俺は、世界の半分(女性)を手に入れてみせる! 作:キャプテンキャップ
01:幼馴染み(晴れ)
明けて翌日。
いつも通り
今日も空は憎いほどに快晴。少しくらい曇ってもいいのに。
と、ちょうど向かいの家から幼馴染みの
志紀は俺に気付くと、ぷいっと顔を逸らして足早に歩いていく。
……ほんと、取り付くしまもないな。なぜか嫌われているというか、俺に対して怒っているように見える志紀。
……小学校低学年までは仲が良かったのになあ。
まあ、俺が女子と遊ぶのが恥ずかしくなってからは距離を置いてしまって今に至るんだけどさ。……まさかそれが怒っている原因でもないだろうし。うーん、本当に分からん。
数メートル先を行く志紀の背中を見ながら溜め息を吐きつつ、俺も歩き出す。
べつに追い抜いても良いのだけど、学校が違う志紀はどうせもう少し行ったところの角を曲がって別れるのだから、それまでは追いつかないよう後ろを歩くか。
朝から面倒だなー。と思いながら歩いていると、志紀の歩く速度が少し落ちた。……早く歩きすぎて疲れたのか? 俺も追いつかないよう速度を落とす。
すると少ししてまた志紀が速度を落とす。俺も落す。
またも少しして志紀が遅くなる。俺も……「っておい!」思わず声に出してツッコんでしまった。だけどしょうがないだろう? 今の俺たち牛歩並みの歩みだぞ。さっきからどんどん他の人に抜かれて行ってるんだぞ? さすがにツッコむっての。
俺の声が聞こえたらしい志紀がビクッと体を震わせたあと、なぜか2、3回深呼吸してから振り返った。どんだけビックリしたんだよ。
「にゃ……何か用?」
あ、噛んだ。噛んだのが恥ずかしかったのか、じゃっかん頬を赤く染める志紀。
「用っていうか、お前歩くの遅すぎだろ。……なんか疲れてんのか?」
「べ、べべ!?」
「……おべべ?」
「別に!」
あ、おべべじゃなくてまた噛んだだけか。
「別に遅くなんかないよ!? 誰かさんが追いつくのを待ってたとかでもないんだから!?」
いや明らかに遅いだろう。あとなんだ、その言い方だと俺が追いつくのを待ってたように聞こえるんだけどツンデレ? ……まさか追いついたところで俺を蹴ろうとしてたとかか? 俺、そこまで志紀を怒らせてたの?
などと思っていると、志紀がチラチラと俺を見ながら、口を開いた。
「……心配、してくれたの?」
「うん?」
「疲れてんのかって……聞いてきたから」
「いや、特には」
ノータイムで言ってから「あ」っと思ったが、後の祭りだ。
さっきとは違う意味でみるみる顔を真っ赤にした志紀は、
「
と言い捨てて小走りに行ってしまった。多数の生徒が行き交う通学路で他校の女子生徒(美少女)から罵倒されれば、周囲から好奇の目に晒されるのは当然。いや、俺が悪かったけどさ。……これはあんまりじゃない?
☆
「聞いたぞ~、洋~」
教室につき、隣の席の佐々木と他愛のない話をしていると、今来たばかりの
「? 聞いたって何を?」
「お前、登校中に他校の女子に振られたそうじゃないか」
「ちょっ!?」
思い当たるのは志紀とのことしかないが、振られたってなんだよ!?
「ほほぉう。それはそれはご愁傷様ですね、田中氏。……では中島氏。詳しく」
「詳しくって言われても、俺もそんだけしか知らないんだけどな。でも、洋を振った相手は結構な美少女だったらしいぜ?」
「ほうほう。美少女に振られる田中氏ですか。……これは今日のお昼は飯ウマですな」
「だな!」
あっはっは! と笑う2人。……こ、こいつら、他人の不幸は蜜の味にもほどがあるだろう。
「アホ。誰が振られただ。今朝ちょっと志紀にバカって言われただけだっての。振られてねぇっての」
同じ中学だった一樹と佐々木は当然、志紀を知っている。俺の幼馴染みということも、今は疎遠になっていることも。志紀の名前が出たことでキョトンとする2人。
「志紀? 志紀に告って振られたの、お前?」
「幼馴染みの美少女に振られるストーリーとはさらに飯ウマ。本当にありがとうございます」
「だから振られてねえっての。佐々木は拝むな」
溜め息を吐く。ってか、どんな尾ひれがついて回ってんだこの話。
「洋~。朝っぱらから他校の美人に告って振られたんだって~?」
「振られてねえよ!?」
ゲラゲラ笑いながら教室に入ってきたクラスメイトに全力でツッコんだ。
☆
「……あ~、酷い目にあった」
昼食時間となった現在。
午前中、
とはいえ、志紀との一件は面白おかしく他の教室にも伝わってるみたいだし……特別棟にでも行くかな。あそこは化学室や音楽室などが集まっていて、普段使っている棟とは離れているから今のような昼食時間は比較的静かなのだ。避難するにはもってこいだろう。
……というかアイツら、『フェロモン』のスキルが効いてるはずなのになんでああもズケズケと聞いてくるんだ? ……ああ、でも、聞いてくるのは元から仲が良かった連中かそれに近い奴ばかりだな。普段からあまり親交の連中は遠目から見ているだけだったか。しかも男ばっかだということにも気付く。
ってことは、やっぱ同性に対しての『フェロモン』の効果は俺との友好度合いにあるっぽいなあ。
というか、そもそも俺がこんな目にあっているのは志紀のせいだし。あいつが俺の何に対して怒っているのか知らんけど、怒っているなら怒っているでハッキリと言えば良いだろうに。
そう思うとなんか段々腹が立ってきた。
よし、決めた。こんど志紀に会ったら何に怒っているのか聞いてやる!
『フェロモン』を当てれば俺の言うことを拒めなくなるからな。聞き出すなんて余裕だろう。
そうと決めたら腹立たしさも少しは薄くなったところで、ちょうど良く特別棟にも着いた。
あとは適当に空いてる教室で弁当食べて時間を潰すか。腹立たしさが収まったとはいえ、すぐに教室に戻りたいとも思わんし。……絶対またイジられるし。
今日は1人寂しくぼっち飯といきますか。
☆
「ごちそうさん。っと」
ぱんっと手を合わせ、空になった弁当箱をランチョンマットで包む。
「……やることがないな」
声に出してみても、ガランとした教室に答えてくれる人はいない。……ぼっち飯ってこんなに悲しいモンだったか。
しょうがない、
――香奈さん、今ヒマ?
ええ。どうかしたの?――
――ヒマだったから、相手してもらおうと思って
ふふ、いいわよ――
お姉さんが相手、し・て・あ・げ・る――
――香奈さーーーーん!
適当なスタンプを連続で貼り付けると、香奈さんからも変な生物のスタンプが大量に送られてきた。あ、なんか楽しくなってきた。
香奈さんとは何度か『
:
:
:
あ、ごめんなさい。そろそろ娘が帰ってくるころだわ――
――あー、明日香ちゃんじゃなくて幼稚園に通っている方の。
――それじゃあ仕方ないか。また今度ー
ええ、また今度――
お姉さんが相手、し・て・あ・げ・る――
――香奈さーーーーん!
最後にまた連続でスタンプを貼り付けてから『
そしてスマホから顔を上げれば、シンと静まり返った教室。楽しかった気分が急速に萎えていく。……このままスマホで時間を潰すのもいいけど、昼食時間はまだ半分以上残ってるし、適当に歩いてみるか。
空き教室を出て、1人特別棟の廊下を歩いていく。
開け放たれている窓からは心地よい風と共に、遠く賑やかな声も聞こえてくる。
「……ま、こういうのもたまには悪くない、か」
涼風を浴びながら歩いていると、どこからともなく甘い匂いがしてきた。……外からか? いや、違うな。
甘い匂いは廊下のどこからか漂ってきている。はて? と思いつつ、ヒマなので出所を確かめようと匂いを辿っていくと、
「……調理室?」
ここから漏れているようだった。
廊下に面する窓から調理室の中を覗き込むと、そこには1人の女生徒がいて。なにやら調理台で作業しながら鼻歌を口ずさんでいた。
どうやらこの甘い香りは彼女が行っている調理からのもののようだ。匂いやテーブルの上に並ぶカットフルーツから察するにデザート系だろうけど……何作ってるんだ?
気になったので直接聞いて見ることに。
調理室の扉を開けて中へ。
ガラガラと鳴る扉の音に、女生徒は鼻歌を止めてこちらを振り向く。そこで初めて、彼女の容姿が知れた。
一言で言い表すならば、ぽっちゃり。そんな容姿。
「何かご用ですかぁ?」
どこかのんびりとした口調はなるほど、彼女が醸し出すゆったりとした雰囲気にぴったりに思えた。
「いや、いい匂いがしたから、つい釣られて来たんだけど」
扉の方からそう言うと、ぽっちゃりの彼女は「ああ」とぽんと手を叩いて納得したようだった。
「何を作ってるか聞いてもいいか?」
「クレープですよぉ」
ほら。と、まだ何も包まれていない状態のクレープ生地が重ねられているお皿を傾けて見せてくれた。なるほど、クレープね。道理でテーブルの上に色んなカットフルーツや生クリームが並んでるわけだ。
……というか、生地が10枚以上あるように見えるんだけど。もしかしてあれ全部1人で食べる気なのか?
「そういえば、ここって勝手に使って怒られたりはしないんだ?」
「ここは調理部の部室でもあるんですよぉ」
ニコニコと答える彼女。……そうだったのか。ってことは、この娘、調理部の部員か。学年は分からんが。というか名前も知らんけど。
とりあえず『フェロモン』を当てるために近くまで寄る。……よし、範囲に入った。
「でも何で昼食時間に?」
「作りたての方が美味しいじゃないですかぁ」
いやまあ、そうだけどさ。
「あ、折角ですから洋君も食べます?」
「んー。じゃあご馳走になろうかな……って何で俺の名前を知ってるんだ?」
「わたし、隣のクラスですからぁ」
「おう、そうだったのか。すまん、全然知らんかった」
「いえいえ、気にしないで下さい。わたしも洋君の事は今朝知ったばかりなんですよぉ」
「ゲっ」
今朝ってことは志紀との一件のことなんだろう。直接見たのか聞いたのかは知らないが。
「大丈夫です、みんなが言ってるように洋君が告白して振られたわけじゃないって知ってますから。からかったりなんかしませんよ」
クスクスと笑う彼女。
「……あの場にいたのか」
「ええ。あ、自己紹介がまだでしたねぇ。D組の
「ん、了解」
本当は初対面の女子を愛称で呼ぶのは抵抗があるけど、本人が良いと言ってるんだから、まあ良いか。
「じゃあ、自己紹介も済みましたし、早速クレープを食べましょうか。洋君の分は私が作ってあげますので、隣に座ってくださいねぇ」
ぽんぽんと自分の隣の椅子を叩くモモに
「はい、どうぞぉ」
そして出来上がったクレープを手渡してくれる。
お礼を言ってから
「っ、美味い!」
しっとりとした生地にフルーツとクリームの甘みが合わさって本当に美味しい。
「それは良かったです」
俺の言葉に、モモがクレープに齧りつきながらほっと胸を撫で下ろしていた。っていつの間に作ったんだ?
「生地はまだまだありますから、おかわりが欲しかったら言ってくださいねぇ」
もぐもぐと食べながら「んー」と返事。ここまで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのは『フェロモン』のスキルが効いてるからか、それともモモの性格なのか。……多分後者だな。