※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

87 / 183
タチアイベント継続中。
『看板娘』イベント継続中。

タタラ強化イベント発生中。


渦巻く風の刃

「コレは焼きおにぎりでつくねを挟んだのですか!? 合わせ醤油を表面に塗られて焼かれたおにぎりの外はやや硬い歯ごたえが有りつつも、その下から餅もかくやと言わんばかりの柔らかな食感。やや辛めに作られたきんぴらと合わせ醤油の甘辛さ、牛蒡や人参の硬めの歯応えとちしゃの瑞々しい舌触り。そして主役のつくね……しかし、コレはこの国特有のつくねであるはんばぁぐですね? 陽出國のつくねよりも肉汁が詰まっていて口の中で肉の旨味が広がります! 合わせ醤油ときんぴらの味がその肉汁の旨味を引き立ててとても美味しいです!!」

「……雛菊、その論説は何なのですか?」

「お義母さん、此処最近控えられてましたがコレ雛菊さんの通常運転です」

「……お見合い場所は料亭が不可、基本的に料理抜きでやらせるしか無さそうですね」

 

 鍛練を終えて朝食を開始すると、久し振りに雛菊さんの興奮した食レポが始まった。お義母さんに説教されて消沈してたから控えられてたけど、今日はバカが刀術を習いに来るから精神が上向いているらしい。食レポで判断されるのも何か変だな?

 雛菊さんはダサTの上にジャージを着ている、なんと言うか……疲れ切ったOLが節約の為に学校のジャージ着てるみたいな雰囲気が有る。

 どうもそれはエテルや四葩も感じているらしく、微妙に視線を向けないようにしている。因みに一華は完全にスルーしてライスバーガーを食べていた。

 

「本日来るのはタタラさんの幼馴染とか?」

「ええ、子供の頃から一緒に遊んだり喧嘩したりしてる親友です」

「刀を贈りたいとおっしゃっていた方の事ですか……どのような為人なのか楽しみですね」

「多分、お義母さんも気に入りますよ。分かり易い面倒見の良い快男児って雰囲気ですし、雛菊さんとも性格的に合致すると思います」

「あらあら、それは楽しみです。私も少し教授しても良さそうですね、基礎の基礎なら問題無いでしょう」

 

 お義母さんがバカの事を聞いて楽しそうにそう溢す。そんなお義母さんを見て恐怖の混じった表情をする四葩が居る……もしかして、お前の刀術ってお義母さんから教えられてたりするの?

 

たらぼう(タタラ)儂んそんだちにゃ気んなっど(儂もその友人に興味が湧いた)

「え、お師様がですか?」

弟子んはつもんやるやつにゃ気になん(弟子の初作品を譲る相手は気になるだろ)

 

 うん、初物はやめて欲しい。あとエテル、小声で「タタラの初めては私だもん」って言うんじゃない。そっち(童貞)の事じゃ無いから。

 

 そんな和気藹々とした食事を終え、各々が其々の目的の為に動いていく。俺はお師様と鍛冶なのだが、その前にバカの刀術稽古を一緒に見る事になる。まぁ、バカが実際に刀を振る姿を見ないと柄の拵なんかは合わせられないしキチンと見ようと思う。

 朝食を終えて一時間程経って呼び鈴が鳴る。玄関まで迎えに行けば思った通り平服姿のバカが立っていた。

 

「おはよっす」

「オッス! 今日から世話になるぞ、タタラ!!」

修練(面倒)見るのは俺じゃなくて雛菊さんだからな?」

 

 変わらず元気な姿を見せるバカに苦笑いしつつ、庭先に案内する。其処にはジャージ姿に木刀を持った雛菊さんが立っていた……よかった、ダサTになってない。雛菊さんがジャージをキッチリと着て真っ直ぐに立つ姿は凛々しさすら見えてくるのだが、油断して干物にならない事を願うばかりだ。

 俺の隣のバカは雛菊さんの凛々しい姿に驚いている……と言うか見惚れている。もしかして……お前は表の雛菊さんみたいな相手が好みか。少しでも幻想が長引くように協力してやれないだろうか。

 

「良く来ましたね。改めまして、本日から貴方に修行をつける雛菊です。よろしくお願いしますね」

「は、はい! よろしくお願いします!!」

 

 姿勢を正したバカが勢い良く頭を下げる、緊張している様子だが……雛菊さんはこのままで居て欲しい。割とマジで。幼い妹弟達を養う長男かつ稼ぎ頭なので、恋愛している暇が無くて異性に興味が薄かったこのバカが珍しく興味を持った女性なのだ。仲を応援したくもなる。

 

「あ、忘れてたな……おい!」

 

 渡す物をすっかり忘れていたので、庭先に向かうバカを一度呼び止める。

 

「うぇ!? な、なんだよタタラ」

「コレを渡すのを忘れてた、しっかり鍛えてもらえよ男の子」

 

 俺の声に驚いたバカに向かって、インベントリから取り出した物を放り投げる。本当は赤樫で作りたかったが、生憎『ワールウィンド』に流通が無かった。なので手元に有ったオーク材で作った木刀だ。長さは一般的な三尺八寸、中に鉄心を仕込んでいるので本物宛らの重さを再現している。流石に全力で人へぶつけたら骨折も疑うレベルになるが、あのバカであろうと雛菊さんに当てるのは至難の業だろう。

 俺から木刀を受け取ったバカは少し訝しんだが、雛菊さんが握る木刀を見て得心がいったらしい。同じ物を使わないと教授なんて出来ない事を今更に気付いた様子で、あのバカがそれだけ気が回らない程に緊張していたのが分かった。

 

「それでは本日より刀術を教授する役割を担います。陽出國は帝守護を司ります、近衛役を務める雛菊と申します。以後お見知り置きを」

「は、はい!」

 

 雛菊さんの言葉に元気良く返事をするバカだが、直後に首を傾げた。

 

「……え、帝? 近衛?」

 

 雛菊さんの自己紹介を思い返して、バカが混乱した。そりゃ此方で言うインペリアルガードがこんな所に出張っているのは疑問にもなるわな、まぁ俺が原因の一端なのだが。

 

「では、先ず構え方から教えていきます。此方の剣とは少々勝手が違うので気を付けて下さいね?」

「え、あ!? は、はいっ!」

 

 そんなやり取りから始まる修練、雛菊さんの言葉に対してバカは素直に従っている。その表情は真剣そのもので有り、一言一句聞き逃さず一挙手一投足を見逃さないと気概が見える。所々手間取る場面は有ったが、その習熟速度は驚異の一言だろう。雛菊さんの動きを最初こそそのままなぞった物だったが、それを少しずつ自分の動きに落とし込んでいく。

 その姿に興が乗ったのか雛菊さんもどんどん教える速度が上がっていく。時折バカを置き去りにする場面は有ったが、落ち着いたタイミングでバカが分からなかった所を質問するので補えている。そして、そんな姿を眺めるお義母さんは何処か呆れを含んだ様子だ。

 

「上手く教えられていますが……生徒に助けられてますね」

 

 お義母さんが零したのはそんな言葉、確かに人並み外れた剣才と勤勉さを持ち合わせているあのバカだからついて行けているが、少なくとも俺が刀術に触れた初日にあの速度で概要やら理論を叩き込まれたら置いていかれてたと思う。

 お義母さんはその事を気にしているらしい……先生気質なんだろうな、國の方では行儀作法を教えてるらしいし培ったノウハウから無駄と改善点が見えているのだろう。俺も後輩二人に教えているが、専門分野外の雛菊さんをどう改善すべきかは指摘出来ないと思う。

 

「しかし、タタラさんのお友達は本当に筋が良いですね。此方の剣術とは別系統で有るのに、刀での斬り方をしっかりと心得てしっかりと振るえています」

「彼奴は俺が知る中で一番剣の才能が優れていますからね、当然ですよ」

 

 お義母さんの称賛に対して当然だと返す。将来『ワールウィンド』で一番の探索者になる男なんだ、ソレぐらいは出来るさ。

 

「それに、何か近い物を振るっているのでしょうね」

「彼奴に打った鉄剣が片刃の直剣で少し使い方が近いからだと思います、それでもああして刀に転用出来るのはやっぱり才能ですね……やっぱりアイツはこうじゃねぇと」

 

 何故だろう、お義母さんが俺を微笑ましい物を見る目を向けてくる。俺の幼馴染にして親友、そしてライバルなのだからコレくらいは普通だろう?

 雛菊さんは現在、バカに刀術の基本である五行の型を教えている。正眼、上段、下段、脇、八相と次々に見せてバカの構えを細かく修正している。そして各構えについてどんな物なのかを説明し、バカはその説明を咀嚼し構えを自分の物へと変えていく。五行の型を知るだけでもあのバカには値千金だったかも知れないな、彼奴の剣術は基本的に我流だったから構えや型とは言えないレベルだった。それが体系立った剣術理論を知る、これ迄の自分を捨てる事なく新たな学びを合わせる度量を持つあのバカなら一気に強くなれる筈だ。

 

たらぼうんよか友んもたど(タタラは良い友人を持っているな)

「ええ、自慢の親友ですよ」

剣士んみぃとてよかな(剣士として見ても良い)儂ん一本かぬちんやりたん(儂も一本鍛えてやりたくなる)

「流石にお師様が相手でも譲りませんよ、彼奴は俺が剣を打つんですから」

「かぁ!! あつかぁな(熱いな)!!」

 

 俺の言葉にお師様は大笑いしている、そんなに面白かっただろうか?

 

たらぼう(タタラ)! さっすかぬちんすぞ(早速鍛冶を行うぞ)たぎぃてしかたなか(滾って仕方ない)!!」

「ええ、今日も勉強させて貰いますよお師様!」

 

 ギラついた目をしたお師様に言われて、俺も熱くなる。良い剣士に出会えたから剣を打ちたくなるのは鍛冶師の本能なのだろうか?

 俺もその熱を受けてやる気になるのだから似たもの師弟だろうなコレは。

 

「あ、お義母さんはどうします?」

「正直、そちらも気になりますが……雛菊がうっかりをやらかした時の為に此処で監督してます」

「……やりますかね?」

「あの雛菊ですよ? うっかり下半身曝しても納得しますよ、私は」

 

 あまり否定出来ない気がするのは何故か。

 

 取り敢えずお師様と二人で鍛冶場に入る。今回は俺が相槌を務めるので、昨日まで見たお師様の相槌を真似ようと思う。実は俺の腕の長さや、比べた際の力の弱さから考えてまんま真似するのは出来なかったりする。なので、魔力や打ち込みの工夫で補おうと思う。何処まで出来るかは正直分からない、俺のアレンジのせいでお師様の技を台無しにする可能性も有る。だが、俺なりにお師様を真似るならこの創意工夫が必須だ。例え殴られようと、俺は俺の最善を果たす。

 そうして始まるお師様式の鍛冶、今回は昨日俺が作った『牡丹』に肖って魔法金属製の刀造りである。

 少なくとも『ワールウィンド』内ではこの家のみで可能な魔法金属の水減し、お師様が持つ従来の鍛刀方がどれだけ通じるのか……俺はそれが楽しみで仕方ない。俺の鍛刀は言わば邪道のそれだ、お師様の様な誰でも使える武器では無く唯一人の為の武器など正しい物では無い。概念武装化も恐らくそれが原因だ、唯一人の為に最適化した武器なんて作ったのだ、寄り添う為に命の一つも宿るだろう。

 過去作の中にも命や意思を持つ武器は存在している。俺が今生で直接目にしたものはカラムスさんが総本山に置いてきた『ケラヴ』くらいだが、過去作の会社の顔とも言えるシリーズの主人公など剣に転じた魔神とコントのようなやり取りをした上に、『深く深い闇の先で』のDLCで登場した時など元の姿の魔神と子供まで作っていて従来ファンの度肝を抜いた程だ。

 ……まぁ、過去に関わったキャラ八割と子供が出来てたとテキストで表示された時には何か裏切られたような気がしたが。お前、続編でヒロインとの子供を触媒にして作られたラスボス相手に戦ったトラウマねぇのかよと。

 話が少し逸れたが、この会社の作品において生命を宿す武器と言うのはそこまで珍しくも無いのだ。単純に人間の手で作れた試しが無いだけで……うん、今更ながら盛大にやらかしたな俺。

 なによりも、生命を宿した武器と言うなら俺は子供の頃に一度作成を成功させているのだ。『天使長』の剣は『天使長』の半身でもある為、生命が宿っている。強化に伴い『天使長』をも成長させているので大分ヤバい。作った時に内側から何か大切なモノを失った気もしたが、あの喪失が何かしら関係しているのなら……俺は生命の宿った武器を作る上での何か重要な要素を手に入れている可能性が有る。この世界から追放される案件な気もするが、あの時『天使長』が何かしらしてくれていたのなら俺が今でもこの世界に居られる理由にもなるだろうし、俺が追放迄のリーチが掛かっている事を『天使長』が知る理由にもなるだろう。

 思考は脇に逸れている中、相槌を始める。無心と言うか無我と言うか、思考を持って鎚を振るわずされど身体は最適な力加減を鎚に込める。魔力を逆位相にして回すのも忘れない。目前の刃がお師様が思う最高の物になる様に、求める物に従う。時折俺の眼が打ち込む先へ生じさせる歪を見せるが、それに合わせて魔力の質を変える。魔力の制御の質が自然と上がって来たので、『魔法攻撃上昇』か『魔力上昇』のレベルが上がっている可能性が高い。そう言えば最近スキルを確認して無かったから、打ち終わったら確認しよう。

 そうして気付けば刃が打ち上がり、お師様が研いでいる。造りは四方詰め、少し違うのは刃鉄にオリハルコンを使った事だろうか?

 そうして完成した刃の出来は素晴らしかった。しかし、元の目的とは少し逸れていた。

 

「……概念武装にはなりませんでしたね」

おん(ああ)神刀んはつからならんちおもっが(神刀に最初からならないとは思ったが)こんおもからそれっどな(こうまで思惑から逸れるとはな)

 

 苦笑いをするお師様だが、思惑から逸れているのは恐らくその刃の出来だろう。はっきり言えば、前に見せて貰った概念武装の刀より出来が良い。武器の性能として見るなら雲泥の差が有る。

 

じゃがかぬちん業んそだっど(だが鍛冶の技は確実に上がった)ありがとなたらぼう(感謝するぞタタラ)

 

 そう言って男臭い笑みを向けてくるお師様に、俺も喜びが湧いてくる。俺も、この人の役に立てたんだな。

 

「あ、そうだお師様。申し訳ないんですけど刀の拵について教えて貰えますか? 彼奴に渡す刀、まだ其の辺やってなくて……」

おん(ああ)わすっどったな(失念していたな)

 

 俺の頼みにお師様も額に手を当ててしまったと言った表情を浮かべる。うん、打つことしか二人共考えて無かったから、本当に俺とお師様は似た者同士のようだ。

 その後は鞘や柄、柄紐の巻き方など一通り習っていった。ただ、概念武装の鞘はどうも普通の鞘に出来ないらしくお師様もまだ模索中との事だった。まぁ、あんな切断力の塊な概念武装は下手したら魔法金属に防御強化の術式刻んでも斬り裂きそうだしな。

 そして次に俺が頼んだのが短刀や懐刀の作り方を見せて貰うこと、守刀を作りたいが為にお願いしたら訝しみながらも了承してくれた。一人で行う作業になり、造りも心鉄に皮鉄を被せただけの甲伏せとシンプルな物だ。流石に短過ぎて四方詰めも本三枚もやろうとしたら懐刀に有るまじき長さと重さになるとの事で出来ないらしい。下手すると懐に入れたらズレてまろび出ると言われたら流石の俺もやらない。

 鋼のインゴットから手早く一本の短刀を作り出すお師様、全長が30cmの刃は四方詰めで造られたそれよりかは頼りなく感じる。同時に思う。四方詰めで重くなるのなら、軽いミスリルで作ってしまえば良いのでは?

 探索班が持ち帰るミスリルの量はかなりの物で、総ミスリル製の魔導鎧を八領作ってもまだまだ余裕が有るほどに有り余っている。概念武装としてはどうかと思うが、守刀として見るのなら問題無いのでは無かろうか。思い付きを即座に実行しようとすると止められるので、一先ずは作業を反芻しつつバカの鍛練を見に戻る事にする。

 お師様、その明らかにホッとした表情何なんですかね?

 

 鍛冶場から庭先へ戻ると、バカが雛菊さんへ向けて木刀を打ち込んでいるのが見れた。まだまだ西洋剣特有の重さで叩き切る動きの方が目立つが、打込みの瞬間に柄を絞ったり左手で引く動きが見れた。早速理解して体現している辺り本当に彼奴は才能が凄まじい。

 そんな光景を見ながら隣に座っていたお義母さんが話し掛けて来た。

 

「タタラさん、本当に良いご友人をお持ちですね……」

「彼奴はこの『ワールウィンド』で何れは最高の探索者になれる器なので……陽出國に引き抜かないで下さいよ?」

「雛菊で釣れないですかねぇ」

「釣るつもりなら、彼奴の家族全員を引き取るつもりじゃないと無理だと思いますよ」

 

 俺の言葉にふむと考えを巡らせるお義母さん、為替の関係でどうなるかは分からないがあのバカを釣れる金額を考えているのだろう。俺としてはこの『ワールウィンド』で刀術を教えられる教師になって欲しいとは思っているが、結局はあのバカの選択が最優先だ。陽出國に移り住むのなら少し辛いがしっかりと送り出してやりたくはある。

 

「流石に、四葩と一華を此方の人間に嫁がせるのですから婿に来て欲しい所ですけど」

「いや、その節は本当に申し訳ないです」

 

 嫁がれる当人としては、そう言われてしまったら心が痛む。人材流出は中々の問題だから、何かしら贈り物をして釣り合いをとった方がいいだろうか。取り敢えずお義母さんと都市長、弟子二人用の守刀を作成して別枠に一本付けよう。当主代行用に見栄えの良い野太刀を作って贈るのも忘れないようにしなきゃな。

 そんな会話をしながら眺めるバカの刀術稽古はなんと言うか……お前本当に初めて刀について学ぶのかと問いたくなる速度で習得していっている。和紙を取り出した雛菊さんに、木刀で運剣だけで斬れと無茶振りも良いところな課題を出されたバカは初手で触れた所から2cm斬って和紙を地に落とした。本当、どんな才能してんだコイツ。そして、コイツが認めたエテルの剣才って本当にどれだけの物があるんだ?

 

「……雛菊、流石に習得速度に合わせるとはいえそれをやらせるのは時期尚早でしょう」

「え、軽く斬れてるのにですか!?」

「出来るから、では無く先ずは心構えからです。今のお友達は集中していますが、刀そのものへの向き合いが足りません。一通り身体を動かした後は、休憩も兼ねて座禅を組ませ刀と向き合わせないと」

 

 いよいよ俺が分からない世界だ。

 

「それに、頭の中で確かな姿を想像してその通りに身体を動かせる程の肉体操作が肝心なのですよ。タタラさんも鍛冶で鉄を打つ際にそうしていませんか?」

「あ、それなら分かります」

 

 要は明確なイメージを持ち、その通りに身体を動かせる集中力。この2つを養う事が武には肝要という事なのだろう。やはり武才の無い俺には今一戦闘で使う事にピンと来ないな。

 

「お友達もそろそろ慣れないことを繰り返しているので体力的に辛そうですね、少し口出しして来ます」

 

 そう言ってお義母さんはバカと雛菊の所へ向かっていく、この辺言い聞かせられるのは今この場だとあの人だけだし任せるしかないか。ふと時計を見ると昼を回った所だった。

 取り敢えず、簡単に腹に入れられるおにぎりと味噌汁を作ろうかな。そう言えば一華が手軽に食べられるようにって出発前の空き時間に海苔の佃煮と煮卵を作ってくれていたな。それにベーコンマヨネーズ辺りの濃い味な物を合わせれば身体を動かしてるバカには丁度いいエネルギーになるだろう。早速作るとするかな。

 台所に入って炊飯釜を覗くと、炊き上がった米が出迎えてくれた。コレも一華の気遣いかな、本当に細かい所に気付く良い女だ。釜から立ち上る香りには昆布と梅干しの匂いが混じっている、塩も少量入っているようでこのまま握れるレベルだ。帰ったら頭を思い切り撫でてやろう。

 ご飯を切り混ぜ、湯気を軽く逃がした後に手水で手を冷やしご飯を手の上に乗せる。真ん中に具を乗せた後に空気を含ませるようにややふんわりと柔らかく握る、残念ながら焼き海苔は無いので外見からは塩むすびにしか見えない物が出来上がる。

 同じ要領でどんどんおにぎりを量産してだいたい30個ばかり出来上がった所で止める。一人六個の計算だが、お義母さんはそんなに食べそうに無いから多分コレで足りる筈。それに、あんまり胃に物を入れ過ぎても後半の鍛練で腹が痛くなるだろうから少し足り無いくらいの方が良いだろう。

 味噌汁は煮干しと鰹節で出汁を取って、具材は玉葱と馬鈴薯の白味噌を使った物だ。汗で塩分を欲するだろうが、与え過ぎても健康に障りが出るだろうしな。

 昼食を大型のトレーに乗せて、縁側に持って歩く。座り込んだバカが今更疲労を感じたのか、呼吸を荒げながら水を呷っている。余程疲れているらしい、身体を冷やそうと汗がどんどん流れ出ている。

 

「お疲れ、どうだ刀の使い方は?」

「おう、タタラか。お疲れ……いや、マジで疲れたが新しい事を覚えんのは本当に楽しいな」

 

 答えた後にまた水を呷る。あんまり飲み過ぎるのも身体に悪いのだが、現在この世界に医学的な根拠に基くその手の知識の普及はほぼ無い。俺が伝えた所で従って貰えるかも分からないので、別アプローチだ。

 

「あんまり飲み過ぎると水で腹が膨れて食えなくなるからそこまでだ、ほれ昼飯だ」

「おお!? 助かる……けど、これは?」

「陽出國のお手軽料理のおにぎりと伝統的なスープの味噌汁だ、しっかり食えよ」

 

 戸惑うバカの横で、俺は一つ手を伸ばして齧りつく。一華が数分前に入れていた塩は良い塩梅で、汗を流した後に口にするなら極上の加減だろう。俺の姿を見て喉を鳴らしたバカも早速一つ手にとって齧りつく、目を大きく見開いたと思ったら次々に齧りあっという間に一つ平らげた。

 

「美味いな!」

「そりゃ良かった、ほら味噌汁も飲んどけ。口の中が渇いて喉に詰まりかねんぞ?」

「おう!」

 

 汁椀によそった味噌汁に口を付けるバカは、顔を笑顔にした後別のおにぎりを手にとって交互に口にする。味噌汁と白米の組み合わせに早速気付いたか、やっぱり美味いんだよなコレ。

 

「これは素晴らしい握り具合! ふんわりと空気を含み、咀嚼の際には苦労無く米が解ける絶妙な具合! 更に具の匙加減も多過ぎず少な過ぎず、米と具の何方も味わえる量となっている!!」

「あぁっと……本当は海苔が有れば炙って表面に巻いたりしたんですけどね」

「海苔を……炙る……?」

「え、焼き海苔って無いんですか?」

「タタラさん、詳しくはお話を聞いても?」

 

 地雷踏んだかも知れない。

 

「えっと……板海苔って有ります?」

「かなりの希少品かつ高級品ですが有りますよ」

「その板海苔の表面を軽く炙るんですよ、そうすると風味と保存性が増すんです」

「……海苔の出回らないこの都市で何故そのような知識を?」

 

 どうしよう、前世知識とか言えないし。仕方ないから『天使長』に全部被って貰うか。

 

「俺の知り合いに天使族っぽい知り合いが一人居るんですが」

「天使族っぽい?」

「ちょっと本当に天使族か分からないんですよ、その人……人? で、その人から板海苔を貰った事が有ってそのまま食べて良いのか分からず表面を火に掛けたら直ぐ焦げそうになって、結果炙るにとどめたんですよ。そしたらこれが美味くて……エテルに分ける前に食べ切ってしまったことが。あ、コレ伝えないで下さいね?」

 

 尚、『天使長』が板海苔を持ってきた事は無い。純度100%の嘘で作られたカバーストーリーだ。前世持ちとか言っても信じて貰えないし、その度に少し嫌な思いをするくらいなら嘘で固めるに限る。

 

「焼き海苔を巻いたおにぎり……」

「まぁ、大葉とか紫蘇で巻いてもいいんでしょうけどどっちも無いので」

「まるで柏餅ですね」

「桜餅の方が俺は好きですね」

 

 そして会話が餅と言うか甘味の話に移ってしまう。何とか海苔については誤魔化せたと思う。そしてお義母さんは小豆を煮て餡を作るのが得意らしく、実は四葩にも仕込んでいるのだとか。将来的にはおはぎとか家で作れるかも知れないな、共同作業として面白いかもしれない。

 

たらぼうおめぇにぎんのうまな(タタラお前握るの上手いな)

「あ、気に入って貰えましたか?」

「え、たらぼう?」

 

 俺とお師様のやり取りにバカが疑問を持つ。そう言えは紹介してなかったな。

 

「そう言えば紹介が遅れたな。この人はアマツさん、俺の師匠を買って出て陽出國からわざわざ来てくれた人だ。言葉が古くて分かりにくいと思うが、いい人だぞ」

おん(ああ)アマツいう(アマツと言う)よろしゃあな(よろしくな)

「え、えっと!?」

「『アマツっていう、よろしくな』だ」

「え、ああ! よろしくお願いします!!」

 

 言葉の意味に戸惑ったようだが、意味が分かると笑顔で挨拶をする。快活な様子にお師様もご満悦な様子だ。やっぱりこう言う反応は人に好かれやすいんだよな。

 その後も和気藹々と食事を終え、俺は食器の片付けと夕飯の下拵えだけして鍛冶場に戻る。少しやりたいことが出来た。

 インベントリから取り出す合計1kgのミスリルを炉に入れ、赤める。此処数日で慣れた水減しを行い、心鉄と皮鉄に分けて何時もの如く四方詰めで刃を造る。

 そして、分割する。四方詰めで短刀や懐刀が造るのが難しく採算が合わないのなら、纏めて作って分ければいい。そうして分けた刀身を次々と打ち出していく。切り分けた事で内部の路に少し歪が出たが、まだ修正の効く範囲内だ。そうして分けた5本の刃を仕上げて懐刀を用意する。ミスリル特有の清らかな反射光をした白刃に、満足感を覚えて思わず笑った。

 

たらぼう(タタラ)おまんほんにかげっとけよ(お前本当に加減しろよ)……」

 

 そんな俺に背後から声を掛けてきたお師様。振り返ると完全に頭を抱えていた。

 

儂んおしったかぬちんすんはわか(儂が教えた鍛治をするのは分かる)しかっど神刀ばまとめん5打つんは(しかし神刀を纏めて5本打つのは)ちがっとよ(違うだろ)!?」

 

 思わずといった具合に叫ぶお師様。俺の作ったこの懐刀はどうも全て概念武装になっているらしい。早速『概念鑑定』を掛けてみると、一律『厄切』と概念が付与されている。

 

「……あの、この『厄切』って何ですか?」

そいはもんどおり厄除けっど(それは文字通り厄除けだ)どんもたらぼうんたんとのかたにしたか(どうもタタラが短刀にしたからか)『切る』かたんはまったど(『切る』概念に定まったようだな)

 

 そうか、厄除け……コレなら外部からの悪い干渉を弾けるかも知れない。お師様……は精神衛生上良くないから、お義母さんに手伝って貰おう。

 

そいでたらぼう(それでタタラ)

「何故コレだけ作ったか、ですよね。実は昨日俺がクラフトを教えてる後輩……まぁこんな至らない身で有りながら師と仰いでくれる奴等が居るんですが」

たらぼう弟子んいんど(タタラ弟子持ちか)! さっどくろんしてんどな(さぞ苦労してるんだろうな)!!」

「なんでそんな嬉しそうなんですかお師様」

 

 楽しそうに笑ってそんな事を言うお師様だが、俺も釣られて笑ってしまう。だが、此処からが笑えないのだ。

 

「そんな可愛い弟子二人が、クソの意味も無いゴミに魅了掛けられて苦しんだんですよ」

 

 俺の怒りや憎悪などの負の感情が煮詰まった声を聞いて、お師様も真面目な顔になる。

 

「あの二人の成長を見るのが楽しくて、次はどんな事を教えようかわくわくしてたんですよ」

「……」

「それが、俺の居る工房に来た時辛そうな顔してて。何か有ったかと思えば良くわからねぇクソ女が出て来やがる。規則としても迎え入れられないから二人に注意しようとすれば様子がおかしい、『鑑定』してみれば魅了に掛かってる……巫山戯るなと思ったね」

「……」

 

 お師様はじっと聞いてくれている。俺は少し安堵しながら言葉を続ける。

 

「理由を聞けば二人なら簡単そうだったから、とか殺意しか湧かねぇ事を言いやがる。その場で殺してやろうかと思えば邪魔は入るし、何より弟子二人からそんな事で自分達の前から消えないでくれって頼まれたから何とか押さえたさ。けれど、もう二度とあの二人が苦しむ姿なんて見たくねぇ! なら、どんな厄すらも祓える守りを作るしかない! この5本の内一本は都市長……この都市で一番偉い人に贈ります、二本はお義母さんに渡して研究資料にして貰います。けど本命は……あの俺を慕ってくれる弟子二人に贈る二本なんだよ。呆れますか、お師様?」

 

 感情を零しながら語って、最後に問い開ける。お師様は俺の話を聞き届けて、一つ頷いて口を開いた。

 

あきれもっかよ(呆れる訳が無い)儂とておなっことよ(儂でも同じ事をする)

 

 その言葉に、心の中で安堵した。否定されたらどうして良いのか分からなくなっていたと思う。

 

たらぼう(タタラ)そん『厄切』ばっ害んなんぼまとって(その『厄切』は害と判断される物を纏めて)祓っど(祓う)呪っどそだが自然の病っど含めん(呪術もそうだが病の類も含める)

「え、そんな強力なんですか」

たらぼうのかぬちんものだっど(タタラの作った物だからな)

 

 俺が作ったから強力になったってなんだよ、怖いな。

 

たらぼうん弟子ゃこん先あんたじゃ(タタラの弟子はこの先安泰だ)もう己ん赦しゃ(もう自分を赦してやれ)

「自分を……?」

 

 ああ、何だ。俺はあの二人が害された事よりも、あの二人を守れなかった自分が赦せないのか。情けないな、俺。

 

「……情けないですね、自分の事を何も分かってないなんて」

それが普通だ(そいがふつど)例えば神でも己を全て分かる訳では無い(たとっ神ど己ん分かん訳なか)

「そうですかね……アレ?」

 

 何か今、聞こえ方がおかしかったような?

 

どうした(どっだ)?」

「いえ、ちょっとすみません」

 

 慌ててステータスウィンドウを開いてスキル欄を見ると、『魔力上昇Ⅱ』『魔法攻撃上昇Ⅱ』『物理攻撃上昇Ⅱ』『考古学Ⅲ』が軒並み最大レベルになっていた。慌ててランクアップをさせる。

 

何か変わったのか(なん変わっど)?」

「その、お師様の言葉がより分かり易くなったと言うか……スキルが成長してました」

儂の言葉は古いからな(儂んことは古っどな)……」

 

 お師様も思わず苦笑いだ。釣られて俺も笑った事で、心が大分軽くなる。さて、当初の目的を果たすかな。

 

「この『厄切』の性能を知りたいのでちょっとお義母さんと話して来ますね」

おう(おん)しっかり調べて来い(しかとしらべんこい)

 

 軽く送り出されて庭先に向かう。問題は、虎熊家どころか陽出國でも重要な立場に居るお義母さんが魅了耐性を持っているか否かだ。




守刀『渦巻く風の刃』

 刀匠『小鍛冶 蹈鞴』が鍛えた懐刀。元は一本の刃を五つに分けたのだと言う。彼の生誕の地『渦巻く風の街』で鍛えられた『厄切』の刃であり、その刃には汎ゆる害成すものを阻む祈りが込められているという。
 陽出國には彼の妻の一人『小鍛冶(虎熊) 四葩』の縁にて二本伝わったとされ、造り方を解き明かされた現在は子供へ最初に贈る物として定番となった。

もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり

  • タタラとエテルの立場逆転
  • 現パロ(エテルヒロイン)
  • 現パロ(四葩幼馴染)
  • 武器が擬人化してタタラへ物申す
  • 年増組と同い年
  • 聖人カレハ
  • 原作エテルとタタラ
  • ガチ妹ダリア・ジュロン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。