一 出会い
「お〜い!マサル〜〜! あ、いたっ!」
A組の教室に入ってきたのは、陽キャの三人組。
イケメンで女子人気も高いサッカー部の福田祐二と、チアリーディング部の花形でもろギャル系の美女コンビで有名な岩佐エリと篠崎優の二人。
呼ばれた筒井勝を入れた四人組は派手な陽キャグループで学年では有名で、四人は同じ中学からの仲間。
今回の三年進級でのクラス替えでマサルだけが、別のクラスになってしまったのだ。
三人はクラスの生徒の注目を集める中、教室に入ってきて窓際の後ろのほうにあるマサルの席の周りを取り囲む。
「大丈夫〜。ぼっちになっていじけてな〜い?」
マサルの肩に手をおいて顔を覗き込むエリ。
「ふん、お前らはいいよな〜、三人同じクラスで‥‥‥」
ややイジケ気味に答えるマサル。
「まあ、休み時間はC組に来るんだな。歓迎してやるからさ〜」と祐二。
「ま〜くんがいないと、寂しいよ〜」と横からマサルに抱きつく優。
平気でハグしてしまうのが、陽キャならではのノリなのか、冗談半分、本気半分と言った感じだ。
マサルの顔を覗き込んだ優が、マサルの目の下にクマができているのをめざとく見つける。
「あれ、クマできてる‥‥‥、マサルどうしたの?」
「どうせオナニーのやりすぎだろう。マサル毎晩やりまくってるからな〜」
「ふざけるな!そんなにしてねえよ〜」と言葉を荒げるマサル。
「も〜、やっぱりアタシが抜いてあげないとダメなんじゃないの〜」
マサルの顔を覗き込んで茶化すエリ。
「うっせ〜、エリ。そんなこと言ってると犯すぞ〜!」
マサルが襲うようなポーズをする。
「キャッ!」とエリが小さく叫んで後ろに逃げようとして、マサルの隣の机にぶち当たって机が倒れてしまい、机の上に乗っていた教科書とか札箱が散らばってしまう。
「あっ!」と小さく叫んでエリを避けて立ち上がる隣の席の女の子。
散らばった自分の荷物に驚き、急いで落ちた荷物を拾い集めはじめる。
「あ〜あ、何やってんだよ」と祐二が声をあげ、「イタタタ〜」と机にぶつかったエリと優もその子に謝って落とした荷物を拾っていく。
「ごめん、大丈夫?」
マサルも女の子に声をかけながら机を直していく。
みんなで荷物を拾ったところで、始業のチャイムがなる。
「あ、行かなきゃ!ごめんね!」
次々に女の子に声をかけて謝って、拾ったものを机に置いて、教室を出ていく三人。
朝のホームルームの担任が登場した。
マサルは隣の子に再び声をかける。
「ホントにごめん!怪我とかなかった?壊れたものとかは?」
机の上のものを片付けながら、女の子が小さく答える。
「大丈夫、だと思います」
「何かあったら遠慮なく言ってね。あ、俺、筒井勝。よろしくね」
謝りながら小声で自己紹介をするマサル。
「あ、はい、わ、わたし、田村咲です‥‥‥」
あまりにも小声で最後の名前のほうがちょっとよく聞き取れなかったので、マサルが聞き返そうとしたその時、担任の先生の注意が飛ぶ。
「筒井〜! 話聞いてるか〜? 新学期早々、隣を口説いてるんじゃないぞ〜!」
いきなりのツッコミにクラス内に笑いが走る。
『なんだよ、人をダシにしやがって‥‥‥』と不貞腐れるマサルだった。
マサル達四人組は学年でも目立つので「カースト上位組」とかよく言われているが、マサルはそれが好きじゃない。
自分自身、イケメンだという自意識がそんなにあるわけではなく、他の三人も確かにルックスはいいけど、でもマサルがみんなと仲良くしてきたのは、三人とも、自意識過剰の傲慢で人を見下したり自分達に特別意識を持ったりすることがない、性格的にもいい奴らだからで、人としてちゃんと謝れるし、人を思いやれるし、人に優しくできる、そういう点で共感しあえるメンバーだからだ。
だから、俗に言う「カースト上位」的な言われ方は四人とも嫌っていたが、周りがそう見てくれないことも知っていた。
一限が終了して休み時間に入る。
隣の咲に声をかけるマサル。
「何か壊れちゃったりとかなくなったものはなかった?」
「あ、大丈夫です」
マサルのほうを向くことなく、机を見ながら答える咲。
どうやら人とのコミュニケーションが苦手なんだろう。
見た目もボサボサの黒髪に黒縁メガネがやぼったくって、暗い感じだし、地味でオドオドしてるところとか、人と視線を合わせないところとか、こういう子はきっと友達とかもできないんだろうな、と思ってしまうマサル。
ウチの学校はそんなに一学年の生徒数も多くはないのだが、隣の子ははじめて見る顔だった。
よっぽど陰が薄いんだろう。
小柄なのも目立たない理由かもしれないが、ただ胸がすごく大きいのが制服を着ててもわかった。
陰キャ巨乳だな、と思うマサルだった。
翌日の放課後、祐二とエリと優は部活に行き、部活に入ってないマサルはひとり下校の途に着く。
中学時代は祐二と同じサッカー部で実力派のミッドフィルダーとして将来を期待されていたマサルだったが、中学三年の春に膝を壊してしまい、部活を続けられなくなって引退したのだ。
高校ではなんの部活にも入る気がしなくてブラブラと帰宅部のまま二年間をすごしてきたマサル。
学校を出て電車で数駅先にある家の最寄駅で電車を降り、歩いていく途中にいきなりの激しい雨に遭ってしまう。
住宅街で雨宿りできるところもないので、家のマンションまで小走りで戻るが、マンションの入口で家の鍵を学校に置き忘れてきてしまったことに気が付く。
マサルの家は父親が単身赴任中で、母親が週三日ダンスサークルで活動をしていて、夕飯の時間まで帰ってこないので、このままマンションの入り口で母親が帰ってくるのを待つか、学校まで鍵を取りに戻るしかない。
時間的には学校に戻った方が早いのだが、雨が本降りになっていて、傘もないので、しかたなく雨が小降りになるのをマンションのエントランスにあるベンチに座って待つことにしたマサル。
びしょ濡れの体でしばらく待っているうちに、うたた寝をしてしまう。
そこにマンションのエントランスにもうひとり、びしょ濡れになった住人が戻ってくる。
びしょびしょになって駆け込んできたのはマサルの隣の席の田村咲だった。
雨にやられてびしょ濡れになって戻ってきた咲は、エントランスホールに座っている男子高校生に気が付く。
制服が咲と同じ高校のブレザーだ。
うなだれて寝ているのだろうか、恐る恐る声をかける咲。
「あの〜、どうかしたんですか? 大丈夫ですか?」
いきなり声をかけられてうとうとしていたマサルは目を覚まして顔をあげる。
「「あっ!」」とお互いに顔を見合わせて声をあげる。
「筒井、さん?」
「田村さん、どうしてここに?」
「わ、わたしの家、ここなので‥‥‥」
「えっ、ホント、俺の家ここの七階」
「私は五階です」
「そうなんだ、でもはじめてだね」
「あ、私、一年前に引っ越してきたので‥‥‥」
あ、そうか、それで学校で見たことなかったんだ、二年からの転入か、と納得するマサル。
それでも学校では誰とも話すことなく、休み時間も一人で本を読んでる咲が、とりあえず会話ができるんだ、と少し驚いていた。
「あの、どうしてここにいるんですか?」
「あ、家の鍵、学校に忘れてきちゃって、家まだ誰もいなくて、雨が小降りになったら学校に取りに戻ろうと思って待ってたんだ」
「びしょ濡れで、風邪引いちゃいます。あの、よかったらウチで家の人が戻るまで待っていませんか、とりあえず身体拭いた方がいいかと‥‥‥」
「えっ、いいの?」
「はい」
マサルは咲と一緒にエレベーターで五階に登って咲の家へ。
鍵を開ける咲。どうやら家には今は誰もいないようだ。