既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。 作:アルカミレス
『看板娘』イベント継続中
タタラ強化イベント発生中、最終イベント開始
「雛菊、修練中の怪我は仕方ない面も有ります。しかし、習いたての相手に貴女が本気になって打込みをしてどうするのですか。しかも肩を粉砕骨折、貴女は加減と言うものを知らないのですか?」
地面に正座した雛菊さんの前でお義母さんが口元を扇子で隠しながらそう淡々と説教をしている。説教の内容通り、雛菊さんの木刀を受けたバカの肩は粉砕骨折状態で下手したら二度と剣を振れなくなっていた可能性すら有った。
「動くなよ、今すぐ癒薬を使うからな」
「悪、い……タタラ」
「痛みがスゲェんだから無理すんな」
脂汗を流しながら礼を言ってくるバカを咎めながら、癒薬を砕けた肩へ掛ける。固定した腕の骨等は問題無くくっつけていたが、粉砕した骨の治癒等は経験が無い。上手くいってくれるように願っている中、バカの肩は元に戻っていく。やがて腫れも何も無くなった肩をグルグルと回して、俺に向かって親指を立てて来た。
「完全回復だ、流石は癒薬だな!」
「乙女様へマジで感謝しろよ」
思い切り安堵の息を吐く、乙女様へ感謝の念を飛ばす事を忘れない。『ワールウィンド』の損失になるところだったぞマジで。
「貴女がその体たらくならば、私が修練を引き継ぎます。他人の身の振り方を見て己を振り返りなさい」
「お、奥様! それは流石に……」
「昨日は脳震盪、本日は粉砕骨折。明日は内臓の損傷ですか?」
お義母さんの説教がマジ強いな。赦す赦さないはバカの意見が優先だが、それを踏まえても今回の事を見逃すつもりは無いらしい。……加減しろ馬鹿案件だし、将来有望な者の道を台無しに仕掛けたのだからああもなるか。
「私は貴女をもう少し賢く加減が出来る女だと思っていたのですが、貴女は格下相手に直ぐ加減が出来なくなる程度の者なのですね」
「うぅ……」
心底失望したといった表情だが、アレ多分作ってるな。本来の雛菊さんならもっと上手く出来ているのがそうでは無い理由を探る為、敢えて厳しい言葉を言ってるみたいだ。
「仕方有りません、私が彼に稽古を付けますので見ていなさい」
お義母さんの言葉に完全に落ち込んだ雛菊さんを見てバカはオロオロしている。最初に頼んだ相手を蔑ろにする事への罪悪感が有りそうだが、昨日今日と鍛錬の続行不可と判断される怪我を発生させた事への弁明不可な現実に対して擁護が出来ないと言う冷徹な判断から動けないのだろう。
「お友達さん、申し訳有りませんが暫くは私と鍛錬をして下さい」
「え、あっ……はい」
お義母さんと雛菊さんを交互に見て、雛菊さんが完全に沈んでいる姿を見てバカはお義母さんからの稽古を了承した。教わるのは雛菊さんにと言おうとも思っただろうが、本来の目的は刀術を覚えて強くなる事が目的だ。そんな判断から雛菊さんからお義母さんに鍛錬相手を切り替えたのが分かる、何だかんだこう言う取捨選択が出来ないと探索者をやっていく事は無理なのだ。
そうして始まるお義母さんとバカの鍛錬は、端から見ていても分かりやすい程にバカの習得が早くなっていた。打込み稽古をさせている中で、本来雛菊さんがやろうとしていたであろう隙が生じた点に対して木刀をそっと添える形で攻撃を殺して指摘すると言うのをお義母さんは非常に上手く熟していた。
「攻撃に意識を割かれすぎです、修練の間は常に型と剣筋を意識しなさい」
「はいっ!」
お義母さんの恐ろしい所は動きはゆったりしている事だろうか。傍目にはバカの方が全体の動きが速いのだが後から動いた筈のお義母さんの方が余裕が有る動きをしているのに、先に木刀が届いているのだ。動きに無駄がない故に、後から動いているのに先に届く……俺にはそう見えた。
そして、バカもさる者。お義母さんの動きを目で見て頭の中でトレースし、即座に取り入れ始めた。動きに緩急がつき始め、脱力から力みに移るのが段々と上手くなって行った。お義母さんも少し驚いた雰囲気を出している……雛菊さん、コレで想定していた強さを見誤ったのか?
「成る程、凄まじい成長速度ですね。昨日今日刀術を学んだ人間の動きでは無いですよ」
「ありがとうございます!」
「ですが……はいっ!」
「ぬぐぁ!?」
褒められて少し余計な力みが入ったバカの剣をいなした瞬間、その身体が一回転して地面に転がった。合気か今の?
「このように、余計な力を入れすぎるとそれを流される事で簡単に身体を崩されます。私に殺意が有れば転がった瞬間にその首を落とせる……適切な力を発揮する、それこそが技と心得なさい」
「はいっ!」
二日目でやる稽古では無いだろうが、バカの成長速度が想定以上ならそれに合わせる。雛菊さんはその見極めに失敗してバカに怪我をさせ、お義母さんはその調整が上手く出来てバカの身になる……何と言うか、指導してきた経験の差だなコレ。
「うぅ、私の仕事なのに……」
「嘆いている暇が有るならお義母さんのやり方を見て実践できるようになりましょうよ、あと少しでお義母さんも虎熊領に帰ってしまうんですし」
涙目の雛菊さんの嘆きを聞いた瞬間にツッコミを入れてしまった。仕事を取られたと嘆くより、折角先達がその風景を見せてくれたのだから学ぶ場にしましょうよ。
俺から見て、バカの刀術は成長と言うか進化みたいなレベルで鋭く速くなっている。型を取りはするが、構えずに木刀を振るう事も有り正直相対したら俺だと意表を突かれて瞬殺される。ステータス差が有っても戦闘の才能で劣る俺ではもうあのバカに勝てないだろう、そんな俺が信じた親友の才能に胸の奥が熱くなる。彼奴の才能に負けてられない、彼奴がより輝ける武具を作れるようにならなければ工匠長の名折れだろう。
「良き才覚ですね……如何です、我が領にお越しになりませんか?」
「認めて貰えるのは嬉しいですけど、俺はこの都市の中でも手一杯なので!」
「それは残念ですね、宜しければ雛菊と縁談でもと思いましたのに」
「いいっ!?」
勧誘を仕掛けるお義母さんに元気よく返していたバカが、雛菊さんとの縁談話を持ち掛けられていた事に驚いて集中を乱した。狙いが逸れた木刀をお義母さんの木刀が打ち上げて、その手から木刀を失わせた。お義母さんの言葉で顔を真っ赤にしてあわあわと口を動かすバカの姿を見て、お義母さんは脈アリと判断してニヤリと嗤う。悪い笑みだな本当。
「いや、その……ひ、雛菊さんはとても綺麗で格好良い女性で! まだ学生の俺みたいな青二才には高嶺の花って言うか!?」
「落ち着いて下さい、貴方の才能であるなら雛菊とも十分に釣り合いが取れますよ」
「すみませーん、俺の親友は女性に免疫無いんでそう言う勧誘は
余りにもお義母さんの掌で転がされそうだったので言葉だけ割って入る、正直に言うとバカが自分で決めたのなら俺は送り出す事も吝かでは無い。とても寂しいが。
「あら、脈アリですのね」
「見た目
「……タタラ殿、何故だけを強調したのですか?」
「え、言ってほしいんです?」
「……結構です」
そんな中、お義母さんが打ち上げた木刀が回転しながら降ってきた。特に眼を向ける事も無くそっと回転に合わせて手を添えて確りと柄を握るお義母さんを見て、背筋が寒くなる。もしかしてあの刀、お義母さんが使うつもりじゃ……?
「お、俺みたいなガキは雛菊さんみたいな素敵な女性には釣り合わないって言うか」
見た目と剣椀だけで中身は干物だぞ、お前の憧れの女性は。とても口には出せないが。
「憎からずは想っているのですね……今、お付き合いしている方は?」
「いや、家が貧乏な農家ですし……探索の稼ぎも生活費に充ててるので浮いた話は無いですよ」
「嘘つけ、お前毎年新入生やら同級生に告白されてたろ」
「受けてねぇからノーカンだろ!」
お義母さんの質問に答えるバカの回答に茶々を入れる。学園の中で流れた裏ランキング『抱かれたい男部門』と『結婚したい男部門』に『お兄ちゃんにしたい部門』の三冠持ちがよ。
因みにエテルは『抱きたい女部門』『セフレにしたい女部門』『妹にしたい部門』『学内巨乳ランキング』『寝取りたい部門』の五冠である。投票した奴等を殲滅出来なかったのは忸怩たる思いだ。
「あらあら……ご家族でうちの領に来て骨を埋めませんか?」
「勧誘はやめてください」
「……にゅぅ、たたらちゃん」
どうやら三女ちゃんが起きたようだ。タオルケットを引き摺りつつ縁側まで歩いて来た。双子はまだ夢の中だ。
「どうしたのかな?」
「にゅぅ……おしっこ」
「わかった、トイレは此方だよ」
三女ちゃんを連れてトイレへ向かう。家のトイレ子供用の便座とか無いけど大丈夫か?
流石に子供とは言え女の子のトイレを見る趣味は無いので、扉の前に立って待つ。便座には問題なく座れたのは確認したので、終わったら流して出てくるだろう。そう思っていた。
「ぴゃァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
トイレの中から三女ちゃんの凄い悲鳴が聞こえて来た、何が有ったんだろうか。
「ちょ、凄い悲鳴が聞こえたけど大丈夫か!?」
「たたらちゃん!? おしりになにかがあたってるよ!?」
……どうやらウォシュレットを興味本位で使用したら初めての感覚過ぎて驚いたらしい。そう言えば、エテルや都市長も同じような反応していたな。
「押したボタンの近くに赤いボタン有るの分かる?」
「んにゃぁ!? た、たたらちゃんたすけて!? おしりがへんになっちゃう!!」
どうも刺激が強過ぎて俺の言葉が届いて無いらしい、どうするかな。
「……よぉ、タタラ」
そんな俺の背後から地獄の底から響いて来たかのような声が聞こえた。振り返れば明らかにブチ切れているバカが立って居た。
「お、ナイスタイミング」
「あ゛あ゛!?」
「お前の妹がウォシュレットを初めて使って助けを求めてるから何とかしてやってくれ」
「……あぁ」
俺の説明を聞いたバカが全てを諦めたかのような納得の表情を浮かべて、トイレの中に入る。そう言えば、子供の頃あのバカも同じような事になってたな。
数分経ってから二人連れたって出て来る、三女ちゃんは泣き腫らした顔をしていた。まぁ、初めての刺激だしこうもなるか。
「……たたらちゃん、あれなに?」
「アレはウォシュレットって言うお尻を洗う魔導具だよ」
「……かってにつかってごめんなさい」
「うん、次からはボタンを押す前に確認しよっか」
反省しているのならそれ以上は責めない叱らない、分かってくれてるならいいのだ。
「タタラ
「ヒデェ言い草だな、ペーパーの節約にもなるし経済的なんだぞ?」
「理屈は分かるけどよ、コレで変な性癖に目覚めたりする奴出るんじゃねぇのか?」
「居ねぇよ」
今のところ、尻穴で感じるようになった住人は出ていない。以前は四葩とお義母さんが便利との事で家に導入出来ないかと交渉された事も有ったし、お師様からも有用性は認められた。あの反応が刺激が癖になったから、とか言われたらどんな顔をすればいいのか分からなくなる。
「まさかお前、幼少期にウォシュレットで?」
「ぶん殴るぞ」
疑いの目を向けたら睨まれた、良かった親友がそっちに目覚めて無くて。
庭先に戻り、お義母さん監督の下雛菊さんとバカの向かい合っての型稽古が始まる。動きはゆっくり正確な物を徹底し、雛菊さんの動きを見てバカに型を馴染ませる為なのだと何となく分かる。段階をすっ飛ばし過ぎて基礎が疎かになり始めたタイミングでコレを挟む意図は分からないが、バカの型がどんどん洗練されて行くのだけは分かった。
「おにいちゃん、けんふるのきれいになってる!」
俺の隣にちょこんと座り一緒に見学していた三女ちゃんが嬉しそうに声を上げる。武の経験の無い三女ちゃんからして分かるくらいに良くなっているとは、本当に師って大事なんだな。俺もバカも、陽出國から齎された出会いで自身を高められたのだから、人生分からない物だ。
そうやって日が暮れる迄バカは剣を振り続け、激しい動きは無かったが全身汗だくに成る程に身体を酷使し続けた。帰る前にシャワーだけは浴びさせて、昨日と同じように生活費の足しに三万を握らせて弟妹達と帰っていく。チビ達は明日も来たがったが、バカは今日が特別なだけで普段は連れてこないと三人を注意する。別に来ても構わないが、バカはバカなりにチビ達に耐える事を教える必要が有るのだろう。際限のない我儘はその人の将来に影を落とす、それが故の家族の愛情だろう。
「って感じだったな、今日一日」
「いいなぁ、子供のお世話。彼の弟妹ならいい子だろうし予行練習でお世話させて欲しかったかも」
夕食を囲みながらエテル達に今日のチビ達との出来事を話せば、エテルが残念そうにそんな声を上げた。四葩はそんなエテルに仕方ない奴だと言わんばかりの視線を向けている、他所と自分を比べる必要は無いと言ったスタンスなのだろう。まぁ、あんなに立派な母親が居るのだから参考にする相手はそっちだろうしな。
「ご主人、子沢山で兄妹仲良く出来る家庭が良いでござるか?」
「家族は多くても全然構わないんだが、多過ぎると疎かにされる子供達が出そうで怖いな」
兄弟間の格差は前世から良く耳にした事がある。初めての子育て対象である長子に構い過ぎたり、逆に後から産まれたら下の子に構い過ぎたりで偏ってしまう事象は自分でもやってしまいそうで怖い。エテルが下の子を構うなら上の子を、またはその逆をする事を考えないと愛情不足でグレてしまう可能性だって有るだろう。
「マスター、子守もこのダリアに任せて頂ければ。何なら私も産んで弟妹達をお世話するメイド一族となる等如何でしょう、そうと決まれば私と子作りを゛ぉっ!?」
「あらごめんなさいダリアさん、頭に虫が止まっていたので追い払おうとしたら加減を誤りました」
「……以前にも同じ事が有ったような」
ダリアがとんでも発言をしている最中、隣に座っていたお義母さんが余りにも速い振り払いでダリアの後頭部を叩いた。俺で無くても見逃しちまう一撃だ、エテルも見切れなかったらしい。
「しかし、タタラ殿のお友達は才気に溢れて仕方有りませんね。昨日今日であれ程迄に刀術を身体に馴染ませられる者は滅多に居ません、陽出國にもあれ程の才は居ませんでしたよ」
「それで見誤って脳震盪とか粉砕骨折とかをされたら此方としては雛菊さんに任せて良かったのか悩むんですが?」
「うぐっ……」
聞けば雛菊さんのレベルは80とバカの三倍以上で、ステータス差を忘れる程の才能に熱が入ってしまうのだとか。
「雛菊、言い訳になりませんよ」
「奥様に言われると、その……」
本日一番わかり易くバカが成長した場面はお義母さんから稽古を付けて貰っている時だ、あの成長性は目を見張る物が有った。
「しっかりして下さいよ雛菊さん、アイツはアレで雛菊さんに憧れみたいなのを持ってるんで。もしかしたら結婚出来る相手になるかも知れませんよ?」
「けっ!? けけけけけけけけ結婚っ!?」
おう、動揺が凄いな。アイツの雛菊さんへの反応は俺が見てきた中でも無かった物で、かなり意識してるのが分かる。三女ちゃん達弟妹の反応はまだ分からないが、少なくともあのバカに限っては雛菊さんは伴侶足り得ると認識しているだろう。
探索もソロでこなす彼奴に女の影、か。複雑だが、まぁ彼奴自身が幸せになれる未来を掴み取れるなら俺は応援したい。
「お家が貧している事を恥じている様子でしたが、あの性根ならば特に問題とは思えませんね。休憩中に頂いた果物も美味でしたし、褒めこそすれ貶める要因にはなり得ませんもの」
「店売りにならない形の悪い物を持ってきただけで、味が悪い事は無いですからね。彼奴の家の果物って銘柄品ですから」
代々継いできた家なので家屋にはガタが来ているし、兄妹が多いので生活苦だが果物の売れ行きは実はかなり良いのだ彼奴の親の農園は。昔、お裾分けされた時にエテルに作ったフルーツのパイですっかり味の虜にした実績も有るしな……その後、長女ちゃんとエテルがなんかバチバチした雰囲気になったけど。
「農園が有るのに探索者をしているのですね」
「先天的なスキルが探索者向けだったんですよ、両親も神様から貰った才能なら大切にしろって彼奴の背中を押しましたし」
まぁ、年子の次男が農業系のスキルで固まってた天才型だったのも追い風っぽかったが。初等部で仲良くなってからバカが俺の家に遊びに来たのは、中堅探索者だった俺の両親から話を聞きたがったからってのが主だったし。
「思えば彼奴の家族って揃いも揃って世話焼きで世話好きだから、雛菊さんの干物って追風かもしれないな」
「タタラ殿、私は干物では無いですよ?」
「いや、干物でござる」
「干物ですね」
雛菊さんによる否定は一華とお義母さんにより即時に棄却された。その様子を見たエテルと四葩は苦笑いで、ダリアは我関せずと言った様子だ。お師様は干物と聞いてから酒が欲しそうな雰囲気が出ている……鯵の開きやホッケに日本酒は鉄板だし、お義母さんも喜びそうだが生憎と無いんだよな。氷感庫の鮪を切り出して頬肉を干物にした方が良いだろうか、前世で漁港近くの干物屋に売ってたヤツを七輪で焼いて頂いたら滅茶苦茶美味かったからお義母さん達も気に入りそうだし。何なら味醂干しを作るのも有りかも知れない。
天日干しでは時間が足り無いので本格的にフードドライヤーを作る事を検討するべきか。
「マスター、何やら新しい魔導具を考えている雰囲気ですが?」
「間違ってはいないが」
「キリキリ吐いて下さい新たな魔導具の生誕は我々機巧乙女にとって最上の娯楽であり、その接触は生命活動と変わりません。ましてそれがこの世界にとって技術特異点そのものであるかの様なマスターが作るものとなれば、機巧乙女が新たな存在に昇華する可能性もある物と思われます」
「……台所で食材を手軽に干物に出来る魔導具だが、お前に刺さるのか?」
「家事の出来ない私には縁のない魔導具でしたね」
「メイド服着といてその発言はどうよ?」
いや、コイツがメイド服なのは機械神様の影響か運命を感じていたからだが。
そんな俺とダリアの会話に食い付いて来たのはお義母さんだった。
「天日干し以外に干物を作る為の魔導具ですか、お話を伺っても?」
「え、はい。概要としては内部の温度と湿度を設定して一定に保ち、温風を当てる事で食材の水分を飛ばす魔導具で──」
フードドライヤーに付いての説明を始めれば、お義母さんだけでなくお師様まで真剣に聞き始めた。そんなに欲しいか、干物製造機。
「干物を作るとなると、ご主人の家は雛菊用のふぅどどらいやぁでござるかな」
「当人は大食いのフードファイターだけどな」
「あの、流石の私でも傷付くのですが?」
「ならダサTでノーブラノーパンで歩くのを辞めましょう?」
一華の軽口に適当に返した所に雛菊さんが声を上げるが、エテルが普段からの行動を咎める。飯に付いては言わない辺りでエテルが作った物を食べてもらう事には否定的で無い事が伺えた。
「乾燥させて味が凝縮される干物に対して、食って肉を凝縮する干物菊は違う気もするでござるが」
「駄狐、流石の私でも怒るぞ?」
「ご主人のお友達に稽古をつける話を受けるまで家で朝稽古と食っちゃ寝くらいしかしてなかった干物菊に言われてもって感じるでござる」
「くっ、自分は家事が出来るからと……っ!」
「悔しかったら皿洗いと洗濯物の選別くらいは出来るようになるでござるよ、世話焼きな相手と結婚出来ても下手したら愛想尽かされるでござるよ?」
厳しい物言いを続ける一華だが、その根底には雛菊さんの思考の改善が有るようだ。憎まれ口を叩きはするが、雛菊さんの意識改善には厳しい事や耳に痛い事を言わないと治らないと判断しているのだろう……既にお義母さんから厳しい指導を受けていて治らない辺りで大分ヤバい気もするのだが、それは俺だけだろうか?
あのバカと結婚するなら最低限は治して欲しいのだが、望み薄だろうか?
「な、なら駄狐もタタラ殿に嫁ぐ前に野菜嫌いと男性恐怖症を治すのだな!」
「うぐっ、痛いところを突くでござるな」
「ゆっくりでいいぞ、一華。頑張ってるのは分かってるから」
「ご、ご主人。余り甘やかさないでほしいでござるよ、それにこの家で食べる野菜は大丈夫になってきてるでござるから!」
「なんだこの敗北感は、贔屓ですかタタラ殿」
「雛菊、男を捕まえなさい……一華のように」
「奥様、それ拙者の役割……」
お義母さんまで
一華は過去の事から野菜嫌いと男性恐怖症の二つは仕方ない事だし、贔屓と言われたように最早身内認定してる一華には大分甘い対応をしてしまう。一華自身が克服したいと思ってるので見守っているが、無理はさせたくない。それに、本番は無かったとは言え肌を重ねている時点で俺には男性恐怖症を発症させていないしな……大分頑張ってるな一華。
「それと一華、もう貴女は虎熊家所属では無いので奥様はやめなさい」
「む、癖で呼んでしまったでござるな」
「四葩と棒姉妹になるのですからお義母さんで良いですよ」
「よくねぇでござるよ」
サラッととんでもねぇ発言しないで貰いたいです、お義母さん。
「年末年始に奥様の舞を見ていた故に敬う気持ちは残るでござるよ」
「そう言えば神事に関わるって前に四葩から聞いたな」
「母上は年越しに一昼夜……日の出を迎える迄舞い続ける事で厄を祓う役割を担っているのじゃ」
「
お師様の補足を受けて、改めてお義母さんの役割の一つが重要な事が分かった。この世界、呪いも魔法も神様も実在するので、國や其処に住まう人達の厄除けを担うなんてそれこそ國の重要人物でしか無い。四葩に『舞踊』スキルが先天的に備わっていたのならその重要性も増すだろう、次代の舞手を継承する事を期待されただろうから……四葩が俺に嫁ぐってそれかなりヤバいのでは?
「あ、タタラさん何か不安になっている様子ですが特に問題は無いので安心して下さい」
「うぇ、表情読まれた!?」
「タタラさんは素直なので顔に出やすいですからね、四葩の事を通じて陽出國を心配してそうでしたし」
そんなに分かり易いだろうか、思わず顔に手を当てるがよく分からない。
「安心せよタタラ、お主の内心など交友がある者しか読めぬ」
「うん、普段はクールって感じの無表情で格好良いから安心して?」
四葩に諭され、エテルからなんかズレた励ましを受けて思わず笑ってしまう。一華は何故か後方腕組み理解者みたいな顔をして頷いている……お前が多分、一番付き合い短いんだけどな?
「あの、ところで何故四葩が俺の所に来ても大丈夫なんですか?」
お義母さんから舞を教わってる正当な後継者だと思うのだが。
「陽出國の年末年始に四葩が来て頂ければ問題無いですし、そも後継者筆頭は四葩ですが一応他にも候補は居ますからね」
「……四葩が納得してるなら年末年始は送り出しますけど」
「出来るならタタラ達ともすごしたいのじゃが、もしこうなったらタタラとエテルも連れて里帰りとかできんかの?」
「『ワールウィンド』には年末年始を盛大にお祝いする風習は無いし、私は大丈夫だよ?」
「エテルが良いなら俺も大丈夫だな、一華とダリアは?」
「拙者は問題無いでござる」
「私は……出来れば年末年始は両親の所へ顔を出したいものですね、それ以外はこの家に居るつもりですが」
ふむ、ダリアが離れるくらいか。送り出しと迎えの時に俺もダリアの両親と顔を合わせる方が良さそうだな。
「マスター、私に同行して両親と顔合わせや挨拶を考えるのは嬉しいですが帰れる宛が消える可能性が有りますよ?」
「ナチュラルに思考を読んだなダリア、と言うかそんななのかお前の両親?」
「私と同じく人当たり良く距離感が近いですから、マスターもいつの間にかペースを握られ気付けば永住と言う可能性も有ります」
「人当たり良く……?」
「そこに疑問を持つのはどうなのですマスター」
対人関連は大きな問題は無いが自然体で変な事を言うからな、ダリアは。後、気軽に行けるように転移門を設定したいところだが。
「ダリアの故郷って転移門とか有るのか?」
「いえ、片田舎ですので有りません。地図で確認しましたが今の私で1週間程の距離に有りますので、少し長く離れる事になりますので御容赦を」
「ふむ……お義母さん、この家の転移門と同じ物ってお値段どれくらいですか?」
片道1週間は流石に遠いだろう、しかもダリアの能力でとなると相当だ。なら、ダリアの家にも家庭用の転移門を設置すれば気軽に行き来できる筈だ。
「アレ、ちょっとした機密なのでお高いですよ?」
「家族が遠く離れていて不便なら手を貸したくなるんです、俺の気質は知っていますよね?」
「はぁ……物々交換です、『錬金術師の卵』を10個で如何でしょうか?」
「分かりました。ダリア、素材確保を頼む」
「Yes my Master……まったく、お人好しが過ぎますよマスター」
文句を言いつつ、何処か嬉しそうに言うダリアの表情は珍しく笑みの形を取っていた。
そんな穏やかな夕食を終えた後、俺は鍛冶場に居た。お師様から呼び出され来てみれば、何処か神事に関わる様な服装をしたお師様が炉の前に佇んでいた。その立ち姿、雰囲気の静謐さに思わず尻込みする。
「お待たせしました、お師様。タタラ・ジュロン、参りました」
「うむ」
夕飯の洗い物を終えてから洗濯機を回して来たが、待たせてしまっただろう。思わず雰囲気に呑まれて常にはしない名乗りまでしてしまったが、お師様は一つ返事をして頷くだけだ。
お師様は此処まで集中して何を俺に見せるつもりなんだろう?
「……
静かな声で『ワールウィンド』に来てから俺に様々な技術を教えてくれたお師様はその事を語り、何かを伝えようとしてくる。感謝なのか、別の物なのか分からない。しかし、その奥には全てを焼かんばかりの熱が込められて居ることは分かる。
「
「最大の失敗作……?」
お師様は何故そんな判断を下した技術を伝えようとしているのだろう、そもお師様の失敗作とはどんな基準なんだ?
「
閉じていた目を開き、金色に輝く瞳で俺を見据えるお師様。
先の無い技術、発展性の無い物。それを俺に見せるのは何故だ?
俺が同じ道を歩まないようにする為なのか、それとも……その技術を昇華して新たな物を作って欲しいのか。
「分かりました、最後まで見届けさせて頂きますお師様」
俺の返事を聞いて一つ頷き、お師様は炉へと向き合う。
お師様が陽出國へ帰る前に、最後の伝授が始まった。
尚、タタラは大体のランキングで2位から3位に付くので総合的な人気はトップクラスになったりしてます。
↓入れようと思ってなんか必要性を見出せなかった没文。
バカの兄妹で不思議なのは長男長女は農業系スキルを持たずに産まれた事だろうか。長男のバカは探索者と言うか天賦の戦闘者としてスキルが揃っていたが、長女ちゃんは薬師としてのスキルが揃っている。まぁ、長女ちゃんはそのスキルを活かして農園で使える魔法農薬を作る事で家に貢献しているのだがこの研究開発費が結構高いと前に嘆いていたな。余った分は他所に売って資金にしているらしいが、そもそも開発って行為が金を食うのだ……此方も資金援助した方が良いかな。将来は揃って『ワールウィンド』で名を残しそうだし。
次女ちゃんはごちゃ混ぜなスキル構成で、農業と裁縫関係を持っているらしい。家で服の修繕は専ら次女ちゃんの仕事との事だが、裁縫が純粋に好きらしく楽しんでもいるらしい。将来的にその道に進むか聞いたら農業も好きとの事で基本的に農園を手伝う方針との事だった。まぁ、結婚して家を出る可能性が高いと本人も理解していた様子だった。出来れば農園を手伝う事に理解のある相手と結婚したいと俺の目を真っ直ぐに見詰めて語ってくれたのは良く覚えてる。
三女ちゃんは農業スキルと絵画関係のスキルを持っているらしい、今日絵を描こうと言っていたのもスキルを持つ故に絵を描くのが好きだからって側面がある。
末の双子は次男と同じく農業スキルで固まってるが、揃って『念話』スキルを持っている為に双子間でやり取りを常にしている……と言うか自我境界が曖昧になっている。少しだけ考え方の違いがある為にズレは有るが、両親は偶に混線して自身が曖昧になる双子を心配していた。難しい問題なので手出し出来ないが、『念話』を暫く絶たせる事は概念武装で出来そうだからいざとなれば俺も協力しようと思ってる。
面倒見の良いあのバカの家族は揃いも揃って家族好きなので、バカは探索で得た金で皆を食わせるし下の弟妹達は農園に貢献することばかり考えてる。
もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり
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タタラとエテルの立場逆転
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現パロ(エテルヒロイン)
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現パロ(四葩幼馴染)
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武器が擬人化してタタラへ物申す
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年増組と同い年
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聖人カレハ
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原作エテルとタタラ
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ガチ妹ダリア・ジュロン