〇
「…くくく、感じる…感じるぞ! 神話の代より多くの愚かな女共の魔力を吸い上げ続けて膨れ上がってきた魔力を…! これが四百人分もか…!」
ランス達が最終戦の気配を感じとって動き出してから数十分後、リーザス城を見下ろせる丘に位置するその地で、ラギシスはチサに憑依したままの状態で愉悦の笑みを浮かべていた。
「…ほー、嬉しそうだなー。まー十何年も掛けた計画が達成できると思ってるのだから無理はないが…ま、悪いがその計画は今日ここで潰させてもらうんだが」
そんな時に、彼の踏み台とされた四魔女達を倒したランスが仲間を引き連れて現れた。
「…ほう、誰かと思えば貴様か…。貴様には良く働いてくれた礼にあのまま帰れば見逃してやろうと思ったのに…残念だよ」
「け、弟子4人も満足に育てられん貴様と違って俺はあちこちにいい付き合いをしてるダチが大勢いるのだ。お前みたいなロクデナシを放っておけるか。礼がしたいのならその操っている子を解放してさっさと成仏しろ」
「…ふ、後者はかなわん願いだがもう指輪を手に入れた以上はこんな小娘に用はない。さあ、返してやろう。そして絶望を…!?」
そのランスに対しても嘲りを隠さない様子でラギシスはチサを解放し、魔力を用いて肉体もまた取り戻して姿を見せるが、そこで意識を失っているチサの身は何かに捕まれたような感じで大きく空に向けて投げ飛ばされて安全な地点でふわりと着地させられた。
「よし! これで何も心配はいらなくなった! 超破城剣ランスアタック!!」
「既に溜めは澄ませている! 地獄金剛破壊弾!!」
「飛翔鋼斬剣!!」
そこで人質の心配がなくなったランスが今回で最大サイズの巨大刀剣を地面から金属魔術で変換出現させて膨大な魔力を纏わせた状態で豪速発射し、レキシントンがその棍棒で地面に埋まっていた巨岩を殴り飛ばし、日光も鼓膜まで切り裂きそうな音を後に引き連れる超音速で巨大な斬撃の衝撃波を撃ち放った。
「行くわよ! チューリップゥ!!」
「発射! 大氷結豪雨槍軍!!」
更に、丘のふもとの茂みよりマリアが固定大型砲タイプのチューリップ二号を砲弾を、身に纏う魔法甲冑を完全遠距離モードにしたウスピラが大槍状の氷結魔法弾の雨を撃ち出してきた。
「…ちょ!? 今はまだ台詞の途中…アアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!??」
その殺意全開の必殺技の巨大な波に、大幅パワーアップを果たしたはずなのにラギシスは猛烈な寒気を覚えて止めようとするが、その身は強烈な閃光や轟音にかき消され、丘もろとも巨大な爆炎に飲み込まれた。
「…う、うわー…すごい…」
「わ、私たち来る意味が無かったんじゃ…!?」
それはマリア達の護衛のために来ていたミルからも見えていたが、ランが自分達の存在価値にまで疑わしくなったところで煙の向こうより嫌な予感を覚えた。
「っ!? 危な!?」
煙に近い位置にいたランスもそれは感じたらしく、やや面倒くささが残っていた表情は即座にきっと引き締まって地面から巨大な城壁を思わせる鋼鉄製盾を出現させ、煙から伸び出てきた超巨大な魔法の白色破壊光線をどうにか防ぐ。
「「「「「うわァアアアアアアアアアアアアァアア!!??」」」」」
「ギャアァアアアあぶべぇ!?」
それはどうにかランス達への破壊光線の直撃を防ぐが、いくつも裂けた余波は着弾点を大きく吹き飛ばし、その一つであるリーザス軍総司令部の一角を崩し、そこで生じた爆発で吹き飛ばされてきた志津香が彼らの戦いの場に近い泉に落っこちた。
「し、志津香ーーー!?」
「…くくく、なかなかの魔力だな…天然の魔法Lv3とは大したものだ…。だが! 最強の魔力と肉体を得た私の敵にではない!!」
マリアが悲痛な叫びを上げる中、丘だった煙の中より緑基調のフルアーマーと一体化したような異形の巨人と化したラギシスが姿を現した。
「うげ…面倒くさいからさっさと終わらせて帰ろうと思っていたのに…あー、やるしかないか…名取! セレーナ! ステラ! ゼノビア! 面倒だろうけど出てきてくれ!」
「どの道でるつもりでしたよ」
「ええ、私からしても全ての元凶みたいなものだしね」
「言われずともね」
「加勢するぞ!」
それに表情を圧倒的に引き締め直したランスの号令で、予備兵力として茂みで待機していた四人が参戦してきた。
「…す、すごい…」
「マリア」
「ア! ご、ごめん!」
数分後、丘の麓にいるマリアはその戦いに魅入られがちになり、ウスピラに注意されそうになっていた。
「さっさと沈めえ! ランス式破城剣ドラグーン!!」
丘だった地でランスが何処かの機動戦士のように、城壁すら打ち崩すだろう巨大剣を何本も生じさせ、磁力で浮遊させて操り、自身もその一本をスケートボードのように乗り回して操るように、彼とその仲間たちはそれぞれの持ち味を生かした連携攻撃で、丘だった陥没地点は更に広がっていく。
「フハハハハハァ! 無駄だぁ! 無限の魔力を持ち世界最強の存在となった私には勝てん!」
「ああ!?」
「セレーナァ!?」
その連携攻撃で、ラギシスはどれだけ身を破壊されても瞬時に再生させて更に強化し、その巨体による剛腕や強烈無比な魔法の雨で捌き続けていく。
「…うぐ! 身体の覆う身の鎧も治るたびにどんどん固く…我の腕も痛くなってきて…ああ!?」
膂力もまた上がっており、弓兵ポジションで討たれ弱いメンバーの肉壁代わりにもなっているレキシントンも苦しげな表情が増えていく。
更に、戦いが長引くにつれてある問題点も再び首をもたげてくる。
「…っ!? チ…体が急にガクンとまた重く…先にこっちの限界が…!?」
ランスの身にここリーザス城での依頼解決を優先して休息や治療を満足に取れなかったことで蓄積しつつも、回復魔法で誤魔化し続けていたダメージが再び出てきたのだ。
「ふはははは! 限界が見てきたようだな! それが人間の限界だぁ!」
「ッ!」
「小癪な真似をおお!」
「ああ!?」
そして、それに比例したかのように周囲の仲間たちの動きも比例するかのように、目にも止まらない動きだった仲間たちの動きも遅くなり、その内の一人であるゼノビアが闇魔法の矢を巨体の関節部分に打ち出すも、ラギシスにその剛腕を振るわれて直撃を避けるが余波だけで吹き飛ばされてしまう。
「ふははは! その疲弊しきっていた身を隠して更に他の者どもまで強化魔法をかけてあれだけの動きをさせていたのは大したものだ! 万全であったらなぁアア!!」
それらの理由をラギシスは邪念にまみれつつも教鞭も振るっていた鋭い観察眼から見抜き、攻撃を更に激しくしていく。
「ああ! あのランスまで崩れ出して…早く助けないと!」
「駄目よ! 細かい制御ができないあなたの兵器じゃあの鈍くなったランス達にも当たるわ!」
マリアは望遠鏡でそれを見てチューリップをまた発射しようとするも、ウスピラに味方誤射の可能性から止められてしまう。
「…くくく、随分あがいてくれたがもう終わりだなぁ…」
「…あぐ…(ん…? 何だこの感じ…こいつの魔力の中に…何で…!? いや! 今はその理由はどうでもいい! 今この隙に)」
「…おやぁ? やっと観念したかぁ…っ!?」
やがて力尽きたランスを頭からラギシスは掴み上げるが、そうして直に触れたことでランスは朦朧とした瞳ながら何かに気付いてその剛腕に触れると、そこから小さくも長い稲妻がラギシスの手から全身へと駆け巡り、それをラギシスは初め訝しむが直ぐにその反応は切り替わる。
「ぐアアアァアアアア!? な、何だアアアァ!?」
すると、ラギシスの片手が内部から空気を急速に吹き込まれた風船のように歪に膨らみ始め、声にも苦悶の色が出てランスを手から離してしまう。
「…っ!? ど、どうにか逃れられたな!」
「良かったわねランス…だけど、あいつの身に何が…!?」
「…何かよく知らんが…あいつの体内を相当な割合で俺の魔力が流れていた。だから…触れた瞬間にそれを触媒にあいつが内部に閉じ込めている魔力を操作して一体感を消して、元の400人分別の魔力に戻したんだ…。それで自由に戻った魔力は抜けようと今は暴走の形になったというわけだな…」
「あ、もしかしてー志津香さんを指輪から解放するときに…吸い上げられたランス様の魔力では…」
「あ、お前にしては珍しく冴えているな日光」
解放されつつもまだ苦しそうなランスを日光達は介抱するが、その間もラギシスの身は異形の変化を続けて苦悶の表情を強めていく。
「…お、おのれええ! 志津香の…間抜けめえええええ! あのときといい悉く私の邪魔をおおお…アアァ!?」
そうして苦しみ続けるラギシスの頭部を覆う装甲の一部が地に砕け散り、内部から醜悪な肉塊が噴き出てしまう。
「うわ!? 何か内部から崩壊しそうな勢いよ!」
「よし! こっちも疲れてはいるがまだ戦える! 一機に畳みかけるぞ…!?」
それを見た女性達は勝機と見て再び得物を構えるが、それをランスは手で制して止めさせる。
「…ちょっと待て…魔力の暴走だけにしては何か様子がおかしい」
「おかしい?」
「ああ…何か…ああなる前より元から抑え込まれていたものが…今の流れに乗じて…猛烈な勢いで表に戻ろうとしているような…!?」
そして、苦悶するラギシスの盛り上がり続ける肉塊の一部が急速に形を変え、それは何人かにとって深く親しみのあるものに変わった。
「…え!? 先生!?」
ランが望遠鏡越しに見たそれは、嘗て指輪の悪しき波長の影響で人格が歪んでしまう前の、厳しくも優しい師であったラギシスの顔であった。
「…ウゥ、く…そう…時は残されてはいないようだが…どうにか、表に戻れたようだな…」
「あ、カスタムで出会った人は良さそうだけど弟子に討たれた間抜けなおっさん感がぬぐえないラギシスのおっさん」
「…君はあのカスタムでの対談から相変わらず遠慮がないなランス君…」
「「「先生!?」」」
苦しそうながらもランスと言葉をラギシスが交わし始めた時、彼の弟子三人が駆けつけてきた。
「…ああ、ラン…マリア…ミル…よかった。指輪から解放されたんだな…はは、私と違って…本当に強い子達だな…」
「先生! 正気に戻ったのですか!?」
「…ああ、但し…時間はそう残されてはいないようだが…うぐ!?」
駆け寄ってきたラン達にラギシスは嬉しそうな表情を浮かべるが、その苦悶の色が強まると共に歪な膨張を続けていた肉塊が少しずつ収縮し始めていく。
「…グぅぅウゥ! この…死にぞこないがぁアア! だがもう全て手遅れよ! お前があの惣造の遺言に従って受け取ったフィールの指輪を受け取った時…これを怪しみつつも知識欲と功名心で処分せずに手元に置いたのが運の尽きよ! これから発せられた波長で人格が分離して生まれた私が主導権を握った時点で運命は決しておるのだ! 今はまだ一部しか使いこなせておらんがいずれ100パーセントわが手に入り、世界も我が手に収まる!」
「…ああ! そうだな…ならば…そうならないようにするだけだ…皆! 今こうして私が抑え込んでいるうちにこの体を攻撃するんだ!」
残されていた巨大な頭部を制御している方の悪人格ラギシスが苦悶と嘲笑を浮かべていると、善人格ラギシスはランス達にそう促し始めた。
「今この体は水を限界まで注ぎ込まれていつ破裂しても可笑しくない水風船と同じだ! さっきみたいな大規模攻撃じゃなくても少し針で突くような攻撃で破裂するように崩壊する! 私が抑え込んでいる間にやるんだ!」
「そんな!? せっかく先生が元に戻ってくれたのに…!?」
その我が身を顧みないラギシスの必死の訴えにランは悲痛な声を上げるが、その彼女の前で稲妻のような魔力が迸った。
「ありがとうラギシスのおっさん! とー!!」
ランスが地面より残されていた魔力で巨大剣を出現させ、それでラギシスの巨体を穿ちぬいたのだ。
「「「「「……え?????」」」」」
その光景に、攻撃を受けたラギシスの両人格、ランスパーティー、彼と組んだ三人の魔女達は戸惑いしか出なかった。
「ちょっとランスさん!? 人が話してる間に何を攻撃してるのー!?」
「いや、だって…ランさ…今でもマジで手が付けられないのに…これ以上強くなられたらマジでこっちが死ぬだろ? だったら反撃されない今のうちにやるしかないだろ?」
「いやね? たしかに攻撃してくれって言ったけどこっちとしてはもう少し葛藤してほしかったしその間に弟子たちともっとお話ししたかったっていうかー…」
「いやおっさん、そういうのはあやふやにはせずにまず初めにはっきり言ってくれないとこっちが困るんだけど!? 何その俺が人への気遣いも出来んKY暴力男みたいに言うのだ!?」
「そ、そう言ってるわけじゃないでしょ!? ちょっと日光達も何か言ってよ!?」
「…あ、いやーミルちゃん…普通なら非難すべきところですけど…如何せんランス様ですしー…」
「まーねー、私もそれのおかげで助かったのが何度かあるから強く言えないというか…」
「ウスピラさんまで!?」
そのまま場は口論に発展して長引きそうになるが、そこでラギシスの身が急速にひび割れてその隙間から光が無数に生まれ始める。
「く、くそおおおおおおおおおおオオオオオオオ!?」
最後は完全に蚊帳の外へ置かれた悪人格ラギシスのその断末魔の叫びをきっかけに、その巨躯はバリーンと巨大な陶器が割れたような盛大な破壊音と閃光を発しながら崩壊した。
「…あ、終わったか…お?」
それでようやく本当にほぼ終わったと安堵の反応を示すランスだが、光が収まって残された煙の中から霊体に戻った善人格ラギシスが再び姿を現した。
「…ありがとうランス君…君のおかげで…もう一人の私の野望は挫かれ…多くの人々が救われ…何よりも私の弟子たちは解放されて自由に戻れた…」
「ああ、感謝したいのならすればいい。但し弟子の方は一人がマジで早く逝った方が世のため人のためになるんじゃないかってレベルだが…」
「て、手厳しいなぁ~…まーー、時間はやっぱりそう残されていないようだしね…別れの挨拶は手短に済ませよう。ラン、マリア、ミル…迷惑かけてすまなかったな…そして、立派に育ってくれてありがとう…」
「い、いや! そんな…私たちは大したことは…」
「そうよねえ、ほとんどランス達がやってくれたし…」
「だよなあ、俺も色々な男て寝てきたけど…その中で強さではぶっちぎりであっちも指折りの良い男だよ」
「あー、ミリ君は弟子ではないがうちの子達によくしてくれてありがとう…あ、もう時間のようだ…最後にランス君…」
善人格ラギシスは短くも弟子たちやその友人達に別れの前の話をしていくが、最後にランスの方を振り向く。
「…本当にありがとうランス君…。君なら…私が去った後で自由になれた彼女達の力を正しい方向へ導けるはずだ…」
「そのうち一人はどうしようもないのが混じってる気がするが―――」
「君なら私の弟子たちもよろしく頼める。特に今回ので多大な迷惑をかけたあの子…志津香をよろしく頼める」
「―――あ…なぬぅ!?」
だが、そして紡がれた感謝に混じるさり気ない爆弾発言にランスはギョッとしたが、そこで善人格ラギシスは急速に薄れ始めた。
「…では、皆…さようなら…さようなら…」
「うう、さようならラギシス先せ―――」
「ちょっと待てー! 感動の別れに紛れてとんでもない爆弾を残すなー! 人の話を聞けー! 行かないでーーー!!」
「―――えってちょっとぉぉ!?」
そのまま弟子達は涙を流しながら別れをしようとしたが、一人だけ負の遺産を押し付けられる形となったランスは必至な表情で彼を引き留めようとした。
「きゃあ!?」
「のべ!?」
だが、ランスが触れようとした瞬間に残酷だがラギシスの身は完全に消えてしまい、代わりに彼が触れたのは初めての触り心地をした女性の胸の谷間であった。
「…え? 何だ? 何ここで誰のかは知らんが心地よい女性の柔肌がぁ…?」
「ラ、ランス様ぁ…ま、周りをぉ…見てください…」
「…は…んな!?」
それに気持ちよさと戸惑いを同時に覚えたランスが、背後から聞こえてくる日光の呆けた声に釣られて視界を広げると、そこには信じられない光景があった。
「「「「「ありがとうございます皆様、特にランス様、おかげで解放されました」」」」」
晴れていく煙の中から、消えたラギシスに変わって数百人の生まれたままの姿の美女達が姿を現したのだ。
「な、何よこれー!?」
「今度は初めて目にする女性達が現れ―…あ、あれ? 何かマリアやランにあの馬鹿ス女…それに指輪を填められていた時の大人だったミルの姿もあるぞ!?」
それには当然周囲は驚くが、まずランスがその違和感に気付くと現れた裸体美女軍団はその解説を始める。
「私たちはフィールの指輪に奪われて閉じ込められていた四百人分の魔力です」
「この場では元々持っていた本体の姿を真似して姿を現しました」
「あなた方が悪しき方のラギシスさんを倒してくれたおかげで自由になれました」
「本当に感謝の念が付きません」
「あ、ああ…なるほど…先生がいなくなっても魔力の方はなくなるわけじゃないから…」
「あー、それで自由になれたから元の身体に戻れるって感じだな―――」
「いいえ、破瓜の条件を果たして本体から分離した魔力が元々の持ち主に戻ることは出来ません。それに、別れてから年月が長すぎてもう本体が死んでしまっている子も大勢います…というよりもそうした子がもうほとんどですから…」
「―――ア…うーん、それは残念だな…」
「そうですね、使い方はあれでしたけどあれだけの力…ただ用いられずに消えるだけだなんて…」
「ええ、ですから…最後に一つ、消える前にどのような願いを一つ叶えることができます」
「…え?」
「なぬ?」
その魔力であった美女達の解説や答えに、ランス達は納得や落胆などの反応を見せるが、彼女達の口から出たあるとんでもない発言が彼らを驚かせる。
「ええ、世界の王…不老不死…一度だけですがいかなる願いもかなえることができます…さあ、どのような願いにされますか?」
「…え!? 本当にどんな願いも!?」
「ええ、その通りです」
「じゃ、じゃあ私チューリップの原料であるヒララ鉱石で良質なものを…」
「ちょっとマリア、勝手に決めないでよ」
「そうだ、お前だけで決めて良い問題じゃないぞ」
「そうです。これだけの被害が出たのだから復興など…む、難しいわね…!?」
魔力美女達の提案はランス達を大きく悩ませるが、その隙間を突く形であの飛んできて沈んだはずの女が割り込んできた。
「だったらその魔力を全部私によこせぇぇええええええええ!!」
先ほどの戦闘の流れ弾で飛んできて気絶していた志津香が、全身を血まみれにしつつも鬼の表情で失われた己の力に変わるものを渇望し咆哮しながら駆け込んできたのである。
「なぁ!? 待て! 今のはノーカンだ―――!?」
「申し訳ございません。先ほど姿を現す前に正しいラギシスさんとの話し合いで願いをかなえる権利を持つのは一人だけとなっているので志津香含めて他の方の願いは受け付けられません」
「―――あ、よかった…」
「ぶべぇ!?」
その反省の気ナッシング且つ未練全開な咆哮を間近で聞かされたランスは慌てるが、困惑した魔力美女達から安心させられる発言をされ、飛び出した志津香は魔力美女達に回避されてその勢いのまま前方の木に真正面から衝突し、幹にズルズルと鼻血の後を引きながら地面に沈んでのた打ち回り始めた。
「…ま、まぁ…もう今の志津香には前みたいな力を持たせておくと何を起こされるかわからないし…そ、それでーその願いを言う権利を持つのは?」
「彼です」
それにランもまた安堵の念を示しつつも問い直すと、魔力美女達は一斉にランスを指し示した。
「…は? 俺?」
「あー、まー今回の活躍を考えると納得というか…」
「そ、そいつにそんな権利があったって…どうせハーレムとかろくでもないのにー…もが!?」
「あーもー、志津香はいい加減この場は黙って」
選ばれたランスは戸惑い、周囲も一人だけ除けば納得の色を見せた。
「…本当に、どんな願いでも叶うのか?」
「ええ、本当です」
「不老不死も」
「世界の王も」
「「「「「全てがあなたの願い通りになります」」」」」
「…そうか、では……」
ランスは改めてその万能の願望器を与えられたような状況を確認すると、周囲の状況を見渡して少しの間だが深く考え、数秒の沈黙を置いて再び口を開く。
「…君たち全員、あそこの馬鹿ス女みたいなアホな行為を起こしたりもその被害に遭ったりもしないちゃんとした子として幸せな次の人生へ転生しろ」
「「「「「…………え????」」」」」
それは、周囲のあらゆる予想を裏切るもので、今度は彼以外のランスパーティーや魔女たち、魔力側も戸惑った。
「何だ? どんな願いもかなうんじゃないのか?」
「…ア! いいえ! 出来ます!」
「あ、ありがとうございます!」
「ほ、本当にありがとうございます!」
「ランス様たちもどうか今後は良き人生を!」
ランスが再度問いかけると、魔力美女達はハッと現実に戻れた表情になって深く頭を下げて感謝を示し、徐々にその姿はキラキラとした輝きを放ちつつ薄れ始めていく。
「…はあ、まさかこんな結果になるなんて…」
「でも、これが良かったかもしれませんねマリアさん。どんな願いを叶えられても、叶えられなかった方の方々から色々と声が出そうですから…」
「そうね日光さん、あまりにも強すぎる力は今回みたいな禍を起こす可能性もあるもの…え? 何かやけに荒々しい音が近づいてくるような…!?」
それに意外そうだったり、納得の反応を見せる日光達であったが、その内の一人であるランが不穏な気配に気づいてその方角を見やると、思いもよらぬ光景を目の当たりにする。
「うおおお! あのクソ魔女めまたやらかしやがってー!」
「逃げられると思うなー!」
「町を破壊しまくりやがってー!」
「俺の家を吹き飛ばしやがってー!」
「ぶっ殺せー!」
「その前に市内中でさらし者にして犯せー!」
「死ねー魔想志津香ー!」
先ほどの戦闘による多くの流れ弾で被害を受けたリーザス城より、今回の四魔女事件で被害を受けた誘拐されて望まぬ妊娠をさせられた女性達、その家族、兵士、彼らから聞かされた流れ弾による新たな被害者等が憤懣全開の様子でこちら目がけて土煙を上げながら駆け出してきたのだ。
「…ち、違う…わ、私だけじゃ…私だけじゃないー! マリアやミルにランも後押ししたからー! 文句があるならそっちに言ってー!!」
「「「「「ぶふーーーーーー!!??」」」」」
それに命の危険を覚えた志津香はとんでもない責任転嫁の爆弾発言を行い、周囲、特に姉妹同然であったはずの三人を盛大に噴出させた直後に全力でその場から逃走しだした。
「し、志津香…」
「む、昔はこんなことするような子じゃなかったのに…」
「さいて―!!」
「あーもー三人とも、とりあえずあの群衆に捕まったら命が危ない。とりあえずあれから逃げてバレス爺さんたちの所へ行って事情を説明して保護を求めるぞ」
友人の裏切りに絶望や非難を見せる三人をレキシントンは見捨てられず抱え上げ、その巨躯と鬼の身体能力を生かしてその現場から逃走し始めた。
「おい! あの三人は別の方向に逃げだしたぞー!」
「どっちも追えー!」
「絶対逃がすなー!」
それを見た群衆達は二手に分かれて志津香とレキシントンに抱えられた三人を追い続け、ランス達がいる丘だった戦場跡から離れていく。
「…い、色々と何とも言えないオチにまたなりましたね…ラ…ランス様ー!?」
その遠ざかっていく土煙や友人達に日光が呆然とした表情を浮かべるが、視線を主に戻すと見ぬ間にランスがぶっ倒れてあちこちから血を流して地面を赤く染めている惨状となっているのを見て絶叫した。
「…あー、魔術で誤魔化し続けていた傷が戦闘終了の安堵で一気に開いたみたい…」
「そんなのんきに言ってる場合じゃないでしょウスピラ! 名取さーん!」
「あー、それがセレーナさん…名取さんならさっきの戦闘中にランスさんの不調で支援魔術が切れた瞬間にきつい一撃を受けて今も気絶中で」
「じゃあ日光どうにかしてくれ!」
「い、いやー私が扱える巫術ではここまで深い傷を治すのはー…」
「い、医者ー!」
「ぉ…落ち着けステラ…今…俺が求めているのは…騒音ではなく…たしかな医者による治療…出来れば…今の家の慣れ親しんでいるベッドだ…ぐふ…」
それに取り残されたランス一行もまた大騒ぎとなり、その五月蠅さでランスが一瞬目覚めるも血と懇願を吐いた後に再び意識を失った。
「…ね、ねーー…これさー…このまま放って成仏なんて…あまりにも薄情というか…」
「そ、そうですね…幸いにも…あの人が私たちのために言われた願いは解釈できる余地が広いですし…」
「そうねー、色々書きかえて…」
「あの人、閉じ込められていた時に感じた魔力で見た情報からして…体質とか呪いとか…色々大変そうだし…」
その光景は、あまりに急すぎる周囲の変化で呆気にとられ続けていた魔力美女達の考えにも変化を起こし、姿が半分くらい消えかかっていた彼女達は頷き合うとランス達に向き直した。
色々と酷いオチになりましたが、これで原作のランス01やランス02に相当する第一章は終わりです。
次回、やっと原作鬼畜戦士が嬉しい意味でランスシリーズらしい展開になります。