既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中。
タタラ強化イベント発生中。
「しかし、珍しいなタタラ。お前が俺に依頼するのもそうだし、報酬に無形の物を用意するなんて」
「まぁ、基本的に依頼そのものをしないしな」
ホームルームを終えて1限目の授業が始まる迄の隙間時間、バカが近くの席に座ってきてそう言ってきた。まぁ、ダンジョン案件なら基本的に依頼を出すよりも自分で採りに行くのが俺であるしな。しかし、今回はそうは行かない。俺には剣の才能が欠如している為に『剣適性』スキルを取ったとしても刀剣における術理の理解と説明が出来ないのだ。それ故に剣の才能を持つ人間が術理を確立し、刀術として伝えなければならない。『剣適性』スキルは多少刀術の補助が利くだろうが、スキルに甘えていたら技が育たない。それでは意味が無いのだ。
俺の『クラフト』や『鑑定』のようにスキルを深化させる土壌を育てなければ、原作のルートによっては始まってしまう戦争でこの都市が狙われてしまった際に犠牲が大きくなる。百年前に確立された不可侵条約が、人の代替わりで有名無実になってしまう場合すら有る。百年前はダンジョンの氾濫が重なり戦争そのものは問題にならなかった、しかし次がそうとは限らない。少なくとも原作では、戦争時にダンジョンの氾濫は起こらなかった。だがこの世界でも同じとは限らない。
この『ワールウィンド』の最深ダンジョン『常闇の洞』は作り出した存在が最奥に居るのだが、現在は管理が自動化されていてその存在を倒してもこの都市のダンジョンが消える事は無い。俺が『料理長』から言われた最奥の存在の討伐、それがダンジョンの作成者であるダンジョンマスターの事であるのならステータスも戦闘スキルも頭に入っている。しかし、本当にあの程度の存在を『天使長』が何度も滅ぼせずに封印するだけに留めるだろうか?
もしかしたらこの『常闇の洞』には俺の知り得ない設定が有ったのかも知れない、それこそ最終作までに出せなかった72柱の魔神とその主についてやこの世界の始まりに関わる何かが。それを確認する為にはダンジョンの深層に潜らなければならない、俺自身とエテル達の戦力を上げ最深部に居るダンジョンマスター……または全く別の何かを討滅する為に。
「お前の剣を直したりしてる内に、お前の癖が活きる武器を模索してたんだがな」
「おう、
「ただ、アレは刃が薄い分お前みたいに剣で流すって技法には向かない。先手必殺、刃の薄さと鋭さを活用して相手の急所を断つのが理想の使い方だ」
俺の言葉に頷いているバカ、キチンとその結論に辿り着けている事に内心嬉しくなる。
「俺の依頼する陽出國の刀剣は、刃の反りが攻防一体の意味合いを持つ」
「あー……あぁ、力を流す機能と反りで包丁みたいに滑らせて斬れるって事か」
「そういう事だ。刃はちと繊細だが、達人の振るう刀はどれだけ斬っても大丈夫らしい」
「マジか、血脂を気にしなくて良いならかなり有用じゃねぇか!」
「ただ、習熟がな」
どの世界・業界でも同じだが、一つの道を極めるのには時間が掛かる。この世界にスキルと言う恩恵が有り、下駄を履かされているとはいえ才能という格差は存在しているし重ねた修練という物も確かな力となって自らを助ける。ステータスに依存するシステマチックな面を持つ割に、どうにもリアリズムを伴った不思議な世界なのだ。
「それに今回は素直に鋼だけで作った刀だ、何れは魔法金属で打った刀も作るが……採算が取れるレベルかは分からん」
「おいおい、不安になる事を言うなよ」
前世の刀は斬れ味が鋭い分、血脂が付いたり骨を無理に断とうとする事ですぐに鈍ってしまう。確か3人も斬ったらただの鉄の棒と変わらないと言われていた。それがこの世界の法則ではどう作用するのかが分からない。最悪、魔法的な処理をしたり対する存在に特化した物にするべきかも知れない。血を啜る刀、なんて作ったらガチモンの妖刀だが多分作れはしそうなのだ。魔法の術式を心鉄と刃鉄に刻んでやれば、斬った相手の魔力を吸収して斬れ味を上げる剣なんてのは簡単だ。
「そんな刀っていう武器をこの『ワールウィンド』で広められるかはお前次第だ、頼んだぞ」
「おいおい、責任重大じゃねぇか」
「それも込みでの依頼だ。言っとくがあの刀、向こうの好事家にとっては結構な金額付くからな」
「うぇ、マジか……」
帝都の四方を守る大貴族の一つ、その当主夫人を好事家扱いするのは問題かも知れないが今は向こうで無名である俺が打った刀だ。それに四桁万の金額を払うのは殆ど好事家のレベルだと思う、将来的にプレミア付く事を視野に入れたとしても流石に高い。
「それに『ワールウィンド』だと武器が重いとか、肌に合わないなんて言われる事がそこそこ有るみたいでな。刀も軽い訳じゃないが、切り裂くっていうこの機能が手に馴染むタイプも居るだろうしな」
「はいはい、お前はそうやって探索者に寄り添っててくれ」
「そんな言い方は無いだろ」
「いや、身近に居る剣の天才に気付かない奴が言ってもあんまり説得力がな」
そんなバカの台詞に疑問が湧く。俺の身近な剣の天才?
頭に浮かぶのは四葩だが、才能と言う点では目の前に居るバカの方が上だ。
「……同居人に刀を使う奴は居るが、俺から見るに才能ならお前の方が上だぞ?」
「誰と比較してるのかは分からねぇけど、俺が言ってるのはエテルの事だ」
「……エテル?」
エテルが剣の天才……イメージが湧かないが、そうなのだろうか?
「タタラがあの銃を作ったってのは理解ってか納得する、エテルは元々筋力が低いだろうから此方の剣を使うのに向かねぇんだろうさ。だが、今は身体も出来上がって普通に剣を使えるだろうからスキルさえ取っちまえばアイツは伸びるぞ?」
「……」
確かに最初『ロニセラ』を作ったのはエテルの筋力が足りないからだ。当時の俺が持つ技術だと今のダリアが使うような魔力刃を展開する魔導剣を作成出来なかった、その為魔力を弾丸として射出する為に反動が殆ど無い魔導銃を選んだ面もある。
バカの言葉は俺が見ていない所でエテルが見せている姿だ、訓練所で近接戦闘の訓練をしている時に見せている物。俺が知り得ない情報は貴重だ、ダンジョンで実戦は経験しているがそれは俺が定めた道をエテルが進んでくれているだけでしか無い。本当の才能を知らない故に潰してしまっていたのでは痛手に過ぎる。
「まぁ、剣云々関係なく今のエテルに何でもありで挑むと勝てる奴がいないんだけどな」
「……『性魔術』か?」
「正解。前に俺も絡まれたガラの悪い奴等が居たんだが、エテルに絡みに行ってな……ガチギレしたアイツがエナジードレインで根こそぎ体力奪った挙げ句額に銃突き付けた」
「聞いてねぇぞその話」
「エテル本人が口に出さないのならそこまでの話だろ、お前までキレてソイツ等を始末しようとしたら学園が吹き飛びそうだしな」
「出来なくは無いが……やると思われてるのか」
確かに以前エテルが言う淫語が学園で覚えた物かと疑ってガチで吹き飛ばそうと思った事は有るが、実際は父さんの書斎からの知識だから思い留まった。今の俺なら『玄武』の砲撃でピンポイントに消し飛ばすだろうが。
「と言うか、お前も絡まれたのかよ」
「コレでも首席様なんでな」
「そういやそうだったな、座学は俺に負けてるが」
「寧ろ俺はクラフターを専攻してタタラより上の成績に立てるやつの精神が心配になると思うがな」
まぁ、俺の場合はそもそも学園のカリキュラムから逸脱してるからな。都市長に言われた『ミスリル及びオリハルコン禁止令』が在学中は学園内で有効とされた為に他の学生よりも目立った成果を上げられない。他の学生がスキルランクが上がって魔法金属の加工が出来ると喜んでいる中、後輩二人に俺方式のクラフトを教えているのだ。評価されにくい事この上ない。
「つか、タタラってミスリルは加工出来るよな?」
「入学時点でミスリルとオリハルコンは加工出来たよ、都市長に止められて鋼で剣作って入学したけど」
「それはそれで意味分かんねぇな……あれ、じゃあ今作ってないのは?」
「都市長に継続して止められてるんだよ、学園内では禁止されてる」
俺の言葉にバカの表情に何処か同情の色が混ざった気がする、全力出せないのが辛いと思われてんだろうな。いや、実際辛いけどさ。
「それでも総合で次席か」
「クラフター専門ではド真ん中付近だけどな、総じて俺より座学が悪いの笑える」
「寧ろ入学時から満点か外しても2問で抑えてるタタラがどうかと思うけどな」
「計算はそこそこ出来るからな、問題は歴史関係だろ」
「確かにアレはもう少し加減しろと思うがな」
この世界、若い国でも三百年は歴史が有るのが常だ。挙げ句、幾つもの宗派と種族が存在しているのでどの国がどの宗派で何処の宗派とぶつかったとか、どの宗派に所属するどの種族がどの種族を迫害したみたいに覚える事象が圧倒的に増えている。義務教育は自国の歴史や現皇帝だけで問題無かったが、高等教育に進むと他国の物を覚えさせられるので難易度が跳ね上がる。それでも前世の詰め込み教育時代の勉強法で補っているが、正直言うとやりたくない教科の筆頭だ。落としてるのが2問で抑えられているのは半ば運だ。
尚、何年かしたら陽出國の歴史も出題される可能性も有るので今の内容が俺が点数取れているギリギリだと思ってる。
「って、先生が入って来たな」
教師が入って来たので会話を切り上げる。始まるのはダンジョン学、所謂ダンジョン内の基礎知識を履修する教科だ。さっきまで話していたバカはこの教科を得意としていて、学年でも3位以内に必ず入る履修具合だ。エテルは俺が教えた事と、バーラルさんから予習していた事を活かして学年だと5位以内だ。俺は前世知識と両親の探索日誌の合わせ技で首位である……偶に出題される内容が実際の物と違う為に何問か落とす事は有るが。
因みにこの時に不正解した問題だが後に同じ事態に直面した際に俺の方が正しくて頭を抱えた、出題した教師はダンジョンに潜り直せと思ったな。他の生徒にも被害が出たらしく軽く無い怪我をした生徒も出たらしく、問題の教師は懲戒処分が下ったらしい。真実は分からないが、少なくとも学園内で俺は姿を見ていない。そんな事を思い出しながら授業を受け、時間が過ぎていく。
「なぁ、タタラ!」
「ん、どうした?」
専門授業への移動直前、バカから声が掛かる。何事だろうか。
「依頼は受けるけどよ、何時からいけるんだ? 習うにしても、早めに受けてぇし」
「む、そうだな……今日帰る前に少し付き合えるか?」
「え、まぁどうせ今日もダンジョンに潜るだけだし余裕は有るが」
「なら、その相手と一緒に話して貰うかな。丁度エテルとダンジョンに潜る為に迎えに来るし」
「そう、なのか?」
ダンジョンに潜ることが意外だったのだろうか、まぁ騎士みたいな相手を想像していたのかも知れないしな。
雛菊さんも普段暇してるから色良い返事が貰える筈だし、無理でも基礎なら四葩か駄狐に教えて貰うのも有りだろう。何となくだが駄狐は相応の技量を持っていると思う、忍術とは別に修めているのが分かる。お師様をジッ様と呼んでた事から世話になっているだろうし、鍛冶を教えてないなら最低限の剣術を教えて身を守らせるだろう……お師様はそういう人だ。
そんな事を考えながらバカとは別れ、工房に入る。インベントリから取り出して作業台に置くのは魔法陣の描かれた盤だ。コレは人造オリハルコンを作成する上で必要になった魔石を最小単位に砕く為の魔方陣で、今日後輩二人に教えるのはその作成方法にする予定だ。自主練を頑張る二人だ、シャムスなら魔鉄の生成が成功率5割を越えているだろうしエストは形状記憶合金を同じだけ成功させられているだろう。そうでなくても次の目標を定めてやる方がモチベーションが上がる筈だ。
そんな風に楽しみにしていると、何時も通り二人が入ってくる。ただ、今日は少し雰囲気が違う。なんと言うか……苦虫を噛み潰している?
「……先輩、今日は」
「……今日は、先輩」
「うん、こんにちは……どうした二人共。そんな苦虫を噛み潰したようなというか、度し難い怒りを持ったみたいな顔して」
俺が思わずそう聞くと、二人の後ろから別の人間が許可も無く入って来た……いや誰よコイツ?
「あ、お邪魔しまぁす♪」
なんか無駄に甘ったるい喋りをしてくる女生徒、なんだろう凄く嫌な感じがする。先ず、香水がキツくて無理。鍛冶場でそれって何を考えてるのか、鉄や鋼を沸かす最中に匂いも判断材料の一つになるのだが態々ソレを邪魔する物を身に付けるな。『鑑定』で見るにしても状態は更新されないのだから、ほんの僅かな時間で変わってしまう金属の状態を感じ取れる感覚は多く持たないとダメだ。
次に手の状態。バッチリネイルとか付けてるが舐めてるのだろうか、鎚を握って振るのにマトモに握れなさそうなメイクをしてんじゃないよ。
最後に服装、そんなリボンやらフリルやら付いた服装と厚い底の靴で工房に入って死ぬ気か?
「……二人共、説明」
俺の声が氷点下に落ちた事を察したのか、シャムスとエストの肩がビクリと震える。失望はしてないが正直に言おう、何かトラブルが二人を襲ってるなら全力で守らなければならない。将来的に『ワールウィンド』の一翼を担うであろうこの二人が害される可能性が有るならば、俺は俺が持ちうる全てを使って二人が健やかに暮らせるようにする必要が有る。
「その、コレは」
「あっひっどぉい、エストくぅん私のことはトリカって呼んでよぉ」
「……このトリカは僕達のクラスメイトで、クラフトに興味が有るって言って付きまとわれてます」
シャムスの目が死んでるのなんて初めて見たぞ。つか、二人共迷惑千万みたいな反応してる辺り本気で嫌ってるんじゃねぇかな。
「ご紹介にぃ預かりましたぁ、私はぁトリカって言いますぅ♪ 仲良くして下さいねぇ♡」
ごめん、なんか生理的にコイツ無理。
「二人共、校則は分かっているよね?」
「はい……」
「工房見学って最初は選択出来るけど、他工房への移籍や途中参加は認められて無いんだよ」
「……はい」
「んで、コレは何で俺の工房に来てんの?」
「あぁ〜先輩ってばひっどぉい」
ヒデェのはテメェの喋り方だこのクソが。見ろよ後輩二人の顔、お前が口を開いた瞬間から頭痛が痛いみたいな顔になったぞ。それと精神干渉しようとすんじゃねぇよ、低ランクの『性魔術』スキルかコレ。
「コレは校則、学内とはいえ立派なルールだ。ソレを破るなら相応の罰則が有る」
「そんなぁ」
「気持ち悪いから口を開くな。それと、制御出来ねぇなら『性魔術』なんざ使うな……反吐が出る」
エテルは夢魔である。しかし『性魔術』で他人を無意識に誘惑した事が無く、言い寄るのは専らその美貌とスタイルからだ。以前『天使長』から聞いた話では『性魔術』を完全に制御出来る夢魔は相当力が強いのだとか、取得直後から完全制御をしているエテルはどれだけの才能を持ち合わせていたのか想像も出来ない。
「先輩、その……」
エストが何かを言いたげに口を開く。咄嗟に『鑑定』を使用すれば案の定魅了状態にかかっている。このクソ、本気でぶった斬ってやろうか。
「エスト、シャムス。調子が悪いなら今日は授業は取り止めて家に帰った方がいい」
「でも、俺達まだ先輩の技術を……」
「不調で覚えられる程、俺の技術が簡単だと思うか?」
「……いえ、無理ですね。ここ最近、僕の魔鉄と形状記憶合金の作成が上手くいかなくて。相談、したくて……」
言葉を紡ぐのも辛そうなエストと、喋っている最中に涙を溜め始めたシャムス。
苛立ちが増す。俺の大切な弟子に何をしたこのクソ、ゆっくりとクセェゴミに目を向ける。
「おい」
「はぁい♪ なんですかぁ?」
「今直ぐ消えろ、さもなくば殺す」
目の前のソレを『敵』と定める。彼我の戦力差を認識、計算。そこそこダンジョンに潜っている様子だが、レベルとステータスは低い。前に見たゴミ共と比べても低いのはまだ義務教育課程中だからだろう、速力は元から少し高い様子だが俺の半分にも届いてない。『性魔術』頼み、寄生型のサークルクラッシャー。
「先輩ったらヒドいぃ……でも、いいでしょぉ? お・ね・が・いしまぁす♪」
また『魅了』……いや『誘惑』か? 生憎と、エテルで慣れてる為にこの程度では欠片も精神干渉を受けない。敢えて言うのなら、怒りが湧いてくる。
「もう一度言うぞ、今直ぐ失せろ」
怒りのあまり声が震えるのが分かった、止め処なく殺意が溢れてくる。目ノ前ノ敵ヲ排除セヨ、胸の奥からそんな声が聞こえてくる。度し難い、この取るに足らない糞虫に大切な弟子の未来を食い散らかされそうな現状が許し難い。
「うふふ、先輩ったらぁ♪ クラフターがぁ、強い言葉を放っても怖くないですよ♡」
「そうか、死ね」
眼の前にいた敵の首を掴み、壁に叩き付ける。一切の反応を許さない速攻、そのまま圧を掛けて壁に擦りながら持ち上げる。
「お前は、俺の弟子達の心を侵そうとした。お前は、俺達クラフターが大切にする神性なる工房へ許可なく土足で上がった。貴様は、俺を怒らせた……スリーアウトだ。来世にチェンジしろ」
必死に抵抗する様子の敵だが、物理攻撃が低過ぎて俺の皮膚すら傷付けられない。こんな弱い生き物が俺の大切な後継を壊そうとしたのか、何処までも度し難い。
「ジュロン、此処に……って! 何をしている!?」
工房にいきなり入って来た教師が、俺を見て慌てて割って入ろうとする。だが残念、俺の方がステータスが高いらしい。
「おい、ジュロン! この手を離せ!!」
「煩ぇ、このゴミは俺が教えた後輩達に性魔術で魅了を掛け俺の工房に押し入った! ソレがどれ程許し難い事か分かんのかお前!?」
「たかが工房に入る程度で何を──」
「そうか、お前も敵か無能」
──なら、コイツ諸共死ねよ。
思考は一瞬、行動は迅速。俺に触れている無能の腕を振り解き顔面を掴み勢いを付けて向かいに有る壁へ投げ付ける。軽く飛んだ無能がそのまま壁へ激突したので、そこへ向けてもう片手に持っていた敵を投げ付ける。呻いて動かなかった無能に敵が勢いよくぶつかり、何方も動かなくなる。このまま此処で息の根を止めようと、対人用のバトンを取り出す。そのタイミングで後ろから腰に衝撃が走る。
「……何をするんだシャムス、エスト」
弟子二人に抱き着かれるが、物理攻撃ひいては筋力の差で抑えられていない。何故二人が俺の邪魔をするのか理解が出来ない。
「先輩、やめて下さい」
「そんな事をしたら学園から退学になってしまいます、おねがいですやめて下さい」
どうやら敵と無能の心配では無く、俺の進退の心配らしい。何とも師匠思いな二人である。
「……あそこのトリカに頭を弄られて、感情を捻じ曲げられて俺達も不快です。ですが──」
「先輩がそんな事をして僕達が学ぶ機会を失いたく無いです、僕達はまだ学び足りないんです」
エストとシャムスの懇願が頭に届く、魅了されているからではなくそれに抗った結果で俺を止めようとしている事。
なら、俺も怒りを抑えなければならない。
「……分かった、二人が俺からまだ学びたいのなら耐えよう」
「ありがとうございます、先輩」
「ありがとう、本当にありがとう先輩」
深く呼吸をして感情を抑えた俺の答えに、エストとシャムスが泣きそうな声でそう言ってきた。本当、この二人が俺の下へ学びに来てくれて良かったな。
「ぐっ、うぅ……ジュロン、貴様ぁ!!」
無能が意識を取り戻したらしい。しかし、本当に学ばないなコイツ。工房と弟子を踏み躙られたクラフターが、その怒りを簡単に抑えられると思っているとか。
「おい、無能。一つ言っておく」
「なんだこの不良が!!」
「都市長の庇護下にあり、かつ次期工匠長である俺の弟子。そんな重要人物である二人に魅了を掛けた奴を庇うなら相応の処罰を覚悟しろ」
「……は?」
お前が教師として俺の前に立つのなら権力は正しく使ってやるよ。この都市で最多の特許を保有する俺の弟子、その二人が都市長と言う最高権力者に庇護された存在である事を宣言する。
すでに再現不可と言われていた俺の技術を二つ修めているこの二人の重要性、それが脅かされた事実。その危険を排した俺に何か反抗するのなら、お前は俺だけでなくこの『ワールウィンド』の敵になる。
「お、お前が……次期工匠長……?」
「なんだ、学年主任や学園長……ひいては都市長から言われて無いのか?」
「バカな、だってまだ学生……」
「その学生がこの都市で最多の特許を保有する人間だってのも分からなかったのか、重要性も理解しないのになんで高等教育課程の教師やってるんだお前」
事の重要性がまだ理解出来ていないらしい、教師が預かる生徒の立場も理解出来ていないのか……それとも重要な情報故に末端には秘されたか?
この都市で、技術を保有する者を軽く見る事。その危うさを理解出来ないのは嘆かわしい。
「た、たかが魅了で……」
「おいおい、再現不可とされている技術を持つ者の関係者を魅了しているのに”たかが“だ? お前、本当に頭大丈夫か?」
コレが王族や貴族なら国家転覆を狙ったとかで公開処刑の後に一族郎党晒し首だぞ、それだけ魅了を扱える人間は子供だろうと危険視されるし無闇に振るえば逮捕される……この都市に少年法なんて無いしな。
「学生であろうと、将来的に国の中枢を担う可能性がある人材を育てるこの学園内で……魅了が罪にならないとでも?」
更に言えば此処は継承権は低いが貴族の子息も扱うのだ、そんな所で恣意的に魅了を使う奴を野放しにしてどうする。
「な、ならお前の家に下宿しているバーラルはどうだ!? 夢魔であるアイツが、周囲に魅了を使ってないとでも!?」
「……エテルが『性魔術』を取得したのがどれだけ前か分かるか?」
「はぁ? 夢魔なら生まれた時からだろう!」
「アイツは夢魔と悪魔族のハーフで、先天的には『性魔術』を取得していない。取得出来たのは約一月前だ」
「……は?」
「アイツが『性魔術』を取得出来たのはだいたい一月前って言ってるんだよ、その前後でアイツが周囲に明確に魅了を使用したって場面が有ったのか? 少なくとも、周囲から性的な視線を向けられたのは取得前も後も変わってなさそうだがな」
エテルの『性魔術』使用は基本『ロニセラ』を使用する上で魔力不足を補うためのエナジードレインだ、魅了の利便性の高さは俺から学んだくらいに気付くのが遅かった。そして『ゴブリン』が組み付いた時の反応は他の女探索者相手と変わっていなかった。つまり、エテルは魅了を必要な時にしか発動させない程に制御出来ているということ。夢魔だから、は言い訳にならない。
「仮に掛けてしまえば、モンスターや国家転覆を狙った準テロリストとして判断される。そしてこれは入学時のガイダンスを真面目に読んでれば分かることだ、人だろうとハーフだろうと『性魔術』スキルの制御を行い学生や関係者に対して魅了の使用を禁ずる……教師が真っ先に理解し罰則を与える事案だぞ?」
眼の前の無能は顔面を蒼白にしている、ようやく事の重大さが分かったのだろうか?
「わ、私は……」
「私は、何だ?」
まさかとは思うが、この無能まで魅了されてたりしないよな?
一応、教職に就く人間は魅了耐性を取得する事や対策装備は必須の筈なんだが……試しに『鑑定』を掛ければ案の定魅了状態だった。職員教育はどうなってるんだ教育は。
そんな問題をするうちに周囲に教職員や生徒が集まってくる。
「はっ! た、助けて下さい!! ジュロンがいきなり暴れて!!」
「この教師と後ろの二人は魅了状態です! 壁の所で寝てる奴が『性魔術』で魅了を使用している、耐性を持ってない奴は近寄るな!!」
無能の大声を掻き消すように、更に大きな声で被せる。状況を理解した職員の一部はその場を離れて行った……有れば解除関係のアイテムかスキル持ちを探しに行ったか?
そんなタイミングで壁の所にいた敵に動きが見えた、どうやら俺と無能の問答で時間が掛かり過ぎたらしい。拘束出来なかったか。
「いったぁ……何すんのよアンタ!」
「おいおい、化けの皮剥がれてんぞいいのか?」
俺に恨みがましい視線を向けてくる敵に対して、嘲笑って返してやる。複数の生徒、教師に見られている中で地金を曝す辺り相当お冠らしい。
「たかがクラフターの分際でぇ……!」
「そういうお前は何も出来ないゴミだろ、観たところ『クラフト』スキルも未修得みたいだが……産業スパイでもしに来たか?」
まぁ、十中八九目的はそれだろう。俺及びエストとシャムスの技術を盗みに来たのだろうが、そもそも俺の技術は公開済み。後輩二人にはやり方を教えているが、そもそも前提として『概念鑑定』を理解しなければならない。今更、この二人に教え直す必要も無いから魔鉄と形状記憶合金の作成だけだ。
「生意気ね……人形になりなさい!」
「魅了系の魔法を使うぞ、耐性が無いやつは離れろ!!」
敵に『概念鑑定』を向け続けていれば、魔力が流動して魔法を構築するのが見えた。術式を読み取れば魅了で、咄嗟に周囲へ警告をするが遅かった。
敵の魅了に掛かった奴等がその動きを止める、咄嗟に鑑定してみれば案の定魅了状態だ。広域で魅了を使ったのが決定打だな、コイツはもうこの学園に残しておけない。その為に一度制圧する必要が有る。
「ふふ、キャハハハ! そうよ、コレこそが私の力よ!! その男を痛め付けなさい、下僕達!!」
魅了に掛かった一部の生徒にそう命令をする敵、この場に残っていた教師達は対策をしていた為に問題無いが如何せん生徒達がネックだ。どうも低レベルな生徒ばかりらしく、下手にぶん殴って正気に戻そうとしたら殺しかねないステータスだった。運良くシャムスとエストは参加する気配が無いのが救いか。
防御力差で攻撃を受けてもダメージは無いが、下手に反撃出来ない。そんな俺に対して敵は笑顔を見せているが、どうやって対処するべきか。
そうやって悩んでいると、遠くから羽音が聞こえてきた。学園内で羽音を響かせこの場へ高速で来れる奴は複数居るだろうが、来てくれるのは一人しか思い付かない。
俺の最愛の相手にして最強の味方──エテルが文字通り飛んでくる。
「……動くなぁ!!」
エテルの声が響く。瞬間、俺を囲んでいた魅了を受けた生徒達が一斉に動きを止める。敵の掛けた魅了を自身の隷属で上書きしたのだろう、普通はこんな事は出来ないぞ。
エテルの隷属により暴れていた生徒達は全て沈静化、物理的に押さえていた教師達は啞然としている。そりゃ、こんな事出来る奴なんて初めて見るだろうから当たり前か。
「タタラ、無事!?」
心配そうな声を出しながら、俺の側へ滑空した後に着地する。
「大丈夫だ。アレ、弱かったし」
身体を触って怪我の有無を確認してくるエテルに苦笑いしつつ、敵の動向を見逃さないように見る。どうも自身の『性魔術』に絶対の自信が有ったらしく、現状を理解出来ていないようだ。
「え、なんで……どうして私の言う事を聞かないの?」
「お前よりも強い力で支配下に置いてるからだろ、ちゃんと頭使えよ」
俺の言葉を聞いて敵は呆けた顔を見せた後、頭を掻き毟る。
「なんだよそれ、意味分かんねぇよ! 私はお姫様なんだぞ! 何で言う事聞かないんだよ!!」
なんと言うか、憐れな姿だな。幼少期から魅了を使って生きてきて誰も彼も言う事を聞かせていたのだろう、それが通じない相手を前に現実を受け容れられないらしい。
「いい加減にしろよ、上手くいかない現実を前に駄々をこねるな。ガキかよ」
「うるさいうるさいうるさい! お前なんかに何が──」
「いい加減うるさい、黙れ」
耳障りなその声を止める為に『性魔術』の隷属を使って精神に干渉する。特に抵抗を感じることも無く、敵は身体から力が抜けたのかその場に跪く。
「……俺の後輩二人を魅了して、更に工房に押し入った理由を言え」
「……高級な物を作らせて売ろうと思ったからです」
「誰かの差し金か? それとも単独犯か?」
「……自分で考えました」
「シャムスとエストを狙った理由はなんだ」
「……簡単そうだったからです」
なんと言うか……クソ下らねぇな存在だなコレ。こんな矮小な存在に俺の後輩二人は脅かされて、貴重な授業の一つを潰されたのか。この場で自害させてやろうか?
「ジュロン、余罪が知りたい。部屋を空けるから尋問の手伝いを頼む」
「……分かりました」
教師の一人、以前俺に魔法使い用の防具を頼んだ教師が真面目な顔で頼んで来たから承諾する。さて、あんまり多くて俺達を煩わせるなよ?
結局、30分程で尋問は終わった。余罪はそれなりの数が出て来て、個人経営のクラフター達もそれなりに被害に遭っていた。事が大きくなり、自警団と法務に商会も介入するだけの大事になった。俺が隷属させて引き出した証言は記録結晶に保存され、取調べを行う組織に提出した。俺も招聘される運びになる筈だったのだが、自警団だけでなく法務と商会も取調べが終わった後に必要ならと言ってきた。どうも、俺が関わるのが拙いっぽいな……次期工匠長って肩書の影響かコレは?
「……タタラさ、一度教会で解呪とか試した方が良いんじゃねぇか?」
「いや、そこ迄では無いはず……」
「私は受けた方が良いと思うけどなぁ、呪われてそうだもん」
「だよな」
尋問に参加していた俺を待っていたバカとエテルに合流し、真っ先に交わされたのがこの会話である。そりゃ、恨み買ってそうでは有るが流石にお祓い……は無いから解呪する必要性は無いと信じたい。つか、それなら陽出國に行って神社のお祓い受ける。
「ま、授業中にいきなりエテルが飛び出した時は騒然としたんだけどな」
「そう言えば、何でエテルは俺の所に? 訓練場の位置からだと此方の騒動は分からなそうだが」
「え、タタラが危険そうって何か感じたからだけど」
『どういうことだよ』
俺とバカの言葉が思わず重なる、エテルの直感が俺の危機を伝えるとか何なんだそれ。
「……愛の絆ってやつか?」
「あ、それいいね!」
「愛、怖いなぁ」
バカの呟きに明るく返すエテルだが、俺はその愛が怖くなる。多少の嬉しさは有るけどな。
そんな会話を交わしつつ、校外に出ると何時もの一団が待っていた。今日は天狗装備でキチンとした格好の雛菊さんが見えて、俺とエテルが同時に安堵の息を溢す。
「なんでお前ら二人は安心してんだ?」
『いや、ちょっとね』
バカがそんな疑問を抱くも、俺とエテルは雛菊さんの名誉の為にその干物化している実態を口に出すのを躊躇う。初対面の相手くらいは綺麗なイメージを持たせたままにしたい。
「学業お疲れ様なのじゃ!」
代表して四葩が俺達に労いの言葉を言ってくれる。おもいおもいに返事を返し、俺はバカを四葩達に紹介する。
「コイツは俺の幼馴染……まぁ、親友って言える奴だ」
「おう、タタラの幼馴染兼親友やってるぞ! 宜しくな!」
バカの挨拶に対して四葩、ダリア、雛菊さんもそれぞれ名前を教え合う。さて、本題だ。
「雛菊さん、少しおねがいがあるんだが」
「む、私にですか?」
「ええ、コイツに刀術を基礎でいいんで教えて欲しいんです」
俺の言葉に考え込む雛菊さん、少しして頷き答えを出してくれる。
「いいでしょう、明日からでもお教えしましょう」
「本当っすか? ありがとうございます!」
俺より先に雛菊さんに感謝を伝えるバカ、何とも簡単に答える物だ。木刀とウレタン竹刀を用意しておかないとな。
「あ、でもどうするかな……生活費が」
「一応、俺からの依頼って面が有るから1日3万出すぞ」
「それだと俺は貰い過ぎじゃね?」
「この『ワールウィンド』と『陽出國』との文化交流って面も有るんだ、刀術の習得以上にソレを将来的に根付かせる教師の育成って考えたら寧ろ安いだろ」
「……タタラ、本当に『長』の一人なんだな」
「何を言ってんだお前は」
バカが依頼を受けている間は生活費を出すくらい俺の役目だろう、習得までの期間は分からんが多少の出費は痛くない。何なら、飯も出してやろうかな?
「それじゃ、宜しくお願いしますね雛菊センセ」
「此方こそ、厳しくいくつもりなので付いてきて欲しい」
笑って言葉を交わす二人を見て、仕事が無く家でだらけた姿を曝す雛菊さんが多少はマシになる事を俺は祈るのだった。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン