理をする二人なので、互いに意見を交換してより良い料理を作るつもりなのだろう。俺も参加した方がいいかな。
「おはよう、ございまふ」
と、欠伸混じりの挨拶とともにリビングに入って来たのはダリアだ。メイド服は着ているが、髪の毛が所々跳ねている。最近、ダリアの眠りが浅い気がする。何かからの干渉でも受けて居るのだろうか?
「ダリア、朝食をキチンととってくれ。後で渡す物が有る」
「いえす、まいますたぁ」
半分眠った状態で食事を取り始めるダリア。本当に大丈夫か此奴?
「渡す物?」
「ああ、本来のダリアの鎧じゃないが仮の物を昨日の夜作ってな。それを後で渡そうと思う」
「それは本当ですか!?」
エテルからの質問に答えた直後、ダリアが大声を出して確認してきた。どうやら俺の言葉で一気に目を覚ましたらしく、顔に眠気は欠片ほども無い。コイツ、本当に魔道具が好きだな。
「本当だから先に飯をキチンと食べる事、今日もエテル達はダンジョンに潜るからその時に試してみればいい。修正箇所が有ったらちゃんと報告な?」
「Yes my Master!」
元気になったダリアは食事の速度が上がる。それでも咀嚼はちゃんとしている辺り、躾は確りとされてるよな。
食事を終え、庭先に俺とダリアの二人で立つ。洗い物はエテルと四葩が買って出てくれた、エテルは調理に参加出来なかった為で四葩は家事の体験学習の継続の為だ。お義母さんがそんな四葩の姿を嬉しそうに眺めていたが、どうも調理は教えるつもりが無いらしい。何となく、四葩は向かないのだろうなと思った。
それはそれとして、ダリアに向き合い仮の魔導鎧を出す。本来の魔導鎧が飛行可能なため、浮遊感を体験して貰う為でも有るホバー技術を採用したことに付いて説明すれば目がキラキラと輝き出した。腕に付いているアンカーガンに付いては使用感を覚えて貰う為で、本来は腰に着ける事と狙いやすいようにレーザーポインターに付いて話せばかなり気に入った様子だ。
一応、本格的な飛行機能の練習用パッケージを夜に作ろうと思うがダリアの練習に使えるだろうか。正直色々と問題が多い代物になると予想出来る、飛行に付いては雛菊さんに練習を見てもらおうと思う。
「マスター、この仮設魔導鎧の名前は何でしょう?」
「え、いや考えてないが」
試作品であるし、元々正式名称を付ける予定は無い。そもそも俺に名付けを期待しないで欲しいのだが。
「試作品とは言えマスターが作ったマスターの子供も同然なのですよ? 認知して下さい」
「嫌です」
「じゃあ都市滅ぼします」
「じゃあ殺します」
しまった、流れで何処かの秒で分かる装甲悪鬼みたいなやり取りしちまった。恐る恐るダリアを見ると、してやったりと言わん表情をしている。お前まさか、寝てる間に別世界から情報取得してないか? 機械神様の姿がアレだし、何か有りそうで怖い。
「マスターの手で私が死ねば、マスターの中で一生残る傷に成れそうですね」
「お前、マジでお前な」
「マスターが鎧を名付けるか、私を殺すか選んで下さい」
何でコイツこんなの覚悟ガン決まりになってるんだ?
「……『アルストロメリア』だ」
「成る程、魔導鎧『アルストロメリア』……認識しました。良い名前です、マスター」
「花の名前を付けるくらいしか思い付かねぇんだよ」
花言葉は『未来への憧れ』だった筈、未完成品と言うか試作品だからそんな名前を付けた。一応、何処ぞの機動戦艦の劇場版に出て来る新規機体から名前は取っていない。俺が好きなのはアレの黒百合の方だ。とても花言葉的に選べる名前では無いが。
ダリアに魔導鎧を渡し終えた後、パーティメンバーは俺を残して全員ダンジョンに潜りに行った。朝から盛大に疲れるやり取りをしつつ、俺はお義母さんに言われて庭先に残っていた。
「それではタタラさん、防御結界の最適化及び強化を実施いたしましょう。アマツ翁もお手伝い願いますね?」
そう俺とアマツさんに言ったお義母さんの言葉に従い、結界を強化する事になった。
先ずは家を囲む結界の起点、ミスリル製の柱を全て引き抜く所からスタートである。作業効率を考えて『玄武・改』を装備して次々と抜いていく、アマツさんは俺の『玄武』を見てかなり驚いた様子だった。
引き抜いた柱に刻まれた術式をお義母さんが確認し、術式の変更箇所を指示し修正する。設置する場所により微妙な術式の修正が必要らしく、俺の作業効率を持ってしても全体の修正に3時間掛かった。途中、魔力切れを考慮して『錬金術師の卵』を装備して術式の修正を続けたが根を詰め過ぎたのか精神的に疲れた。一通り作業を終えた時、疲れ切って倒れてしまった程だ。
ただ、結界の修正は目に見えて効果を発揮した。この方面に疎い俺でも理解出来る程に結界の強度が上がっていて、更に霊脈の流れも整えられているのがの分かる。なんというか、過ごし易いのだ。空気が綺麗というか、雰囲気が良い。
「結界はコレで良さそうですね」
「
術式の修正に付き合ってくれたアマツさんがお義母さんにそういった。まぁ、普通はそう思うだろう。
「お義母さんは四葩が心配なんですよ、でなければ血も繋がらない相手の家を此処まで強化しません」
または、甘い術式構成が許せなかった完璧主義だったかだ。流石にそれは嫌だな。
「……タタラさん、私は単純に結界の構成が甘くて苛立っただけですが?」
広けだ扇で口元を隠してそういうお義母さん。照れ隠しにしか見えないんだけど、ツッコむのは野暮だよな。
「それでは次、タタラさんの鍛冶場を直しますよ。龍脈から汲み上げた魔力、かなり無駄にしてますからねアレ」
「え」
お義母さんの宣言に、思わず声が漏れた。アレを直すの? 正気?
「
「……余計な事を言ったかなぁ」
其処から更に1時間掛けて鍛冶場の設備を弄る事になった。結界の時より時間は短いが、作業の密度は大して違わなかった。術式の修正にかこつけて、アマツさんが使い易いように炉にふいごの操作に似せた取手を付けておく。此奴はみたいなアマツさんの視線を感じるが、お義母さんはそんな俺を笑って見ていた。
「なにはともあれ、今日の鍛刀を開始しましょうか」
「
「俺も、三十分ばかし休ませて欲しいです」
作業続きで俺とアマツさんは疲労困憊である。まぁ、『卵』のお陰で体力は回復してるのだが、精神的な疲れがヒドい。アマツさんは俺のセリフに驚愕と言った表情だが、若い俺が体力と回復力で負けてたら何も残らないと思う。
宣言した通り、30分で回復した俺は昨日のアマツさんを思い出しながら作刀を開始する。尤も、素材はワールウィンド内で出回るダンジョン産の鋼であるために、昨日に比べれば遥かに作業は簡単になる。
玉鋼を使用しない『
と、そこでアマツさんが鋼を叩く作業を変わった。まだまだ俺に見せたい技術が残っているのか、愛用の鎚を握り鋼を打つ。
一打一打目に焼き付け、腕の振りだけでなく魔力の流動にも注目する。身体だけでなく、鎚にも魔力を流し込み鋼の内に有る路を調えていく。マジか、昨日の作業では俺が理解出来て無かったがアマツさんは鍛冶技術で内部の路を直していたんだ。コレは俺の成長に大きく関わる技術だろう、漏らさずにその技を見極めるつもりで目に力を込める。俺の雰囲気を感じたのか、鋼に視線を向けながらニヤリと笑うアマツさんは更に鎚を振るう。
作業は滞り無く進む。焼入れの際に塗る焼刃土は先んじて俺が作る事になり、人造オリハルコンに使用出来るレベルで砕いた魔石を混ぜるなどして、配合は完全にオリジナルだ。其々の量は炉の発する熱や鋼の状態を見つつ計算し、最後はクラフターとしての直感を頼り作った。アマツさんは半ば呆れていたが、それ程駄目な配合だったのだろうか。取り敢えず、完成を見て反省点を出さなければならない。
鍛錬に移る際に俺は今日見たアマツさんの技術を応用する。俺の練度の低い魔力操作とただの鉄で作られた鎚では、アマツさんの繊細な魔力量を真似るのに一苦労だった。魔力量の誤差にして恐らく0.01%前後、案の定アマツさんからは殴られて怒られた。余りに情けない出来である。現に『概念鑑定』で見える内部の路が少し歪んでしまっている。鍛錬を続ける内に修正しなければ駄目だ、こんな不出来な剣をアマツさんの作品なんて言わせたくない。より深く集中し、どんな僅かなズレも許さないと心の奥底から気持ちを引き締めて相槌を打つ。十文字鍛えによる切れ目は全て俺が切った。アマツさんの補助が有る内にどんなに間違えてもいい、幾ら殴られても構わないから『概念鑑定』とクラフターの勘で最適と信じた場所を切る。
そうして鍛えた心鉄と皮鉄、そして刃鉄を合わせた本三枚造り。俺が最終的に目指す形としての作刀をアマツさんが見せてくれる。一つ残らず技を記憶する、刀匠アマツの教えを余さず覚える。この人が俺の師ならば、誇れる弟子になりたいとその一心で技を見る。
鋒を切るのは俺が任される、頭に有るイメージ通りに先を落とす。
火造りで身幅や反りを決め、浅い反りになるようにする。
せんで形を整えて、俺製の焼刃土を塗る。『クラフト』スキルを全開で使用し、斑無く均一に塗る。反りの浅さから峰の焼刃土は昨日のアマツさんに比べてやや厚めだ。
魔石の影響で早めに乾いた焼刃土を見て、炉に入れる。鋼は俺が見て、この出来だと思うタイミングで抜くようにと任される。
炉に向き合い『概念鑑定』でその熱を見る、此処だと思ったのは鋼が785℃の時だ。やや高めの温度で引き抜いた鋼を、水槽に入れて焼入れする。昨日に比べても凄まじい音と共に冷やされていく鋼を見詰め、やがて引き抜く。固まった焼刃土を『クラフト』スキルで剥がし、その下の鋼を顕にした。
「……美しい」
聞こえてきたのはお義母さんの声だ、研いでいない鋼の色はそれでも清らかさすら感じる澄んだ色だった。
昨日のアマツさんの動きを思い出しながら、鍛冶押と茎仕立てを行う。作業中、常に魔力を道具に纏わせながら、そして『概念鑑定』で内部の路と歪を調えて出来上がる一本の刃。
下地研ぎすら行われていないが、その佇まいは宛ら冬の夜に浮かぶ三日月が如き美しさを感じる。
「……
「あ、はいお師様」
言われてから気が抜けていた事に気付き、返事を返して茎に銘を切る。陽出國の文字で『小鍛冶 タタラ』と銘を切り、裏に日付を入れる。
俺の記念すべき最初の刀、その大部分はアマツさんに導かれた物では有るがそれでも俺が火造りや土置きを任せられた俺の作りたかった刀の形だ。
俺はそのまま刃を研ぐ。この『ワールウィンド』には研師なんて専門職は居ない、その為に下地研ぎも仕上げ研ぎも一人でやる必要が有った。砥石と刃に魔力を流し、内部の路を歪ませ無いように研ぎ上げる。妥協無く、満足いくまで研いだ先に見えた刃は我ながら見惚れる程の美しさを覚えた。
「
「コレが、俺の刀……」
「
「……え?」
弟子として認められた、のか?
「
その言葉を聞いて、視界が霞んだ。頬を伝う感触から、涙を流して居るのだと遅れて気付いた。
「すみません、お師様なんて軽々しく」
「
「……お師様に弟子がいなかったとか何の冗談ですか」
コレだけの技を持っている人に師事しないとか、陽出國の損失でしょうよ。
「タタラさん、一つ言っておきますが陽出國でアマツ翁の技術を覚えられた人間が居ないだけですからね?」
「……はい?」
「タタラさんだけです、アマツ翁の技術と哲学を理解して習得出来た人は」
「……嘘だろ」
何だろう、俺が陽出國でも変態とか化け物とか呼ばれる未来が見えた気がした。
おまけ もしもタタラが……
ソファの上で座禅を組む青年が居た。年の頃は10代後半、長い黒髪を持つ偉丈夫だ。ゆったりした服装の下から鍛え上げられた肉体が覗く。
そんな青年の前に菫色の髪を短く切り揃えた少女が屈む様に座る。自らの膝の上に肘を立て、両手で頬杖をつくような格好で青年を見詰めている。
「おーい、タタラ。そろそろ学校、準備しないと遅刻するよ」
そうハスキー掛かった声で声を掛けると、タタラと呼ばれた青年はゆっくりと目を開く。その瞳は琥珀色で、少し視線が泳ぐ。
タタラの前で屈む少女の服装は大き目の上着と薄手のシャツ、そしてホットパンツだ。その短い裾の間から少女の髪色と同じ色の下着が見えて、タタラの理性が乱される。
「……その格好は俺の視線誘導が目的か、エテル?」
「は? ……っ、馬鹿!!」
タタラの言葉にエテルと呼ばれた少女は一瞬思考し、タタラの視線を追って遅れて気付き罵倒を叩き付ける。
互いに肉体関係の有る間柄ではあるが、反応が初心だ。コレで付き合ってないと二人揃って言うので、彼等が通う学園のクラスメイト達はそれはもう横から盗ろうとしたり接近させようとしたりで日々熾烈な裏工作が行われている。
座禅を解き、立ち上がるタタラはインベントリから外套を取り出す。ゆっくりとしたローブで、所々魔力を強化する装飾が施されている。二人が住むこの都市『ワールウィンド』にて多くの魔法使いが愛用する典型的な外套を、タタラなりに改造した物だ。
「今日も学園かぁ……ダル」
「文句言わない、というか魔法使いなら立ち回りを勉強しなきゃでしょ?」
欠伸混じりに気怠さを主張するタタラと、注意するエテル。二人は探索者を育てる専門課程を学ぶ学生なのだ。
「正直さ、教授が話す理論とか無駄と実用性と発展性の無さ満載で聞くに耐えねぇよ」
「……それはタタラが異常だと思うんだよね、私は」
二人並んで通学路を歩く中で交わされる会話、タタラの言葉にエテルは呆れを含んだ言葉を返す。
タタラ・ジュロン、両親を亡くしたエテル・ネル=バーラルを拾った『ワールウィンド』で天才との呼び名を恣にする魔法使いだ。ヒューマンである為に基本的な魔力量は少ないが、その運用効率と発想力で若手ながら五指に入る魔法使いとして名前が上がる。
そんな彼と共に探索するエテルもまた、天才的な魔法剣士だ。魔力を刃にする魔導剣を手に、踊るように敵を切り裂くその姿は学園内でも有名だ。もう一つその美貌から告白を受ける事も多いのだが、隣にいるタタラにその数は少なくなっているのだが当人達は知らない裏事情である。
「上層階に出る『ゴブリン』程度なら初級魔法で十分だろ、要は魔力の収束運用と的確な貫通力で脳を破壊すりゃ死ぬんだから」
「それを出来る人がアンタを抜かしたら少な過ぎるんだわ」
天才魔法使いタタラ・ジュロン、何百年と研鑽した魔法使いが至る境地を一桁代の年齢で感得・実践した一種の化け物である。
その無駄を嫌う性質から、いまだに中級の魔法を覚えていない。尤も、エテルと二人で潜る15階層迄ではそれで十分であり、ボスに挑む時は中級魔法を取得するつもりではある。
「というか、タタラのスキルって意味分かんないんだよ。何で『魔法攻撃上昇』と『魔力上昇』、それと『鷹の目』の他は『槌適性』と『クラフト』なのにそんな強いの?」
「そんな事言われてもな……『クラフト』で自分の装備作ってるからじゃね?」
タタラのスキル構成は、前半こそ魔法使いとして正統だが後の二つが致命的な噛み合わなさを誇る。本来なら魔法使いが欲しがる『杖適性』では無く『槌適性』、更に何かしらの属性を増強させるスキルでは無く万能作成スキルである『クラフト』だ。
尤も、彼のレベルは20を越えているので他に二つスキルを所持しているが此処では割愛だ。
「接近されたら魔法使いは脆いから、『鷹の目』で射程が伸びるのは素直に強みだろ。接近された時の為に『槌適性』で相手を殴打出来るし、その上『クラフト』で自分用の武器を作れたのは丁度いい。それに忘れてないか? お前の剣を作ったのは俺だぞ?」
「うぐっ……タスカッテマス」
タタラ・ジュロン、天才魔法使いであると同時に魔導具作成の異端児でもある。半ば物質化する程高密度な魔力の収束を可能とするエテルの剣は、タタラが現状再現を疑うレベルで高度な造りをしている。
「ま、そんな物を造れてもあのバカ相手は負け越してるんだがな」
「またそんな呼び方して……幼馴染でしょ?」
「それ以上にライバルだよ、昔から模擬戦で負けるからな」
「魔法使いが近接職相手に負けるのは普通だっての!」
タタラがバカと呼ぶ人物、幼馴染でもあるその男は現在の探索課で首席を誇る。タタラは実技で常に後塵を拝し、次席に収まっている。尤も、座学の成績はタタラが上なのだが。
「今度こそ俺の収束した『火矢』と『水弾』で野郎を負かしてやる」
「……タタラの場合、殺傷力高過ぎて手加減する必要が有るのが問題じゃん」
そう、タタラ最大の欠点はモンスター以外に全力を出せない事だったりする。初級魔法の『火矢』ですら鉄製の防具を貫通する収束率を誇る為、授業では使用を制限されている。普通は有り得ない魔法火力の限界突破、それが彼を天才足らしめる物だった。
「はよっす」
「おはよー」
二人並んで教室に入る。すると二人に近付いていく男が一人いた。明るい色の髪を弾ませて、元気よく動くその男は登校中に二人の会話に出て来たタタラの幼馴染である。
「おっす、二人とも! 今日も仲いいな!」
「はよっす、うるせぇぞバカ」
「おはよー、そんな関係じゃないし!」
誂いを含んだ言葉にストレートに罵倒を返すタタラと、頬を赤らめながら言い返すエテル。素直じゃないな、そう考えながらエテルを見詰める幼馴染は取り敢えずそれを無視してタタラを見る。
「そんじゃ、今日も授業で組もうぜ!」
「はっ、今日こそ地面を舐めさせてやるよ!」
幼馴染の言葉に好戦的な言葉を返すタタラに、エテルはため息を吐いた。
タタラにとって退屈な授業を終え、魔法の共同研究を申し出る教授を無視してタタラは鍛錬場に立つ。
向かい合うは剣を手に取る幼馴染、一対一の戦闘訓練だ。
「タタラぁ! お前に賭けてるんだからちゃんと勝てよ!!」
そう野次を飛ばされるタタラは軽く手を上げるだけだ、目前の敵に集中する。
短い距離しか開いていない場所での一対一、どう考えてもタタラが不利な状況である。
「んじゃ、今日も勝たせて貰うぜ」
「ほざけよ、勝つのは俺だ」
互いに向き合い、教師の声と共に行動を開始する。
初手はタタラだ、距離を活かし『火矢』と『水弾』を同時に射出する。本来は魔法の二重使用等出来る魔法使いなど居ないのだが、彼は脳内で同時に魔法術式を展開し左右の腕を砲身に見立てて射出する。理論を説明されて学園内の教師全員が挫折したタタラのオリジナル戦法である。因みに、コレを応用すると魔力が続く限り左右の腕から交互に魔法を撃ち続けて飽和攻撃も可能とする。
幼馴染は飛んでくる二つの魔法を前に舌打ちをし、剣で切り裂ける『水弾』に向かい剣を振るう。物理的に実体を持つ『水弾』だからこその対処法だが、衝撃の重さに剣を取り落としそうになる。其処から更に一歩踏み込み、『火矢』の射程から逃れる。
しかし、タタラの追撃が発生する。剣で対象出来ないと踏んだ『火矢』を次々に撃ち出して幼馴染を近付けさせないようにする。しかし、幼馴染の機動力は少しずつタタラとの距離を詰めていく。
タタラもまた舌打ちする、自らを囲んだ『ゴブリンコマンダー』の一団ですら瓦解させた攻撃がまるで通用しない状況は予想していたとは言えとんでもない。仕方ないが、わざと隙を見せて誘い込む必要がある。そんな思考と共に、息切れを錯覚させる様にわざと魔法の間隔に穴を空ける。
それを見逃す幼馴染などでは無い、半ば本能に従う形で踏み込みタタラの懐へ入る。そして、その時に罠だと気付かされた。
タタラの手の中でぶつけられる『火矢』と『水弾』、次の瞬間水蒸気か発生し幼馴染を襲った。瞬間的に熱せられ蒸発した水分に自ら突っ込み、体中を傷みが襲い僅かに動きが鈍る幼馴染。
そこに、タタラは槌を振り抜いた。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン