俺はロリコンだった。いや今でもそうだ。下は小学生から上は高校生まで。幼さが残る少女にどうしても目と気持ちを向けてしまう。とはいえ強姦なんてしたくない。そう考えた俺はSNSで裏垢というものを作成して、少女達に近付いた。お互い合意の形でしたいと思ったのだ。たとえ法に反していようとも。
だが結果は散々なものだった。冷たくあしらわれたり詐欺に遭い、ネカマや業者ばかりと遭遇する。DMで会話しても長くは続かず、大体は既読無視かブロックされた。少女達からすれば年上、それも中年の男など一瞥する価値もないのだから当然の対応と言える。
いや一度だけ。一度だけDMのやり取りが続いて実際に出会えた少女はいた。だが……
そんな過去の記憶を振り払い注文していたコーヒーを一口飲む。この待ち合わせ場所、喫茶店に相手はまだ来ていない。
予定時間より早く来てしまったせいだ。俺はロリコンであると自覚しながら、それを何とか治そうと考えた。今までのSNSのアカウントを捨てて別の出会い系アプリや婚活アプリを利用して成人女性と接するようにしたのだ。
初めはうまくいかなかったが、それでも何人かと実際に出会って、少しずつ接し方を覚えていった。僅かでも自信をつけていき、今では結婚を前提とした付き合いをする女性と巡り合えた。長い月日が流れたが、ようやく報われた形となり喜んだ。
このまま付き合っていき、ロリコンを治せる。きっと、そのはずだ。
取り留めのない思考に捕らわれていたが、声を掛けられて中断される。待ち人が来たためだ。
「ごめんなさい。お待たせしました?」
「いえ全然。来たばかりですし少し休憩してから出ましょうか」
「はい。それじゃあ――」
ササキ ミユキ。まだ30歳手前の女性だ。俺よりだいぶ若く、世間的にはロリコン呼ばわりされかねない年齢差だが、そんな俺に丁寧に付き添ってくれた人だ。髪は肩までで薄茶色に染めて綺麗に整えている。身体付きも成熟していて服装も白と紺を基調とし落ち着いている。服装について詳しくない俺でも良いコーディネイトだと思えた。
そんな彼女に相応しいように俺も色々と雑誌やネットを活用して研究した。以前の俺よりはマシになっているはずだ。
「――ですね。これからどうしましょうか?」
「予定通りにデパートに行きましょう。あそこなら大体揃ってますし、色々見て回ればお昼に丁度よい時間になりますから」
「そうしましょう。あっ、ごめんなさい。ちょっとお化粧直してきますね」
他愛のない話をしながら次の予定を決めた所で彼女は席を離れていった。それを見届けながら先程までの会話を反芻する。不自然な所はなかったか。失礼なことを言っていないか。次に行くいつものデパートではどんな予定で進めるか。
慣れてきたとはいえ、まだ成人女性との付き合いは慣れない。いや未成年相手も慣れていないのだが。
それでもロリコンであった事は隠せているはずだ。戻る気もない。このまま真っ当な人生を歩むためには、自分がロリコンである事は捨てないといけないのだから。
――そんな俺の決意を嘲笑うかのように、怪物はゆらりと姿を現した。
「お久しぶりですコウヘイさん。1年振りですね」
聞き覚えのある声に身体が震えた。高いけど柔らかい声色。クスクスと鈴がなるような笑い声。幼いけれど男に媚びて誘惑する嬌声。年齢相応にはしゃぐ姿。ふわりと香る甘い匂い。蜘蛛の巣の如く捕らえて離さず、ねっとりと絡みつく手付きと言葉。
脳裏に次々とフラッシュバックするそれらは、無視しようとしても出来なかった。ゆっくりと声のした方へ顔を向ければ、そこには一人の少女――タカナシ ユイが佇んでいた。
シンと周りから音が消えていて、周囲の人々や風景は色褪せていく。それだけその少女に意識が集中している証左だ。
腰まで伸ばした艶やかな黒髪、整った陶磁みたいに白い顔。小さな胸元に寄せられた左手は汚れの一つもないほど美しく、こちらを見詰める瞳はどこまでも透き通っていて綺麗なのに、どこか濁って見える。そう思うのは、俺に後ろめたさがあるためか。
「……お返事してくれないんですね。そう、ですよね。先程の女性とお付き合いしているみたいですし」
突然の再開に言葉を告げられないままでいると、ユイは勝手にそう解釈した。いや、実際付き合っている女性がいるのに、年端のいかない少女と歓談していた、なんて体裁が悪いにも程がある。だから下手に言葉を交わさないのが正しい。
祈るように目を閉じ災害が過ぎ去るのを待った。だが少女の甘い匂いと共に、隣に誰かが座った感触が伝わってくる。
誰が? そんなもの決まっている。
おそるおそる目を開けると、さも当然とばかりにユイが隣に座っていた。白く細い腕を俺の腕に絡めて、控えめだが柔らかくしっかり主張している胸を擦りつける。逃れないといけないと思い動くも、それに合わせて身体をうまく重ねてくる。
「なっ……や、やめてくれ!」
「あまり激しく動くと、周りの人にバレてしまいますよ?」
目元を細くして微笑むその表情は可憐で美しいのに、目付きは獲物を捕らえた猛禽類のようにも見えた。
指摘された通り下手に動きを大きくすれば周りの人にバレてしまうだろう。今いる場所は店の奥だが、それでもさほど広くない喫茶店では目立ってしまう。
躊躇している間にユイの手が、俺の抵抗する腕からするりと抜けて股間に纏わりついた。ズボン越しに触られているだけなのに、電流が流れたみたいに痺れて動けなくなる。流れるままに撫で回しながら胸の柔らかさを腕に押し付けて、意識を無理やりにでも向けさせられた。
「…………っ!」
「ビクンって跳ねちゃいましたね❤ ズボンの中、はち切れそうですよ?」
わざわざ現状を囁きながら伝えてくる少女に俺は成す術がなかった。すでに射精しそうになっていて余裕がない。そんな俺の余裕のなさを見て少女はさらに俺の服の中に手を入れて――そこで手が止まった。
「残念ですけど、ここまでですね」
先程までの態度とは打って変わって即座に離れる。どこかから取り出した紙を俺の掌を広げて握らせた。
「――それでは私はここで。また会いましょう」
ユイは店に入ってきた人達の間をするりと抜けてあっという間に姿を消した。気が付けばあちこちから人々のざわめきと光景が耳目に入り込んでくる。
今のは、幻だったのか?
まだ少女の残り香と温もりはあったが、それすらもやがて消え失せていた。
やがて手洗いから彼女が戻ってくるのを見て、頭を振って先程までの出来事を追い払う。
「どうかしました? 顔色が少し悪いみたいですけど」
「……大丈夫です。そろそろ出ましょうか」
心配する彼女に取り繕いながら喫茶店を後にする。これから彼女と向かうデパートに意識を向けて先程までのことを忘れようとした。しかし、デート中に何度もユイの姿と重ねた身体の感触、出来事を思い出してしまった。