――昼休みを迎えると、狩人は生徒会室の近くのトイレに入り、盗聴器から生徒会室の音声を聞き取る。昼休みを迎えた途端に春香は教室を早々に立ち去り、妹の秋香と天使を連れて生徒会室に閉じこもったのは確認済みだった。
『ど、どうしよう!!私達の事、学校中の男子が知ってるって!?』
『お姉様、大丈夫だってば。別に私達の正体が知られたわけじゃないでしょ?』
『は、はわわっ!?こんな画像が取られていたなんて……』
「……大騒ぎだな」
予想通りに春香は二人に相談しており、秋香は冷静だが天使は魔法少女になった自分のあられない姿を取られていた事にショックを受けていた。
『狩人君の話だと学校中で噂になっているみたいだよ!!もしも私達の正体が知られたら……』
『だから大丈夫だってば!!変身する場面を見られなければ気付かれないって!!』
『あ、あの……でも、やっぱり学校であれをするのはまずいよ』
「あれ?」
天使の言葉に狩人は引っかかりを覚え、昨日の夕方の三人を思い出す。やはり魔法少女に変身するには条件があり、そして鍵を握っているのは天使だという事を確信する。
(やっぱり昨日の行為は変身に必要な事だったのか。ちょっと安心した。いや、安心していいのか?)
理由はどうであれ、三人は姉妹(姉弟?)としての一線を越える行為をしており、どうして変身するためにあのような行為をしなければならないのか気になった。
『天使君、マナは溜まった?』
『う、うん。一回分は変身ぐらいできると思う』
『そっか。なら、今の内に済ませておこうか♪』
『い、今から!?もしも誰かに見つかったら……』
『大丈夫だってば、こうやってカーテンをして鍵を掛ければ見つからないよ。それにいざという時に変身できないと、アクマが現れた時に対抗できないでしょ?』
「アクマ?」
アクマという単語に狩人は真っ先に思いついたのは巷を騒がせる「化物」であり、どうやら春香達は化物の事をアクマと呼んでいるらしい。そしてアクマを倒すためには魔法少女に変身しなければならず、そのために二人は生徒会室で再び天使と交わろうとしていた。
『ほら天使君、早く男の子になって♪』
『わ、分かったよ。でも、恥ずかしいからあんまり見ないで』
『何言ってるの?今からもっと恥ずかしい事するんじゃない』
『もう、秋香ちゃん。天使君を虐めたら駄目だよ』
三人の会話を聞いて狩人は目を見開く。秋香の告げた「男の子になって」という言葉から天使は性別を変える能力を持つのが確定した。そして春香と秋香が魔法少女に代わるためには天使と行為をする必要があるのも確定した。
(そういう事だったのか。相手が天使君だとなんだか嫉妬する気も失せるな)
春香達は仲の良い三姉妹だと思っていたが、まさか魔法少女になるために天使が男となって二人と行為をしていた事に狩人は複雑な気持ちを抱く。
「……盗聴器は回収しよう。それと、動画も削除しておくか」
狩人がその気になれば動画で三人を脅迫する事もできたが、世間では魔法少女は人々の平和のために戦っており、そんな正義の味方を脅して従わせるような真似はできなかった。
三人の美少女を従えられる絶好の機会だというのに狩人は諦めようとしたが、トイレから出る前に手を洗おうとした時、洗面台の鏡に映し出された狩人の顔に変化が起きた。
『それでお前は満足できるのか?』
「えっ!?」
鏡に映し出された自分が勝手に口を開き、自分の声で話しかけてきた。狩人は咄嗟に振り返るが、そこには誰もいない。トイレには彼一人しかおらず、鏡の中の自分と対峙する。
『お前は本当に納得しているのか?あの三姉妹の身体を自由にできる絶好の機会を逃すつもりか?』
「な、何だよこれ!!お前、何なんだ!?」
『俺はお前だ。お前自身の欲望だ』
「欲望だって!?」
鏡の中の狩人はポケットに手を入れると、スマホを取り出して昨日の生徒会室で撮影した動画を流す。
『お前は何故これを撮影した?』
「な、何故って……」
『惚けるな、好いている女の痴態を撮影するためだろう』
「くっ」
鏡越しに映し出される動画を見て狩人は勃起し、正直に言えば春香の愛撫を受けている天使が羨ましいと思った。
『この動画を利用すれば好きな女を蹂躙できる。勿論、他の二人もだ』
「や、止めろ!!」
『止めたければ自分で動画を消せばいい。だが、この動画を消せばお前は一生あの女を手に入れる機会はない』
「うるさいっ!!」
スマホを取り出した狩人は動画を削除しようとした。だが、指が言う事を聞かずに画面の前で止まってしまう。まるで身体が勝手に操られているような気分だが、鏡の中の狩人は語り掛けた。
『欲望を解放しろ』
「あっ、ああっ……うわああああっ!!」
トイレの中で狩人の声が響き渡り、次の瞬間に彼の意識は鏡の中のもう一人の自分に乗っ取られた――
――放課後、春香は一人で学校の屋上に来ていた。彼女は自分の下駄箱に入っていた手紙を見て青ざめた表情を浮かべた。
「だ、誰かいるの?約束通り一人で来たよ!!」
手紙には「君の正体を知っている。バラされたくなければ一人で屋上に来るように」
とだけ記されていた。手紙を見た時に秋香や天使に相談すればよかったが、生憎と二人は先に帰ってしまった。
陸上部に所属する秋香はいつもならば学校に残っていたが、テスト期間が迫っているので部活は禁止で生徒達はいつもより早く帰っていた。天使も今日の分の「補給」は昼休みに済ませてしまったため、二人は今は家に帰っているはずである。春香は生徒会の緊急の仕事が入ったので遅くまで残っていた。
「い、悪戯ならやめてよ!!隠れてないで早く出て来てよ!!」
「あれ、会長?こんな所でどうしたんですか?」
「わあっ!?」
後ろから声を掛けられた春香は驚いて振り返ると、そこには同じ生徒会に所属する狩人の姿があった。彼は他の生徒会役員と共に先ほどまで一緒に春香と居た。
「び、びっくりした!!もう、驚かさないでよ狩人君!!」
「すいません。でも、どうして屋上に?ここは放課後は生徒は立入禁止ですよ」
「あ、それは……実はこんな手紙が私の下駄箱に入ってたの」
「手紙?」
春香は狩人の顔を見て安心すると、手紙の事を相談した。だが、彼女に渡された手紙を見て狩人は笑みを浮かべる。
「こんな手紙に引っかかるなんて、会長は本当にチョロいですよね」
「えっ?な、何を言ってるの?」
「この動画……会長ですよね?」
狩人はスマホを取り出すと先日の動画を流す。生徒会室での自分達の行為が映像に流れて春香は顔色を青ざめ、彼女は慌ててスマホを奪おうとした。
「いやぁっ!!み、見ないで!?」
「おっと」
スマホを取り上げようとする春香を狩人は押し退け、彼はスマホの他にも盗聴器と録音機を取り出す。録音機には今日の昼間の生徒会室の出来事も録音されていた。
「スマホを奪っても無駄ですよ。会長たちが生徒会室でいけない事をしているのは知ってるんですから。仮にスマホと録音機を壊しても動画と音声のデータは別の場所に保管してありますから」
「そ、そんな……」
狩人の事を信じていた春香は裏切られた表情を浮かべるが、そんな彼女に対して狩人は笑みを浮かべ、自分の正体を晒す事にした。
「くくくっ、まだ気づかないのか?俺はお前の知っているお友達じゃないんだよ」
「ま、まさか!?」
髪をかき上げながら狩人は両目を見開くと、瞳の光が消えて額に紋様が浮き上がる。それを見て春香は彼の正体に気付いた。
「ア、アクマ!?」
「ようやく正体を掴んだぞ。我等が天敵め」
狩人の肉体にアクマが憑依していると気付いたハルカはショックを受けるが、彼女は即座にペンダントに手を伸ばす。それを見てアクマは驚いた表情を浮かべた。
「変身!!」
「ほう、一人でも変身できるのか」
三人揃っていなければ変身できないわけではなく、天使から「補給」していれば単独での魔法少女の姿に変わる事もできた。春香の身体が光に包まれて桃色の髪の毛の美少女へと変化した。
春香が変身した姿は「モモカ」と呼ばれ、三人の魔法少女の中でも肉感的な体型をしており、男性陣から得に人気が高い。そして魔法少女の中でも「力」に特化している彼女はこれまで数多くのアクマを屠ってきた。
「狩人君に憑りつくなんて許せない!!すぐに浄化するんだから!!」
「できるのか?この肉体を傷つける事になるぞ」
「傷つけたりしないよ!!魔法少女の力はアクマだけを浄化する事もできるんだから!!」
春香達が魔法少女の姿に変身する際、それぞれ武器を手にする。モモカの場合は巨大なハンマーを想像させる武器を手に入れ、その破壊力は建物のように大きいアクマさえも一撃で吹き飛ばす。
魔法少女に変身すると身体能力も数十倍に上昇し、並の人間では到底敵わない。アクマに乗り移られた人間も常人よりは高い身体能力を得られるが、それでも魔法少女に対抗できるだけの力は手に入らない。そして魔法少女はアクマに憑依した人間を救い出す力もあった。
「浄化の力よ!!アクマを消し去れ!!ホーリーハンマー!!」
「ぐうっ!?」
ハンマーを光り輝かせながらモモカは狩人に迫り、もしもハンマーに触れたらアクマは跡形もなく消し去られる。だが、それを予測してアクマは事前に立てた作戦を実行する。