「助けてノノえもん!」ホシノ・カヨコ・黒服関係回のみまとめ 作:春画屋@二次創作R18
【前編のあらすじ】
ノノミと二人で柴関ラーメンに寄ったある日のこと、そこには便利屋68がいた。久しぶりに会った四人と立ち話をしていると、ノノミは急にセリカと行く用事が出来てしまったという。暇な時間が出来てしまった俺は、それなら、とカヨコと二人でレコード屋に行くことにしたのであった。
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そんなわけで、俺は便利屋の他の三人やノノミと別れ、カヨコと二人でレコード屋へ向かって歩いていたのだが……
「あの……先生。アビドスのあの子、先生の「彼女」とかじゃないの? いや、「彼女」っていうか、生徒だけど……」
歩きながら、カヨコが遠慮がちに聞いてきた。俺と二人きりになったのがよほど気になるらしい。別に、ノノミ以外の生徒と二人きりになるのなんていつものことなんだし、それこそムツキとかハルカとだって二人になることはある。そんなに気を使う必要はないのに。まあ、それはそれとして、
「彼女? ……彼女?」
「彼女」と言われてもピンとこないな。付き合ってるって意識はあんまりないし、社会人に女子高生の彼女ねえ……。しかも一応、生徒だし。確かに「好きだ」と言われるのもしょっちゅうセックスするのも、最近はほぼ同棲みたいになってるのも当たり前のような気がしているが、
「別に「彼女」ではないかな……。まあ、特別な関係ではあるけど」
「特別……それって、どんな関係?」
どんな、と言われても、じゃあ何だろう。
「どんなって……えーと……保護者かな」
「「保護者」? ああ、先生のことを守ってくれるって意味で……。そういえば先生のヘイローってあの子が作ってるんだっけ」
「ヘイロー? ああ、こいつなら今も持ってる。って言っても、これ三十分しかもたないから、危ない時だけつけろって言われてるけど」
バッグから、いつも持ち歩いている折りたたみ式のヘイローを取り出す。これはノノミからもらった『即席☆ヘイロー』といって、パキンと折って広げると蛍光色に光り出し、頭に装着出来るものだ。100円ショップで売ってそうな安っぽい見た目だが、これをつければキヴォトスの人間ではない俺でも、三十分だけどんな攻撃にも耐えられる。それはそうと、例の『絶対☆避妊薬』とかいう薬とこれを作った奴一緒だろ。すぐわかっちゃうから、「☆」を入れておけばいいや的な雑なネーミングをやめろ。
「まあ、あの子がいないと危なくてキヴォトスじゃ暮らせないっていうのはわかるけど」
「いや、「保護者」ってのは、そういうのでは……。確かにそれはそうなんだけど」
別にそういう打算があるのを否定するわけでもないし、何かそれがまずいわけでもないんだが、そういう話をしてるんじゃなくて……。でも、じゃあ何だろう。言われてみれば、改めて「ノノミってお前の何なの?」みたいなことを言われると、あまり適当な言葉が思いつかない。特別……特別な相手なのは確かなんだが……特別……
「そうだな……。ご飯を作ってくれたり掃除をしてくれたり、ひざ枕をしてくれたり耳かきをしてくれたり、お小遣いをくれたり……つまり……つまり『ママ』?」
「『ママ』……?」
「そう、『ママ』」
そうか、それだ。ママだ。ノノミだし。ノノミママだ、それそれ。って、んなわけあるかい。おっぱいとかはともかく、ママに挿入したり中出ししたりする赤ちゃんなんておらんわ。
くだらない一人ツッコミをしてしまった。ていうか、「正妻」とかでいいじゃん。別に結婚してるわけじゃないけど。流石に『ママ』はあんまりだから訂正しておこう。
「まあ、『ママ』ってのは冗談……」
「……そっか。「彼女」っていうより、母性っていうか、自分の全部を受け止めてくれる存在、みたいな感じなのかな。うん、いいと思う。そういう関係」
「……まあ、そんな感じ」
ものすごくいい感じの解釈をされてしまった。本気で言ってるんだか、ドン引きしつつもやんわりとした綺麗な表現に言い換えてくれたのか、微笑むカヨコの表情からは今ひとつわからないのだが、今さら訂正しづらくなってしまった。まあいいか。
レコード屋に入り、目の前には新しいのから古いのまで、雑多なジャンルのCDが並んでいる。前いた世界でも音楽はサブスクの聞き放題やらダウンロード販売で買っていたので、ジャケットを実際に見るのは久しぶりだ。
「へえ、先生のおすすめはこんな感じなんだ……」
「あと、これと……こっちも割と好きかな。しかし大昔のから最近のまで何でもあるな、キヴォトスのレコード屋」
自分の持っているのも持っていないのも、とりあえず好きな曲が収録されてるCDを片っぱしからカヨコに渡す。どれも知らないのばかりらしく、カヨコはしげしげと見つめている。知らないったって、こうしてCDが売ってるんだから、この辺の有名どころはどれも知ってそうなもんだけど。
「結構、歌詞が過激なのが多いね……」
「そうだなあ。『ブラック・デス・ポイズン』の歌詞も、血まみれになったり狂ったり、そうとう過激だけど」
カヨコが貸してくれた(というか、全部聞けと言って渡された)『ブラック・デス・ポイズン』のアルバムもどれも良かった。やたらと殺意にあふれた歌詞ばっかりなのは何でだ、と思ったが、ヘビメタというのはそういうものなんだろう。多分。よく知らないけど。
「それの歌詞なんかも、盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎の窓ガラスを割りまくったりとかな。やったら楽しそうだよな」
「……先生、まさかこういう歌詞に影響されて、実際にやったこととかないよね?」
「……ないよ? ないない」
カヨコに思いっきりにらまれた。怖い。
「ならいいけど。歌詞と現実は違うんだから、それをごっちゃにしたらアーティストにも迷惑だし、失礼。音楽っていう表現方法を選ぶのだってちゃんと意味があるし、それをわかってなければ、ファンを名乗る資格はないと思う」
別に俺、ファンクラブとか入ってるわけじゃないし……と思ったが、カヨコがあまりに怖いので何も言わないことにした。そもそも向こうが正論すぎる。
「でもこういうの聞いて、救われる気持ちってあるよな。怒りとか衝動とか。別に実際にそういうことをしたいわけじゃないんだけど、でもこういう気持ちってあるだろ……! って悶々としてる時に、そう思うこと自体は人間としておかしいことじゃない、そういう気持ちを持て余してる奴は他にもいるんだ、なんてな」
「……先生にも、そういう気持ちとか、あったの?」
「あったあった。俺なんか教師は大体嫌いだったから、殴りてえなーって日常的に思ってたし。よっぽどまずいことやってんならともかく、あいつら制服がどうとか細かい校則違反でねちねち言いやがって。そういや、夜のゲヘナの校舎に行って窓ガラス割りまくったら楽しそうだな」
「一緒にやるかどうかはともかく、それは私も思うかもしれないから止めにくいな」
また怒られるかもしれないと思ったが、意外にもカヨコはクスクス笑っていた。
「でも、窓ガラスとか割ったら割ったで、アルみたいに「わ、割れちゃったー!」とか言って白目むく方だぞ、俺。基本的には口ばっかで、何もしない方だから。とりあえずダッシュで逃げるけど」
「ふふ、風紀委員会に追い回されちゃうね。そしたら、私が一緒に逃げてあげる。便利屋だってきっと……。アルは助けなきゃ! って張り切るだろうし、ムツキは面白がって
「そうだな、俺も今から高校生に戻れるんなら、混ざって遊びたいな。便利屋は楽しそうだし」
「あ、高校生に戻れるなら、か……。そうだね。もし……もし先生が今からでも便利屋に入って、危なっかしいけど、賑やかで楽しい……そんな毎日を送れたとしても。それでもきっと、先生は私たちとは違うんだよね。「大人」だから……」
「は? いや、それは別に……」
まあ、シャーレの先生がそこまで好き放題やっちゃまずいだろうが、んなもん、便利屋に入るのにゲヘナ生じゃなきゃダメ、とか、年齢制限があるわけじゃあるまいに。と思ったが、
「ああ、大人がどうとかは知らないけど、どのみち今はダメだな。ノノミに怒られる」
「え? 何でそこで……。そりゃ、あの子が守ってくれなきゃ先生は危険だろうけど、もしもの話だし」
「もし、でもダメだって。頼まれたからとかじゃなく、自分が本当に死んで欲しくないと思うから、ノノミは俺のこと守ってくれるんだから。それを裏切ってまで危険なことは出来ないだろ」
「……そういう気持ちは、私とか生徒みんなも、じゃないの?」
「あー、そりゃそうだ。そりゃそうなんだが……。まあ、その中でも真っ先に思い浮かぶような存在ってことだ、ノノミは。さっき『ママ』とか言ったのは冗談として」
我ながらうまいことを言った。しかも、さっきの『ママ』発言を自然に訂正できた。素晴らしい。
「真っ先に……そっか、そうだね」
カヨコは少し寂しそうな顔をした。そしてそこには、何か別の感情が含まれていたような——いや、やめておこう。きっと気のせいだ。
「そういえば『前の先生』には、そういう人いなかった気がする。だから無茶なことも出来たのかな。みんな心配してたのに……」
「いやあ、世界のためとか人類のためなら、大事な人がいようが周りが止めようが、自分を犠牲にしちゃう主人公って結構いるよ? ああいうの、俺は無責任だと思っちゃうけど。ヒロインがかわいそうじゃん? ブルアカだって一人に集中してないだけで、先生が死んじゃったら全ヒロインが悲しむわけだし」
「うん。私もそう思って——「全ヒロイン」? 「一人に集中してない」? 「特別な」……もしかして、そういうこと……?」
会話の途中で、突然カヨコが
「それが『前の先生』と『今の先生』の本質的な違いだとしたら……? だから……?」
「何の話? 違いって、俺が前の先生ほど真面目に仕事してないって自覚はあるけど……」
「以前話した仮説、覚えてる? 『シャーレの先生』という、キヴォトスでもただ一人、明確に異質な存在、それは特定の個人を指すんじゃなく、『主人公』という『役割』を意味するに過ぎない……。仮説と言っても、この一点に関してはかなり当たっていると思う。だとすれば先生は間違いなく『シャーレの先生』であり、『主人公』でもあり、かつその事実は『前の先生』もそうであったことと矛盾しない。どちらかが本物の『先生』だとかの差はないし、先生が『前の先生』の代わりなんてこともない」
「そうだと助かるんだけどね。一応引け目みたいなものもあったし。確かに、ネトゲの1キャラを共有した別人みたいなもんだと思ったら、今までで一番しっくりくる説明だと思った。しかし、現実にそんな奴が存在するかもしれないと思ったら、何か気持ち悪くなったんだけど」
この世界の中に限ってふわっと考える分には良かったんだが、そいつが現実世界にいる別のブルアカプレイヤーで、オフ会みたいなノリで顔を合わせるかもしれない相手かと思ったら、急に怖くなった。あくまで入れ替わった存在として、実際に顔を合わせない前提ならいいんだけど。
「確かにそれはあり得るとは思うけど、そっちはあくまで仮説の延長にすぎない。それより今問題にしたいのは、『前の先生』、それから『今の先生』、その両者が、このキヴォトスにおいてどんな行動をしてきたのか、いや、どんな行動を
「は? 時間と……何?」
また難しい話が始まった……。
「これはたとえとして適当かわからないけど……例えば先生は今日、ムツキと過ごすことも、アルと過ごすことも、ハルカと過ごすことも出来た。でも現実に今一緒にいるのは私。そのことで、他の三人と過ごす時間と機会を失った。そして、今から他の生徒の誰かに会うとすれば、アビドスならすぐに行けるけど、ゲヘナやトリニティ、ミレニアムに行くには距離があって無理がある。仮に行ったとしても、目的の生徒に会えるかどうかもわからない」
「あっ、そう! 生徒みんなに優しいとかはともかく、会おうったって生徒全員にまんべんなくなんて会えないって! あっち行ったらこっち行ったり、俺だって体がいくつもあるわけじゃないんだから……」
多くの生徒と会うのは、『先生』としてもシャーレの仕事としても義務みたいなもんだろうと思って、一応スケジュールを組んでみたことがあった。組んでみてから、こんな殺人的スケジュール無理だわ、と即投げ出したんだった。付随して発生する申請書やら何やらまで考慮したら、マジで過労で死ぬ。ただでさえ連邦生徒会がいきなり何の話を持ってくるかわからないのに。
「そう、まさにそういう話。先生が来る前のこの世界は、そこが『主人公』である『前の先生』に都合よく出来ていた可能性が高い。考えてみて。もし『ブルーアーカイブ』が、私が想像しているようなテキストにかなり依存するシステムのゲームだとしたら……主人公である『先生』がその行動をとったのが何月何日のいつなのかを、明示してプレイヤーにその情報を与える必要はない。「ある日〜」とか、「〜していたら」とか書けば済むはず。同じように、生徒と過ごした一日を「その日は○○と、一日中一緒にいた」なんて風に書けば、一日分の行動がたった一行で済む」
「あー……、そういうことか。そういや俺、もうちょい時間の概念があるギャルゲーとかだと、全員と仲良くするために一生懸命スケジュール組んだりしてたわ。人数多いと、デートの日がバッティングすることもあるし……」
確かによくよく考えてみると、ノノミ以外の女の子と積極的にヤろうとかしてたら、ここでも好感度上げるために、ぎっちりスケジュール組んでるわ。
「下手したら、同じ一日だとプレイヤーに特定されている日に、複数のストーリーをまたいで同時に存在することすらあったかもしれない。実際、あれはそういうことだったんじゃないか、って体験は私にもいくつもある。おかしいと思って本人に聞いてみても、不自然な理由なのに何故かその時はすぐ納得しちゃったんだけど……」
「「いろんなところを飛び回ってるから忙しい」とか、「忙しくて書類仕事が出来ない」とか、そんなようなこと言ってなかったか?」
「うん、いつもそんなことを言っていた。今考えれば、そんな「先生は忙しいから」なんて言葉だけで片付けるには、度が過ぎていたと思う。でもそんな説明で納得してしまう程に、それが当たり前の話だとこの世界に「思い込まされていた」のだとしたら……。それはすなわち、この世界が『ブルーアーカイブ』というゲームの中では当たり前の法則に従って動いていた可能性が極めて高いということ。それほどに、『前の先生』の行動には無理がある」
「まあブルアカをプレイしてて、おいおい、ってなっても、「先生だから」で済ませてたのは結構あった気はするが……でもそれ、言い切れるか? 他の何もかもと一緒で、根拠はないだろ?」
「いや、これに関しては他の話とはわけが違う。先生には多分想像がついていないと思うけど、この世界に感覚を
「は? 俺のと……同じくらい?」
いきなり俺の話されても、何のことかわからないんだけど……。まあ、俺の周りがおかしな話ばっかりなのはわかるが、もはやどれのことやら。それより、気になることがある。
「先に一つ聞いておきたいんだけど、なら、俺が同じようにいろんな生徒と自由に会うのが出来ない理由は? それとも本当は出来るのに、やり方がわからないとか?」
「それこそが……『今の先生』の本質が、アビドスのあの子——『
「……なるほど。「選んだ」、ね」
一番最初まで振り返ってみりゃ、確かにそうかもしれない。ノノミを選んだ、か。
「そういや俺、ノノミに避妊せずに中出ししたら責任とってくれって言われて、それでこの世界にずっといるんだった」
「……え? そうなの?」
「いや、元の世界に帰る方法もわかんないし、帰りたくもなかったからってのもあるけど。え? ノノミを選んだってそういう話じゃないの?」
「ああ……じゃあ、そうなんじゃない? それはいいけど……」
いきなりカヨコが露骨に不機嫌になった。こわ。そんなに怒らんでも。言い方はともかく、選んだ相手がノノミって特定される理由って、この世界に来て一番最初のそれだと思うんだけど。
「続けていい? さっき言ったように、先生の周りでは「都合のいいこと」が起こり過ぎている。柴関ラーメンを一瞬で建て直し、これから起きるはずだった戦闘を「丸ごとなかったことにして」回避する。それに、「ヘイローを作り出せる」なんて、流石におかしいと思わなかった? 今までの私も含めて、それがおかしいと気付かない人間が大多数なんだと思うけど」
「これか? だってノノミが持ってきたものなんだし、そういうものなんだろうと……。ああ、
「「破壊できないヘイロー」? そんなの、もはやヘイローですら……」
折りたたまれたままのヘイロー……みたいに見えるものを、まじまじと見る。ぶっちゃけ、ヘイローが丈夫だから何なのかがよくわからないが、それこそノノミが言ってるんだし、絶対に破壊はされないんだろう。よく知らないけど。
「確かにノノミに頼めば何でもありだな。他にも、「どんなところにも侵入できる合鍵」に、いくら中出ししても絶対に妊娠しな……えーっと、とにかくヘイローの他にもいっぱいある」
だんだん用途が酷くなってくるので、言わないことにした。「絶対妊娠しない避妊薬」なんてのはまだしも、「スキャンダルをもみ消す道具」とかもう、闇しか感じない。しかも、もうその道具のお世話になってるし。
しかし、カヨコは全部ノノミが関係してると思っているらしいが、こうなってくるとそんなレベルじゃなく、この世界が丸ごと『主人公』である俺の都合に合わせて動いている可能性は高いな。俺の気付かないところでも。
アビドスで
そもそもアビドスの一件に関しては、他に思い当たることもある。ということは……やはりあの話は無闇に他人に言わないことにしておこう。俺が怒られたり呆れられたりするのはともかく、貴重なこっちでの友人を巻き込むのは心苦しい。そういえば最近会ってないし、あいつの好きそうなエロゲーをお土産に買って、その内遊びに行くか。
「で、俺の都合に合わせて世界が動いた結果……何かまずいことが起きるのか? って、流石に予想はつくけど」
「……先生の「選択」によって、「選ばれなかった」生徒のストーリーが「なかったこと」にされ、先生との関係性が失われている可能性がある。もちろん、よほど大きなこと以外はあって当たり前だけど」
「だろうな」
たまに、やけに原作と違って距離を感じる——というより、縮まっているはずの距離が縮まっていないと感じるキャラがいる。つまり、その子に関しては関連する大きなストーリーをすっ飛ばした可能性が高いってことだ。俺の命に関わるようなことは片っ端からスキップしてるんだから、どっかにそのつけはたまってるんだと思っていたが。
「……ごめん。責めるような言い方は避けようと思ったんだけど……。でも、私だって先生に——」
「悪い。偉そうなこと言ったけど、結局俺の感情とか好き嫌いとか、そういうのが周りに影響を与えちゃうのはあるんだろうな。無意識でも。それに、俺に関わる人間の人生とか——」
「——ううん、失われるものがあれば、生まれるものもある。先生がゲヘナ
「おう」
はにかむカヨコは、恥ずかしいのを誤魔化すようにしてレジに走っていってしまった。
……あれ? これ、デートだったの?
「ねえ、先生。今の先生みたいに、たった一人だけの特別な相手がいるってどんな気持ち?」
「ん? さっきのノノミの話?」
「ん……いや、世界がどうとかは抜きにして、男女の……。そういう意味で、特別な存在」
来客用のマグカップに入った、ホットコーヒーを受け取る。カヨコを便利屋の事務所まで送ったところ、上がっていってくれと言われたのだ。カヨコは確か十八だし、そういう話も興味あるか。
「要するに、彼女とか恋人とかってことだよな? まず……したいだけセックスが出来る。おっぱいも揉み放題」
「……いや、そういう話じゃなくて……」
「うん、実際はそんな都合のいい女いないし、行きたくなったからって唐突にラブホに行こうとすると嫌がられるし……」
「そうじゃなくて、気持ちの話。一緒にいると安らぐ、とか、あったかい、とか。まあ、それがわからないから聞いてるんだけど……」
「気持ち……ねえ」
そんなもん、同じ相手でも時と場合によるとしか言えないんだが……。
「そうだな。まず、常時怯えるようになる」
「……は?」
「何かやらかしたら怒られそうで怖いし、愛想尽かされたらどうしようとか、いなくなったらどうしようとか、とにかく怖い」
「いや、あの……」
「あと、自由がなくなる。好き勝手は出来なくなるし、デートで時間は拘束されるし、普段の時間も金も、そういうののために無駄遣い出来なくなるし。友達付き合いも悪くなる」
「あの……それって、肉体関係以外デメリットしかないように聞こえるんだけど」
「いや、そんなことはないけど」
確かに、ノノミの場合なんかだとその辺ゆるっゆるなのに、これじゃただの恐妻家の愚痴だな。そもそもノノミとだって別に結婚してないし。よし、たまには年長者としていいこと言うか。
「まあ真面目な話、いつも怖いってのは本当だよ。彼女作って嬉しいとか楽しいとか、そういうのって最初のうちだけだし、そこまででとどめるのも男女の付き合いとして正解だとは思うけど」
「そう……なの?」
「二人でいるのが当たり前になってからがヤバいな。別れた瞬間、二人の時は当たり前になってたことが当たり前じゃなくなる。一人は寂しい、なんて当たり前のことだけど、寂しくないのにはすぐ慣れちゃって、幸せを感じにくくなるから。それでいて、一人に戻っちゃうとごっそり何かなくしちゃったみたいになって、抜け殻みたいになんの。自由になって、気楽になって、って思える奴もいるんだろうけど、それは相手が存在として軽かったんだろうって俺なんかは思っちゃうし」
「うん……」
「あとは……そうだな。さっきそんな話したけど、時間を相手のために使うっていうのは、相手も同じだけ、貴重な時間をくれてるってことだから。それが無駄な時間じゃなかったって思ってもらえるよう、自分でも思えるよう、お互いに一緒にいる時間を大事にする……とか。それは、一人じゃ出来ないことだからな。共同作業みたいなもんで。そういう気持ちになれた時に、一人じゃないって実感出来る……おい、カヨコ。何ニヤニヤしてんだ」
「……いや、別に? へえ、そうなんだ?」
ぐっ……! 調子に乗って、真面目なことしゃべりすぎた……! カヨコは両肘をついて、こっちを見ながら面白そうに笑っている。俺と二人の時ですらほとんど見せないような、いたずらっぽい笑い方しやがって……!
「そういうのが先生の本音? また、いくらでも甘えられる、とか、そういうこと言うかと思った。先生って、そうやって結構真面目なこと考えてるのに、わざと茶化すような言い方するところあるよね」
「一般論だ、一般論! 真面目に考えてなくても、これぐらい誰でも言えるから!」
「そんなにムキにならなくていいのに。ちゃんと私が聞きたかったことに、答えてくれたんだから。……うん。一人は自由だけど、寂しい。私もその寂しさを、便利屋にいる内に忘れていたけど。先生が今話してくれたこととは少し違うかもしれないけど、便利屋は私にとって特別だと思う。でも、そんなの照れくさくって、つい「世話が焼けるから面倒見てるだけ」なんて言っちゃうよね」
「だろ? まあ、確かにカヨコにとっては便利屋は特別だろうな。ただ、男女の話だと、どうしたって気持ちだけの繋がりってことにはならないと思うけど……」
「そんなに身体の関係って大事? 相手を大切に思うだけじゃダメなの?」
「ダメっていうか……まあ、それは実際経験してみりゃわかるって」
「経験、か……」
あんまり納得いっていないのだろう。カヨコは黙ってしまった。しかし、どうもプラトニックというか、肉体関係のないカップルってのが成立するとは俺には思えないのだ。別にそこで線引きするしない、って話ではないのだが。
「……じゃあ、私と先生がセックスしたら、関係も少し変わるのかな」
「……は? 何でいきなりそんな話に」
「経験してみればわかる、って言ったじゃん」
「今、俺で経験しろなんて言ってないんだけど……。ていうか、そんな手近なところで手を打とう、みたいなのはさ」
「手近だから、とかじゃない。先生は私の特別……だと思うから。今日一日、一緒にいて楽しかった。先生とじゃなきゃしない話をして、先生からじゃなきゃ聞けない話を聞いて……。本当はもっと一緒にいたい」
「おー……ありがとう」
そりゃまあ、そうだろうな。俺もカヨコと、こんなに趣味が一致したり、気が合うとは思ってなかった。好意は寄せられてるような気がしていた。こんな話になるほどとは思っていなかったけど。
「悪ガキみたいで、でも情けなくて、一緒にいたら楽しくて、それから……。うん、あんまり『先生』って感じがしなくて、もっと近くに行きたくなる。行ける気がする」
何か、近所の仲のいいお兄ちゃんみたいな扱いをされてる気がする。そのせいか、カヨコにしては珍しくかなり甘えた雰囲気のような……。困った。何か距離近いし。上目遣いになってるし。
「一回だけでもいいから、初めてするなら特別な相手としたい。相手にとっては、私が特別じゃなくても。ダメなの?」
「ダメとかそういう話じゃなくてだな……」
「柴関ラーメンのバイトのあの子とは、最初の一回だけって言ってしたくせに」
⁉︎ バイトのあの子……って、セリカか⁉︎
「な、な、なんでそんな話知って……」
「柴関ラーメンとかで、アルとよくそういう話してるから……。勝手に聞くのは良くないと思ってるけど、聞こえちゃうし」
「セリカの奴、そんな話してんの⁉︎」
「うん。すごく嬉しそうに話してる。彼女とかじゃなくてもあの子とはして、私にしてくれないのはずるいと思う」
「そ、そう言われると、まあそうか……?」
少し整理してみよう。
アビドスで散々、公然とノノミとエッチしてた→流れ的にセリカともヤッちゃった→それ聞いてカヨコがその気になっちゃった→もしかしたらカヨコともヤッちゃう?→それ聞いて、アルもその気になりそう
なるほど、俺のこのブルアカ世界の流れ、よく出来てる! 世界の流れ云々っていうより、ただの因果応報じゃねーかって気もするが。しかし、そんないきなり言われても心の準備とかその他の準備とか……
はたと思い出した。ポケットに入れてあったものを取り出してじっと見つめる。
「あるなあ……都合よくここに避妊薬」
今からいきなりヤッても、全く妊娠のおそれがない薬がそこにある。何故か。本当、何でだよ。いや、いくらノノミでも、この状況を見越してヤッちゃえ、って意味で渡したわけじゃないだろ、こんなもの。もうノノミなら何でもありって気もするけど。
どっちにしても、この状況でやだって言って逃げるのはあまりにカヨコがかわいそうすぎる。ここまで言わせた責任は取るか……。
「じゃあ、初めてが俺なんかで良ければ」
そう言われて嬉しそうなカヨコに頭を下げながら、俺は観念することにした。
というわけで、次回カヨコの初体験に続く——
話の分割の仕方について、別の形に分けるなら以下のどれがいいですか?
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キャラごと(ホシノ、黒服、カヨコの3つ)
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内容ごと(ホシノ・黒服、カヨコの2つ)
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本編外にまとめたもの全部で1つ(今のまま
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その他(お気に入り登録や検索をしやすく等