既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント発生中
またもや風邪を引いて思考が纏まらず時間が掛かりました。クオリティか低くて申し訳ないです。
風邪を引いた初日に作者がやった事は牛すじのビーフカレーを作る事でした。
水分を全て赤ワインにして野菜と肉を煮込み、筋がゼラチン質みたいになるくらいに煮込んだ物です。
市販のカレーフレークの辛口と中辛を混ぜましたが、玉葱とトマトとワインの甘味で甘口カレーかと疑う程に辛味が有りませんでした。
とても美味しかったです。(かしこさ:5)
概念を持った鞘が出来上がり、次に必要なのは刃に刀としての体を成させる為に柄を取り付ける事だ。
茎を仕立てていないので、普通の柄は付けられない。その為に本来は柄になる側の一番端に2箇所、そこから20cm辺りの位置から3cm間隔で5箇所にネジ穴を開ける。そこへ両面にゴム質の素材を当て、更に魔鉄のインゴットを当てて『クラフト』で形成。峰側から挟み込むような反った作りのパーツを形成し、その反りと逆の浅い内反りのパーツを用意して柄にする。概念が刃にしか作用しない為、刃の後ろに柄を用意する形でハンドガードのような格好になった。刃の端からも長めに柄を伸ばし、大型の刃を振る上でバランスが取れるようにする。
形態として前世で見た巨大ロボのもしもを描いた後日談小説に出て来る主人公機の最終仕様、その武装の実在する刀の銘を持つ剣とよく似た物になった。刃の端には鞘を固定する為のギミック等を付けたりと細かい所は違うが、どうも自分の趣味が混ざってしまう。
続いては鞘の方へ手を加える。先ずは鞘と刃の間へ流動体を流し込む、コレはこの都市のダンジョンには出て来ないスライム系モンスターの粘液に人造オリハルコンにも用いる最小単位まで砕いた魔石を混ぜ込んだ代物で、固まれば前世に有った最高硬度のプラスチックであるポリカーボネートの3倍程の強度を持つに至る代物だ。刃の位置を軽く調整した後に『クラフト』スキルで固めて少し力を入れて引き出せば、鞘の概念により刃で斬れる事無く刃諸共引き抜けた。
引き抜く際に刃を上を向けておいた為、鞘の概念から解放された刃の概念により固まった粘液は自重により片面を抵抗する事も無く斬り裂かれその刃を光の下へと曝す。そんな刃をまた鞘に納めて、取り出した粘液──プラスチックモドキを加工する。一度完全に2つに分けて、中を確認する。刃の形が無事に取れている事に安堵しつつ、その形を紙鑢で整える。実際に刃を出し入れして詰まり等を見ながら調整するのが普通なのだが、生憎と鞘の概念により刃が斬れなくなってしまうと引っ掛かって刀身が曲がる可能性が出る。その為、内部を『クラフト』スキルで頭の中に組み上げた立体図を元に削って整える。5分程の作業時間の後に鞘から刃を抜いて、プラスチックモドキを入れてから刃を納める。キッチリとハマり、引っ掛かりも無く滑らかに納まった事に安堵して『クラフト』スキルでプラスチックモドキを固着させて完成した。
しかし、この刀はどうしようか。正直扱い難い代物過ぎるので、この都市でコレを使えそうなのはカラムスさんやおっちゃんくらいしか思い浮かばない。だが、二人は刀術の覚えが無い。当たれば斬れる刃では有るが、扱う武器種に対しての理解が低ければ宝の持ち腐れになるだろう。現状、銘を付けて居ないので鑑定してもその情報が読み取れない為に詳しい事は分からないが、多分この刀は剣術をコンプリートしてないと使えない物だと思う。
素人は多分、振ったら自分を斬ってしまうのではなかろうか。
「あら、拵は終わったのですね」
刀装具を一通り付け終わったタイミングでお義母さんが背後から声を掛けてくる。そうだ、お義母さんなら知り合いに相応しい人が居るかも知れない。
「あの、お義母さん。凄い聞きづらい上に滅茶苦茶無責任な事をお願いしたいのですが」
「……タタラさんがそこ迄言う物事をあまり聞きたく無いのですが、何でしょう?」
「お義母さんの知り合いに刀術が達者な……少なくとも『剣適性』スキルを最大にしてる人は居ませんか?」
俺の言葉を聞いて考え込むお義母さん。チラリと俺の背後に有る刀に視線を向けた事から俺の目的を察したのだろう、かなり悩んでいる様子だ。
「……一人、心当たりが有ります」
散々悩んだ末、絞り出す様な声を出すお義母さん。そんな相手に押し付ける事を申し訳無く思うが、俺の手元に置いておくのもやや危うい。かと言ってカラムスさんに頼んで軍神様の所へ奉納するのも危うい。下手に神気に染まって神格でも得られたら本気でヤバい。
「その人にこの刀をお譲りしたいのですが」
「……やっぱり、そうなりますよね」
俺の言葉に特大の溜息を吐くお義母さん。面倒事を押し付けてしまって申し訳ないですが、多分お義母さんの知り合いくらいしかこの刀が持つ魔性の斬れ味に抗える精神性を持ってる人が居ないと思うんだ。
「この刀を受け取ること自体にメリットがそれなりに有るのが断り難いんですよね……斬れ味が良いということ以外にも何か有りませんか?」
「斬れ味の良さと言うか……『切断』の概念一点だけでコイツは『厄切』と近い事が出来ますよ」
「嘘でしょう?」
お義母さんが俺の言葉に思わずといった具合にツッコミを入れてくる。いや、ガチなんだよなコレ。
現時点では鞘に納まっている為に効力がほぼ表に出てないが、恐らく部屋に飾っておくだけで結構な広さの家をカバー出来る。お義母さんが手を加えたこの家の結界みたいな対魔法防御は無いが、家や其処に住まう人へ向けた呪法は問答無用でぶった斬る。
先に鍛えた『厄切』のような選別は出来ないが、そも選別出来る『厄切』がおかしいだけなので問題にはならないだろう。コイツにも『厄切』のような意思が宿った場合は同じ事を出来るようになるかも知れないが、そんなのはずっと先の話だろうし。
「近いというと、どれだけの事が違うのですか?」
「害を成す物って判別が利かないで片っ端から干渉を斬る感じですかね、鞘内に納まる間なら出力の上限は有ると思いますが」
「それでも破格に過ぎますね……」
お義母さんはかなり悩んでいる様子を見せて、一つ息を吐いた後に俺に答えた。
「一晩時間を下さい。これ程の代物を相談も無しに相手へ渡すのは憚られます」
「それはそうですね」
うん、確かに俺だって説明も無しに同じような概念武装を渡されたら発狂する。よく考えたら似たような事を何度もしてるな、どうしよう今更ながら罪悪感湧いてきた。
「一先ずはその特級の危険物はタタラさんの庫の中へ保管して下さい、遅くとも明日の夜までには答えを出しますから」
「ええ、よろしくお願いします」
「それでは、雛菊達の鍛錬の監督へ戻りますか」
お義母さんに言われて手早く刀をインベントリの中へしまう。鞘のお陰でインベントリを斬り裂く事は無く、身を以て安全を保証出来た。
リビングに戻れば、所々汚れたジャージのバカが軒先で座禅を組んでいるのを三女ちゃんと双子が突付いて遊んでいる。常に集中が乱される状況下で無反応を貫こうとする姿は素直に凄いと思う、あの三人は自分の兄だからか一切容赦なく擽りとか仕掛けてるし。
精神注入棒は雛菊さんの手の中に有り、三人に突かれて集中が乱れたのを見た瞬間に肩へ一撃を入れるつもりなのが見て取れる。正直に言おう、容赦無さ過ぎて引く。身体が反射で揺れても容赦なく肩に一撃入れてるのはどう考えても二日目でやる事じゃ無いだろ。
「……虎熊家の修練って難易度高いんですね」
隣のお義母さんにドン引きした心情を込めてそう言うと、お義母さんは心外もいいところだと言わんばかりの表情で俺を見た。
「あんなの普通にやりませんよ、鬼畜の所業ですよあんなの」
「ですよね」
あんなの、と思わず2度言う辺り大事な事なんだろう。
思わず安心した、アレが普通だったら俺はあのバカへ修行相手の選定を間違えたと土下座する。
「ちょっと雛菊とお話してきますので、タタラさんはお昼を準備して下さいね」
「あ、もうそんな時間だったか……作業に没頭し過ぎたな」
お義母さんに言われて俺は厨房へ向かう。そう言えば3歳の子供って何を食べさせれば喜ぶだろうか……仕方ない、悪巫山戯に思えるかも知れないが子供が喜ぶレシピなんてのはコレしか思い付かない。
最初に大鍋で湯を沸かす為火に掛ける。沸くまでの間は他の料理の下拵えを行う。玉葱を微塵切りにし、肉をミンチにして塩と胡椒更に水気を切った玉葱の七割と卵を入れて混ぜる。固まったなら子供用と大人用で大きさを分けて形成して、ハンバーグのタネの出来上がりだ。魔導ホットプレートを取り出して、弱火で熱した後にハンバーグと水を入れて蓋をする。他の作業をしつつ、15分程したら『鑑定』で焼き加減を見てひっくり返してまた蓋をする。
フライパンを熱して先に敷いたオリーブオイルを伸ばしてバターを溶かす。残しておいた玉葱を入れて炒め玉葱が透明になった辺りで炊いておいたご飯を取り出して入れ更に炒める。塩コショウで味を調えてバターライスの出来上がり。子供用ならチキンライスの方が良いのかもだが、トマトケチャップを作ってなかったのでバターライスだ。匂いも子供にはキツイので大蒜抜きにしてある。
湯が沸いたので塩を溶かし入れてパスタを投入、ソースはカルボナーラにする。卵と牛乳にパルメザンチーズ、オリーブオイルとソーセージを用意する。ソーセージは輪切り、卵は溶いてから胡椒と牛乳とパルメザンチーズを削って入れてから混ぜる。フライパンを熱してオリーブオイルを投入、温まったら先ずはソーセージを入れて焼き色を付ける。ソーセージが焼けたら卵を流し入れて軽くひと混ぜ、其処へ硬めに茹でたパスタを投入しとろみがつくまで弱火で熱する。出来上がった物を一つのプレートの上へとよそっていく。山になったバターライス、ミニハンバーグ、カルボナーラスパゲッティ、スープはインスタントのコーンポタージュ。子供用ワンプレート──お子様ランチの完成である。……あ、旗用意してねぇや。この世界にお子様ランチの文化は無いから手を抜くが。
そう言えば、バカからはちびっ子達用のオヤツとか受け取ってないな。此方で勝手に出していいものだろうか?
大人用はハンバーグとサラダ、白米にインスタントのコンソメスープだ。お子様ランチレベルで油を使うと胃もたれしそうだしな、バカと雛菊さんのもそうなのは此の後動くのに油が回るのを防ぐ為だ。
手伝いたいのか厨房の近くに来ていたチビ達に其々のプレートを渡してテーブルへ運んで貰う、プレートの裏に反重力術式を咄嗟に書いたので重さが無く3歳児でも問題無く運べるようにした……傾けたりしなければ大丈夫。
三女ちゃんと一緒に絵を描いた机にチビ達が其々プレートを置き、バカと雛菊さんも其処で食事を摂らせるために二人分の食事も置く。
何時ものテーブルには俺とお師様にお義母さんの3人で着く為に料理を並べた。
「タタラちゃん、いっしょにたべよ!」
が、三女ちゃんからお誘いがかかる。正直、机の方に俺が入れるスペースが無いのだが……鞘の件で助けられたのだし行こうか。
「それじゃ、俺も入るから少し場所空けてくれ」
『はーい!』
チビ達が元気よく返事をして、俺の入れるスペースを空けてくれた。なんとかギリギリ入れるが、大分狭くなってしまった。
『せまーい!』
「そうなるのは分かってただろ、文句を言うな」
チビ達の言葉に対して呆れを交えつつも注意するバカ、こういった所でコイツがお兄ちゃんなんだと感じる。
「だってたたらちゃん、おにいちゃんよりおおきいんだもん!」
「いや、確かにタタラの身体はデケェけどよ」
因みに身長は15cm、体重は20kg程の差は有るが体脂肪率は同じだったりする。日々そこそこ重い鎚を振ってたら筋肉がガッツリ付いていた……ステータスの伸びはアレだったが。
「探索を日々やってる俺とクラフターとしてが主なタタラ、何でこんなに差が出てるんだろうな?」
「栄養関係じゃねぇかな、俺は家族三人暮らしだったし」
「それはもう覆せねぇな……」
両親が中堅の探索者かつ子供が俺一人だったジュロン家と、両親が農家で子供が七人居るバカの家では一人辺りの栄養が違うだろう。むしろ、その状況で身長が180cm手前のコイツはかなり恵まれた体格である。コイツの親父さんもガタイが良いので恐らく血筋的なそれなのだろう。何時かはこの小さい双子がコレくらいの大きさになるのは……うん、考えないようにしよう。
「たたらちゃん、ほーくかすぷーんない?」
『このままじゃたべられない……』
「あ、いっけね忘れてた」
インベントリからミスリルのインゴットを一つ取り出して、子供用のカトラリーを用意する。表面の部分は徹底的に取り除き、雑菌に触れてない内側の部分から作り出す。先端は丸く、食べている最中口の中を怪我させないように配慮する。
「はい、これ。ごめんな、うちには子供用の食器って無いんだ」
「ううん、だいじょうぶ!」
『ありがと、たたらにぃちゃ!!』
しっかりとお礼が言えるこの三人はキチンと躾がなされていて感心する。仮にエテル達との子供が出来たらアドバイス貰えるかな、お礼を用意すればいけるか?
「なぁ、タタラ。あのカトラリーに使った素材って」
「ミスリル」
「……手軽に子供用のカトラリーに使える素材じゃねぇだろ」
「余ってるんだから仕方ないだろ、鉄や鋼よりも在庫有るんだぞ」
俺の言葉にバカが頭を抱えた、感覚が麻痺してるが本来は希少な素材のミスリルを手軽に子供の食器に使うのは確かに異常なのだろう。木材を加工するにしても口に含むものだから、徹底的な衛生面での配慮が必要なので手間がかかり過ぎて今直ぐの用意は無理だ。ミスリルは真銀と陽出國で呼ばれるように、銀が持つ金属特性をそのまま強化した状態で保有している。代表的なのは電気の伝達率の高さで、電流を流した際の抵抗値がほぼ0というとんでも素材だ。その影響なのか魔力の伝達率も高いので、魔法使い関係には好まれる素材になっている。そして、殺菌効果も数倍になっている。中央の一部の医師は切開を行うメスにミスリルを使用した物を選んでいて、切れ味や清潔さ等から値段は度外視して最上の相棒として認識されている。下手したら人間の体内に居る善玉菌すらも殺しそうだが、ミスリル製の食器を使って体調不良になったという記録は無いのだ。凄まじいご都合主義な気がする。
そんなミスリルで作ったカトラリーなど、王侯貴族くらいしか基本使えないお値段だったりする。その手の上流階級な人達のはデザインやハイブランド品を使用するために値段が上がる理由になるのだろう……そのうち工匠長だからと皇帝陛下の使用する食器一式とか頼まれない事を祈る。小市民には荷が重過ぎるのだ。
「たたらちゃん、もうたべてもいい?」
「あ、ごめん。それじゃいただきます」
『いただきます!』
三女ちゃんに促され、挨拶をする。元気よく声を揃えたチビ達が挨拶の後にお子様ランチを食べる。果たして判定は?
『おいしい!』
どうやら気に入ってもらえたらしい、子供は味覚が鋭い上に正直なので容赦ない批判も覚悟していたのだ。
「おにくがいっぱい!」
「すーぷにあじがある!」
「すぱげてにそーすがかかってる!」
聞いてて居た堪れない情報が出て来たんだが、バカの方に視線を向けるとチビ達を止めるに止められないような複雑な表情をしている。お前の探索の稼ぎを含めても日々の飯がキツイんか。
「……その、な。チビ達の服とかお下がりで使い回してたりもするんだけど、家の修繕に使う金とかに取られてな」
「リフォーム請け負ってやろうか? 専門じゃないから安く済ませるぞ」
「幾ら掛かるんだよ」
「無利息ローンで3000万で請負うぞ、お前の土地なら三階建で兄妹の個室も作る方が良さそうだしどうよ?」
「……考えておく」
実際に作るのなら野菜や果物を保存する地下の保存庫とか、天日干し出来る設備とか作るかな。固定資産税はちょっと上がるだろうけど、果物や野菜の出来が悪い時にはジャムに出来るようにキッチンを大きめのシステムキッチンにすれば売上はもうちょい良くなるだろうし。都市長に査定されたら『3000万じゃ安い』と言われそうだが、俺の技術の実験を兼ねた家にすれば安くなったとしても『不具合の確認も兼ねている』と言い訳が立つ。何なら月に一度レポートを出して貰う事で実験への協力の実績にして固定資産税の7割程の支払いをすれば生活が楽になるだろう。
……施しをされているみたいでこのバカや両親にはあまりいい顔をされないだろうが。
「たたらちゃん、むずかしいおはなし?」
「少し難しい話かな、皆のお父さんも交えたお話を今度するかも」
「どんなおはなし?」
「うーん……お家を直すのを安く受けましょうかってお話かな」
「じゃあ、たたらちゃんがおうちのやねからおみずがたれてくるのなおしてくれるの!?」
「……今度やってあげるね」
三女ちゃんからの話を聞いて雨漏り修繕を速やかにやる事を決意する。小さな子供にこんな話をされたら助けたくなるにきまってんだろ。
「おい、タタラ」
「妹ちゃんにはさっきクラフトに関してめっちゃ助けられたからな、個人的に何か贈ってあげるのもいいがお前の家を直すのも無料でやってもまだ釣りが出るぞ。つか、福利厚生の内に含むわこんなん。委託者の生活がそんな状態とか見逃してられるか」
俺は先天的に『クラフト』スキルを持っていたから子供の頃から家の不具合を見付けては直して両親に褒められて来た。探索者を目指すコイツにはそんな身近な節制術なんて無いのだから、俺が手を伸ばしても罰は当たらないだろ。真面目に生きてる奴が報われて何が悪い。
「なんだかお前に頼り過ぎてる気がしてならねぇんだが……」
「ならその分をこの都市へ返してくれ、俺は『工匠長』になるんだ……この都市への貢献がそのまま俺への還元になるからな」
「なんだよそれ」
直接的な礼を受け取る気にはなれない、俺はもう何度もコイツには助けられている。コイツはもっと多くの人をその手で救える奴だ、俺への恩を更に別の誰かへ向ける事でその誰かがまた別の誰かを救っていく。そうやって何時かコイツを『英雄』と讃える誰かが出てくれれば嬉しい。
「ま、そんな事はおいておいて飯はしっかり食っておけ。どうせ休んだ後にはまた苛烈な打ち合いとか始まるんだから」
「タタラ殿、流石に二日目でそこ迄本気には……」
「昨日、修練初日の人間にやる気出して気絶させた人は誰でしたっけ?」
雛菊さんの抗議にジト目でそう言って返せば押し黙られた。このバカを脳震盪起こして一時的に気絶させたの忘れてねぇからな?
「そう言えば、疲労はどうだ?」
「ちと残ってるが問題は無いぞ、家でストレッチも忘れてねぇしな」
「流石のストイックさだな……ちょっと待ってろ」
飯を食い終わって小休止をしている中でバカに問えば、身体の様子は問題無さそうだ。疲労を完全に抜く事は出来ないが、和らげる物は作っている。
「ほい、檸檬の蜂蜜漬けだ。疲れた身体と頭に効くぞ」
「お、サンキュ!」
一枚切身を摘んで口に運ぶバカ、蜂蜜の甘みの後に檸檬の酸味が口を満たしたらしく目を思い切り瞑っている。
『あ、にいちゃいいなぁ!』
「これはお前達の兄ちゃんが練習頑張れる為の物だからダメだぞ……そうだ、この子らのオヤツってどうした?」
「あ、悪い忘れてた。コレ、親父達からタタラにお礼って」
バカに話を振れば、二枚目を口に運んでいたバカが思い出してインベントリから幾つかの果物を取り出して渡してくる。売り物にするには向かない形が悪い物だが、コイツの家が育てている果物はどれも美味いのだ。それに見た目が悪くても切ってしまえば変わらない、チビ達の為に果物を切ってヨーグルトと合わせてやろう。
オヤツにしては余る量を貰い、コレは礼なのだろうと察した俺はバカへ両親に感謝の言葉を伝えてもらうように頼んでおく。家で消費し切れない分を持ってきたと言われたが、だからと言って礼をしない訳にはいかない。コイツの家の果物、同じだけの量を買おうとしたら1万くらいの出費になるし。天日干しでドライフルーツでも作ろうか……それとも、クラフターらしく魔導式大型フードドライヤーでも作ろうか。出来栄えによってはバカの家に実験がてら渡してドライフルーツを売ってもらえばいいだろう、そうすればコイツの家も少しは金が入るだろうし。
「……タタラ、無言で考え込まれると怖いんだが?」
「いや、悪い。魔導式の大型フードドライヤーを作れば家庭で簡単にドライフルーツが作れるかもってな」
「それ、作ったとしてどうするんだよ……」
「お前の家で実験してもらって、ドライフルーツを売り上で有効かを調べて貰おうかと」
「地味に俺の家の設備良くしようとしてくるのやめね?」
「あくまでもプロトタイプのテストだからな、レポート出してくれたら金も出すぞ」
「ダメだ、この手のことは話が通じない」
この世界ではまだフードドライヤーなんてものは無く、ドライフルーツは専ら天日干しが主だ。都市長からはまた特許で怒られるだろうが、有って困る事は無いだろう。
小休止を終えてバカは雛菊さんとの打ち込み稽古を開始した。型を変えながら九つの斬撃を繰り返して身体に馴染ませる、反復練習を繰り返し続ける。その光景を眺めながら、刀術を使うバカを想定し具足のイメージを補強する。チビ達は満腹の影響でお昼寝中だ、全員にタオルケットを掛けて隣に座ってバカ達を眺めている。
打ち込みは少しずつバカの癖が現れ始めている。
唐竹に打ち込む際は上段から手首を返し、峰が背に付く程の状態からの打ち込み。
袈裟斬りと逆袈裟は上段からの左右の鎖骨へ向けた打ち込み。
胴と逆胴は脇構えからの薙ぐような打ち込み。
左右の斬り上げは脇構えから、峰を背に付けるようにして腰の回転を乗せた打ち込み。
逆風は下段からの鋒が地に着きそうな状態から振り上げる打ち込み。
元が西洋剣を使っていた為か、斬り裂く物では無く叩き付けるのが主な技だ。木刀ならいいが、真剣では著しく刀の寿命を削るだろう。一度刀を振らせて意識を切り替えさせた方がいいのだろうか?
「どうしました、タタラさん?」
指導できない俺がそんな悩みを抱えていると、お義母さんが話し掛けて来た。
「いえ、刀術や指導に明るく無い俺が言うのもアレなんですけど……アイツに一度刀を振らせて意識を持たせた方が良いのかなって」
「ふむ……確かに、渾身の力で打ち込んでいる今の状態では刀向けでは有りませんね。しかし、今はまだアレで大丈夫ですよ」
お義母さんからお墨付きを貰ったので気を揉むのをやめる、指導出来ない人間が何かを思ってもプロに比べれば大した事では無い。その人の経験と理論を信じるしか無いのだ。
コレが自分の子供だった場合はクレーマーになる心理も少し理解できる、要は指導内容を理解出来ないが故にその効果を認識出来ないのだ。結果さえ見えれば何とかなる、とも言えない。自分の子供というフィルターが掛かる故に『もっと出来る筈だ』と過剰な期待を寄せてしまうのだろう。何時か自分に子供が出来て、その子に剣の才能が有った場合雛菊さんの指導を見て俺は文句を付けずに居られるだろうか?
「……タタラさん、御自身に子供が出来た時に全幅の信頼を持って相手に預ける必要は無いのですよ」
思考がドツボにハマる中、お義母さんが静かに声を掛けて来た。
「親なのです、子供の未来に不安を持つのは当然。指導相手を全て信用してしまえば、子供の助けを求める声すらも聞き逃します。疑いを持っていいのです。同時に、子供の成長を見てその指導相手が相応しいかも見極めなさい。人間同士、合う合わないは必ず有ります……どれだけ高名な指導者でも、人が合わなければその力を発揮出来ません。子供と指導者を見極めて、より良い選択を出来るように目を養いなさい」
お義母さんがゆっくりと語り聞かせてくれる親としての心構え、とても難しいと感じてしまう言葉だ。それでも、この言葉はきっと俺の為になるだろう。俺はこの言葉を正しく受け止めて、糧にしなければならない。そして何時か、自分の子供が親になろうとする時に受け継いで貰えればいいとそう思う。
「自分の及ばない領分の事を見守るのは怖いんですね、お義母さんも沢山経験したんですか?」
「それはもう、剣に付いては息子達が夫に指導されている姿を見て何度割り入ろうと思った事か」
「そんななんですか?」
「かつては『剣鬼』や今や『剣聖』等と呼ばれ持て囃された剣狂いですからね、当主代行として落ち着いてますが一皮剥けば剣に生きて剣に死ぬつもりの剣術バカですよ」
おっと、お義母さんの言葉に熱が入り始めたぞ?
コレ邪魔したら後々怖いやつだな?
「それは確かに若い時分はあの人が私を勝ち取る為に並み居る婚約者候補を十把一絡げに蹴散らしていた姿にときめきましたよ、それなのにいざ関係が深まれば奥手で手を出してこない初心とかどうなんですかね。剣に狂ってたせいで異性との接触が極端に少なくて、性知識なんて口吻を交わしたら子供が出来ると思い込んでる始末。挙げ句、タタラさんみたいに誰彼構わず手を差し伸べて相手に勘違いを誘発させる為に周囲には恋慕の情を募らせる者が溢れる始末。正妻である私を差し置いて騙して子をなそうとする者まで現れた上に、拗らせた夢魔に搾り殺され掛けた時には私の怒りも有頂天。目の前で情欲を煽る舞まで踊って漸く結ばれる羽目になりましたからね。ええ、今でも愛して居ますがあの時の苦労は忘れられませんとも。偶に思い出してはぶん殴りたくなりますからね」
「あっ、はい」
何か流れで俺まで刺された気がするが、ツッコんだら俺に矢印が向いてきそうでとても言葉に出せない。正直に言おう、
「その点、タタラさんは良い子ですね。四葩へしっかりと情欲を持っていて、未通では有りましたがしっかり四葩と肌を重ねているのですから。夫の気質を継いだのか息子達は武芸や研究に没頭して未だに異性と良い話を聞けませんし、娘達も素で武力の高さがある為に高嶺の花扱い。鬼としてはまだまだ若いのでいいですが、私とてそろそろ孫の一人も抱き上げたくなります。タタラさん、虎熊家から私兵を此方に寄越しますので四葩を抱いて孕ませませんか?」
「落ち着いて下さいお義母さん、都市長の胃が粉砕されそうな提案をしないで下さい」
どんだけ溜め込んでたんだこの人、それと虎熊家の私兵とか嫌な予感しかしねぇんだが。騎士見習いに襲い掛かって脊椎ぶっこ抜いて雄叫び上げる蛮族とかじゃねぇよなそいつら。
「流石に脊椎を引き抜いて掲げる奴等は居ませんよ、鼻や耳を切り落として武功の証として競い合ったりしますが」
「蛮族じゃねぇか」
耳塚が必要になりそうなのは本当にやめて欲しい。後、ナチュラルに心を読まないで欲しいです。
「大将首を求めて相手を威喝するのとか、敵陣に向かって撤退する家とか有ったりしませんか?」
「虎熊家の領内には居ませんね、他所の領にはそんな家が有ったと思いますが。人間の名家なのに鬼の二つ名も貰っていたような気がしますね」
藪をつついて八岐の大蛇を出した気分だ。
「ですが、タタラさんとは仲良くなれると思いますよ。言葉を理解しようと頑張りますから」
「古代語なら兎も角方言は自信無いんですが」
お師様同様、お国言葉を理解する為に頑張りはするがそれが適うかは別問題だと思う。逆にスムーズな会話が出来なくて苛立たせたりしないだろうか?
そんな会話をしていたら重々しい打撃音が聞こえ、視線を向ければバカの肩に雛菊さんの木刀が直撃していた。
「はぁ……才覚がある者を指導出来て楽しいのでしょうが、加減しなさい雛菊」
お義母さんの呆れた声を聞きながら、俺は傷薬と癒薬をインベントリから取り出してバカへ向かって駆け寄るのだった。
タタラの自己イメージ
「うわ、なんだコレ……意味わからん怖っ」
実際のタタラ
「うわ、なんだコレスゲェ! なんだ、どうやって作ってるのか意味分かんねぇ! ヒャッハー! 解析して技術の吸収だぁ!!」
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン