「――う~ん、流石に金が心許なくなったな」
学校を終えて家に戻ると、狩人は自分の銀行の通帳の預金残高を確認して頭を悩ませる。最近は春香達とラブホに頻繁に通っていたせいでお金が殆ど使いつくしてしまった。人目を気にせずにセックスできる場所は限られており、学校の場合は日中は生徒や教師が存在し、夜間に忍び込むにしても見回りの先生などにも気を付けなければならない。
お互いの家は家族がいない時にしか利用できず、特に天使と一緒に住んでいる春香達の家は利用できない。もしも天使に二人とセックスしている所を見られたら真っ先にアクマが浄化されてしまう。
(この間の無人島のように人気のない場所まで移動するのも大変だしな……)
魔法少女エンジェルならば瞬間移動の魔法で何処でも好きな場所に移動できるが、生憎と春香と秋香も瞬間移動は扱えない。分裂体を学校に行かせて家でセックスに励む手段もあるが、その場合だと行為後の掃除を念入りにしておかないと家族に気付かれる恐れがある。
(金に困っているのか?だったら他の人間から奪えばいいだろう。それぐらいなら力を貸してやらんでもないぞ)
(馬鹿言うなよ。そんなことさせたらお前の正体をばらすからな)
春香と秋香を犯す事には吹っ切れた狩人だが、いくらなんでも罪のない人間から金を奪うほど落ちぶれてはいない。アクマが力を貸そうとしても狩人は一般人か金を巻き上げる行為だけは拒否した。
アクマにとっては金がないという理由で二人と交わる機会が減るのは大問題であり、あの二人を仲間に引き入れるには狩人が犯して堕落させる以外に方法はない。そのために金を稼ぐ手段を考えていると、ある方法を思いつく。
(お前、確か俺の身体能力を引き上げる事ができると言ってたよな?)
(それがどうした?せいぜい数倍程度の力しか引き出せないぞ)
(それだけあれば十分だよ)
アクマの能力で肉体を強化したとしても魔法少女に変身した春香達には遠く及ばない。だが、普通の人間相手ならば十分であり、狩人は早速だが準備を行う――
――狩人が思いついた方法とは「パチンコ」だった。なるべく大人らしい格好に変装し、出玉が高いパチンコに挑む。そしてアクマの能力で動体視力を強化して目押しでスロットを揃える作業だった。ギャンブルで金稼ぎするのは倫理観に欠如するが、短期間で稼ぐとなるとこの方法しかない。
バイトをすれば金を稼げる代わりに二人との時間が減ってしまう。背に腹は代えられず、アクマの能力を利用して金稼ぎを行う。
(思ったよりも稼げたな。これだけあればしばらくはなんとかなりそうだ)
(変わった奴だな。手段を選ばなければいくらでも大金を稼げるだろうに)
パチンコで勝った金額は五万円ほどであり、これだけのあれば十分だと判断して狩人は立ち去ろうとした。だが、アクマは何かに気付いたように注意する。
(止まれ、近くに俺以外のアクマが潜んでいる)
(何だって!?)
(落ち着け、俺達が襲われる事はない)
アクマの言葉に狩人は焦ったが、仲間が襲うはずがないと狩人に憑依したアクマは安心させようとした。しかし、狩人の身体に影が差す。
(何だ?急に暗く……違う!?)
(おい、避けろ!!)
嫌な予感がして狩人は前方に飛びつくと、いくつもの鉄骨が落ちて来た。工事中の建物の傍に居た事が災いし、危うく押し潰されるところだった。
「あ、危なかった。ギャンブルで悪い稼ぎ方をした罰かな?」
(呑気な事を言っている場合か!!上を見ろ!!)
頭の中に響くアクマの声に狩人は不思議に思って顔を見上げると、そこには異様に筋肉が膨らんだ大男の姿があった。どうやら鉄骨を落としたのはこの男の仕業らしく、十メートル以上の高さから飛び降りてきた。
「があああっ!!」
「うわっ!?」
恐らくはアクマが憑依されていると思われる大男の出現に狩人は驚き、先ほどの話では仲間であるアクマが襲われる心配はないと聞いていたが、明らかに大男は狩人に殺意を漲らせていた。
(おい!!どういうことだよ!?アクマは味方じゃなかったのか!?)
(ちっ、どうやら俺はもう同胞とはみなされていないようだな)
(どういう意味だよ!?)
狩人に憑依しているアクマは同族であるはずのアクマから狙われているとしり、理由に心当たりがあるとすればライフジュエルだった。この世界に来たばかりの天使を襲撃した際、狩人に憑依したアクマは徒党を組んで彼女に挑んだ。結果的には仲間は全員やられたがライフジュエルの一つを奪取できた。
奪ったライフジュエルはアクマが取り込んでおり、そのせいで魔法少女と同質の気配を醸し出していた。だから同族であるはずのアクマにとっては敵対する魔法少女と同じ力を感じるアクマを敵だと認識されたのかもしれない。
(さっさと逃げろ!!殺されるぞ!!)
(逃げる!?あいつに勝てたりしないの!?)
(無駄だ!!奴は完全に意識が憑依したアクマに乗っ取られている!!あの異形の身体はアクマに精神を完全に乗っ取られた証拠だ!!)
同じアクマに憑依された人間同士だといっても、狩人の場合は意識を完全に取り込まれたわけではない。だが、大男の場合は完全に肉体が乗っ取られており、既に人間としての意識は失われた。アクマに完全に支配された人間は異形の姿となり、狩人の前に現れた大男は彼を殺すために襲い掛かる。
「うがぁあああっ!!」
「くそっ……これでも喰らえっ!!」
「ぎゃあっ!?」
護身用のために持ち歩いていた防犯スプレーを大男に放つと、異形の肉体になり果てようと人間だった頃の弱点は変わらず、顔面に浴びた大男は悲鳴を上げて倒れ込む。
(そんな物まで持ち歩いていたのか!?)
(アクマが現れるようになってから世間の防犯意識が高くなってるんだよ!!)
アクマが日本中に出現するようになってから、自分の身を守れるように防犯グッズを携帯する人間が増え始め、狩人の場合は身近にアクマがいるせいで尚更注意していた。
(春香達に助けを求めよう!!仲間が倒される事になるけど文句ないな!?)
(構わん!!こちらの命を狙うのなら敵だ!!)
同族だとしても敵と味方を区別できないようなアクマなどどうでよもく、狩人は逃げながらもスマホで春香と連絡を取ろうとした。だが、大男は狩人を追って来た。
「うがぁっ!!」
「うげっ!?もう来た!?」
防犯スプレー程度では大して足止めにもならず、大男は狩人を捕まえようと四つん這いで追いかけて来る。まるで獣のような動きに狩人は不気味に思うが、彼は工事現場に逃げ込む。
現在は休憩の時間なのか従業員の姿は見当たらず、工事中の建物の中に入り込む。大男は狩人の気配を辿って追いかけて来るが、この場所ならば多少の時間は稼げる。
『もしもし?狩人君、こんな時間にどうしたの?』
「春香!!アクマに追われてるんだ!!だから助けて欲しい!!」
『アクマ!?それ本当に!?』
『狩人先輩!!何処に居るんですか!?』
春香の傍には秋香と天使もいたらしく、彼の言葉に危険を察した。まさか天使までいるとは思わなかったが、狩人は都合がいいと思った。
(エンジェルの瞬間移動の魔法は頭の中に思い浮かべた場所に移動するはず……それなら!!)
アクマが追いつく前に狩人はビデオ電話に切り替えて自分の居場所を示す。