※この作品はR-18です。

既知転生しましたが、憑依転生では無いようなので静かに暮らしたいと思います。   作:アルカミレス

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タチアイベント継続中
『看板娘』イベント継続中

タタラ強化最終イベント発生中


其は、空絶つ刃

 始まりは何時も通りだった。敢えて違う点を挙げるなら普段よりも静かであった事くらいだろう、それ以外は本当に何時も通りだった……外見上は。

 俺は作業の始まりと共に『概念鑑定』を発動して、僅かな差異も見逃さないと注視していたが為に違いに気付けた。炉が霊脈から汲み上げる魔力の揺らぎ、ほんの僅かなそれに対してお師様は己の魔力を完全に合わせて鋼を赤らめる。その目は1秒と経たず変わり続ける魔力の波に合わせ、鋼の歪に炎を合わせて完全な均一に熱を通した。

 炉から鋼を取り出し、鎚で叩く。鋼が薄く延ばされながら一つに混じり合っていく、その混ざり合う鋼の様が余りにも綺麗で心を奪われそうになる。しかし、何とか堪えてお師様とその魔力の動きや身体の動かし方、引いては鎚の角度に至るまで全てを解析し記憶していく。魔力の流れ、炉と鎚の波長が完全に一致していて鋼には一切の歪を生み出していない。存在として完璧な鋼、そんな物が出来上がっていく。そうして出来た鋼を、水槽に入れて割る。完璧な存在が割れると言う一種の矛盾の上で別れた鋼は、実に見事な割れ方をしていて直ぐにでも刀が作れそうな程に整った物だった。より完全な形になれるように、その姿を鋼が理解しているかの様に割れたその鋼を梃子棒に乗せて積み沸かしをする。

 純度が高く良質な鋼が内になるように、重ねられたその鋼の順には計算と言える物は無い様に見える。計算では無く、その順番はきっと鋼そのもの(・・・・・)がお師様に完璧な形を教えているのではないかと俺には思えた。きっと、今の俺には出来ない鋼の声を聞くとかそんな超常のそれにも似た感性。そんなまだ辿り着けてない境地の視点で、あの鋼は積み上げられている。

 炉から積み沸かした鋼を取り出し、鎚で打って仮付を行う。火花が散り、内に有った不純物が僅かに飛ぶ。その一打一打により、鋼の存在感が増していくかの様な錯覚を覚える。いや、はたしてコレは本当に錯覚なのだろうか?

 そうして始まる本沸かし、相槌を許されずお師様一人の手によるその技術の粋。不純物を抜く為に振るわれた鎚の先で不純物と過剰に籠もっていた魔力が蒼い火花となって散っていく。

 その光景は幻想的で、そして侵しがたい荘厳な物だった。俺ではこの光景を表す為の語彙が絶望的に乏しく、誰かに欠片ほども伝えられないであろう美しい光景だ。

 蒼い火花が散る度に、薄暗い鍛冶場を蛍が舞うかの様に微かな光が照らす。向き合うお師様と鋼が照らされる度に、その妖しさすら覚える魅力に取り憑かれてしまいそうだった。

 鋼が一つに固まり、お師様は鍛錬に入る。普段と決定的に違う点、お師様は口を開き祝詞を唄い上げる。

 世界が塗り替えられる様な感覚、星から汲み上げた魔力すら呼応し鍛冶場を満たす。魔力を通す為の魔法陣が蒼く輝き、鋼は一打一打鎚を下ろすごとに輝きを増していく。

 人では辿り着けない神域の御業、そんな事実を叩き付けて来るかの様な圧倒的な威圧感。あの鋼には概念は宿らないと俺は理解し、同時にこの先出来上がる物に概念なんていう余計な物は必要無いと理解する(・・・・・・・・・・・・・・)。延ばされ、縦と横交互に折重ねられていく鋼。その存在感は魔法金属と並べられても遜色無く、少なくとも魔鉄では敵う事は無いと確信する。

 続いて造込みを行い、心鉄が刃鉄、皮鉄、棟鉄で包まれていく。そして素延べが始まる、刀の形へと打ち延ばしていくがそれはまるで鋼が最適な形へと成長していくかの様な様子だった。

 反りも長さも鋼が最適な形を知っているかの様に、自然と形作られていく。お師様は祝詞を絶えず紡ぎ続け、まるでその誕生を祝っているかのようにも見えた。

 そうして形の成った素延べ棒に焼刃土を塗って土置きを済ませたら、乾いたのを見計らい炉へと入れる。

 炉の炎は本来の色から変わり蒼炎となっている、ともすれば空を思わせる様な美しい蒼に焼かれる素延べ棒をお師様は僅かにズラして均一に火を通していく。今迄なら見逃してすらいただろう僅かなズレすら許さないその徹底的な管理、お師様がこの技術を未来が無いと言った理由も理解した。

 この作り方は揺らぎが無い。たった一つの物を作る事しか叶わない。刀だろうと槍だろうと、それこそ鋏だろうと刃であるなら出来上がる物はみな同じ物になる。それを俺は理解した……理解してしまった。

 そうして焼けた鋼を水槽へと入れる。急速に冷やされ水蒸気が上がる中、『概念鑑定』で鋼を追い続けた。急速に冷やされ硬度を増していく鋼、そしてその内の存在感も増していくのが分かった。

 完全に冷えたのを確認し、お師様が水槽から鋼を引き抜く。焼け焦げた焼刃土を叩いて割り、その下から鋼が姿を表す。焼けた黒い表面が見えるが、それを見た瞬間思わず後退りした。何故かは分からない、概念武装である俺が作ったあの刃よりも遥かに危険な物だと本能が感じ取った。アレは本当に鋼で作られた刀なのか?

 お師様は梃子棒から外した鋼を研いで刃を作っていく、黒く焦げた表面が剥がれ、その下の鋼が顔を見せる。

 不思議な色合いだった、青い空を写したかの様な澄んだ蒼の鋼。黒い表面が削れた後、砥ぐ毎に蒼が散りその姿は澄んでいく。茎を削り出し、銘を切ってその刃は完成した。

 お師様が先の無い物だと言った刃、それは概念のこもらないありふれた刀身だ。しかし、その斬れ味は尋常ではない。一度振るえば世界を割り、ありとあらゆるモノを斬り伏せる。ただただ斬れるだけの刃、それだけしか出来ない失敗作。

 

此れが儂の最高にして最大の駄作(こがぁ儂ゃもがみんてどべんわざ)銘を(銘ん)空裂(カラサキ)』……ただ斬れ味を求めて空を斬る刃だ(きれっこと求めんでそらぁわったやいばじゃ)

「此れが、『空裂』……」

 

 その名前は知っている。刃その物では無いが、その存在だけは過去作に出ていたのだ。

 初代RPGの主人公が軍神様を始めとした神々や魔神から力を借りて、ラスボスを弱体化させる為に世界ごと外部から切り裂く際の技に名前を肖って付けた名刀の名前だ。

 概念により世界法則を味方に付けたラスボスに対して、世界ごと両断してその護りを無効化して存在そのものに傷を付けた禁じ手中の禁じ手とされた攻撃の元になった刀。ついぞシリーズ作品に物は登場しなかったのだが、極東に在る國にて鍛冶の祖神が打上げたとだけ虎熊家のヒロインが登場した作品でラスボス戦前に冗談交じりに欲しがっていた刀。そんな曰く付きの代物が目の前に存在している。

 

「お師様、この技術が袋小路であると言っていましたね」

ああ(おん)

「確かに、此れには何も足せない……ましてや人には再現出来るかも怪しい」

「……ああ(おん)

「ただの刃で空すら絶てる、今の俺には無理でしょう」

 

 自らの魔力を呼水にして世界から魔力を借受け、鋼を刃に存在昇華させる。鍛冶と言うプロセスを挟んではいるが、無機物に神の定めた法則である存在昇華を実施するのだ。魔鉄の作成も似たような事をしているのだが、此方は規模が違う。存在の歪を正す魔鉄の生成と、形を完全に変える鍛刀では難易度が桁違いだ。

 

「どうやれば再現出来るのか、プロセスは理解しました。実行する為の技術がまるで足りてない」

「……タタラ(たらぼう)?」

 

 胸の奥が熱くなっていく、俺にはお師様──天目一箇命(あまのまひとつのみこと)の様な神威は無い。世界に根付き、干渉しその力を借り受けられる下地が無い。

 

「霊脈に干渉してシンクロし、星の魔力を自身の物と活用するなんてまだ無理だ」

タタラ(たらぼう)お前(おめぇ)……」

 

 やった事は理解出来る、再現する為に必要な事象も分かる。けれど俺の実力が足りてない。世界に呼び掛けて魔力を借り受けられるだけの存在の重さが只人の俺には無い。人であるままでこの領域に足を踏み入れ乗り越える為の諸々が足りていない。

 つまり俺は……まだまだ先へ進めるのだ。お師様が先が見えない失敗作と称したこの技術を再現する道は見えるが、成す為の実力が足りてない。先ずは作れるようにならなければ、この技術を発展させる事も儘なら無い。

 タタラ・ジュロンが天目一箇命の弟子として挑む課題として、これ以上相応しい物は無い。師を越える事が一番の孝行なのだとしたら、この刃を再現し発展させる事こそが俺のクラフターとしての目標だろう。

 以前『料理長』から示された、探索者としての目標。

 今お師様から与えられた、クラフターとしての目標。

 俺の人生はなんて充実しているのだろう、目的もなく死んだように生を歩むよりずっと充実している。

 

タタラ(たらぼう)お前は本当にそういうところだぞ(おめぇほんにそんとこっど)

 

 お師様から呆れた様な声が聞こえる。うん、その反応はヒドイと思いますよお師様。

 

「高々人間に難しい技術ってだけで諦める方向には進みませんよ、此処は抗う場面……そうでしょ?」

諦めさせる方向だったんだがな(あきらめさせっどきじゃっとんな)

「お師様……俺が諦める事を諦めて下さい」

やかましいわ(じゃかしぃわ)

 

 俺の言葉を聞いてお師様は遂に堪えきれなくなったかの様に大笑いをし始めた、ひとしきり笑い思わず溢れた涙を拭いながら俺に向かって言葉を紡ぐ。

 

師としての最後の課題だ(お師っどんついのたのみじゃ)儂を越えろタタラ(儂ゃ越えっどたらぼう)

「拝命しました、お師様」

 

 即答した俺の姿に、お師様は満面の笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 エテルに謝り倒し、夜中一人で鍛冶場に入る。炉に一礼してから火を入れ、鋼を赤める。

 お師様の『空裂』は確かに今は作れないが、先程見た技術の模倣だけならある程度は叶う。

 霊脈の魔力を励起させて合一化は出来なくとも、魔力の揺らぎを見極め炎にて魔鉄と同じ様に路を魔力で満たす事は出来る。

 鋼の声を聞く様な最適解を見出す事は出来ないが、個々の鋼が持つ癖から刀や刃を最適な形に整える事は出来る。

 鍛錬時に蒼い火花を散らす事は無いが、余分な魔力を不純物と共に抜く事は出来る。

 一つ一つの課題と問題点を潰し、技術を磨く。叶えられない課題として最大の壁である星からのバックアップは解決策が見付かるまでは一先ず放置する。

 基本的な魔力の操作や鎚の振るい方等は幾らでも磨ける技術だ、お師様が魔力の揺らぎに合わせて打つ先を微妙に変えていた様にその見極めを成す為の目は普段から鍛冶に触れることで養える。感性を磨けばお師様の様に鋼の声を聞いたかの様な最適な打ち込みが出来る可能性も有る……『概念鑑定』で歪を正しながら鍛練するのも一つの手で有ると信じたいところなのだが、俺の意思や癖が入る事で剣としての存在の純度が下がってしまう可能性も有る。

 誰かの専用として作れば個として勝る物はきっと作れる、代表的な物として一華の『牡丹』の様な担い手と揃って真価を発明する武器は既に作れているのだ。

 しかし、お師様の『空裂』は誰でも使える代物だ。汎用性と言う点で、今の俺はお師様には勝てない。この先越えられるかは俺自身の努力に掛かってるだろう、それなら少しでも近付けるように鋼を打つべきである。例え小さな一歩でも、正しく積み重ねれば目標に辿り着ける筈なのだ。

 

 作刀を行う度に課題が見えてくる。お師様の全力を見た為か、自分の動きを修正する点が余りにも多い事に悩みつつも克服するたびに自身の成長を感じられて嬉しくて楽しい。

 次々に見えてくる課題を乗り越えて、その度に刀の出来が良くなっていく。初めて会った日にお師様は俺が既に単純な腕では上回ってるなんて言っていたが、そんな事は全く無かったのだ。自分が積み上げた理論と、先達が重ねた研鑽を掛け合わせてより理想的な物を構築する。

 俺自身がお師様のコピーになるのでは無く、お師様の歴史を受け取って俺として研鑽する。『空裂』の作成風景を思い起こし、自分ならどうするのかを考えてこの身の粗を探す。そうして自分自身を鍛冶師として完成させて、鍛冶に向き合う。

 次をより良き物に、そうして悩んで鍛冶に没頭し続けていた。

 

「……タタラ(たらぼう)お前またか(おまぁまたか)

 

 天井近くに設置した窓から朝日が射し込む頃、お師様が鍛冶場に入ってきてずっと刀を鍛えていた俺の姿見て溜め息を吐いた。

 俺の周りには十本近い刃、丁度今も研ぎ終わって一本が完成した所だ。

 

「おはようございます、お師様。お恥ずかしい事に、朝まで楽しくて止められませんでした」

 

 笑って言う俺を見て溜め息を吐いたお師様だが、急に険しい顔を見せてきた。視線の先に有るのは俺の愛用している鎚、作業台の上に置かれているそれだ。

 

タタラ(たらぼう)お前その鎚の状態を分かっているのか(おめぇそん鎚っどなかんわかっどな)?」

「え、鎚ですか?」

 

 クラフトで愛用している鎚、両親からウォーハンマーと共に貰った俺のクラフトの原点だ。子供の頃から使い、10年以上寄り添って来てくれた相棒である。手入れは欠かしていないし、確かに最近魔力の通りが悪い気はするが。

 

その鎚はもう使うな(そん鎚ぃもっだつかぁな)もう休ませてやれ(もうやすませたぁな)

「え、でも……」

タタラ(たらぼう)!」

 

 何故そんな強い口調でそんな酷い事を言うのだろう、此れが無いと俺はクラフトが出来ないのに。

 鎚を手に取り胸に抱く、その瞬間だ。

 手の中で何かが崩れていく感触がした。

 

「……え?」

 

 手の中の鎚を見れば、その頭が崩れていくのが見えた。

 

「あ」

 

 まるで砂が溢れ落ちるように散りになり手から鎚の欠片が流れていく。

 

「あぁ」

 

 分かっていた筈だ、初心者用の道具を何時までも使っていれば耐えきれない事なんて。

 

「あぁあぁぁぁ」

 

 それでも今はもう居ない両親から貰った思い出に縋って、道具に執着し続けた結果このザマだ。

 

「うぁあぁぁぁぁぁぁああ!?」

 

 もっと早くに休ませてやれば、失う事なんて無かったのに……なんて間抜けだタタラ・ジュロン。

 

「あぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 鎚が完全に形を失い床に散らばった時、俺は意識を失った。

 

 

 何処かも分からない場所、見覚えの無い庭園にもにた広場でテーブルを挟み誰かと向き合う。目前にはティーセットと、何処か覚えのある人影。ただ、その全容は判然としない。直接姿は見たことないのだが、この気配は何処か覚えが有るのは確かだ。

 目前の人影は俺を心配している様子なのは分かる。しかし、何故心配されているのかは分からない。目の前の紅茶に手をつける気にもならず、ただその気配と相対するだけ。何かをする気にもなれず、何かをする為の大切な物を喪ったかの様な喪失感だけが有る。

 不意に気配が動き、俺を包み込んでくる。まるで誰かに抱き締められているようで、安心感と同時に胸の奥から悲しみの感情が湧き上がってくる。

 何時か何処かで同じように温もりを与えられたのを覚えてる、その時の俺と同じように声を上げて泣いた。

 

 

「ぅ……ぁ……?」

 

 意識が浮き上がる、深く眠っていたらしく頭が全く動かない。

 どうやら自室のベッドの上らしいのだが、作業着のままで寝ってしまったらしい。後でエテルに怒られてしまいそうだ。

 鍛冶場で作業をしていた筈だが、何故俺はベッドで寝ているのだろう?

 まさか、鍛冶場で寝ていた所を誰かに見付かり運ばれたのだろうか?

 何か大切な事を忘れている気がするが、はたして何だったか。

 

「タタラ!」

 

 呆けていた俺に対して、焦ったようにエテルが呼び掛けて来た。何故そんな焦っているのだろう、何が有ったんだ?

 

「アマツさんから聞いたよ、鍛冶場で倒れたって! 前に約束したよね、無理はしないって!!」

 

 涙を溜めて俺に詰め寄るエテルを前に、鍛冶場で倒れた経緯を思い出そうとするが頭痛がして出来なかった。何故俺は倒れたのだろう、エテルとの約束を蔑ろにする程の何かが有ったのだろうか?

 

「ごめん、エテル。俺は何で倒れたんだ?」

「惚けないでよ」

「いや、本当に分からないんだ。俺は鍛冶場で何をしてたんだ?」

 

 鍛冶場に居たと言うなら、鍛冶をしていたのは分かるのだ。しかし、どうも何をやっていたのかが思い出せない。ただ、どうしようもない喪失感だけが胸に残っている。

 

「……タタラ?」

「俺は何をしてたんだ?」

「どうしたのタタラ、しっかりしてよ……」

「俺は」

「タタラ!」

 

 悲鳴の様な声を上げたエテルに抱き締められる。柔らかい感触と温もり、そして心音が伝わってくる。

 頭が動かない。考えたくない。

 何をしていたか分からない。思い出したくない。

 何故か俺を抱き締めているエテルの服が濡れていっている、視界も滲んでいて目の前がよく見えない。

 

「タタラ、泣きたいなら思い切り泣いていいんだよ。ちゃんと私が受け止めるから、今は泣いて」

「……ぅ、ひっく」

 

 何故そんな事を言うのか分からず声を出そうとしたら嗚咽が漏れた。喉は上手く動かず、次々に涙が溢れていく。

 頭の中はぐちゃぐちゃで、感情は滅茶苦茶だ。

 涙を流す中でようやく思い出した、手元で砕けていく両親の形見だった鎚の砕ける光景。手の中から溢れていく両親との思い出の欠片。

 余りにも衝撃が強過ぎて、一時的に心が思い出せないよう制限していたらしい。エテルに抱き締められて、緊張が解けたのだろうみっともなく泣き続ける。

 思考も感情もマトモでは無いまま、身体がエテルを求めてベッドへと引き摺り込む。エテルは抵抗せず、ただ受け入れてくれる。

 俺の身体が発情しているの訳では無いのだろう、エテルの身体は準備を終えておらず受け入れる際に痛みで顔を歪めていた。そんな最愛の相手の事も気に掛けず、俺は無心に腰を動かして感情を晴らすように腟内に性を放つ。エテルは痛みを堪えながら、しかし慈母のような笑みを俺に向けてくる。その優しさに甘え、何度も何度もエテルの腟内に射精した。

 

 どれだけ経ったかは分からない、何度となく射精してようやく落ちいた俺はエテルに抱き締められていた。髪を丁寧に梳られ、大丈夫だと何度も声を掛けられる。

 まるで幼子に対するようなそれだが、今の俺は振り払う気力も湧いてこない。

 

「ようやく落ち着いたね、タタラ」

「……ああ、心が軽くなった。ありがとうエテル」

 

 優しく声を掛けてきたエテルにただ感謝を伝える、取り乱してレイプ紛いに身体を求めたと言うのに責める気配がまるで無い。

 

「あの何時も使ってたハンマーって、タタラのお父さんとお母さんがくれたものなんだっけ?」

「ああ、5歳くらいの時に貰った初心者クラフター用の鎚だ」

 

 尚、対象年齢は15歳以上と当時の俺には重すぎる筈の鎚だったのだが普通に扱えていた。作りはしっかりしていたが、素材は普通の鋼で毎日手入れをしながら使ってきた。『天使長』の剣を作った実績もあった大切な相棒だったのだ。

 

「……タタラ、今更の話をするね」

「うん、なんだ?」

「タタラが昔さ、私の家にレシピとか取りに行ってくれた時有ったよね」

「懐かしいな、エテルが来て二日目くらいの時だな」

 

 流体魔石で広場とバーラル家を焼いた懐かしい思い出だ、ロニセラを作る直前でもあったな。

 

「あの時さ、ぬいぐるみを一つ持ってきてくれたでしょ?」

「ああ、なんかアレだけは持って行くべきだと思って手に取ってたな」

 

 一番古く汚れていて、何度も補修された跡の有った犬のぬいぐるみ。それだけを回収して、後で汚れを落としてからエテルに渡したのだ。

 

「アレね、私が初めて貰った誕生日プレゼントで最初のおともだちなんだ」

「……そうか」

 

 つまり、俺の壊れた鎚と同じで両親の形見でもある代物だと言うこと。

 

「今、手元に有る私が言うのも変なんだけどさ……タタラがお父さんとお母さんから遺されたのってアレだけなのかな?」

「いや、他にも有るよ」

 

 代表的なのはこの家だろう、ウォーハンマーもまだ形を残している。それに、俺が使う『地母神の祈り』と『地母神の祝福』は父さんと母さんが使っていた物を片方ずつ使っている。

 

「壊れちゃったり、無くしたりしたら凄く悲しいと思う。後悔するのだって仕方ないよ。それでもね、引き摺り続けちゃ駄目だよ」

「……うん、そうだな」

 

 難しいし、苦しいけど引き摺られ続けて前に進まないのは違うだろう。それでも今日一日くらい悲しみに浸らせて欲しい。

 

「タタラ、今日くらいは泣いてていいからさ。出来れば明日から……また、何時もみたいに元気になってね?」

「……努力してみるよ」

 

 俺の言葉に仕方ないと言った表情を浮かべたエテルは、俺の髪を一撫でした後に額へとキスを落としてきた。

 

 

 エテルは探索へと向かい、自室で一人横になっているのもアレなのでシャワーを浴びる。湯に打たれるも気は晴れず、しかし確りと身体を清めて庭先に向かう。昨日と同じようにお母さん監督の下バカと雛菊さんが向かい合っての型稽古を行っている。

 

「型を身体に馴染ませ、思考を越えた反射の域で技を使いなさい。無駄な力が入るのはまだ型と刀に身体が慣れていないからです、その思考と緊張が余計な力みとなって剣速を鈍らせています。目前の雛菊の型をなぞり自らの物としなさい」

「はいっ!」

「雛菊、勢い余って彼に木刀を叩き込んだら昼抜きです」

「は、はいぃっ!」

 

 お義母さんの言ってることってここ数日で刀術習い始めた相手に言う事じゃないのでは?

 それを言う必要がある程にバカの習得速度が早いのだろうか、確かに俺から見ても明らかに昨日よりも技が綺麗になっているが……いやどんだけ習得早いんだアイツ。『剣適性』スキルの存在が有っても普通そんなに早いか?

 

「あら、タタラさん。お加減は如何ですか?」

「おはようございますお義母さん。正直、まだ心の整理がついて無いですね」

「……そうですか」

 

 俺に気付いたお義母さんに挨拶をしつつ体調を告げれば、少し目を伏せてしまった。心配させてしまったようで申し訳ない。

 

「ああ、そうでした。タタラさん、あの剣は引き取る(押し付ける)事に了承を貰えましたので後で譲って頂けますか?」

「え、本当にいいんですか?」

「先方からは許可を頂きましたからね」

 

 何故か引き取ると言いつつ押し付けるかのように言葉が聞こえたが、あの特級危険物を管理して貰えるなら助かる。早速インベントリから取り出してお義母さんへ渡すが、受け取るお義母さんは顔を引き攣らせて刀を受け取る。うん、持つのもそんなに嫌かこれ。

 

「……相変わらず、鞘越しでも存在感が溢れ出てますね」

「そうですか? 俺からしたら寝る子は育つみたいに感じますけど」

「成る程、作り手故の感性」

 

 そう言われたら何故か否定出来ない気がするが、そんなもんだろうか。

 

「そう言えば、アマツ翁が鍛冶場で待っていますよ。お話が有るとか」

 

 刀をインベントリにしまいながら俺に向けられたその言葉に、胸が痛む。あの醜態から呆れられ、見限られたかも知れない。俺には大切な物でも、お師様から見れば高々鎚一つを失って取り乱したのだから。

 

「分かり、ました。これから行きます」

「……無理はしないで下さいね」

 

 何処か心配そうに言葉を返した俺を見たお義母さんが言ってくる。無理はしてないと思いたいが、今の俺の心と身体と思考は状態がバラバラだ。お義母さんの心配も仕方ない事かも知れない。

 鍛冶場の前で何度か深呼吸をして、部屋に入る。何時もの作務衣姿のお師様が腕を組んで部屋の中で待っていた。

 

「……遅くなりました、お師様」

「うむ」

 

 俺の言葉を聞いてお師様が閉じていた目を開く。俺の目を真っ直ぐ見て、俺の様子を伺ってくる。

 

「……まだ引き摺っているか(まぁひきずぅとっな)

「はい、すみません。アレは両親から貰った物なので、その……」

分かっている(わかっどな)あの鎚に向ける拘りから(あん鎚んこだわっでん)大切な物なのはな(形見ゃそっどちかっどな)

 

 お師様から見て、俺の道具に対する執着の度合いからそれだけ重いものだと理解されていたらしい。

 

分かっているだろう(わかっどんな)タタラ(たらぼう)形あるものは何時か壊れると(形ゃあんもんはあずりゃこわっど)

「それは……はい、しかし」

物も人も神ですら何れは朽ちる(ものんひとんかみとてくちぃどな)それが自然の摂理だ(そがぁ万物ん理ど)

 

 それは分かっている、永遠なんて無い。何れは世界だって終わってしまう物で、そうして次に世界は進むのだ。

 でも、作る者としてはそれに抗いたい。それがきっと本能なのだ。

 

「では、お師様。俺達クラフターは何の手立ても無いままで物が壊れていくのを眺めていろと言うのですか?」

そうだな(そっだな)それが世界の定めた自然の摂理だ(そが世んさだった万物ん理っど)

 

 ……なんだろう、お師様とのやり取りが何処ぞの英雄達みたいなやり取りに思える。お師様も何かに気付いた様な有様で、アレっと言った具合の表情をした。

 

「お師様、あの……」

いうなタタラ(いっでねたらぼう)よく分からない本能のような物に(よう分かんどなサガんに)操られた気がする(ふりまわんどな)

 

 なんか場の空気がおかしくなったので、仕切り直しをする。何だったんだ今の。

 

だがなタタラ(だがなたらぼう)壊れた物を何かにする事が出来る(壊っどんもんも打ち直しゃあよか)儂ら鍛冶師はそう言う専門家だ(儂ゃかぬちんそっだ職人じゃ)

 

 そう言って、お師様はインベントリから一つの何かを取り出して俺に渡して来た。

 小さなペーパーナイフだ、鋼で作られたのは分かるけど何の変哲も無いもの。けれど、俺にはそれが何で作られた物なのかが分かった。

 

砕けた鋼を集めて作り直したが(砕った鋼ぇ集めっども)完全には無理でな(ぜんはむりっどな)大分小さくなってしまってすまない(大分ちぃっくなっとんでわるぅな)

 

 俺の鎚に使われていた鋼だ、態々集めてもう鎚には出来ないからとこうして別の形で俺の所へ帰してくれたのだ。

 

「いえ、ありがとうございますお師様」

「……泣くなタタラ(泣くっどねたらぼう)師としてのお節介だ(爺のおせっかな)

 

 思わず涙を流した俺に、お師様は優しい顔で言ってくる。今だけは許して欲しい、形を変えて大切な物が返って来たのだから。

 

「いえ、こんなに嬉しい物を用意されたら流石に泣きますよ。こんな嬉しい用件だったなんて本当驚きです」

「ああっと……そのな(そんな)

 

 何だろう、お師様が物凄く言い難そうにしている。

 

実を言うとな(じつんことんど)それがおまけと言うか(そっどおまけんっどな)

「……え、此れが本題じゃない?」

 

 思わず涙が引っ込んだ、何だろうスゲェ恥ずかしい。

 

本当の用件は此方を渡す事でな(ほんにようはこっだわたぁこっだな)すまない(すまん)

 

 そう言ってもう一つインベントリから取り出して俺に差し出して来た物を受け取る。それは、鎚だった。

 俺の手に合わせた柄の太さ、頭は以前使っていた鎚に近いが俺の筋力に合わせて重さが増している。それでもあまり重く感じないのは、以前の物に限りなく近いからだろうか。

 

「お師様、此れって」

「あぁ……んんタタラ(たらぼう)この短い時間でよく儂の技術を修めた(こん短ぁときんよぉ儂んかぬちおぼった)ここに皆伝の証としてこの鎚を授ける(こっだあかしゃどこん鎚ぃわたしゃあ)

 

 そう言って恥ずかしそうに目を逸らすお師様、そう言えば弟子を取るのは初めてだと言っていたな。なら、お師様がこうして皆伝を伝える鎚を渡すのは此れが初めてなんだ。

 コレは断れないな、それこそ断る事が失礼にあたいする。

 

「ありがとうございます、お師様。この鎚に恥じぬ様、コレからも精進を続けていきます」

 

 俺の言葉に一つ頷き、笑みを浮かべるお師様。

 両親から貰った鎚は失ってしまったが、新しい形で帰ってきた。更に新たな鎚を授けられた。

 俺は幸せ者だな、コレからも胸を張ってクラフターとして生きて生きたいと思えるそんな人に出会えたのだから。




おまけ

 月も沈み闇が夜を支配する時間に、ジュロン家の庭に一人佇む者が在った。
 名を虎熊華澄、タタラの義母となる女怪である。
 タタラから贈られたミスリルの扇を片手に舞い、場に術式を描く。少々大仰に見える術式の規模では有るが、彼女が行おうとするのは海を隔てた先に有る國との通信である。霊脈の魔力を借り受けた上で行わなければ直ぐに魔力が枯渇しかねない故にこのような規模になったのだ。

「……もしもし、聞こえますかアナタ」
『……聞こえているぞ、華澄。お前、鏡に紅で【家出します探さないで下さい】って正気か?』

 数日ぶりに始まる夫婦の会話は、夫である虎熊家当主代行虎熊信綱による文句から始まった。

「何も残さないのも物悲しいので少し茶目っ気を出しただけでしょう?」
『家臣達から後妻を迎える話が出て必死に抑えた俺に言う事は無いのか?』
「あら、閨以外で俺等と珍しいですね?」
『お前……』

 タタラの前で見せていた姿とは掛け離れた気安い雰囲気の信綱の姿に、華澄は少し安堵しながら冗談を向ける。分かりにくいが此れも華澄なりの甘えである、この程度で愛想を尽かされる事は無いと信じるがゆえの軽口だ。

『はぁ、お前にゃ口では勝てないから置いとく。それで、何で今更大規模術式迄敷いて俺に連絡を入れたんだ?』

 軽口から体調は悪くないと判断し安堵しつつ、此方の時間も考えずに連絡を入れてくるという華澄の事態に危急の用件ではないかと警戒心を上げる信綱。そんな通じ合う仲でなければ気付けない変化に胸を高鳴らせつつ、華澄が知る中で一番の剣士に頼みをする。

「アナタに降伏をして頂きたい刀が有りますの」
『降伏ってお前な……と言うか、そちらの都市にそんな曰く付きの代物が有るのか』
「正しくは、そんな曰く付きの代物が出来上がった……ですわね」

 華澄の言葉を聞いて、信綱が額に手を当てて溜め息を吐いた。

『アマツの奴が新しく『空裂』でも打ったのか?』
「先程、丁度タタラさんに伝授していましたよ。タタラさん本人曰く、理屈は理解出来ても再現が現状叶わないそうですが」
『理屈は理解出来たんだな……』

 そも、天目一箇命の鍛冶技術を理解出来る存在が今迄陽出國の内に現れなかったのだからタタラ・ジュロンと言う人間の才覚が如何程の物か。ただの人間の身でこの世界に無かった物を生み出し、誰にも理解出来無かった物を理解した時点で怪物の域だ。

「そもそも、この特級危険物を鍛えたのがタタラさんですし」
『彼、俺の胃に穴を空ける事に喜びでも見出してる?』
「好感度は非常に高そうですよ、前に釣竿で使う自動巻取り機の設計しながらアナタが喜ぶか悩んでましたから」
『……ちょっと嬉しいな、それは』

 華澄から見れば『ちょっと』等では無い程に喜んでいるのが分かるのだが、男の見栄は軽く受け入れてやる度量が肝要であると心得ている。尤も、それを付ける釣竿が総真銀製であったりする事は敢えて言わない。華澄は信綱が狼狽える様を見るのが大好きなのだ……その夜に仕置とばかりに激しくされるのも込みで。

『分かった、タタラ殿の刀は此方で預かろう』
「義息子の贈り物ですから嬉しいでしょう?」
『俺はまだ認めては……いや、うん。正直、初顔合わせの時には四葩を嫁がせても良いとは思っては居たがな』

 否定意見を出そうとする信綱をジロリと華澄が見れば、本心を語る。あの時点で認めて無ければ、次の会合で失礼な態度を息子の反抗期と同列に見てないだろう。

『それで、タタラ殿の刀はどういった物なのだ?』
「『切断』の概念が極まり過ぎて触れれば何でも斬ってしまう物ですね」
『彼、加減って言葉を知ってるのか?』
「知っては居ますけど自重出来ないとやらかすみたいですよ、よく切れる構造を追求していたら出来上がったみたいですし」

 タタラ自身は気付いてないが、天目一箇命の失敗作『空裂』とタタラの鍛えた名前の無い概念武装は方向性が違うだけで殆ど同じ物である。斬れ味を追求して概念と言う余分な物すら入らない斬れ味を得た刀と、斬れ味を追求して『切断』の概念が際立った刀。師弟で作る物が似寄るのははたして運命か。

『そんな危険極まりない概念武装、どうやって保管するんだ……』
「対になる『睡眠』の概念が付与された鞘に納める限りは大丈夫ですわね、刃と鞘が揃って完成する概念武装になりましたわ」
『其処で別の概念を付与した代物を用意するのがタタラ殿がタタラ殿たる所以か、都市長殿の胃痛も仕方ないかも知れん』

 後見人として幾度も胃を破壊されたであろう女傑の姿を思い出し、信綱は同情心が湧く。尚、現状一番苦労しているのはそんなタタラから毎度危険極まりない手紙やら何やらを渡される鳥型のゴーレムである事は誰も知らない。

「それと、その剣にはまだ名前が無い様ですわ。多分、譲る相手に名前を付ける様に頼まれますので四葩達の様にいい名前を付けてあげて下さいね?」
『……タタラ殿が毎度嫌がる気持ち、少し分かった気がするな』

 溜め息交じりに言葉を吐く信綱の姿を見て、華澄は申し訳ないと思いつつもう一つの頼みを口に出す。

「それとですね」
『待て、まだ何か有るのか!?』

 妻が告げる言葉に嫌な予感がした信綱は、思わず声を上げた。そして先程の剣よりかはまだ軽い内容になるを予感しつつも、この領に対して少なくない打撃が入る事象だと言う事を直感した。

「ええ、此方でアナタに届きかねない程の剣才に出会いました。タタラさんから雛菊がその方へ刀術を教える依頼を受けましたが、どうも教導する力が足りていない模様。つきましては……剣術指南役、此方に送って下さいまし」
『お前、本気か!?』

 思わず声が大きくなる信綱は、華澄の評価が信じられ無かった。虎熊家に仕える剣術指南役、陽出國において最強の剣士を挙げる際に五番以内に名前が挙がる程の剣椀の持ち主だ。
 その指南役を求められる程の才気など、信じろと言う方が難しいのだ。

「私は本気です、タタラさんのお友達ですがアレは相当の才気です。磨かねば恐らく人類の損失になりますわ」
『お前がそれだけ認める才能なんて……四葩以来か?』
「あの子に並ぶ才能です、陽出國に居たら引き取っていましたわ」

 華澄の強気な発言に信綱は考える。妻の言う事は信じたいし、我儘だって快く受け入れたい。しかし、剣術指南を気軽に海外へ出す事は余りにも難しい。例え才気に溢れた若者が居るとて、あの剣士が態々海外に出て育てたいと思う程の存在なのか。
 虎熊家随一の戦闘力を誇るあの四葩ですら、ある意味で見限られる程の厳しい審美眼を持っていると言うのに。

『……話はしてみよう。しかし、あの剣狂いが頷くだろうか?』
「アナタが剣狂い等と言えると思っているのですか?」

 華澄の言葉に信綱は視線を逸らす。月に一度はかの剣術指南役を相手に実戦さながらの稽古をしては家臣に怒られているのだ、立場が無ければ今頃ジュロン家に自分が押し掛けて向こうの都市に有る迷宮で剣を振り回して居たと確信している。

「それと、剣狂いを最低限興味を持たせるだけの物は有ります」
『ほう、それは?』
「天目一箇命の直弟子による刀……それを複数本貰えるように私から掛け合います」
『それは……劇薬だな』

 剣術指南役を務める男は剣狂いであり、刀剣蒐集家である。異国にて生まれた陽出國きっての鍛冶師が認めた弟子の刀など、それこそ嬉々として蒐めるだろう。
 信綱は明確に脳裏にその光景が思い浮かぶ、なんならタタラを連れ帰ろうとして都市長の筆頭騎士と都市を巻き込む戦闘が発生する可能性すら浮かんだ。

『一応聞くが、タタラ殿にその刀云々について了承を貰えるのか?』
「確実に貰えるでしょう、あのお友達に対してタタラさんが持つ感情は大分重いですから」
『ふむ、親友……というやつか』

 華澄が見るタタラの様子から、もう少し違う感情も見えるがそれは何方かと言えば信仰に近い物だ。汎ゆる困難を乗り越え遥か先へ進んでいけるとそんな信頼と信仰が混ざった期待、華澄にはそう見えていた。

「それと、私は此方の方が重要で手伝って欲しい理由なのですが」
『ふむ?』
「あの雛菊と結婚出来そうな逸材です」
『分かった、直ぐにでも交渉する』

 只人で有りながら、鴉天狗最速にして帝守護を任じられた近衛の立場である雛菊。そんな彼女と結婚出来る英傑など虎熊領内でもそうは居ない。
 尤も、華澄はぼかしているがジュロン家で発覚した干物化に付き合えそうな点で彼女は彼を推薦している。多分、実態がバレたら虎熊領どころか陽出國ですら嫁の貰い手が居なくなる。
 よって、雛菊を嫁がせる最後の機会と此処を定めたのだ。

「あ、忘れていました」
『後から後から重いのが来てるのだが……何が有るんだ?』
「一華がタタラさんを主、ひいては夫と認めましたので陽出國には帰る事は有りません」
『……そうか、寄り添える相手を見付けたか』

 華澄の声を聞いた信綱は安堵の息を吐く。幼い頃に虎熊家の暗部がしでかした過ちに巻き込まれた一華が、人を信じられる事が出来たのだ。それが娘の想い人と言うのがアレだが、人格は信綱自身も認めてしまっているので今更だ。

『御庭番の者達に伝えたら嫁入り道具を集める事で大わらわだろうな』
「男を厭うに至った一華が最愛の男を見付けましたからね」

 何処か緩く笑い合う夫婦、それだけ心配していた事の証左である。

『一応聞くが、他に何かあるか?』
「此方で近付いている騒動に対して虎熊家の私兵を送りたいと」
『いや、あのな?』
「提案したらタタラさんに断られましたわ」
『よくやったタタラ殿』
「最低限娘二人を寄越せません?」
『いや、お前な……』
「最悪タタラさんが引き取ってくれそうですし」
『駄目に決まってんだろ、タタラ殿の胃を殺す気か?』

 会話は止まらず、夫婦は一つ一つのやり取りを楽しみながら短い逢瀬を重ねるのだった。

もし、番外短編が有るのなら※一応全部書くつもり

  • タタラとエテルの立場逆転
  • 現パロ(エテルヒロイン)
  • 現パロ(四葩幼馴染)
  • 武器が擬人化してタタラへ物申す
  • 年増組と同い年
  • 聖人カレハ
  • 原作エテルとタタラ
  • ガチ妹ダリア・ジュロン
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