既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント発生中
メリークリスマス、季節イベントは行っていませんのでミニスカサンタのエテルやふかふかトナカイの四葩なんかを期待していた方はごめんなさい。
ダンジョンへ向かうエテル達と別れ、帰路に着く。新しく用事が出来たので途中で商店区の服屋へ向かう。以前四葩達の平服を買った店に入り、ジャージを探す。雛菊さん用のフリーサイズジャージを一つ買う。
「……あっ、ジュロンさんですよね!?」
「え、あっはい。ジュロンですが」
「いやぁ、ちょうどよかったです」
店主が俺を見て気付いたらしく、何やら俺を待たせて店の裏に向かって行った。少しすると、一抱えは有りそうな段ボールを持って戻って来る。
「ご注文に預かりましたメイド服です、御検分して下さい」
「……ああ!」
今の今まで忘れていたが、そう言えば店の制服としてメイド服を注文していたな。言われた通り段ボールからメイド服を取り出して『鑑定』を掛けていく。一つ一つ微妙にデザインが違い、尻尾用の穴や翼用の切れ込みが有る。
そして、素材が違う光沢が強く露出度の高いメイド服が一着。コレがエテルの夜用か……着てるのを想像したらヤバそうなので思考を霧散させる。
「店舗制服用を5着、夜用の物を1着の合計6着です。制服用が1着3万と夜用のが5万で計20万になります」
「制服って考えると意外に安いな」
『鑑定』で見る限り生地もちゃんとした物を使っているし、裁縫技術も高い。長持ちするのが分かる造りをしているのでコレはかなりいい買い物だと思う。そう考えてインベントリから現金20万を取り出して渡す。
「それじゃ先に20万で」
「はい、ありがとうございます!」
「で、次はこのジャージをお願いします」
「えっと、コレは?」
紅白で色分けされたジャージを受け取り戸惑いを見せる店主、俺は取りあえずバカと雛菊の訓練の話を掻い摘んで話すと店主は一つ頷いた。
「それでしたら10分ほど待ってください、簡単に補強しますし背中に翼を出せる切込みも入れます」
「えっと、良いんですか?」
「はい、その分追加でお代を頂きますから」
ちゃっかりしているが、それだけ自分の技術に自信が有ると言う事。同じクラフターとしては受けて立つつもりだ。
そして渡されたのは肘と膝がプロテクターの様に補強され、肩や脇に股等を手直しされ動きやすさを増した構造になったジャージだった。よく見たら脇はメッシュになっていて熱が籠りにくくなっている等、手直しというよりも新規製造に近い気がする。
「どうです、いい出来でしょ?」
「ええ、良いですね」
ざっと2万5千くらいだろうか、10分で仕上げたのなら特急料金も出さないとな。
「では、ジャージの元の値段が5千で──」
「特急料金込みで2万5千でいいですかね?」
「いちま……はい?」
「え?」
意思疎通を失敗した気がする。しかし、漏れ聞こえた金額は1万で売るつもりだったのかこの人?
それはダメだ、適正価格を払わないと。
「此処まで来ると完全に別物ですから、技術料込みで2万で特急料金に5千。計2万5千でいいですね?」
「よくないです! 貰いすぎですよ!?」
元のジャージの金額から5倍に膨れてるのが流石に怖いのだろうか……いや、確かに怖いな。
「……肘と膝に追加されたプロテクター、肩まわりや股関節部の可動域の増加、脇部分のメッシュ、ファスナーとボタンの併用……コレなら普通にハイエンド品として扱うべきだと思いますよ?」
「だからって、元の5倍は貰いすぎですよ!」
「5千は特急料金なので、元の4倍ですね」
「あ、なら安……くねぇよ! それでも4倍は高いよ!!」
「でも技術料を考えるとコレくらいはしますよこのジャージ、かなり良い品です」
「いや、褒められて嬉しいですけどね……お客様はクラフターですか?」
「ええ、個人で店を開いてます。専ら武具が専門みたいなものですけど」
「ほへぇ……服は作らないんですか?」
「デザインセンスが無いんで」
少し話が脇道に逸れ始めている、修正しなきゃな。
「そんな同業者の俺から見てもこのジャージはそれだけ出す価値が有るって事ですよ。俺は貴方の技術に負けたので、コレに2万5千出します」
俺の言葉を聞いた店主と暫く見つめ合い、遂には店主がため息を吐いた。
「……分かりました、今回は受け取ります」
「よっしゃ!」
「なんで高い買い物なのに喜ぶかな」
俺の反応に対して諦めた雰囲気の店主にジャージの代金を渡せば、店主はキッチリと数えてため息を吐く。
「1万で売ろうと思ったら2倍半に増えて戸惑ってますよ……」
「普通に並べるなら最低でも2万からにした方がいいですよこれ、背中の翼の加工を無くしてもそれだけの価値が有ります」
「なんでそんなに値段設定に自信有るんですか?」
「商会長の定めた値付けのオプション関係を参照にしてますからね」
「……へ?」
現状存在する付加価値基準なら全て頭に入れているから、この加工ならコレくらいって当たりは付けられる。多分、商会に問い合わせたら同じだけの値段を付けさせる筈だ。最初のブランドとしても価値を付加するなら3万が最低ラインになりそうだが。
「あ、あのリスト覚えてるんですか……?」
「ええ、大した数では無かったので」
項目として50強だったから大した数では無い、俺の発明だとどうしても前例のない価値になるから都市長からの裁定が必要になるが。
話しながらインベントリに段ボールやジャージを入れる、退店の準備は完了だな。
「それではお邪魔しました」
「え、あっまたのご来店をお待ちしてます」
戸惑いながら挨拶をしてくれた店主に一礼して再び帰路に着く、途中野菜を買いつつ順調に家に着いた。玄関先にて箒で掃除していた駄狐に声を掛ける。
「ただいま、駄狐」
「おかえりでござる、ご主人」
俺の姿を見て笑顔で迎えてくれる駄狐の頭を思わず撫でる、やっぱり大型犬が出迎えてくれた時のような雰囲気が有るんだよな尻尾も振ってるし。
「掃除ありがとうな、何か変わった事は有ったか?」
「遠目から家の構造を見やって侵入を考えている不埒者が5名と言ったところでござったな、それ以外は平穏でござるよ」
「そうかそうか」
外で掃除してたのはそれが原因か、大分頼ってしまっているな。お義母さんが手を入れてくれたお陰で結界の効果が上がっている為に、無理矢理押し入ろうとするならそれこそカラムスさんクラスの能力が必要になる。鍛造ミスリル製の正門を突破する為には『エリンジウム』級の火力が必要だし、シャッターを破るのも近い攻撃力が要る。
正面突破以外では『解錠』スキルで門を開けるべきなのだが、コレは内側から鍵を掛けると外から干渉出来なくなっている。更に俺が作った鍵は『解錠Ⅴ』でもないと開ける取っ掛かりすら掴めない、留守中に入ろうにもこの家の防備は相当に高い為に手出しが基本出来ないのだ。
それでも不安だから今日は駄狐に残って貰ったのだが。
「そう言えばお師様とお義母さんは?」
「昼にご主人が作り置きしてくれていた鰹の漬けを使った丼を出したでござる、二人共酒が呑めずに暗い顔をしてたでござったよ」
「……悪い事したな」
朝のたたきでも酒を欲しがっていたが、昼にそんなの出されて余計に酒が欲しくなったか。とは言え、フライにするには鮮度が良かったからこうしたのだ……夜に出すべきだったかな?
「そう言えば、ご主人はお昼食べたでござるか?」
「いや、終業の後少し教師陣に捕まって色々有ったし雛菊さんに少し頼み事が有って時間使った上で服屋まで行ったからそんな余裕無かったな。大分腹減ってる」
意識したら途端に空腹を感じ始めた、何か有るかな?
「それならご主人。拙者を食べてみるでござるか?」
そう言って、平服の首元を緩めてその細い肩を見せてくる。
俺はそんな駄狐に向き合って肩に手を置き、そのまま引き寄せる。駄狐は驚きつつもその目を強く瞑り、俺のことを受け入れようとしている。そんな駄狐に俺は──
「アホなことを言うな」
「きゅうん!?」
一言添えてデコピンをかました。結構痛かったらしく、駄狐が驚きを含んだ鳴き声を上げる。
「いいか、一華。確かにお前の見た目も中身も俺好みだし正直そそられる面は有る」
「え、あ……きゅうん」
「けどな、男に触られるのが怖いのにそんな事を言うな。震えてるの分かるんだからな?」
「……それでも、捧げたいと思ってしまったらどうしようも無いのです主」
口調が変わる一華、そんな彼女の頭を抱き寄せてそっと撫でる。
「何を焦っているのかは分からん。だがな、この家にいる間は気を抜け。前にも言ったろ、飽きるまで夢を見てろって」
「……夢のままはもう嫌になってしまったのです、主。私は、此処を居場所にしたい」
「なら、それで良い。けれど無理はするな、お前が本当に大丈夫になったら、ちゃんと受け入れるから」
「……はい」
一つ返事をして、一華は俺から離れる。胸に手を当てて呼吸を整えた後、何時もの表情を作る。
「ご主人、ありがとうでござるよ」
柔らかく笑った
「
家に上がり、食卓で駄狐の作る食事を待つ俺に対してお師様がそう言ってきた。前に知らないとか言っていたのに、結局は気にしていたのだ。仕方の無い人だな。
「ええ、彼奴が笑っていられるように頑張ります」
そして俺の答えに満足して頷くお師様。あ、そうだ。
「あの、聞きたいことが有るんですが」
「
お師様が鍛えた刀を観た時から有った違和感、概念を受け入れる器に対して伽藍堂の中身に対する俺なりのアプローチ。剣とは武器で有るが、同時に祭器の一つにも数えられている。前世なら有名な物として天叢雲剣、国宝に数えられる神器の一つである。
悪縁を斬ると願が掛けられ御守りとしての側面を持つとされるのが剣であり、前世には御守りとして活躍した逸話の有る短刀等も有った。つまり、お師様の技術を使って精神干渉を弾く御守りとしての刀を作れないか。俺が気になったのはコレだ。
「と、そんなふうに出来ないかなって」
「……
お師様が出来る事を示唆するが、同時にそれが難しいのだと教えてくれる。
概念を付与すると一口に言うが、そもそもその付与すべき概念をどうやって形作るかだ。神々が持つ権能ならば特定の方向性にのみ望んだ概念は作れるだろう。しかし、人の身でそんな事が出来るかと言われれば不可能と言えるだろう。只人に世界の根幹に触れる手段など無いのだから。
お師様が至った境地も至高と言えるが、あくまで空の器を用意し長い年月を掛けて概念を形作る物でしかない。その為にどのような形になるかが分からない……そんな代物にしかならないのだとか。
だが、本当にそうなのだろうか?
確かに概念武装なんてのは神々の領分だろう、だが誰かが作れるなら必要な物を揃えさえすれば誰もが作れると言う事だ。それに俺の『鑑定』は存在そのものを深く認識する『概念鑑定』だ、何かしらの概念武装に触れられたのならその概念自体を認識出来る筈。
「お師様、不躾なのは承知でお聞きします。何かしらの概念武装を持ってはいませんか?」
俺の言葉を聞いて、お師様は察したらしい。少しの間俺の事を睨み付けた後、盛大に溜息を吐かれた。そしてインベントリの中から取り出される一刀、白木の柄と鞘のいわゆる白鞘と呼ばれる拵えのそれに『鑑定』を掛けた瞬間にまるで切り裂かれたかのような感覚と共に『鑑定』を弾かれる。
魔力やそれに類する外部からの干渉に対して切断してしまう程に高まった概念、一種の剣の極致をそこに観た。
「お師様、コレが……」
「
その言葉を聞いてから、俺は眼の前の神刀へ『概念鑑定』を行う。その干渉すら切り裂かれるが、構わず見続けるとやがてその存在に触れる事が出来た。軽い頭痛と共に流れ込んでくるこの剣が此処に至る迄の記録、どの様に鍛えられどの様に時を得たのか……そんな情報が読み取れる。
技法と理念と経験、そんな三要素を認識しこの剣が纏う『切断』の概念を理解する。
観たのはエテルと約束した時間よりも短かったとは言え、脳に掛かる負担は中々に重かった。流石に『天使長』の剣程では無いが、本来は神々が作るような概念武装を鑑定したならこうもなるか。
「……成る程、剣の極致とも言える『切断』の概念武装ですか」
「
いや、コレは頭のキレとは別だと思いますよお師様。
「方向性の定め方は理解しました、何度かやれば作れそうです」
「
自分の師から頭がおかしい扱いをされた件。いや、流石に自分でもどうかと思うけど作れる物は作れてしまうのだから仕方ない。それに、切断特化の概念武装は持ち主に影響出来るところまで拡大出来れば今日有った魅了を掛けてくる相手に対する防御法として効果が絶大だろう。作る価値は十分にある。
「話の途中で申し訳ないでござるが、昼餉でござる」
「お、ありがとう。いただきます」
「はい、召し上がれでござる」
駄狐が持ってきてくれた昼食をとる。白米に牛肉の時雨煮が乗せられた丼とキャベツの味噌汁、そして小鉢には卵。コレから鍛冶を行う上で力が付くメニューに心が浮き立つ。
牛肉と玉葱に人参を醤油ベースの甘辛いタレで煮込んだ時雨煮は生姜の辛味により肉の臭みを打ち消され、玉葱と人参の甘みと食感が強めの醤油のしょっぱさを柔らかくする。肉にも味が確りと染みていて、噛めば噛む程に旨くなる。
少し口の中がくどく感じて味噌汁を一口、少量の一味が散らされた白味噌の汁はキャベツの甘味を含みながらもピリッとした刺激により味が締まる。コレだけでも白米と一緒に食べて満足出来る味だ。
時雨煮と白米をバランスよく食べているつもりだったが、先にアタマの方が無くなってしまう。ご飯は残り丼の1/3程、そこに卵を割って落とす。時雨煮のタレを吸って色が変わったご飯の上で卵を溶き馴染ませ、口に運ぶ。溶いた卵液の為に啜る形になるが、行儀など考慮せずにかっこむ。
卵の味を足した時雨煮のタレは味わいを柔らかくしつつも確りと主張し、調和する。そのまま飲み込んでしまうと健康に悪いのでよく噛む、タレの奥から白米の甘味を感じる。タレと絡んでも問題無いよう硬めに炊かれた米はタレと絡むことでもっちりとした食感に変わる。米粒一つ残らず完食し、両手を合わせる。
「ごちそうさまでした、美味かったぞ」
「お粗末様でござる、満足してもらって嬉しい限りでござるよ」
俺の言葉で嬉しそうに笑う駄狐、こう言った表情を見ると幸せになれるな。
胃を少し休めた後、鍛冶場に入る。今日は俺が横座として取り仕切るようにお師様から言われた、お師様が相槌を務めるなら存分にその技を見れる……興奮するな。
昨日と同じように鋼を延ばすが少しだけ変える、重ねた際に鋼の路が全てズレ無く合一するように意識して炭素量を意識して分ける。『概念鑑定』と『クラフト』を最大活用し、望むように炭素量を分けた結果皮鉄が3枚分になる計算だ。コレは作刀法で一番難易度が高い四方詰めにしなければ拙いと判断、後の積み沸しの順番も含めて構造を頭の中で構築する。
積み沸し作業で構想通りに鋼を重ね、仮付を実施。昨日見たお師様の技を再現して路を整えながら一つの鋼にしていく。想定以上に内部の路が整った心鉄、皮鉄、刃鉄となる鋼が出来上がり思わず会心の笑みが浮かぶ。
鍛錬を始め、俺が横座にて打点と魔力を示して鎚を振るう。相槌のお師様は指示に従い、俺が込めた魔力と逆位相の魔力をぶつけて残留魔力を対消滅させた。
いや、何だそれ!? 鍛冶師の色になる魔力を打ち払って無垢な状態にするってトンデモねぇよ!! それに、昨日鍛冶技術だけで内部の路を整えてたが、まさかコレやりながらやったのか!? どんだけやべぇんだよこの人!
残留魔力を無くしたのはおそらく、この鍛冶場の炉が魔力で発生している火である事も理由だろう。残っていたら炉の火から伝わる魔力を阻害して均一に焼けなくなるのが理由か……ソレをこの場で技を編み出すって本気でスゲェ。弟子になれて良かった!
そうして鍛錬を終えて、造込みを行う。想定以上に重なる鋼の路がピタリと嵌る状態で、お師様の技量を見せ付けられた気分だ。コレは俺も負けてられないな、この哲学を自得しなければお師様の面子を潰すだろう。最も硬い鋼を刃鉄とし、心鉄を皮鉄と棟鉄で包む。そして素延べを始める。
先程見たお師様の逆位相魔力操作を苦心して再現し、鎚を振るう。正位相と逆位相を交互にぶつける作業は想像以上に負担が掛かるが、そんな事を気にして失敗は出来ない。望む長さ、望む路の形にしながら鋼を延ばしていく。
思考をしている余裕が無くなっていく、お師様の相槌から順次技術を取り入れ自得し自分の鎚の振り方に反映する。一打一打自分が進化していく感覚がある、俺はお師様のお陰で至高の域へと昇っていける感覚が有った。
意識が飛び飛びになり、気付けば焼刃土を塗り最後の焼入れに達していた。『概念鑑定』で診た鋼の路は、全てが整い寸分のズレもなく複雑に鋼の内部を走っている。現時点で作成した魔鉄の様に一切の歪の無い鋼、コレを人の手で作り出す悦楽。お師様が去った後に一人で作る事に思う事は有るが、それ以上に素晴らしい技術を得れた事に感謝を捧げる。……どの神様に感謝すればいいのかは分からないが。
鍛冶研ぎと茎仕立てはお師様が見せてくれた。昨日俺がやった様に刀身と砥石に魔力を纏わせているが、何をどうトチ狂えば刃と砥石にそれぞれ正位相と逆位相の魔力を纏わせて研磨するなんて発想と実現に至るのか。
そうして研ぎ上がった刃に魂を奪われる。余りにも美しい、妖しささえも纏う鋼。コレが刀匠アマツが研いだ刃か、昨日の俺が研いだ刃が児戯にも見える領域だ。
「はは、凄い……お師様の背中が遠い!」
「嬉しそうですね、タタラさん」
「そりゃ嬉しいですよ、目標が有って追い付こうと走れるんですよ!?」
「……本当、根っからの鍛冶師ですね」
ずっと見学をしていたお義母さんが俺の言葉に反応して、言葉を聞いてから苦笑いする。そんなに変な事は言ってないと思うのだが。
「ああ、本当に凄い。あの技術の一つ一つを試したい」
先ずは短刀を作る所から始めよう、武器としてよりも『切断』の概念武装としての効果を突き詰める。前世では病魔を払う短刀の逸話が有った、ならば概念武装で近い事が出来る筈だ。
今日の事件から後輩二人に渡す必要が有る、お義母さんと都市長にも贈るべきだろう。そして当主代行、彼には大太刀を打って贈りたい。
短刀としてはやや重めになるが、一本200g程度の換算で短刀を鍛えよう。携帯に便利なら後輩二人も護身用に持ち歩けるだろう……渋るなら、弟子の証って言えば受け取ってくれるか?
「……タタラさん、何をお考えで?」
「今の概念武装を短刀として作って、御守りとして複数人に渡そうかと」
「成る程、相手はお決めになってますか?」
「弟子みたいに教育してる二人と、都市長にお義母さんですね」
「あらあら……」
頭の中ではどう作るか、それしか入ってない。もしも何か願いや祈りが必要ならばそれこそ簡単だ、持ち主の安全や健康こそが俺の願いであり祈りである。その心を侵されないように、悪意から守ってくれる事を望むのだ。
「
「タタラさん、本当思い立ったら一直線なの治しませんか!? 本当、鬼相手でも止まらない力を何処から出してるんです!?」
お師様もお義母さんが止めに入っている気がするが、何故だろうか? まだまだ俺は元気だし、この沸き立つ創作意欲を今直ぐ解き放ちたいのだ。
「ご主人、そろそろ夕餉の準備に……何でござるかこの状況」
そんなタイミングで入ってくる駄狐、そう言えば忍者刀と苦無も作らないとな。先ずは刀を見せて要望を聞かなきゃならないが、その前に概念武装の作成が先だ。
「一華、丁度良い所に!」
「何がどうなってるんでござる?」
「
いい加減離して欲しい、俺はこの衝動を発散したくて仕方ないんだ。
「……分かったでござるよ。ご主人、ちょっと失礼」
そんな駄狐の声が聞こえたと思った瞬間、目前に目を閉じて頬を赤らめた顔が目一杯に広がり……唇に柔らかい感触が発生した。
その正体に思い至った瞬間、思考が完全に停止した。
「お目覚めでござるか、ご主人?」
顔を赤くしたままの一華がそう言って俺に笑い掛けてくる。
「え、お前……今」
「無茶はダメでござるよ、ご主人。また倒れたら皆を心配させるでござるよ?」
「いや、それは……と言うかお前今」
「ただ唇の初めてをご主人に捧げただけで過剰反応でござる」
思考が空回りする俺に、噛んで含める様に語り掛けてくる一華。ダメだ、今は作業出来そうに無い。
「夕餉の準備は拙者がするから、ご主人は休むでござる。また鍛冶を始めようとするなら、今度こそ拙者の身体で止めるでござるよ」
「いや、お前それ」
「流石のご主人も破瓜の痛みで泣く拙者を見れば止まるでござろう?」
「別の方面で止まらなくなりそうなんですがそれは」
多分、そうなったら欲望の全てをぶつける迄は止まれないと思う。エテルに性欲魔神って呼ばれた俺を無礼るな。
それはそれとして、何でそんなに俺の扱いを心得ているのか。そして、何故自分の身体を使う事に躊躇いが無いのか?
「一応言っておくでござるが、ご主人がご主人故にこの手段を取るのでござるからな?」
「心読まれてる……」
「ご主人は分かり易いのでござる
完全に気が抜けてしまったので、言われた通りリビングに移動する。途中、何処か呆れた表情のお義母さんとお師様が印象的だった。
何時ものソファに座り、身体から力を抜く。疲れは感じないが、今は一度身体と頭を休ませる。何となく台所へ視線を向けると、駄狐が忙しなく調理を行っている。
野菜が苦手なのに、料理には確りと野菜を入れている。肉が好きなのに、バランスを考えて控えめにしている。なんと言うか、誰かに身を捧げる奉仕体質なんだよな駄狐。此処に来たばっかりの頃は自分の欲望に素直、そんな姿に見せ掛けて距離を取ろうとしていた。それが気付けば俺達を思った行動を取るようになり、今では率先して家事を手伝ってくれる。
良妻賢母、なんて本人が冗談めかして言っていたが素質は十分にあるんだよな。そんな相手が何故か俺を慕ってくれるのだから、嬉しくないはずも無い。
ただ、まだ彼奴の全てに向き合えて無い。お師様をジッ様と呼んで、かつて世話になっていたらしい事。何故優秀に見られるのが嫌なのか。そんな過去……一華の切っ掛けにふれられていない。
きっと、ただの自己満足に過ぎない。彼奴自身が俺にソレを見せるのを拒んでいる。けれど、俺はそれでも彼奴の全部を受け止めてやりたい。
俺が彼奴のご主人であるのもそうだが、俺を好きだと想ってくれる相手の過去を受け止められずしてどうするよ。傲慢な考え方なのは分かる、それでも俺一人だけでもその人生全てを愛したいのだ。今の彼奴を形作るものなのだから。
とか考えているでござるか?」
「今のモノローグ調、全部お前の語りかよ」
間違っちゃいないが、何でそんな正確に察してんだコイツ。
「きゅうん、拙者はご主人の駄狐でござるよ? コレくらいは朝飯前でござる」
「自認が駄狐で良いのかお前」
「拙者、駄目な
完全に過去で何か有ったヤツだよなコレ、優秀に見られて嫌気が差した……それも何か人間不信になるレベルの事が有ったか。
何も考えず俺の膝に頭を乗せて日向ぼっこ出来るようにしてやりたいな、何気にあの時間が癒しになってるし。
台所の駄狐は楽しそうに尻尾を振りつつ家事をこなしている、あの毛並みの良さは相当触り心地が良いだろう……髪は触った事あるが尻尾は無いんだよな。ふかふかしてて触り心地が良さそうだが。
「……ご主人、そんなに拙者の尻尾が気になるでござるか?」
何処か困った様な雰囲気でそう聞いてくる駄狐。
「そりゃそんなに触り心地良さそうなもふもふが気にならない奴は居ないと思うが」
「若干早口なのが本気度の高さを示してるでござるな……」
何処か諦めにも似た感情を見せる駄狐が、少し考え込む。結論が出たのか一つ頷いてから、俺に向かって言葉を紡ぐ。
「ご主人、少し昔話に付き合って欲しいでござる」
おまけ
「なによ……なんなのよあいつら!」
暗くなった道を一人の女が歩く。自らが思う可愛らしさで着飾り虚飾に頼る哀れな女だ。
女には生来他者を魅了する力が備わっていた。その力を使い両親に愛され、周囲を思うがままに操る。そんな人生を歩んできた。
女にはそれが悪しき事とは思えなかった、生来備わった力を使う事に何の制限も無い特権だとすら思っていた。
一つ不幸が有るとするならば、女の両親に魅了の耐性が備わっていなかった事だろう。義務教育以前に躾の段階で他者へ魅了を掛ける行為は恥ずべき事であり、心を縛る事は罪であると教えられなかったのだ。それがこの女の不幸と言える。
尤も、何度となく注意されても治らなかった事は言い訳にもならないが。
「私はお姫様なのよ! なのに何で誰も私の言う事に従わないのよ!!」
今回の件で女を尋問した者達は全員が精神干渉または魅了に対する耐性を持つスキルや装備を着けていた。そうして女に対して有利になる発言を誘発する原因を防ぎ、正しく裁く事を誓っていたのだ。
尤も、女は都市内最高のクラフターを敵に回した結果、より強力な性魔術の魔法により支配され自供を行うこととなったが。
ある意味で幸運であったのが、女が魅了を掛けたクラフターの弟子が師を案じて止めた事だろう。それがなければ、そもそも女はこうして愚痴を溢すことも出来なかっただろう。
物言わぬ骸になれば、声を出す事も叶わぬのだから。
「あの貧乏っちい二人組も! 私に説教してきたあのデカブツも! 私はお姫様なのよ! 言う事を聞きなさいよ!!」
哀れで未熟な精神性の女は不満を溢すのみだ。
女は両親を招聘され、事情説明をされた。両親は十年以上に渡り施された魅了と、娘を愛する感情から擁護を行うがクラフターにより魅了状態であると看破されその訴えに正当性が無い事を示された。
結果、未成年者である事から今回は見逃されたが女は高等教育を受ける資格を永久に剥奪された。次に魅了を行い、それが発覚した場合はその場で逮捕または制裁の許可が法的に降りている。
それだけ魅了で他者を害する事、支配する事は罪であるのだ。
「随分と荒れていますね、お嬢様?」
そんな女に対して声を掛ける者が一人。
「なに、誰よ! 姿を見せなさい!!」
甲高い声で女は叫ぶ、苛立ちと小さな恐怖からの言葉だった。
「コレは失礼しました」
そうして姿を現したのは身なりのいい若い男だ、女より少しだけ歳が上だろう。
「なによ、あんた」
女は少しの不安と多大な不満から問い掛ける。
男はその問い掛けに対して笑みを浮かべる、何処か無機質で粘着質な表情だ。
「この都市に不満は無いですか?」
「はぁ?」
身分を明かさず、いきなりそんな事を宣う男に不信感を抱く女。自分の声を無視するかの様な台詞に不快感を持ちながら、女は男を睨みつける。
「この『ワールウィンド』と言う鳥籠の中、敷かれたルールや格差に不満は無いですか?」
男はもう一度問い掛けてくる。言い慣れた様子に思うところは有ったが、女はその言葉に反応する。
不満。そう、今日味わったばかりだ。世界の中心であり、お姫様である自分の言う事を蔑ろにする不敬者達。それが女にとっての不満だ。
「ええ、不満よ! 不満だらけだわ!! 私は世界の中心で! 世界で一番可愛くて! 何でも許されるお姫様のはずでしょう!? なのに何でアイツラは私の言う事を聞かないのよ!!」
他責思考極まる女の不平不満、欠片程も自身の悪性を理解していない様は醜悪その物だ。しかし、女は気付かない。
誰にも教えられ無かったが故に、その歪んだ価値観は治らない。
そんな醜悪な様を冷めた目で見詰める男はその内心を欠片も見せることはなく、歌い上げる様に声を張り上げる。
「でしたら、共に変えてみませんか?」
「はぁ?」
理解が追い付かない様子の無学な女に冷ややかな評価を下しつう、男は言葉を続ける。
「わかりませんか! 旧く優秀な者を抑えつけるだけの法も! 上に居座り若き芽を摘む事しか出来ない中央も! ただの作り手が大きな顔をするこの都市の構造も! 全て全て壊して作り替えてしまうのです!!」
「都市を……作り替える……」
男の熱弁に対して思考力の無い女はその事を妙案だと判断する、元が身勝手な女故にそこで発生する多大な被害を思い付けない。己しか愛さない女に、他者への思い遣りなど湧きはしない。
「世の中に不満が有るのなら世界を変えましょう! 目を開かせ耳を向けさせ声高に叫びましょう! そうして真に正しき意見を通すのです!!」
声高に告げる男だが、その内心は冷めたものだ。眼の前の女には生来備わった『性魔術』以外に価値を見いだしていない。それ以外など精々が男達の欲の発散先程度だろう、知識も思考力も無いならその程度しか価値が無い。
「ええ……ええ! そうよ、そうなのよ!! 世界が間違ってるよよ!! なら正しくすればいいわ!! 私なら出来る、だって私はお姫様だもの!!」
無意味な万能感に突き動かされ、女は道を踏み外す。
男は然るべき時に向け、兵隊を作る手段を手に入れ内心ほくそ笑む。
そして女は気付かない、自身の魅了が目の前の男に意味をなしていないことを。
何処までも無価値だと、眼の前の男に体現されている事を。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン