※この作品はR-18です。

「助けてノノえもん!」ホシノ・カヨコ・黒服関係回のみまとめ   作:春画屋@二次創作R18

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3-42:夢の中で会いましょう - 3 - 『友情』

【前回のあらすじ】

 だんだんこの作品らしく、ゆるいノリになってまいりました……

 

 

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「別に興奮などしていませんとも。……いえ、せっかくです。この機会に、男同士腹を割って話そうではありませんか」

「は? ああ、重苦しいのより、そっちの方が助かるけど」

 

 

 〜中略〜

 

 

「では質問です。『エロゲー』の『主人公』には、もう一つの役割が求められます。何だと思いますか?」

「『竿役』」

「…………」

「…………」

 

 しばし、無言。

 

「即答でしたね……」

「まかせろ、こういうくだらないのは得意なんだ。この後も是非こういうノリでお願いする」

 

 いや、本当に。真面目な話ならまだしも、重い話や暗い話が続くと俺は負のスパイラルに突入し、そのまま際限なく落ち込んでいくのだ。無理。

 

 まあそれは置いといて、エロゲーの主人公なんて出てくる女の子とエッチしてなんぼの存在よ。理由とか倫理観とかどうでもいいから、しっかり出てくる女の子と片っ端からエッチしてもらわないと。しかし即答しといて何だが、こんな質問する方も大概だと思うんだが。他人のこと言えるかい。

 

「しかし『竿役』としての自覚があるのなら、何故もっと躊躇(ためら)いなく節操なく手を出さないのですか?」

「は? いや、出してるだろ。あの辺とかこの辺とか……全くもって威張って言う事じゃないが」

 

 確かに、管轄外というか、まず手を出そうと思ってもいない生徒は結構いるけども。年齢とかのイメージの問題もあるが、身体が未発達だとどうも俺はな。とりあえず胸は大きい方がいい。大きいに越したことはない。それこそ、多少盛っても構わない。いくら盛っても構わない。

 

「では、先ほどの質問をもう一度しましょう。何故そこまで十六夜(いざよい)ノノミに義理立てするのです? 聞けば、きっちり正式に交際しているわけでもない。ならば怒られるとか浮気だからなどと気を遣わず、好きなように取っ替え引っ替えすればいいのです。その上、いざそのような状況になれば腰が引け、言い訳をして逃げようとする。それなのに流されて、結局はしてしまう。最悪です」

「何でそんなこと知ってんだよ⁉︎」

「一緒に飲んでいる時にいつも自分で言っているからでしょう。竿役なら竿役らしく、見境なく生きるべきです」

「お前はその竿役ってのを、どこまで比喩(ひゆ)で言っとるんだ!」

 

 全く、何の話だ。ていうか、実在する人間をマジにゲームの竿役扱いすんな。大体エロゲーじゃないんだから、現実には女の子とエッチするっていうのはいろいろ大変でだな……いや、この世界ってマジでエロゲー化してんだっけ、俺のせいで。うわ……ちょっと引く。うわあ……。

 

「第一なぜ、結婚結婚と、一人で勝手に追い詰められているのです。本来あなたは、都合が悪くなったらこれ幸いと、違う世界に逃げるタイプでしょう」

「何つー、失礼なことを言うんだ」

「そもそも、向こうからプロポーズでもされたのですか?」

「え? いや……」

「されていないのですか? いないでしょう?」

 

 ……されてないけど、それが何だってんだ。俺とノノミの間で、今更プロポーズがどうとか関係ないだろ。まわりにだって、もう既婚者だと思われてんのに。

 

「だって、考えてみ? あれだけ平気で中出ししてて、子供が出来たら一応観念しますから、って態度で散々ヤってんだぞ。そんな関係で、向こうが結婚したがってないと思うか?」

「あなたは散々、認知はするが籍は入れたくない、養育費も払いたくないと言っていたではありませんか」

「言ったけどさあ。割と最初の頃は本気で思ってたけどさあ」

「向こうも同じように思っていたらどうします? むしろ養育費どころか、認知もしてくれなくて構わないと思っていたら?」

「あのねえ。だって俺、最初にうっかりノノミに中出ししちゃったら責任取れって言われて、それがあるからずっとこっちにいるんで……。…………」

 

 ……いや、最近そういう、責任がどうとかは言われてない気がするな。俺が逃げてたからって気もするが……。いやいや、

 

「避妊だってノノミとする時は、向こうも赤ちゃん作る気満々で、しなくていいって……。…………」

 

 ……避妊しなくていいって、そういえば最近言われてないな? むしろ、一応避妊しようとかいつも言われる……いやいやいや。

 

「あのさ、変なこと言わないでくんない? ちょっと不安になってきちゃったじゃん。大丈夫だよ、俺がその気になったらすぐ結婚してくれるって」

「そう言いますが、まず想像したことがありますか? こちらからプロポーズしたのに、そんなことを考えてもいなかったと拒絶されるのを。本気でですよ? 本気で断られるところを」

「本気で?」

 

 想像してみた。…………。結構キツいな……。ちょっとリアルなものを想像しすぎたか。

 

「そもそも、生徒だとか以前に相手は女子高生ですよ? 十六歳ですよ? 本来、まだ結婚なんて考えるような年齢ですか?」

「ぐっ、いやそれは……」

「まず本人とよく話し合ったのですか? まさかいきなりプロポーズするつもりだったのではないでしょうね? まだ子供相手に、いい大人が。相手の親にならともかくですよ?」

「…………」

 

 正論すぎるっていうか、全く笑えない。冷静に考えてみたら、この年の差で女子高生とデートしたりあれやこれやしたりって時点で笑えないのに、大マジで結婚て。そんな話が出たこともないのに。友達が自分に「俺、女子高生と結婚するわ!」とか言い出したら確かに正気を疑う。……いやいや待てよ? それとは多分おそらく違うはずだ。実際、ついさっきそんな扱いされたばっかりなような気がするけど、違う違う。

 

 大体キヴォトスって、大人がいるんだか何だかよくわからんし、学園の自治をしてる生徒たちが実質社会人みたいなもんだし、もはやOLみたいなのが多いし、部活と言いながら金稼いだりしてるし。その辺で普通に銃を撃ってるから、ゆるいというか、多少何をやっても平気なような雰囲気が……。いやそれ、ノノミの年齢と別に関係ないな。ノノミが十六歳であることには何ら変わりがないし。…………。

 

 ——あれ? もしかして俺、エッチするだけの仲の女子高生相手に、勝手にのぼせ上がって勝手に思い詰めて、いろいろすっ飛ばして結婚結婚言ってる痛い大人になってる? えっ? あれ……?

 

「い、いや! それでもノノミなら優しいし、俺と結婚してくれるって信じてる……!」

「表情に全く自信が感じられないのですが」

「やめて、泣いちゃう」

「彼女が仮に妊娠したとして、それでもあなたを特に必要としていないとしたら、あなたがこの世界にいる理由などないでしょう? むしろとっとと帰るべきです。それを踏まえて、二人でよく話し合うべきです」

「ノノミとそういう話するの怖いんだってば!」

「本音が出ましたね」

「だってそんな話したら、断られないまでも、逆にその場で結婚するの決定しちゃうじゃん! もうやめよう、この話! キヴォトスの未来とか終焉とか、そういうのについて語ろう!」

 

 そうだそうだ! さっきまでキヴォトスどころか、この世界丸ごとどうなるかわからん、みたいな壮大な話をしてたし! 『シャーレの先生』として、こいつを現実の世界に行かせるわけには……何だかその辺は行かせてもいい気がしてきたが、とにかく俺の将来より大事な話があるはずだ!

 

 そんな風に必死に自分に言い聞かせていたら、呆れ顔で、はぁっ、とため息をつかれた。黒服は黒服でも、まるっきり人間の顔でそういう表情をされると結構凹む。何なんだよ。

 

「ならば、シリアスな話題に切り替えるとしましょう。私としても、問題にしたいのはこちらの話ですし。あなた、よくあれだけ記憶をいじられておいて平気ですね。あなたが彼女と踏み込んだ話をするのを過剰に避ける理由の一つが、記憶を操作されているからでしょう。何もあなただけの問題ではない。記憶がない事自体、忘れていたとしても」

「そういやそうだった」

「何をのんきな……」

 

 確かに、今言ったような情けない理由だけじゃない。会った時からずっと、ノノミにはそれ以上踏み込んではいけないラインがあるように感じてしまっているのだ。言われてみれば、俺が記憶をなくしていることがそれに大きく関係しているのだろう。

 

「全く、どうしてそこまで能天気でいられるのです。他人の記憶をあれだけ好き勝手にいじり回しておいて平気でいる、『彼ら』の神経も疑いますが……」

「待て。『彼ら』って……さっきからお前、ゲームの知識以外にもやたらと事情に詳しいようだが、どこまで知ってるんだ」

「ほとんどのことは知っているつもりですよ。ゲーム『ブルーアーカイブ』の知識、あなたの事情、この世界とあちらの世界の関係。そしてあなたの記憶を都合よく消した者たち——『前の先生』、『シッテムの箱の中の少女』、十六夜ノノミ、この三人です。三「人」と数えるのは適切ではないかもしれませんが。彼らが、あなたの記憶を抹消することであなたの世界観を変え、この世界のストーリーをあなた好みに書き換えています」

「『シッテムの箱の中の少女』ってのは、オリジナルの『アロナ』のことだな?」

「オリジナル?」

「ああ、『手乗りアロナちゃん』っていうのが別にいて……いや、とにかくそれって、いわゆるブルアカの『アロナ』のことだろ? 『シャーレの先生』が持ってる『シッテムの箱』の中にいる、メインOSの『A.R.O.N.A』のアロナちゃん」

 

 「アレ」に関して深く言及するのはやめておこう。どんな存在かはともかく、「あなたとノノミママの娘みたいなものです! ちゃんと認知してくださいね!」とか言われてるのをうまく説明できる気がしない。毎日一緒にいるから、実際もはや娘みたいなもんで、そう間違ってもいないし。大体、そういうのが出来たから無駄に結婚を意識し始めたんだ。

 

「その通りです。『アロナ』……そう呼ばれている「何か」は『シッテムの箱』と融合し、ゲームでは完全には説明されていない部分を『拡大解釈』することによって無限の力を得、今はこの世界に遍在(へんざい)し因果を操っています*1。……が、そこは今話すことではないでしょう。問題は十六夜ノノミ、彼女です。彼女は、ただのヒロインではない。『ブルーアーカイブ』を改変し、あなたの望みを超常的な力で叶え、そしてあなたの記憶を操作している一人です」

「そりゃそうだが……」

 

 ——そういえば、特に疑問にも思わずここまで来た謎がある。ノノミはいろんな意味で俺にとっての「メインヒロイン」的な存在だ。エッチしちゃった女の子の中で本命ということももちろんあるが、初めて会った時からずっと一番近くにいて、常に俺がこの世界にいるかどうかの判断基準になってきた。ノノミがいなければ、不安定なこの世界での生活にこだわらず、きりのいいところで帰っていたかも知れない。そしてノノミは、俺が元の世界に帰る方法も知っていた。ノノミは俺にとって、『ブルーアーカイブ』そのものと言ってもいい。

 

 しかし、な(・)ぜ(・)ノ(・)ノ(・)ミ(・)な(・)ん(・)だ(・)? もちろん、全ては俺の気持ちが決めてきたことだが、少なくとも「じゃじゃ〜ん☆」なんて言って不思議なアイテムを出すような「能力」に関しては、俺の気持ちなんていうあやふやなものとは関係ない「事実」だ。ゲームのブルアカとも関係ない。ノノミはあくまでアビドス対策委員会の一員でしかなく、ただの一ヒロインのはずだ。それとも、この世界に来て真っ先に会ったことに何か意味があったのか?

 

「彼女はいつでも、あなたに自分の知る限りを話し、自然な状態に戻して本来の世界に帰らせる事が出来たはずです。しかし彼女は何も話さずに、今もあなたをこの世界に縛り付けて——」

「待て待て。そこの話は知らないのか? ノノミは一度、俺に全部話してる。帰る方法や、この世界のことと一緒に、『エデン条約編』なんかについてもだ。それで一気に記憶が戻ったせいで、俺は向こうに帰りかけて……さっき言ってたのは、その時のことだろ? あの時俺は、こっちに残るために記憶を再消去させたんだ」

「記憶を再消去? なるほど、次元の穴の閉じ方がいびつだったのはそういう……」

「その場しのぎとはいえ、もう一度記憶を消してもらったおかげで、ここに残っているだけだ。ノノミがずっと黙っていたわけじゃない。そもそもそれは、全部俺が自分で言い出して許可した上でやらせたことだぞ?」

「あなたが了承していようといまいと、彼女が隠し事をしていたのも、今もしているのも事実では? 私が関与することではないのでしょうが、相当問題があるのでは? 甘えているなどと言いながら、あなたはあなたで彼女を甘やかしすぎでしょう。大人の義務だとか何とか言いたいのでしょうが」

「他の奴ならともかく、俺はノノミを甘やかしたっていいじゃねーか!」

「限度があると言っているのです。ならば聞きますが、あなたは自分の本名を覚えていますか?」

「本……名?」

「そうです。日本国におけるあなたの名前、戸籍上の名前です」

 

 俺の名前? そんなもん、忘れてるはず……いや、覚えてないぞ? ちょっと待て、嘘だろ? そもそも自分の名前のことなんて、考えたこともなかった……? 何で今まで不思議だとも思わなかったんだ? マジか……?

 

「覚えていませんか? 覚(・)え(・)て(・)い(・)な(・)い(・)こ(・)と(・)す(・)ら(・)忘(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)? 『現実世界』であなたが何者なのかを示す、一番重要なものを? いえ、ここは『ブルーアーカイブ』の世界でしたね。確かにここでは、あなたは『先生』でいる限り本名などいりません。先生、とそう呼べばいいのですから。プレイヤーが何者なのかなど、誰も知る必要はない。とはいえ、流石にこんな話まで聞かされて、なお『彼ら』に対して何の感情も抱かないとは思えませんが」

 

 確かに、何とも思わない、とまでは言えない……。俺がもともとはこの世界の住人ではなく、『現実世界』で別の何者かであったことを、今ひとつ実感出来なかったのはそれが原因なのかも知れない。元の世界がどうとか、全てはキヴォトスに住む自分の妄想なのかも知れないと思ったこともある。先生、先生と呼ばれ、先生として扱われ、本名を呼ばれたことは一度もない。

 

「……じゃあ、あいつらが何かの目的のために、俺の名前を奪ったって言うのかよ」

「奪ったとまでは言いません。さほどメリットがあるとも思えませんし、それよりもこうしてあなたが強い拒否反応を示します。何か他のこととの「辻褄合わせ」のためにやむなく、だとかそんなところでしょう。ですが、そのせいでこの世界にいる限り、あなたは『シャーレの先生』をやめられない。私が『黒服』をやめられないのと同様にです。『彼ら』は、それを隠した上であなたに『先生』であることを強制しているのですよ?」

「待てよ。確かにショックは受けたが、名前なんてキヴォトスで暮らす限り別にいらないだろ。ずっと先生やって、先生って呼ばれてりゃいいだけの話じゃねーか」

 

 そうだ。今までも不都合はなかったから平気だった……はずだ。もともと俺は、名前がないからって気にするようなたちじゃない。問題はない。

 

「ですが、あなたにとって重大な事実を今も隠しているのは事実です。裏切られた、そう感じたからこそショックを受けたのではありませんか? なのにそれを知った今でさえ、許し、庇(かば)おうとしている。だからいいようにされるのです」

「お前なあ、事情もよく知らずにノノミのことを好き勝手言ってんじゃねーぞ。他の二人はともかく」

 

 俺だって無条件に何でもかんでも許してるわけじゃない。ノノミが隠し事をしているのに罪悪感を感じ、散々苦しんでたのが分かるから許してるんだ。俺がノノミに甘いかどうかは知らないが、そんなことも知らずに言わせてたまるか。

 

「私も、あなたが大事にしている人間を無闇に非難して、機嫌を損ねるつもりはありません。ですが、この『ブルーアーカイブ』は単に『メインストーリー』から解放された、バカバカしくも平和な世界というだけではない。事実として『エロゲー』と化した『ブルーアーカイブ』であることを受け止め、それがあなたにとってどんな世界なのか、全てを知らなければいけない。この世界は、単にあなたが好き放題できる世界というだけではないのです」

「だから俺だって、俺の知らないところまで勝手に願望を探られてるせいで、逆に好き放題は出来なくなって……まあいいけど」

 

 セリカにユウカに、便利屋、アコ、あとアカリとかチヒロとか……これだけエッチしまくってんだから、普通のブルアカプレイヤーには贅沢(ぜいたく)言ってんじゃねえ、って怒られそうだから、これ以上はやめとこう。

 

「自分だけの問題だと思っていませんか? この世界であなたと恋愛することによって、彼女自身にも負担がかかっていると思ったことは?」

「そりゃ、ノノミにだってかかってるだろうよ。キヴォトスを巻き込んで行動してるのは、俺だけじゃない。ノノミもだ。その上、そんなのを隠さなきゃいけなくって一人で抱え込んでたら当たり前……」

「それだけではありません。先程も言ったように、あなたはいろいろ言いつつも、状況次第ではヒロインに手を出してしまう」

「その話やめない? もっと真面目な話題とか深刻な話題でいいから」

 

 いや、いいけどさ。どんどん酔っ払い二人が口喧嘩してるみたいになってきたけど、平和でいいけどさ。話のレベルもどんどん下がってるけどさ。逆に、どこまで真面目にしゃべればいいんだ。

 

「私は大真面目です。「都合のいい状況」が生まれるのは、あなたが潜在的にそのような状況を望んでいるからです。それは分かりますね?」

「そうなんだろうけどさあ。そりゃ、元をたどれば俺がそういうことを考えてるのが悪いのかもしれないよ? しかし、無意識のうちにエッチしたいって望むのまで我慢できるか? 確かにエロゲーやってたって、主人公がグダグダやってたら見てて「いいからもう適当な理由で、ヤりたきゃヤっちゃえよ」とか思うだろうけどさ。え? 何? 竿役がどうとかって、そういう話してんの? お前ね、実際に俺の立場になったら、ノノミのことを一切気にせず悪さなんか出来ないよ?」

「それですよ。あなたはそうやって彼女のことを気にしながらも、結局は他の女性とセックスしたがっている」

「うるさいな」

「責めているのではありません。ですが、その為に「都合のいい状況」を作り出して、お膳立てする……彼(・)女(・)がそ(・)ち(・)ら(・)側(・)の(・)人(・)間(・)だということを分かっていますか?」

「ああ……。まあ、確かに。しかし、そういう言い方されちゃうと、何かやだな……。実際、そんなようなことあったし」

 

 こっちに来て間もない頃だった気がするが、「ヤりたいんだったら、いっそヤっちゃいなさいよ」とでも言わんばかりに、ノノミがセリカを連れてきた事があって*2、それ自体はセリカの方がしたがってて困ってたんだから別にいいんだけど。ノノミは許してくれないはずだと思ってたのに、それどころか「じゃじゃ〜ん! 『絶対☆避妊薬』〜☆」とか言って100%絶対に避妊できる薬まで出してくれて……どうでもいいけど、やっぱり俺の周りは酷いネーミングセンスであふれてるな。誰だあの名前つけたの。

 

 で、結局しちゃったわけだが、今考えるとあの状況、くだらないとかバカバカしいとかいうレベルを超えちゃってるな……。何なんだよ、「保護者同伴セックス」って。いや、実際エッチしてる最中ずっと甲斐甲斐しく手伝ってたんで、ノノミが完全にママになってる……とか思ったが。

 

 しかし、ストッパーを外された形とはいえ、ノノミが全然ヤキモチ妬(や)いてくれないのも悲しいというか。セリカやシロコに関してはノノミ自身も可愛がってるし、何をしてるか知ってれば多少甘くなるんだろうけど……。いや、それにしたって、あの頃からノノミの行動はわけが分からないのが多くて……

 

「言い方の話ではありません。彼女は事実、あなたの望みはど(・)ん(・)な(・)も(・)の(・)で(・)あ(・)れ(・)無条件に叶える側の存在です。あなたに、あなたの表層的な意識が拒んでも状況が勝手に用意されるように、彼女にも、彼女の意思とは関係なく、あなたの浮気を手伝わざるを得ない枷(かせ)があるはずです」

「枷ぇ? 何だそりゃ」

「もちろんこれはただの憶測です。しかし、ありませんでしたか? 普通に考えれば嫌がりそうな状況にも関わらず、彼女が迷っているあなたの後押しをしたような——」

「俺を後押し? 後お……………‼︎」

 

 ある。めちゃくちゃいっぱい心当たりがある。というか、セリカの件も含め、今まで訳がわかんなかったことがほとんど解決する。あれとかこれとか……。

 

「え? てことは、ノノミがさっぱり理解不能な行動をとった上、後から訳のわからん理不尽なキレ方するのとかって、全部それか?」

「あなたが思い当たるなら十中八九それでしょう。何かありましたか」

「そりゃもういろいろと……。どうなってんだよ、この世界」

 

 マジで頭痛くなってきた。そう、確かにいろいろあった。その中でも一番印象的なものを黒服に説明しながら、俺はその日のことを思い出していく。そう、あれは……

 

 ——あれは、セリカがバイト中の柴関ラーメンに、ノノミと二人で食べに行った日のことだ*3。常連として柴関ラーメンに来ていた便利屋の四人と出会い、世間話をしていたのだが、ちょうどノノミがセリカと買い物に行くことになったというので、俺は以前からカヨコが行きたがってたのを思い出して……

 

「——で、カヨコとレコード屋に行く為にノノミにお小遣いをもらい、」

「ちょっと待ってください。おこづか……。は?」

「は? って何だよ。行ったら俺もCD買うかもしんないから、ノノミからお小遣いもらったの。なんか文句あんの?」

「いえ、文句とかそういうことでは……」

 

 そこは本題じゃないっつの、全く。横で見ていたカヨコにも、ものすごい微妙な表情されたけどさ。大体、俺がノノミにもらったお小遣いで生活してるの知ってるだろ。

 

「で、ニコニコしながらノノミが、「忘れずにこれも持っていってくださいね☆」などと、さっきも言った「絶対妊娠しない薬」を渡してきて」

「……ふむ。一応聞きますが、それはあなたが欲しがったわけではないのですね?」

「そこまで俺がクズだったら逆に分かりやすいんだけどさ。持ってけったって、どうしろってことなのよ。聞いてもろくに答えてくれないし、「あんたがヤることヤるのは知ってるから、これ持ってって勝手にしろ」って嫌味混じりで渡されてんのか、と。それはそれで悲しいな、と。俺はその時、カヨコと何かしようとかしたいとか全く考えてなかったし。……いや、本当だよ?」

「ですが結局?」

「……したけどさ。だって詳しくは言わないが、逃げられる状況じゃないし、何もしなかったら向こうを傷つける……いや、建前はともかく、実際そういう話になったらカヨコは可愛かったし! 逃げたら失礼だと思ったし! ふと思い出せば、さっき渡された避妊薬がこんなところに。何だよ、俺が悪いのか⁉︎」

 

 言ってる内容があまりに情けなさすぎて、自分で凹んできた。

 

「なるほど……。おそらく、その状況から逆算して因果を操作したのでしょうね。あなたが「仕方ない」と罪悪感なくセックス出来るよう、布石として事前に避妊薬を渡す状況を作った……。あなたが不審に思ったのなら、少し無理矢理な状況だったのかも知れませんが」

「いやいやいやいや、ンなバカな」

 

 と思ったが、そういやノノミの出す道具、たまに時空を超えてた気がする。俺が会いたいと思って使ったら、偶然会えた上に、あったはずの用事がとっくに終わってたアプリとか。その他にもいろいろあったような……。マジかよ。

 

「あのさ、前からたまに思ってたんだけどさ、この世界って俺がエッチしたいとか悩むたんびに、そうやって時空を超えてまで俺にヤっちゃえヤっちゃえってけしかけてたの? バカなんじゃねえの?」

「私からすれば、それこそが深刻な問題なのですが……」

 

 やってることがバカすぎて、もはやエロゲーにしてもプレイヤーを選ぶレベルだろ。こう、せめて俺の心の中の悪魔と天使が戦ってるとか、そういうのにするとか。ただでさえ「エロゲーみたいな世界観」なんてフレーズだけでおじさん(ホシノ)とかに嫌な顔されてんのに。こいつはこいつで、そんな話を真面目に分析してるし。

 

「で? 結局その話はどうなったのです?」

「避妊の薬を渡された意図もわかんないし、使ってなくなっちゃったし、正直に報告はした方がいいのかと思って「もらった分は使っちゃったから、またちょうだい、と」

「何をしてるんですか」

 

 真顔でつっこまれた。だが、俺にどうしろと言うのだ。俺はわかんない時は何でも素直に言うことにしているんだ。確かにあれは完全な選択ミスだったなと思ったが。ていうか、「またちょうだい」はいらなかったな。まあこっちだって、意図も分からずあんなもん渡されたら多少は言いたくなったっていうか。大人気ないとは思うけど。

 

「報告? 何故? 何故そこで、バカ正直に報告を……? 一体どういう……」

「んじゃお前、その状況で正しい行動とれんのかよ。開き直るしかないじゃん。まあ、その態度が逆鱗(げきりん)に触れたのか、「死ぬほど痛いのに絶対に死ね(・)ない弾丸」とかいうのを使って、あのバカでかいガトリングガンで指一本動かなくなるまで撃ち込まれ、傷ひとつないのに激痛で三日三晩苦しんで、その間ノノミに介護され、お小水の管理までされちゃって*4。人間て、体に全く異常がなくても激痛だけで全く行動不能になるのな」

「具体的に聞いたのは初めてとはいえ、バカなエロゲーみたいな世界観だとは言っても、バカバカしいにも程があるというか……。もう少しまともな恋愛をしているかと思ったのですが」

「俺もノノミも、いたって真面目に恋愛してるっつーの」

「本当に、真剣に考えている私が馬鹿みたいな……」

 

 余計なお世話だ。俺だって何の話してんだよって自分にツッコミたいわ。思い出しながら、バカバカしいにも限度があるだろって思ったわ。そもそも、真面目に聞かなきゃいけない理由があるから、お前だって聞いてるんだろうに。そのぐらい自分で言ってて気付いたわ。

 

「やってることはバカみたいにしろ、事実として今の話の中に深刻な問題があったってことだろ? そりゃ、自分の好きな男がこの後ヤるの分かってて、デートに行くのを止めることもなく、使ってください、どうぞ、とばかりに笑顔で避妊薬を渡すなんてあるかい。よっぽど何十年も連れ添って、諦めて悟りでも開いてる奥さんならともかく。それに、今の話を聞く限りじゃノノミの意思とは無関係にだろ? 地獄かよ」

 

 どうやら自分が原因だったらしいとはいえ、言ってて酷(ひで)え話だなと思いつつ、そう考えると確かに筋が通る。その上、今まで不思議だった他のエピソードなんかも納得してしまう。本当、何ていうか……。大体、キレ方もカヨコの時が一番酷かったが、あれ以来向こうのスイッチが入っちゃって、いまだに問題が解決してないような話だからな。そりゃあ、分かってれば止めたかっただろうよ。

 

「つまり、その反動でああいう激しいお仕置きになるのか。絶対死ねない、とは言っても、死ぬほど痛い弾丸を撃ち込むぐらい、多少殺意があってもしょうがないレベルにキレてたと……」

「しょうがないで済ませるには壮絶すぎる気がするのですが……」

「ていうかさあ、普通に修羅場になればいいんじゃないの、って思うんだけど。嫌だけどさ。いちいちそんな突き抜けてバカな方向に行かなくても」

「私に言われても困ります。それに内容はともかく、こんな不自然な動きをする世界であなた達がまともな恋愛をするのが無理なのはよく分かったでしょう」

 

 そりゃそうだ。まずカヨコとエッチしたいなあ、って、ちょっと無意識に思ったところから、勝手にそこまでお膳立てされても困る。もうちょい俺に選ばせてくれ。

 

「目的が何であれ、記憶を奪ってまでこの世界を改変し、あなたにコントロールもさせない、こんなに不自由な世界にあなたはいるべきではありません。既に二回チャンスがあったというのに、何故その時に帰らなかったのです」

「そんな、説教みたいなことを言って俺を帰らせようとすんなよ。自由だの何だの言いながら、みんな俺に帰れって言うし……。しかし、二回ねえ。さっき言った記憶を再消去した時ので一回として、それ以外にもう一回あった記憶なんてないんだが?」

「あなたが『現実世界』へ戻る方法……というより「条件」は二つあるはずです。一つは、あなたが「この世界に嫌気がさしてしまう」こと。そして、あなたが「元の世界に戻りたいと願う」こと。今あなたが言ったのはおそらく前者です。合っていますか?」

「記憶が一気に戻ったせいで、『エデン条約編』とか苦手な世界観でショックを受けたのが原因だからな。多分そっちで合ってる。しかし、俺は自分から帰りたいって思ったことなんてないぞ?」

 

 いくら執着がないったって、こっちで既に安定した生活が出来ていて、よほどこっちが居心地悪くなければ、帰りたいと思うはずがない。確かに最近は、面倒臭くなってたまに元の世界にトンズラしたくなったり……いや、ないない。それもない。ないはず。なかった。あるはずがない。そんなろくでなしじゃないよ、ははは。

 

「「帰りたい」というより、「もう帰ってもいい」と思ったことはありませんか? あなたが、「こんな幕切れなら悪くない」という風に満足してしまったことは? それこそ、無意識の内に望んで」

「ああ、それならあったかもな……。「今帰れば、しんどいところはなしで、綺麗な思い出として終われる」みたいなのが……」

「ならばそれでしょう」

 

 今考えれば、ノノミもそういう心境だったのかも知れない。あの時、記憶を再消去してまでこの世界に残ったのに、俺とノノミは何もかも上手くいっているとは言えない。帰ってしまえばそこで何もかも終わりなんだから、残ったことに意味がなかったとは思わない。でも、それをどう捉(とら)えるかは本人次第だ。今は後悔しているかも知れない。俺に帰り方を教えた時、ノノミは幸せのピークだったらしい。あの時俺が大人しく帰っていれば、恋愛の楽しいところだけを体験して、つらい部分はなしで済んで、お互い幸せだったのかも知れない。少なくとも、どこかでそれを感じていたから俺を帰らせる気になったんだろう。

 

 そして、もっと早い段階で、それは俺にもあった。よく覚えてないが、多分あれだろう。

 

「寝ぼけてた時のことだから、本当にそれかは分かんないけどな。変な浮遊感を感じて、自分がどこにいるのか分からないような……。記憶を再消去した時のとは違うが、この世界からいなくなってしまうような感じだ」

「ふむ」

 

 あれはアビドスでおじさんに、この世界を改変してるのは多分俺とノノミだから、みんなのために出来るだけ上手くやってくれ、って釘を刺された後のことだ*5。反発ってほどじゃないんだけど、どうもそれが引っかかって、そんな話がなくたって俺がノノミを好きだって気持ちに変わりはないだろうって思って……。で、まあ、エッチしてる時に、やっぱり他のことなんか関係なくノノミのことが好きだって実感し……

 

「……と、そんな感じだ。とにかく、相思相愛だって実感したもんだから、幸せいっぱいって感じで……。そのまま、起きて目が覚めたらボロマンションの元の部屋で、隣にノノミは居なくって、キヴォトスで生活してたこと自体、夢だったんじゃないかって思うような、そんな思い出を持って元の日常に戻って、たまに「ノノミに会いたいなぁ……」なんてちょっと感傷に浸って……そんな終わり方も悪くないなって思ってな」

「あなたの意思はともかく、いい終わり方だったと思いますが。何故その時、帰らなかったのです?」

「何故って言われても」

 

 帰らなかったって言っても、それこそ無意識だったんだから、帰るにも残るにも、自分じゃコントロール出来なかったわけだし……うーん……

 

「……一応理由はあるけど、何でかは言わない」

「なぜです?」

「聞きたいか?」

「聞かせてください」

「聞いても怒らない?」

「怒るような話なのですか?」

 

 俺は、はぁっとため息をついた。絶対ろくな反応をしないくせに……。

 

「何かもう幸せすぎて、頭の中にもやがかかったみたいになって、何も考えられなくなって、その時にもう戻りかけてたんだと思うんだけどさ」

「おそらく、そうでしょうね」

「幸せなのはいいけど、これヤバくないか? いい加減マジで妊娠させちゃうぞ? 責任取って永住して、子供の認知まではするとして、やっぱ籍も入れなきゃダメか? 入れるにしたって養えるか? シャーレの給料って上がるのか? なんて、賢者タイムに入ってたもんだからいろいろ考え始めたら一気に目が覚めちゃって、気がついたら普通にキヴォトスの自分の部屋で目が覚めて……って、おい、何でテーブルに突っ伏してんだよ。どうせ、そういうリアクションをするだろうと思ったから言うの嫌だった……起きろよ、もう!」

「あまりに……なまじ、最初に聞いた話が綺麗にまとまっていたので、何でこうあなたは全てを台無しにするのかと……賢者タイム……?」

「俺は自分の人生を感動の物語にする気なんかないんだっつーの! 普通に幸せな人生を送りたいんであって。ノノミのことが好きだったら、元の世界でグチグチと思い出に浸るより、こっちの世界で二人でやりくりしながら慎ましく生活する方が幸せに決まってんだろ? ああ?」

「言ってることはそうかも知れませんが、あなたの行動は絶対におかしい」

「ほっとけ」

 

 だから俺は感動的なイベントって嫌なんだよ。何となく付き合って、何となくダラダラ一緒にいて、でいいじゃねーか。普通が一番。変に盛り上がるとろくなことがないんだから。記憶を再消去する直前だって、あんなことがあったから、その後妙なことに……うん? 記憶を消す直前? 記憶を消す直前……。何か、すごくいい事があったような……。どうもそこまで思い出せないが、まあ、いいか。

 

 しかしこいつも、『現実世界』に実体化するなんて無茶な目的のためには多分必要なんだろうが、よくこんなバカバカしい話に付き合ってるな。何か、二人で飲みに行ってた時と大してノリも変わらないし、騙(だま)してたとか言ってもあれは全部演技だったわけじゃないのか? ……演技? いや、そうか。本当の目的は違うとしたら、それもあり得る……

 

「それにしても、基本的には俺を喜ばせるように動いてるんだろうし、俺好みのバカバカしいエロゲー的な世界観にするには極力平和にした方が都合がいいんだろうが、ここまでする必要ってあるのか? 俺の記憶までいじらなくても、俺が強い拒否反応さえ起こさなければ、『エデン条約編』やりながらエッチしまくりの生活だって問題ないだろうに」

「わかりませんか?」

「何が?」

「この世界が何故、そこまでの平和を要求しているかです。まず、あ(・)な(・)た(・)は(・)過(・)剰(・)に(・)『(・)シ(・)ャ(・)ー(・)レ(・)の(・)先(・)生(・)』(・)で(・)あ(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)意(・)識(・)し(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)」

「は? しては……いけない?」

「し(・)な(・)く(・)て(・)良(・)い(・)、ではありません。し(・)て(・)は(・)い(・)け(・)な(・)い(・)、です。見ていて分かりました。あなたは、『先生』としての義務感を感じた時に、過剰に反応する傾向がある。『シッテムの箱』も持たないのに、身も顧(かえり)みずにです。仮に、この先私があなたの生徒……例えば小鳥遊(たかなし)ホシノ、あるいは砂狼(すなおおかみ)シロコで何かの実験を企(くわだ)てたとすれば——……雰囲気が変わりましたよ? やはり、そちらが本当の姿ですか?」

「……性分でな」

 

 俺は、知らず握りしめていた拳を緩めた。分かっていても、実際に聞くと頭に血が上ってしまう。そして、いざ行動に移せば頭は冴え渡る……。今自分で言った通り、こういう性分なのだろう。それを見越して煽(あお)ってるなら、やはり……

 

「『シャーレの先生』として、その反応は間違いではないのかも知れません。そして問題を解決するたびに、あなたは更に使命感に燃え、やり甲斐を感じ、必要以上にのめり込むでしょう。この世界のもとになった『ブルーアーカイブ』というゲームは、本来そういうものなのですから。いくらヒロインからの好感度を強調されたとしても、「エロゲー」どころか「ギャルゲー」ですらない」

「そりゃ、生徒に対してどうって問題もあるけど、先生がそんなことばっかりやって遊んでたらメインストーリーが進まないしなあ……」

「そもそも、ヒロインごとのルート分岐もない仕様なら、選べるのは一人ということになります。そして、その一人にかけられる時間も、余裕もなくなっていく。今でもかなり忙しいでしょう。ならば、彼女のために他の生徒の優先順位を下げますか?」

「そこまでするわけねえだろ。今だって『シッテムの箱』がない分は、それなりに対処して両立してる。戦闘指揮だけじゃなく、生徒に自由に会いに行く能力がない分は、ある程度割り切ってる*6。それで足りないっていうなら、仕事が増える分はノノミを説得して言い聞かせる。それぐらいはする」

「でしょうね。そして、彼女も我がままは言わないでしょう。話に聞く限りでは、我慢してしまうタイプだ。違いますか?」

「……まあ、そうだろうな」

 

 まんま仕事最優先で家庭を顧(かえり)みない旦那の発言なのは自覚している。ノノミを大切にしたいと言うなら、それがまずいことも……いや、今までは自覚していなかった。それでも、今の関係のままならノノミは何も言わず、我慢してしまうだろう。だからといって……。

 

「では、彼女にとっては、あなたの浮気のお膳立てを自(みずか)らして苦しむのと大差ない話ですね。あなたのために、自分の気持ちを犠牲にするのですから」

「あのな、それとこれとは……」

「あなたがこの世界において、しなければいけないこと、あるいは、しなければいけなかったこと、それは何だと思いますか?」

「しなければいけないこと?」

 

 今もこの世界にいる俺が、果たすべき役目……。いつでも『前の先生』に交代して、「先生」をやめて元の世界に帰れる俺が、今もこの世界にいる理由。

 

「そう。『前の先生』でも他の誰でもない、「あなた」でなければいけないことです。『シャーレの先生』は誰でも務(つと)まります。『ブルーアーカイブ』はどんなプレイヤーも受け入れるように出来ているのですから。極端な話、『シッテムの箱』があれば「中身」すらいらず、「概念上の『先生』」でも問題ないでしょう。「概念上の『連邦生徒会長』」でこれだけ上手くまわっているのですから。おそらく、要所要所でゲームで出る選択肢のような『先生』の発言があれば、最低限は足りるのでしょう*7。にも関わらず、「あなた」が『シャーレの先生』である意味は何ですか? いえ、『シャーレの先生』である前に「あなた」にしか出来ないこと、しなければならないことは何ですか?」

「…………」

「あなたが『シッテムの箱』を持たず、『メインストーリー』から解放され、平和な世界を与えられた……それが誰かの意思によるものならば、少なくともその理由の一つがそれです。それはおそらく、あなたのためではない」

「……ノノミのため、か。しがらみのない世界で、俺がノノミに真剣に向き合うことが可能なように、だろうな」

「そういうことです。無論、それだけではないでしょう。『ゲマトリア』のような「大人」の干渉を防ぐため、他の生徒のため……。ですが、あなたにとってこの世界に居る意味そのものであるように、十六夜ノノミにとって「あなた」は唯一無二の存在です。仮に元の世界に帰るとしても、その前にあなたがするべき事があるはずです」

「そうだろうね。少なくとも、『前の先生』に聞いたらそう答えるだろうよ」

 

 俺はため息をついた。自分の生き方だとか、やり方だとか、「先生」として、だとか、理由をつけては目を背(そむ)けてきた問題だ。どこかでそれに気付いていたはずなのに。俺を『前の先生』がこっちに連れてきた理由、それがわからない。俺がいつ、何故ノノミを選んだことになったのかも。しかしそれが何であろうと、これからも俺がこの世界に居るつもりなら、やらなきゃいけない課題がそれだ。もちろん、先生としての仕事はおろそかにせず、自分がやるべき範囲でちゃんとやってだ。

 

 そう考えれば、俺が『現実世界』に戻る条件の一つが、俺が「この世界が心底嫌になった時」である本当の意味がやっとわかった。キヴォトスの運命とか、そういうのが関係してるわけじゃない。仮に俺とノノミが修復不可能な関係になったとすれば、そんなものなくたってこの世界には居られなくなる。この世界にいる意味をなくし、他に見つけることも出来ず、この世界に居ることが心底嫌になるだろう。「主人公」である「先生」としての「バッドエンド」がない世界であっても、俺自身にとっての「バッドエンド」がないなんてことは保証されていない。それが「バッドエンド」なのかどうかだって、俺が決めることなんだから。「トゥルーエンド」ではないにしろ、俺はこの世界を去ることによって得られる「ハッピーエンド」のチャンスを、もう二度も逃してしまったのかも知れない。

 

「私は賛同しかねますがね。そういう趣旨であれば、記憶を奪ったままの不自然な状態のあなたでいいわけがない。必要があったとしても、もういいはずです。誤魔化して綺麗な思い出にして別れられる時期は既に過ぎたでしょう。ただ私から見ても、必要以上にあなた達二人に苦労させているように見えて、そこが引っかかりますが……」

「多分だけど、それはわかるよ。あっちはあっちで枷があるんだろうし」

「あちらにも枷が?」

 

 全く、本来の姿の『シャーレの先生』ってのも大変だ。俺と違っていろんなことが出来る分、生徒全員のことを考えなきゃならないし、それ以外のことは出来ないんだろう。そして、あっちがフォローしてくれてる分、俺はノノミのことを考える余裕が出来るし、そのことを自覚しないといけない。結局、役割分担してても大変なのは一緒ってことだ。

 

「それに、シャーレの仕事をするにもお前に指摘されなきゃ分からなかった問題がある。重大な問題だ」

「気付きましたか。私にも、実際にあなたの気性を試すまでは分かりませんでした。あなたは、そういう意味でも『シャーレの先生』であることを意識すべきではない。今のあなたが、例えば『トリニティ』に行って、生徒たちといい付き合いが出来るでしょうか?」

 

 出来ないとは言わないが、少なくとも簡単じゃあないだろう。記憶がないまま行ったとしても、多分怪しい。

 

「ヒフミあたりなら、いくらでも仲良く出来ると思うんだよ。普通にハッピーエンドが一番だよなーって。でも、ナギサとかあの辺はな……。事前に予備知識があるせいで、どうやったって構えちまう」

「そう。この場合、その先に何をするのか、どんな思惑があるのかを知っていることは、あまり問題ではないのです。それよりもあなたの場合、彼女たちが本質的にどういう人間なのかを先に知ってしまうのが致命的なのです。『メインストーリー』を読むことの弊害です」

 

 だろうな。意外とミカなんかは、暴走しなければうまくやれるかも知れない。ゲヘナはともかく、『アリウス』と『トリニティ』を取り持とうだなんて無茶な発想に思えるが、その発想は「出来るだけみんな仲良く」っていう、俺の発想に近いものがある。問題はセイア暗殺の件だ。あれさえどうにかして阻止すれば……っと、こういうのが問題なんだ。こいつが言いたいのは、多分そういうことだ。

 

「なまじ頭が切れるせいでしょう。知識があればあるだけ、あなたは冷静に、悪く言えば冷徹に計算し始める。何も知らなければ、度が過ぎるほどのお人好しなのとは対照的に。交渉などにはいいのでしょうが」

「連邦生徒会には疎(うと)まれてると思うよ。それにあそこには俺を嫌がりそうな、本格的にたちが悪そうなのもいるしな。生徒相手だから、今は腹の探り合いで済ませてるが……」

 

 流石に、『最終編』まで限定とはいえ細かいストーリーまで思い出せないが、連邦生徒会内に変な動きがあったような気がする。だとすれば、ああいうのに関しては先に手を打っておいてもいいだろう。「大人」絡みの可能性もあるし、そういう意味では向いている性格だ。

 

 リオや……カンナなんかもそうだったか? どうもゲマトリアや「大人」が絡まない生徒間のことであっても、「先生」が事前に何とかしないとまずそうな話がいくつかある。『メインストーリー』が回避されてるなんて言っても、根本的に「先生」が導き、何とかしてやらなきゃいけない問題だ。

 

 そもそも『エデン条約編』だって、ミカやティーパーティーの連中のことを考えれば、ゲームの方も手放しのハッピーエンドとは言えないだろう。この世界が『最終編』で終わってるんだとしたら、その先に配信されるストーリーでなきゃ解決されないはずの問題も多分ある。理屈を言えば、黒服の時にそうなっていたように、そいつが何かやらかす前に阻止すりゃいいんだろうが、小手先で何かして解決できるような問題は少ない。そういうので解決していい問題でもない。

 

「おそらく『ティーパーティー』の三人と接する時には、あなたも彼女たちやトリニティの生徒たちを駒のように扱ってしまうでしょう。そもそも『メインストーリー』を読むというのは、そういうことなのですから」

「ちょうど今、そういうことを考えてたばっかりだよ。確かに、あんなもん読まない方がいいわ。『エデン条約編』って単語を覚えてるだけでも、ナギサやミカには警戒しちまいそうだ。しかも、それ自体は間違いじゃないしな。生徒が生徒に危害を加えようとする……そんなのを実感したら、冷静でいる自信もない。余計なことを知らない方がいいって意味では、あいつらが『メインストーリー』の記憶を消したのも、そう間違ってはいなかったんじゃないかって俺は思うよ。ノノミにも、あれの内容はあんまり教えてないみたいだし」

 

 軽く自己嫌悪して、ふぅ、と息を吐いた。

 

「それより俺は、何も考えずにトリニティに遊びに行って、アホなことやってナギサに呆れられたり、ミカの胸とか触ってキレさせたり、もしかしたら懐かれたり……そんな感じの方がいいってことだよな? あの辺は本当に難しいから、そんなに上手くいくかは分からないが、俺もそっちの方がいいと思う」

「どちらかにちょっかいを出している内に、三角関係、四角関係になるのが理想的でしょうね。あの二人とそ(・)う(・)い(・)う(・)関係になるのは、一般的なプレイヤーであれば本望でしょうし」

「勘弁してくれよ……。ユウカやカヨコならともかく、ミカなんかがノノミとガチで喧嘩したら、それこそキヴォトスが滅ぶぞ? ただでさえトリニティは、脳内ピンク色のハナコとか、別の意味でヤバそうなのもいっぱいいんのに」

「ですがあなたは今、楽しそうにしゃべっていますよ? 私も、実にあなたの望む世界観らしくていいと思います」

「アリスとかゲーム開発部の連中を連れてって、喧嘩した時はゲームで勝負させるか。ゲヘナの連中とも、何かバカバカしい勝負させたら結果的に仲良くなるかもしれん」

「あなたがよく言っている、『脱衣麻雀』のゲームでも持っていったらどうです? 手を出しさえしなければ、浮気の心配もなく彼女たちの裸が見れますよ?」

「うーん、正直ミカの裸はちょっと見たい。胸デカそうだし。いや、見たら揉みたくなるし、揉んだら多分終わりだわ。まあ、それはそれで……。俺が『シャーレの先生』を続ければ、そういうのが実現してもおかしくないのかね?」

「可能だと思いますよ。そういう意味では、私はあなたを『シッテムの箱』を持たない『シャーレの先生』としては一流だと考えています。PTAは眉をひそめるのでしょうが」

 

 と、そこまで(嬉しそうに)しゃべっていた黒服が、思い出したように言った。もともとなんだが、表情があるとさらに分かりやすいな。

 

「とはいえ、私の目的のためにはあなたには何としても『現実世界』へ帰ってもらわないといけないのですがね。クックックッ——」

「あのさ、もういいから。そういうの」

「クックッ……はい?」

「はい? じゃねーよ」

 

 ボロの出し方が酷いな、こいつ。見た目はもろに人間で、あの『黒服』だってのが逆に分かりにくいのに、しゃべってると誰だか分かるもんだな。

 

「もう十分わかったよ。帰らないにしても、逃げ道は作らずちゃんとやる。ダメなら大人しく帰る。やっぱ、記憶の再消去なんてその場しのぎは長く続かねーなあ。お前が、悪役の演技なんて全く向いてないのも分かったし」

「いや、別に演技では……これはですね」

「わかったわかった。じゃあ演技じゃなかったとして、やっぱ俺の友達もそっちが素だってよくわかった。慣れないことをしてまで俺の心配するような、いい奴だってのも」

「これは、あなたとしゃべっているとどうしても気が抜けてしまうというか……いえ、確かに向いていませんね。降参です」

 

 黒服の体から力が抜けたのが分かった。『ゲマトリアの黒服』じゃなくなってからは、やっぱり大人しい性格になっていたようだ。かなり無理してたんだろう。

 

「白状します。『現実世界』に行こうと思いついたのは、つい最近のことです。それ以前はむしろ、あなたの世界観を守るため、『彼ら』に対して協力的な立場でした。もちろん、より上位の世界に興味があったのは事実ですが」

「そりゃそうだろう。俺も、お前の正体を知らなくても、それぐらいは何となく気付いてたし」

「プレイヤーと……あなたと同じ視点から、かつての自分を見たからでしょうか。あるいは、名前も何もかも、全ての記憶を持ったあなたを一度も見たことがなかったからでしょうか。いつからか、『彼ら』のやり方に反感を持つようになりました。目的は同じだとしても、です。申し訳ありませんが、私は今後もあなたの記憶を消したり、そういったやり方をするつもりは毛頭(もうとう)ありませんよ」

「俺もそっちが正論だと思うよ。もともとノノミにはかなり抵抗があったみたいだし、『前の先生』もオリジナルのアロナも、おじさんとかカヨコとか事情を知ってる連中も、みんな納得するだろう。理由なんて、自分の友達が記憶を好き勝手にいじられててムカついたからで十分だよ」

 

 おじさんはよくわからんが、カヨコなんかは俺の記憶がいじられてこんな事になってるって聞いたら、こいつみたいに怒るかも知れない。あの二人に限って言えば、もともと状況を打開するためには自分が動こうとするタイプだろうし。ある意味では俺を犠牲にするようなやり方を、今から自分達がしようとは思わないだろう。自分から記憶を再消去させた範囲で、俺の意思を尊重してってことなら話は別だったろうけど。

 

「もともとその場しのぎだったからなあ。どっちにしたって、そろそろ限界だっただろう。この分なら記憶が戻っても何とかなりそうだし、結果オーライだ。んで、これ、本当に夢なの? 起きたら記憶はどうなんの?」

「夢の内容を、起きた後でも普通なら覚えている程度、といったところです。『メインストーリー』の細かいところまでは覚えていないでしょう。一応、それは想定しての行動です」

「なら起きた後の俺か、もしくは『前の先生』が戻ってきた時のための引き継ぎの準備でもするか。俺、何にも知らないでやらされたから大変だったんだよな。全く、『前の先生』はいつも通りとしても、記憶をなくす前の俺まで無責任な……。『トリニティ』と……vol.4の『カルバノグの兎編』はRABBIT小隊だったか? あの辺は、無理に思い出そうとしなくても、上手くいくように対処を考えておくとして……早めに子ウサギ公園に散歩しに行く習慣でもつけるか? ノノミを誘ってもいいし。誰か既にシャーレに居たら楽なんだけどな。アリスの件は、ヒマリがもうやってくれてるみたいだったから任せよう」

「明星(あけぼし)ヒマリですか? それはまた……」

 

 こないだ聞いた、ヒマリのところに来たっていう「ラノベ数冊分のストーリーが添付された謎のラブレター*8」ってのは、まず間違いなく『前の先生』が出したものだ。どうも時系列が不自然なようなことを言ってたし、因果の操作とかその類をした可能性が高い。文面も、ヒマリしかいないんだとか、ヒマリ大好きとか、延々と気持ち悪いことを書いてたみたいだし、多分あいつだ。大体、軽々しく大好きとか言うからユウカみたいに勘違いしちゃうんじゃないか? ゲームの方の「先生」も結構酷いけど。まあ、ヒマリに限っては勘違いも何もないだろう。書いたの、俺じゃないし。……何もないよな?

 

 添付されてた「ストーリー」ってのはおそらく、ヒマリやアリスが関係する部分だけの可能性が高いが、『メインストーリー』の内容だろう。リオはアリスに対して具体的な行動は起こしていないようだし、『ケイ』を既に保護しているらしいから、ヒマリが先手を打ってくれてるんだろうし、あとはそれを信じた方がいい。必要があれば俺に言ってくれるだろうし。

 

 しかし、黒服やヒマリならギリギリありだとしても、『メインストーリー』の内容を少しでも教えてしまうのはかなり危険な気がする。大体、「どんな事が起きようと絶対に最後はハッピーエンドになる」なんて知ったら、当事者は何もする気がなくなるだろう、そりゃ。おじさんだって言ってもんな。確か、「助けに来てくれるのはありがたいけど、最終的にうまくいくって分かってて来られても、感動するかって言われると……」みたいなことを言っていたはずだ。流石にそれは冷めすぎじゃないか? って思ったけど、他の生徒だって、大なり小なりそういうのはあるだろう。ヒフミぐらいポジティブだったら、「みんなで頑張れば最後はハッピーエンドが約束されてるなんて、最高じゃないですか!」ぐらい言うかもしれないし、俺はそっちの方だけど。

 

 まあその話はいいとして、『前の先生』としても、こういうのに多くの生徒を巻き込むのは本意じゃないはずだ。てことは、こういう状況にならなくても、元々かなり切羽詰まった状況になってる可能性が高い。自分で言うのも何だが、「一度ノノミの言いたいことを全部聞いてやるけど、その後記憶を消しちゃうから問題ない!」なんて相当無茶なやり方だ。そんな方法は想定してなかったとしてもおかしくない。最悪、目を覚ました後に何もかも思い出したとしても悲惨なことが起きないよう、準備はしておかないと。

 

「今さら何を……と思われるでしょうが、あなたの記憶を勝手に戻してしまった責任は取るつもりです。あなたが本来であれば得られるはずだった暇と余裕は、私が作り出します。少なくとも、『ゲマトリア』や『デカグラマトン』、生徒以外が絡む問題はこちらで処理しておきます」

「なら逆に助かる。ついでに、出来る範囲で『メインストーリー』に出てくるカイザーの動きを掴んでおいてくれるか? 怪しいところの目星はある程度ついてるし、少し分かったことを流してくれれば、それで足りる」

「カイザーグループ相手なら、あなたも遠慮をする必要はありませんからね。彼らは「生徒」ですらない」

「PMCが出てきたらどうにもなんないけどな……。今の内に、スキチケ*9と『即席☆ヘイロー』*10だけは多めに貰っておくか」

 

 ……そういやあ、今になって思い出した。記憶を再消去する直前、アロナ(自称俺の娘の方)が、黒服が独自に動いて協力してくれてる、みたいな事を言っていた。てことは、やっぱり多少やり方が違ったにしても、もともと味方してくれてたわけだ。そりゃそうだ。今までの事を考えりゃ、それが自然なんだから。全く、そんな事も分からない程熱くなってたとは……。

 

 …………。

 

 ……ふぅ。結局はどれも重い話題が全て終わって、少し気が抜けてしまった。夢から覚めるまでの間、黒服がいる内に考えておきたいことはまだまだあるが、少し休もう。

 

「せっかくだから、夢が覚めるまでの間、もうちょっと酒でも飲もうぜ。頭を休めないと。夢の中って言っても、頼んだら酒とか出てくるんだよな? 酔うのも酔うみたいだし」

「あなたが想像できる範疇(はんちゅう)なら何でも出てくるでしょう。では私も少し……」

「高いの頼もうぜ。日本酒とか出てくるかな。高いやつなんて滅多に飲めないし……」

 

 そうして、それから一時間ほどだろうか。俺と黒服——と呼ぶのは失礼だろうか——は、とりとめもない話をしながら、少しだけいつものように酒を飲んだ。キヴォトスでこうやって酒を飲める相手は、やはりこいつしかいない。どんなに大人びて見えたって、生徒はみんな未成年だ。そしてそれは、どんな相手も俺と対等ではなく、気を遣ってやらなければいけない相手だということだ。それが出来るほどに大人かどうかは、別の話なんだが。みんな、そんなに立派じゃない。

 

「いろいろ特殊な状況だったとはいえ、一度お前とマジでケンカして良かったのかもな。言わなきゃいけないことは、いくらでもあった」

 

 俺はポツリと言った。

 

「私は本気で殴られると思いました。いえ、あなたがそういうやり方を好まないだけであって、殴られるのが当然だったと思います。生徒の皆さんやノノミさん……数々の暴言、心より謝罪致します。もちろん、謝って済むような問題でないのは承知しています」

「んー……まあ、ね……。その辺はお互い様って気もするけど……俺、キレまくってたし……」

 

 こいつと飲む酒の味は、もう何もなかった頃とは違う。暴力じゃなくったって、お互い言葉でぶん殴っておいて全く何もなかったことにするなんて、そんな虫のいい話には出来ない。ここがどんなに俺にとって都合のいい世界だとしても、安易な『ご都合主義』でどうにかしちゃいけないことは山ほどある。だからまあ、どうにかしていいことぐらいは許してもらいたい……確かにそう思う。

 

「本人たちがいないんだから、気にすんなよ。俺はお前と一緒でずるい大人の側だからね、聞かなかったことにすんの得意なの。次言ったらぶん殴るけど」

「心しておきます」

 

 神妙にする黒服を見ながら、俺はあの時暴力に訴えなくて本当に良かったと思った。多分、次に誰かに騙されたり嫌な目にあったとしても、この事を思い出せば、自分で自分が嫌になるような手段だけは取らないで済むだろう。最初から騙されないのが一番なんだろうが、それは今さら変えられない。

 

「結婚……ね。あんまりノノミとうまくいってなかったんだよなあ。いきなり変に浮かれ始めたと思ったら、最近は達観したみたいになっててさ。なのに俺も、そこであえて踏み込まなかったし。だから、言えば結婚してくれない訳がないと思ってたし、結婚しちゃえば強制的に繋がりが出来て、逃げたくても逃げられなくなると思ってたんだよな、多分。そんな勝手なこと考えて、その上そんな理由で結婚したいとか思って……なあ?」

「あなたも、それだけ必死だったということでしょう。私にはそういう話は分かりませんが……」

「そもそも一度、帰れって言われてるんだよなあ……。黒服くん、別れ話みたいなことになったらマジで向こうに帰るから、その前に一緒に飲んで慰めて」

「……そうですね」

 

 ぼうっとしながら俺は、ふと「この世界の本当の主人公は俺じゃないんじゃないのか?」、そんな事を考えた。そう、事実として、『シャーレの先生』がこの世界の『主人公』なのは確かだとしても……。

 

 

 やらなければいけない事を山ほど抱えたまま、次回へと続く……。

 

 →次回シーズン3最終回の4:

 「夢の中で会いましょう-4-『愛情』」

 

*1:
『シッテムの箱の中の少女』についての詳細は、第36回:対策委員会x風紀委員会トップ会談? を参照のこと。

*2:
第4回:「じゃじゃ〜ん♪ これがあればセリカちゃんとエッチしても安心ですよ〜☆」での出来事。

*3:
第14・15回:便利屋、カヨコの特別な相手は??? での出来事。柴関ラーメンの店舗は、以前にノノミが、「じゃじゃ〜ん! 『アットイウマニ・ナオッチャウ!』、これで解決です☆」と一瞬で建て直した。

*4:
第16回:カヨコのドキドキ初体験での出来事。

*5:
第7回:それはこの物語の『ネタバレ』あるいは『始まり』、第8回:それはこの物語の『本質』あるいは『存在意義』でのこと。

*6:
この世界においては、『スケジュール』、『カフェ』、『ガチャ』などのゲームの機能が反映された『シッテムの箱』を使うことによって、『シャーレの先生』は空間・時間的な制限なしに生徒に会いに行くことができる。ただし主人公は、「先生」ではあるがこの世界に来た時から『シッテムの箱』を持たず、持っていないこと自体気付いていなかった。『シッテムの箱』を持たず、戦闘指揮を取らないことで『メインストーリー』の展開から解放されるからである。また、生徒に無制限に会えるという機能は、生徒全員に平等に接しなければいけない「先生」のための機能であって、それを持たないことでノノミ一人のために行動できる、という理由もある。詳細は、シーズン2終了時の解禁済み設定まとめ(予定)を参照のこと。

*7:
「先生」の発言で展開が変わるような局面で、「先生が言った」ことにすればストーリーの誘導には足りるということ。それ以外は、「先生がその場に一緒にいる」という記述をすれば足りる。こういったことが可能なのは、「役割」としての『シャーレの先生』が、このブルーアーカイブ世界の一部だからである。

*8:
第39回:エンディングのその先には(後)参照。

*9:
『何でもスキップチケット』のこと。ゲームで言うところの戦闘パートを文字通りスキップして、な(・)か(・)っ(・)た(・)事(・)に(・)し(・)て(・)しまう。ノノミいわく、「これがあれば大抵の危ないことはスキップ出来ちゃうんですよ〜。先生のためにカードを限度額まで使って買っておきました!」とのこと。

*10:
折りたたみ式で、パキンと折ると光り出し、頭に装着出来る。見た目は安っぽいが、三十分だけどんな攻撃にも耐えられる。しかも絶対に破壊されない。バカみたいな見た目とネーミングだが、実態はとんでもない代物であることを鬼方カヨコが看破した。詳しくは、第15回:便利屋カヨコの「特別な相手は???」を参照のこと。

話の分割の仕方について、別の形に分けるなら以下のどれがいいですか?

  • キャラごと(ホシノ、黒服、カヨコの3つ)
  • 内容ごと(ホシノ・黒服、カヨコの2つ)
  • 本編外にまとめたもの全部で1つ(今のまま
  • その他(お気に入り登録や検索をしやすく等
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